Author Interview
インタビュアー:[雀部]
AI法廷の弁護士
『AI法廷の弁護士』
  • 竹田人造著
  • Re°(RED FLAGSHIP)カバーイラスト
  • ハヤカワ文庫JA
  • 1100円(税込)
  • Kindle版1078円(税込)
  • 2024.4.10発行
 近未来の日本。誤解なく、偏見なく、正義を確実に執行すると同時に、裁判を省コスト化・高速化し、広く国民に方の恩恵を行き渡らせる――そんな触れ込みでAI裁判官が導入された社会。そんななかで、弁護士機島は、AIの弱点を逆手に取った弁護術で不敗を誇っていた……
『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』
  • 竹田人造著
  • ttlカバーイラスト
  • ハヤカワ文庫JA
  • 1078円(税込)
  • Kindle版970円(税込)
  • 2020.11.19発行
第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞
 首都圏ビッグデータ保安システム特別法が施行され、凶悪犯罪は激減したにもかかわらず、親の借金で臓器を売られる瀬戸際だった人工知能技術者の三ノ瀬。彼は人工知能の心を読み、認識を欺く技術(Adversarial Example)をフリーランス犯罪者の五嶋に見込まれ、自動運転現金輸送車の強奪に参加する
人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル

スマホ等で、書影・粗筋が表示されない方は「竹田人造先生著者インタビュー関連書籍」から

雀部  >

今月の著者インタビューは、第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞を受賞された 『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』を2020年に刊行。その後2022 年に『AI法廷のハッカー弁護士』出された竹田人造先生です。竹田先生初めまして、よろしくお願いいたします。

竹田  >

よろしくお願いします。ちょうどインタビューされ欲が沸いたタイミングでした。ありがとうございます。

雀部  >

ちょうど、今月(2024/4月)『AI法廷の弁護士』(改題)として文庫化されたので、良いタイミングになりました。文庫化、おめでとうございます!
 以前、インタビューを受けて頂いた作家の先生から「文庫化は、独立した子どもが仕送りをしてくれるようなもので、大変うれしい」とうかがったことがあります。

竹田  >
ありがとうございます!
 正直極めて不労所得って感じかつ感想とかまたもらえるので嬉しいですね。帯と解説が追加されるのも作者的にはかなり嬉しいです。
雀部  >
文庫版では新たにミステリ評論家の千街晶之先生(SFマガジンの書評欄でもお馴染み)が解説で絶賛されてますので、そのまま引用した方がわかりやすいのですが(汗;)
 最初に感じたのは、バディものとしての面白さ。スカパーでアメリカのミステリ系やアクション系のドラマをよく見るのですが、リーガル系の「スーツ」などにも通じる面白さを感じました(勝利至上主義の敏腕弁護士と犯罪歴のある完全記憶の青年。主人公は超一流ブランドのスーツを着てるという(笑))
 主人公の機島雄弁は、世間からはさんざんな言われようですが、根底では法曹界を良くしようとして闘っている一面もあり、ただの性格が悪いだけの弁護士ではない。まあ、ついでに儲かるならそれに越したことは無い(笑)
 一番受けたのが、日本のAI裁判官制度(システム)が、アメリカのものをそのまま丸ごと導入したものという。これはもの凄くありそうで怖いですね。
竹田  >
司法制度がかなり違うので流石になんらかのブレーキがかかるとは思いますが、現状AIの輸入先としてはどうしてもアメリカ一択ですからね。
雀部  >
しょうがないところではあります。
 『5G』所載の「座談会」を拝見すると、ゲンロンSF創作講座5期(2020)を受講されたときには、既に『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』でデビューされていたんですね。
竹田  >
 正確には、申し込みの時にはまだ結果待ち状態だったんです。元々受講生だったんですが、初回講義の直前にデビューが決まって、聴講生に変えて貰いました。実際受講して勝てたかはともかく、他の方々のデビューの可能性をわずかにでも奪っちゃったら良くないかなと…。
雀部  >
そうなのですね。出版に向けて色々詰めなければいけないし、ご多忙になる時でもあるだろうし。
 受賞作の『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』は、ハリウッド映画的な進行とカット割り(?)が印象的なのですが、お好きな映像作家や映画等がありましたら、お教え下さい。“強力わかもとの広告”は『ブレードランナー』でしょうけど(笑)
竹田  >
悪人がどうしようもなくなるのを見るのが好きなので、スコセッシ監督の映画はもう大好きなのですが、作風的に意識して寄せていたのはガイ・リッチー監督の初期の方の作品ですね。あとはもうかなりストレートにオーシャンズシリーズやHEATやら有名所犯罪映画の影響を多分に受けてます。
雀部  >
《オーシャンズ》シリーズといえば、賭博というかカジノが舞台なのですけど、勝負のシーンはいつの時代でもスリルがあって魅力的ですね。もちろんけしからんという意見の方もいらっしゃるでしょうが(汗;)
 SFでも、古くは『死の世界 1』(ハリイ・ハリスン 1967)の冒頭とか、日本でも『マルドゥック・スクランブル 排気』(冲方丁 2003)あたりはもうワクワクして読みました。『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』もカジノが舞台で、あっと驚く方法で敵を欺くシーンが出てきてとても面白かったです。
 主人公の三ノ瀬君は自己評価は低いけど、実は技術者としてなかなかの能力の持ち主のような気がしますがどうなのでしょうか?
竹田  >
三ノ瀬君、実際いたら相当有能だと思います。やや面倒くさい性格はしていますが、あのぐらいは普通にいますからね。
雀部  >
性格は普通にありえると(笑)
 フレーム問題や機械学習については、森下一仁先生が『思考する物語 SFの原理・歴史・主題』(2000)の中で、ミンスキーのフレーム理論をSFに適用するという離れ業をやった頃から注目してたのですが、まだAIの能力的には解決しえてないのですね。
 竹田先生的にはいつ頃にはめどが立つように思われますか。まだまだ何段階かのブレークスルーが必要なのでしょうか。
竹田  >
実を言うと、私はそもそも人間がフレーム問題を解決出来ていない派です。学んだ範囲、知覚する範囲の事柄にしか対応出来ないというのはAIも人間も同じで、人間が解決出来ているように見えるのは単に初期パラメータが優秀だからじゃないかと思っています。
 真にフレーム問題を解決した知能が出来たとしたら、きっとそれにはタイムマシンが内蔵されていたり、6×9=42と計算したりするのではないでしょうか。
雀部  >
人間は都合良く忘れたり、無視したりすることができるからかな(笑)
 10億ゲット作者の思う『編集者は敵なのか』で書かれている“識別境界(判断の分かれ目)”に関係したお話しなのでしょうか。
竹田  >
そうですね。データが密に集まったところには良い識別境界を書けて、そうでないところはうまく識別できないというのは、人間もAIも共通だと思います。
雀部  >
 ありがとうございます。
 タイムマシンはさておいて、「6×9=42」は四則計算から離れたOSになるということなんですか?(さておいて良いのかどうかはわかりませんが)
 というのは『岸和田博士の科学的愛情』(トニーたけざき著)というマンガを読んでいて、ロボットが“3x6=17”とやるシーンが出てきて笑った記憶が。
竹田  >
あ、すいません。銀河ヒッチハイク・ガイドの地球を使って作られた最強計算機ディープ・ソートの出した生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答えネタでした。究極の疑問が6×9で、答えが42だったはず……。
雀部  >

有名なネタを忘れてました(汗;)
 ということで、その他のお好きなSF作家とか作品がありましたらお聞かせ下さい。

竹田  >
基本コメディ好きでして、『銀河ヒッチハイクガイド』シリーズが大好きです。宮澤伊織さんの『ウは宇宙のウ!』から元ネタ探し的に入ったのですが、未だに調子悪い時にグリス塗る感覚で読み返してます。でも話の筋を空で言えません。
 SFもコメディもある小説で言いますと、宮内悠介さんの『超動く家にて』や『スペース金融道』も腹抱えましたね。それから小川哲さんの『ゲームの王国』の輪ゴムや土の件にドはまりしまして、真似して『AI法廷』にも登場人物紹介を入れさせて貰いました。あと田中啓文さんの『銀河帝国の弘法も筆の誤り』は初読で一番笑った小説だと思います。
雀部  >

著作にしっかりとコメディ要素が入っているのは、そういうわけでしたか。田中啓文先生のはコテコテの大阪的笑いなのでちょっと意外な気もしますが(笑)
 『AI法廷のハッカー弁護士』にもコメディ要素たっぷり入ってますね。
 早川書房のインタビュー記事に“性格の悪い奴らが性格の悪いことをやりあう話”と書いてあって、なるほどと(笑)
 個人的には性格が悪い奴というよりは、「おのれの信念を貫く」ただ、その信念が普通ではない人たちと思いました。その変なところがとても魅力的ではないかと思うのですが(笑)

竹田  >
ありがとうございます!
雀部  >
本作とは直接関係ないのですが、文中に碁のAIである「Alpha Go」の話が出てきます。最近は将棋の藤井八冠が「AI超えの手を指したと指さないとか」の話題も漏れ聞きます。 実は、PCに現在最強CPU将棋ソフト『水匠』と最強GPU将棋ソフト『dlshogi』をインストールしているのですが、CPUとGPUの両方を使うソフトというのは開発が難しいのでしょうか。
竹田  >
一般的にはGPUを使っているソフトはCPUも使っているはずです。
 行列計算の部分をGPU、残りはCPUという感じです。なるべく多くの処理を高速なGPUに渡すので結果的にほぼGPUだけ働いているように見えますが、CPUもサボっているというわけではないはずです。じゃあなんでCPUだけでも強いソフトは強いのかというと、CPUで動く浅いニューラルネットの評価関数NNUEが軽くて凄くて沢山局 面を読めてαβ探索がガンガン進むということがまぁ大きいんじゃないかと思うのですが、詳しい人に聞いて頂けると……。
雀部  >

 専門外のことをうかがってすみません。確かに、どちらか一方だけ働いてるというのは無いですね。
 作中に“無料の昼飯なんてうまい話は無い”と書かれていて、オールドSFファンとしては、すぐにハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』を思い出してニヤリとしました。
 「タンスターフル」という言葉もこの小説で知ったのですが、「ノーフリーランチ定理」として組合せ最適化の領域の定理を表す言葉にまでなっていたとは(驚)
 リーガルSFというと、「幽霊裁判」(「小説現代11月号所載)も幽霊(模倣人格)を証人として出廷させ裁判をするという、見たことも聞いたこともない設定に驚きました。←嬉しい驚きです(笑)
 11月号はリーガルミステリー特集ということで、様々な種類の作品が載っていたのですが、「幽霊裁判」が一番ぶっ飛んでいて面白かったです。
 リーガルSFを書かれるにあたって、特に気をつけられていることは何でしょうか。

竹田  >
リアリティラインの提示でしょうか。(取材はしたものの)正確な描写には限界がありますので、初手で法廷にでっかいサーバーがありますと宣言して読者の方に肩の力を抜いて貰おうと思いました。
雀部  >

 冒頭の登場人物紹介コーナーでも肩の力を抜きました(笑)
 文庫本の解説中に昨年(2023年)東大の有志によって企画・実演された「AI法廷の模擬裁判」のことが書いてあったので、youtubeで見てみました。それとSFマガジン掲載(2023/8月号)の「『AI法廷の模擬裁判』企画対談 安野貴博×竹田人造」も読ませていただきました。
 現実がそこまで来ている!
 価格も半額(Kindle版も半額)になり、お求めになりやすくなったので皆様この機会にぜひ。
 最後に、公開可能な範囲でかまわないので、近刊予定とか執筆中の作品がありましたら、ご紹介下さい。個人的には、引き続き性格の悪い上司と何気に出来る部下のコンビものが希望です(笑)

竹田  >
宣伝ありがとうございます! 次作もなんらかのコンビは出てきそうです。そういうのが好きなので……。
雀部  >

期待してます。
 個人的には、こんどは刑事もの(警察もの)が読みたいです!

[竹田人造]
 1990年、東京都生まれ。2018年に「アドバーサリアル・パイパーズ、あるいは最後の現金強盗」で第9回創元SF短編賞新井素子賞を受賞。2020年、同作を抜本的に改稿して長篇化した『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』で、第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞を受賞し、デビュー。

[雀部]
★「AI技術者、SFを書く。竹田人造インタビュー」2022.5.24
早川書房によるインタビュー記事