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ブックレビュー

『エンダーのゲーム』

オースン・スコット・カード著
野口幸夫訳
鶴田一郎カバー
1987/11/30刊
ISBN4-15-010746-7 C0197

1986年のヒューゴー、ネビュラ賞の
ダブルクラウン輝いた傑作!

ハヤカワ文庫SF 660円
粗筋:
 二度にわたって地球に侵攻してこようとした昆虫型異星人バガー、地球軍司官メイザー・ラッカムの天才的計略で、人類はからくもその攻撃を食い止めた。しかし、ラッカムももう年齢からくる衰えは隠せなかった。至急に新しい艦隊司令官が必要であるとの認識にたって、軌道上のバトル・スクールでは子どもたちが日々そこで模擬戦闘=ゲームに明け暮れていた。その中で抜きんでた評価を受けていたのがわずか6才のエンダーである。彼は様々なハンデのついたゲームにさえも勝利し、ついに異例の若さでコマンド・スクールへと進んだ。(なんと言っても面白いのがこの数々の模擬戦闘のシーン。エンダーの潜在力を引き出そうとして教官達が、色々な難問をぶつけて来ますが、エンダーはその期待通りにあらゆるゲームに勝利していきます。しかし勝てば勝つほど仲間からは孤立していき、命さえも狙われるようになります。しかし教官達 は、エンダーに頼れるものは自分だけだ、との自立心を確固たるものにすべく、あえて手を出さないのでした。) 

 独断と偏見のお薦め度 ☆☆☆☆☆
 カード氏は、子どもを主人公にして虐め抜くのが好きなようで、「ソングマスター」でも、これでもかこれでもかとばかりにしごきまくっていますね。日本において短編では一番の評価を受けている(私の想像^^;)「無伴奏ソナタ」でも、音楽の天才である主人公が、やむにやまれぬ気持ちから罪を重ねると、刑罰もそれに応じてエスカレートしていき、最後のクライマックスを盛り上げます。(だいたいあんな些細な罪にあんなひどい罰があるもんですか。しかし読んでる間はそれを感じさせないのがカード氏のうまさでしょうか^^;)

 
『無伴奏ソナタ』短編版「エンダーのゲーム」所載
 
短編版と長編版
 '77年発表の短編版「エンダーのゲーム」(『無伴奏ソナタ』所載)は比較的ストレートなスーパーマン・ストーリーで<ぐいぐい結末に持っていくうまさは同じながら、カード氏独特のあくの強さがないぶん読みやすいかも知れません。
(結末のカタルシスはこっちの方が大きいかも。たとえ人類至上主義といわれ ても、クラーク氏の「太陽系最後の日」が感動的なのと同じです。^^;)
 長編版は、エンダーの姉や兄(こいつがすこぶるつきのいやな奴:-<)との関係も絡ませながら、エンダーの内面の成長にもスポットをあてて話をふくらませてあります。
 カード氏のお説教が好きな人は長編版、うっとうしいと思う人は短編版が好きなのでは、といったところですか。

 
 
『遙かなる地平 1』

ロバート・シルヴァーバーグ編
小尾芙佐・他訳
加藤直之カバー

2000/9/30刊

ISBN4-15-011325-4 C0197

ハヤカワ文庫SF 880円
「投資顧問」粗筋:
 バガーを滅ぼした後、兄ピーターの策略で地球に戻ることを許されなかったエンダー。姉ヴァレンタインと共に、超光速航行による旅に出るが、時間伸長効果のため仲間や知り合いとは段々疎遠になっていく。
 この短編では、ジェインとの出合い、<死者の代弁者>になるきっかけが描かれます。

 オースン・スコット・カード氏が、「投資顧問」(『遙かなる地平1』所載)の前書きで「『エンダーのゲーム』は、ひとえに『死者の代弁者』という小説を好きたいという熱意から生まれた」と書いてあるのを読んで、やはりとうなづいてしまいました。短編版の「ゲーム」は、本質的には単なるスーパーヒーローもので、エンダーが死者を代弁するような人物になるかも知れないと思わせるような描き方をしてませんから。 

 
『死者の代弁者』

オースン・スコット・カード著
塚本淳二訳
加藤直之カバー

1990/8/31刊

上巻:ISBN4-15-010884-6 C0197
下巻:ISBN4-15-010885-4 C0197

ハヤカワ文庫SF 各巻480円
粗筋:
 惑星ルジタニアには、エンダーによる<バガーたちの異類皆殺し>以来初めて見つかった知性ある異種生命であるピギーたちが、森に住んでいた。前回の反省から、ルジタニアの植民地は一定の人口を超してはならないし、ピギーを侵害(物理的にも文化的にも)してはならないとの戒律が定められた。
 人類文明は、ピギーたちにできるだけ接触しないようにし、フェンスを越えてコンタクトするのは、異類学者ひとりの役目だった。雄ばかりが姿を見せるピギーたちの謎、同時にルジタニアの生命の謎の解明に近づいていたと目されるその異類学者ピポは、ある日ピギーたちの手によって惨殺された姿で発見される。
 死んだピポになりかわり、その真実の生涯を代弁して欲しいと要請された<死者の代弁者>エンダーは、ルジタニアに辿り着いた。<ウラシマ効果>により、エンダーが到着した時には、ピポの孫の代になっていたのだが、仕事を引き継いだ息子もまた同じく惨殺されていたのだった。 
 ピギーたちの生態系がなかなか読ませます。ビショップ氏ほどの厳密な構成ではないですけど、よく考えられてますね。後半で、異なった規範を持つピギーの若者に、人類の規範を困難の元に説明するシーンも読み応えがありました。
 しかし、なんといっても主題は、故人の人生を代弁することによって、思いもかけぬ真実が明らかにされ、故人と世界の関わりに新しい光が当たるという<死者の代弁者>の存在そのものでしょうね。
『ゼノサイド』

オースン・スコット・カード著
田中一江訳
加藤直之カバー

1994/8/31刊

上巻:ISBN4-15-011072-7 C0197
下巻:ISBN4-15-001073-5 C0197

ハヤカワ文庫SF 上巻700円・下巻680円
粗筋:
 ルジタニアで現地の女性と結婚して現地に留まっているいるエンダーは、スターウェイズ議会がルジタニアを殱滅しようと粛清艦隊を派遣したことを知る。ピギーにとっては新しい生の助けとなるが人類にとっては致命的なデスコラーダ・ウィルスの蔓延を恐れるあまりの仕業だった。
 早速エンダーはアンシブル・ネットワーク上知性であるジェインと共にそれを阻止すべく活動を始めるが・・・ 
 デスコラーダ・ウィルスとピギーとの関わりも良く書けていて面白いところですが、やはりアンシブルとジェインとエンダーと洞窟女王とピギーのあっと驚く相関関係がすごいですね。私はこれを、カード氏の大統一理論と呼びたいですヽ(^。^;)丿
 プロパーSFファンにもパートタイムのSFファンにも等しくお薦めできる傑作であることは確かです。ただし三巻全部読まなきゃ面白さも半減するのが難点か^^;
『エンダーの子どもたち』

オースン・スコット・カード著
田中一江訳
加藤直之カバー

2001/2/28刊

上巻:ISBN4-15-011344-0 C0197
下巻:ISBN4-15-011345-9 C0197

ハヤカワ文庫SF 各巻480円
粗筋:
 スターウェイズ議会に対して反旗を翻したルジタニアと、危険極まりないデスコラーダ・ウィルスが銀河系に蔓延することを防ぐために議会は粛清艦隊を派遣した。
 かつてバガーの母星を葬った爆弾が、今度はルジタニアに対して使われようとしているのだ。あと数週間、その間にルジタニアに住む三種類の知的生命体、人間・ピギー・バガーたちの生きる道を探さなくてはならないのだ。
 前作でエンダーが心ならずも生じさせたピーターと、ハン家の召使いだったワンムは、議会工作により粛清艦隊を止めるべく活動を始めていた。
 ジェインの指揮の元、瞬間移動によって惑星住民を他の惑星に運び出す一方、新しい肉体を得たミロとヴァレンタイン(エンダーによって生じさせられた若いほうの)は、居住可能な惑星を、スターシップごとの瞬間移動によって探し回っていた。
 ルジタニアのエンダーは、自分の元を去った妻ノヴィーニャを追って隠遁生活に入ってしまう。耳の宝石を取り去り、ジェインとの交信手段を絶って・・・ 
 惑星<神風>に移民した日本人たちが出てくるのですが(なんと名古屋市が舞台)、大江健三郎に共感するカード氏の日本感ってなんか変ですよね。この巻は、シリーズの総まとめ的な印象が強く、強烈なインパクトはありませんでした。
 主人公の一人ミロは、生まれが1951年(スターウェイズ法典採択後)ということで、カード氏(もちろんこちらは西暦)と同じですね。で、障害をもっていたとなると、なんか関係がありそうですね。
『エンダーズ・シャドウ』

オースン・スコット・カード著
田中一江訳
加藤直之カバー 

2000/10/31刊 

上巻:ISBN4-15-011330-0 C0197 
下巻:ISBN4-15-011331-9 C0197

 エンダーの副官を勤めたビーンの目から見た
もう一つの『エンダーのゲーム』

ハヤカワ文庫SF 各巻720円
粗筋:
 ロッテルダムの街に、餓死寸前の一人の少年が居た。四歳になる彼は、見た目は二歳児程度の大きさしかなかったが、その知力は誰にも負けてはいなかった。彼は、孤児として生まれ、よちよち歩きしかできない頃に身の危険を感じ病院を脱走したのだった。ストリト・キッズの仲間になり、その才覚で以前には大きい乱暴な少年が独占していた給食所で配給を受けられるようになった彼の属するグループは、やがてシスター・カーロットの目を引くこととなった。そしてそれは、ビーンのバトル・スクールへの道を開くことに・・・ 
 う〜ん、文句無しに面白いです。エンダーよりもさらに過酷な運命を背負わされたビーン少年の生き様は、ある種の感動をも呼び起こしますね。問題があるとすれば、カード氏の描き方もあるのでしょうが、ビーンがあまりに子供らしく無い点かな。まあ、ビーンやエンダーが子供じゃなくても、物語の本質的な部分は成り立つと思いますが、読者に対するインパクトは弱くなると思います。
 SFを愛する、少年の心を持ったSFファン全員にお勧めできる傑作です。
[雀部]
48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員
ホームページは、http://www.sasabe.com

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