作家の仕事

たなかなつみ

 そして目覚めると世界は半分消えている。
 作家はやおら起き出して辺りを見まわす。欠けて宙に浮かんだ建物や、色と広がりをもたない空、消滅と出現を繰り返す輪郭のぼやけた生き物で構築された世界を見る。机に向かい、息を吐き、作家はおもむろに言葉を紡ぎ出す。その建物には音を映す窓がついていた。然り。その犬の目は紅くにじみ共鳴してふるえた。然り。その日の空は、多彩な色のつづれおり、澄み、霞み、まったくひるひるとしてちぬちぬとしていた。
 言葉を止めて作家は空を見上げる。作家は小首を傾げ、「ひるひる」を「はくはく」に書き換える。然り。空ははくはくし始める。
 不安定だがとにかくは世界の穴を繕う作業を終えた作家は、大きく息を吸い、床につく。
 そして目覚めると世界は半分消えている。
 ともすれば書くことから逃れようとする作家は、ふと、透けながら膨張していく自分の体に気づく。作家は書き始める。作家の体はとどまるところを知らず、世界はそれだけで生きていくには繊細にすぎる。然り。

(了)


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