Author Interview
インタビュアー:[雀部]
『石原藤夫ショートショート集成』
  • 石原藤夫著/高井信編/YOUCHAN装画
  • 書肆盛林堂
  • 3500円
  • 2020.11.22発行

単行本未収録ショートショート、41編に加え、連作ショートショート集『新電気未来物語』『海洋未来物語』(いずれも12話)の2冊分も全て収録。

ヒノとシオダの《惑星シリーズ》のショートショートもあります。『海洋未来物語』は、海洋版の惑星シリーズといった趣の連作。岡山の玉野にやってくるエピソードもあり感激(笑)

『日本ショートショート出版史 〜星新一と、その時代〜』
  • 高井信著/YOUCHAN装画
  • ネオ・ベム
  • 販売終了
  • 2017.6.15発行

星新一と共に始まった日本ショートショートの歴史を、ショートショート研究の第一人者、高井信氏がまとめた大変な労作。

星新一がデビューした1957年を起点に、亡くなられた1997年までのショートショートの歴史を、各年ごとの出来事と出版物を中心にして綴ったもの(それ以前とそれ以後の出版物についても、必要に応じて取り上げています)。

『小学生のためのショートショート教室』
  • 高井信著/YOUCHAN装画
  • 小鳥遊書房
  • 1800円
  • 2019.7.15発行

小学生に向けて「短い短編小説」ショートショートの書き方を伝授。ショートショートの歴史も紹介する。偕成社ホームページ連載を元に書籍化。

テーマ別単元につき毎回作例となるショートショートも収録。

『ファンジン魂』
  • 高井信著/YOUCHAN装画
  • ネオ・ベム
  • 2020.6.25発行

著者のファンジン遍歴、ファンジンへの愛を綴ったハードSF研究所公報「Hard SF Laboratory」の連載「ファンジン魂」が書籍化。加筆修正、書影大幅追加。オールカラー。

『恍惚エスパー』
  • 高井信著/梶田俊哉装画
  • ネオ・ベム
  • 2019.11.1発行

単行本未収録の下ネタ!作品集

「恍惚エスパー」「三十インチに魅せられて」「アラジンと魔法のタバコ」「ゲートボール無宿」(これだけは下ネタではなくてゲートボール小説)

『たいむましんにのって』
  • 高井信著/梶田俊哉装画
  • ネオ・ベム
  • 2020.6.20発行

高校卒業までに書いた小説を集めたもの。高校生にしてこの才能!

1, デパート殺人事件

2, ショートショート集成

3, たいむましんにのって

4, 続編で遊ぼう

『見知らぬ知人』
  • 高井信著/YOUCHAN装画
  • 盛林堂ミステリアス文庫
  • 2300円
  • 2019.10.25発行

【森下一仁氏のカバー袖文】

自分のセンスに忠実。面白さに向かってまっしぐら。作家。高井信の姿勢は、こんなふうにとらえることができる。ここに収められたものは彼の世界のごく一端に過ぎないが、十分にその特質が見てとれるだろう。さらに次のようにいうこともできる。

天真爛漫。傍若無人。高井信の繰り出す奇想に制約はないのだ。

さあ、野放図な逸脱にあきれ果てよう!

『神々のビリヤード』
  • 高井信著/YOUCHAN装画
  • ネオ・ベム
  • 2020.8.8発行

「SFハガジン」掲載のショートショート90編を収録。

著者の多彩なショートショートが楽しめる宝石箱。

『DOUBLE DECADE』
  • 高井信著
  • 信・一族
  • 1999.10.25発行

高井信デビュー20周年記念作品集

名古屋にある高井信氏のファンクラブ「信・一族」が、作家デビュー20周年を記念して単行本未収録作品を25作品収録して出版。

『幸運ホテル』
  • 高井信著/梶田俊哉装画
  • ネオ・ベム
  • 1500円
  • 2020.6.15発行

上記『DOUBLE DECADE』より自選した10作品を収録

「わが友ポルターガイスト」「異臭の町」「バミューダ空間」「感情のスイッチ」「人生の扉」「幸運ホテル」「空白の時間」「地下迷宮の勇者」「大気の魚」「メッカ誕生」

『名古屋ファンダム史』
  • 若尾天星著/高井信編/梶田俊哉協力
  • ネオ・ベム
  • 2018.5.5発行

2018年に逝去された名古屋SFファンダムのBNFである故若尾天星(本名:典正)氏が書き記された日本SF大会のプログレスレポート等を、古くからの盟友である高井信氏がまとめたもの。

雀部 >

今月の著者インタビューは、ショートショートの名手でもあり、『日本ショートショート出版史〜星新一と、その時代〜』を筆頭とするショートショートの研究者としても有名な、高井信先生です。

お久しぶりです、前回から15年も経っていたとは……

高井 >

ほんと、月日の経つのは早いですねえ。

雀部 >

歳をとると更に早くなるという(汗;)

最近、石原先生のショートショート集を手に取ることが出来て感激しました。

高井 >

ありがとうございます。そう言っていただけると、本当に嬉しいです。

雀部 >

石原先生が、こんなに沢山のショートショートを書かれていたとは驚きでした。

高井 >

ええ、多くの方がそうではないでしょうか。実は私も驚いています。

雀部 >

いつ頃から計画されていたんでしょうか。

高井 >

このことについては、ハードSF研究所の公報「Hard SF Laboratory」205号に書いたので、それを読んでいただくのが一番なのですが、簡単に言いますと、漠然と考え始めたのは数年前——公報に石原さんのショートショートがちょくちょく連載(再録)されるようになってからですね。企画が具体化したのは昨年(2019年)10月です。詳しくお話ししてもいいんですけど、公報とダブってしまいますから、これくらいで。

売り切れてしまったら入手は困難になります。気になる方はお早めに、と申し上げておきましょう。ちょっとお高いですが、本3冊分が収録されていますし、それに何より、面白いですから。

雀部 >

そうですね。売り切れたら後悔しても遅いですからね。

高井先生による詳しい解説が付いていて、石原先生も「私自身が忘れていた事まで書いて下さっていて、驚きます。」と公報(202号)に記されてます。

高井 >

石原さんには、数多くのデータをいただきました。それこそ、私の知らないことをたくさん。

雀部 >

石原先生なら、色々ご存じでしょうね。

『日本ショートショート出版史〜星新一と、その時代〜』は、貴重な資料でもあり大変な労作で、知らない・読みたい本がそれこそ山のように紹介されていて、ネットで探しまくりました(汗;)

こういう資料集は商業出版には馴染まないし、評価されにくいと思うのですが、それに敢えて挑むところに、高井先生のショートショートに対する愛と、優れたショートショートの書き手としての自負を感じました。労作を読ませて頂きありがとうございました。

高井 >

こちらこそ、ありがとうございます。準備を始めてから20年くらいかかりました。自分でも、すっごいものを作った(書いたというより、作ったという感覚です)なあと思います。

雀部 >

ハードSF研所員でもあった、故新居澄人氏のショートショート集『惑星催眠術』も紹介されていて嬉しかったです。というのは、石原先生から「徳島市の徳島県立文学書道館で「海野十三展」が開催されるのだけれど、そこで故新居所員のことも展示されるそうなので、取材してきて欲しい」と依頼されたので。「写真撮影不可」と書いてあったのですが、ハードSF研の依頼で取材に来ましたと言うと、撮影許可がおりました。

高井 >

『惑星催眠術』はどこで知ったんだっけなあ。どうしても入手できず、最終的には石原さんにお願いして新居さんのご遺族を紹介してもらい、ようやく入手することができました。

「海野十三展」、ありましたねえ。行きたかったのですが、残念ながら……。徳島に住む友人が図録を送ってくれたので、それで渇を癒やしたことを覚えています。

雀部 >

図録、地元のファンの手による非常に凝ったパンフでしたね。

昨年(2019年)出版の『小学生のためのショートショート教室』は、高井先生がショートショートの講座を持たれていることと関係してるのでしょうか。

高井 >

直接の関係はないですけれど、もともとショートショートの研究はショートショート講座の講師を求められたことがきっかけで始めましたので、関係しているといえば言えます。

それと、子ども向けのショートショート入門書があればいいな、とは以前から思っていました。この本の元となっているのは偕成社サイトの連載「小学生のためのショートショート講座」なのですが、そのお話が来たときには渡りに船でした。

雀部 >

なるほど、win-winのお話が来たわけですね。

後書きにも、星先生・小松先生・筒井先生のショートショートの話題が出てきますが、小学校の国語の教科書にも載ってますよね。話が短いから載せやすい(一部だけの引用にならない)のも関係しているかも。最近、孫(小五)の宿題のプリントを見てやっていたら小松先生の「宇宙人のしゅくだい」が載っていて、嬉しくなりました(笑)

高井 >

小学校の教科書で小松さんのショートショートが読めるなんて、羨ましいですねえ。

私なんか中学2年になるまで、ショートショートというもの自体を知りませんでしたよ。もちろん、星さんも。

雀部 >

それは同じです。教科書は、志賀直哉とか菊池寛とか(汗;)

この本では、ご自作を例として出され、それを元に解説していくという大変分かりやすい構成になっているのですが、小学生にはレベルが高いのかなぁという気はしました。うちの孫(小五)に読んでやってみたのですがよく分かってないようでした。まあ、本人の国語力があまりついてないのもあるんですけど(なんせ本を読まない^^;)

実はこの本、大人がショートショートを書く際の基礎になる内容を持っていると感じました。

高井 >

おお、ご明察。

文体的には小学生にもわかるように、作品サンプルも小学生が読むことを念頭に選びましたけれど、内容的には大人が読んでも満足できる、役に立つものにしようと考えていました。その意図はまあまあ達成できたかな、と。

雀部 >

大人でも難しい部分もあったり←私だけか(汗;)

子ども向け(中学生向け?)というと、前回のインタビューの最後にちょっと触れられていた『おかしなおかしな転校生』なんですけど、“よろず諜報局”が出来たところで終わっちゃってるのが残念と言えば残念です。これから爆発しそうな予感がしましたので。

高井 >

すみません。いろいろと事情がありまして。

雀部 >

大人の事情ですね。作家の先生方から時々うかがうことがあります(汗;)

『ファンジン魂』ですが、取り上げられている“ファンジン”は、ほぼ全てが、高井先生が寄稿、あるいは編集もしくは発行をしたファンジンなんですね。ひょっとして、いやひょっとしなくてもSF界隈では一番多いのでしょうか?

高井 >

ファンジンは書くのも出すのも大好きで、「書いて」と言われれば書くし、言われなくても「書かせて」と書くし、出したいと思ったら出すし。そんなこんなで、そろそろ半世紀。積もり積もった結果です。

確かに多いほうとは思いますけれど、一番ってことはないですよ。柴野拓美さんなんて、比べることすら憚られます。具体的には存じ上げませんが、ほかにもたくさんおられるのではないですかねえ。

雀部 >

そうなのですか。でも、ベスト3には入ってそうですね。

ハードSF研公報200号に森東作さんが「ファンジン雑感」という論考を書いてらっしゃいますが、その中でご自身が制作された「SFファンジン・データベース」を紹介されてますね。(私もご厚意に甘えて「データベース」の送付をお願いしてしまいました。)

森  >

その節はご連絡いただき、有り難うございました。ハードSF研究所の「公報」では、与えられたテーマがファンジンについてでしたので、内容にも関係することから、SFファンジンDBを少し宣伝させていただきました。お送りしたDBはお目通しいただけましたか?

雀部 >

その節は、「SFファンジン・データベース」ご送付ありがとうございました。

社会人になって初めて入会した地元のSF系ファンクラブ「岡山SFファンクラブ(OSFFC)」の会報も出てきて嬉しかったです(感激)

確か、森先生もSFファンジン研究の大御所であられると思いますが、こういう研究者同士の横の繋がりはあるのでしょうか。

森  >

研究者云々というよりも、私にしてみれば、趣味でやっているSFファン活動の仲間としてのお付き合いですね。 

高井 >

森さんとは私が学生時代、「宇宙塵」の例会で知り合いました。森さんが『宇宙塵インデックス』を、私が『《世界大ロマン全集》解説総目録』を出したのはほぼ同時期で、それを交換し合ったり……。私が東京を離れてからは疎遠になりましたけれど、ほそぼそとつながってはいました。「データベース」も、送っていただいていました。最初はフロッピーディスクだったんですよ。またファンジン関係の資料が必要なときには、森さんにお願いしていました。

雀部 >

石原先生の最初の『SF図書解説総目録』電子版もフロッピーディスクでした。無料で使える検索ソフト込みで3枚組じゃなかったっけ。というのは、野村真人さん(その後『SF書誌の書誌』製作)と共にお手伝い(私は、動作テスト等の担当)したから記憶に残っています。

高井 >

それは知りませんでした。

私が東京を離れてから、森さんとの付き合いはメールと郵便物だけで、35年以上は顔を合わせる機会はなかったんですが、2018年4月10日、ファンダムの先輩・若尾天星さんが亡くなられまして、同年9月23日、若尾さんを追悼するイベント〈天★CON〉が開催。そこで久々に再会しました。以後、そこそこ頻繁に連絡を取り合う仲になっています。不要なダブりファンジンをプレゼントしてもらったりもしましたね。ショートショート研究の意味でも貴重な資料で、とてもありがたかったです。私も自分が出したファンジンはすべてお送りするようになりました。

森  >

高井さんは、本当に精力的にファンジンを出しておられますよね。内容のクオリティも高くて、楽しみに読ませていただいています。

雀部 >

やはり、研究者同士の横の繋がりはあるんですね。

高井 >

森さんもおっしゃっていますが、ファン仲間という感覚ですね。そもそも私はファンジンの研究者ではありませんし。ただ、好きなだけです。読むのも作るのも。

あ、そうそう。2019年10月17日、東京で開催された横田順彌追悼展「ヨコジュンのびっくりハウス」に行ったんですが、そこで森さんとばったり。これは驚きました。これから、追悼イベントで久しぶりに旧友と会う機会が増えるのかもしれないですね。悲しいですが、そういう年齢になったんですねえ。

森  >

ここ数年は特にそういう機会が増えましたね。ファン仲間に限らず、親戚なんかでも顔を合わせる場といえば、葬式か法事がほとんどですからね。

雀部 >

そうですねえ。同級生と会うと、大病したとか手術したとかの話が多いし〜しみじみ〜 森先生は、いつ頃から、またどういったきっかけでデータベース制作を始められたのでしょうか?

森  >

データベースを作り始めたのは、手元にあるファンジンのリストを作ろうと思ったのがきっかけです。はじめは手書きのカードで作っていたんですが、これだと時間がかかるし、手も痛くなる。それに、せっかく作っても検索ができません。それで、作業を効率化して検索もできる形にするために、1995年頃からエクセルで作るようになりました。

記事の登録作業というのは、単調なわりには神経をつかいますので、途中で飽きて作業が止まることもありました。でも、しばらく放っておくと気になって作業を再開する・・・というようなことを繰り返して、何とか今日まで細々と続けています。

雀部 >

地道な作業ですけど、誰かが手がけないといけない作業ですね。お二人のご尽力には頭が下がる思いでいっぱいです。

『ファンジン魂』を拝見すると、高井先生は次々と有名ファンジンと出会っていくわけですが、これは何がそうさせているんでしょうか。やはり普段の心がけでしょうか。

高井 >

ファングループやファンジンと関わる際、有名とか無名とか考えたことはないですし、特に心がけていることもありませんね。自分の嗜好に合いそうなグループやファンジンと接触してきただけです。で、そういった場所で知り合ったファン仲間から、さらに交友関係が広がっていく。

作家ファンクラブ関係でしたら、〈エヌ氏の会〉に入会したことがきっかけで〈筒井倶楽部〉〈日本筒井党〉〈続・半村良のお客になる会〉の方々と親しくなっていったり……。ここで知り合った方々のうち何人かとは、いまだに付き合いが続いています。

雀部 >

SFファンの友達の輪ですね。

『ファンジン魂』を読んで、私もファングループに入りたいとか、投稿したいと思うSFファンはどうすれば良いでしょうか。

高井 >

私がファンダムに足を踏み入れたのは半世紀近く前。あのころとは時代が違いますから、現状には即さないと思いますが……。

あのころ(1970年代前半)は、まずは「SFマガジン」で基本的な情報を得て、続いて「ファンダム・ニュース」の購読、そして「宇宙塵」に入会。これでだいたいファンダムの様子を把握できます。で、面白そうなファンジンがあれば買う。自分と合いそうなグループがあれば入会する。なければ、自分で作る。

正直なところ、最近のファンダムについてはよくわかりません。いまはインターネットの時代ですから、おもにそこから情報を得るのだろうとは思いますが。そもそも、現在も活動しているファングループって、どれくらいあるのでしょう。当時と比べたら、激減しているような気がします。

ともあれ、情報を収集し、自分から積極的に動くことでしょうね。待っていては、何も始まりません。

雀部 >

確かに。

大森望先生のインタビューの際に「大学に入った時点では、SFファングループが無かったんですよ」とぼやいたら「SFファングループは、入るんじゃなくて、つくるんですよ!」と言われて、なるほど自らの行動力の無さが原因かと(汗;)

『小学生のためのショートショート教室』をテキストとして使う「高井信のショートショート講座」、魅力的なんですけど、どんな方が受講されているんでしょうか?

こういうところで仲間が出来たり、情報を仕入れたりもできるんですよね。行きたいなぁ、私も10歳若かったらなぁ(汗;)

高井 >

ショートショート講座は開講して間もなく、まだ傾向は掴めないのですが、小説講座というのも受け持っていまして、そちらは15年ほどになります。受講生は年齢層も嗜好もばらばらですね。まあ、私が講師ですから、SFやショートショートが好きな人が多いという印象です。受講生間で情報交換し合ったり、また教室外での付き合いもあるようです。

雀部 >

う〜ん、都会は良いなぁ。

というか、そもそも、良いと思うなら行動に移せという話でしたね(汗;;)

今回、高井先生の私家版本を読ませて頂いて気が付いたのですが、私はどうも高井先生のエロ系のSF作品が特に好きなようです(高井先生いわくの下ネタ系)。

その中でも、主人公が苦労する展開のものが(汗;) 特に『恍惚エスパー』には、どはまりしました(「SFバカ本」掲載のも読んでますが)

元々SFは色っぽいテーマを扱っていても、その性格上、あまりエロくはならないと思っているのですが、どうでしょうか。

また書くに当たって気をつけられているところはおありでしょうか。

高井 >

確かに、エロくはなりづらいでしょうね。私の場合は単純で、要するにエロティックな話は書けないんです。気をつけていることは特にありませんが、強いて言うならば、読者に不快を催させないように、ということでしょうか。笑えるシモネタ。

雀部 >

星先生が、お色気方面のショートショートは書かれなかったので、高井先生が下ネタショートショートでは第一人者ですね。

『たいむましんにのって』は、中学時代〜高校時代に書かれた小説が収録されていて、しかも色んなバージョンも収録されていて面白かったです。

中学時代から達者だったんですね。これくらい書けてないと高校生時代に書かれた作品で商業誌デビューは出来ないですよね。

高井 >

あのころ書いたものは恥ずかしくてたまりませんけれど、それでも愛おしい。私の原点ですしね。楽しんでいただけたとしたら、本当に嬉しいです。

雀部 >

年代(経験?)に応じて、変わっていくのも興味深いですし。

ラストのバージョンが複数あるというと『見知らぬ知人』収録の「沈みゆく人間」もそうですね。ショートショートとしては、書きなおしバージョンのほうがオチが効いていて完成度が高いような。ところで、これはマシスンの『縮みゆく人間』へのオマージュなんでしょうか。眉村先生の遺作『その果てを知らず』にも『縮みゆく人間』への言及があって、私も好きな作品でして、なんかSF同世代だなと感無量だったもので。

高井 >

オマージュということはないですけれど、タイトルは明確に意識しています。私も『縮みゆく人間』は大好きです。私のマシスン・ベストは『吸血鬼』で、『縮みゆく人間』は二番目かな。

雀部 >

『吸血鬼』は、ラストの一文が効いてますよね。何度も映画化されてるし。

あと「快楽の報酬」も凄いです(題名の元ネタはシェクリイの「危険の報酬」だろうけど、内容はファーマーの「恋人たち」に近い感じでお薦めです)。異星人が出てきて、下ネタでホラーという。怖いというかおぞましさ満開(冷汗;)

あと『たいむましんにのって』では「ピノーキオ」が好きです。有名児童文学のその後というアイデアなんですが、孫(11歳)に読んでやったら、大受けしてました(笑)

高井 >

ありがとうございます。あー、確かに、お子さんには喜ばれそうな話ですね。

雀部 >

読んでやって、会話文になっているので分かりやすいみたいでした。

小説家になるには、やはり書き続けることが一番大事でしょうか?

高井 >

小説家になるには……。たくさん読んで、たくさん書く。それしかないと思います。中高時代は書くより読むほうでしたね。ほんとにもう、いま思い返すと信じられないくらい読んでいました。

大学にはいって、読むより書くほうに力を入れ始めます。中高時代の小説の多くは未発表でしたが、大学時代に書いた作品はほとんどファンジンに掲載しています。これらもいずれは1冊にまとめたいと考えています。

雀部 >

それもまた楽しみです。買い漏らさないようにしなくては(汗;)

ショートショート同人誌「SFハガジン」で発表されたショートショート90編を収録した『神々のビリヤード』も面白いです。短いので、手元に置いてちょっとした空き時間を使って読めるのが良いですね。

この本を読んで気が付いたのですが、駄洒落オチはショートショートと相性が良い!

電子書籍にして、公共交通機関で通勤中にスマホでも読めるようにするのはどうでしょう?

突然爆笑したりすると変に思われるからダメでしょうか(汗;)

高井 >

楽しんでいただき、嬉しいです。書いた本人も思いきり楽しんでいます。

電子書籍ですか。私自身が「本は紙に限る」なので考えたことがないのですが、将来的にはそうなっていくかもしれませんね。

雀部 >

漫才アンドSFネタの「ビッスンオモロイ」にはやられました(爆笑)

けっこう特定の年代のSFファンじゃないと受けないかもですが(笑)

高井 >

おっしゃる通り、一般性は乏しいですねえ。「ヤッツンドテライ」も大概ですが、まあ「SFハガジン」の参加者(読者、寄稿者)は皆、古くからのSFファンですし、平均年齢は還暦をオーバーしていますから。

『日本アパッチ族』とか『トリフィド時代』とか、古いSFファンには忘れられない傑作をネタにした作品も書きました。こういうのも楽しいですね。

「SFハガジン」は休刊してしまいましたが、いまも思いつくと短いショートショートを書いています。ある程度溜まったら、1冊にまとめるつもりです。

雀部 >

なんとピンポイントな読者層。当然私もお仲間です(笑)

実は「アニマ・ソラリス」もそういう世代(退職したSFファン)を意識しています。

同じくハガジンから生まれた『漢字の夢』(尾川健著)も出てますね。表題作の「漢字の夢」好きだなあ。でもどこかで読んだ記憶が……。尾川さんもっと読みたいです。

高井 >

尾川くんは熱心な筒井康隆ファンです。古くからの付き合いで、ものすごい読書家ということは知っていましたが、創作をするなんて雰囲気は微塵もなかったので、「漢字の夢」が送られてきたときには驚きました。さらに、それが傑作でしたから、驚き倍増、嬉しさ爆発。

尾川くんに眠っていた「作家」を目覚めさせたのは、「SFハガジン」最大の——と言うと大袈裟ですが、大きな功績ではないかと思っています。ほんと、もっと書いてほしいですね。

雀部 >

堀先生からも“「漢字の夢」は傑作だ”とインタビューの時にうかがいました。

「SFハガジン」ではもうお一方、深田亨さんの『海の中の赤い傘』も傑作ショートショート揃いでした。深田さんの小説は、『鳩男』をはじめ、チャチャヤング・ショートショート・マガジン関連で読ませて貰っているのですが、スタージョン氏を思わせるファンタジックな綺談だけでなく、こういう幅広いショートショートを書かれていたんですね。星先生を彷彿とさせる切れ味を存分に楽しませてもらいました。

高井 >

「SFハガジン・ショートショート集成」を楽しんでいただき、本当に嬉しいです。深田さんは完全に自分なりの手法を確立していて、レベルの高い作品を量産しています。手練れという言葉がふさわしいです。

雀部 >

『DOUBLE DECADE』の中から自選された『幸運ホテル』、傑作揃いです。表題作の「幸運ホテル」はまさかこういうオチになろうとは(驚)

「感情のスイッチ」は、馬鹿馬鹿しくも痛そうなハナシ。筒井康隆先生へのオマージュかとも思いました。

ありふれた日常が、突然不可解で不条理な世界になり、そこでもがきながら対処法を考え出す主人公。でもどことなく悲壮感を感じないのが面白いです。

高井 >

ありがとうございます。

『幸運ホテル』は『DOUBLE DECADE』のなかから、「自分が気に入っている」「掲載誌が重ならない」を基準に選びました。なかでも表題の「幸運ホテル」は大好きです。

「感情のスイッチ」もかなり好きです。おっしゃる通り、筒井さんの影響は大きいでしょうね。もっとも、この作品に限らず、筒井さんの影響は大きいですけど。

雀部 >

『DOUBLE DECADE』の中では、私の好きな下ネタ(笑)の「亀の呪い」と、高井先生の抜きん出た“言葉遊び”の才能が発揮されている「擬態語」とか「ニホン語」も面白かったです。こういう言葉遊び系の作品を書くときには、どういったところに気をつけてらっしゃるのでしょうか。

高井 >

気をつけているところ……。特に、考えたことはありませんね。どんな語句を使うと効果的か、それはかなり考えます。

雀部 >

そうなんですか。特に何も考えないで書けるんですね。

私は今まで存じ上げなかったのですが、高井先生のSFの師匠岡田正也さんの『SF雑誌99の謎』とか『岡田正也コレクション』は、大伴昌司先生とか野田大元帥の本とはひと味違った良さがあって、もっと早く知っていたらなあと……。内外の作品に登場するベムの紹介と考察は大変面白いです(知らない作品も多々あるし)

高井 >

高校1年のときに岡田さんと知り合えたことは、私のSF人生において、とても大きいです。私のSFに対するスタンスは岡田さんに作られた、と言ってもいいかもしれません。

「ベム」というファンジンを出されていたことからもわかるように、岡田さんは宇宙生物に並々ならぬ情熱を傾けていました。今年中には、岡田さんの宇宙生物に関する論考を1冊にまとめた本——『宇宙生物分類学・完全版』を出す予定です。否、出したいと思っています。1965年に発行された私家版『宇宙生物分類学』に、その後に書かれた関連論考を加えた完全版。これは抜群に面白いので、ご期待ください。

雀部 >

よ、予約します!忘れる可能性大なので(汗;)

故若尾天星さんの遺稿集「名古屋ファンダム史」と「天に輝く星のごとく」も読ませて頂きました。「名古屋ファンダム史」のなかに、“1968年に、海部郡蟹江町に文学会「レア」が結成された”との記述があり、同町は大学時代の親友の地元(現在もここで開業してます)で、何回か行ったことがあるので、ちょっと電話して聞いてみようかと思いました(親友は当時17歳)。

若尾さんも岡田正也さんをSFの師匠と仰ぐ方みたいで、高井先生とは兄弟弟子というか盟友のような存在だったんですね。SFファン活動が盛んだった頃の熱気が伝わってきて、ワクワクします。

高井 >

学生時代からの付き合いって、いいですよね。なんか安心するというか。

若尾さんと知り合ったとき、私は高校生でしたが、若尾さんはすでに社会人でした。ファンとしての年季・レベルが段違いで、最初は雲の上の人でしたけれど、徐々に距離が近づき、気楽に話せる仲になりました。いま思っても、いい出会いでした。

おっしゃる通り、若尾さんと私は兄弟弟子と言ってもいい関係だったと思います。そのあたりのあれこれは、「SFハガジン」号外——これは〈天★CON〉の会場で配るために作ったのですが——に簡単にまとめてあります。スキャン画像をお送りしますので、よろしければお読みください。

雀部 >

ご送付、ありがとうございます。こういう交友に憧れを抱いている引っ込み思案なSFファンはたくさんいらっしゃると思います。過去にそれが出来なかった私が言うのも何なのですが、皆さん“思い立ったら行動あるのみ!”ですよ(汗;)

高井先生、今回もインタビューをお受けいただきありがとうございました。

すみません、厚かましいお願いがあるのですが……

下ネタショートショートをもっと読ませて欲しいです。元気を取り戻したいアラカン世代向けだと更に嬉しい(笑)

内輪ネタになるかもですが、何か事件が起こってSFファンが活躍して事件を解決に導くという、高井先生にしか書けないような小説とかも(翻訳ものにはありました。日本にもあるかも知れませんが)

高井 >

こちらこそ、ご指名いただき、ありがとうございます。

シモネタ・ショートショートですか。短編はけっこう書きましたが、ショートショートはあんまり書いていないような……。『神々のビリヤード』には90編が収録されていますけれど、シモネタはほんのわずかです。まあ、何か思いついたら、書こうと思います。期待せずにお待ちください。

SFファンが活躍する小説……。内容、すっかり忘れておりますが、『インフェルノ—SF地獄篇—』や『暗黒太陽の浮気娘』って、そんな話ではありませんでしたっけ。

雀部 >

『インフェルノ—SF地獄篇—』はちょっと毛色が違うのですが、『暗黒太陽の浮気娘』は、SFコンで殺人事件が起こってという話ですので、まさに(笑)

高井 >

日本だと……。ファンジンですが、南夕介・和木明「SFの朝」なんて怪作もありましたね。福島正実「SFの夜」のパロディ、と言っていいのかな。私がファンダムに足を踏み入れる前に発表された作品で、その当時のことは知らないのですが、ファンダムではけっこう話題になったみたいです。

雀部 >

なんと、ファンジンにはあったんですね。

高井 >

私はどうかなあ。SFファンが主人公の作品を書いたことがあるような気もするし、しかし書いてないかもしれないし……。正直なところ、自分が何を書いてきたのか、よく覚えていないのですよ。この先、書くことは可能ではないかと思いますが、SFファンである必然性のある内容となると、難しいかもしれません。こちらもまあ、何か思いついたら書きます。

雀部 >

SFファンが主人公というのは今回読ませて頂いた中にもあったと思います。

新作、期待しております。当然長い作品も。SFファンが主人公で、下ネタ系だとさらに嬉しい(品性が疑われますね(汗;))

[高井信]
1957年名古屋生まれ。東京理科大理学部卒。79年に「奇想天外」誌にショートショート二編が掲載され、作家デビュー。今回取り上げた以外にも『ショートショートの世界』『名古屋の逆襲』『ショートショートで日本語をあそぼう』『ダモクレス幻想』『超能力パニック』『スプラッタ・ラブ』等の作品集がある。90年以降は、ロールプレイングゲームに材を取ったファンタジーでも活躍、『風雲のズダイ・ツァ』『女王アイラスの受難』等の長編や、「ソード・ワールド・ノベル」「妖魔夜行」といった連作シリーズでも活躍。
近年はインタビューでも取り上げている私家版作品集の出版を多く手がける。
日本SF作家クラブ、日本推理作家協会会員。
[森東作]
1955年生まれ。主な所属グループは、SFファングループ資料研究会、宇宙塵、SF&AFC TRITON等です。大学の時は中央大学SF研究会に入っていました。好きな作家は光瀬龍、小松左京、星新一、眉村卓・・・といった方々です。海外物ではスペオペ系が多いですね。
[雀部]
1951年生。OSFFC(岡山SFファンクラブ)会員、ハードSF研所員、コマケン幽霊会員。
例会、SFコン等には数えるほどしか参加経験なし。
著者インタビュー本文中に入らなかった書影は「高井信先生著者インタビュー関連書籍」に置いてあります。