SF随想録 - Les Pensées de la Science-Fiction -
- タロット - (タロット~魔術~占星術 その2)
おおむらゆう
またもSFというよりもFantasy寄りの話かもしれませんが、最近はタロットのことをテーマにするラノベとかもありますし、 ちょっと触れてみましょうか、ということで。
アニソラでも過去に “Tarot-- Spiritual Journey” というコラムの連載が14号から19号までありましたが、ここでは当時のコラムとは方向性を変えてもっと魔術寄りなアプローチをしましょうか。
魔術とはいっても、いわゆる黄金の夜明け団 Golden Dawn と、 主にアレイスター・クロウリー Aleister Crowley のトートデッキ Thoth Tarot を中心に説明していきます。
言うまでもないですが、私は昔カードのリーディング(タロットで占うことをこう言います)をしてる人とちょろっとだけ交流があったのと、 あとは軽い文献レベルの知識があるだけですので、本当にネタ程度の意味合いで読んでもらえるといいと思います。
ちょっとおさらい。
いきなり暴言ですが、タロットカードはトランプみたいなものです。
まぁ、神秘的な解釈をする人もいますが、歴史的にはどっちも同じものが源流なんじゃないですかね。
タロットにはトランプのジョーカーに相当するメジャーアルカナ Major Arcana が22枚あるのと、 コートカード(トランプの絵札)が3枚じゃなくて4枚ある以外は結構似た構成をしています。
トランプの数札も、タロットのマイナーアルカナ Minor Arcana も4つのスートそれぞれに1から10の数が振られた、合計40枚のカードがあります。
トランプはハート、スペード、ダイヤ、クラブの4つのスートがありますが、それぞれタロットのカップ、ソード、 ペンタクル(もしくはコイン)、ワンドに対応しています。
タロットとトランプの構成の違いのためにカードの総数が違いますが、良く似てますよね。
今でこそタロットというと占いの道具と思われていますが、元々はトランプと同じくゲーム用に用いられていたものみたいです。 中世のフレスコ画にもカードゲームをしているところが描かれているのですが、それがタロットの起源なんじゃないかと思われています。
おそらくは貴族の間で使われたようで、遊ぶ用では無いようですが絵を綺麗にしたヴィスコンティ家のタロットがイ ェール大学図書館やピアモント・モルガン図書館、それにミラノのブレラ美術館などに残されていて、 それが古い形のタロットを伝えてると言われています。 ヴィスコンティ家のタロットはヴィスコンティ・スフォルツァ・タロットとして復刻されて 他のタロットと同様に普通に入手することができますので、興味ある方はどうぞ。 USゲームズが復刻したと書かれているのをみつけましたが、手元にあるのはイタリアの ロ・スカラベオ社 LO SCARABEO の VISCONTI TAROTS でした。
タロットが一般に流布したのは、グリモーという工房が刷った木版調のタロットで、 通称マルセイユタロット Tarot de Marseille と呼ばれています。 タロットカードの代表的な構成はマルセイユのものが基本だと言われています。 マルセイユ版そのものも細かいバリエーションがありますので、見てみるとおもしろいでしょう。 日本でよく知られているのは大元のグリモー GRIMAUD か カモワン Camoin ですかね。
18世紀になってタロットが今まで何の関係もなかったエジプトと関係付けられて、 タロットが古代エジプト起源だという説が出現します。 これを受けてフランスのエッティラ Etteilla が彼の考案したエッティラタロット Le Grand Etteilla とともに、 タロットの占いとしての意味をつけ、占い師としても成功しました。 ちなみに、このエッティラタロットというのは、かなり独創的な物になっていて、 いわゆるタロットとはかなり違う構成となっています。 これも復刻されて売ってると思いますが、手元にあるのはGRIMAUDの版なのでフランスで買ったやつかも。 GRAND ETTEILLA OU TAROTS EGYPTIENS と箱の片面にフランス語で、反対の面には英語で GRAND ETTEILLA EGYPTIAN GYPSIES TAROT と書かれていました。多分 USゲームズか LO SCARABEO で扱ってるんじゃないかと思います。 どこかの書店とかでタロットフェアみたいのをやっていたら覗いてみてください。
エッティラの考えの系譜として、19世紀フランスの魔術師エリファス・レヴィ Eliphas Levi が タロットの象徴には古代の英知が刻まれているのだという説をとなえます。 『高等魔術の教理と祭儀 (教理篇)』と『高等魔術の教理と祭儀 (祭儀篇) 』 “Dogme et rituel de la haute magie” (“Dogma and Ritual of High Magic”) です。 後世のオカルティックなタロットへの考察は大体エリファス・レヴィまで辿れると考えていいのじゃないかな。 ユダヤの思想であるカバラ Kabbalah がここでタロットに結合されたみたいです。 タロットのメジャーアルカナが22枚なのに対してヘブル文字も22文字、 そしてマイナーアルカナの数札1から10の数字はカバラの生命の樹 Tree of Life の10個のセフィロト sephirot (単数セフィラー sephirah)に対応付けられ、 生命の樹のセフィロトを結びつけている22本のパスがまたヘブル文字に対応してるようにメジャーアルカナに対応してるとされます。 さすがにフランス語の原書はつらいでしょうが、英語版の “Dogma and Ritual of High Magic” は アメリカの Amazon.com で 10ドル程度(2018年7月時点)で売っていました。
レヴィの系譜として、パピユ Papus という人が『ボヘミアのタロット』 “Le Tarot des Bohémiens: Le Plus Ancien Livre du Monde” ( “The TAROT of The BOHEMIANS The Most Ancient Book In The World” を発表してから、 タロットの地位が確定したらしいです。 ボヘミアのタロットに挿絵として使われたオズワルト・ウィルト Oswald Wirth のタロットのメジャーアルカナの絵は 一般的に知られているウェイトのタロットと非常に良く似ています。 『ボヘミアのタロット』の英語版はやっぱりアメリカの Amazon.com にありましたが、 元がフランス語だけに翻訳も色々あるみたいです。(多分、先のレヴィの著もいっしょ。) それからオズワルト・ウィルトのタロットも USゲームズから復刻されています。
さて、ここらへんで先の黄金の夜明け団が登場します。 ゴールデンドーンの関係者から有名なライダーデッキ Rider とトートデッキ Thoth が生まれたのでした。 ライダー版のオリジナルは U.S. Games にあったと思いますが、別のところでも出てるかも。 トート版は古くはA.G.Müllerから出ていましたが、今はU.S.gamesだった気がします。
現在流通しているタロットはライダー版をベースにアレンジしたものが多いです。出版社も色々ですね。
ここいらでタロットカードの内容についても触れてみましょう。
とは言っても、実はカードにはいくつかの流れがあってメジャーアルカナの中にも並びが違うものがあったりします。 もっと言ってしまうと、知られている最古のタロットであるヴィスコンティは今とメジャーアルカナに欠損とか今は無いカードがあったりしますし、 そもそもエッティラのデッキに至っては構成があまりにも違いすぎます。
でも、大体の流れはマルセイユ版と同じなので、まずはマルセイユ版をベースにして、そこに補足してみましょう。
タロットのメジャー・アルカナは以下のような構成になっています。
マルセイユ版名称 | ヴィスコンティ* | ライダー版名称 | トート版名称 | 補足 |
---|---|---|---|---|
I. Le Bateleur | Il Bagatto | I. The Magician (魔術師) | I. The Magus | |
II. La Papesse | La Papessa | II. The High Priestess (女教皇) | II. The High Priestess | |
III. L'Imperatrice | L'Imperatrice | III. The Empress (女皇) | III. The Empress | |
IV. L'Empereur | L'Imperatore | IV. The Emperor (皇帝) | IV. The Emperor | |
V. Le Pape | Il Papa | V. The Hierophant (教皇) | V. The Hierophant | |
VI. L'Amoureux | Gli Amanti | VI. The Lovers (恋人たち) | VI. The Lovers | |
VII. Le Chariot | Il Carro | VII. The Chariot(戦車) | VII. The Chariot | |
VIII. La Justice | La Giustizia | XI. Justice(正義) | VIII. Adjustment | ライダーは順番が違っている。トートでは『調整』 |
IX. L'Hermite | Il Tempo | IX. The Hermit(隠者) | IX. The Hermit | イタリア語では『時間』 |
X. La Roue de Fortune | La Ruota della Fortuna | X. Wheel of Fortune(運命の輪) | X. Fortune | トートでは『運命』 |
XI. La Force | La Forza | VIII. Strength(力) | XI. Lust | ライダーは順番が違っている。トートでは『欲望』 |
XII. Le Pendu | L'Appeso | XII. The Hanged Man(吊るされた男) | XII. The Hanged Man | |
XIII. (La Mort) | La Morte | XIII. Death(死) | XIII. Death | マルセイユ版では古来名無しのカードになっている |
XIV. Temperance | Temperanza | XIX. Temperance(節制) | XIV. Art | トートでは『技』 |
XV. Le Diable | Il Diavoro | XV. The Devil(悪魔) | XV. The Devil | |
XVI. La Maison Dieu | La Torre | XVI. The Tower(塔) | XVI. The Tower | マルセイユは『神の家』 |
XVII. L'Etoile | La Stella | XVII. The Star(星) | XVII. The Star | |
XVIII. La Lune | La Luna | XVIII. The Moon(月) | XVIII. The Moon | |
XIX. Le Soleil | Il Sole | XIX. The Sun(太陽) | XIX. The Sun | |
XX. Le Jugement | Il Giudizio | XX. Judgement(審判) | XX. The Aeon | トートでは『永劫』 |
XXI. Le Monde | Il Mondo | XXI. The World(世界) | XXI. The Universe | トートでは『宇宙』 |
Le Mat | Il Matto | The Fool(愚者) | 0. The Fool | 通常は番号無し。 |
ヴィスコンティ版は本来名称がカードに書かれてないのですが、イタリア語での該当するカードの名称を入れています。
それぞれのカードで定冠詞がついてるのとついてないのがあるところで微妙に意味合いが変わってきています。 ある特定の物を表しているときと、その概念一般を指しているかが違うのですね。
愚者のカードですが、エリファス・レヴィは20のあとにこのカードをすべり込ませたのですが、それによって後世かなりの混乱があったみたいです。
通常は先頭か最後に置かれるものですね。
マイナー・アルカナはさっきも書きましたがワンド、カップ、ソード、ペンタクルの4つのスート suit からなっていて、 それぞれ絵札 Court Card と 数札からなります。
スートの名称をとりあえずメジャーアルカナと同じように対比してみましょうか。
マルセイユ版名称 | ヴィスコンティ | ライダー版名称 | トート版名称 | 象徴 |
---|---|---|---|---|
Baton | Bastoni | Wand(棒) | Wand | 火, 直感 |
Coup | Coppe | Cup(杯) | Cup | 水, 感情 |
D'Epee | Spade | Sword(剣) | Sword | 風. 思考 |
Deniers | Denari | Pentacles(ペンタクル) | Disks | 土, 感覚 |
コートカードは伝統的なカードとトートタロットでは呼び方が違います。
伝統的なタロットでは普通はペイジ Page 、ナイト Night 、クイーン Queen 、 キング King もしくはそれに該当する言葉となりますが、 トートでは プリンセス Princess 、プリンス Prince 、クイーン Queen 、ナイト Knight となります。 ペイジとキングが消えてしまっているのですね。
このコートカードそのものも元素に対応するとクロウリーは説いています。 ナイトが火、クイーンが水、プリンスが風、プリンセスが土のようにです。 だから、棒のキングは火の火のような複合した意味を持つことになるとされています。
数札はそれぞれのスートに対して1~10の数が振られたカードからなります。このあたりはトランプと同じですね。
近代タロットの解釈では、タロットと生命の木によるカバラ Qabalah を結びつけようとしています。
図で数が振ってあるのは小径 path と呼ばれるもので、 それぞれの数のところにタロットのメジャーアルカナが対応してると言われていますが、 実はこの対応させ方はいくつかのバリエーションがあって、カードの種類によって対応が違います。 (まぁ、元々関連が無かったものを関連させたので矛盾が生じるのはしょうもないとして。。)
クロウリーの著書に 『777 の書』 “Liber 777” というのがあります。(国書刊行会から何度も装丁を変えて刊行されています。) この777の書のメインとなる内容に万物対応表というのがあるのですが、 その中で22個の小径と10個のセフィロトに対して色々なことを対応させています。 この対応の中の象徴とタロットのメジャー・アルカナの図象の間に矛盾があったりしたときに順番を入れ換えたりしたわけですね。
念のため生命の木のセフィロトと数札の数を対応させると、 ケテル Kether → 1、コクマー Chokmah → 2、ビナー Binah → 3、ケセド Chesed → 4、ゲブラー Geburah → 5、 ティファレト Tiphereth → 6、ネツァク Netzach → 7、ホド Hod → 8、イェソド Yesod → 9、マルクート Malkuth → 10 となっています。
興味のある方は777の書にあたってみるのもおもしろいかもしれません。 まず間違いなく迷宮に迷いこむことでしょう。 そもそも、万物の対応表のはずなのに、この表に記載されていない物事は五万とあります。 結局はその要素の組み合わせや、要素それぞれに関連付けられた意味から連想されるもので補完しないといけないものなのですね。
さて、かなり乱暴で雑な説明になってしまいましたが、参考書を元に色々と調べてみるのもいいかと思います。
キーワードを元に資料を当たるのもいいでしょう。
くれぐれもここを出典にしたりしないように気をつけましょう。
そもそもタロットに触れていたのは20年近く前のことですし、今の流行や研究の結果とはかなり違ってるんじゃないかと思います。
- 『トートの書』フランシス・キング監修、榊原宗秀約 (国書刊行会)
- 『タロット大全』伊泉龍一著 (紀伊国屋書店)
- 『ヴィスコンティ家のタロット』香月ひかる著 (幻冬舎)
- 『マルセイユ版タロットのABC』Colette Silverstre - Haberle著 星みわーる訳 幸月シモン監修 (郁朋社)
- 『Tarot タロット 未来を告げる聖なるカード』 A.T.マン著、矢羽野薫訳 (河出書房新社)
- “The Book Of Tarot”, The Master Therion (Aleister Crowley), Samuel Wiser.inc.
- “777 And Other Qabalitic Writings Of Aleister Crowley”, Aleister Crowley, Samuel Wiser.inc.