月別アーカイブ: 1月 2015

『就職相談員蛇足軒の生活と意見』松崎有理著、ヒグチユウコ装画

’14/5/31、角川書店、1600円 博士課程修了したものの巷に博士号が溢れているこのご時世、就職できず職安に通う理系女子シーノ。ふと街角で見つけた求職案内に応募し、腰かけのつもりで嘘道家元・蛇足軒の秘書になってはみたものの…… 以下、帯の煽りから引用 シーノ: 27歳女子。〈北の街〉の大学院で博士号を撮るも研究室を追い出され、話の冒頭では無職。コミュ障寸前のシャイな性格&妄想癖あり。職安特命相談員蛇足軒の秘書となるが、腰を据える気はなく引き続き研究者として休職中。 蛇足軒: 〈北の街〉の旧市街に屋敷を構える。〈嘘道〉の家元として日夜実益のかけらもない嘘について思索する一方、〈職安特命相談員〉としてさまざまな難あり求職者に適職を与えてきた。めっぽう甘党で、老舗「あまんざ」の菓子をこよなく愛する。 いちゃぽん: 蛇足軒の飼い金魚。巨大。丸いものならなんでも食べる。 黒耀斎: 蛇足軒のライバルかもしれない。嘘道の秘伝書を狙っているのかもしれない。 「懇切、ていねい、秘密厳守」では不死身の青年が、「悲しき食糧難」では、人間の血を吸いたくない吸血鬼が、「三秒の壁」では三秒後を予知できる能力者が、「人工の心」ではAI搭載自律型掃除機が、「博士浪人どこへゆく」では、 ついにシーノ自身と黒耀斎の就職が語られます。 なぜ、その特殊な能力をもった求職者の就職がうまくいかないか、そしてその驚き(しかも納得)の解決法が見所です。 特に「人工のこころ」の〈ぽにい〉は可愛らしくて萌えます(笑)作者も気に入っているとみえて、次の章にも登場してますねえ。 不思議な、しかしあったかいほのぼのした気持ちになれるお薦めの連作短編集です。

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『筺底のエルピス』オキシタケヒコ著

『筺底のエルピス―絶滅前線―』オキシタケヒコ著、toi8イラスト ’14/12/23、小学館ガガガ文庫、593円 ヒトに取り憑いて人間を殺しまくり、殺されれば(死ねば)死因の因果関係の一番強い相手に乗り移り更にパワーアップして殺戮を繰り返す、「殺戮因果連鎖憑依体」――通称「鬼」。それに対抗し狩る人類側の組織は《門部》呼ばれる。彼らは、通常人には判別不能な鬼のオーラを見ることのできる眼〈天眼〉と、ある範囲内の時間を停める柩〈停時フィールド〉を自由に操る二つの特殊能力を持っているのだ。 「殺戮因果連鎖憑依体」と「封伐員」の設定が絶妙。また《門部》の封伐員のキャラ設定も上手い。どうして封伐員になったか、戦うモチベーションはどこに由来しているかが、ウザくならない範囲で感情移入できるように書かれてます。このバランスの妙が凄いなあと。厳しい戦いの中で、圭と叶が現実と折り合いを付け、頑な心を溶かしていく様の描き方も秀逸で、読み応えがあります。  著者インタビューをお願いしたいところではありますが、創元日本SF叢書から処女短編集が出るような気がするので、それからの方が良いのかなあ……  以下、ネタバレにつき白いフォントで書きますので、反転させてお読み下さい。  一番の設定の妙は、取り憑いた『鬼』の封伐方法。本体は人間を凶暴化し殺戮衝動を起こさせるアーカイブのようなもので、人類が存在する限り誰かに取り憑くという鬼畜設定。対象を殺した封伐員に取り憑いてまた悪行を働かせるので、これを封伐員ごと遙か未来に送り込み、消去する。なぜなら、未来では人類がとっくに絶滅してアーカイブが取り憑く相手が居ないからという…… なぜ未来に送るかという疑問に答えると同時に、人類の行く末も提示するという仕掛け、思わず、う~むお主やるなあと唸りました。いわば定められた負け戦の終末を、幾ばくでも未来に延ばすために彼らは戦っているのです。泣けますねえ。  あと、《門部》の党首代行にして伝説の停時フィールド〈久遠棺〉の使い手、阿黍という圭の師匠がいるのですが、なぜ彼が〈久遠棺〉を封印したかが、物語の展開に大きく関わっています。なるほど、封印というか、確かに使えなくなるわけだ。この設定も上手いぞ!  『筺底のエルピス』の“エルピス”とは、「希望」という意味。あの“パンドラの箱”の奥に残った「希望」ですね。まさにこの本全体の有り様を示した秀逸な題名。また“筺”は停時フィールド“柩”に通じていると思います。  また封伐員の使う特殊能力を、『天眼』と停時フィールド『柩』に限定したところ。これは各人で形態と運用方法が違うんですが、その様々な使い方が面白い。SF好きなら、ポンと膝を叩くこと間違いなし。能力を限定しない方が色々バリエーションを得られるので発想が広がるという一面はあるのですが、敢えて限定した中で工夫する面白さというのは、確かにSF的ではあります。  ラノベ的には、ヒロインはすべからくツンデレというところは外してませんし、ラノベが好きな方にもSF好きにもお薦めできる作品にしあがっております。続刊、刮目して待て!(出してね>ガガガ文庫)

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