『あおとりどり』ブックレビュー
インタビュアー:[雀部]
あおとりどり
『あおとりどり』
  • 蒼桐大紀著
  • 祀色工房
  • 1650円(税込)
  • 2025.5.11発行
【収録作】
「春の風とはじまりの音 」「カンナ~いつか君と奏でた唄~ 」「うたかたの色は 」
「面影は消えない 」「二人の落選展 」「ほのかな灯りが兆す夜 」「ラブレターの裏側に」
雀部 >

今月のブックレビューは、蒼桐大紀先生の『あおとりどり』です。
 蒼桐先生、前号では 『東京銀経社アンソロジー いつかあの空を越えて』の著者インタビューとブックレビューでご協力ありがとうございました。
 今回はご自身の著作 『あおとりどり』について少しだけうかがわせて下さい。

蒼桐 >

蒼桐大紀です。銀経社アンソロに引き続き、『あおとりどり』を取り上げていただき、ありがとうございます。
 アンソロジーならまだしも『あおとりどり』は、個人で作った同人誌なので場違いなのでは……とバックナンバーを参照して先例を探してしまいました(ありました)。

雀部 >

以前に九頭見(小林)さんにもお願いしてます(笑)→「小林ひろき自作を語る」 
読ませて頂いて、『あおとりどり』の「あお」は、青春の「あお」とともに蒼桐先生の「あお」でもあるように感じました。

蒼桐 >
はい。それは狙い通りなので、そう感じていただけると嬉しいです。複数の作品からなる作品集の場合、代表作をひとつ選んで作品集のタイトルとするか、その作品集のためのタイトルを付けるかのどちらかになり、後者にすることは早期に決まったのですが、そこからが難しかったです。
 いくつか候補を出してそれが出尽くした頃、「ひと目で自分(蒼桐)の作品集だとわかるようなタイトルにすればいいんだ」とひらめいて、『あおとりどり』に決まりました。
 収録作品で描いている「青春」あるいは「青さ」と「蒼桐大紀」から「あお」を、それと「色とりどり」を掛け合わせました。本を手に取ってくれた人の中には、この意図にすぐ気づいてくれた人もいたので、ひそかに悦に入っています(笑)
雀部 >
初見で気づきました(笑)
 収録作の中で一番長い「うたかたの色は」を読んでおもったのですが、これは私の大好きな「空をつなぐ軌跡」と対をなす作品でもあるように感じました。
蒼桐 >
それはまったく考えていませんでした。
 ただ、創作に対する向き合い方が真逆という意味では、対になっている部分はあると思います。
 『うたかたの色は』の主人公・千景は、絵を描くことがとにかく好きなのですが、絵を描く自分について相対化ができておらず、物語を通して自分の絵(作品)と絵を描く自分(作家としての自分)の姿を発見します。
 対して、『空をつなぐ軌跡』の主人公・リエラは、想画選手の道に挫折し「たまたま向いていたから」空画(絵)を描き始めたので、絵を描く自分に自覚的ですが好き嫌いの感情が薄く、絵を描くことに対してあまり執着がありません。
 共通するのは、心惹かれた相手を通して、自分と創作(絵)への向き合い方を見出すところだと思います。
雀部 >
おお、そうだったのですね。描く対象が空中にあるというところが似ていたので、それのSFと一般小説かと思っていました(汗;)
それでですね、蒼桐先生はSFもお好きであるということなので、各収録作をSF的設定に落とし込むとどうなるのか、色々考えてみたのですが……
 一例として、「男性中心の政治運営では世界平和は望めないということで、女性のみにになった人類。かつて存在した男性は、精子のみが保存されている。女性は選別された精子(X染色体)による人工授精でのみ受胎し、出産する。」世界。
 そういう世界で、登場人物達がどう行動するか、自分なりにシミュレーションしてみると、勿論変わる部分はあるのですが、大元は変えなくても成立するような気がしました。
 各短編の主人公たちの生きざまは、良く練られているなあと感じました。
蒼桐 >
ありがとうございます。
 『あおとりどり』収録作品では、『カンナ~いつか君と奏でた唄~』を除いてそれぞれにキャラクター設計が存在し、これを基底にして物語を作るアプローチを取っています。このやり方が自分と合っていて、作品を重ねるにつれて定着したのだと思います。
 小説の書き方についてはまだ模索中なのですが、「キャラクターがまずあってそこから物語を構築する」という根本部分は変わらないでしょう。
 今回は「自分の名刺になるような本を作る」というコンセプトでしたので、商売っ気のない本になりましたが、次にこの規模で本を作ることがあればもう少し色気を出したいな、と思っています。
雀部 >
キャラあっての物語なのですね。
 インタビューをお受けいただきありがとうございました。
新作、お待ちしています。個人的には、特にSFを(汗;)
[蒼桐大紀]
「あおぎりたいき」。1980年生まれ。エンタメ寄り作家。
2003年頃から執筆活動を開始し、小説、詩、歌詞(作詞)などを発表していたが、病気により休筆。2020年から執筆活動を再開し、SF、青春、百合、ファンタジーといったジャンルの作品を書くようになる。2024年『カンナ~いつか君と奏でた唄』でノベルアップ+年の差恋愛短編小説コンテスト佳作入選。このほか『東京銀経社アンソロジーいつかあの空を越えて』『SFG 2023 Vol.06』などSFのジャンルから進出中。
[雀部]
1951年生、歯科医、SF者、ハードSF研所員、コマケン所員、元ソリトン同人
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