世界を喰らう

たなかなつみ

 寂れた遊園地の片隅に薄汚れた看板を掲げた黒い天幕。入口をくぐると無表情のにいちゃんが「世界が見える」と言って私の右手にピンク色の丸薬を落とす。呟くような抑揚のない声で「噛んで」と付け加える。操られるように丸薬を口に放り込み一噛み。その途端
 体中に満ちる電気放熱疾風反響悲鳴歓声悲哀混濁眩暈洪水情報誰かの何時かの何処かの何かを何故。何故。何故。何故は見つからず沈む沈む沈む沈む更に潜るその泥濘の底に走る放電落雷亀裂微塵飛散疾駆濁流洪水情報何時かの何処かの何かを誰。誰。誰。誰は確定せず浮く浮く浮く浮く更に跳ぶその虚空の彼方に潜む混沌混乱困惑汚泥堆積凝縮集中決壊奔流遍く洪水情報何時かの何かを何処。何処。何処。何処にも見出せず何時。何時。何時。何時の間にか何。何。何。何事もなく
 何も得るところはなく。 覚醒 したので
 ちょっと高い代金を払って。
 黒い天幕から外に出ると、いつもの風景。ぐらり。景色が傾いたのは、私がバランスを崩したので。その途端 体中に満ちる世界

(了)


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