Author Interview
インタビュアー:[雀部]
夏至の日の客
『貸し物屋お庸謎解き帖 夏至の日の客』
  • 平谷美樹著/丹地陽子装画
  • だいわ文庫
  • 924円、Kindle版906円(税込)
  • 2024.9.12発行
 江戸のレンタルショップを舞台に 口は悪いが情に厚い美形の娘店主が謎捌き!
 読み心地満点の書き下ろし時代小説 第5弾!
 「無い物はない」の看板を掲げる江戸の貸し物屋・湊屋両国出店の娘店主お庸は、 物だけでなく力も知恵も貸してくれる── 今日もそんな噂を聞きつけて、訳ありのお客たちが暖簾をくぐってやってくる。
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《貸し物屋お庸》紹介画像

※『貸し物屋お庸謎解き帖 夏至の日の客』著者インタビュー関連書(書影が表示されない方、その他インタビュー中に出てきた書籍の情報はこちらから)

雀部 >

今月の著者インタビューは、9月に『貸し物屋お庸謎解き帖 夏至の日の客』を出された平谷美樹先生です。前回のインタビューでも話題になったように、これが99冊目の本となりました。いよいよ100冊目ですね(笑)

平谷 >

そうですね――。
 まぁ、来年は25周年ですので(笑)
 25年書いていれば、それくらいの数にはなるかと(笑)

雀部 >
25で割ると年間四冊ですね。
 ググってみたら「作家は年四冊新刊を出さなければならないか」というブログがあって、「一定水準は年四冊」とか書いてありました。
 でもこういう記事になるところを鑑みると、普通は年間四冊に満たないということではないかと(笑)
 今日(9/27)アマゾンでチェックしていたら、100冊目の『天酒頂戴』(小学館)が予約可能になってました。書影はまだのようですが、予約しました。盛岡の大学の同級生にも送ります。
平谷 >
ご予約、ありがとうございます。幕末から明治の東京が舞台です。
 振り返ると、年に11冊出したこともありましたから、4冊に満たないこともたびたびありましたね(苦笑)
雀部 >
一年に11冊は凄いですね。
 来年の一月には『岩手怪談(仮)』(竹書房怪談文庫)という本も出るみたいで、これが101冊目になりますね。
平谷 >
そうなります。12月に出る「国萌ゆる」は単行本の文庫化ですから、カウントしてません。文庫化を入れればすでに100冊は超えていますが。
雀部 >
電子版限定の《百夜・百鬼夜行帖シリーズ》(100巻超え)もありますし。
 9月16日(月)にFM岩手の「夕刊ラジオ」の「ブックシェルフ」コーナーにゲストとして登場されて、この作品の告知と朗読をされたのを聞かせて貰いました。今回は地の文を平谷先生が読んで、お庸と女性客の会話のところを阿部アナが担当されてましたが、昔の録音と比べてみると、平谷先生上手いなぁと。←人様を評価する立場では無いのですけれど(汗;)
平谷 >
朗読、聞いていただきありがとうございます(笑)
 上手くなっているなら嬉しいですね(笑)
 朗読、何度もやってますし、文士劇も出てるので、少しはましになったのでしょうか。
雀部 >
文士劇は拝見したことがないのでわかりませんが、「ブックシェルフ」コーナーでの朗読は阿部アナと勝るとも劣らないような。私もFMの自主制作番組をやったことがあるのですが、超棒読みになっちゃいました(大汗;)
 朗読された「揚屋町の貸し物」は、湊屋の吉原遊郭内にある出店に女郎が赤ん坊を借りに来るという話。本店の清五郎からお庸に相談に行けと言われたといわれたようですが、この件は怪異がらみだと判断してのことなのでしょうか?(お庸ちゃん、霊・怪異がらみ担当役になっていたりして)
平谷 >
今まで色々変な物を借りに来る客を相手にしていて、その報告も上がっているから、「お庸なら」ということで、この時点ではどういう展開になるのか清五郎も判っていなかったはずです。
雀部 >
そうか、清五郎さんもそこまでは推当はできてなかったか(笑)
 令和6年度の盛岡文士劇(11/30,12/1)の第三部(中尊寺金色堂九百年『平泉への道 藤原清衡物語』)に朗読のお相手の阿部沙織アナと共に出演されるんですね。
 11月には記念の100冊目が出版されるし、大忙しなのでは(笑)
平谷 >
新作の執筆は、新聞連載くらいで、あとはゲラチェックですから、忙しいのはセリフを憶えることだけです。
 今回はいつもよりセリフや登場場面が多いので焦ってます。
雀部 >
この文士劇には、なんと脚本家の内舘牧子先生も出演されているんですね。
 ご出身地というだけではなく、内舘茂盛岡市長とも関係があるのでしょうか。
平谷 >
「内舘」という苗字は岩手にはけっこうありますから。たぶん、親戚ではないと思います。
雀部 >
ご親戚だったら面白いかなと思いまして(汗;)
 「夕刊ラジオ」でも知されてましたが、10月6日上演の第14回金ケ崎町民劇場『白詰草の咲く頃に』にも脚本アドバイザーとして名を連ねてらっしゃるんですね。
平谷 >
シナリオのスタッフが集めてきた資料をもとにして、プロットを書きました。セリフを入れればおおよそ完成する程度のプロットにしました。
雀部 >
昨年の講演は平谷先生の『でんでら国』を現代風にアレンジした「でんでらカントリー~衛星写真に写らない郷(さと)~」でした。
 ところで、今回収録された五作品のうち二作品が怪異がらみということなのですが、江戸の人たちはこういう怪異をどう思っていたのでしょうか。
 というのは、7月に『【図説】怪異百物語 江戸東京篇』(湯本豪一著)という本を読んだところ、「怪異が出たところに江戸っ子が大勢で押しかける」という記述があり、面白がっている側面もあったのではないかと。
平谷 >
エンタメの一つだったと思います。テレビもネットもない時代です。芝居は観劇料が高いですし、長いですから、お手軽な娯楽として怪異、怪談は楽しまれたんじゃないかなと思います。
雀部 >
明治になっても、野次馬が何百人も集まって屋台が出た事例もあるようですから、元々江戸っ子はそういうことが好きなのかも知れません(笑)
平谷 >
拙著『鍬ヶ崎心中』にも書きましたが、宮古港に軍船が入って来ると、見物人が押し寄せ、屋台も並んだそうです。
 これから出る作品には、上野戦争が終わった後に、放置された彰義隊の死体を大勢の庶民が見物しに行ったという場面が出て来ます。これは、資料をもとに書きました。
 いつの時代も日本人は物見高いんです。
雀部 >
現在でも日本人のゴシップ好きは変わってないような(笑)
 でも、遺体の見物は、いくら物見高くてもちょっと悪趣味かも(汗;)
 江戸時代の話は、狸・狐に化かされたとか、幽霊・亡魂だったとかのオチがついているものが多いけれど、明治になってからは事実(?)のみを報道しているものがほとんどですね。話としてはオチが付いていた方が面白いですけれど。
 そういえば、《草紙屋薬楽堂》シリーズシリーズの中でも、“人は怪異はないという話よりも、柳の下に立つ、美人の幽霊の話を好むのでございます”とありました。
 『貸し物屋お庸 夏至の日の客』でお庸ちゃんはまだ若いのに、《草紙屋薬楽堂》シリーズの金魚さんばりの冴えた景迹(推量すること)をみせて成長著しいです。
 金魚さんと言えば、“理屈っぽい男は、事を難しく考えようとする”との名言が印象に残ってますが、これはSFファンにはお馴染みの「オッカムの剃刀」ですよね。特に今回、怪異がらみの案件か、怪異に見えるが実は科学的に解明できるかの判断が冴えてました。
平谷 >
お庸も場数を踏んでますから(笑)
雀部 >
現場で修行したのか、させられたのか(笑)
 そもそも江戸時代、女性の学問はどの程度推奨されていたのでしょう?
 お庸ちゃんも寺子屋で読み書きそろばんを習ったのかなと思いまして……
平谷 >
武家の娘は「嫁入りのための教育」が重要視されました。庶民の娘は「生きていくための教育」、読み書きそろばんが主でしょう。そんな中で、たとえば本草学とか医学とかを学ぶ女性は希であったでしょう。
 明治維新後も、女子教育は「よき妻、よき母になるためのもの」というものが常識でしたから。津田梅子氏などは例外中の例外。だからこそ、女子教育に力をいれたのでしょうけれど。
 女性が学問をするなどというのは言語道断という時代でしょうね。親がよほど学問好きで超先進的な考え方をもっていなければ奨めはしないでしょうね。
 お庸については普通の町娘同様で、近所の寺子屋で読み書きそろばんを習った程度だと思います。
雀部 >
ふむふむ、ということは、お庸ちゃんは地頭が良いということですね。
 経験を積んで、更なるパワーアップを期待してます。
 今回も家神修行中の「りょう」(生まれず亡くなった庸の姉)の登場が無かったのですが、修行は相当厳しいのでしょうか?
平谷 >
おりょう姉さんは、そろそろイエガミになれそうですね。なかなか出て来てくれないくらい忙しいようで(笑)
雀部 >
再登場を待ちかねてます(笑)
 《貸し物屋お庸》や《草紙屋薬楽堂》シリーズ(他にも《百夜・百鬼夜行帖シリーズ》)等江戸の怪異を扱ったシリーズがありますが、被らないようにネタ帳とかはつけてらっしゃるのですか?
平谷 >
「薬楽堂」は、「怪異はすべて人の仕業」でしたし、「百夜」はその多くが付喪神。「お庸」は貸し物に絡む話ですが、付喪神というオチにしなければ、同じ品物でも話が被ることはまずありません。
雀部 >

なるほど、被らない仕様になっていたんですね(汗;)
 百夜ちゃん、ちょっと止まってますが、こちらもそろそろ再開希望です(笑)

平谷 >
百夜は今、書いている途中です。10月中にはなんとかしようと思っています。
雀部 >

お待ちします。
 やはり今回は、赤ん坊を借りに来る話が一番謎めいていて面白かったです。
 切ないなぁとしみじみ……
 ぜひ皆さんに読んで貰いたい一編でした。 

平谷 >
ありがとうございます。FMの朗読も、その冒頭を読みました。
 以前は母親を借りる話があったので、次は父親かな(笑)
雀部 >

読者が全く想像もしてないものを借りに来る話をいっぱいお願いします(笑)

[平谷美樹]
 1960年岩手県生まれ。大阪芸術大学卒。2000年『エンデュミオンエンデュミオン』でデビュー。同年『エリ・エリ』で第1回小松左京賞を受賞。14年「風の王国」シリーズで第3回歴史時代作家クラブ賞シリーズ賞を受賞。近著に《よこやり清左衛門仕置帳》《蘭学探偵 岩永淳庵》シリーズ、『柳は萌ゆる』『でんでら国』『鍬ヶ崎心中』『義経暗殺』『大一揆』『国萌ゆる 小説:原敬』、電子版のみで100巻超えの《百夜・百鬼夜行帖》シリーズなど多数。だいわ文庫からは《草紙屋薬楽堂ふしぎ始末》シリーズが出てます。
[雀部]
 いよいよ99巻目ですね。《貸し物屋お庸》も、だいわ文庫では第五弾の運びとなりました。
 12月には『国萌ゆる 小説 原敬』が文庫化されます。文庫化は冊数に入っていませんが。
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