Book Review
レビュアー:[雀部]&[岡本]
『眉村卓の異世界物語 トリビュート作品集』
  • 「眉村卓の異世界物語」刊行委員会
  • 岡本俊弥編集、村上知子協力
  • オンデマンド版1320円
  • 2022.10.20発行
【収録作】「じきに、こけるよ」眉村卓
「語られずじまいの物語」芦辺拓(1958年生、幻想文学新人賞佳作を始め、ミステリ関係の受賞多数)
「奇妙な妻と娘の断片」北野勇作(1962年生、ファンタジーノベル大賞、日本SF大賞受賞。著者インタビューあり)
「時の養成所【完全版】」岡本俊弥(下にレビュアー紹介あり)
「あの頃、私は週に一本の作品を書くのも大変だったのに、眉村先生は一日一話を書いていて、本当にすごいと思った」藤野恵美(1978年生、福島正実SF童話賞佳作、ジュニア冒険小説大賞受賞)
「残り火は消えず」雫石鉄也(1948年生(?)BNSFファン。「バー海神」シリーズが有名。閉鎖されましたがブログ有り)
「ファン二態」高井信(1957年生、小説家・SF作家。著者インタビューあり)
「夜陰譚」菅浩江(1963年生、「ベストSF2000」国内篇第1位、星雲賞、日本推理作家協会賞等々受賞、著者インタビューあり)
「SF作家パーティ殺人事件」竹本健治原作・ネーム、河内実加作画(1963年生。マンガ家。ブログ有り)
「眉村さんへ」竹本健治(1954年生。推理作家・SF作家。本格ミステリー大賞受賞)
「ねらわれた学園 後日譚」椎原悠介(メルヘン大賞優秀賞。「星群」編集長)
「雪の降る夜のお客さま」深田亨(ブログ有り。星新一ショートショートコンテスト」優秀賞)
「新・夢まかせ」大熊宏俊(1955年生。「チャチャヤング・ショートショートの会」創設時からのメンバーで編集担当。下にレビュアー紹介あり。
「幻影の手品師」石坪光司(「星群の会」創設時からの同人。)
「丸池の畔で」村上知子(1963年生。作家・歌人。眉村先生の娘さん。)
「インサイダーSFはいかに生まれたか」堀晃(1944年生。SF作家、日本SF大賞受賞。「堀晃のSFHomePage」)
 (詳しくは『眉村卓の異世界物語』関連本にて)

スマホ等で書影・粗筋が表示されない方は、こちらを見て下さい。

雀部 >

省略した前半はこちら

『眉村卓の異世界物語』の各短編の並べ方については、岡本さんに本編で解説して頂いているとおりなのですが、こちらでは短編毎に合いの手を入れてみました。普通に読みやすいのは流れを重視した本編のほうだと思います。とお舞うのですが、もったいないので、以下編集して再録してみました(汗;)。

雀部 >

その印象が高まる並び方にされたご苦心をうかがってみたいので、よろしくお願いします。

編者の岡本さんの編集後記によると、冒頭の眉村先生作の「じきにこけるよ」が異世界への入り口で、掉尾の村上知子さん作の「丸池の畔で」が異世界から現実への出口になっているとのこと。 なお、“私ファンタジー”とは、「私小説」のファンタジー版ともいうべき言葉で、眉村先生の諸作を表する際によく使われているようです。

岡本 >
冒頭に眉村さんのこの作品を置いたのには、いくつかの理由があります。
 まず、「異世界の入口」というのはあとがきに書いたとおりですが、眉村さんの作品は、電子版のない近作がなかなか入手できないという事情があります。日下三蔵編コレクションでレアな初期作が読める反面、(ピンポイントで古書を探せばありますが)ちょうど良い時期の作品がない。読めばお分かりのように、これも初期作より洗練されていますので、忘れられるのはもったいないですよね。 
雀部 >
『沈みゆく人』所載の"私ファンタジー"。眉村先生、75,6歳ころの作品。自分もその歳に近づいてきているので、気持ちが良くわかるところも多々ある。年齢を経て極みにまで辿り着いた人にしか出せない味と言うべきか。アマゾンで見たら、『新・異世界分岐点』(2006)のほうが、『異世界分岐点』(1989)より入手が難しそう(値段が高い)ですね。私が買ったのはアマゾンの記録によると2010年。この頃は在庫があったみたい。
岡本 >

次の芦辺さんの作品は過去に戻って70年代の記憶、北野さんや私の作品(ちなみに「養成所教官」は「二〇〇一年宇宙の旅」初公開時を記念した、SFマガジン宇宙SF特集号に載ったものです)はその前後の時代がベースです。

雀部 >

芦辺さんの短編は、中1の少年が「チャチャヤング」を聴きたくてたまらず寝床にラジオを持ち込んだものの寝落ちしてしまったことに端を発する"私ファンタジー"。こういうのを読むと当時の記憶が甦ってきます。

北野さんの身近な人間とかこの世界そのものが少し変(偽物)でも、普通に日常生活を営めるという不思議な感覚は眉村先生由来だったと初めて知った(汗;)

「養成所教官」(1968)は、後書きを読むと“お通夜の父親の遺体を前にして書き上げた。その気分がただよっている。”とあり、もの凄く納得。

岡本 >
藤野さんの時代はずっと後ですが、これはショートショートなので長めの作品の間に挟んでいます。雫石さんは個人のナマの体験と《司政官》をソフトに結んだものですね。高井さんは70年代の原体験がベースとなるショートショートで、これも読む順番を考えて配置しています。
雀部 >

藤野さんは、眉村門下生から最初にプロ作家になられた方で、たぶん眉村先生の講座の雰囲気が出ているのかなと思いながら読みました。

雫石さんのは、ご自身の《バー海神》シリーズともコラボされてる感じで、インサイダー・ファンタジーなのかもしれませんね。

高井さんの二作品は、高井さんらしいハチャハチャもの。駄洒落で締めるところなども(笑)

岡本 >
管さんの作品は短編集の表題作にもなった重量級の作品ですが、眉村作品との結びつきは今回初めて明らかになりました。重い作品の後は、竹本健治さん河内実加さんの作品で気分を変えていただいて、次の朗読再生で一挙に過去へと戻っていただくという趣向です。
雀部 >

私も菅さんの「夜陰譚」が眉村先生の影響のもとにあったとは、全く気が付きませんでした。ブックレビューもしたのになあ(汗;)

竹本さんの投稿作品(眉村先生の朗読の音源。投稿当時17歳)。すごく考えられた構成で、感心しました。その後推理作家になられたとのことで、これまた納得。

岡本 >
椎原さんの後日譚は正統派のトリビュート、深田さんはちょっと捻った作品でモデルとなった作品はないと思います。
雀部 >
「ねらわれた学園 後日譚」は、題名からしてトリビュートで、良く練られた作品の印象があります。雰囲気も良く出ているし。
深田さんのは、大阪ぽい雰囲気(岡山県人から見て)が良く出たお話し。個人的には、眉村先生に堀晃先生・かんべむさし先生の成分が若干入ってるようにも思いました。新作落語に出来そう。
岡本 >
大熊さんは晩年の作品のパロディ、石坪さんは今風の中高年リストラをインサイダーSF風に描くと「宇宙の熱死」になったという不思議な作品です。これら4作品は読みやすい配置にしています。
雀部 >
大熊さんのは、『その果てを知らず』はわかったのですが、このレビューでご本人からうかがうまで「時のオデュセウス」オチには気がつかなかったという(汗;)
石坪さんのは、確かに「宇宙の熱死」だなあ。熟年ハードSFファン御用達の、ニューウェーブSFとも思えます。
岡本 >
村上知子さんの作品は、眉村さんと知子さんがロンドンを旅した際の雰囲気を反映した作品です。SFではないのですが、あり得たかも知れない対話に父娘の関係が浮かび上がります。つまり、現実への出口というわけです。
 順番に読んでいった際に、テーマや長さなど、強弱、軽重がお互いの作品同士で干渉し合わないように並べたものですね。
雀部 >
詳しくありがとうございました。年代順とか明暗とかの単純な並べ方ではなかったのですね。うかがえて良かったです。
村上知子さんの作品は、じーんとくるものがありました。こうして作品の中で新たな思い出を構築し、読者はそれを読んでまた故人を思い出すよすがとなるので……
[岡本俊弥]
SF宝石、SFアドベンチャーで創刊から終刊まで続いた「SFチェックリスト」欄や、週刊読書人で書評欄を担当。『最新版SFガイドマップ』の監訳、サンリオSF文庫、創元推理文庫、ハヤカワ文庫の解説や、最近でもSFマガジンや、オンライン読書サイトのシミルボンで記事を執筆。『海外SFハンドブック』『ハヤカワ文庫SF総解説2000』、星雲賞受賞の『サンリオSF文庫総解説』に寄稿している。
2015年以降THATTA ONLINE、チャチャヤング・ショートショート・マガジンなどの媒体に小説を執筆。短編集『機械の精神分析医』を2019年に、『二〇三八年から来た兵士』『猫の王』を2020年に、『千の夢』を2021年にそれぞれアマゾンPOD、キンドルで出版。また、海外オンラインのFudoki Magazine、Lockdown Sci-Fiなどでも英語翻訳版の紹介がある。
[大熊宏俊]
1955年生。大阪府出身。中学生のとき深夜放送MBSチャチャヤングを聴き、その後の人生が決定する。大学入学と同時に入会したSF研究会で(のちの)西秋生と出会い、チャチャヤング・ショートショートコーナーの後継創作誌「創作研究会」に誘われ入会。創作研究会分裂に際しては西秋生・宇井亜綺夫(中相作)の「風の翼」に所属するも、「創作研究会」にも寄稿するというヌエ的行動をとっていた。
2003年より「眉村卓さんを囲む会」主催。2013年、眉村卓さんデビュー50周年を期してチャチャヤング・ショートショートの会を発足し「チャチャヤング・ショートショート・マガジン」創刊、編集担当となり現在にいたる。
 眉村卓さん応援サイト「チャチャヤン気分」https://blog.goo.ne.jp/kumagoro0529
[雀部]
 1951年生。大学生の時にSF研に入れなかった落ちこぼれ(汗;)
 大熊さんに誘っていただき、故眉村先生にインタビューさせて頂く機会(たぶん定例の懇親会)があったのですが、どうしても都合が付かず断念したのは痛恨の極みでした。