
江戸幕府が消滅し、東堂藩も新政府派か佐幕派か、今後の判断を迫られていた。幼い頃から共に過ごしてきた三人だったが、意見は真っ向から対立する。東堂藩が新政府に従うことを決め、上野寛永寺周辺にたむろする彰義隊を討伐する命が下されるが、隼人は彰義隊への加入を志願していた。重蔵は新政府派で、左馬之助は、どうせ自分たちの意見は通ることはないのだから当面は上の者の言うとおりにしておく、と立場が別れていた。
そして左馬之助は、そんな立場がどうこうというより、これからも三人の友情が変わらず続くことのほうが気がかりだと言うのだが……
憲政史上初の「平民宰相」原敬。 盛岡藩士の子として生まれ、戊辰戦争での藩家老・楢山佐渡の死に際し新しい国造りを志す。 維新後士族をはなれ平民となり、新聞記者、外交官、官僚として頭角を現し、政治の世界へ転じたのちは藩閥政治から政党政治への刷新を掲げる。 第19代総理大臣となり日本の政党政治、民主主義の基礎を築くが、1921年11月4日、東京駅で暗殺される。
(インタビュー中に出てきた関連本と平谷先生の著作の簡単な登場人物年表はこちらから→)
今月の著者インタビューは、11月にご自身の著作百冊目となる『天酒頂戴』を小学館文庫から出された平谷美樹先生です。平谷先生、今回もよろしくお願いいたします。
よろしくお願いします。『天酒頂戴』は、わたしの作品には珍しく怪異とか謎解きとか出てこない作品ですが(笑)
確かに、出てこなかったです(笑)
11月30日,12月1日に開催された「盛岡文士劇」お疲れ様でした。
ありがとうございます。千秋楽にとちってしまったのですが、仲間のフォローでうまく切り抜けました(苦笑)
「エフエム岩手」の「夕刊ラジオ」に出演されて、その話を阿部アナ(文士劇出演者)とされてましたね。
(阿部アナのブログに武貞に扮した平谷先生の写真があります)
今回は「中尊寺金色堂九百年『平泉への道 藤原清衡物語』」ということですが、岩手の方々の藤原清衡愛は熱烈なものがあるのでしょうか?
意外に、平泉藤原氏についてよく知っているという人は少ないと思いますし、安倍氏となるとさらに知らない人が多いでしょう。中尊寺の建立についてもよく知らない人が多いので、見てくれた人たちに大きな流れを知ってもらえれば、ということで台本を作ったとのことです。
そういう意図があるお芝居だったとは(汗;)
それにしても、藤原清衡は地元でもあまり有名ではなかったとは。
それでは、12月6日に文庫化された『国萌ゆる 小説 原敬』の平民宰相、原敬氏はどうでしょうか。
他県民と比較すれば、「原敬を知っている人」率は高いと思いますけれど。歴史好き以外の県民の認識は、岩手県出身の総理大臣で、「平民宰相」と呼ばれたということくらいじゃないでしょうか。
ううん、そうなのか(汗;)
年代的にはかなり重なっているのですが、時代順に並べると『柳は萌ゆる』(と『大一揆』)→『鍬ヶ崎心中』『天酒頂戴』→『国萌ゆる 小説 原敬』ですね。『国萌ゆる』が楢山佐渡の処刑の日から幕を開けるのが象徴的です。
こんな偉大な先人が居て、岩手県の皆さんはもっと誇って良いと思います(笑)
そうですね。以前、何かのテレビ番組で外国の世界遺産を訊ねた日本人クルーが、地元の人にその土地の世界遺産の質問をしたら、詳しく答えていました。
その土地に住む者の責任として、旅人に説明できるくらいの歴史的知識はもっていてほしいと思います。
とはいえ、わたしもピンポイントしか勉強していないので胸を張れないのですけれど。
いえいえ、外国人クルーが岩手に取材に来た曉には、ぜひ平谷先生にインタビューをしてほしいです(笑)
先日NHKで「文学界の巨人 90歳のメッセージ〜 - 筒井康隆の世界」を見ていたら、作家生活65年で、著作数が600冊と言われてました。
よく存じ上げている先生だと、今月号で平谷先生と同時にインタビューさせていただいた和田はつ子先生が、2010年に「著作100冊突破記念パーティー」(デビューして24年目)を開催されてます。
平谷先生には、電子版のみの《百夜・百鬼夜行帖シリーズ》100巻(短編なので、文庫20冊相当くらい?)があるので実質はもっと多いと思いますが。
100冊ではありますが、本人はあまり大きな感慨をおぼえていないのです(笑)
友人、知人が喜んでくれていますが――。
100冊記念のパーティーという話もあったのですが、100冊目がいつ出るのか最近まで判らなかったので、(何冊か同時に進行していたので)では来年、25周年を祝おうかという話になっています。
あれま、ご本人にあまり達成感がないとは意外です(汗;)
作家生活四半世紀もなかなか達成が難しいと思いますので、近かったらパーティに出席させて頂きたいところではあります(汗;)
そしてもうお一人、100冊記念(デビューして24年目)ということで、出版元の小学館編集部で平谷先生を担当されている室越美央さまにもご参加頂けることになりました。
室越さま 初めまして、よろしくお願いいたします。
お招きくださり、ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
すみません、なんか強引にお願いしまして(汗;)
室越さんはこの時代にはお詳しいのでしょうか。というか、元々時代小説がお好きだったのではないかと想像しているのですが。
実はこれまでは、恋愛小説や純文学系の小説を担当することが多く、時代小説を編集するのは初めてだったんです。普段もあまり読んできませんでしたが、『天酒頂戴』はとても読みやすくて、時代小説ってこんなにおもしろいんだ!と感じました。
時代小説は、現代とは異なる設定の物語ということで、SFにも通ずる面白さがあるんですよと力説(笑)
小学館といえば、漫画雑誌(サンデー、ビッグコミック・オリジナル・スピリッツ・スーペリオール)にはず~っとお世話になっています。時代物の漫画というとスピリッツで連載中の『新九郎、奔る!』(ゆうきまさみ著)が面白いんです。皆様、まだでしたらぜひ(笑)
X(Twitter)で、ゆうき先生に“地元が舞台だし、キャラが面白い。大好きです。ゆうき先生が時代物を描かれるとは思いませんでした”とコメントしたら“ありがとうございます。前々から温めていた企画です”とお返事が。
小学館で文芸誌というと最近「GOAT」という雑誌(創刊号)を買いました。小川哲先生や冲方丁先生、最果タヒ先生が載っていたので。読み応えがあります。
さて本題に戻ると(汗;)、題名の『天酒頂戴』はググってみると歴史的な史実なんですね。全く知りませんでした(大汗;)立派な錦絵も残っている(國酒デジタルミュージアム)
天皇が京都から東京へと入られた直後に東幸を祝して樽酒を下賜され、その時のお祭り騒ぎと主人公たちの現在の状況が鮮やかに対比されていて、もの悲しいです。
天酒頂戴のことは、テレビの歴史番組で知りました。
わたしは、賊軍の藩の生まれですので、新政府がやることは厳しい目で見ます(笑)
「天酒頂戴なんて、人を馬鹿にしたようなことを……」と思い、これは書かなければと思ったのです。
詳しい資料が手に入らなかったので、ああいう形にしましたが、いずれ「内幕」を書いてみたいと思っています。
内幕の暴露物、お願いします(笑)
そう言えば、「夕刊ラジオ」に出演された際に“『天酒頂戴』はもっとコミカルな小説になるはずだった”とおっしゃられてましたが?
天酒頂戴を誰が企画し、誰が実行したかなど、詳しい資料があれば、そのドタバタを書こうと思っていたのです。
だから、最初構想していたものとは全く違う「天酒頂戴」になりました。
そのうち、資料が揃ったならば、コミカルな方も書いてみたいと思っています。
それは、面白くなりそうですね。
さて、主人公たち三人の出身は東堂藩ということでググってみたら無かった(汗;)
陸奥国の最南端で、江戸から188km(日光街道が約140km)、海に面してない。奥州街道だと東堂藩を通って会津藩に行くということから考えると、栃木県の北側にあった小藩ということで合ってますでしょうか。
まぁ、その辺りです。実在の藩だと、あの時代藩論を勤皇・佐幕のどちらに決めてどう動いたかの資料がしっかり残っていますので、架空の藩にしました。
そうだったのですね。『天酒頂戴』にも記述があった下手度藩(官軍側につくと決まっていたのに藩主の留守中に家老が奥羽越列藩同盟に調印)なんかも、一万石の小藩で苦労したようですし。
『天酒頂戴』は、明治の激動に抗う主人公たちの物語であるとともに、小藩ゆえの悲哀も描いた快作だと思います。著者インタビューでもうかがった『柳は萌ゆる』の楢山佐渡と盛岡藩の久保田攻めのエピソードも入っていて、東堂藩だけでなく盛岡藩も苦労したんだなぁと……
奥羽越列藩同盟の諸藩は、みんな苦しんだと思いますよ。あまり興味を持ってもらえないのが残念ですが。
私もこの時代のことはあまり興味が無かったのですが、段々と知識が増えるにしたがって興味が湧いてきています。
この頃は、それこそ日本全体がドラスティックな変貌を遂げた時代でもあるので、傑物が登場しやすい背景があったのではないでしょうか。
あと、“混乱の時期で、不明なことが江戸期よりも多い気がするので、フィクションの翼が広がる”ともうかがったことがありますが。
大きな出来事はかなり詳しく調べられているので、ちょっとフィクションを入れ辛いとわたしは感じています。
「こう書きたいんだけど、この藩はそのように動いていないからな」とか。もう少し時代は新しいですが、「賢治と妖精琥珀」なんかは、宮澤賢治の樺太旅行の記録が残っていない数時間にフィクションを詰め込んだりしましたね(笑)
先ほどの東堂藩(架空)と同じく、資料が残っている明治以降ならではの悩みですね。
わたしは、左馬之助、重蔵、隼人の三人を見ていると、それこそ応援目線(親心がはいってしまう)で読んでしまうのですが、室越さんはどうだったのでしょうか。
私も実はこの作品を拝読するまで、「天酒頂戴」という騒ぎがあったということをまったく知りませんでした。幼馴染の三人が大人になり、自分たち自身の人生と、また日本の未来に対し、期待に胸を膨らませながら上京する様子、そしてそれが時代に翻弄されつつ別れ別れになっていってしまう様子が、なんだかとても切なくて、一気読みでした。
ラストシーンは、編集部で涙をこらえながら読み終えたことを覚えています。いろんな観点から楽しむことのできる作品だなと感じています。
全く同感です。
ラストに“晴れ渡った空に風花が舞った。”という場面があり、出だしが「桜下の誓い」だったから、終わりは桜吹雪かと思ったのは内緒です(大汗;)よく考えれば「天酒頂戴」は十一月初めの出来事でありました。
ラストは天から何かを舞わせたかったのですが、桜の季節ではないと思い(笑)
そこは史実があるので致し方ないですね(笑)
「序章 桜下の誓い」で三人が“人生五十年だと、あと四十回足らずしか桜を見られない”とあって、この時は小学生か中学生かという年齢ですよね。
うちの孫(中三)も剣道をやっていて、まだ二段です。たぶん左馬之助、重蔵、隼人とはそんなに歳が違わないか当時の彼らの方が年下ということを考えると、天下国家を論じる彼らを見るとなかなか感慨深いものがありました。
武術については、わたしは小学校2、3年生で柔道を始め、父の仕事の関係で転居してから中断しました。
再開は、大学卒業後(笑)。勤務した中学校で柔道部の顧問を仰せつかったので、生徒たちと白帯で稽古しました。
その年に、三年生の生徒たちと初段の試験を受けに行きました。
子供の頃に少しだけやっただけでしたが、受け身も技も身体が覚えていて、「そういうものなんだ」と感心しましたよ。
そうか、平谷先生は柔道部の顧問だった。高校の頃体育に「格技」があって柔道か剣道を選ぶのですが、柔道を選択。しかし鈍くさかったので、受け身とか全く身についてません(汗;)
そうですね。当時は一人立ちが早いというか、左馬之助、重蔵、隼人の三人も、若いのにいろんなことを考えているし、覚悟ができていて、えらいなぁと…。今の時代では考えられないですよね。
江戸時代、男子が十五歳、女子が十三歳で成人したそうだから、現在より五歳くらい若い。ときは十五歳だから恋心をいだくというか嫁入りを意識してもおかしくない歳ですね。
二十歳過ぎたら年増と言われたそうだから、女性は大変かも(汗;)
桜庭の娘のせつは、武士の子ども(23,4歳)だけあってかなり武士道へのこだわりがありますね。一方、ときは口入屋の娘で、庶民の代表みたいな感じを受けました。
ここらあたりの書き分けも面白いと思いました。
今までは「武士の側から見た幕末・維新」「庶民の側から見た幕末・維新」と、視点を分けた物語を書いていましたが、この物語では「武士と庶民の幕末・維新」で、視点を並べてみました。
いずれにしろ、「主流」の人々ではなく、「傍流」の人々を書いていますが(笑)
そこが平谷先生の真骨頂ではあります!
今作は、若侍が主人公ということもあってか、読んだ時のリズム感が《貸し物屋お庸》シリーズなんかとは少し違うかなという印象を持ったのですが、気のせいでしょうか?(汗;)
「お庸」は怪談も混じる、ファンタジーですが、「天酒頂戴」は歴史小説として書きましたから。「柳は萌ゆる」とか「国萌ゆる」とか「大一揆」などと同じリズムです。
事実を基にしたフィクションなんですね。
江戸へやってきた三人が初めて行った吉原で、女郎にくさされ直ぐめげてしまうシーンにはニヤリとしてしまいました。作中で唯一読者が気を抜ける場面です(笑)男目線ですが(汗;)
ここは、奥州出身の女郎が、田舎侍の三人がいいように手玉に取られて尻の毛まで抜かれないように追い返したとも読めるのですが、うがち過ぎでしょうか?
江戸に出て来たばかりの田舎侍はいいカモですからね。お女郎さんが助けてくれたのです。
やはりそうだしたか(笑)
室越さま、後半のせつの隼人に対する気持ち、ときの左馬之助への想いは女性から見るとどうなのでしょうか。
当時の女性は、外へ命を懸けて闘いに行く男性陣の背中を見守り支えることしかできなかったでしょうから、相当の覚悟が必要だったろうと思います。どっしりと、それでいて健気に支える姿には切実さを感じました。
平谷先生の小説に登場する女性たちは、強い女性が多い印象があります。下手すると主人公の男より精神的には強くて憧れます(汗;)
帯の煽り文句に“「友を斬れるか?」勤皇と佐幕。新時代が容赦なく友情を裂く。果たして仇討ちはなされるのか――”と刺激的な文言が並んでいますが、室越さまが友人にこの本を読んで貰うとしたら、どう言ってお薦めしますか?
うう~ん、私はどうするか考えたのですが「己が貫く信念と熱き友情とではどちらが重いか。幕末を舞台に幼馴染みの三人の運命が錯綜する。そして淡い恋心と未来へと託す想いの結末は……」というのを考えてみました(汗;)
たしかに、「恋心」の要素を入れておりませんでした…!(笑)「幼馴染に仇討ち」という設定が、それだけで気になるし切なさを感じるので、友人に勧めるならやはりそこを押すと思います。
えっ、ということは帯のキャッチコピーは室越さんが書かれたのですね。失礼しました(汗;)コピーは担当編集者が考えるのが普通なのでしょうか。
はい、上司からアドバイスをもらったり、編集部でも意見を聞いたりしつつ、担当編集者が考えています。
わたしは「ラストの、『命をかけて刀の切っ先を向け合う親友同士と、天酒頂戴の脳天気な行列が行き過ぎる場面の対比』を味わって」と、ネタバレを含みつつ薦めますかね。
やはりお二人とも、インパクトのある幼馴染み(親友)との命がけの勝負のラスト推しなのか~。長くすれば全部の要素を入れることは出来ますが、平積みにしてある本の帯をちらっと見て、どんな話だろうと手にとって貰うには何よりインパクトが重要なんですね。
小学館のサイトの〈 編集者からのおすすめ情報 〉というコーナーも、室越さまが書かれたのですね。このページを読めば大体の内容は把握できますし、「ためし読み」も出来ます。
室越さま、今回はご面倒な依頼に応えていただきありがとうございました。
今後とも平谷先生をよろしくお願いいたします。
このたびはまぜていただきありがとうございました。
こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします!
平谷先生、来年早々には竹書房怪談文庫から、『岩手怪談(仮)』が出るみたいですね。
来年もよろしくお願いいたします。
来年も何冊か決まっているので、頑張ります!