身代わり地蔵

松本楽志

 二人が参道を降りてくると、崖の手前に祠があることに気づく。 「ねえ、あんなところに地蔵があるわよ、……身代わり地蔵だって。きっと、お願いしておけば、降りかかる不幸を身代わりしてくれるのよ。ねえ、お願いしておこうよ。私たちの不幸を身代わりして下さいっ、これでいいわ。じゃあ、行きましょう……ちょっと何してるの?」
 彼はおもむろに祠から地蔵を取り出すと、目の前の崖に向かって放り投げた。地蔵は見事な弧を描いて落下していった。そして、地蔵が視界から消えると、隣で彼女が地面に叩きつけられる音がした。
 彼は崖を覗き込んだ。地蔵は無傷だった。

(了)


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