Author Interview
インタビュアー:[雀部]
A_KLL1
『Anchor KLL NO.1』
  • 神戸文芸ラボ/シオタデザインオフィス装丁
  • 神戸文芸ラボ(略称「KLL」)
  • アマゾンオンデマンド
  • 1760円(税込)
  • 2024.6.3発行
【収録作】 ◆作者:まつもとみか「スルーのない彼」
◆作者:渡邊 純代「京都鉄道博物館」「魔改造の夜」エッセイ,「僕は騎士」「マッチングアプリ」「アフタークリスマス」「春の訪れ」短編
◆作者:東野 尚子「聞かせて付喪神」「ささやき女将バージョン2.0」
◆作者:山崎 好志子「寄り道しよう」
◆作者:高鍋 学「一人歩き旅『沖縄トコトコ道中記』」「一人歩き旅の身体のトラブル」
◆作者:石坪光司「時の崖」
◆作者:堀 晃「大阪SF八景ーSF的想像力を刺激する大阪の景観-」
◆作者:上坂京子「戯曲 たねのあかし」
◆作者:木下昭南『長編 草物語 ー野犬連合盟主「虎」-』
簡単な『Anchor KLL NO.1』の紹介
「循環 - Genesis SOGEN Japanese SF anthology」 創元日本SFアンソロジー2020 Kindle版
  • 堀 晃著
  • 東京創元社
  • Kindle版、315円(税込)
  • 2020.8.31発行
 大阪湾の淀川河口から10キロほど上流にある毛馬閘門(南の大川へ分流させるために水面の高さを調節するエレベーター機構)のほとりで語られる、半日たらずの静かな物語。著者自身を思わせる語り手が半生を回想しつつ、水の街・大阪をめぐる歴史と幻視が挿入される。物語の鍵となるのは、毛馬閘門の最初の設計者となった人物と、語り手が二十代のころに会社の片隅で見つけた奇妙な道具。
循環

インタビュー中に出てくる関連書籍は「「大阪SF八景―SF的想像力を刺激する大阪の景観―」関連資料」から

雀部 >

「Anchor KLL No.1」に掲載されている「大阪SF八景―SF的想像力を刺激する大阪の景観―」の内容が面白いし興味深かったので、本体の紹介とは別枠で堀先生にインタビューをお願いしてしまいました。
 堀先生、毎回ありがとうございます。今回もよろしくお願いします。
 そもそも神戸文芸ラボ(Kobe Literature Lab;略称KLL)に関わるようになった経緯についてお教えくださいませんか。

堀  >

よろしくお願いします。
 神戸文芸ラボ(KLL)の母体は、神戸新聞文化センター(KCC)にあった「物語・エッセイ」の講座です。長年、眉村さんが担当されてきたんですが、2018年に体調を崩されて、私の方に講師役の打診があったのです。他の講座でも講師の交替や休止があったようです。たしか心斎橋大学の講座は田中啓文さんが引き継がれるとか。

雀部 >

そうなんですね。「心斎橋大学公開講座」を見てくると、凄い陣容で驚きました。田中啓文先生は「ジャンル小説コース」の講師で、他にも牧野修先生が!「創作・小説コース」には、北野勇作先生と田中哲弥先生が!
 「神戸新聞文化センター」のほうは、高井信先生の講座が二つありました(高井信のエッセイ教室と高井信の小説講座)
 オンライン授業が無いのが残念ですが、神戸は近いから行けるかな~。
(朝日カルチャーセンターでやっていた橋元淳一郎先生の講座は、オンラインで受講したことがあります)

堀  >
引き継いで……辞める人もなく、まあ何とか務まったかなと思いましたが、限界も感じました。SFなら自信がありますが、歴史小説や恋愛小説、エッセイになると、一般読者としての意見程度しかいえませんし、これでギャラをいただくのは申し訳ないというか(笑)。90分講義ですが、その後の喫茶店での議論の方が活発で面白い雰囲気でしたね。
 翌年の2019年秋に眉村さんが亡くなられて、2020年からはコロナ禍で休講がつづいて……そんな事情で講座を休止することにしました。
 ただ、長年つづけてきたメンバーですから……全員が追悼誌『眉村卓の異世界通信』に寄稿されてますし、メンバーの石坪さんは『異世界通信』編集委員でもありましたから……「喫茶店での議論」の雰囲気で、文芸愛好グループとしてつづけようことになったわけです。「神戸の眉村ファングループ」ですかね。私も一メンバーとして参加しています。
雀部 >
収録されている「大阪SF八景―SF的想像力を刺激する大阪の景観―」の冒頭に、“なぜこうも大阪に惹きつけられるられるのか。それは昔から大阪の景観がSFと分かちがたく結びついているからだ。”とありますが、それは精神風土も含めてのお話しでしょうか?
堀  >
うーん、「精神風土」も含めてかというと難しいですね。高校時代はそんな自覚がないというか、大阪へ出て初めて播州龍野の精神風土(三木露風とか三木清など)が自覚できた気がしますから。
 龍野市は姫路と同じ西播磨(セイバンといいますが)で、かろうじて大阪文化圏に入る……ただ言語は大阪弁とは少し違うようで、このあたり、本当に微妙なんです。
 SFではないですが、郷土の偉人・桂米朝師匠を聴くとそのへんが実感としてわかる……というか、私は米朝師匠のいちばんの理解者だ(笑)と自負しているほどです。私が大阪SFに惹かれたのは、若き日の米朝師匠が上方落語に惹かれたのと同じと思っていただければありがたいです。
雀部 >
なんとなくわかります。ということは、「大阪SF八景」は当然のことながら上方落語の演目『地獄八景亡者戯』(米朝師匠が神戸の日本SF大会で演じたことでも有名)からなのですね。
堀  >
「地獄八景」には冥途筋とかPLの花火とか出てきますからね。米朝師匠といえば、サンケイホールでの第一回米朝独演会(1971年)の演目が「地獄八景」と怪談の大ネタ「市川堤」なんです。舞台になった市川は米朝師匠の実家(九所御霊天神社)のすぐ近くなんですね。最初に「市川堤」を聴かれたときに米朝師匠がどう感じられたのかは聞けないままになりましたが。……この話にはつづきがあって、この独演会を会場で聴いていたのが、親父さんといっしょに来ていた十六歳の上田少年、三年後に弟子入りする桂吉朝です。その吉朝さんは三十年後(2002年)に米朝師匠のサンケイの会を引き継ぐんですが、その第一回にかけたのが「地獄八景」と「市川堤」なんです。私がSF風景を継承するなんていうのは、この落語の継承パターンがあったからかもしれません。今、気がつきました。
雀部 >
継承パターンの継続、いいなあ。継承されたSFが、新たなSFを産むと……
 以前のインタビューの際に“ぼくの試算では、関西3府県のSF作家密度は関東4都県の1.7倍なんです。これはなぜなのか。じつはここ数年、大阪の創作講座で、ぼくがインタビュアーになって「関西在住のSF作家にその創作法を聞く」という企画をやってるんです。”とうかがっているのですが、その後の進捗はいかがでしょうか。
堀  >
あ、4年前のインタビューでそんな話をしてますね。
 大阪でやってる創作サポートセンターで、3ヶ月に1回くらい、関西在住のSF作家をゲストに招いて、創作の実技を聞く企画をやってたんです。上田早夕里さん(2016年10月15日)から初めて、かんべむさしさんから円城塔さん、酉島伝法さんらまで、7、8人にインタビュー形式でお話を伺いました。酉島さんの「川で書く」という「実技」もここで披露されたのが最初です。
 田中啓文さんの回、「天王寺公園の図書館で夏に上半身裸のおっさんがゴロゴロ昼寝していた光景」が大阪の記憶の原点なんて、これこそ先ほどの「精神風土」じゃないですか(笑)。
雀部 >
田中啓文先生といえば《鍋奉行犯科帳》シリーズが大好きで、主人公の大坂西町奉行所のお奉行さまが、三度の御膳が最優先で、普段はやる気なしという、いかにも大阪らしいというか(失礼!)まあ、いざとなれば有能なんですけどね(笑)
堀  >
たしかに田中さんの大阪時代物は、歴史的な背景がものすごく調べられているのに、出てくる人物がおかしい。空から裸の力士が降ってきたり(《元禄八犬伝》)、明らかに天王寺公園の原風景が影響してますね(笑)。
 円城さんの「SFマガジンと文学界、同時連載」の裏事情とか、北野勇作さんの回では会場から「フォークリフトの運転法」についての専門的質問がでたり、予想もしない展開でした。
 実は、この企画は、スタート時に「最終回のゲストは眉村さん」と決めていて、眉村さんにも了承をとりつけてました。ところが体調を悪くされて……結果として、眉村さんが亡くなられた後、村上知子さんにインタビューすることになりました。これは『異世界通信』に乗っています。
 今思うと、面白く貴重な話が多いですね。音源はたぶん芝崎さん(創作サポートセンター主宰)が残している可能性が高いので、なんとか形にしたいですね。
雀部 >
芝崎さんって、このあいだ「『梅田地下オデッセイ』でめぐる梅田地下ダンジョン探検」でお世話になった芝崎美世子さんですよね。ぜひ文書化をお願いしたいです。
 「大阪SF八景―SF的想像力を刺激する大阪の景観―」の一番目が「中之島四丁目(大阪市立科学館);手塚治虫『鉄腕アトム』(1953~)」ということで、堀先生がSFとファーストコンタクトしたのが『アトム大使』(1952)なんですね。 私のSFファーストコンタクトは、たぶん実写版『鉄腕アトム』(1959-60)。あまりの出来映えに手塚先生がアニメ化を決意された契機となったという(笑)次の年には実写版の『鉄人28号』もありました。
 大阪市立科学館には「東洋で初めてのロボット」である「學天即」の復元モデルが展示されているのですね(行ったことが無いのでまったく知らなかった^^;)
 かつてはここらあたりに手塚先生が学んだ阪大医学部があったとは(阪大は堀先生の母校でもあるし)
堀  >

手塚先生は北野中学出身ですが、その跡地が済生会中津病院で、ここに去年の秋、前立腺の手術でアソコに尿管を突っ込まれて(笑)四日間入院してました。手塚先生が通われたのは淀川右岸の現校舎ですが、なんだか手塚先生の学ばれた後を追って、こちらは入院を繰り返しているような気になります(笑)。

雀部 >
ここでも継承パターンが(笑)
 私も二年前に前立腺の手術で10日間ほど入院してました。まあ男の宿命です(汗;)
 二番目が「中之島東端(剣先);福田紀一『霧に沈む戦艦未来の城』(1962)」なんですが、この本は全く知りませんでした。X(Twitter)で検索すると、長編版の方の動力機関は「おなら」とありました。中編版のほうは大熊さん(眉村先生とチャチャヤング関連でお世話になりました)が図書館で複写をしてもらっていて、「堀晃さんによると、小松左京『日本アパッチ族』はこの中篇版に触発された部分があるとのこと」。こちらは中之島図書館の蔵書を燃料にして数百台の巨大扇風機を回すんですね(凄!)
堀  >
詳しく検証したいんですが、文藝の「霧に沈む……」掲載号は実家のどこかにあるはずが、見つからないんですよ。福田さんともお目にかかる機会はないままで、小松さんとの京大時代の交遊も聞けずじまいですね。……小松左京マガジンの創刊号(2001年)にエッセイを寄せられていて、小松さんらを連れて「VIKING」の例会に参加した時に「一冊の小哲学辞典になるほどの哲学用語は乱れ飛び」「犬の大げんかのようになり、他のものは呆然」という大混乱になった話を紹介されてます。詳しく聞きたかったですね。
雀部 >
コマケンで福田紀一氏のことを聞いたら、“木田福一といえば、「ぬけ穴考」(『最後の隠密』所載)です”ということで読んだら、冒頭“旧友「上町のキイやん」こと木田福一をたずねる”とありました。「霧に沈む戦艦未来の城」もキイやんが書いたことになっているので、かなりの部分が事実に基づいている気がしました。全然読んだ記憶がなかったですが(汗;)
堀  >
「ぬけ穴考」は短編集になってから読んでますが、これは私も気づかなかった……というか、失念してました。
雀部 >
三番目が「大阪砲兵工廠跡(大阪城公園);小松左京『日本アパッチ族』(1964)」ということで、澤田さんと共に小松先生の「自作を語る」企画でインタビューさせて頂いたので凄く思い入れがあります。大阪城には二度行きましたが、そういう目で見てないので…… 今度行くときにはちゃんと見てきます!
 前述の「ぬけ穴考」にも“小生の旧作「日本アパッチ族」の、がしんたれの主人公に彼の名をそのまま使わせてもらったが”とあり、仲の良さを偲ばせていますね。
堀  >
雀部さんはコマケンのメンバーだったんですね! 「自作を語る」(小松左京マガジンに連載、「小松左京自伝」に収録)は澤田芳郎さんの印象が強かったものだから……インタビューには他のメンバーも参加されてたんですね。詳しいはずだ(汗;)
 小松さんは主に西宮育ちで神戸一中から京大、福田さんは大阪生まれですから、当時は福田さんの方が大阪に詳しかったんでしょうね。
雀部 >

私は途中から参加した口ですから、そんなに詳しいわけでは(汗;)
 福田さん(木田福一)は、前述の「ぬけ穴考」の記述では“さすが大阪は都市の随たる上町に三代住みならわして”とあるので、生粋の大阪人(浪速っ子)であられたのだろうと想像してます。
 「十三のいま昔を歩こう : 大阪砲兵工廠って?」()とか「大阪大空襲」の写真を見ると確かに廃墟になってしまったんだなあと。うちの親父からは「長崎に原爆が投下された日、最初は小倉に落とす予定だったが視界が悪かったので長崎に変更されたんだ」と何回も聞かされました(小倉の歯科医専の学生だった)。母親からは「走って逃げていたらグラマンに機銃掃射された」とも聞いてます(米軍の戦闘機は全部グラマンという名前だと思っていた節が^^;)
 四番目が、いよいよ「梅田地下;堀晃『梅田地下オデッセイ』(1978)」です。
 これは、先日「『梅田地下オデッセイ』でめぐる梅田地下ダンジョン探検」で記憶を新たにしました。
 『大阪ラビリンス』を読まれた方が“「梅田地下オデッセイ」凄い!”とか“これだけ異質な一作だけどこんなSFがあったんだ!”驚かれているのを読むと何かうれしいです。
 入試で大阪に出てこられた時に“大阪の道路は鉄で出来ているのか!”と仰天されたと書かれてますが。

堀  >
大阪駅前から阪神百貨店、阪急百貨店の前を通って曽根崎警察署の前までの部分ですね。ヌルスタジオへ向かう経路です。あの時は、鉄板1枚の下が巨大な穴だとは想像もしませんでしたね。……梅田地下街については、この前の地下ダンジョン探検レポートに詳しいですから、ここは簡単にパスしましょう(笑)
雀部 >

はい(笑) 地下ダンジョン探検レポートの終わりの方に、一番驚かれたという「地下街の換気塔」の紹介も載ってます。
 五番目は、「毛馬閘門;北野勇作『かめくん』(2001)」ですね。北野先生には、四回インタビューさせていただいているのですが、『かめくん』の著者インタビューで“北区SFであることに異論はないです。あと前に住んでいた甲子園口のアパートも混じっています。”とうかがってます。まあこの回だけなんですが(汗;)
 毛馬閘門の昔の写真を見たり、ストリートビューで現在の毛馬閘門のそばの写真を見てみたのですが、どこが一番お好き(SF的想像力をかき立てられる)なのでしょうか?

堀  >
最初見た時に、イギリスの産業革命時代の写真かイラストを連想したんです。毛馬の水門の形もそうですが、手前に古い変電所の建物があって、産業遺跡みたいに見えたんですね。謎の遺跡を発見して、それを発掘していくと意外な背景が……というパターンが大好きで、ハミルトンの『虚空の遺産』とかラインスターの『死都』とか。ぼくもその後、銀河辺境に点在する宇宙遺跡を書いてます。これはSFの原点ですね。
雀部 >
宇宙遺跡を探査していくというと、結晶生命体である“トリニティ”が主人公の『遺跡の声』(堀晃著,2007,創元SF文庫)ですね。今読んでも面白いし、こういうのがSFの醍醐味ではあります。
 さて六番目が『上町台地;牧野修『傀儡后』(2002)」です。牧野先生には『傀儡后』を含めて三回インタビューさせて頂いています。
 しかし『傀儡后』は、舞台が大阪にもかかわらず、インタビューでは大阪との関わりは全然うかがってません(汗;)
 “この作品の不気味さは、安全の象徴みたいな上町台地から病原体がじわじわと斜面を下り、市街地を侵食していくところにある”と堀先生は書かれてますが。
堀  >
確かに大阪の街並み描写は少ないですね。私はよく現場を歩いてましたから、大阪城あたりが危険指定地域、谷町筋が寂れて、話の舞台は黒門や戎橋のあるミナミ、大阪港には大量の「装着住居」をまとった死体……最初の方にこんな描写が出てくるから、上町台の斜面を麗腐病が降りてきたというイメージが全編につきまとうんです。まあ、色々な読み方のできる作品ですから、大阪SFだといっても許されるでしょう。
 大阪をもうひとつ挙げると、これは誰も指摘してないと思いますが、菊田服飾専門学園のモデルは上田安子服飾専門学校ですね。山﨑豊子『女の勲章』のモデルです。映画ではファッション界の女の争いばかり描かれますが、原作は、新しい合成繊維(テトロンですが)をいかに流行させるかという業界描写に重点が置かれてます。私は繊維関係の仕事をしてたから、牧野さんが冒頭でナイロンの発明のことを書かれてる部分で、このつながりがわかりました。その次の新繊維がビロンビロンの皮膚(笑)になるとは想像もできませんでしたが。
雀部 >

そうか、堀先生は敷島紡績(現シキボウ)に入社されたから、お詳しいはずですね。このあたりも、ぜひ牧野先生にうかがいたいところです。
 七番目が「聖天山(阿倍野);眉村卓『エイやん』(2006)」なんですが、これは大阪人でもなかなか気づかないような発見なんですね。ストリートビューで堀先生のお書きになっているルートを順番に見たのですが全く理解してません(汗;)「区の境界」がポイントなんでしょうか?

堀  >
区の境界で高速道路の下、そこから坂道を歩くと学校の横を通る……というのが共通項ですね。どちらにもベンチと灰皿はありません。これは創作ですが、いかにもありそうな雰囲気なんです。このへんはストリートビューでは確認できませんね。眉村さんは、日本橋から谷町筋への学園坂は何度も歩いていてよく知っていた(私も歩いてますから)。阿倍野筋の方を初めて歩いた時に類似性に気づかれたんだと思います。このことは確認できずじまいですが。
雀部 >

なんかもう、眉村先生も堀先生が類似性に気づかれて喜ばれているのではと思います。 最後八番目は、「淀川左岸(此花区);酉島伝法『皆勤の徒』(2010)」です。先日『奏で手のヌフレツン』の著者インタビューの際に読み返したので、まだ記憶が新たです(汗;)
 酉島先生からも、お名前がお住まいの地名にちなんでいるというのはうかがってました。堀先生も言及されている舞洲スラッジセンター(下水汚泥処理場)は「環刑錮」(『オクトローグ 酉島伝法作品集成』所載)等にも反映してますよね。

堀  >
あ、「環刑錮」は完全に泥世界ですね。その次に並んでる「金星の蟲」でも、ズボンの中に泥状の粘弾性体が出る……あれは泥ではなく○ですが(笑)、処理場は同じですよね。ついでに北野勇作さんの『どろんころんど』が中之島。ふたりで大阪を泥まみれにしてしまった印象です。
雀部 >

大阪と泥土は相性が良いのかな(笑)
 堀先生の勤務先であった敷島紡績は創業当時は傳法紡績の名前で、堀先生の最初の赴任地が毛馬(『かめくん』の舞台)だったというのも凄い偶然(必然?)で面白いですね。
堀  >
いやまったく、最初は偶然だと思ってたのが、だんだん必然に思えてきます。最初の赴任地の毛馬と、会社創業の地の伝法、この中間に40年以上住んでいるわけですが、この数年、自分の意志で住みついたのではなく、何か大きな構造に捉えられているという妄想が離れない……というより、ますます強くなってきたような。
 後期高齢者だから、このまま泥世界へ沈んでいくのもいいかなと思う一方、まだ「ぬけ穴」とか別の通路がある気もしてきましてね。眉村さんが発見した異世界への通路とか、酉島さんみたいに体内の泥で宇宙全体を包んでしまうとか(笑)。八景以外にまだまだありそうな気がしますね。
雀部 >

思いつきでお願いしたインタビューに応じていただき大変ありがとうございました。
 ぜひ八十八景くらいまで考察をお願いします。
 ひょっとして大阪とSF作家の隠された因果関係が判明するかも……

[堀晃]
1944年兵庫県生まれ。大阪大学基礎工学部卒。'70年「イカルスの翼」でデビュー。宇宙SFを中心に創作を続け、『太陽風交点』で日本SF大賞、『バビロニア・ウェーブ』で星雲賞を受賞。ホームページは、http://www.sf-homepage.com/
[雀部]
1951年生、歯科医、SF者、コマケン所員、元ソリトン同人
神戸文芸ラボ同人の皆様へのインタビューはこちら→