雀部
今月の著者インタビューは、2月15日に大和書房からシリーズ4冊目の『貸し物屋お庸 謎解き帖 髪結いの亭主』を出された平谷美樹先生です。平谷先生、度々ありがとうございます。
2月21日の[エフエム岩手]で放送された「夕刊ラジオ」を聴きましたが、なんと、インフルに罹られていたんですね。
平谷
聞いていただき、ありがとうございます。循環器内科の医者に「インフルに罹ったら死ぬからね」と言われてたので、少しビビりましたが、吸い込む粉薬のおかげで熱も早く下がりました(苦笑)
ワクチンを打ってたから軽くすんだのかもしれません。
雀部
軽くすんで良かったです。
これも「夕刊ラジオ」で聞いたのですが、もうすぐ単行本(書き下ろし文庫本も含む)が100冊に届きそうだとか。
平谷
雀部
もう100冊がくるのですか!100冊目は、どの本にするか決まっているのでしょうか。
平谷
現在、編集者に預けている原稿が2冊分。1冊、書き下ろしを執筆しています。その三冊のうちのどれかが100冊目になります。編集者の返事の順番ですかね。
雀部
処女作がSFだったので、記念の100冊目もSF!というわけには……ダメか(笑;)
恒例の「夕刊ラジオ」での阿部沙織アナウンサーとの朗読は、「火の用心さっしゃりやしょう」(オリジナル抜粋バージョン)を聞かせて頂きましたが、収録作の中からこのエピソードを選ばれたのはなぜなのでしょうか。
平谷
阿部アナとわたしのセリフのバランスですかね。あの話はメインが2人で進むので、一番やりやすいなと思ったのです。
雀部
確かに。一番短いし「えっ、そっち系のオチだったとは!」と騙されました(笑)
朗読と言えば、またクロステラス盛岡で怪談の朗読イベントも開催されるのですね。
平谷
3月23日(土)17:30~です。今回は
ファイナルなので、わたしが最初に怪奇体験した所から語り起こして行こうかなと。
雀部
平谷
たぶん、「百物語」のどれかに書いたと思います。中学時代に「後ろの百太郎」に影響されて――、という話です。
雀部
《百物語》でしたか。インタビューの中では度々話題にはなってますね。
以前にもおうかがいしてるかもしれませんが、江戸時代の貨幣価値がよく分かりません(汗;)
「割れた鼈甲櫛」では、できの良い割れた鼈甲櫛が二両(八千文)。「六尺の釣り竿」では、新品の釣り竿が、小粒(一分金)あれば揃えられるとあります。これは現在ではおおよそどれくらいの金額になるのでしょうか?
平谷
えーと、今、手元に資料がないので詳しい話はできませんが、江戸時代は160年あるので相場が変わります。
だいたい一両7万円くらいで換算しています。度量衡や刻限は()で現代のものに換算したりしているので、お金までやるとうるさくなるなと思って書き込んでいません。
雀部
ありがとうございます。現在と全てのものが同じ割合の価値になるとはいえないし難しいですね。ググると、だいたい「1文×250枚=1朱1朱×4枚=1分 1分×4枚=1両 1両=4分=16朱=4000文」とかなので、当時の釣り竿セットは、2万円弱くらいなのかな。
お庸は、借りに来た客に納得がいかないと、追いかけ屋に頼んで身元とかを確認してるのですが、これは江戸の貸し物屋では普通はやってないとうかがったような?(汗;)
平谷
たぶん、やっていないと思います。そういうことをやっていたという資料は読んだことがないので。だいいち、貸し物屋って薄利ですから、追いかけ屋を雇っていたら赤字になります。「お庸」ではそのあたりはファンタジーです(笑)
雀部
そうかファンタジーだと思えば(笑)
ということは、いちいちお客の調査をしていたらさらに利益率が悪くなってしまう。湊屋両国出店では、どれくらいの割合で不審な案件が出ているのでしょうか?(笑)
平谷
問題の無い貸し物については書いていませんが、そっちの方が断然多いはずです(笑) 「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵は、在任期間ではさばききれないほどの犯罪を解決しています。フィクションですからそれでいいと思います。
雀部
そりゃそうですね。その昔、「事件記者」という人気番組を家族で見ていたのですが、毎週殺人事件が起こるので、都会とはいえ多すぎないかと話してました(笑)
今回からお庸さんが少し大人になった(回りに配慮することが多くなった)ことを示す下りが何度か出てきます。「凶刃と大火鉢」では、お庸が本店の湊屋清五郎と久しぶりに対面したとき、自分の変化に気づくシーンもありました。
平谷
お庸は巻を重ねる毎に少し年をとっていますが、ラストに用意している事件までの間、これからはあまり年をとらなくなると思います(笑)
雀部
それは筋立ての都合上なのか、それとも短い期間に事件が立て込んで勃発するのか気になるところではあります。
目次の裏の◆人物紹介◆に橘喜左衛門の名前があったので、今回また悪さを仕掛けてくるのかなと思ったのは内緒です(笑)
平谷
「次の巻も」と言われれば書きますので(笑)
神坂藩の件については、もう「おそらくこういうことでは」と読者が察するくらいまで書いていますから、次に書くのは「第1巻からの伏線回収」になります。つまり、最終回。
ですから「次の巻で終わりにして下さい」と言われたら書くことになります。
こういう裏事情、話してもいいのかな(苦笑)
雀部
ということは、まだ《貸し物屋お庸》シリーズは続くと言うことですね(笑)
ラストに用意されている事件は、きっと神坂家がらみだと確信してました!
平谷
雀部
ありゃま、そうなんですね。まあお庸さんも面倒なことに巻き込まれたものです(汗;)
そういえば、《百夜・百鬼夜行帖シリーズ》のほうも108巻目の「金属の風車」では、百夜さん、江戸に戻ってました。109巻目は「明け方の風」で二冊ともに付喪神のお話しということで、わりと穏やかな(?)展開になってます。
外国にも付喪神的な怪奇現象はあるのでしょうか。
平谷
「物に霊が憑く」というのはありますが、物が妖怪になるという物語があるのは、アニミズムが存在する国だけでしょうね。
雀部
そうかアニミズムなんですね。確かに、物に霊が憑くのもはありそう。
前作で日本全土を揺るがす大事件に関わったので、百夜さんもお疲れだろうという作者の親心だと思いました(笑)
平谷
話が大きくなっちゃったので、原点に戻ってという「作者のもくろみ」です(笑)
雀部
百夜ちゃんの活躍も引き続き読めそうで、一安心。
それはそうと、お庸ちゃんと百夜ちゃんが同じ事件で関わりを持つ物語は実現出来ませんでしょうか。出版社をまたぐから無理でしょうか(汗;)
平谷
残念ですが、時代が違います。お庸は元禄。百夜は文政です(笑)
百夜に、お庸の幽霊でも出しますか(笑)
雀部
時代が違って、お庸ちゃんのほうが先輩なんですね。家神になった「りょう」(生まれずに亡くなったお庸の姉)を介してなら可能になるかも!(笑)
そうだ聞き忘れてました。岩手県ゆかりの小説家で、著作が100冊を超えるのは平谷先生が三人目とうかがいましたが、先人のお二人は、野村胡堂先生と高橋克彦先生でしょうか。
平谷
雀部
柏葉幸子先生、ごめんなさい。アニメ化された作品もあるのに(大汗;)
それでは平谷先生、99冊目、100冊目を楽しみにお待ちしております。
[平谷美樹]
1960年岩手県生まれ。大阪芸術大学卒。2000年『エンデュミオンエンデュミオン』でデビュー。同年『エリ・エリ』で第1回小松左京賞を受賞。14年「風の王国」シリーズで第3回歴史時代作家クラブ賞シリーズ賞を受賞。近著に《よこやり清左衛門仕置帳》《蘭学探偵 岩永淳庵》シリーズ、『柳は萌ゆる』『でんでら国』『鍬ヶ崎心中』『義経暗殺』『大一揆』『国萌ゆる 小説:原敬』、電子版のみで100巻超えの《百夜・百鬼夜行帖》シリーズなど多数。だいわ文庫からは《草紙屋薬楽堂ふしぎ始末》シリーズが出てます。
[雀部]