沖縄本島沖CR田での戦いから約一年後、停職処分で那覇にいた宗像逍は、南極海での極秘訓練に呼びだされた。
訓練の合間に、宗像は亡友・磯良幸彦のアバターをまとって「偽海」(ネット上の海洋世界)に潜っていた。磯良の足跡をたどる宗像は、シギラという「人権擁護団体」の調査員と知り合う。彼がもたらしたのは「北極海を幽霊潜水艦が漂っている」というゴシップ的な情報に過ぎなかったが、ほどなく現実の脅威となって宗像の前に現れる。
アメリカの戦略ミサイル原子力潜水艦が、何者かに乗っ取られたのだ! 大事件を奇貨として動き出す各勢力……。地球規模の謀略ゲームが始まった。中・高緯度諸国と低緯度諸国、陸の民と海の民、そしてシー・ノマッド(海洋漂泊民)二大勢力の衝突。やがて「偽海」にも異変が……。世界は、深い海の底から変貌し始める!!
幽霊潜水艦を巡る攻防の後、独立に揺れる沖縄州で、宗像逍は亡友・磯良幸彦と縁のある人権擁護団体「シギラ」メンバーの風子を訪ねる。しかし前園隆司と名乗る男が率いる謎の武装集団に、彼女はさらわれてしまった。前園は、宗像が属するシー・ノマッド(海洋漂泊民)集団「オボツカグラ」上層部のブレーン的存在であった。
本当に前園は味方なのか? 疑心を抱きつつも、那覇で敵対するシー・ノマッド集団「ティアマット」の刺客に襲われた宗像は、前園を頼りグアムへ脱出する。そこでも執拗に命を狙われるが、安曇レイラの助力も得て危機を逃れた宗像は、“タンガロア”が造られた真の目的を前園から聞かされる。それは、アレソップの向こう側=カチャウ・ペイディの真実だけでなく、宗像がこの世に生まれた意義をも問うものだった。
世界最深部に潜り、この宇宙の境界をも越えようとする宗像……その行動を阻止すべく、ティアマットがハワイ島沖に立ちふさがる。そして宗像を支えるオボツカグラは、宿敵との決戦に挑む。二つの世界が迎えるのは支配か、融合か。人類は、深い海の底で未来に直面する!!
海にも山にも近く自然に恵まれた風待町。この町の小学五年生・久延丕彦は、たいてい一人で遊んでいた。左足が不自由なため、少し臆してしまうのだ。ある日、砂浜の漂着物から宝物を探していた丕彦は、水平線の向こうに太陽の雫が落ちていくのを目撃する。誰にも言えない、異星人との交流は、その日から始まった――。
小さな港町にある病院を訪れる異星からの旅人との顛末を、少年の視線で色彩豊かに描いたノスタルジックSF。
勉強にも部活にも身が入らないまま、中学3年生になった春——。仁科遥馬は受験を意識し始めた同級生たちを横目に、ぼんやりと過ごしていた。ある日、理科の授業中に顕微鏡サイズの地球外知的生命体(ET)と出会う。「クマッシー」と名付けたそのETは、クマムシを馬のように操り、生物の遺伝情報や脳の活動を「音」として「聞く」ことができた。1500年前、宇宙船の操作ミスで地球に落下したのだが、太陽風のような宇宙の「風」に吹かれて漂う船のため、自力で地球から脱出できないのだという。「トランペットをうまく吹けるようにしてもらう」ことを条件に、遥馬はクマッシーが宇宙へ還るのを手助けすることになった。タンポポの綿毛みたいな宇宙船を、どうやって成層圏より高く飛ばせばいいのか? 科学部の副部長、河合琉奈の協力を得ながら、ヤル気のない遥馬の挑戦が始まった。
顎に大きなイボのある醜い男が、黒光りする犬を連れて、稲生瑛子の家にやってきた。遺伝子のアップデートを受けられない〈ジャンクバージョン〉にちがいない。しかし男は警察の関係者で、行方不明になった一人の企業経営者を探しているのだという。それは瑛子の元不倫相手であり現在の恋人だった。警備システムの異常で家の中に閉じこめられていた瑛子は、男から不気味な話を聞かされる。どうやら彼女の家は、違法な身体改造をした外法者(げほうしゃ)の一人に取り憑かれているらしいのだ……。
遠い未来の七夕伝説——海洋惑星ネオマルスでは、女(フェム)と男(メルー)が、交わっても子供をつくれない「別種」となっていた。わずかな陸地である島々はフェムが支配し、メルーは船で貧しい漂泊生活をおくっている。それぞれに独自の世界を築き、生命工学に助けられて世代をつないでいた。両種族が顔を合わせるのは、1年に1度の3日間だけ——その間、メルーはフェムの家々を巡って「霊鎮め」の儀式を行い、港で市(フェア)を開く。年若いフェムのオリイは、毎年、霊鎮めやフェアを心待ちにしていた。なぜなら、やってくるメルーたちの中に、どうにも気になって仕方のない若者がいたからだ。やがて彼女は同じフェムである恋人の制止も振り切って、野蛮な種族とされるメルーの世界へ踏みこんでいく……。
砂漠、海洋、北極、南極、そして宇宙。「科学界のインディ・ジョーンズ」と呼ばれる著者にとって、世界の果ては夢の地だ。――砂漠に架かる“月の虹”。美しい色の細胞を持つ微生物。世界最北にある24度の“冷たい温泉”。辺境は、未知なるもので溢れている。思考の翼を広げてくれる、地球の神秘の数々。研究旅行での出来事や思索を綴ったエッセイ。
よろしくお願いします。思いだしていただき感謝します。
同じ三部作なので、短かったと言っていただけないでしょうか(笑)。
《ストーンエイジ》三部作の時は最初の設定が大雑把すぎて、長引いてしまった面があったかと思います。その反省に立って《深海大戦》では事前に、かなり綿密な世界観の構築とキャラクターの設定などを行いました。いわゆるアウトラインプロセッサというソフトを駆使しています。結果的にそれがよかったのかどうかわかりませんが、まあ少なくとも《ストーンエイジ》よりは早く書き上げられたというわけです。
あまり作家さんとおつき合いがないので、よくわかりません(笑)。何かの記事で見かけたところによれば、増えているみたいです。
そこまで読みこんでいただき、ありがとうございます。要するに逍をボケ役、レイラをツッコミ役としたわけですが、いいコンビになってましたか?
あのシリーズでは、かなりポンペイ語を駆使しています。つまりミクロネシアのポンペイ島だけで話されている言葉ですね。とくに神話に関係する言葉は、現地へ行って人にも聞いたし、ずいぶん資料を集めました。それからインターネットのおかげで「ポンペイ語←→英語」の検索もできたんです。非常に助かりましたが、それにしても「ポンペイ語英語辞典」をつくっている人がいるということに驚かされます。もっとも『ハイドゥナン』でお世話になった「与那国語辞典」も、かなりレアと言えばレアですが。
「カチャウ・ペイディ」は小説の中でも書いた通り、ポンペイ島の言葉で「西にある、よその土地」を意味すると同時に、ナン・マドールを建設したオリシーパとオロソーパの故郷を意味します。「アビッサス」は英語の「abyss(深海)」からつくった造語です。どちらも同じ場所を指していますが、コズモとの会話など神話が重視される文脈では前者のポンペイ語を、科学者が登場するような場面では後者の造語を使うようにしていました。
イクチオイドの名前は、原則として世界各地の創造神や海洋神からとりました。「タンガロア」は主にポリネシアの神話に出てくる神で、タヒチでは「タナロア」、ハワイでは「カナロア」と呼ばれています。レイラの「セドナ」はイヌイットの神話に出てくる海の女神、磯良の「エーギル」は北欧の海洋神……といった具合です。
「テチス」「ネレウス」「オケアニデス」「ネレイデス」あたりは全部、ギリシア神話からとりました。「アンフィトリテ」は海洋神ポセイドンの妻です。
私の知る限りでは、そういう研究はされていません。こっそり、やっているかもしれませんけどね。つい最近、会ったときは、ガラパゴスから帰ったばかりだと言っていました。もしかしたら何か進化に関わる、やばい実験などをされているかもしれません。ちょっと期待(笑)。
いや、もともと長沼先生は宇宙へ行きたかったんですよ。野口聡一さんと宇宙飛行士の試験を受けて落ちてしまった話は、よく聞かされます。一方で海は、それほど好きじゃないみたいです。泳ぐのも得意ではないとか――。お父さんは船乗りだったそうなんですけどね。人の運命って、よくわかりません。
一方の私は生まれ変わったらクジラになりたいくらい海は好きですが、その海が奥底では宇宙につながっているとも感じていて、ある意味『深海大戦』ではそれをストレートに表現したわけです。
まさにそのBrine Poolです。日本では、まだあまり知られていません。近くにないせいでしょうか。
要は冷水湧出域の一種だと思いますが、非常に塩分濃度が高くてメタンなども湧きだしており、熱水噴出域と似たような生物が、はびこっているようです。河口域などでは重たい海水の上に淡水が乗って、層をなしている場合があります。同じように海水よりさらに塩辛い水が、海水と混じることなく窪みなどに溜まっているわけです。その境目(密度界面)が、まるで陸上の湖面のように見える映像と出会って、私はすっかり魅了されました。実のところ『深海大戦』の構想の半分以上は、ブライン・プールの幻想的な風景から生まれたと言って過言ではありません。
確かに『深海大戦』は『ハイドゥナン』の変奏曲という面もあるかと思います。ポンペイ島も沖縄っぽいと言えば、沖縄っぽいですし――どちらにも壮大な「島宇宙」と奥深い伝承があって、結局、私はその一部を語り直しただけなのかもしれません。
そこは少し意識していたかもしれません。「圏間基層情報雲(ISEIC)」にも一応、科学的な根拠はあるのですが、どうも一部の(さほど科学を知らない)方々にトンデモと思われたらしいので、今回はそういう勘違いをされないようにしたつもりです。
僕も詳しいことは忘れてしまいました(笑)。物語中に書いてあるはずです。伝わらなかったかもしれませんが……。ネタ本の一つをご紹介しておくと、傳田光洋さんの『第三の脳』あたりがおすすめですかね。皮膚は自他を分ける境界というより、世界とのインタフェースなんだという捉え方は、とても参考になりました。そもそも我々は量子レベルで見れば、もやっとした雲のようなもので、確固とした境界はないんですよね。境界がないということは、全てがつながっているということになるわけです。それがISEIC理論のベースにあります。あとは物語から汲み取っていただければ――。
小谷真理さんも日経の書評で「驚愕の展開」とおっしゃってましたが、私はそこまでとは思っていませんでした(笑)。むしろ宗像とレイラ、そしてクトゥルフとの関係にどう決着をつけるかで、ずいぶん悩んだ気がします。
いや、まさに藤崎版『中継ステーション』のつもりでした。さすが、見抜かれましたね。実は電子書店「honto」の「ブックキュレーター」でも、しれっと自分の本と一緒に紹介しています。
僕もシマックは大好きです。そのうち藤崎版『都市』も書きたいなと思っているくらいです。誰も出版してくれないような気はするけど(笑)。
ごめんなさい、ロバート・F・ヤングは読んでいません。
ギターを鳴らすのは好きです。弾いていると言えるレベルではありませんが(笑)。
そうですね。テスト的な自主出版だったので、なるべく毛色のちがう作品を選んでみました。結局、いちばん人気があるのは「タンポポの宇宙船」のようです。
正式には四川省成都の「中国国際SF大会」に招待されました。中国国内からはもちろん、米欧や韓国などからも多くの作家や出版関係者が参加していました。
そうですね。大会中に「科幻世界」の姚海軍編集長と『螢女』について対談する企画があったのですが、その時に中国ではまだ「伝奇SF」がほとんど書かれていないらしいとわかりました。それは、もったいないですねえと申し上げておきました。何しろ中国は「伝奇小説」の本場ですからね。SFに絡められるネタは、いくらでもあるわけです。僕もまだ小説を書き続けることが許されるようなら、いずれ中国の伝承や伝説をもとにした物語を書いてみたいなとは思っています。
中国のイラストも、意外性があって僕は好きです。ただ、もともとのイメージとしては、やっぱり米田さんのイラストですよね。もう僕の頭の中そのままの風景といって、いいくらいです。『風待町』の時も、そうでしたけど――。
はい、講談社ブルーバックスのウェブサイトに「生命1.0への道」というタイトルで掲載していきます。もちろん無料で読めます。小説ではなく、私としては久しぶりのサイエンス・ノンフィクションです。せっかくのウェブ媒体なので、読者の方々とも少しやり取りしつつ進めていくつもりです。
おそらくそうだろうと思いますが、科学者としては意外に手堅い面もあったりするので、実際のところはわかりません。確か「がらくた生命」については、批判的だったような……。
連載中の「生命1.0への道」は、そのままの形ではないかもしれませんが、いずれ本にまとめます。小説については今、ちょっと変わった歴史小説(あるいは時代小説?)を書いているところです。土地勘の全くない分野なので苦戦中です。