『うつくしい繭』櫻木みわ著

今年になって連続して著者インタビューをお願いしている「ゲンロン 大森望 SF創作講座」受講生関連書籍の紹介です。

うつくしい繭書影櫻木みわ著、ササキエイコ装画
講談社 (2018/12/19)、Kindle版、1,404円

収録作:
「苦い花と甘い花」
「うつくしい繭」
「マグネティック・ジャーニー」
「夏光結晶」


関連リンク先:

発行元の講談社のサイト:http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000318321
朝日新聞「好書好日」:https://book.asahi.com/article/12089861
NEWSポストセブン:https://www.news-postseven.com/archives/20190118_850492.html
東ティモール(Wiki):https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%AB
日本東ティモール協会:http://www.lorosae.org/
外務省(東ティモール):https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/easttimor/index.html
在東ティモール日本国大使館:https://www.timor-leste.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html
大使館員の見た東ティモール:https://www.timor-leste.emb-japan.go.jp/column.htm
私の見た東ティモール:https://www.timor-leste.emb-japan.go.jp/column2.htm
今月のイチオシ本(文/大森 望):https://www.shosetsu-maru.com/storybox/book_review/1145

すみません、GWの頃に一度アップしていた、『うつくしい繭』『異セカイ系』『乙女文藝ハッカソン(1)(2)』の三冊まとめて紹介していた記事は、櫻木みわ先生著者インタビューが決まったので、仕切り直しします。『うつくしい繭』は、読む人によって様々な貌を見せる懐の深い短編集だと気がついたからなのですが……
取りあえず「苦い花と甘い花」から始めます。
以下、インタビュー記事中には書けないネタバレ多々につき、未読の方はお読みにならないで下さいませ。というか読んでいることを前提として書いてます。

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「苦い花と甘い花」
東ティモールで「死者の<声>」を聞くことができる少女が主人公。ラストで少女の選んだ選択が「わたしを双子の妹に」ということで、今まで聞こえていた<声>が聞こえなくなってしまう。私も最初は、今まで苦しい生活をしてきたのだから、この苦渋の選択は責められないなぁと思っていたのですが……
収録されている他の短編も読んでいくにつれ、ん?違うなあ、違和感があるぞと。どの短編もこれから物語が進んでいく余地を残して終わっているんですね。
この短編に限って言うと、特にラストの一行は、ピンと張りつめた耐え難いような「静寂と余韻」を感じさせ、さらにそこまでの決意を持ってアニータが手に入れたかったものとは何かということも考えさせられるんですね。それと、昔アルピニストの野口さんがTVのインタビューで、シェルパの娘さんとの結婚(?)について語られていたのを見ていたからなのです。

アルピニストとシェルパの娘との、世にも奇妙な「結婚生活」:https://gendai.ismedia.jp/articles/-/52512?page=2

で、物語の今までの背景と展開から私が予想した結末は……

—————————ここから————————–

双子の妹になったアニータは、大統領に頼み込んでキューバへの国費留学生となり、医師になって東ティモールへ帰ってくる。他の東ティモール出身の医師と共に地域医療に奮闘するアニータ。その努力が世間にも認められるようになり、東ティモール初の女性大臣に(厚生大臣)。やがて大統領にという声も民衆からわき上がるが、アニータはそれを固辞する。
そしてアニータが天に召された時、<声>たちが戻ってくる。
「お帰り、アニータ」
「みんな心配していたんだよ」
「ひょっとして、“双子の妹に”と言ったときからこうすることを決意していたの?」
「当たり前でしょ(ニッコリ)」

—————————ここまで————————–

異論は歓迎します(笑)
読んだ人の数だけ、物語の異なった結末が想像できるはずだと。

————————— 次 ————————–
「うつくしい繭」
「苦い花と甘い花」と違って、その後の進展は大多数の方が予想している通りになるのではないかと。
帰国して華恵との関係を再構築する(広谷は二人の間から叩き出すしかない(笑))。そのあと、もう一度ラオスに戻って、シャン・メイの再訪を待つのかな。シャン・メイの書いたとされる小説は、櫻木先生の目指している小説と重なっている感じがしますし。
また<繭>ということから、映画『コクーン』を思い起こした方も多いと思いますが、物語の主旨は全然別物です。

表題作でもある本作は、最も料理が美味しそうに描かれていると同時に、最もわかりにくい(特に華恵の関わり方。広谷がクズなのは一目瞭然だけど(笑))存在でした。
著者もわかりにくさを承知していて、シャン・メイの以下の言葉は読者に本作を読むヒントとして提示されたのではないでしょうか。
“そこにあるのは、自分だけの記憶じゃない。動物としての身体の記憶、両親や祖父母、そのまた祖父母たちの記憶も、私たちのなかにある。”
また“コクーン・ルームに入れば思い出す。会うべきひと、行くべきところを思い出せる。そしてこれからは、コクーン・ルームに入ることなしに、それをできるようにならなくてはいけない”というメイ女史の言葉からは、<声>とかコクーン・ルームや神様や<貝>に頼らなくても、<縁>のある人たちや彼らの記憶を共有できるのではないかということが示唆されています。

それと、百合小説として読まれている方もいらっしゃるとお聞きして、読み返すとなるほどそういう読み方も確かにありですね。作中に“性的にふるまうことや性的な目でみられることに、アンビバレントな苦しさがあった”とあるし、華恵が執拗に主人公に関わってくるのは、広谷がいかにクズかを知らしめるためだとも思えてきます。BL系はそれなりに読んでいるのですが、百合系は森奈津子先生の作品くらいしか読んでないので、ものすごく的はずれかもしれませんが(汗;)
まあそれよりありそうなのは、ご先祖の頃から繋がっている華恵との縁が、本人達がそれと気づかないまま誘蛾灯のように主人公と華恵を誘い翻弄している可能性が大きいことですよね。
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「マグネティック・ジャーニー」
構造としては映画『メッセージ』に似ていて、ラストとファーストシーンが繋がってますね。SF分野では、ラストで時間の環が閉じられたと言います(笑) 構成というか時間に対する取り扱い方のアイデアは、映画の『メッセージ』よりもその原作のテッド・チャンの「あなたの人生の物語」に似てますね。
というか、「うつくしい繭」では<縁>のある人たちと彼らの記憶との繋がりが描かれていましたが、この作品では過去と現在と未来の同時性に焦点が当たっているような気がします。

時間についての最近の見地については、橋元淳一郎先生のインタビュー『時間はどこで生まれるか』(前編)http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/100603.shtml(後編)http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/100801.shtmlを参照して下さいませ。
<神>の視点では、過去も現在も未来も同時に視ることが出来るので、この“Emanitive will save Kei Nakase!”というメッセージが過去のに伝わるのは可能と考えられます。「開かずの地下庫があるインドの秘密寺院。時間井戸につながっている」ようだから。

————————— 次 ————————–
「夏光結晶」
よく知らない貝を、見た目美味しそうだからと食べちゃうシーンを読んで真っ先に連想したのは、「地球娘による地球外クッキング」(『西城秀樹のおかげです』所載)(http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/041202.shtml)でした。森先生のは、異星人とわかっていて食べてしまう話だから、さらに過激ですが。森先生も異星人を食べることによって、異星人を分かろうとしたのかも知れませんね。
まあそれ以上に、女性には、食べられないものと食べて美味しい物を見分ける能力があるのかも知れない。(笑)
神津キリカ先生のインタビュー(http://www.sf-fantasy.com/magazine/interview/190501.shtml)でも南西諸島の話がでてきました。
ヤマさんの夢に、「第二次大戦で亡くなった妹さんがしょっちゅう夢に出てきて色々言って来る」とかは「苦い花と甘い花」との繋がりを感じますし、みほ子の「珠を使わなくても、お互いのことを分かろうとしていけばいいよ」も「美しい繭」との繋がりを感じます。
貝が生成した“珠”は、作者は敢えて言及を避けてますが、使いようによっては大変な厄災の元になりますよね。例えが旧いですが、ヒトラーから生成された珠が悪用されたとしたら……

ということで、丸の内のOLことシエラ君がどういう立ち位置に居るか興味があります。悪い組織の手先では無いにしても、うかつに“珠”のことを世間に漏らしてしまったらどうなることか。
しかし、みほ子の家に伝わる“珠”には、そういった厄災を防ぐ知識が隠されていて、ミサキとみほ子がそれを知ることによって好むと好まざるに関わらず事件に巻き込まれていくのだった……
—————————縁(えにし)————————–
記憶メモ:なんとまあ、登場人物の縁が複雑に絡み合ってますねえ。

東ティモールは、ポルトガル植民地で後にインドネシアによって占領される。ラオスは、元フランス領。インドは、元イギリス領。南西諸島(?)や鹿児島県の奄美群島以南は、アメリカの信託統治下にあった。ということで、どのお話しの舞台も欧米の元植民地か占領地という共通点があり、戦争の影響がまだ残っています。
「苦い花と甘い花」
アニータを助ける医師のマツザワミチコの家族は、日本の暑い小さな島に住んでいる。祖父は第二次大戦の時にティモールで戦死。マトス大統領、父親は、アルフレード・マトス
「うつくしい繭」
レモネードの祖父は、福岡の浮羽町出身。先生と同じ収容所。
シベリアの収容所 先生:前村富八郎(華恵の曾祖父)
広谷と前村華恵
料理係マナオ
ライムの母親はフランス人
シャン・メイ ベトナム系フランス人=レピス
クロコディーロは、たぶん東ティモールの大統領
コクーン・ルームで使うハーブは<先祖の夢>と呼ばれている

「マグネティック・ジャーニー」
主人公の兄の大学の先輩である女性(南西諸島の離島の出身)が医者になって途上国のクリニックで働いているらしい。カミのマレーシアで仲が良い夫婦がその離島の出身でおばあが店をしているらしい。
「夏光結晶」
舞台は南西諸島の離島(みほ子の故郷)ということで、ここでも南西諸島の離島が出てきますね。みほ子の兄の哲朗は、サビナとマレーシアに居る。

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雀部 陽一郎 の紹介

SF関係では、東野司さん、橋元淳一郎さん、久美沙織さん、平谷美樹さん、石黒達昌さん、上杉那郎さん、伊藤致雄さんのオンライン・ファンクラブ管理人してます。どうぞ、よろしく。また、懐かしいSFについて語ろうというメーリング・リストも主宰してます。昔は良くSFを読んだが、最近はさっぱりという方は、ぜひどうぞ!(笑) http://www.sasabe.com/SF/
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