胎夢魔人の島

庵 之雲

 浮島ルルゲの腹のうえ、人家がびっしり建ちならぶ。情と掟の糸の織りなす、閉鎖されたコミュニティ。年一度、二十歳前後の若者のひとりに白羽の矢が立つ。男でも女でもいい、ルルゲは両性具有だから。
 新年最初の新月の夜、人々は陽気に歌い踊る。その底にひっそり隠された悲しみ。やがてしめやかな調べの中、生け贄はルルゲの口の中へ。

 内部は外の世界よりはるかにゆっくり時間が流れる。そのため生け贄となった若者は、父や祖父の代の人たち、あるいはもっと昔の先祖に出会う。彼らはルルゲの内なる浮島に群落をなし、その島リゲルもまた生け贄を欲している。その胎内には、浮島ゲルク。

 これは夢の話である。よって唯一の運命から逃れることはできない。すなわちゲルクは覚醒す。リゲルもルルゲも目を開く。するとゲルクは人々もろともシャボン玉のように消えてしまう。すると無となった空間へと吸い込まれながら周囲の時間が巻き戻され、そしてリゲルも消える。巻き戻され、ルルゲが消え、巻き戻され、消え、巻き戻され、われわれが地球と呼んでいたものもはじけて消え、宇宙が巻き戻され卵になりくるくると私のへその中へ、しゅぽん。

(了)


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