Author Interview
インタビュアー:[雀部]
貸し物屋お庸 謎解き帖
『貸し物屋お庸謎解き帖 百鬼夜行の宵』
  • 平谷美樹著/丹地陽子装画
  • だいわ文庫(大和書房)
  • 858円
  • Kindle版858円
  • 2022.12.15発行
「凧、凧揚がれ」“凧の骨を貸してくれ”とやって来た童が心に秘めた願いとは? 
「貸家と散り桜」貸家の仲介を頼まれたが“縁起がいい”はずの仕舞屋に居たのは?
「百鬼夜行の宵」坊主の着物を借りに来た二人組、生兵法は怪我のもととはよく言ったもので
「貸し物卒塔婆」大店の跡取り息子で評判の悪い三人組。卒塔婆を十枚借りに来た本当の理由は?
「信輔と十人」安布団を十組借りたいとやってきた元女衒。お庸の立てた景迹は?
「雪と綿帽子」因縁のある陸奥国神坂家の江戸家老橘が、用人の花嫁衣装を借りたいとやってくる。しかも、背格好が同じだから、お庸に届けて欲しいという怪しい依頼だ。
 お客が求める貸し物の陰に隠れた悩みや事情を見抜いて収めるお庸の景迹(謎捌き)が痛快な、大人気書下ろし時代小説シリーズ
「招き猫文庫」(白泉社)から刊行された既刊四巻の概略はこちら
一作目の『貸し物屋お庸謎解き帖 桜と長持』著者インタビューはこちら(登場人物紹介もあり)
《百夜・百鬼夜行帖》シリーズ 102~107巻
  • 平谷美樹著、本田淳装画
  • 小学館
  • Kindle版、各巻220円
  • 各巻毎の独立した書影と粗筋はこちらから
『渡裸の渡し』2021.4.16
『九つの目の老人』2021.6.18
『聖の思惑』2021.12.17
『宿坊の夜』2022.4.15
『むつとの別れ(上) 八卦置き』2022.6.17
『むつとの別れ(下) 宇曾利山(うそりやま)』2022.12.16
《百夜・百鬼夜行帖シリーズ》前回の著者インタビューはこちらから
百夜・百鬼夜行帖

スマホ等で、書影・粗筋が表示されない方は「平谷美樹先生著者インタビュー関連書籍」から

雀部  >

新年号の著者インタビューは、「アニマ・ソラリス」ではお馴染みの平谷美樹先生です。
 平谷先生、今年もよろしくお願いいたします。

平谷  >

よろしくお願いします。昨年はなかなか本を出せなくて。書いた物はほとんど今年に回ってしまいました。

雀部  >

去年の大きな動きは、《草紙屋薬楽堂ふしぎ始末》シリーズが完結したのと、《貸し物屋お庸謎解き帖》シリーズが大和書房で再開されたことでした(昨年12月に大和書房での2冊目が刊行)
 《百夜・百鬼夜行帖シリーズ》100巻刊行記念インタビューからだと、ほぼ2年経ちました。
 その時に“「百夜百鬼夜行帖」の次の章は、江戸を出る予定です”とうかがっていたので楽しみにしてたら、鬼子母神に関わる事件(100,101巻の『邪教の呪法』) で母を喪い、修行をするために峻岳坊高星と共に津軽へ向かったはずのむつ一行が、江戸に戻ってきて百夜の元を訪れるシーンから始まったので、なるほどと思いましたよ(笑)

平谷  >
色々と忙しくて、不定期刊行にしてもらったので、終わらせるのが遅くなりました。
 宇曾利山(恐山)で、一騒動起こそうと思いまして、ああいう感じになりました。
雀部  >
歳を取ってくると、まあ色々ありますね(汗;)
 本筋とは関係ないのですが、冒頭で百夜が房楊枝で歯を磨くシーンが出てきたので、おおっ、百夜ちゃん偉い!と思いました。商売柄そこは見逃さない(笑)
平谷  >
まだ歯を磨く場面は書いていなかったなぁと思いまして(笑) 江戸時代の風俗をちょっとずつ入れようと。
雀部  >
そうだったんですね。江戸時代の歯ブラシ事情は、和田はつ子先生の《口中医桂助事件帖》シリーズも読んでますし(笑)
 『貸し物屋お庸謎解き帖 百鬼夜行の宵』の冒頭でも、長浜町伝助店(でんすけだな)の様子が描かれていて、昔観ていた時代劇のシーンを思い出しました。
 昨今はTVの時代劇も減ってますね。若い人たちは、文章で描かれただけで長屋の様子とか雰囲気を想像しなくてはいけないので大変だと思います。
平谷  >
そうですね。なので地の文で説明を入れるようにしています。歴史・時代小説を読み慣れた人には鬱陶しいかもしれませんが、基礎知識なしでもある程度理解できるように書いています。
雀部  >

平谷先生は、江戸庶民の日常生活とか風俗とかは、どういった資料をあたられているのでしょうか。←全くの個人的な興味で聞いてます(汗;)

平谷  >
江戸時代であれば、その手の解説をした本がたくさん出ています。「日常生活」だとか「遊郭」だとか、ジャンルごとになったやつ。本屋で「あっ、これについてはよく知らないな」というのを見つけたら買いますし、ネット書店で「こういうジャンルの解説書」というのを色々検索して買ったりします。基本的に専門書というよりは入門書が多いですね。歴史上の人物を扱うときには専門書も買いますけれど。
雀部  >
ありがとうございます。色々出ているから大変だ(汗;)
 とりあえず、最初の一冊として『図解!江戸時代―意外と住みたい?この町と、この時代!』というのを買ってみました。
 庶民の朝餉は、ご飯と味噌汁に漬け物と書いてあり、ああ百夜ちゃんと同じだと納得しましたよ。 
 《百夜・百鬼夜行帖シリーズ》では、新メンバー(?)の久保田五郎右衛門が良い味だしていて好きです。なんかちょっと人を喰ったところもあるし(笑)
平谷  >
ありがとうございます(笑) 「用心棒」や「椿三十郎」あたりの三船敏郎をイメージして書きました(笑)
雀部  >
え、三船さんでしたか。最初、長門勇さん(「三匹の侍」あたり)をイメージして読んでました(汗;)
 「むつとの別れ(上・下)」を読み始めて、これは長門勇さんじゃなくて丹波哲郎さんのイメージかなと思いなおしました。三船さんを含めて皆さん故人ですねえ……(涙;)
 平谷先生は恐山に行かれたことがあるのでしょうか。私は、青森県には観光と私用で何度か行ったことはあるのですが、恐山はまだなんです。興味はあるんですけど……
平谷  >

小学生の頃、家族旅行で行きました。撮った写真の中に心霊写真がありました(笑)
 恐山の景色は一見の価値があります。
 そのうち時間を作ってもう一度行ってみたいですね。

雀部  >
なんと、家族旅行で行かれたんですか。しかも心霊写真が撮れたとは(驚)
 「むつとの別れ」で、八卦占いの当来軒道導が登場したあたりから、驚きの連続ですね。まさか《百夜・百鬼夜行帖シリーズ》でこういう驚愕の展開になるとは思ってませんでした。
平谷  >
むつというキャラクターを思いついた時、ラストはあのように締めくくろうと思ってました(笑)
 ああいうのも、わたしのアイデンティティーの一つですから(笑)
雀部  >
いや~、最近はそのアイデンティティーをなかなか発揮して下さらなかったから(笑)
 107巻で、むつと百夜が離ればなれになり、一区切りがついた感があります。
 しかしこの先、日本全土を揺るがす事件が勃発したら、むつの再登場がありそう?なので楽しみにしてます(笑)
平谷  >
この先はしばらく付喪神の話に戻ろうかなと。日本全土を揺るがす事件を思いついたら、出てくるかもしれませんが、すでに高次元の存在となっているでしょうから、むつとは分からない展開になるんじゃないかな。
 あるいは、大悪霊的な存在で百夜と敵対したりして(笑)
雀部  >
大悪霊になっちゃったら、百夜ちゃんも手に余りそう(汗;)
 『貸し物屋お庸謎解き帖 百鬼夜行の宵』の表題作で、瑞雲がはなった“屁をこいたヤツがいなくなっても臭いはしばらく残る。悪いものも聖なるものも、屁と同じだ”というのは、けだし名言ですね。ものすごく納得(笑)お庸ちゃんも大変だったけど、良い仕事が出来たなぁと。
平谷  >
あの話は、解決を決めずに書いて、お庸と一緒に「どうしたらいいか」を考えました。
 思いついた時は「なるほど」と思いました(笑)
雀部  >

「なるほど(笑)」
 「信輔と十人」は怪異は出てきませんでしたが、江戸の裏世界の話で、これまたなるほどと思いました。一つには、次男が晋輔という名前なので、興味を持ったというのもあります。こちらの読みは、「のぶすけ」で違ってましたが(汗;)
 もうひとつ、蔭間長屋の綾太郎が良い味出していてうれしいし(笑)
 今回初めて出てきた「追いかけ屋」は、実際に江戸時代にあった職業なのでしょうか?

平谷  >
「追いかけ屋」はまったくの創作です(笑)
 蔭間長屋の面々が、わざとらしくなく事件に関わるにはどうしたらいいかと考えたのです。というか、綾太郎の立場になって、いつでもお庸に関わっていられるにはどうしたらいいかと考えたんですが(笑)
雀部  >

なんだ、それでああいう小遣い稼ぎ的な役目が出てきたんですね(笑)
 「雪と綿帽子」では、因縁のある神坂家家老の橘がまたやってきて、婚礼衣装を貸してくれと。まあ魂胆があるのは見えているのですが、おなかの大きくなった腰元の婚礼に使うという話で……
 江戸時代、ほぼお見合いだと思っていたのですが、今のように出来ちゃった婚をするカップルも居たのでしょうか。しかも腰元とは(笑)
 橘喜左衛門の監督不行届が原因じゃないんですか(笑)

平谷  >
江戸時代はけっこう積極的ですよ。出会い茶屋なんていう現在で言うラブ・ホテルが繁盛していましたし(笑)
雀部  >

江戸時代も積極的な人が多かったですね。

文士劇の稽古の最中、インタビューありがとうございました。
 例によって最後に執筆中の作品があったら、かまわない範囲でお教え下さい。

平谷  >
執筆準備をしている作品は幾つかあります。幕末と平安時代と、弥生時代末のお話です。
 来年は、3月、5月、7月に本が出ることになっています。1冊は既刊の文庫化。1冊は江戸時代初期、1冊は大正時代が舞台になります。その中の1冊は伝奇ファンタジーで、SFとアクションの要素も入っています(笑)
雀部  >

おお。伝奇ファンタジー!、楽しみです。もちろん大正時代ものも(笑)

[平谷美樹]
1960年岩手県生まれ。大阪芸術大学卒。2000年『エンデュミオンエンデュミオン』でデビュー。同年『エリ・エリ』で第1回小松左京賞を受賞。14年「風の王国」シリーズで第3回歴史時代作家クラブ賞シリーズ賞を受賞。近著に《よこやり清左衛門仕置帳》《蘭学探偵 岩永淳庵》シリーズ、『柳は萌ゆる』『でんでら国』『鍬ヶ崎心中』『義経暗殺』『大一揆』『国萌ゆる 小説:原敬』、電子版のみで100巻超えの《百夜・百鬼夜行帖》シリーズなど多数。だいわ文庫からは《草紙屋薬楽堂ふしぎ始末》シリーズが出てます。
[雀部]
《草紙屋薬楽堂ふしぎ始末》シリーズ全六巻は完結しましたが、新たに《貸し物屋お庸 謎解き帖》シリーズがレーベルを移って、大和書房さんで始まり第二弾が出ました。Kindle版では冒頭の試し読みも出来ますのでぜひ!