俺は殺し屋、何者も逃れることはできない。標的と自在にシンクロできる、そんな俺の能力からは。このビルの向かいの銀行を出る時、それが今度の獲物の最期。ドクン。ドクン。それは俺の心音であり、そして同時に奴の鼓動。俺はお前、お前は俺。もはや逃れるすべは無い。
引き金はなめらか。ことりと落ちる。甘美なキックバックとともに弾丸は秒速1000メートル、空気の壁を突き抜け正確に相手の心臓へ。濡れた手ごたえ。「俺」は衝撃と筋肉の反射によって後ろへ弾かれ、そして肺を焼き尽くす火炎を幻視する。だが無意識の部分が破砕された心臓を認めて「俺」の生涯が高速で再生され始めた。捉えられるのは走馬燈の断片のみ、後はひしめきあいながら意識下に刷り込まれてゆく。空中での再生が幾たびか終わったあと「俺」は床に叩きつけられ、急激な血圧の低下のために理不尽な快楽に包まれる。そして朱色の水銀のなかで。
終わった。俺は手際よくライフルを分解しながら自分のどこかが死んだのを知覚している。そして全てを地味なケースに収めたら、俺はいっそう重くなった影を引きずって鬱然と歩み去るのだ。
(了)