今は本屋と言えば、インターネットから欲しい本だけ選んで買えるアマゾンとかチェーン店化されているTUTAYAなどが幅をきかせているけど、うん十年もの昔は町の小さな同じような店舗の本屋さんが何軒もあった。
そこで参考書を買うついでにまんがの本を買い、何か面白い本はないかと店内を用もなくぐるぐるまわったりしていた。そんなとき、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの幻獣辞典に出会った。平積みされていたわけではなく、海外のハードカバーの中に1冊だけ置かれていた。ただ目につくものといえ幻獣辞典という名前だけ。その名前の響きに興味を持ち、一度さらさらと読んで、当時少女だった私は、たった2200円という価格でさえ大金だったので欲しいと思いつつ、その本を元の棚に返した。3日後、売れているか気になって、本屋に行くとまだあった。その3日後、3度目の出会いで、こずかいで薄い桜色のブラウスを買うのを諦め、棚にあった幻獣辞典をレジに持っていった。
名前だけで本に一目ぼれすることってあるのですね。もし幻獣辞典が先に誰かの手に入っていたなら諦めていたし、誰にも買われなかったからその本は私のお気に入りの1冊になれたのですね。今でも幻獣辞典をときどき読んで大事にしています。