Author Interview
インタビュアー:[雀部]
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『深海大戦 漸深層編』
  • 藤崎慎吾著/INEI inc,富安健一郎装画
  • ISBN-13: 978-4041029572
  • 角川書店
  • 1700円
  • 2015.4.30発行

沖縄本島沖CR田での戦いから約一年後、停職処分で那覇にいた宗像逍は、南極海での極秘訓練に呼びだされた。

訓練の合間に、宗像は亡友・磯良幸彦のアバターをまとって「偽海」(ネット上の海洋世界)に潜っていた。磯良の足跡をたどる宗像は、シギラという「人権擁護団体」の調査員と知り合う。彼がもたらしたのは「北極海を幽霊潜水艦が漂っている」というゴシップ的な情報に過ぎなかったが、ほどなく現実の脅威となって宗像の前に現れる。

アメリカの戦略ミサイル原子力潜水艦が、何者かに乗っ取られたのだ! 大事件を奇貨として動き出す各勢力……。地球規模の謀略ゲームが始まった。中・高緯度諸国と低緯度諸国、陸の民と海の民、そしてシー・ノマッド(海洋漂泊民)二大勢力の衝突。やがて「偽海」にも異変が……。世界は、深い海の底から変貌し始める!!

『深海大戦 超深海編』
  • 藤崎慎吾著/柳瀬敬之装画
  • ISBN-13: 978-4041044391
  • 角川書店
  • 1900円
  • 2017.3.2発行

幽霊潜水艦を巡る攻防の後、独立に揺れる沖縄州で、宗像逍は亡友・磯良幸彦と縁のある人権擁護団体「シギラ」メンバーの風子を訪ねる。しかし前園隆司と名乗る男が率いる謎の武装集団に、彼女はさらわれてしまった。前園は、宗像が属するシー・ノマッド(海洋漂泊民)集団「オボツカグラ」上層部のブレーン的存在であった。

本当に前園は味方なのか? 疑心を抱きつつも、那覇で敵対するシー・ノマッド集団「ティアマット」の刺客に襲われた宗像は、前園を頼りグアムへ脱出する。そこでも執拗に命を狙われるが、安曇レイラの助力も得て危機を逃れた宗像は、“タンガロア”が造られた真の目的を前園から聞かされる。それは、アレソップの向こう側=カチャウ・ペイディの真実だけでなく、宗像がこの世に生まれた意義をも問うものだった。

世界最深部に潜り、この宇宙の境界をも越えようとする宗像……その行動を阻止すべく、ティアマットがハワイ島沖に立ちふさがる。そして宗像を支えるオボツカグラは、宿敵との決戦に挑む。二つの世界が迎えるのは支配か、融合か。人類は、深い海の底で未来に直面する!!

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『風待町医院 異星人科』
  • 藤崎慎吾著/米田絵里装画
  • ISBN-13: 978-4334911720
  • 光文社
  • 1800円
  • 2017.6.20発行

海にも山にも近く自然に恵まれた風待町。この町の小学五年生・久延丕彦は、たいてい一人で遊んでいた。左足が不自由なため、少し臆してしまうのだ。ある日、砂浜の漂着物から宝物を探していた丕彦は、水平線の向こうに太陽の雫が落ちていくのを目撃する。誰にも言えない、異星人との交流は、その日から始まった――。

小さな港町にある病院を訪れる異星からの旅人との顛末を、少年の視線で色彩豊かに描いたノスタルジックSF。

「タンポポの宇宙船」
  • 藤崎慎吾著
  • kindle版
  • 99円
  • 2015.10.5発行

勉強にも部活にも身が入らないまま、中学3年生になった春——。仁科遥馬は受験を意識し始めた同級生たちを横目に、ぼんやりと過ごしていた。ある日、理科の授業中に顕微鏡サイズの地球外知的生命体(ET)と出会う。「クマッシー」と名付けたそのETは、クマムシを馬のように操り、生物の遺伝情報や脳の活動を「音」として「聞く」ことができた。1500年前、宇宙船の操作ミスで地球に落下したのだが、太陽風のような宇宙の「風」に吹かれて漂う船のため、自力で地球から脱出できないのだという。「トランペットをうまく吹けるようにしてもらう」ことを条件に、遥馬はクマッシーが宇宙へ還るのを手助けすることになった。タンポポの綿毛みたいな宇宙船を、どうやって成層圏より高く飛ばせばいいのか? 科学部の副部長、河合琉奈の協力を得ながら、ヤル気のない遥馬の挑戦が始まった。

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「壁の中」
  • 藤崎慎吾著
  • kindle版
  • 99円
  • 2015.10.5発行

顎に大きなイボのある醜い男が、黒光りする犬を連れて、稲生瑛子の家にやってきた。遺伝子のアップデートを受けられない〈ジャンクバージョン〉にちがいない。しかし男は警察の関係者で、行方不明になった一人の企業経営者を探しているのだという。それは瑛子の元不倫相手であり現在の恋人だった。警備システムの異常で家の中に閉じこめられていた瑛子は、男から不気味な話を聞かされる。どうやら彼女の家は、違法な身体改造をした外法者(げほうしゃ)の一人に取り憑かれているらしいのだ……。

「七月のマレビト」
  • 藤崎慎吾著
  • kindle版
  • 99円
  • 2015.11.25発行

遠い未来の七夕伝説——海洋惑星ネオマルスでは、女(フェム)と男(メルー)が、交わっても子供をつくれない「別種」となっていた。わずかな陸地である島々はフェムが支配し、メルーは船で貧しい漂泊生活をおくっている。それぞれに独自の世界を築き、生命工学に助けられて世代をつないでいた。両種族が顔を合わせるのは、1年に1度の3日間だけ——その間、メルーはフェムの家々を巡って「霊鎮め」の儀式を行い、港で市(フェア)を開く。年若いフェムのオリイは、毎年、霊鎮めやフェアを心待ちにしていた。なぜなら、やってくるメルーたちの中に、どうにも気になって仕方のない若者がいたからだ。やがて彼女は同じフェムである恋人の制止も振り切って、野蛮な種族とされるメルーの世界へ踏みこんでいく……。

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『世界の果てに、ぼくは見た』
  • 長沼毅著
  • ISBN-13: 978-4344426412
  • 幻冬舎文庫
  • 580円
  • 2017.8.5発行

砂漠、海洋、北極、南極、そして宇宙。「科学界のインディ・ジョーンズ」と呼ばれる著者にとって、世界の果ては夢の地だ。――砂漠に架かる“月の虹”。美しい色の細胞を持つ微生物。世界最北にある24度の“冷たい温泉”。辺境は、未知なるもので溢れている。思考の翼を広げてくれる、地球の神秘の数々。研究旅行での出来事や思索を綴ったエッセイ。

雀部 >
今月の著者インタビューは、《深海大戦》シリーズの「漸深層編」を2015年4月、「超深海編」を2017年3月に角川書店から出され、2017年6月には光文社から連作短編集『風待町医院 異星人科』を出された藤崎慎吾先生です。
藤崎先生お久しぶりです。今回もよろしくお願いします。
藤崎 >

よろしくお願いします。思いだしていただき感謝します。

雀部 >
《深海大戦》三部作、完結おめでとうございます。
3年前の著者インタビューの時、1巻目の『深海大戦』('13)についてお話しをうかがってますね。《ストーンエイジ》三部作が、2002~2010年でしたから、長かったような、短かったような(笑)
藤崎 >

同じ三部作なので、短かったと言っていただけないでしょうか(笑)。

雀部 >
半分の期間ですので確かに短かったです(4年)
最初に三部作の構成とか展開を決められてから書かれたので短かったのでしょうか。
今回通読して、バックボーンにぶれが無いし、作中の疑問点や伏線は総て回収された感じがしました。特に「超深海編」は、「やはりそうだよなぁ。」と「えっ、そうだったとは!」が交互に(笑)
藤崎 >

《ストーンエイジ》三部作の時は最初の設定が大雑把すぎて、長引いてしまった面があったかと思います。その反省に立って《深海大戦》では事前に、かなり綿密な世界観の構築とキャラクターの設定などを行いました。いわゆるアウトラインプロセッサというソフトを駆使しています。結果的にそれがよかったのかどうかわかりませんが、まあ少なくとも《ストーンエイジ》よりは早く書き上げられたというわけです。

雀部 >
やはり綿密な設定があったんですね。アウトラインプロセッサとかアイディアプロセッサは、10年ほど前に使ったことはあるんですが、挫折しました(汗;) 最近使われてる作家の方は多いのでしょうか。
藤崎 >

あまり作家さんとおつき合いがないので、よくわかりません(笑)。何かの記事で見かけたところによれば、増えているみたいです。

雀部 >
そうなんですか。
《深海大戦》シリーズは、キャラ設定もストーリー展開と密接に結びついていて楽しめました。特にニヤリとしたのは、逍とレイラの関係で逍の見事なまでの朴念仁ぷり(笑)
作中にも書かれてましたが、あれは、逍が「新天地を求めて、後先を考えず最初に漕ぎ出すおっちょこちょいタイプ」ということを象徴してますよね。レイラの方も出自が***ということで性格がひとひねりしてあったし、その出自そのものがラストの締め方に繋がっているのも良かったです。
藤崎 >

そこまで読みこんでいただき、ありがとうございます。要するに逍をボケ役、レイラをツッコミ役としたわけですが、いいコンビになってましたか?

雀部 >
えっ、ボケとツッコミのコンビだったとは。全然気がつきませんでした(汗;)
ちょっとうかがいたいのですが、色々な名称が出てきて、中には言語によって異なるダブルネーミングになってますが、作中で説明されてない聞き慣れない名前の由来とかをお聞きしたいのですが。例えば「カチャウ・ペイディ=アビッサス」ですよね。
藤崎 >

あのシリーズでは、かなりポンペイ語を駆使しています。つまりミクロネシアのポンペイ島だけで話されている言葉ですね。とくに神話に関係する言葉は、現地へ行って人にも聞いたし、ずいぶん資料を集めました。それからインターネットのおかげで「ポンペイ語←→英語」の検索もできたんです。非常に助かりましたが、それにしても「ポンペイ語英語辞典」をつくっている人がいるということに驚かされます。もっとも『ハイドゥナン』でお世話になった「与那国語辞典」も、かなりレアと言えばレアですが。

「カチャウ・ペイディ」は小説の中でも書いた通り、ポンペイ島の言葉で「西にある、よその土地」を意味すると同時に、ナン・マドールを建設したオリシーパとオロソーパの故郷を意味します。「アビッサス」は英語の「abyss(深海)」からつくった造語です。どちらも同じ場所を指していますが、コズモとの会話など神話が重視される文脈では前者のポンペイ語を、科学者が登場するような場面では後者の造語を使うようにしていました。

雀部 >
なんと、現地取材もされていたとは(驚)
「タンガロア」は、オセアニアの創造神ということですが、他に同じような命名もあるのでしょうか。
藤崎 >

イクチオイドの名前は、原則として世界各地の創造神や海洋神からとりました。「タンガロア」は主にポリネシアの神話に出てくる神で、タヒチでは「タナロア」、ハワイでは「カナロア」と呼ばれています。レイラの「セドナ」はイヌイットの神話に出てくる海の女神、磯良の「エーギル」は北欧の海洋神……といった具合です。

「テチス」「ネレウス」「オケアニデス」「ネレイデス」あたりは全部、ギリシア神話からとりました。「アンフィトリテ」は海洋神ポセイドンの妻です。

雀部 >
ありがとうございます。それを踏まえて読むと、なるほどと思い至る部分があります。「漸深層編」の冒頭あたりで、登場人物の長池豪先生の紹介に“初めて生命をゼロから合成したことで有名”とあって「おおぉっ!」と思いました。長沼先生も、生命合成に着手されているのでしょうか?
藤崎 >

私の知る限りでは、そういう研究はされていません。こっそり、やっているかもしれませんけどね。つい最近、会ったときは、ガラパゴスから帰ったばかりだと言っていました。もしかしたら何か進化に関わる、やばい実験などをされているかもしれません。ちょっと期待(笑)。

雀部 >
私も密かに期待してます(笑)
『世界の果てに、ぼくは見た』文庫化にあたって第五章「宇宙へ、心の旅」が追加されてますね。長沼先生から宇宙エレベータの話が出てくるとは思いませんでしたよ。
でも考えてみると、藤崎さんも専門は海洋で、書かれるSFには宇宙も出てくるから同じなのかと思ったり(笑) お二人とも博覧強記だし。
藤崎 >

いや、もともと長沼先生は宇宙へ行きたかったんですよ。野口聡一さんと宇宙飛行士の試験を受けて落ちてしまった話は、よく聞かされます。一方で海は、それほど好きじゃないみたいです。泳ぐのも得意ではないとか――。お父さんは船乗りだったそうなんですけどね。人の運命って、よくわかりません。

一方の私は生まれ変わったらクジラになりたいくらい海は好きですが、その海が奥底では宇宙につながっているとも感じていて、ある意味『深海大戦』ではそれをストレートに表現したわけです。

雀部 >
なんと、宇宙飛行士の試験を受けられていたんですね。確かに宇宙は中々行けない辺境中の辺境ですね。地核の次くらいに辺境かも(笑)
作中で重要な場所となる「ブライン・プール」はどういった特徴があるのでしょうか。「ブライン・プール」ではなかなかヒットせず、「Brine Pool」で検索すると興味深い映像を見ることが出来ました。
藤崎 >

まさにそのBrine Poolです。日本では、まだあまり知られていません。近くにないせいでしょうか。

要は冷水湧出域の一種だと思いますが、非常に塩分濃度が高くてメタンなども湧きだしており、熱水噴出域と似たような生物が、はびこっているようです。河口域などでは重たい海水の上に淡水が乗って、層をなしている場合があります。同じように海水よりさらに塩辛い水が、海水と混じることなく窪みなどに溜まっているわけです。その境目(密度界面)が、まるで陸上の湖面のように見える映像と出会って、私はすっかり魅了されました。実のところ『深海大戦』の構想の半分以上は、ブライン・プールの幻想的な風景から生まれたと言って過言ではありません。

雀部 >
そうだったんですね。プワルカスにオリシーパの爪とかは、「Brine Pool」+「与那国島海底遺跡」のイメージで読んでました。
藤崎 >

確かに『深海大戦』は『ハイドゥナン』の変奏曲という面もあるかと思います。ポンペイ島も沖縄っぽいと言えば、沖縄っぽいですし――どちらにも壮大な「島宇宙」と奥深い伝承があって、結局、私はその一部を語り直しただけなのかもしれません。

雀部 >
そう言われると「NEWCLASS-X」と「圏間基層情報雲(ISEIC)」でも、総てを結ぶという類似性もありますよね。
藤崎 >

そこは少し意識していたかもしれません。「圏間基層情報雲(ISEIC)」にも一応、科学的な根拠はあるのですが、どうも一部の(さほど科学を知らない)方々にトンデモと思われたらしいので、今回はそういう勘違いをされないようにしたつもりです。

雀部 >
おっと、かまわなければ「圏間基層情報雲(ISEIC)」の科学的な根拠、聞きたいです。
藤崎 >

僕も詳しいことは忘れてしまいました(笑)。物語中に書いてあるはずです。伝わらなかったかもしれませんが……。ネタ本の一つをご紹介しておくと、傳田光洋さんの『第三の脳』あたりがおすすめですかね。皮膚は自他を分ける境界というより、世界とのインタフェースなんだという捉え方は、とても参考になりました。そもそも我々は量子レベルで見れば、もやっとした雲のようなもので、確固とした境界はないんですよね。境界がないということは、全てがつながっているということになるわけです。それがISEIC理論のベースにあります。あとは物語から汲み取っていただければ――。

雀部 >
皮膚はインターフェースだという捉え方は初めて知りました。なるほど目から鱗です。
おおざっぱな理解で申し訳ないですが、三部作の構成としては、1巻目『深海大戦』では背景の説明とバトル・イクチオイドの闘いがメインで、2巻目「漸深層編」は、ポリティカル・ゲームの要素も出てきて、3巻目「超深海編」で謎の回収と深海から他宇宙への繋がりが描かれていたと。1巻目の展開からは、3巻目の広がりは想像が付かなかったので、これからどうなるんだろうとワクワクしながら読みました。
藤崎 >

小谷真理さんも日経の書評で「驚愕の展開」とおっしゃってましたが、私はそこまでとは思っていませんでした(笑)。むしろ宗像とレイラ、そしてクトゥルフとの関係にどう決着をつけるかで、ずいぶん悩んだ気がします。

雀部 >
私もクトゥルフとの決着の付け方がああいう形になるとは考えてなかったです。でも読んだ後では他には無いような気がしてます。
ところで、最新作の『風待町医院 異星人科』('17/6月、光文社)は、いままでとは雰囲気が異なる作風ですが、考えてみると『深海大戦』シリーズは、深海が舞台だけれど他世界への広がりを感じさせる作品ですし、『風待町医院』は、海沿いの小さな街が舞台だけれども宇宙への広がりを感じる作品ですから、大元のところは似てますね。
異星人が訪れてくる田舎町が舞台というところと、その異星人と主人公たちが密接な関係を持つことによって大宇宙を感じさせるというところは、シマックの古典的名作『中継ステーション』を思い起こさせますね。と一人納得しながら、ググってみると誰も『中継ステーション』に言及してなくてちょっとショックを受けました。私の感性がズレているのか、それとも(こっちの方が心配ですが)『中継ステーション』が読まれてないか忘れ去られているのか(『中継ステーション』大好きなので 汗;)
藤崎 >

いや、まさに藤崎版『中継ステーション』のつもりでした。さすが、見抜かれましたね。実は電子書店「honto」の「ブックキュレーター」でも、しれっと自分の本と一緒に紹介しています。

僕もシマックは大好きです。そのうち藤崎版『都市』も書きたいなと思っているくらいです。誰も出版してくれないような気はするけど(笑)。

雀部 >
げっ、そういうヒントがあったとは。hontoは注文の時に以前とダブりがあったらチェックがかかるので良く利用しているんですが、全然気がついてませんでした(汗;)
藤崎さんもシマックがお好きなんですね、何かうれしいです。藤崎版『都市』も読みたいです。『風待町医院 異星人科』がヒットすれば可能性がありますよね、皆様よろしくお願いします(笑)
そのブックキュレーターによると『ゲイルズバーグの春を愛す』もお好きなんですね、こちらも私も大好きなのですが、同じくオールドファンにはお馴染みなのロバート・F・ヤング氏なんかはどうでしょうか?
藤崎 >

ごめんなさい、ロバート・F・ヤングは読んでいません。

雀部 >
ありゃ。ジェネレーションギャップが(汗;)
そういえば、Amazonのkindleで出ている電子書籍「タンポポの宇宙船」はまさに『中継ステーション』の雰囲気をまとっていて、大好きです。高高度発光現象「スプライト」のことは福江先生の本で知っていたので、おっそう来たかと思いながら読ませてもらいました。クマムシも一時話題になりましたし。主人公の高校生はブラスバンド部みたいですが、藤崎さんも楽器を嗜まれるのでしょうか。
藤崎 >

ギターを鳴らすのは好きです。弾いていると言えるレベルではありませんが(笑)。

雀部 >
音楽的要素がかなりあるなあと思っていたら、やはり。
「七月のマレビト」と「壁の中」は、また全然傾向の違う短編で楽しめました。
これは、意識して変えられてるのでしょうか?
藤崎 >

そうですね。テスト的な自主出版だったので、なるべく毛色のちがう作品を選んでみました。結局、いちばん人気があるのは「タンポポの宇宙船」のようです。

雀部 >
漏れ伝え聞くところによると中国のSFコン(的な催し)に招待されたそうなのですが、いかがでしたでしょうか?
藤崎 >

正式には四川省成都の「中国国際SF大会」に招待されました。中国国内からはもちろん、米欧や韓国などからも多くの作家や出版関係者が参加していました。

雀部 >
けっこう国際的なコンベンションだったんですね。
そもそも中国に招待された経緯をお聞かせ下さい。
藤崎 >

たぶん、きっかけは昨年、中国のSF雑誌「科幻世界」に星新一賞の受賞作が翻訳掲載されたことでしょう。加えて今年、ちょうど大会の直前に『螢女』の中国語版が刊行されました。そのプロモーションの意味もあったと思います。

中国での様子は以下のようにブログにまとめましたので、ご覧いただけないでしょうか。

中国雑感1中国雑感2中国雑感3中国雑感4中国雑感5

雀部 >
なんか凄くお金がかかっている大会ですね(笑)
『螢女』のトートバッグもある!(『螢女』ブックレビュー
中国を舞台としたSFもぜひ!
藤崎 >

そうですね。大会中に「科幻世界」の姚海軍編集長と『螢女』について対談する企画があったのですが、その時に中国ではまだ「伝奇SF」がほとんど書かれていないらしいとわかりました。それは、もったいないですねえと申し上げておきました。何しろ中国は「伝奇小説」の本場ですからね。SFに絡められるネタは、いくらでもあるわけです。僕もまだ小説を書き続けることが許されるようなら、いずれ中国の伝承や伝説をもとにした物語を書いてみたいなとは思っています。

雀部 >
中国を舞台とした伝奇小説、お待ちしております。
この藤崎先生のフォトブログ「風待ちの島」によりますと、米田絵里さんの『螢女』イメージイラストも素敵ですね。中国のイラストより好きかもです(笑)
藤崎 >

中国のイラストも、意外性があって僕は好きです。ただ、もともとのイメージとしては、やっぱり米田さんのイラストですよね。もう僕の頭の中そのままの風景といって、いいくらいです。『風待町』の時も、そうでしたけど――。

雀部 >
良く出来たイラストは、想像力を補完してくれますから。SFなんかは特にありがたい存在です。
ところで、何か連載もお始めになったとか聞きましたが。
藤崎 >

はい、講談社ブルーバックスのウェブサイトに「生命1.0への道」というタイトルで掲載していきます。もちろん無料で読めます。小説ではなく、私としては久しぶりのサイエンス・ノンフィクションです。せっかくのウェブ媒体なので、読者の方々とも少しやり取りしつつ進めていくつもりです。

雀部 >
“「生命1.0への道」アンケート”投票してきました(30人目)
生命0.5、居ます!長沼先生もきっと「居る」立場ですよね。
藤崎 >

おそらくそうだろうと思いますが、科学者としては意外に手堅い面もあったりするので、実際のところはわかりません。確か「がらくた生命」については、批判的だったような……。

雀部 >
そこは機会があったら、また長沼先生にうかがいたいところではあります。
今回は中国訪問とか色々お忙しいときにインタビューを受けていただきありがとうございました。最後に、今後の刊行予定とか現在執筆中の作品があったら教えて下さいませ。
藤崎 >

連載中の「生命1.0への道」は、そのままの形ではないかもしれませんが、いずれ本にまとめます。小説については今、ちょっと変わった歴史小説(あるいは時代小説?)を書いているところです。土地勘の全くない分野なので苦戦中です。

雀部 >
SF作家と歴史小説は、小松先生・光瀬先生の頃からたいへん相性が良い分野だと思いますのでぜひ読ませて下さいませ。
[藤崎慎吾]
1962年東京都生まれ。米メリーランド大学大学院海洋・河口部環境科学専攻修士課程修了。1996年、「レフト・アローン」で第15回SFファンジン大賞を受賞。1999年に刊行された単行本デビュー作『クリスタルサイレンス』が「ベストSF1999」第1位に選出され、注目を集める。2014年、「『恐怖の谷』から『恍惚の峰』へ~その政策的応用」で第1回日経「星新一賞」を受賞
[雀部]
複雑に絡み合った登場人物たちと名称。《深海大戦》シリーズは、様々なアイデアと入り組んだ相互関係が把握しきれないので、 名称を入れた相関図(注意!ネタバレあり)を描いて読んでいました。(汗;)