岩郷重力+WONDER WORKZ装幀
2010.12.24発行
東京創元社
1100円
ISBN-13: 978-4488739010
収録作:
○高山羽根子「うどん キツネつきの」(第1回創元SF短編賞 佳作)
変な小説です。生まれたてのヘンテコな仔犬を拾った三人姉妹の日常を描いた作品。題名もヘンテコですが、読み終えると正に題名通りの短編だったことに驚くという……(笑)読み返さないとわからない伏線が多々あるので、二度読みは必須です。
昔のニューウェーブ作品で、パミラ・ゾリーンの「宇宙の熱死」という短編がありまして、上下二段組みで、片方に熱力学法則を、もう片方に普通のオバサンの日常生活が書いてあって、その対比というか相関具合が格好良かった。
この「うどん キツネつきの」は、その片方(日常生活部分)だけを取り出した短編だと考えると、我々オールドファンにはわかりやすい(笑)
つまり、二度目は解説部分を補完しながら読むんですな。うどんと名付けられた仔犬の出自とか、どうやって地球にやってきたか、どういう生命体がどんな文明を持っているかとか、どこに説明を持ってくるかも考えながら読むとまた面白いですね。
基本的には『スター・トレック モーション・ピクチャー』のボイジャーを送り返してきた機械生命体が、何年後かに地球を訪れるみたいな話という理解で良いのかな?(笑)
○端江田仗「猫のチュトラリー」
人間を介護するロボットに猫の鳴き声を日本語に翻訳するソフトを入れたら、ロボットが捨て猫を拾ってきて、あまつさえその猫を人間扱いするようになった……。人工知能におけるコミュニケーション問題を、最愛の妻を亡くした男性と亡き妻の母親のコミュニケーションに投影した洒落た短編。まさに、古い酒を新しい革袋に入れたような。
○永山驢馬「時計じかけの天使」
「いじめ」問題解消のために文科省が法案化したのは、「いじめ対象型アンドロイド」の導入だった。ということで、いじめにあっている堂島百合の通っている学校に、転校生がやってきた。作者が頭の中で何度もシミュレーションして書いたと思われる、そのアンドロイドと思われる転校生が来てからの学校生活の描写が面白い。周りの人間が人間だと思えば、それは人間であるということを、作者はいじめ問題を通して書きたかったような気がしました。
○笛地静恵「人魚の海」
光砂により巨大化する瓢箪島の女達を巡る冒険譚←じゃなくて、巨大女性に対する憧れを描いた短編ですよね。で、この巨大女性ってのは、幼稚園とか小学校低学年のころに、女先生に対する憧れを抱くことがあるじゃないですか、母親以外の女性を初めて異性として意識する頃が。幼稚園児にとって先生というのはとても大きい存在じゃないですか。その感性を大人になっても持ち続けられている作家の方なのかなと思い読み直すと、面白かった。本当のところはよく分からないけど(笑)
○おおむら しんいち「かな式 まちかど」
ひらがなが一個ずつ自意識を持った世界の話(二次元の世界)。字面を見た印象だけで性格付けしてあり、これが爆笑もの。まあ読んで納得のこの性格設定だけでも傑作です(笑)こじつけもあるけど、なるほどそう来たかとニヤリ。かんべむさしさんが昔書いた傑作と言われたら信用しちゃうな。←あ、お名前がひらがなだ(笑)
○亘星恵風「ママはユビキタス」
唯一の宇宙(?)SF。実質的な登場人物は世代型宇宙船に一人だけ生き残った少女の話なので、「リスの檻」的小説といっていいかも。広く薄く遍在するママのイメージに、ちょっと頭がクラクラした。元々の設定は、『ヴァレンティーナ』とか『そして人類は沈黙する』とかのWeb上に遍在するAIなんだけど、それとママと「彼」の愛、主人公と「母さん」の親子愛を結びつけたところが非常に上手く書けてる。また、脳をシミュレートすると一万年かけて、やっと一時間を生きた気がするというところも、SFファンにはたまりませんなぁ(笑)
○山下 敬「土の塵」(第1回創元SF短編賞 日下三蔵賞)
ひょっとして作者は理系版「たんぽぽ娘」を書こうとしたのかな。切ない恋心は良く出ているんで、タイムスリップ・ロマンスがお好きな方にはお薦め。タイムトラベルに関するところは色々工夫されていて面白いんだけど本当に、書きたかったのは主人公と“まりあ”のロマンスなんじゃないかなぁ。
○宮内悠介「盤上の夜」(第1回創元SF短編賞 山田正紀賞)
インタビューがあるんで、よろしくお願いします。
SFファンには、囲碁版『歌う船』と説明しておこう(笑)
http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/120801.shtml
http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/120901.shtml
○坂永雄一「さえずりの宇宙」(第1回創元SF短編賞 大森望賞)
エッジの効いたカッコイイ作品。よく分からないけど、なんか凄い(笑)円城塔さんの短編に似た雰囲気のものがあった。オールドファンには、石原博士の『宇宙船オロモルフ号の冒険』の、よく分からないけどなんか凄い闘いが行われている感を思い出していただければ、あながち外れてはいないと思います(笑)
○松崎有理「ぼくの手のなかでしずかに」(第1回創元SF短編賞 受賞後第1作)
こちらもインタビューがあるので、よろしくです。
変てこな、でもリアリティのある科学者を書かせたら、松崎さんの右に出る者無し(笑)
http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/120201.shtml
http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/120301.shtml
●第1回創元SF短編賞 最終選考座談会 大森望・日下三蔵・山田正紀・小浜徹也