Author Interview
インタビュアー:[雀部]
『銀河風帆走』
  • 宮西建礼著/鈴木康士カバーイラスト
  • 創元日本SF叢書
  • 1700円(税別)
  • 2024.8.23発行

【収録作品】 「もしもぼくらが生まれていたら」「されど星は流れる」「冬にあらがう」 「星海に没す」「銀河風帆走」

『京大吉田寮』
  • 平林克己写真/宮西建礼・岡田裕子文
  • 草思社
  • 2000円(税別)
  • 2019.12.6発行
1913年竣工、現存する日本最古の学生寮、京都大学吉田寮寄宿舎。

学生自治寮として長い歴史をもち、また建築物としても価値をもつ吉田寮と、そこに生きる寮生たちの”今”、この時をとらえ、伝え記録する。

雀部 >

今月の著者インタビューは、8月に創元日本SF叢書『銀河風帆走』を出された宮西建礼先生です。宮西先生初めまして、よろしくお願いします。

宮西 >

はじめまして、よろしくお願いします。 Anima Solarisさんの記事をいつも楽しく拝読させていただいております。

雀部 >
ご訪問、ありがとうございます。
 第四回創元SF短編賞「銀河風帆走」が2013年だったので、首を長くしてお待ちしておりました(笑)
宮西 >
長くお待たせしてしまい、申し訳ないです。
 ぼくは日常生活においてはズボラでテキトーですが、創作においてはいささか完璧主義的なところがあり、執筆に着手した作品を完結させることに困難を抱えていました。「銀河風帆走」が受賞したあとも、五年以上も新作を書けませんでした。
 ただ、「もしもぼくらが生まれていたら」以降は完璧主義と折り合いをつけられるようになり、年に一度は作品を書いています。それでも寡作であることには変わりありませんが、何はともあれ、一冊の本にまとめられるだけの作品を完結させられたのは喜ばしいことだと思います。
雀部 >
待ったかいがありました!
 寡作であられるということなのですが、創作に対するモチベーションはどうやって保っていらっしゃるのでしょうか。
宮西 >
その作品を、たとえ完璧ではなくても、いま書き上げなければならない理由を探すように心がけています。「このアイデアを思い付いたからにはぼくが世に出す責任がある」とか「この世界にはこの物語が必要」とか思い込むのはかなり有効のようです。
雀部 >
理由付けが大事なんですね。
 『紙魚の手帖vol.18』に期待の新人ということで、インタビュー記事が載ってます。
 インタビューの中で“京大吉田寮でSFを書き始めた”とあったので思い出しましたが、“大学生の頃、寮の漫画部屋で『水惑星年代記』シリーズを読んだことがきっかけで宇宙への関心が再燃し、SF小説を書き始めたことをよく覚えている。”という呟きをされてましたが……
宮西 >
『水惑星年代記』と出会ったのは大学二年生、入寮一年目のときです。子供の頃から天文学や地質学が好きだったのに、合格の可能性が高いというだけの理由で農学部を受験し、そのことを猛烈に後悔していた時期でした。妥協せず真摯に夢を追い求める登場人物たちはとても眩しく感じられ、今からでも自らの興味や関心に素直であろうと思いました。
雀部 >
今までの知識(天文学・地質学)+農学(生物学)の知識が加わると言うことで、最強の組み合わせじゃないでしょうか。「冬にあらがう」にもそれが活かされてますよね!
宮西 >
在学中には農学には関心を持てず、授業も真面目に聞いていなかったのですが、卒業して何年も経ってから農学の意義や面白さが分かってきました。いつか農学部で学んだことを作品に活かそうと思っていました。
雀部 >
「銀河風帆走」でのタンポポとか、「冬にあらがう」での食糧問題に活かされてますよね。『水惑星年代記』は二年前の九月に初めて読んだのですが、面白かったです。
宮西 >
大石まさる先生にはとても感謝しています。あの漫画を手にとらなかったら、今の自分はなかったかもしれません。
 ところで大石先生は、最近ご病気のリハビリに励んでおられるそうです。ファンの一人として、一日も早いご回復を心よりお祈りしております。
雀部 >
ググったら脳溢血で入院されてたんですね。どうぞご自愛下さいませ。
 写真集『京大吉田寮』(草思社)では、文を担当されていますね。ほとんどの写真に「住民」が写ってますが、宮西さんの写真も入っているのでしょうか。
宮西 >
『京大吉田寮』には自分も載っています。
 当時、自分はすでに卒寮して何年も経っていたのですが、寮にはときどき遊びに来ていました。それで、たまり部屋(談話室)の床に寝っ転がって昼寝をしていたら、『吉田寮記録プロジェクト』の関係者に見つかって写真を撮られ、のちに写真集のキャプションを書かないかと打診されたという経緯だったと記憶しています。
雀部 >
寝っ転がった写真も何枚かありますが、この中のどれかかな(笑)
 京大には京フェス開催でも有名な「京都大学SF研究会」がありますが、入会されたことはあるのでしょうか。
宮西 >
ぼくは『銀河風帆走』でデビューするまで、京大SF研のことはほとんど知りませんでした。同じ志を持つ人たちと交流しようという発想もなく、吉田寮の居室に引きこもって、ひとり小説を書いていました。当時のぼくはかなり内向的だったとはいえ、非常にもったいなかったと思います。
雀部 >
そうですね。といっても私もSF研には入ったことがないのですが(汗;)(SF研が無かった)
 同じくインタビュー記事の中で“母の本棚には古典SFがたくさん並んでいて、気づいたときはSF小説の虜になっていた”とありますが、お母様は熱心なSFファンでらっしゃったのでしょうか。
宮西 >
母はおもに海外のSF小説を熱心に読んでいます。一方、日本のSF小説には詳しくなく、SF関連のイベントやファンの交流会に参加したこともないようです。
雀部 >
海外SFの読者であられるのですね。
 第一短編集刊行ということで、お母さまも大変喜ばれたことと思いますが、原稿を読んでもらうとかはおありでしょうか。
宮西 >
執筆中に原稿を母に読ませることはほとんどありません。作品のごくおおまかな設定(舞台は宇宙かとか、宇宙人は出てくるかとか)を教える程度です。もちろん母は興味しんしんなのですが、未完成の粗削りの作品を人に見せるのは恥ずかしいです。本当は編集さんにも見せたくないのですが、こればかりはどうしようもありません。
雀部 >
編集さんからは有用な感想がもらえるかも知れないし、そこは(笑)
 最近、創元SF文庫から新訳の『歌う船 完全版』がでましたが、お母さまの蔵書にもありましたか?
宮西 >
『歌う船』は母の蔵書にはありませんでした。実を言うと、ぼくがはじめて『歌う船』を読んだのは『銀河風帆走』を執筆したあとのことでした。ぼくは人格を持つ宇宙船が好きで、それを扱った物語も書いたのに、原典に触れていなかったのです。とはいえ、後発の作品を通じて間接の影響は受けているはずです。
雀部 >
そうなのですね。そして『銀河風帆走』を読んだ人が、人格を持つ宇宙船の話を書いたりと受け継がれていく……
 ところでもう一冊、『マッカンドルー航宙記』(C・シェフィールド著,1981)は蔵書で読まれたでしょうか。というのは進行方向の先頭にディスクを持つという構造が似通っていると思ったからです。読み返してみると『マッカンドルー航宙記』の先頭のディスクは圧縮物質(170t/cm^3,φ100m,δ1m)で出来ているし、目的も違うけど(笑)
宮西 >
『マッカンドルー航宙記』はあいにく未読なのですが、そのアイデアは知っています。宇宙船の殺人的な加速を相殺するために船首にきわめて重いディスクを置いて人工重力を作り出しているんですよね。『水惑星年代記』のある短編に類似の宇宙船が登場しています。おそらく『マッカンドルー航宙記』のオマージュなのでしょうね。
雀部 >
加速度と重力は等価であるという相対性理論に基づいて、加速度を重力で相殺するのですが、最大重力(ディスク表面)が50Gだからとんでもない質量です(笑)
宮西 >
『銀河風帆走』や『星海に没す』の恒星船の"ディスク"はアーサー・C・クラーク『遥かなる地球の歌』の恒星船マゼラン号を参考にしました。あちらは金メッキした氷山ですが、機能は同じです。比較的ローテクな恒星船は、船首に隕石防護壁を備えるはずだと考えています。
雀部 >
『遥かなる地球の歌』(1986)!もちろん読んでますが、すっかり忘れてます(汗;)
 腐海から掘り出して読み返してみましたが、氷で防護壁を造る工程に結構ページが割かれていて驚きました(覚えてなかった^^;)
 また、冒頭の方で、恒星間航行中に元々円錐形の氷山が平たくなってしまったとの記述があり、ゾクッとしました→表紙画はこちら。巻末の解説にも『マッカンドルー航宙記』への言及があります。
 金メッキは、太陽光の遮熱対策なんですね。これも忘れてた(汗;)
 それはそうと、メッキというと、宮西先生はプラモデルを造られますか?
 私が最初に真空蒸着という技術を知ったのはプラモのメッキだったので。
宮西 >
小学生のときに作っていました。インペリアル級スター・デストロイヤーや宇宙戦艦ヤマト、(史実の方の)戦艦大和などを作った記憶があります。ただ非常に不器用なので、説明書通りに組み立てるのがやっとで、塗装はできませんでした。手先が器用な方がうらやましいです。
雀部 >
私らの年代では、最初は零戦とかタイガー戦車とか、TVが始まってからは原潜シービュー号、サンダーバードです。元から銀色に塗装してあるメッキパーツが格好良かった。
 商売柄手先の方はそれなりに(笑)
 鈴木康士先生の『銀河風帆走』の装画、素敵ですね。冒頭にタンポポへの言及があり、こんな形なんだと想像力の無さを補えました(汗;)
宮西 >
宇宙船の造形はもちろんのこと、背景の宇宙やその色合いも素晴らしいですね。これほどのイラストを描いていただけるとは、まるで夢のようです。カバーイラストに惹かれて購入される方もいらっしゃるそうで、鈴木先生には感謝の念に堪えません。
雀部 >
創元日本SF叢書でジャケ買いは珍しいです!
 タンポポの遺伝子情報だけではひ弱で(共生細菌が居ないため)子孫を残せそうに無い個体にしか育たないという記述もあり、これはエクトの将来のメタファーじゃないかと心配してますが、どうなんでしょう。
宮西 >
そこまで深くは考えていなかったと思います。「銀河風帆走」を執筆したのはずいぶん前のことなので、記憶が曖昧なところもありますが。
雀部 >
良かった。←心配してどうするという話ですが(笑)
 『銀河風帆走』の収録作品で三作が高校生たちが主人公ですね。ハインライン氏のジュブナイルを読んだときと同じ面白さを感じました。子ども向けに書かれたというより、子どもが読んでも面白い(理解できる)作品だと思います。
宮西 >
『銀河風帆走』の巻末解説で鈴木力さんが指摘しておられましたが、これらの作品は科学の可能性と危険性を訴える『科学小説』です。子どもや科学が不得意な大人でも途中で脱落せず、楽しく読み進められる作品を目指しました。
雀部 >
なるほどそういう狙いがあったのですね。
 お母様の蔵書の海外の古典SFを読まれてSFに目覚めたということ、“科学の可能性と危険性を訴える『科学小説』」であるということから鑑みると、SFに対するスタンスが、第一世代の日本SF作家の方たちと相通ずるものを感じますね。
 一冊挙げるなら小松左京先生の『日本沈没』(1973)とか。当時、クライトン氏の『アンドロメダ病原体』(1971)と共に、読むと最新の科学知識も得られるテクノロジー小説でもあると言われてました。『銀河風帆走』巻頭の「もしもぼくらが生まれていたら」には、特にSFに対する熱い心を感じたものですから。
宮西 >
実家にも星新一先生や小松左京先生などの作品があり、食い入るように読んでいました。印象に残っているのは、小松先生の「宇宙人のしゅくだい」です。小学生向けのSF短編集で、人間や科学には両面性があること、未来は今を生きる人間の行動次第で決まることなどを、お説教くさくない、平易な言葉で説いておられます。最後に読んだのは何十年も前なのに思い出せるということは、小松先生のメッセージが心の深いところに残っていたということだと思います。
雀部 >
「宇宙人のしゅくだい」、思い出しました(汗;)今現在も戦争状態にある地域があるので、無力感と共に今まで何の努力もしてこなかった自分に慄然としてしまいました。
 高校生が主人公の三作品だけでなく、恒星間宇宙船が主人公の二作品にも、人生に真っ直ぐな青春の息吹を感じました。
宮西 >
個々の人間はほとんど無力ですが、科学は人間の能力、潜在可能性を大幅に拡張します。科学を駆使すれば(多かれ少なかれ、良くも悪くも)世界に影響を及ぼせるかもしれません。登場人物たちの真っすぐさ、前向きさには、ぼくのそうした考えが関係しているような気がします。
雀部 >
ちょっとでも良い方向に進めたいとは思っています……。
 冒頭でおうかがいした創作における完璧主義と主人公たちの真面目さは相通じるものがあると思います。インタビュー記事で、大きな影響を受けた作品として『宇宙戦争』『タイムマシン』『地球幼年期の終わり』『タウ・ゼロ』『無常の月』「霜と炎」をあげてらっしゃいます。
 「霜と炎」はブラッドベリにしてはちょっと異色な、寿命がたった八日間の人類を描いた作品ですが、壮絶さの中にも詩情を感じる、古びることがない珠玉の短編だと思います。特にお好きなところはどこでしょうか。
宮西 >
主人公の青年、シムの生き様でしょうか。
 シムの一族はある惑星に不時着した宇宙船乗組員の末裔で、特殊な太陽放射線のために急速に成長し、生まれて八日目には老いて死ぬさだめにあります。しかしシムはカゲロウのような生き方を怒りをもって否定し、人間本来の寿命と尊厳を回復するために危険な冒険に乗り出します。老いと死という強大な敵に真向から反逆するシムの姿は感動的で、ディラン・トマスの詩「穏やかな夜に身を任せるな」(『インターステラー』の劇中で引用)を連想させます。抗いがたきに抗うのが人間の人間たるゆえんだと思います。
雀部 >
その詩、全く記憶にありません。見返さなくては(大汗;)
 ニーヴンの『無常の月』も古典的名作で、特に好きなのは表題作「無常の月」です。
 なんか映画化の話もあるようですが、これを読んでしばらくは見るたびに月の明るさが気になって……(汗;)
 一番お好きな短編は何だったのでしょうか。
宮西 >
表題作「無常の月」はもちろん大好きです。月の明るい静かな夜、なまじ天文学の知識があったばかりに世界が間もなく終わることに気づいてしまった男女のお話ですね。
 収録作の中では「ジグゾー・マン(The Jigsaw Man)」もお気に入りです。近未来のアメリカにて、重罪を犯しやがて死刑に処せられる男が脱獄を試みる、という単純なプロットですが、次第に明らかになる世界の真相は衝撃的です。世界設定を読者に開示するやり方がスマート(説明臭くなく効果的)で、短編SFのお手本だと感じます。
雀部 >
無常の月』だともう一つ「終末も遠くない」でしたっけ、使える魔力には限りがあるという設定にうなった記憶が。魔法で変身しても質量保存の法則は保持されるので、同じ大きさ(重さ)の生物にしかなれないというのもあった。←ニーヴンじゃないと思いますが。
 ファンタジーにちょっとだけ科学的設定を入れると、作品が締まると感じるのはSFファンだけかもしれませんが(汗;)
宮西 >
「終末も遠くない」は「魔法の国が消えていく(The Magic goes away)」というシリーズの一編ですね。魔力(マナ、超自然力)は限りある天然資源で、魔法を使うたびに減少し、枯渇すれば魔法は使えなくなるという設定が画期的でした。
 このような"ルール"は物語の展開をある程度制限しますが、個性的で説得力ある物語を生み出す苗床にもなります。その気づきを与えてくれた物語の一つですね。
雀部 >
"ルール"を持ち込むことによって説得力が増すというのは、とても良くわかりますね。
 組織とか資金に欠ける高校生たちを主人公にしたところなども、そのルールの一種であるように思えます。
宮西 >
そうですね。人間が世界に立ち向かう物語の主人公は、天才でも超能力者でもない、ただの子供が相応しいと思い、そうしたルールを採用しました。その他にも、現実からあまり飛躍した技術(ワープ、時間遡行など)を登場させないなど幾つかのルールを設定しています。
雀部 >
色々と考えてらっしゃるんですね。
 前半はここで終わりますが、さらに踏み込んだ質問は後半に回したいと思います。
                      (後半に続く)
[宮西建礼]
 1989年大阪府豊中市生。京大農学部在学中の2013年に「銀河風帆走」で第四回創元SF短編賞を受賞しデビュー。京大吉田寮の元寮生でもあり、『京大吉田寮』を共著。
[雀部]
 ハードSF研幽霊所員。久しぶりのハードSFの書き手の登場にわくわくしてます。
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