小説投稿サイトでトップ10にランクインしたおれは「死にたい」と思うことで、自分の書いた小説世界に入れることに気がついた! しかしこのまま小説が進行すると愛する姫が不幸になる展開が来る。こ、これは書き直さな!
現実と小説世界を行き来する手段を手に入れたはいいが、問題は山積み。トップ10から落ちるわけにはいかないし……
作者(おれ)が姫(きみ)を不幸にし主人公(おれ)が救うってどんな自己満足? 現実でも小説世界でも全員が幸せになる方法はあるんか……
今回の著者インタビューは、今年になって連続して著者インタビューをお願いしている「ゲンロン 大森望 SF創作講座」受講生の皆様方のなかで、第58回メフィスト賞を受賞された『異セカイ系』でデビューされた名倉編先生にお願いできることになりました。
名倉編先生初めまして、よろしくお願いします。
よろしくお願いします!
早速ですが、メフィスト賞応募の経緯をお聞かせ下さい。
メフィスト賞には8年くらい前からずっと送ってまして。座談会にとりあげてもらったりもらえなかったり。をくりかえしてました。
『異セカイ系』はもともと応募作のつもりじゃなくカクヨムというサイトがはじまったのでそこで書きはじめて。
途中まで書いて「これ……おもしろいぞ」って気づいてメフィスト賞応募に切り替えました。
途中でSF創作講座がはじまって1年間はそっちが忙しくて止まってたんですが。
講座がおわって執筆再開し。講座で得たものを全力投入してできあがった『異セカイ系』で念願のメフィスト賞受賞。という流れでした。
ものになりそうな時は自分でわかるんですね!
メフィスト賞って、なかなかユニークな賞なんですね。
ですね! ほかの賞では「これはちょっと……」って思われそうだなと思う作品でもメフィスト賞なら受け入れてくれるのでは?みたいな謎の信頼がありました。
メフィスト賞受賞作は、1990年代の作品は四作品読んでいるんですが、それ以降はあまり読んでませんでした。受賞者の別作品はぼちぼち読んでいるのですが(汗;)
『異セカイ系』は、ある面では全能な神につける手枷足枷はどういうものがあるだろうかと、その手枷足枷をかいくぐって目的を達成するにはどうすれば良いかのせめぎ合いが一番の魅力で、読みながら主人公と一緒にあれこれ考えました。
執筆中に一番苦労されたのはどんなところだったでしょうか。
『異セカイ系』は基本的には自分の好き勝手に書いたので。主な想定読者としては自分と好みが似たいわゆるゼロ年代のオタクたちと呼ばれるようなセカイ系の読者やなろう系などのネット小説の読み手・書き手ということになると思いますが。
そうでないひとたち。たとえばどちらにも当てはまらない女性がこれを読んだときにどう感じるか。ということはさいごまで悩みながら書いた覚えがあります。
書き方や題材が題材だけにマイナススタートだと思いますし。どう思われるかもっとも想像できない部分でもあるのでうまくできたかは正直なところ自信がないんですが。そこで想定読者を絞ったりある読者を切り捨ててしまうとだれも切り捨てない道を目指す作品のテーマを裏切ることになってしまうんじゃないかと。
なのでたとえ不出来でもとりあえず考えられるだけ考え抜こうと思いながら書いていました。
うちの長男(30代後半)は、セカイ系の読者やなろう系などのネット小説も良く読んでいるのですが面白く読めたようです。うちのカミさん(60代前半)は、推理小説と時代小説ファンなので冒頭のページから受け付けてくれませんでした(汗;)
SFは、スペキュレイティブ・フィクションの略でもあるので、思索的なSFがお好きな方、また物語の整合性を追求しているという点からはミステリファンにもお薦めできると思います。個人的には、あの文体でこういう思索的な物語を書くことが出来てそれが評価されたというのが嬉しい驚きでした。
自分としてもあの文体がどう受け止められるだろうというのは応募する段階でも出版する段階でもおっかなびっくりというか予想がつかなかったんですが。思ってたよりも好意的な感想もあったりしてほっとしていました。
とはいえネットで感想を見ているとやっぱり文体でひっかかってしまうひともいるようで。つぎはもうちょっとマイルドにしたほうがいいかな?などと考えています。
あの文体と極北のメタフィクションが奇跡の合体! まあ、同じ手は使えないから(笑)
2016年の「ゲンロンスクール 超・SF作家育成サイト」の名倉先生の投稿作(及び梗概)を読ませて頂くと、
第一回目の実作が「SFの術」
《地球シミュレーター》とBL忍術SFと鍵が「ウィトゲンシュタインのパラドクス」
第二回目の実作が「真心眼シャッフル」
鍵は『ソフィーの世界(下)』社会的な立場が固定したものではなくて、過剰に流動的になったとき、人類は優しくなれるかの考察。人格の入れ替わり(シャッフル)により、いつ別人と入れ替わるかも知れない可能性を考慮した他人への尊重・配慮。
第三回目の実作が「田中シンギュラリティ」
梗概の題名は「田中シンギュラリティ または 宙の彼方からのソナタ」キーワードは梗概の題名にあり。青春恋愛小説では無いぞ〜(笑)
第四回目の実作は「裸の女王様」は、「裸の王様」の意味論的考察かな。謎解きは、ちょっとはぐらかされた感じですが。
第五回目の実作は「u/dys-topia」
「ディストピアに見せかけたユートピア」とは? 「ゲンロンスクール超・SF作家育成サイト」の投稿作では一番好きな作品。選評での評価も高い。今日のラッキーアイテムが、次々と役立っていき御礼を言われる下りが好きです。昨今のSNSでの「いいね!」の数を競うかのような風潮は、人間ってどう転んでも社会的動物なんだなぁと思っているので(承認欲求?)"La-place"の成り立ちとかも相当作り込まれているし。
第六回目の梗概は「Cut over as Hobby」
《特異点》を利用し暗号(サイファー)で世界を操る技術が発達した社会を描く短編。著者が得意とする言葉遊びの世界。「言霊」的? いとうせいこう氏の後継者か?
第七回目の実作は「神の手の形」
「なぜ(神がいるのに)世界には不幸があるのだろう?」「なぜ世界には自然法則や因果律がある(ように見える)のだろう?」という疑問に挑戦した短編。
第八回目の梗概は「あんたの人生の物語」
宇宙人の訪問(侵略?)によって目覚めた人間と《キャラクター》の真実を描いたメタフィクション??
第九回目の梗概は「AIことば(アイコトバ)は消え去って」
「AIことばは消え去って」(『Sci-Fire 2017』所載)の元になった作品?
第十一回目(「ゲンロンSF新人賞」【実作】)
「TZFKS」→「TZFKS 韻version」→「TZFKS 散version」
言葉遊びが好きな作者(名倉編 a.k.a. 三三三三)が書いた「愛と呪いの物語」。
凄い。
でも、ちょっと頭が痛いかも(汗;) 主人公の「襟撫」と「常夏」は、「AIことばは消え去って」の主人公と同じ名前だけど。
ということで、「TZFKS」と「AIことばは消え去って」は繋がりがあるのですか?
SF創作講座での作品も読んでいただけていたとは。恐縮です。
2作は作中の人物同士に直接のつながりはないですが(にもかかわらず)読者が勝手につなげて読んでしまう。というようなことをたしかすこし意図していました。
実作を書いた順番は逆になってしまったのですが。梗概の段階では。「AIことばは消え去って」では主人公だったジョウナ=常夏が「TZFKS」 では恋敵として出現し。
「AIことばは消え去って」→「TZFKS」と読むと2作でジョウナ=常夏に感情移入→反感とまったく異なる感情をいだくことになるとおもしろいんじゃないか。と考えていました。
『Sci-Fire 2017』で「AIことばは消え去って」の実作を書くときにはその問題意識はうすれてどちらかというとハーレムエンドに興味がいってた気がしますが……。
う〜ん、そんな複雑なことを考えられていたとは(驚) そこまで頭が働きませんでした。“ハーレムエンド”は、若者の夢ですよね(笑)
「TZFKS」と「AIことばは消え去って」では、どちらが書くのに時間がかかりましたか。それと、どちらが書いていて楽しかったでしょうか。
たしか「TZFKS」のほうが時間ががかかりました。
「AIことばは消え去って」は梗概が選出され実作を書くチャンスがあったのですがその時間を最終実作の「TZFKS」にあてていたので。おそらく2か月弱くらいかけて書いてたはずです。
書いてて楽しかったのも「TZFKS」です。時間がかかった要因でもあるのですが九百九十九回韻を踏む(作中には九九九組と書いてしまっていますがまちがいです……)ということに挑戦していて。そのほかにも自分の大好きな言葉遊びをすきなだけつめこんで。完全に自己満足なんですがそのぶん自分だけはかなり満足してめちゃくちゃハイになりながら書いてました。
これだけ言葉遊びを詰め込んで、よく話を紡ぎ出せるなぁと。力業凄かった。
個人的には「AIことばは消え去って」(『Sci-Fire 2017』所載)が一番面白く読みやすかったです。設定からして??の連続で引き込まれました。最後の謎解きも、一番SF的で精緻だし。SF者としては大変うれしかったです(笑)
ありがとうございます! 「TZFKS」でとことん好き放題やったぶん。その後書いたものはすこしずつ読者のほうも見れるようになった気もします(笑)
SFとして評価してもらえるのはありがたいです。自分としてもSFとしていちばん手ごたえがあったのはこの作品かもしれません。梗概の段階ではアイデアがぼやんとしていたんですが。分離脳の話をネットで読んでそれをとりいれることでSFにおとしこめた気がします。
「AIことばは消え去って」 で考えたことはいまでもずっと尾をひいていて。その後書くものにも影響をおよぼしてる気がしますね。
それは次回作も乞うご期待ですね!
もう一つ追加よろしいでしょうか。「ノーライフハック」(『SCI-FIRE 2018』所載)なのですが、“「朝倉~っ」「先輩!」”は置いといて(笑)、「言葉遊び」と「愛」と「SF味」と「謎解き」がほどよくブレンドされていて面しろかったです。定命者と永命者のアイデアも良かったし切なかったし。まあ、途中まで頭の中がこんがらがっていたのは内緒ですが。
ありがとうございます! 「ノーライフハック」は前号『Sci-Fire 2017』の「AIことばは消え去って」では否定的にあつかった「意識を共有する複数の者=一者」を今度は肯定的にあつかってみた作品ですね。
ほかにもハーレムエンドなどこれまでのテーマをいれたりもしてるのですが。一方で定命者と永命者のせつなさを感じてもらいたいと思って書いていたのでそう言っていただけてうれしいです!
そ、それも気がつかなかった(汗;)>今度は肯定的にあつかってみた作品
ところで、「ノーライフハック」は、『ノーライフキング』+「ライフハック」(『SCI-FIRE 2018』のテーマ)なのかなとふと思ったのですが、どうでしょうか。
『ノーライフキング』存在は知っていたのですがじつは未読で……(汗)
ただ言葉としてはおっしゃるとおり(不死の王的な意味合いとしての)「ノーライフキング」+「ライフハック」でタイトルを決めました。
お、ちょっとだけ当たった(笑)
今回はお忙しいところインタビューに応じて頂きありがとうございました。
近刊予定とか執筆中の作品がありましたら、可能な範囲で教えて下さい。
あ、忘れてた。ペンネームの“名倉編 a.k.a. 三三三三”についてもうかがいたいです。
ペンネームはどちらもSF創作講座を受けるにあたり考えたものでした。
さいしょは三三三三だったんですが「筆名としてどうなのか」という意見があり講座の途中で名倉編に変えて。
ただ三三三三も気に入っていたので両方名乗ることにした——ばかりか両方作中に出すことにした。といった感じです!
SF創作講座以前にもペンネームをいくつか持っていたり。名前をふやすのがすきなのです。
いまは2作目の長編を執筆しています。『異セカイ系』からかなり時間がかかってしまっているんですが……そのぶんいいものをお届けできるようがんばってます!
内容としては。最終的にどうなるかまだわからないのでどこまで言っていいか自分でもよくわからないのですが。
いまのところは。『異セカイ系』とはまたちがった方向からキャラクターや小説やひろい意味での物語や他者との関係について考えるものになっており。
あと最近話題のバーチャルYouTuberを扱ったものになりそうです!(実際完成してみたらぜんぜんちがうものになってるかもしれませんが)
といった感じです。こちらこそありがとうございました!
おっと、次回作が控えているのですね。お待ちしております!