御中元

和季みまる

 塩味の風がイカくんに教えてくれました。星はみんな帰省してしまったよ、と。
 イカくんは、さんかく頭を振って考えます。
「んあー」
 茶箪笥から金平糖型の種をふたつ取り出したイカくん。植木鉢にひとつ押し込んで、出窓に置きました。残った種はつまみ食いです。
 陽が真上に昇ったころ、土のなかから芽がぴっこり出てきました。雀たちが床を敷きに帰ってきたころ、ルルルと茎が伸びてお辞儀をしました。そうして真っ暗けっけの夜になり、豆ひとでの実がたくさんなりました。
 一日ずっと頬杖ついて眺めていたイカくんは、白さんかく頭に黒さんかく帽をかぶり、鉢を抱えて出掛けました。
 夜の草原には船がとまっていました。イカくんは甲板に立ち、吸盤を鳴らします。出航の汽笛です。船は草原を滑走し、やがて浮かびました。
 船のなかでイカくんは、豆ひとでの実を丁寧にもぎ、一つひとつに熨斗をつけました。お腹の墨をたぽたぽに含ませた筆で、「烏賊船長」と記すことも忘れません。
 これは、暗くて眠れない人たちに配る、大切な贈り物なのです。

(了)


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