第三章 銀河団のトラブルバスター編
第十話 小マゼラン星雲へ (注:イ○カ○ダ○もガ○ラ○もありません)
稲葉小僧
「フロンティア、今どのへんだ?」
「はい、マスター。銀河系を抜けて、もうすぐ小マゼラン雲に到着します」
俺達は銀河系の調査を終了し、ついに銀河系の外へ向かうこととなった。最初の目的地は大小あるマゼラン雲(いわゆるマゼラン星雲ってやつ)である。
小さい星雲ですから、あまり見るところはないですよ。などとフロンティアは言うのだが俺は地球人、 なおかつ、いわゆる昔で言うところの『日本人』であるためマゼラン雲というと絶対に外せないと思っている。
「帰ってきたよ、ヤ○トの諸君!」
まあ、これが分かる奴は、この船に一人もいないんだがな......と思いつつも俺の中の遺伝子が、この台詞を言えと強要する。
この分だと全ての調査を終えて地球に帰ってきた時には、
「地球か......何もかも皆、懐かしい......」
という台詞を呟くことになりそうだなとは予想できるが。 ま、そんなバカができるのも星雲間航行の間は本当に何もない時空間の移動だけで何もやることもなく何も見るべきものも無いからだ。
もう少しで小マゼラン雲に到着する。小さいなら小さいなりに、それでも星雲(小さな銀河)なんだから何か調査すべきものは見つけられるだろう。
(頼むから機械生命体だけには出会いませんように! もう、星間帝国の皇帝に祭り上げられるの確定は勘弁して欲しい)
俺達の期待は、目の前にある小さな銀河に向かって、ゆっくりと高まっていくのだった......
あ、ちなみに現在のフロンティアの直径は、もうすぐ20kmを超えようとしている。復旧作業も順調に行われているようで
「主砲は無理ですが、それ以外は再現可能な状態に、もうすぐなりますね......」
と、フロンティア(頭脳体)が宣言した。蛇足だが補助艦艇の数は正規の10%まで回復したそうだ。
どの位の規模だ? と、ちょいと興味が湧いて聞いてみたら一星系の正規艦隊くらいの規模だそうだ。
詳しくは恐ろしくて聞けなかったが、このまま設計時の状態にまで完全復旧したら、 本当に「無敵の宇宙船」になってしまうな。 ちなみに完全復旧したら本体と補助船団のコントロールは大丈夫なのか? と聞いたら、 そこまで復旧できたらコントロールも完璧に掌握できる。それどころか敵対勢力の船団すらも同等までの規模なら掌握できると 言い切りやがったフロンティア頭脳体......
こいつの能力って、どこまでが限界なのか俺にも理解不能だ。
さて、ついに到着した小マゼラン雲。いつものように情報収集かねて、無数にあると言っても言いすぎじゃない最小タイプの搭載艇を周辺空域に放つ。
こいつらは銀河系で改修した改良型の超小型恒星間駆動を搭載している。この子グモ達が情報の糸をフロンティア(親グモ)へともたらしてくれるのである。
恒星間駆動を積んでいない従来の搭載艇達は、フロンティア周辺の宇宙空間に浮かぶデブリや浮遊隕石、 破壊されたと思われる宇宙船の破片を運び込んできている......
待て......宇宙船の破片?
「フロンティア、緊急の調査と確認だ。非常に高い確率で、この少銀河内部で星間戦争が勃発していると思われる。 通常の生命体調査は中止して、この戦争の詳細な情報を収集しろ」
「はい、マスター、了解です。緊急事態と認識して船自体も戦時体制を取りますか?」
「いや、まだ戦時体制までは不要だ。しかし戦時体制の準備はしておけよ。今はまだ、こちらに対する攻撃はないが」
「了解しました、マスター。準戦時体制を取ります、防衛装置と、それに関係する装備のロック解除をお願いします」
「わかった。フロンティア、準戦時体制につき防衛装置と防衛に関する装備の全てのロック解除を宣言する! ただし、武器に関してはロックのままだ。 例え攻撃を受けたとしても反撃にはパラライザー(麻痺銃)のみの使用で対処せよ」
「了解です、マスター。では、ただ今よりフロンティアは準戦時体制に移行しますのでロボット以外の生命体3名は、 このマスターコントロールルームに常駐して下さい。ここ以外の場所では最悪、生命の保持確率が小さくなりますので」
さて、後は搭載艇達の情報を待つだけだな。俺は銀河系ではあり得ないものと化した星間戦争の現場に飛び込んでしまった不運と、 この重大トラブル、どうやって解決してやろうかと考えている自分がいる事に少なくない驚きを感じていた。
はぁ......ため息もつきたくなるわ、こんな状況じゃぁ。
小マゼラン雲の現在の状況が分かってきたのは、超小型搭載艇の群れを放ってから数時間後のこと。
少しづつではあるが現在の、この少銀河の様相が理解できてきた。今現在、この小マゼラン雲の内部はエネルギー争奪戦に明け暮れているようだ。
まあ、理解できないこともないな。 銀河そのものの規模が小さいのでアンドロメダ銀河(星雲)や俺達の故郷の銀河系と比べると銀河の保有エネルギーも小さく、 生命の発達という点に関しては大きな銀河よりも過酷になりやすい。しかし、エネルギー争奪戦で戦争になるという選択はマズくないか?
俺はダイソン球のようなシステムで解決できないか? と、ちょいと思考実験してみたが......これは不可能なことに気がついた。 そもそもエネルギーが足りなくて奪い合いしてるのに、とてつもない資源とエネルギーが必要になるダイソン球システムは選択できるはずがない。
ちなみに太陽系で同じようなシステムを組むとすると......実現可能である。 恒星間駆動は実現されていないが、それでも現在の太陽系人類の技術力と科学力で充分に実行できる計画である。
(***↑の説明について、注釈を設けます)
まあ、どうしたらいいか、まだまだ情報収集段階ではあるが。
しかし、せっかくのエネルギーを戦争に使う事は、もったいないし、大義名分に反するな。
(指導者達の頭に血が上ってしまい正常な判断が出来なくなっているか、または民衆の声に押されて止めたくてもヤメラレナイ状態になっているのだろうが)
フロンティアは、ただ今、どこの星区からも離れた宇宙空間を漂いながら、 あちこちの星区や惑星、衛星にある軍事基地からの電波を拾い集めている搭載艇からの情報を一手に解析中である。
これから、どのような活動や手段をとるにせよ、まずは正確な状況と情報を得るのが先だからな。 情報戦で勝ったものが勝者となるという鉄則は、この少銀河でも有効だろう。
それから、また数日。戦いの趨勢と、現在の勢力図までが判明する。 弱肉強食とは言うが、やはり星系国家くらいだと星間国家に呑まれてしまうようで、 ずいぶんと昔から続いている戦争で、小さい国家、弱い国家は無くなってしまっているようだ。 吸収合併みたいなものか。一番大きな星間国家連合のような勢力と、星間国家の吸収合併と統制力で固くて強い中くらいの勢力、 そして、一番勢力は小さいが、かなりの科学力と技術力で他の2つの勢力を圧倒している温厚的な勢力とがあるようだ。 3つの勢力の力関係と軍事上のバランスとが微妙に噛み合い、現在は小競り合いくらいに落ち着いているようだが、 これは俺達が下手に介入するとバランスが崩れて一気に大戦争に突入しそうだな。
何か介入するきっかけが欲しいものではある。他のクルーとの話し合いも何度と無くやっているが、 フロンティアをはじめとする「安全第一、不干渉」組と「トラブルは大きくてもトラブル。 解決してあげなきゃいけません」組に分かれてしまい、結論が出ない。
フロンティアは、
「いっそのこと、この船単体で全勢力を圧倒しますか? 小マゼラン銀河帝国なら、トラブルも何も無くなってしまいますよ」
などと不穏なことを発言する。やめてくれ、お前が本気になったら実現しそうで恐いわ。 まあ、俺自身が「小マゼラン銀河帝国初代皇帝」などになりたくないのも事実だが。
権力なんざ、いらんよ。自由に宇宙を飛びまわってるほうが性に合ってる。フーム、どうしようかねぇ......
***注釈:
主人公は、この時点で太陽系に戻っておりません。懐かしむことはあっても、今も主人公の記憶の中の太陽系文明は星間駆動は実現していない昔のままです。
ちなみに、この時点で地球を含む太陽系文明は少し前に星間駆動を実現させて大宇宙へと乗り出しています。 あ、まだジャンプサークル技術は考案されていません。
ですから、まだまだ太陽系人類は銀河の片隅の辺境民族のままです。
・・・・一兵士の独白・・・・
あー、今日も今日とて交代で敵勢力の行動監視任務だなー。
やる気、出ねーなー。この頃、戦線も膠着状態でドンパチは一日に数回しか無いし緊張感無くなるよなー。
エネルギーの争奪戦だから、こっちもあっちも無駄なエネルギー使う余裕がないってのは分かるけどさー、それでもなー。
変な戦争だよな。俺達連合軍が勢力いっちゃん大きいのに兵力を多く大きく動かせば動かすほど、 こっちの余剰エネルギーが減っちゃって戦争を続けられなくなるって、おっかしいよなー。
なんか、こう、でっかいエネルギーの塊みたいなやつがこの宇宙に来てさ、そいつを奪い合うような状況になりゃ、 この戦争も終わりが見えるんだろうけどなー。
まあ、そんなカモネギみたいな幸運が来るんなら、俺、神様だって信じちゃうんだけどなー。
ん?
これまたドでかい隕石......
か?
あれ?
巨大隕石だ、よ、な?
自由航行しているような気がするんだが......
とりあえず、上に報告入れとこ!
・・・・・・・・
何もない宇宙空間にいても仕方がない。
俺はフロンティア(頭脳体)に命じて、付近にいる、どの勢力でもいいから軍隊の近くに行くように命じることにした。
センサーによると、ごく近く(跳躍航法使わなくてもいい距離)に一番大きな勢力の艦隊が、中規模勢力と睨み合ってる戦場があるとのこと。
とりあえず、びっくりさせたくない(ショックで大規模戦闘になる恐れがある)ので、 巨大な浮遊隕石のような形で、ちょうど最前線の中間を横切る形で介入することに決めた。
フィールド推進により加速できるフロンティアは、高加速している時も加速圧を体験しなくていいから楽だな、さすが異銀河で造られた超科学船だ。
あ、フィールド推進にしたのには理由があると、以前に聞いたことがある。
フロンティアの正式な形は球形なので、外から見たら自由航行惑星に見えるのだそうだ(今でも巨大隕石体だけどね)
このような巨大質量体を自由自在に動かすためには、フィールド推進以外では都合が悪いのだそうだ(加速・減速に時間がかかりすぎるのと、 前進・後退以外の推進軸がズレやすいという最悪の欠点がある)
やってやれないことはないと思いますが、と前置きしてから、
「微惑星や衛星規模の物体に噴射口があったら、それこそ不自然ですよね?」
と、フロンティア。まあ、そりゃそうだな、うん。
とまあ、そんなわけで、俺達は「怪しい巨大浮遊隕石」として、少マゼラン雲の生命体達が対峙している戦場へと、歩みを進めていくのだった......
フロンティア(小惑星偽装モード)は、これまた絶妙なラインを描きつつ、 2つの艦隊が睨み合っている中間地点を漂っていく(絶対的なスピードは、かなりあるのだが、 前線が極めて長く展開されているので時間がかかる)貴重な資源と思われているのだろうか、 ときたま捕獲船が前線に出てくるのだが、そうはさせまいと相手の艦隊からも阻止行動する艦艇が出てくる。
ビームの打ち合い、ミサイルの打ち合いはしない、完全な省エネ戦争ではあるが、 相手に有利な行動はさせないという意思は見て取れる。前線の終点近くで、2つの艦隊司令官同士の話がついたのか、 双方の艦隊から10隻づつ捕獲艦が出てきた。とりあえず停戦して、資源捕獲を優先させた結果らしいな。 こちらとしては停戦している方が都合がいい。さーて、どうやって、この世界のトラブルを解決していこうかな?
「おい、この隕石、変な動きをしていたという報告が上がってきているんだが、その辺の調査はどうなってるんだ?」
「はい、大尉。自由航行じみた動きをしていたという報告がありますが、この巨大宇宙空母甲板上での目視調査では、それらしい構造物は無いようです」
「そうか。あ、次官どの。今は敵勢力だという考えも封印してお聞きしますが、 この巨大隕石、どう見ますか? 最前線の、それも勢力の拮抗しているラインを選んだかのごとく直線飛行していたという事実、どうお考えかな?」
「ふむ、大尉どのか。そうですな、個人的な意見ですが、この巨大隕石、中が分からないというのは、 お聞きになりましたかな? 私は、その中身が偏っているせいで変な動きをしたのではないかと考えております」
「うむ、次官どのは中心部に偏心があるとお考えか。しかし、トラクタービームで運んだ時は、特に変な重量の偏りは無いとの報告がありますが」
「大尉どの、次官どの、さっきから、この隕石に調査用のセンサービームを当てているのですが中身が透視できません!」
「何?! センサービームのエネルギーレベルを上げても無理なのか?」
「最大エネルギーレベルまで上げてもダメです。表面から数10cm程は透過できて成分も分かるのですが、それ以上はビームそのものが弾かれてしまいます!」
「次官どの。どうやら、戦争なんてやってる場合じゃ無いようですぞ」
「うむ、同感ですな、大尉どの」
そこから切断用レーザに切り替えられたが、 これもある一定の深度になるとレーザのエネルギーそのものがどこかへ吸われていくように効果が消えることがわかった。
この不思議な隕石は2つの勢力の科学力だけでは解析できないと判断した指導者達は、 もう一つの、最小勢力にして最大の科学力と技術力を持つ勢力にも応援を仰ぎ、この隕石の調査が終了するまでの完全停戦が実現するに至った。
さあ、根比べと騙し合いのお時間。 フロンティア(頭脳体)に防御フィールドは船体そのものをカバーする範囲のみの最小限で展開するように言っておいて良かったぜ。
サンプル採取に彼らがここまでこだわるとは思わなかった。 停戦状態になったら船内からテレパシーで語りかけてコンタクト始めようと思ってたんだが、 妙な巨大隕石だと話題になり調査が本格的になっちゃって、こちらとしても動けなくなってしまった。
まあ、彼らの科学力や技術力をステルス状態で隠蔽して観察してる超小型搭載艇からの報告では、 とてもじゃないが、まともにフロンティア船団とやり合えるレベルじゃないとのこと。
船内にいても安心して回りを観察しながら、それでもタイミングを逃したのが悔しいなと、コンタクトの機会を伺う。
「ええい! あの妙な小惑星の全体像は、まだ判明せんのか?!」
「総裁、ただ今、我が方だけではなく残りの2勢力とも協力して、 3勢力の全知識、全技術をもって、あの謎の小惑星を分析中です! なにとぞ、今しばらくお待ちくださいませ!」
「そうは言うがな、補佐官よ。 我が勢力は一番小さいが他の勢力より科学力も技術力も頭ひとつ抜きん出ているのだぞ? その我々の全科学力と 技術の最先端装備を投入しても表面の岩くらいしかサンプルが採取できないとは、 どういうジョークなのか? もしかして、我々が知らない未知の勢力の秘匿兵器かも知れぬぞ?」
「いえ、それはないと思われますが。小惑星内部への分析装置投入が全く不可能なので何とも調査が進まないのです。 我々だけではなく他の勢力も謎の小惑星の分析に全精力を注いでいる状況なのです」
「そうか。ああ、すまんが大将軍殿と宰相殿へホットラインをつないでくれないか......つながった? すまんな。お久しぶりですな、大将軍殿、宰相殿」
『これは、お久しゅうございます、総裁殿、大将軍殿。ご用件は、今話題の謎の小惑星ですかな? 』
『うむ、久々であるな、総裁殿、宰相殿。あの小惑星について何か判明したかの? 』
「いえ、それが何も進捗が無いとの報告を、今さっき受けたところです。さて、 ホットラインを設定させていただいたのは、この後どうするか? ということを話し合いたいからです。 今は、あの小惑星の解析で大わらわですが、これが終了したら、また戦争状態に入りますが、よろしいでしょうかな?」
『総裁殿のお言葉に対するようですが。我が勢力は、このまま停戦状態が続けばと考えております。 正直、戦場となる宙域へ送る艦船のエネルギーが、もったいないと民衆からの突き上げが激しくて......』
『うむ、宰相殿の発言に乗るようじゃが我が方のエネルギー事情にしても同様じゃ。 艦隊が大きければ大きいほど動かすために必要なエネルギーが大きくなり、さらに本国のエネルギー事情は悪化してしまう。 できるなら、終戦にしたいのが本音じゃよ......国民が黙ってないだろうから、これは公式発言とはしないで欲しいのじゃが』
「どちらも同じような国内事情がありますな。 我々は勢力が一番小さいので、そこまで逼迫したエネルギー事情ではないのですが、 先細りは見えていますから、この文明自体を保持していくためには、 何としても今のエネルギー事情を改善する必要があるという事で我々は一致しているということですな」
『その通りです』
『うむ、その点では異議はない』
「では今から期限を定めずに完全停戦状態への移行と、新しいエネルギー資源開発と探査を優先させる事を、 ここで確認して、数時間後には公式発表といたしましょう。ご異存は?」
『異存はないぞ』
『こちらも異存はありません』
「では公式発表の手順と行きましょう」
「おや? 面白いことになってきたぞ。プロフェッサー、どう思う?」
「このチャンスで、こちらからテレパシーコンタクトをとるのが一番良いかと思われます。 公式発表は明日ですから発表がなされてから、すぐにテレパシー発信すればショックではあっても戦いにはならないと思われますね」
ふむふむ......ただの小惑星一個が最前線に介入しただけで、ここまで政治が動くか。省エネ戦争に、よほど嫌気がさしてたんだな、ここの3勢力。
さて、ようやくテレパシーコンタクトだ。
〈やあ、こんにちは。お初にお目にかかる。この船はフロンティアという、お隣の銀河系からやってきた船だ。 貴方がたへの友好と、ちょっとした提案を予定しているのだが、そちらの受け入れ体制は、どうかな?〉
一応、テレパシー能力の低い生命体へも届くように強さは俺の放出可能な限りの強さで放った。 結果、俺達のすぐ近くでフロンティア(隕石だと思われてた)解析に従事してた生命体達は、いきなりのテレパシー波動に気絶した、 半数くらいが。後は、こういうテレパシーコンタクトに慣れない生命体達の普通の状況......
パニックに陥り、現場が手の着けられない状況になってしまった。 さすがに当事者の俺としても、この状況は不本意なので今度は穏やかな波長のテレパシーコンタクトを試みる。
〈すまない、貴方達がテレパシーコンタクトに慣れていないことに気を使うべきだった......このくらいなら大丈夫か?〉
段々とパニック状態が落ち着いてきたので、俺達も一安心。 しかし、どうも、この少銀河の住人たちは、テレパシーコンタクトに慣れていない人たちがほとんどらしく、返ってくるテレパシーが無い。
「どうする? プロフェッサー」
これからのコミュニケーション手段を聞いてみる。
「テレパシーの受信能力はあるみたいですが送信能力はほとんど持たないようですね、彼らは。 こちらとしては音声コミュニケーションに頼る他無いのが現状なのでは? 幸い、 こちらの翻訳装置は既に充分な語彙を収集してますから、コミュニケーションに支障はないと思われます」
「ふむ。それじゃ、少マゼラン雲平和の園作戦、開始と行くか!」
俺達の行動開始となった。
何だ?! 何なんだ、この状況は。せっかく、この銀河宇宙が平和へ向かって動き出したその時に、これはないだろう。
三勢力の代表が勢揃いして、統一発表としての長期停戦と、謎の隕石調査への参加声明が放送されてすぐに、 当の謎の隕石から、超強力な、ありえない強度でのテレパシー送信がなされて、 調査関係者の半数が、その時のショックで気絶して、残りの半数は、あまりの精神衝撃でパニックを起こして、もう調査どころの話じゃない。
おまけに隕石内部にいる生命体(驚くべきことに、この巨大隕石が異銀河からやってきた宇宙船だと分かった。 こんなものを銀河間で自由に飛ばせるなどという科学力・技術力とは、 どんなものなのだろうか? あまりの科学力・技術力の差に目が眩むようだ)、今度は優しく、強度を下げたテレパシー送信を行ってきた。
まあ、それでパニックが収まったのだから感謝しなければならないが。しかし、 どうしたものかな? 今、この状況で、異銀河からのお客さんを迎えてしまい、また、この超技術の争奪戦にならないだろうか?
もう、誰もが戦争状態には戻りたくはない。 しかし、この異銀河からの客からは、このエネルギーの慢性枯渇状態を解消できるチャンスがあるかも知れないのだから。
現状、どの勢力も我先にと異銀河からのお客様には手を出そうとはしない、妙な牽制状態が続いていく。 それも隕石宇宙船からの音声コンタクトが始まるまでの話だったが。
"我々、この小銀河の生命体全てが歓喜に打ち震えている...... この喜びが理解できるだろうか? 全ての勢力の民よ! 今、現在よりのエネルギー欠乏は、 もう心配すらしなくて良いのだ! 異銀河よりの巨大なる来訪者が、 我らの全ての問題を解決してくれたのである! もう一度言う。 これより、全ての戦い、全ての争い、エネルギー問題における全ての問題は永久に解決されたと思ってよろしい!"
少銀河の中を、光速、あるいは超光速で、あらゆるメディアの情報として、終戦に至ったことを報じる爆発的な歓喜の放送が放たれる。
・・・・とあるメディアの記述より・・・・
それは、今から小銀河標準時で30日前の、ある小競り合いから起きた。 二大勢力が、その地域にあるエネルギー資源を巡って小規模な争いになった時、その異銀河からの来訪者は突然に現れたのだという。
それは巨大な浮遊隕石の形をとっていた。その巨大隕石は出現すると共に両勢力の最前線へとコースを取り、 悠然たる速度で両勢力の出鼻を抑える形で前線を横切っていったと一兵士の証言がある。
妙な巨大隕石ということで一時停戦となり、巨大隕石は捕獲され詳しく調べられることとなる。
しかし、当初すぐに詳細な解析が行われて、すぐにエネルギー資源となるであろうと思われた巨大隕石は、 その思惑を裏切り、表面だけは削れるものの、その内部は全く調査不能と言う、とんでもない事になっていった。 レーザーだろうがX線だろうが、その他の探索ビームにしても全く透過できない貫通不能の物体と判断した両勢力は、 もう1つの第三勢力も引き入れての巨大隕石解析プロジェクトを立ち上げることとなってしまった。
ちなみに、この時点で、三勢力が解析プロジェクトが終了するまでは停戦となることが決定された。 この「巨大隕石解析プロジェクト」だが、有り体に言って、この少銀河の全ての知識と知恵、 技術が注ぎ込まれたと言っても過言では無かった。しかし巨大隕石は、その全てのものを跳ね返し、その内部を見せることはなかった。
どうにもこうにも手が出ない状況で、こりゃ本格的に腰を落ち着けての解析作業になりそうだと、無期停戦を発表した途端!
巨大隕石の中から、思いもかけぬ超強力なテレパシーが発せられる。 我ら少銀河に生きる者達、これほどの強力なテレパシーは後にも先にも経験したことのない強さだったため、 巨大隕石の付近に居た者達は瞬間的にパニック症状に陥り、現場は大混乱。になるはずが、 その数十秒後に穏やかなテレパシー波が発せられた事により瞬時に収まっていったと、その時をリアルタイムで伝えていたメディアの管理官は伝えている。
「まるで、悪ガキを叱った父親が、その後で穏やかに諭すような声が聞こえた」
このような表現もあるが、あながち間違ってはいないだろう。 それまで戦争に明け暮れていた悪ガキのような生命体とは我々のことだ。 興味深いことにテレパシーは、この二回だけで後は全て通常の放送波における会話にて行われている。 我々がテレパシーの扱いに長けていないことが一瞬にして理解されたようだ。さて、この通常会話で語られた事だが、
*戦争とは、最も惨めな手段であり、最も愚かな方法である。
*原因となっているエネルギー枯渇に対しては、充分に救える手段やアイデアがあるので心配しなくて良い。
*お隣の「銀河系」では、もう既に様々な種族や生命体が、互いに助けあいながら成長していく道筋が出来上がっている。 もしよければ、その方法すらも教えよう。
とんでもない提案である。予想もしてない事件とは、このことだろう。 何処の誰が、ふらりと現れた巨大隕石が、戦争をやめなさい、その原因を解決してあげましょう、もし望むなら、それ以上の事も教えましょう。
などと、神の如き提案をしてくるなどと思うだろうか?
夢? 幻? それとも戦争が長引いて我々全てが妄想に浸ってしまったのか?
いいや、これは現実である。その証拠に戦争を止めるための方法、エネルギー問題を解決するための方法、 そして、この少銀河に「貿易」や「宇宙救助隊」という概念や組織を立ち上げる方法などが事細かく語られていった。 巨大隕石からの放送は何も暗号化されていないものだったため、惑星上は言うまでもなく付近の星系でも充分に聞けるものだった。 おまけに超高速通信波まで使用して、 いつの間にか設定されていた(こちらが解析されていた)民間周波数に乗せて全ての会話が周囲 100光年に渡ってプロテクト無しにリアルタイムで放送されてしまっていた。
(我々は後から気付いたが、もう遅かった。秘密も何もありはしなかった。本来なら軍の最高機密に当たるような事柄すらも巨大隕石は全て放送した)
三勢力の高官は青くなったが、逆に勢力のトップ3名は気楽なものだったと伝える。
「ようやく戦争が終わると考えると、我々3名、気が抜けてしまったよ」
冗談か本気かは別として、これは本音だろうと思われる。まさに、
「デウス・エクス・マキナ」(機械じかけの神)
が降臨され、全ての状況がひっくり返ってしまったのだから。で、現在。
巨大隕石は、そのままの位置にあり、多くの者達が異銀河の知恵や知識、遥かに進んだ技術を少しでも知りたいと願い、巨大隕石を取り囲むようにしている。
私はメディアの一記者であるが、この光景は、何か神に近いものに参詣する信者のように見える。
中に、どんな生命体が乗っているのか、それとも、この巨大隕石そのものが生命体なのか、興味は尽きないが、それは時間が経てば分かるだろう。
今、別の場所では、エネルギー問題を解決するための様々な提案があったため、実証できることから始めていくようで。
現在は太陽エネルギーを高効率で電力変換するための装置と機材の実験が、この星系で行われようとしているところだ。
別の場所では、小さすぎて太陽になれなかった巨大ガス惑星の恒星化実験も始まっているとのこと。
ほかにも、様々な実験や計画が、あちこちで動き始めている。
我々の少銀河も、近い将来には、銀河系とは言わないまでも、すぐ近くの大マゼラン雲まで行けるような宇宙船は開発したいものである。
小マゼラン雲共同通信リポーター、記す
小マゼラン雲のトラブル解決、終了!
俺達は終戦宣言が成された後も、あまりに懇願されたため、次の目標へと旅立てずに居た。
あと、俺達全員が、この件ではフロンティアを出ていない。その理由は小マゼラン雲の大多数を占める生命体が、なんと「水素呼吸の生命体」だったからだ。
太陽系にも確かに原始的ではあるが水素呼吸生命体は存在したので、酸素呼吸生命体との相性の悪さは覚悟してたんだが、 小惑星と勘違いされたフロンティアが運ばれた場所が最悪だった。
ほとんど、太陽系で言う木星のような星に降ろされて検査や調査をされていたのだ。
これではロボットであるフロンティア(頭脳体)とプロフェッサー、フロンティア支配下の作業ロボットくらいしか船外へ出られない。
俺達、生命体組の3名が外に出ようとしたら船外作業用でも特殊なアタッチメントつけたパワードスーツのような物に入るしか無い。
で、皆で相談した結果、このままで行こうとなったわけだ。 幸い、向こうで勝手に勘違いしてくれたようで、フロンティアという名前が「生きている小惑星」のようなモノに落ち着いたらしい。
神様扱いは勘弁してほしいと思うが、フロンティアを取り囲む群衆に対しては、あまり幻滅させてはならないなと思うので、現実の公開は控えることにする。
今日も今日とて様々な個体が、それぞれの悩みを解決するための方法を知りたいがため、フロンティアの回りに集まっている。
「フロンティアよ、教えて欲しい。我が人生、我らが子供らの未来に幸福は来るのだろうか?」
こんなんばっかし。まあでも、今まで戦争しか知らなかった人生と生活だったしね。
明るい未来が来ると言われても、本当かい? となるのは仕方がないか。
「大丈夫だ。この小銀河の未来は、これから明るくなっていく。 これからは、お互いに戦うのではなく、お互いに助けあう事を一番に考えて生きれば、君たちも、そして君たちの子どもたちも、 幸せになる。そして、いつの日にか、お隣の銀河系とも友情の手を伸ばす日が来るだろう」
「おお! 幸福は約束されたのか! すばらしい。お隣の銀河系とも、いつか友情の手を握り合いたいものだが、教えて欲しい、銀河系とは理想郷なのか?」
うーん......
理想郷とは程遠いとは思うんだが......
「いや、理想郷ではない。理想郷ではないが、この少銀河よりも多種・多様な生命体と文明が、 今では互いに助けあって宇宙を理想郷のような場所にしようと頑張っている。 君たちの文明が銀河系の良き隣人として挨拶できるようになるだろうことを期待している」
まあ、このような、今までの戦争一色の政治や思考形態を少しづつ変えていければいいなとの判断で、 お悩み解決相談フロンティア神社を仮設しているようなものだ。
それにしても、いっこうに減る気配すら無いな、この人だかり......
終戦から半年(船内時間、地球時間です)後、ようやくフロンティアが旅立つ時が来た。
小マゼラン雲文明の科学力は自己銀河内での跳躍移動は実現しているが、通常の上昇や降下、惑星上での飛行については、 いわゆる「ロケット」式のものが基準となっている。
フロンティアの場合、フィールド推進なので加減速にGを感じることはないが、 どうしても近くに宇宙船がいると強力な磁場で相手の操縦に干渉してしまう事になる。
なので、申し訳ないが見送りや護衛のたぐいは一切止めてくれと星系政府にお願いしてから、ズズズ......
と巨大なる船体を浮上させる。水素とメタンの大気なので、あまりフィールド推進エンジンの出力は上げられない。
影響を最小限にするためにバリアフィールドは展開しているが、あちこちで放電している。ちょいと冷汗ものである。
ようやく大気圏を抜け、宇宙空間に出る。星系政府に向けて、最後の挨拶を送る。
「小マゼラン雲に平和が訪れて良かった。君たちのさらなる発展を期待している!」
「ありがとう! 巨大にして強大なる叡智の神。あなたに少しでも追いつけるよう、我々も精進します!」
ってことで俺達は次の目的地、大マゼラン雲へ行く。
ここで主人公たちが知らない、小マゼラン雲の、その後について......
「奇跡のような巨大なる神が告げられた! 我々のこれからの目標は遥かなる銀河系に行き、その友情あふるる生命体たちとの良き隣人となることだ!」
オオオッー!
と、メタンの大気が波打つような声が上がる。
フロンティアが去った後、神の国と仮称される銀河系への憧れは、もう、行動目標となるまでに盛り上がってしまった。
こうなると、生命体の種類が統一されてるような小マゼラン雲の歩みは速い。
一世紀も経たぬうちにエネルギー欠乏問題は解決され、目標は銀河系への友好の使者を送るという次元へと変わった。
彼らの寿命は、20世紀の人類並。
水素などという燃えやすい気体を呼吸しているため、彼らは力強く、素早いが、寿命が短いのが欠点となる。
それだけに、銀河を超える旅となる宇宙船を造るのは可能だが、往復では乗組員の寿命が足りなくなる。
そのため、世代宇宙船か、あるいはコールドスリープ技術の確立が必要となる。
数10年後、ようやくコールドスリープ技術が民生用にも応用できるレベルとなり、銀河を渡る使節船が作り出され、就航の時を待つだけとなった。
「ようやく、この時が来た! 皆、我々の思いを神々のいる銀河系へと届けて欲しい。君たちが、我々の希望である。頑張って欲しい!」
と、小マゼラン雲あげての進宙式が催されて、彼らの科学の粋を詰め込んだ銀河間宇宙船が10万光年という果てしない距離を踏破することになる。
後の話になるが、この宇宙船、あちこちに試験船ならではの欠陥を抱えていて、 とてもじゃないが銀河系までたどり着くことすら奇跡と思えた、と航海日誌は語っている。
今までにない超長距離の跳躍を成し遂げたのは良かったが、その後に超長距離跳躍理論そのものに抜けが見つかり、 その欠点を修理・修正するのに3ヶ月(試験船だけあって全ての部分品には4つまでの予備が存在し、 宇宙船の半分は整備工廠のような作りになっていたのが幸いした)かかったり、 コールドスリープ技術にも少々の問題があり、一年以上の冷凍睡眠は不可能な事が判明し、 乗組員が交代で起きるシフトが短い間隔になったりして予定よりも長い年月がかかって銀河系に到着した。
詳しく言うと銀河系の端っこに到着したのだが、そこからは急展開の話となる。
その頃には銀河系中に通信や貨物・人、その他の様々なネットワークが張り巡らされており、ずいぶん前から小マゼラン雲からの宇宙船は確認されていた。
銀河系評議会では、この宇宙船のことも話題として取り上げられ、
救助すべきか?
それとも銀河系に自力で到着するのを待つか?
と、議題に上がった。
「仮にも小マゼラン雲からの宇宙船である。彼らのプライドというものもあるだろうから今は見守ろう。 しかし、今すぐにでも救助に行ける体勢だけは取っておこう」
との議長声明により、銀河系では毎日、
「あ、さて。今日の小マゼラン雲使節船情報です。今日は久々に長距離跳躍を行った使節船は、 銀河系まで残り8000光年を切りました。 彼らの素晴らしい冒険心に拍手を送りましょう! もしかすると彼らも「伝説の宇宙船フロンティア」と出会っているかも知れませんね」
などとメディアニュースともなっていた。
銀河系に、とにもかくにも自力で到着した使節一行は宇宙船から地表へ出たすぐに銀河系の各種メディアに取り囲まれる事となる。
あまりの驚きに立ち尽くしていると使節一行の警備担当者が、ようやくのこと取り巻きを規制し、銀河系評議会の一行とファーストコンタクトさせる。
銀河系では全く未確認の生命体とファースト・コンタクトする場合には必ずテレパシーで呼びかけるように制定されているため、 テレパスが歓迎・交渉団の一員に必ず入っている。
〈ようこそ銀河系へ。大変な旅だったでしょう。あなた方が水素呼吸生命体だという事は理解しておりますので、 こちらに特別環境室を設置しております。宇宙服を脱いで、こちらでおくつろぎください。 我々の歓迎・交渉団との会話も、すぐにトランスレータ辞書が出来上がると思いますので、ご安心下さい〉
受信は可能だがテレパシー送信が苦手な生命体だとすぐに理解され、水素・メタンの混合大気の詰まった特別環境室へ通された小マゼラン雲使節一行。
テレパシーで、適当に会話をして下さい、こちらでトランスレーターの辞書作成を早急に行いますから、 と通知され、宇宙服を脱いでくつろぎながら日常会話を続ける。
2時間もしないうち、辞書の作成が終了し、トランスレーターが動作し始める。
「あなた方、銀河系の生命体に会いたかった。会って、我々の窮地を救ってくれた巨大小惑星を派遣してくれたお礼を言いたかったのです」
使節団の代表(船長は別にいる)が語る。
「おお! それでは、やはり、あなた方の銀河にもフロンティアは行っているのですね。 で、やっているのは、想像通りのトラブル解決。フロンティアの船長とは、お会いになられましたか?」
銀河系代表の話に、
おや?
と、首を傾げる使節団代表。
「どうも、お話に齟齬があるようですが。巨大小惑星フロンティアは、それ自体、生物ではないのですか?」
「あははは、それは、きっとフロンティア乗員が仕組んだジョークでしょうが」
どれだけ巨大でもフロンティアは宇宙船。その中には銀河系を代表する(?)生命体が3名、 宇宙船の頭脳体含めてロボット2体の5人のクルーによって構成されていること。
銀河系内はフロンティアと、その船長である地球人により、あらゆるトラブルや災害に対し、 すぐに介入して早急な解決策を産み出してあっちこっちを平和へと導いていたこと。
宇宙船そのものは銀河系でも造り出すことが出来ない驚異の宇宙船であること。更に銀河系の今現在の平和と繁栄があるのは、 ひとえにフロンティアのおかげだと言ってもいい、と話す銀河系代表団。
「と言うことは、我々はトラブルを抱えていたがために逆にフロンティアの恩恵にあずかれた、ということでしょうか?」
あまりの真実に質問しか無い小マゼラン雲使節団。
「いえ、大なり小なり、どの組織も問題を抱えているものです。今回は、あまりに問題が大きすぎたがために、 あの伝説のトラブルバスターが手を出したにすぎません。それよりも、あなた方との友好と貿易に我々は大いに期待するものです。 もう少ししたら銀河系評議会へご案内しますので、それまでこちらで、おくつろぎ下さい。 あ、宇宙服は脱いだままで結構です。どのような生命体でも通常の環境で評議会には出席できるようになっております」
数時間後、使節団のいる部屋へ、ベルトのようなものが届けられる。銀河系代表団の説明によると、
「これは数10年前に開発された個人用の転送端末です。 宇宙船のような大きなものですとジャンプサークルが必要となりますが 個人の生命体に関してはかなり自由に銀河系内を移動することが可能となりました。 このベルトを装着して下さい、よろしいですか? これで自動的に個人認証されましたので、 座標を入力します。あ、今回は特別に入力済みになっておりますので、ご安心を。これで次の瞬間には。 はい、ここが銀河系評議会、特別環境室です。では銀河系評議会の面々と忌憚なくお話し下さい」
あまりの技術の粋に、あきれ果てたような表情の小マゼラン雲使節団。しかし彼らが驚くのは、これからだった。
3ヶ月に及んだ交渉と会議、そして貿易協定の締結と相互防衛・救助組織の設立と、 その技術格差における解消を目指すための援助組織の立ち上げが決定された。
それから、わずか50年足らず......
小マゼラン雲から、巨大貨物船、巨大貨客船、超巨大観光船が発進していく。
目指すは星系の端に設置されたジャンプサークル。巨大である。惑星の直径と同じくらいの巨大な構築物は、その性能もずば抜けている。
巨大船ばかり100隻を超える宇宙船を軽く飲み込んで、出口は小マゼラン雲と銀河系の中間地点である。
銀河系の技術発展と、小マゼラン雲の技術を合せてみたら、思いもかけない発想が生まれ、 それが銀河系と小マゼラン雲をつなぐジャンプサークルとなって結実した。
銀河間の長大なる無の闇は、ここに征服されて、今では通常輸送では三ヶ月ほどで銀河系と小マゼラン雲が結ばれている。
これが緊急事態や宇宙災害になると、話は別である。超緊急輸送体勢になると、コストやエネルギー消費を無視して、特別なジャンプサークル運用をする。
その場合、銀河系内では輸送時間は1時間以内、小マゼラン雲と銀河系でも最大3日で全ての星系に緊急輸送可能となる。
滅多に使われることはないが、今までに3度、この超緊急輸送体制になったことがあった。
そのうち2回はスーパーノバ現象による該当星系内と付近星系の生命体緊急避難。
1回は宇宙震により激甚災害を受けた小マゼラン雲内の救助と援助に対して実行された。
銀河系内では宇宙救助隊の活躍は様々なメディアで放送され、お馴染みとなっていたが、 小マゼラン雲内での救助・援助活動は初めての事だったため、小銀河内では驚きと絶賛の声で迎えることとなった。
なにしろ滅多に見ることがない銀河系の様々な生命体、特に機械生命体と球状生命体に対し驚きの声が上がる。
そして、不定形生命体に対して救助活動での自由自在な活躍に、また驚く。
挙句の果てに地球人。地元メディアのMCが実は巨大小惑星宇宙船に乗っていたのは地球人の船長だとすっぱ抜いたものだから災害現場は、 さながら神の降臨し給うた現場の雰囲気に。
あっという間に生命体を救える限り救出し、その後の復旧すら、 またたく間に作業終了し終えた宇宙救助隊は地元からの絶大なる賛美の声に送られながら、粛々と撤収作業を行っていく。
ここに銀河系の隣人として小マゼラン雲の地位と信頼、友好は確立された。
ちなみにフロンティアの着地していた場所は聖地として認定され、小マゼラン雲内だけではなく銀河系からも多数の参拝者や観光客が来るようになった。
「はっくしょん!」
「おや? マスター、風邪ですか? 宇宙風邪は、こじらせると厄介ですよ」
「いや、これは違うな。誰かが俺のことを噂してるんだと思うぞ」
「おや、ご主人様の噂なんて、悪い話ではありませんよ、きっと。多分ですが神様扱いされてるだけだろうと思いますけれど?」
「そんなもの、悪い噂よりもひどいわ。あー、早く次の目標星に着かないかなー」
「我が主、それが原因だと気がついてないのでしょうかね?」
今日も宇宙は平和である。