ガラスの箱の中にいる女は、私が育てたパーフェクトな人形なので、私の望むとおりの姿態をもち、私以外の者を見ることはない。私の与えた食べ物を食べ、私の言うことだけに耳を傾け、耳に心地よいハスキーボイスで相づちをうつ。
ある日、彼女はためらいがちに切り出す。ここから出して。あなたの話す外が見たい。
失敗作はこれが初めてではない。人形は私にとってのみパーフェクトでなければならない。ガラス内部への酸素の供給を止めるため、私はコックに手をかけた。
すかさず彼女が声をかけた。あなたはどう? ガラスの中を知りたくない?
ガラスの中で彼女は美しい。一瞬面食らったが、なるほど、パーフェクトな誘い方だ。
彼女はガラスの外へ出た。かわりに私が中へ入った。そして気づいた。彼女の与えてくれる外の情報など、ガラスの中の私にとっては何も魅力的ではない。
生命を延ばされること、奪われること。私の感情も思考もそこから動かない。そして彼女はというと、ガラスの外から耳に心地よいハスキーボイスで私への愛を語る。パーフェクトに。
(了)