歯並びの進化/ゲノムエンジニアリング/「スケール問題」の問題/SFにおける「ウソ」/進化のキャパシティ/進化の方向性と限界から見た怪獣のサイズ
【第四章 進化形態学的怪獣論 ―不定形モンスターの生物学的考察―】
マタンゴ化の進化生物学的意義/マタンゴ人間の行動学/マタンゴにおける霊魂の在処/寄生獣世界/パラサイトの個体性と生物学/寄生獣の個体性と生物学/ドゴラのデザインの起原/ドゴラの生物学
【第五章 ウルトラ怪獣形態学 ―比較形態学と進化的考察―】
エリマキ怪獣の系譜/ケンタウルス型怪獣の系譜/セミ人間/1/8計画
「はじめに」に以下のように記されています。
“本書は、日本の怪獣映画を中心にしたSF諸作品に観るモンスターをできる限り科学的に捉え、考察してみようというものである。形態的、視覚的な不可解さや不思議さがそもそもモンスターの本質であり、強さや格好良さは二次的なものでしかないと私は考えている。”
“怪獣はすでに我々の頭の中にある一種の「限界」のうちにデザインされる。よって怪獣は 、我々の知る生物科学の基礎の上に立った動物のヴァリエーション、ありえたかもしれない架空の「新種」なのだ。
ならば、それは想像の上で解剖することもできようし、その怪獣が進化してきた道筋を考えることもできようし、それを通じてゴジラのような動物がなぜ現実には存在しないのか、できないのかをも理解できるであろう。こういったことは科学的にちゃんとした思考実験なのである。
むろん、「こんなのあり得ない」といった事柄に出くわすことは多い。生物学的変容や進化的多様性にはさまざまな限界が付きまとうが、人間の想像力はそこからある程度は逸脱することもできるのだ。だからこそ、怪獣と呼ばれる異形の生物を夢想できるのである。”
全く同感というか、「怪獣は我々の頭の「限界」のうちにデザインされている」というところは、形態進化生物学者の倉谷先生ならではの鋭い指摘ではないでしょうか。
全項目について詳しく感想を述べたいところではありますが、誰も読まないだろうということで、特に突っ込みというか補足を入れたい箇所だけに言及します(汗;)
「第三章」に【ゴジラの歯についての考察】という項目があります。映画のシーンで「シン・ゴジラ」の“乱杭歯は(核エネルギーを利用して生きているので)何も食べないから歯並びが悪くなったことが原因”ではないかと語られていることが問題視されてます。進化は一朝一夕に起こるものではないので、もしそういう進化が起こるとすれば、その背後には何千何万世代ものシン・ゴジラの祖先がいるはずで、巨災対は真っ先にそれを心配しなくてはならない(笑)
それと、ゴジラが獲物を獲りそれを咀嚼する必要がなくなったとしたら、「歯並びの良い歯」と「乱杭歯」の間には優劣がなくなるので、そこには「並びの良い歯」から「乱杭歯」へと向かう積極的な進化(生き残るために有利な)の要因が無いと。確かに!
「進化と歯」というところに注目すると、かつてSFマガジンで連載された石原藤夫博士の論文の中で、現代人の知歯の欠損について取り上げられてました。“わずか数世代のうちに智歯の生えない(レントゲン撮影しても顎骨に智歯が存在しない)人が増えている”、これは普通の進化過程では語れないと。これは智歯の元となる歯胚発生の誘導が、顎の大きさ(智歯の生えるスペース)とリンクしているような気もしますがどうなのでしょう。日本の今の子どもたちは、昔ほど固い食品を食べる機会が少ないので顎骨が発達せず、全体として小顔(美男・美女の要件の一つ)です。その結果、歯の生えるスペースが足りず八重歯(乱杭歯)がの子どもが多くなってきています。←ゴジラには関係ありませんが(汗;)
リンネの系統分類で脊椎動物の分類では歯が重要な意味を持っていて、「霊長類の定義は32本の歯」となっていたと思うから霊長類ではなくなってきているのかも(笑)←文献あたってないので記憶違いかも(汗;)
――ここからゴジラの歯並びについての私の考察――
1,核エネルギーを利用する個体が生き残るには、それなりの過程を踏まなくてはならないはず。
2,何万世代か前のゴジラの祖先の時代には、原子力発電等に使われる濃縮されたウランはなかった。
3,ウラン鉱石をかみ砕く丈夫な歯と、ウラン鉱石を溶かして濃縮する消化器官を持つ個体が生まれたはず。
4,歯並びの良い歯列より尖った乱杭歯のほうが、ウラン鉱石を噛み砕く効率が高い←検証してません(汗;)
5,かくして乱杭歯のシン・ゴジラの系列が現在まで生き残った。
おっと、これではよく噛んで食べていたので乱杭歯になったことになってしまう。どうしましょう、巨災対の間邦夫(生物圏科学研究科)准教授!(笑)
[倉谷滋]
1958年、大阪府生まれ。形態進化生物学者。理化学研究所 生命機能科学研究センター 形態進化研究チーム・チームリーダー。
京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科修了、理学博士。琉球大学医学部助手、ジョージア医科大学・ベイラー医科大学への留学の後、熊本大学医学部助教授などを経て、2002年、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターのチームリーダー、同グループディレクターなどを歴任。
[雀部]
高校生の時、「ウルトラQ」「ウルトラマン」等の怪獣を見て育った世代。当時は、あまり深く考えることはなかった(汗;)