CGI恐竜の中身は空っぽ −『Dinosaur』

このレビューも3回目となりました。どのくらいの人数の皆様に読んでいただいているか、はたまたどのような印象を持っていただいているのか、若干不安を感じながら進めております。ただ、コンセプトとしては、「その作品が面白いのか・面白くないのか」が判りやすいレビューをお届けしていく所存ですので、ご意見ご感想ありましたら、是非とも編集部までメールを送っていただきますようお願いいたします。

さて、今回は日本ではお正月に公開される話題のディズニーのビッグバジェットCGアニメ作品『Dinosaur』をご紹介させていただきたく。ちなみにこの作品、「これっぽっちも面白くありません」。(爆)

恐竜映画の技術的なブレイクスルーはスピルバーグの『ジュラシック・パーク』であるということは皆さんにも納得いただけると思います。日本映画伝統の『着ぐるみ』もしくは海外映画が得意とする『ストップ(あるいはゴー)モーションアニメ』で撮影されることがほとんどだった恐竜の表現にフル・コンピュータグラフィックスが採用された歴史的な作品です。ジュラシックパーク到着の冒頭で草を食む首長竜のリアル感、主人公たちが乗るジープを追いかけるT−REXの迫力には誰もがうなったはずです。当時としては技術的にはほぼ完璧と言っても差し支えないレベルにまで到達していました。

しかしながら、ストーリー的には中途半端なエンディングを迎えたり、原作には登場する翼竜がほとんど登場しないなど期待外れな面もあり、その続編『ロストワールド』と併せても作品内容的には不満が残る結果となりました。特に『ロストワールド』は日本映画の『ゴジラ』(昭和後期)、『ガッパ』を彷彿とさせるあまりにもマンガ的な展開で開いた口がふさがらなかったですな。

その後に登場したのがアメリカ版『Godzilla』。ゴジラを名乗ってはいるものの、これは完全な恐竜映画。トカゲあがりのゴジラなんで、走り方までT−REXに似てたりします。SFX的には見応えがあったものの、ストーリーのあまりのバカバカしさに怒りだした観客は数知れません。(ちなみに日本の平成版ゴジラは南の島に生息していた恐竜の生き残りの核による突然変異なんですが、こちらの動きは着ぐるみなんで恐竜とは全く無縁になっちゃってます。)

結局、これらの作品は恐竜ファンを満足させるには力不足だったのですが、意外なところから傑作が飛び出してきます。それが昨年英国BBC放送で製作・放映されたテレビシリーズ『Walking with dinosaurs』です。

日本ではTV特番として短縮版が放映されましたが、それではこの作品の素晴らしさの半分も体験できていません。このシリーズは全6話・各30分の3時間におよぶ大作で、CGや特殊効果の出来もさる事ながら、ストーリー構成の見事さには驚かされます。

このシリーズの最大のポイントは『ドキュメンタリーを装った壮大なフィクション』であるということではないでしょうか?基本的には恐竜に関しては発掘された化石からすべてを想像するしかないわけで、ここに登場する恐竜たちの習性や行動はあくまでも人間の想像の産物でしかありえません。もちろん一部は恐竜学者たちによって裏付けがなされてはいますが、それとて完全に正しいとは言えないのです。現在我々がかろうじて知っている事実は「恐竜という生き物が何千万年前もの昔に生息し、絶滅していった"らしい"」ってことだけなのですから。

しかしながら、これを逆手にとってこの番組の製作者は独創的な恐竜世界を構築してしまいます。そしてその『虚構』の世界での恐竜たちのライフスタイルを実に生き生きと描くことに成功しています。単なる恐竜興亡のダイジェストにせず、恐竜のみならずその周辺世界のホームドラマを描いたとも言えるこの手法がかえって視聴者側にリアル感を掻き立ててくれる結果となったのです。しかも上記作品群ではわずかしか登場しなかった翼竜のエピソードもたっぷり描かれています。

もちろん、TV版ということで予算の制約もあり、全てのシーンが満足いく出来ではないのですが、本編を完璧に補完してくれるユーモラスな1時間長の絶品メイキングと併せて、TVでこの作品が作り上げられたことは奇跡に近いのかもしれません。

ここへ今年の夏、殴り込んできたのがディズニーの『Dinosaur』。映画作品でもあり、湯水のようにお金を使った(200億円−300億円!)ことからもその仕上がりに興味が集中しました。しかしながら、その結果は・・・

CGは一部シーンを除いてはかなりの出来。(それでもこんなシーンで200億円?と疑問に思うところも多々見受けられましたが。)ディズニーの常として、キャラクタがデフォルメされすぎている感はあるものの、実景との合成や恐竜の肌やサルたちの毛並みの質感は満足いくレベルになっています。

最大の難点はまたまたストーリー。PIXERと組んで『トイ・ストーリー』シリーズ、『バグズ・ライフ』という子供だけでなく大人も満足できる作品を製作してきたディズニーとは思えない空疎な内容に終始しているのです。日本でも特報予告編で既に紹介されている冒頭の5分間。それがすべてなのです。それ以外にはほとんど何もないのです。(この冒頭シーンだけは認めざるを得ませんが。)

ここではストーリーの詳細には触れませんが、『Walking・・・』の1話・30分にも相当しない薄い内容を無理矢理90分に伸ばした塩味のない味噌汁状態。御都合主義満載の展開。いつかどこかで見た雨の中のT−REXの映像。そこへ新味のないテーマを繰り返し押し付けられては見てるほうはたまったものではありません。私が鑑賞した時も開始30分で子供たちは完全に集中力を失ってざわつき始めてしまいました。私自身にもこんなに長く感じられた90分映画は初めての体験でした。

技術的に『Walking・・・』と比較した場合でも予算に見合うだけの差は感じさせてくれません。そうすると、沸いてくる疑問は一つだけ。「なぜディズニーがこの作品を作って公開しなければならなかったのか?」PIXERに対抗するべくみずからもCGスタジオを持とうと焦ったディズニーが短期間で結果を出さざるを得なくなったのではないかと推測します。そのためにストーリーも十分に練ることができず、クオリティ面でもパイロットフィルム程度の作品にしかならなかったとも言えないでしょうか?

個人的にはこの作品は『ディズニーCGスタジオ技術の現段階でのベンチマーク』としての価値しか無い、映画としては大失敗作品であると断言してしまいます。もちろんディズニーがこのまま引き下がるとは思えませんし、そうあっては欲しくありません。次回作での巻き返しを期待したいものです。

・・・で、次の恐竜映画ですが、いまさらながら・・・とも思える『ジュラシック・パーク3』が2001年の7月に登場する予定ですね。技術的には飽和しつつあるように思えるCGIによる恐竜の表現に果たして老舗ILMが新たなブレイクスルーを見せるのか?翼竜のエピソードは描かれるのか?ほったらかしの恐竜たちの運命は?(笑)・・・こう考えると思いのほか見所は満載のような気がしますが、今回こそは納得できるストーリーの恐竜映画が見たいものです。願わくばこの作品が恐竜映画の幕引きとだけはなりませんように。・・・ああ、『JAWS』のシリーズの悪夢が。(爆)

<補足> 『Walking with dinosaurs』に関しては2枚組のR1版DVDが発売中です。是非とも『Dinosaur』と比較してみることをオススメいたします。(『Dinosaur』のR1版DVDは2001年1月下旬にオマケ満載で発売予定です。私としては劇場で1800円払うのなら、こちらを入手された方がコストパフォーマンスが高いと思いますよ。)

<次号予告> 次回こそは!(笑)全米クリスマスシーズンに公開される映画のレビューをバッチリお届けする予定です。・・・ホンマかいな?


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