岡本俊弥先生著者インタビュー関連本

岡本俊弥氏の著作には、最新の知見を基にしたコアSF系の短編と、幻想色の濃いファンタジー系の短編がありますが、その境はシームレスに繋がっている感じです。
“新しい酒は新しい革袋に盛れ”とは、よく聞く警句の一つですが、岡本俊弥氏のSF系短編は、“新しい酒を古い革袋に盛る”ことで成功している珍しい例だと思います。SFは扱う題材が題材だけに、あまり懲りすぎると“宇宙人を抽象画で描く(©今岡清)”ことになるので、ひょっとしたらSFにおいては違う意味の警句になるかも。
そんな中でも、特にSFファンにお薦めなのは“機械の精神分析医”シリーズ。 主人公は、機械の故障解析を行う調査会社に属し、一般には”Behavior Analyst of Things:BAT”通称“機械の精神分析医”と呼ばれる。(以下BAT)
設定の解説としては、“「深層学習」はプログラムではない。仮想的なニューロ・ネットワークによるパターンマッチングが基本なのだ。数式を解いて答えを出しているわけではない。そういう機械の内部動作を、手続き型のプログラミング言語のようにデバッグすることはできない。機械がなぜそうしたのかを知るために、機械専門のアナリストが必要になる。”(以上引用)
以下、ネタバレのところは白いフォントにしていますので、未読の方は無理に見ようとしないで下さい(笑)
また、これだけの内容とページ数がありながら、380円という価格はコスパ抜群だと思います。Kindleアンリミテッドの会員の方は無料で読めますし。
「岡本ワールド」、お薦めです。

『機械の精神分析医』岡本俊弥著 2019.7.7、スモール・ベア・プレス、Kindle版、380円
収録作:
「機械の精神分析医」BATシリーズ
無人軍用機が事故を起こし、事故の原因として、インテリジェント・ボルトが疑われる。極めて限られたセンサしか持たないIoTボルト内のストレージに、なぜか「酷薄な笑みを浮かべる金髪の少女」の画像が紛れ込んでいたのだ。
「機械か人か」BATシリーズ
TOP500の一位である国産スパコン「垓」での創薬研究に従事する研究者から楳木に依頼が届く。「垓」内部からの、出所不明の救いを求めるメッセージが届いたというのだ。「垓」は、物理シミュレーションで感染症に有効な薬を瞬時に探すこともできる能力がある。
(この方法は、新コロナウィルスに合致したmRNAを製造する過程と同じだなあと思ったいたらインタビューでも言及されてます。以下ネタバレあり)
実はその「垓」と「量子コンピュータ」を結合させて兵士のスーパー脳を開発するプロジェクトでの出来事だったのだ。というわけで、題名の「機械か人か」は二重三重の意味を持ってくる。
「にせもの」BATシリーズ
人事部に、VR面談で採用予定の人間が、実在の人間ではないのではないかとの垂れ込みが寄せられた。(以下ネタバレあり)
電子的に生成された魅力的な人間のアバター(実在はしてない)の事案。機械知性なら、最も人間性を発揮する模倣ができ、年期を積んだ人間ほど簡単にだませる。なぜなら経験こそが機械学習のポイントだからだ。←なんとそうなのか!
「衝突」BATシリーズ
AIによる自動運転のドローン同士の衝突事故の話。自動運転車に搭載されたAIが「トロッコ問題」をどう解くかというと、八島游舷先生の星新一賞受賞作「Final Anchors」もありますが、あちらが理知的な構成とエモーショナルな展開であるのに対して、こちらは、本質的でクールであると言えると思います。。
「シュムー」BATシリーズ
倒産寸前の企業を買い取り、AI導入により事務職員を極限まで減らし利益がでるようにすることによって収益を上げて大きくなった会社からの依頼。
「シュムー」とは、入力と応答とのマップを多層に積み上げていくと、三次元の図形 が見えるようになる、それをシュムーと呼ぶ。(以下ネタバレあり)
赤字になった会社の欠陥をそのまま引き継いだAI化された会社は、更なる劣化も凄いスピードで進むというのはなんか本当ぽく聞こえる。
「マカオ」
急なマカオへの出張命令。それが総ての発端だった。チケット料金の関係で弾丸ツアーとなったその出張は、マカオのカジノリゾート誘致のプロジェクト絡みであった。
「人事課長の死」
AIによる多方面からの人事評価、その結果は絶対だった。今まで肩を叩く側だった人事課長は、ある日解雇を告げられる。そうして次に就くべき職業はアクターだと告げられる。(以下ネタバレあり)アクターといっても、AIが書く小説の肉付けに使われる経験・記憶を提供する役回なのです。

「ノンバルとの会話」
ノンバルは、道路標識を思わせる形をした会話を主体とするコミュニケータの一つ。収集した仕草や顔の表情・声から相手の感情の動きを読み取り、相手に最も適した声質と適切な相づちによって、人の情動を操ることが出来る。そのノンバルが引き起こした思いもかけない災厄を描く。
「摩天楼2.0」

旧来の友人から、自宅に招待したいと連絡が届く。そこは摩天楼と呼ばれる神戸にある高さ2.5kmにも及ぶ超高層建築の中だった。
「ビブリオグラフィ」
主人公が、亡くなった父親の住居に立ち寄り書架を見ていると見慣れぬ本に気が付く。記憶に関する研究をしていたエンジニアである父にしては珍しい本だ。『黎明期の階』と題されたその本は、BNFである父が書いた評論集でもあり、そのジャンルの体系的な資料集でもあった……(以下ネタバレあり)
還暦を迎えてまだ四年目の父が亡くなったとあるので、ほぼ現在の岡本俊弥氏の年齢と同じと思われる。しかも人工知能技術による“もうひとつの人生”生成の研究


『2038年から来た兵士』』岡本俊弥著、Photo by HIZIR KAYA on Unsplash
2020.1.24、スモール・ベア・プレス、Kindle版、380円
収録作:
「二〇三八年から来た兵士」
混雑する都会の地下鉄に突然自動小銃を持ち出現した老人は、自らを日本共和国の兵士だと言うのだが……(以下ネタバレあり)
若者VS老人の対立をエスカレートさせた作品。老人は生産性が無いから要らないというのは、昔から姥捨て山とかあって、それがない時代の方が短いかもです。平谷美樹先生にも同じ題材の『でんでら国』という傑作がありますが、岡本先生の描く世界はもっとアナーキーなようです。
「渦」
微生物量産化に取り組むベンチャー企業の開発者は、世界の異常気象をチェックしてブログに上げるのが趣味だった。(以下ネタバレあり)
プラスチックを分解する微生物と、異常気象を俎上に上げて料理した作品。この着想は鋭い。限界生物に詳しいというと長沼毅先生。極限環境(熱水火口も含む)にも色々な微生物が生息していて驚くばかり。藤崎慎吾先生は、マントル菌とか電気を喰う菌(地震を起こす菌)とかネタにされてましたね。
「汽笛」
少年が見たその蒸気機関車は、何軸もの動力輪を持った巨大なものだった。巨大な蜘蛛にも似た機械によって、異星人が支配するホロコースト後の地球。既に支配者と人類の穏やかな関係(人類側から見れば諦めの境地)が続く世界でのボーイミーツガール。
「水面」
起きたらそこは水底だった。屋根のはるか上で、光が揺らめく水面の意味する異変とは。(以下ネタバレあり)記憶や人間の精神活動は、われわれが考えるほど崇高なものではないのではないかという岡本先生の考えが良く出ている作品。わかっちゃいるけど、もの悲しい。
「ザ・ウォール」
ある日出現した壁は、日本全土を壊滅させ、残った人々の生活をも激変させる。(以下ネタバレあり)小松先生の『物体O』のような話。しかし生きている限りは働いて生きる糧を得なければいけない。ラストに現在の実際の状況が示唆されるが、それはあまりにも暗い未来を指さし示すのみ。
「五億年ピクニック」
夜のオフィスで受けた怪しい電話は、火星不動産のデベロッパー業者からの勧誘だった。年代を区切って、火星にたった一人だけ住むというその案件の本当の目的とは。
「消滅点」
ある日突然発生した爆縮による猛烈な突風と今なお続く強烈な電波障害。壊滅したN県にあった自宅と家族の安否を確認するために、立ち入り禁止区域に入った男の見たものとは。
「梅田一丁目明石家書店の幽霊」
かつて梅田一丁目にあった書店の直営の喫茶店では、趣味を同じくするモノ達がよく定例会を開いていた。そこに出没する林田という戦前のパルプ雑誌に詳しい年齢不詳の男が居た。
「流れついたガラス」
大学新入生の主人公は初めて小説を翻訳する。ディレーニイの「ドリフトガラス」とか、チャーリー・ブラウンとか懐かしいし単語が(笑)海外のファンジンというと、小谷真理女史が頒布されていた「SF-Eye」というのを購読していました。まあ英語だし、内容はほとんど読んではなかったのですが、毎年郵便局から送金していたのは覚えてます。見知った作家の名前のところだけ拾い読みしていた(汗;)
「あらかじめ定められた死」
遺伝子情報等で、人間の寿命の予測が付くようになった時代。18歳になると総ての国民に、あと何年生きられるかの予測情報が届けられるのだ。


『猫の王』』岡本俊弥著、Photo by Hannah Troupe on Unsplash 2020.7.24、スモール・ベア・プレス、Kindle版、380円
収録作:(ネタバレ部分は白いフォントにしてます)
「猫の王」
ある猫の王のお話。猫好きな人にはたまらない話でしょう。
「円周率」
円周率が書き込まれているDNAメモリを人体に埋め込む治験に参加した男の話。(以下ネタバレあり)PCにある程度詳しい人なら、首筋が薄ら寒くなる展開と納得の落ちではあります。
「狩り」
小学校から高校時代と、主人公が気になる女の子は魅力的な尻尾が生えていた。(以下ネタバレあり)岡本俊弥版「カンタン刑」の趣もありますね。ブルブル。
「血の味」
インドで開発された合成肉は、組成からして本物の肉と同じものだった。ライセンス料が安いこともあり、やがてその肉は市場を席巻する……。(以下ネタバレあり)そこには、食肉を好む国(人々)への隠された落とし穴が隠されていたのだ。
「匣」
年老いたコレクターが建てた巨大な書庫。行方不明になった主を探して調査に訪れた市役所職員たちが見たものは。(以下ネタバレあり)解説で大野万紀先生が、ネタ元は水鏡子先生の書庫であると暴露されてます。凄いなあ。石原藤夫先生のところの書庫も相当なものでしたが。
「決定論」
世の中総てにおいて決定論的な思想が支配する社会。それを少なからず疑問に思う主人公は、ある日前頭葉前野に不可思議な器官が存在していることを知るが……。
「罠」
あたりまえの日常を送る主人公は、朝の通勤途上「見えない壁」に行く手を阻まれる。
「罠」は、岡本先生の小説に趣向を変えて何回か出てくる、機械知性←→人間の意志・意識の話です。
「時の養成所」
荒涼とした谷間に、ヒト族のための養成所が設けられている。そこでは専門の指導者たちが時を司る特殊官僚を養成していた。
「死の遊戯」BATシリーズ
失業したプロのゲームアスリートが、謎めいたゲームにリクルートされる。聞いたこともないゲームシステムだった。何重にも重なりあったゲーム世界と現実世界。そこで起こった出来事はいったい……

『千の夢』』岡本俊弥著、Photo by Jakob Owens on Unsplash 2021.2.24、スモール・ベア・プレス、Kindle版、380円
収録作:
「千の夢」
新商品ステラは、共感覚センサーを用い個人の感情の起伏を記録する情報端末だ。『千の夢』の中で一番好きな作品。(以下ネタバレあり)ただ記録するだけでは無く、その記録から肯定的な物語を紡ぎ出し、それを聞かせることによってストレスを軽減し精神の静謐を保つ機能があった。社運を賭けて売り出してみたものの、ステラが巻き起こした驚くべき皮肉な結末とは…… 構成とか展開の仕方によって、どうにでも結末づけられるネタなんですが、あくまで会社と社員にこだわっているところが岡本先生らしい。仕様を変えれば個人用ドラレコみたいな用途にも使えそうだし、悪用すれば洗脳にも使えそうだし。
「呪い」
画期的な発明を産むはずの研究所から提案されるのは、怪しくて使い物にならないか捨てられた特許と同類のものばかり。それがある時期から急に……
「瞳のなか」
会社で重大な決断を迫られる時期、その度にある女性が現われ取引に関する核心を突くアドバイス告げるのだが……
「遷移」
集合論的定義をされた登場人物達が意味するものとは……ストレスに満ちたある職場で、登場人物の周囲の人たちの定義が次々と入れ替わっていく。一番面白かった作品。定義の仕方が一般意味論的というか、ヴァン・ヴォクト的というか。ニューウェーブ的でもあり面白いですね。インタビュー本編でそこらあたりもうかがっています。
「同僚」
地方のインフラを集約した中核市で、一人の男と同僚の女が何気ない会話をする。
「シルクール」
アフリカの聞いたことも無い国の製品が急に目に付くようになる。それは次々と姿を変え、やがて無視することの出来ない潮流となる。
「瞑想」
社内SNSでの誹謗中傷を見つけたあと、主人公は法衣を着たコンサルタントのカウンセリングを受ける。
「抗老夢」
無駄な生を生きる意味があるのか、一人の科学者の提言はさまざまな波紋を広げていく。「見えないファイル」
ジャンク屋で見つけたパソコンから、男が隠したはずの過去が湧き出してくる。
「ファクトリー」
謎のライバル会社の実態を探るため、現地に乗り込んだ主人公は、たらい回しにされたあげく意外な場所にたどり着く。
「侵襲性」
VR式のトレーニングジムに通ううちに、男は仮想コースを走るトレーニングの爽快感に取り憑かれてしまう。
「陰謀論」
主人公は若い女性管理職だったが、部下のうだつの上がらないベテラン社員から予想外の相談を受けることになる。

『豚の絶滅と復活について』『豚の絶滅と復活について』岡本俊弥著、Photo by Tishine Ndiaye on Unsplash
2021.9.18、スモール・ベア・プレス、Kindle版、380円
収録作:

「倫理委員会」
(問題視されぬ前の自主規制)倫理委員会の議事録を書く仕事。そこだけ見れば普通の仕事に思えますが……
「ミシン」
ミシンとは、脳内のネットワーク電位を探るために開発された極細プローブを埋め込む機械です。
「うそつき」
アシスタントというAIパートナーに誰もが頼り切る時代。ユーザーとアシスタントの間に生じた齟齬の原因は…。アシスタントの呼び名の例が「ワトソン」とか「マイクロフト」とは?我々の年代のSFファンなら、まず『月は無慈悲な夜の女王』を思い出して、こいつは有能に違いないと信用しちまうかも(汗;)
「フィラー」
著作物付帯権利保護法。鬼籍に入った俳優をデジタルで甦らすとき、日常動作の不自然さを払拭するために俺たちフィラーが登場する。
「自称作家」
どこにでも居る売れない自称作家が、ある契約をしたとたん信じられないことが起きたのです……
「円環」
一人の男が同居する友人と、知識を持ち生まれ、それを失っていく人生と、知識ゼロで生まれ次第に知識を獲得していく人生について語り合います。
「豚の絶滅と復活について」
牛豚鶏が絶滅して肉食が不可能になった世界。市場に効率よく時間をかけないで肉を提供する手段に隠された秘密とは……
「チャーム」
周囲に影響を及ぼす特殊能力チャームの力をつきつめていくと。
「見知らぬ顔」BATシリーズ
入国拒否されたミャンマー人の弁護士からの依頼。分析した入国管理局のデータには、隠された秘密が……。
「ブリーダー」
アプリ動物を育てる実験に使われているのは機械知性だと思われていたが、実際は…。
「秘密都市」
若い頃雑誌のライターをしていた主人公の元に仕事の依頼が来る。調べていくとロシアが得意とする技術が日本に漏出したようなのだ……。

雀部 陽一郎 の紹介

SF関係では、東野司さん、橋元淳一郎さん、久美沙織さん、平谷美樹さん、石黒達昌さん、上杉那郎さん、伊藤致雄さんのオンライン・ファンクラブ管理人してます。どうぞ、よろしく。また、懐かしいSFについて語ろうというメーリング・リストも主宰してます。昔は良くSFを読んだが、最近はさっぱりという方は、ぜひどうぞ!(笑) http://www.sasabe.com/SF/
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