永劫回帰(eternal recurrence)

中条 卓

 男は深夜の帰宅途上で隕石に撃たれた。男の後頭部の皮膚を穿ったテニスボール大の鉄とイリジウムの塊が皮下脂肪を融かし第7頚椎の棘突起をむしばみ始めた時、男の記憶の閉鎖回路にスイッチが入った。

 男の眼前に彼が生まれた瞬間から今この時までのすべてが早送りで再現された。その時々のよろこびやくるしみが甦り男の胸を焼いた。1回目の再生が終わるちょうどその頃に隕石は男の身体を半ば通過した。男の意識の後ろがわに隕石の重圧感が迫り、毛髪の焦げる匂いが届いたか届かないあたりで、ぱん、もう一度スイッチが入って記憶のフィルムが今度は4倍速で再生される。

 そのたびに倍の速さで上映される生涯が無限にくりかえされた後、隕石が男の臍のあたりから飛び出して地面に大きなピリオドを打った。ゆっくりと仰向けに倒れる男の瞳にはいまや何の情報も記されていない。それはダビングを繰り返した挙げ句ホワイトノイズしか残されなかったテープに似ていた。

(了)

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(「http://www.asahi-net.or.jp/microstory/index.html )に掲載されたものです」

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