無事に連載2回目を迎えることができました。『ロボコップ』が徘徊する街、す
でに雪がちらほら降るデトロイトからmitchがお届けします。
今回は秋らしく、少しばかりセンチメンタルに『タイムトラベル』を描いた作品
を紹介しましょう。昔から『タイムトラベル』という言葉を聞いただけで切なさ
を感じてしまう私。理論上は破綻しまくっている感もあるタイムトラベル作品で
すが、哀愁を感じさせるって面で数々見たSF映画の中でも愛着のあるものが多
いのです。
『バック・トゥー・ザ・フューチャー』シリーズや『ターミネーター』シリーズ
に関してはこのページをご覧の皆様に今更私なんぞが申し上げるまでもあります
まい。こういったビッグ・バジェットの作品(『T1』は除いて)はそれはそれ
で楽しいのですが、どうも大雑把で小技に欠けるキライがあります。映画のスタ
ートレック・シリーズにはタイムトラベルを描いたものに秀作が多いですね。
(『故郷への長い道』『ファースト・コンタクト』)
B級ってことで言えば軍事・戦争に絡めた『フィラデルフィア・エクスペリメン
ト』『ファイナル・カウントダウン』てな作品も楽しかったです。特に後者のタ
イムトラベルシーンのチープさと日本兵の役者の演技には思わずなごんでしまい
ます。(笑)
近未来を描いたものとしてはワタクシ的には職人ピーター・ハイアムズ監督の
『タイムコップ』がオススメ。タイムトラベルが可能になった近未来の時間犯罪
を防ぐ捜査官の活躍を描いた作品ですが、主人公の時間移動に併せてころころ変
わる回りの状況の描写がなかなか見事でありました。時間犯罪捜査官の孤独感も
巧く描けており、現在は公開作品がことごとくコケまくって不遇をかこっている
ジャン・クロード・ヴァンダムのベスト作品と言っても過言ではないでしょう。
あ、忘れちゃいかん作品がもう一本。『ある日どこかで』です。たまたま見かけ
た昔むかしに描かれた肖像画の女性とナニしたいからとタイムトラベルを試みる
・・・ってなワガママな設定がたまりません。ふつう、タイムトラベルと言えば
タイムマシンを使うか、もしくは偶発的な時空間のねじれに巻き込まれる・・・
という設定がほとんどなのに対して、『ある日どこかで』は『本人の強い意思さ
えあれば誰にでもタイムトラベルは可能なのだ!』と宗教まがいの理論を展開す
る希有な作品でもあります。美しい映像・忘れられない音楽・・・あの『スーパ
ーガール』を撮ったのと同一人物とは思えない監督(ヤノット・シュワルツ)の
手腕も冴えます。あまりにも悲劇的なラストが好みの分かれるところですが、タ
イムトラベルものを語る上では外せない一本であります。ちなみにこの作品の舞
台となったグランドホテルは私が住むミシガン州のマッキナウ島に実在します。
さて、そういったタイムトラベル作品群を総括してしまったか?とも言える
快(怪?)作が、今年の北米サマーシーズンのオープニングとして登場した
『Frequency』です。製作費に20億円ほどしかかけていないハリウッドでは低
予算の部類に入る映画ですが、そんなことは微塵も感じさせない仕上がりです。
(注:ネタばらしはしていないつもりですが、ある程度内容に触れないとこのコ
ラムが成立しませんので、鑑賞前に映画の内容を知りたくない方はここから先を
鑑賞後に読んでいただいた方がいいかもしれません。)
とにかく上映時間2時間を飽きさせるヒマがないジェットコースタームービー。
『バックドラフト』に始まり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『タイムコ
ップ』『フィールド・オブ・ドリームス』『羊たちの沈黙』まで詰め込みながら、
しかもギリギリのところで破綻していないのです。
地磁気の変異でNY上空にオーロラが発生。このオーロラにより時空間に異常が
発生し、主人公(『The Thin Red Line』のJames Caviezel)は父親の形見の無
線機で30年前の父親(デニス・クエイド)と会話ができることを知ります。そ
して、消防士である父親がその翌日には消火作業中に事故死してしまうことを知
っている主人公は何とか父親を救うべく、無線でその事実を伝えます。この結果、
微妙に修正された歴史は彼らを意外な事件へと導いてしまう・・・と、未見の皆
様のためにストーリーはこの辺で止めておきましょうか。
この作品では無線の電波だけがタイムトラベルしているわけで、少しヒネリが加
えられた興味深い映画に仕上がっております。残念ながら、『傑作』にまでなり
得なかったのは
1)中盤のサスペンステイストが前半と終盤のほのぼのテイストとあまりにもか
け離れてしまったこと
2)父親との初交信があまりにも偶発すぎて面白みがないこと
3)歴史の修正に関してあまり緻密な設定がなされておらず、なぜか主人公だけ
がこの歴史の変更を知っていたり、歴史が変わった瞬間に「それはないやろ」
とツッコミたくなる描写になっていること等の理由によります。
しかしながら、タイムトラベル特有の切なさと荒唐無稽さは十分描き切れており、
ラスト10分のウルウル・ほのぼのだけで、これらの欠点をすべて忘れさせてく
れます。この映画ではラスト近く、場内の観客が『どっ』と沸くシーンがありま
す。しかし、これは前回のゴジラで見られたような失笑ではなく、もちろん『よ
ーやってくれた!』という観客からの賛意の現われでありました。
『What if?』・・・実生活では起こり得ない「あの時こうしていたら」「あの時
こちらの道を選んでいれば」の夢を如何に上手に見せてくれるかが、タイムトラベ
ル作品の成否を左右するポイントではないでしょうか。その点では『Frequency』
は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』同様、主人公の廻りの個人的な歴史の変化
だけに的を絞りこんでいるので、誰にでも共感できる作品に仕上がっているかと思
います。
私もこの作品を見た後でいろいろ考えました。「もし大学をちゃんと4年で卒業し
ていたら(笑)」」もっと給料の良い会社に就職していたら(切実)」「もし今のヨ
メとは違う女性と結婚していたら(爆)」等々。・・・でもその場合、もっと悲惨
な人生が待ち構えていたかもしれない・・・との結論に達し、『What if?』は映画
・小説の世界だけにしておくべきだと悟ったのでありました。
<補足>
『Frequency』は全米で今年の4月28日に公開され、製作費の2倍を超える約50
億円の興行収入を得るスマッシュヒットとなりました。日本では12月にお正月映
画として劇場公開予定(邦題:オーロラの彼方に)ですが、10月31日にはアメ
リカでR1版のDVDが発売されています。コードフリー機をお持ちの待ちきれな
い皆様にはDVDでの鑑賞をオススメします。(偶然ですが同じ日に『ある日どこ
かで』20周年記念盤も発売されています。)・・・それにしてもなんちゅー邦題
や。まさか、感動大作として売り込むつもり???
<次号予告>
11月上旬からスタートする北米ホリデームービーシーズンに併せて、『Red Planet』
『チャーリーズ・エンジェル』等の話題作のレビューをお届けする予定です。(な
お、筆者都合により内容が変更されることもありますので、予め御了承ください。)