第三章 銀河団のトラブルバスター編
第十三話 名も無き星からの船
稲葉小僧
僕は、この小さな世界で生まれた。今はまだ、若い僕は何の仕事もしていないけど、数年後には、いくつかの選択肢を計算機より与えられ、自分で選んだ1つの仕事に就くことになるだろう。
この世界、教師の言葉や教科書によると「世代宇宙船」というらしいが、この世界は小さく、そして大きい物なのだそうだ。
小さいというのは、もともと、この「世代宇宙船」が造られた世界(惑星という名前らしい)に比べると圧倒的に小さいから、と教科書にも書かれている。
大きいものというのは、この「世代宇宙船」が、宇宙船としては、途轍もない大きさだから、なんだそうだ。
教科書(教師たちは、世代宇宙船のマニュアル、と呼んでいる)には、その大きさが具体的に書かれている。全長500km、縦横は80kmで先頭に宇宙船の操縦室がある。
船尾には、とても大きくて固い遮蔽板があり、一日に一回、船尾の放出口より推進爆薬が放出され、その爆発の反作用により、世代宇宙船は進んでいく。
先頭と船尾の間には居住区という物が設けられ、半球形の、お椀を被せたような大きなドーム型の構造物(直径50kmで左右に互い違いに取り付けられている。総数10)が宇宙船の骨格から伸びる骨のような構造物により支持されている。
僕が生まれ、育ち、死んでいくだろう居住区6は、その名の通り、先頭から1,2,と数えて6番目のドーム。それぞれのドームからは、他のドームは見えないようになっていると教科書にも書かれている。
ドームの原型である宇宙コロニーは屋根も透明だったそうだけど、宇宙船では浴びる放射線が危険視されて透明じゃないドームになったんだと。居住区は宇宙船本体としか接続されていないため、他のドームや操縦区や船尾(駆動管理部)へ行くためには必ず接合部を通るしか無い。この構造は、たとえ反乱がおきたとしても船長らの安全を守るために改造などは許されていないそうだ。
僕が教科書や教師に学ぶ年齢になって最初に起きた疑問は、
「何のために、この巨大宇宙船を造って宇宙を旅してるの?」
って事だった。その答えは子供心にも酷い話だと思った。教師の話を、そのまま書き記そう。
「私達の故郷の星は、それはそれは豊かな星でした。その星では40億年以上にも渡って生命が発生し、進化し、ついには惑星を飛び出す種族にまで到達しました。私達の先祖になる、その種族たちは、豊かな資源と高度な技術を使い、自分たちの星だけではなく、星の衛星から、お隣の惑星へと手を伸ばし、自分たちが住める星の領域を増やしていきました。そこまでは順調でした。先祖たちは、より速く、より長く飛べる宇宙船を造り上げると、星系の末端まで届こうかと、手を伸ばし始めました」
「そこに悪魔の手が忍び寄って来ました。突然に何の前触れもなく星系の母たる太陽が不安定になったのです。冷えていくのなら、まだ対応のしようはありましたが、そうではなく突然に太陽の熱量が上がり、その直径も膨れ上がってきたのです。先祖たちは懸命に生き延びようと考え、あがき、ついにたどり着いた答えが、この世代宇宙船でした。その時代の最先端技術を用い、まず、第一号となる、この宇宙船が造られました。そして、燃料として、もう戦争の道具として使用されなくなって久しい原子分裂や原子融合を利用した爆弾が利用されることとなりましたので、放射線防護のために大きな遮蔽板が取り付けられる事となったのです」
「はい、それで第一号宇宙船に乗り込める人員の抽選が始まりました。その頃には、まだ太陽の不安定化は顕著ではなかったため、知力や体力、精神力に優れた者達や、その家族が優先的に当選し、余った席には、一般抽選で一万倍の当選率を勝ち取った人たちと、その家族が乗り込めることとなりました。第一号宇宙船が発進した後、建造中の第二号や第三号、第四号宇宙船も順調に建造されて発進するはずでしたが、この宇宙船が星系を出る頃には電波状況が悪化して、故郷の星とは連絡がつかなくなっていました。ですから、後の人たちがどうなったか? 後に続くはずの宇宙船団は、どうなったのか? は、全く分からないのですよ。でも、光学系の観測班によれば、太陽の不安定さが増して、膨張した太陽は星系の第一惑星の軌道を超しているとのこと。第四惑星軌道にある故郷の星は、現在は、どうなっていることやら……」
以上、教師たちの回答だった。後に続く船団が発進しているのなら良いが、もし太陽の熱量が大きくなり過ぎていた場合、第二号宇宙船以降は建造されず、ご先祖達の「残され組」の人たちも、どうしているのやら……
ご先祖達の叡智を集めて造り上げた、この第一号宇宙船(大きさと、運用方法から「世代宇宙船」と呼ばれるようになった)も完璧というわけじゃない。
世代宇宙船が進宙してから、もう3世代目を迎えている(僕らが3世代目)ので、あちこちが古くなっているのだそうで宇宙船本体管理・修理班の仕事になった場合には、一日中あっちこっちを走り回る事になるのだそうだ。
宇宙船の仕事と言っても、多種多様。宇宙船の管理・修理にも様々な種類(計算機班、エンジン班(爆薬管理だろうと揶揄されてる)、水廻り班(通常の水回りから水耕栽培の水管理、有害放射線からの防護用の水膜管理もあるため大変な班)に、本体の管理・修理)があるんだから、他の仕事も同様。
種類も人数も限られて、頂点とも言われる職業が「運行管理部管理班」で、この世代宇宙船の船長含む先頭部に勤務する人たちだ。
外部との通信接触、故郷の状況把握も兼ねてるそうなんだけど、新しい情報や、他の宇宙船と交信や接触したなんて聞いたこともないから、やっぱり僕達は、宇宙でひとりぼっちの孤独な旅人なんだろうか。
ちなみに僕のお父さんはエンジン管理班。1日1発の推進爆薬管理をしてる。お父さんの言うことにゃ、まだまだ推進用の水爆やプルトニウム爆弾は、倉庫にゴマンとあるとのこと。
最初の発進と加速時には1時間に1発づつ爆発させてたらしいんだけど、今は1日1発の間隔で良いんだそうだ。
お母さんは計算機の管理・修理班。この頃、ちょっと沈んだ顔をしてる。僕が心配して、
「どうしたの?」
って聞いたら、
「何でもないわ、宇宙船の運行管理と制御計算に、異常なし!」
って言ってた。疲れてたのかな?
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは、今はリタイヤしてるけど、昔は運行管理部管理班の切れ者夫婦って言われてたらしい。で、今でも現在の船長たちから相談を受けたりする。
今も僕達は、目標の星へ向かって進んでいるのだそうだ。到着するのは、僕達の子供の子供の、そのまた子供……と、ずぅっと世代が積み重なる将来になるんだそうだけど、それまで何事もなくすめば良いなと思う。
今日も、僕は、どこかに居ると言われる「神様」に祈る。宇宙が、ずぅっと平和で、故郷の星も無事でありますように……と。
深夜。
お父さんとお母さんが言い争いしてた。僕にはよく分からなかったけれど、船尾にある遮蔽板のことを話題にしてたようだった。
翌朝、起床時間になって二人とも仲良くなってたけど、お母さんの顔には泣いた後、お父さんは何かを諦めたような顔をしてた。
昨晩は、何を話してたのか聞きたかったけれど、2人の顔を見て、やめておいた。
何か、聞いちゃいけない話だったようだ。
今日は学校で、水耕栽培区画の成果物の取り入れ作業を手伝う体験授業だった。
僕の手伝った栽培物には変なところは無かったけれど、友達のクラスでは、三つ葉が六つ葉になった植物が採れたって言ってた。
この頃、水耕栽培区画では、六つ葉の野菜のような変な野菜がときたま採れるらしい。
先生に聞いたら、突然変異と言って、外部からのストレス(宇宙船やら放射線やら、汚れた水も、だって)で変な野菜ができる確率が高くなるんだそうだ。
僕がふざけて、
「じゃあ、先生。人間もストレスが高くなると突然変異するの?」
って聞いたら、先生、にこやかな顔から真剣な顔になっちゃって、
「そうだ、人間も、突然変異してもおかしくない。ただし、野菜と違って人間は生命体として複雑化して高度な生命体だから、その突然変異が外見に出るとは限らないんだ。もしかすると、精神に突然変異の影響が出るのかも知れない」
と、答えてくれた。先生の話によると精神の突然変異は当人にも分からないことがあるらしい。その普通じゃない力が発揮された時に、心が普通人と同じなら良いが、心まで突然変異してるようだと常識やモラル、法律などを無視するようなことにもなりかねない、恐ろしい事態になっても不思議じゃない、との事だった。僕は何か恐ろしいことを聞いたような気がして、その日は学校が終わったらすぐに家に帰った。
夕食の時間に、お父さんとお母さんに、先生に聞いた話をすると、お父さんもお母さんも真面目な顔になり、僕に言い聞かせるように、
「いいかい、坊や。確かに先生の言うように、この世代宇宙船は、ずいぶんと古くなっているから、推進用爆薬の放射線を、造られた時のようには防護できなくなってきているのは確かなんだ」
「でもね、坊や。お父さんや私、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんたちまで一緒になって、どうしたら、このトラブルに対処できるのか考えているのよ。最悪、防護板の修理が完了するまで推進用爆薬の排出停止を考えているわ」
「そうだ、宇宙船の速度は、もう光速の3%ほどにもなっているから、しばらく爆発推進は止めても大丈夫なんだから」
僕は、ちょっと疑問に思ったことを聞いてみた。
「宇宙船の速度って、そんなに速くなってるのか。でも、それだと宇宙空間から受ける放射線の量が無視できなくなるんじゃないの? いくら水の壁で防いでいるって言ってもさ」
「それは、確かにそうだが。でも、坊やが心配しなくてもいいんだ。私達、大人がアイデアを出して何とかしてくれるさ」
「そうよ、子供は楽しく遊んで勉強してればいいのよ」
でも、そう言ったお父さん、お母さんの顔色は、やっぱり悪かった。
夜、いつもの通り、宇宙の何処かに居る神様に向けて、宇宙が平和でありますように、この世代宇宙船も無事に目的地に到着できますように、故郷の星が無事でありますように、と祈っていた。
普通は、この後、ベッドに入って寝るんだけど、今夜は違った。
僕の祈りに、返事があったんだ!
〈弱い信号強度だがテレパシーを受信した。こちら宇宙船「フロンティア」だ。トラブルが起きているようなので、そちらへ向かう。数日後には、そちらとランデブーできるだろう〉
宇宙船フロンティアだって? 第一号宇宙船より以前に世代宇宙船なんか造られた記録は無いよね。
例え造られていても、光速の数%もの速度が出ているのに宇宙船の進行方向を自由に変えて、数日後には僕らの宇宙船とランデブーできる性能……
僕は、もしかして、他の宇宙人が操縦する宇宙船と交信したんじゃないか?!
僕は、ワクワクしながらも、これが明日には大変な騒動になるなどとは思いもせずに、ベッドに入って寝たのだった……
次の朝、ベッドから起きてダイニングルームへ行くと、お父さんとお母さんが喧嘩してた。僕は、
「お父さん、お母さん! 喧嘩なんか止めてよ! お願いだから!」
と、一生懸命、説得したよ。それでも二人共、何か言いたそうにしてたけど、僕が泣いてることに気づくと喧嘩を止めてくれた。
「悪かったね、坊や。もう、お父さんもお母さんも喧嘩なんかしないぞ。だからほら」
と、再生ティッシュペーパーを差し出してくる。僕は、涙と一緒に鼻をかむと、それを再生用ディスポーザーに投げた。
「ごめんね、坊や。二人共、ちょっと仕事のことでイライラしてたものだから、つい。ほら、もう仲良しよ」
二人して、僕に謝ってきたんで、僕はお父さんとお母さんを許してあげた。その後の朝食は、いつものメニューだったけど、なんだか少し、しょっぱかったよ。涙のせいかな?
学校へ行くと、先生たちが、
「今日の授業は中止します。皆さん、一番広い集会ドームに行きますよ」
と、授業の代わりに集会ドームで何かあるんで、その見学に行くらしかった。先生に引率されて、集会ドームへ向かうと、周辺の学校に居る子供たち全てが集められたらしくて、ドームの一角は子供たちで埋まってた。僕らの住む居住区6の統率者が演壇に進み出て、これから何が起きるのか説明するらしい。
「あ、あ~、大丈夫ですね、では。皆さん、お忙しいところ、緊急に集まってもらったわけですが、その理由を、これからお話します」
と言いながら、映像投射スクリーンを天井から下ろすように、統率者がドーム管理者に指示した。
「まず、この映像と音声を見て下さい」
映像がスクリーンに映る。少し暗いけれど、これは、ほとんど実際には入れない宇宙船の先頭部、船長達のいるブロックじゃないか? 運行予定を決める会議を行っているような風景と音声が入る。
と、突然! 今までノイズしか聞こえなかった通信機に、約100年近くぶりに信号が入った! 色めき立つ船長たち。見ている僕達も、おおっ! と声を上げる。
最初、通信機から聞こえてくる音声らしきものが何なのか船長達には理解できなかった。当然、映像を見ている僕達にも分からない。故郷の星系の太陽が瞬間的に安定を取り戻し、そこで何らかのメディアの放送波が入感しただけなのか? それとも新しい通信方式を故郷の星の人々が開発したんだけど僕達には再現できずに信号だけしか受け取れていないのか? 僕らは、その他の可能性もあるってことを、すっかり忘れていた。
当然、この僕も昨夜のテレパシー通信で宇宙船フロンティアと交信した事は夢の中の出来事だと思ってたから、僕の夢が本当の事だったなんて思っていなかった。
約一時間と少しくらい経った時だろうか、映像と音声に変化が出てきた。僕達にも分かる単語が通信機から少しづつだけど聞こえるようになったんだ。
でも、大半は何を言ってるのか理解不能だったけど。2時間位経つと(映像加工されて、途中は飛ばされてた)今度は半分以上、僕らの言葉が聞こえるようになった。その中で船長と通信でやりとりしてる光景が映ったんだけど。
「! ”#$$&$#””、そちら$宇宙船()非常事態’&救援%$向かって#”! ”! $##”」
それに対して船長が、こう言っているのが聞こえたんだ。
「こちらの船は致命的事態には陥っていない。しかし、救援に来てくれるなら有難い。こちら一号宇宙船より、宇宙船フロンティアへ」
え? 宇宙船フロンティア? 昨日の夜の夢じゃなかったの? テレパシー通信は、夢じゃなかったんだ!
僕は世代宇宙船の危機を救うヒーローになった事を誇らしげに誰かに言いたかった。でも昨日の先生の言葉、精神の突然変異って言葉が頭に蘇って、あわてて口をつぐんだよ。
僕は、人の突然変異なんだろうか? 精神まで突然変異してたら、どうしよう……モラルや常識が通用しない人になったら、どうしよう……
ともかく、僕の持ってるテレパシー能力は、他の人たちは持っていないことが分かっちゃった。
僕の信頼できる友人にも、この事は打ち明けられない。
打ち明ける相手は、ただ一人。宇宙船フロンティアに乗ってる、僕と同じテレパシーを使える人だけだ!
他には、お父さんやお母さん、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんには、いつか打ち明けなきゃいけない秘密だ。
でも、その時の僕には、秘密を打ち明けるってことが何を意味するのかが、本当に理解できていなかった……
僕らが見ている映像は、まだまだ続く。数カ所が飛ばされて、数時間後の映像のようだった。
その頃には、もう向こう、宇宙船フロンティアの通信も安定し、単語もほとんど聞き取れるようになっていた。
「宇宙船フロンティアより、一号宇宙船へ。そちらの実空間の速度が速すぎて、うまくランデブーできないようだ。そちらの速度、もう少し落とせないか?」
「一号宇宙船より、宇宙船フロンティアへ。こちらは爆発推進ロケット型であるため、速度を落とすにも手順と時間がかかる。通常手順であれば、およそ5日間は必要だ。それだけあれば、今の速度の半分には落とせる。しかし、時間の短縮は乗員や乗客の健康や生命に関わるため、短縮できない」
「宇宙船フロンティアより、一号宇宙船へ。了解した、その手順で速度を落としてほしい。現在の半分程度に落ちれば、こちらで対処してランデブー可能だ」
「一号宇宙船より、宇宙船フロンティアへ。こちらも了解。では、5日後に会おう!」
「宇宙船フロンティアより、一号宇宙船へ。こちらこそ、楽しみにしている。お互いに驚くだろうな。では、5日後に! 以上、通信終了!」
そこで、映像は終わったんだけど、ここから、統率者の現状報告があるみたいだ。
「以上の映像から、我々は遂に異星人と出会うこととなった! 相手の宇宙船の大きさも、どのような推進方法で宇宙を旅しているのかも不明だが、しかし! 我々よりも進んだ科学や技術を持っていることは確かである」
聴衆の中から、疑問を感じた人が居るようだ。
「統率者、1つ疑問がある。我々の乗っている世代宇宙船、正確には第一号宇宙船だが、この船は順調に航行していると聞いている。何故、ファーストコンタクトとは言え、搭載艇や個別ポッドを使わずに、相手の宇宙船とランデブーしようとするのか?」
統率者は船長以下、運行管理部門や本体管理・修理部門からの報告を読んでいたみたいで、
「疑問は当然である。しかし、ここで1つ、運行管理部から部外秘にしてほしいと頼まれたデータを、今、公開させてもらおう。スクリーンを見てくれ」
先頭部の光景が映ってたスクリーンに、様々なデータやグラフが映る。グラフは、右肩上がりだったり、右肩下がりだったりと、様々だ。僕には半分も理解できないや。
「手元のデータ表示器にも転送されるように指示したが、このデータやグラフは、船内の備品や宇宙船の構造劣化、そして、船尾の遮蔽板の劣化を表すものである。今すぐではないが、数十年後には、この船はデブリ衝突でバラバラになるか、それとも推進爆薬の放射線で死の船となるか、という事だ」
みんな、言葉が出なかった。ご先祖の人たちの最新科学技術を詰め込んだ第一号宇宙船が、そんなに早く劣化するなんて考えられなかったからだ。
「私も、このデータとグラフを見た時には、怒りを通し越してあきれ果てた。これだけの人数を乗せた巨大宇宙船が、100数十年しか維持管理できないなんて信じられなかった。だがしかし、皆、いや、皆さん! これは真実なんだ!」
質問した人が、再び。
「統率者、この世代宇宙船が中古のオンボロだという事は理解できた。しかし、それと、友好的かどうかも分からない異星人と、本船がランデブーする意味が分からないのだが?」
統率者が答える。
「この宇宙船の修理、あるいは代替宇宙船をもらえるかも知れないからだ。皆の多くは、そんなに友好的な異星人だと決めつけて良いのか? という疑念があるだろう。しかし、安心して欲しい。この、宇宙船フロンティアは友好的な異星人が乗っているのだ」
僕らのいる一角から、もうすぐ大人になる年齢だろう、すごく大人びてる子供の一人が疑問を発した。
「あのー、僕らが見てた映像からは、異星人の宇宙船の大きさも形も、それに異星人がどんな姿をしているのかも見えなかったんですが。そんな状況で、相手を信じられるんですか?」
それに対し、統率者が答える。
「普通は、そう思うよね、坊や。でも、今回は別なんだよ。実は、世代宇宙船のすぐ近くに、宇宙船フロンティアの無人搭載艇がいて、通信の中継をしてるんだ」
その返事に対し、
武器を向けられていたらどうするんだ?!
無人搭載艇なら撃ち落とせ!
などと意見が出るけど、それには構わないで統率者が続ける。
「未だ、世代宇宙船の搭載レーダーに反応は無い。その状態で、向こうの搭載艇は無人にも関わらず第一号宇宙船を発見、追尾して、通信の橋渡しを行っているんだぞ。どう考えても、向こうの科学技術のほうが上じゃないか」
あまりに長く喋ったので、統率者は一旦、言葉を切り、水を飲む。続けて、
「その状況にも関わらず、こちらを援助しようと言ってるんだぞ? これを信用しなくて、どうするんだ? こちらの武器も通用しないであろう相手に対し、どうやって敵対しろと?」
それに対し、もう反論は出なかった。圧倒的な科学力と技術力の差、それを思い知らされたからだね。
5日後か……楽しみだよね、本当に。
なんて、僕が考えているようなお気楽な雰囲気では、本当は無かったんだ。僕は、後から、その事を知らされる。
異星人とのファーストコンタクト(通信)が僕達に知らされた、その翌日。
朝から統率者の自宅へ、様々な人が押しかけてた。
「異星人って、どんな姿形なんだい? 先頭グループ(運行管理班の事を、こういうんだ。船の先頭部に入れる人たちだからね)から情報貰ってるんだろ?」
とか、
「異星人は害悪、邪悪なんだから、撃滅せねばならない! 情報を教えてくれ、ダイナマイト巻いてでも相手の宇宙船に損傷与えてくれる!」
とか、
「異星人と交易できないか? 彼らが望む物があれば、こちらとの交易から貿易へ進めるんじゃないか?」
とか、色々、勝手な意見を言ってた。統率者は、様々な意見を勝手に言う人たちを前に、こう言っただけだった。
「船長はじめ、運行管理班からは、昨日言った情報の追加事項は入ってきていない。皆、不安だろうが、ここは追加情報を冷静に待って欲しい。後数日で、歴史的瞬間が目撃できるんだから、な」
過激派は、それでも満足できないようだったけど、自分たちだけで宇宙船の外へ出る方法がないため、ここはしぶしぶ引き下がるしか無かったようだ。
あ、船外作業船とか、緊急避難用の個別ポッドは用意されてるよ。だけど、操作が難しくて船外作業班の人たちにしか扱えないんだ(個別ポッドには操縦装置は付いてないんだ、避難用だから)
半日ほど過ぎたとき、僕は学校にいたんだけど、横から押されるような、変な力に気付いた。先生曰く、
「現在、世代宇宙船は方向転換モードに入ったんだ。君たちが横から押されるような力を感じたのは不思議じゃない、船が逆向きになるために回ってるためだ」
先生は、コリオリの力とか、僕達が普通に立っているのは居住区が回転してるからだとか、色々教えてくれた。こういう時でないと実感する授業はできないよ、なんて言ってた。
夕方になると、反対側の横からの力を感じた。数時間後、いつも前と思ってる方向から引っ張られるような不思議な力を感じた。
お父さんやお母さんに聞くと、宇宙船が逆噴射モード(向きを反対にして、推進爆薬を破裂させる事を言うんだって)に入ったかららしい。
これから世代宇宙船は、徐々に速度を落として宇宙船フロンティアとランデブーするんだそうで、フロンティアそのものは、もう世代宇宙船のレーダー索敵範囲内に入ってるらしい。
この船が今の速度(光速の3%超え)を保っていると、あまりに速すぎてフロンティアでもランデブーは危険らしい(やろうと思えばできるらしいよ、と、お父さんが言ってた)
ので、今の速度の半分くらいになれば安全にランデブーできるんだって。
それでも光速の2%弱だよ!
凄い性能だよね、宇宙船フロンティアって。
この宇宙船に搭載されている画像通信セットと、フロンティアの画像通信セットじゃ、あまりに精度や解像度の違いがありすぎて、未だに画像は送りあえないんだって。
こっちの画像通信セットも、造られた時には最新型だったんだけどな。やっぱり超科学の産物、宇宙船フロンティアには通用しないのかな?
「でね、お父さん。今朝、統率者の家にたくさんの人たちがやってきてて、その中に、異星人は邪悪で害悪でしか無いから、やっつけなきゃダメだって叫んでる人がいたんだよ。お父さんたちも、船長達も、そういう意見なの?」
一番、僕が聞きたいことだった。僕の気持ちは、テレパシーで交信した時に決まってた。あんな温かいテレパシーを送ってくる人が悪いわけないよ。
「正直なところ、私達も船長含めた先頭グループの人たちも、この事態に戸惑ってるんだよ」
え?
「戸惑ってるって、どういうこと? 助けようと手を差し伸べてくれる人、人とは限らないかも知れないけれど、少なくとも手を差し伸べてくれてるんだから、手を取れば良いんじゃないの?」
お父さんは、寂しそうな顔で答えてくれた。
「坊や、それほど簡単な事じゃないんだ、我々にとってのファーストコンタクト、歴史上、初めてとなる異星人の宇宙船との出会いだからね。今の気持ちは確かに嬉しいけれど、未来に、この関係がどうなるか? それも考えてるんだよ」
それは変じゃないかな? 僕は、お父さんを信用することにして、決定的なことを打ち明けようと決心した。
「大丈夫だよ、お父さん。お母さんも、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、心配しないで大丈夫。僕、宇宙船フロンティアの船長と一昨日の夜、話したんだ。宇宙船フロンティアって親切な人たちの集まりだよ」
お父さんたちの顔色が変わった。まずいこと言ったかな?
「坊や! おとといの夜と言ったね? まだ、宇宙船フロンティアの通信も存在も、全く知られていない時じゃないか! ? どうやって、向こうの船の船長と話したんだ?!」
真剣な顔で問い詰めてくるお父さん。こうなったら、あの夜の話をしよう。
「一昨日の夜、寝る前に、いつものように神様にお祈りしてたんだよ。この船と故郷の星が無事でありますようにって。そしたら、返事が帰ってきたんだよ、僕の祈りに。トラブルがあるなら助けようじゃないかって。テレパシーって言ってたよ」
僕以外、皆の顔色と部屋の空気が、今度こそ完全に変わった気がした。僕は、嫌な予感がした……
怖い。お父さんもお母さんも、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、怖い顔をしてる。
「ど、どうしたの? 僕、正直に打ち明けたよね。悪いこと、したのかな?」
お父さんが、静かに言った。
「坊や、今まで私達は家族として暮らしてきたが、実は、我々は、誰一人として本当の、先祖たちが言う「家族」じゃない。船内に居住するには、計算機の相性検索によって「家族」と認定された者達が一緒に暮らすだけなんだ」
とんでもない事を言われた。
更に、お母さんが口を開く。
「この船で暮らしていくためには、様々な決まりがあるのよ。船内の平和を保つことも、その1つ。私達は、私達の中から、私達と異なった能力や、超知能を持った者が生まれることを、よしとしないの」
お祖父ちゃんも、続けて、
「坊や、できることなら、お前に正式な名前が付けられる「成人の日」まで、お前を儂らの子供、孫として育てたかったのは本当の気持ちだ。だけど、こうなっては仕方がない。婆さん、保安班に連絡をとれ」
僕は、打ちのめされていた。
家族じゃなかった! 「家族ごっこ」してただけだなんて!
もう、逃げる気も起きない。保安班に、どこへでも連れて行ってもらおう……
最後に、聞きたいことがあったから、お父さんに、
「僕、これからどうなるの? 処分されるの?」
お父さんは、悲しい顔になった。最後に、お父さんとして話してくれるのかな……
「分からない。我々の誰もが、保安班に連れられていった「新しい者達」が、どうなったかを知らされないんだ。坊やのような「新しい者達」は、数年に一度か二度、現れる。そして、保安班に連れられて、何処かへ行く。それだけが分かっていることだ」
そうか、僕みたいな能力を持った人たちは、ちょくちょく生まれてくるんだな。
その全員が「処分」されるんだろうか?
それとも、普通の人とは隔離されて、どっかの居住区の隅に押し込められるんだろうか?
僕は、椅子に座ったまま、保安班の人たちが来るのを待った。
もう、何をするのも面倒だった。
保安班の人たちが来た。
真っ黒な服を来て、真っ黒な眼鏡をかけ、真っ黒な帽子を被っている。
僕達は、保安班の人たちを「死神」って呼んでたけど、そのままの名称だったんだな、実は。
両腕を持たれて、立たされた。
僕は、最後の最後に、一言だけ聞きたいことを、
「お母さん、もしお母さんが、僕の本当のお母さんじゃないのなら、僕の本当のお母さんは誰なの?」
お母さんは、悲しそうな目で答えてくれた。
「あなたに本当に意味での「お母さん」は、いないわ。この世代宇宙船では、赤ちゃんは全て、計算機によって精子と卵子を人工授精させた後、機械母体で管理されながら大きくなって生まれてくるのよ」
僕は、この瞬間、本当の意味で絶望した。そうか、僕にはお父さんもお母さんも、いなかったんだな。
うなだれたまま、僕は保安班によって、何処とも知らない場所へ連れて行かれた……
処分されるのかな? と思ったら、保安班の人たちは、居住区6から出て、そのまま中央プロムナードを歩いて行く。
あれ? 今、逆噴射状態になってるから、このまま行くと、予備として残されてるはずの、居住区10へ着いちゃうぞ?
居住区10って、あまりに船尾に近いから、危険を避けるために居住者はいないはずだけどなぁ……
僕は、そんな事を考えながら、保安班に連れられて居住区10の出入口へと向かっていくのだった……
「ここが、君の新しい居住区となる。心配するな、予備の居住区じゃないぞ、先輩たちがいるからな」
保安班の人たちが初めて喋った! けっこう優しいけど、ここに先住の人たちが居るって?!
僕は開いた機密ハッチのような防爆構造の大きなドアを通り、居住区10へ進んでいった。
どんな人たちなんだろうか? 僕の仲間、なんだろうか? それとも……期待と不安に満ち溢れた心で、僕と保安班は、居住区10の中を進んでいく。
人気はないみたいだけど、視線は感じる。ずいぶんと多くの人が居るようだな。
ちょっと古ぼけてるけれど、居住区10の行政府の建物になるはずだった場所へ連れて来られた。
建物の前には、少し痩せ気味だけど、普通の格好をした「市民」(宇宙船の各班の仕事をしてない人のことを、市民って呼ぶんだ)が、僕を迎えに来てた。
保安班の人が口を開く。
「久しぶりに見つかった突然変異の子供を、そちらへ引き渡す。なお、普通者たちとの接触は未だに禁じられているので厳守してくれ。では!」
僕は、これから居住区10に住むことになるようだ。保安班の人たちは、僕だけを置いて、中央プロムナードへ戻っていく。
僕の引き取り手の人が、話しかけてきた。
「ようこそ、異能力者の居住区10へ。名前は、おっと、まだ子供で名前はないんだったな。じゃあ、坊や、とりあえず、この町の説明と案内を任された者だ。行こうか」
彼は、そのまま踵を返すと建物の中に入っていく。僕は、あわてて彼の後を追いかけた。ここが僕の死ぬまで居る場所なら、取り残されてたまるもんか!
建物の中に入って手近な椅子に腰掛けると、彼は、僕にも座るように指示してくれた。僕が手近な椅子に腰掛けると、
「じゃあ、坊や。まず、君の仮の名前を決めなきゃならない。昔は、生まれた時に名前を付けて、それが一生、パーソナルネームとして使用されたんだが、この世代宇宙船では、成人になるまでに死んでしまう子供も多くてね。いつからか、成人になってから名前をもらうってことになっちまった」
へえ、そんな理由があったのか。じゃあ、僕の仮の名は、どうなるんだろ?
「とりあえず、坊やの仮の名は「サミー」とすることになった。成人の命名式には、仮の名から、自分が名乗りたい名前に変えることができるから安心してくれて良いぞ。じゃあ、この町の設立された経緯と、歴史から話そうかな……」
と言って、案内人の彼は、僕に仮の名を付け、居住区10が異能者と呼ばれる突然変異者達専用の街になった経緯と、歴史を話してくれた。
長い話だけど、かいつまんで要点だけ書いてみることにしよう。
*かつて、世代宇宙船が、まだ第一号宇宙船と普通に呼ばれていた頃、計算機による人工授精でありながら、生まれた子供に、わずかな確率ではあったが、精神的な突然変異が現れるようになった(肉体的な疾病や欠陥の可能性は、人工授精の段階で大幅に減らされるようになってるんだって。この点では自然分娩よりも安全かつ確実な受精になるみたいだね)
*その子供たちを、初めは普通に育てていたんだけど、そのうち普通人とは違う、超知能や各種の超能力(テレパシーやサイコキネシス、千里眼や過去幻視・未来幻視も含む)が見られるようになり、普通人と、「新しい者達」との摩擦が無視できなくなってきた。
*故郷の星では、新しい者達の存在も受け入れられて、社会活動でのエリート扱いされてたらしいんだけど、この宇宙船内では、計算機と先頭グループの判断・決断のほうが重視されるため、新しい者達に対する社会的迫害があちらこちらで起きるようになった。
*いくら特殊な宇宙船内部の環境とは言え、法律の大半は故郷の星のものを流用しているため、普通人と、新しい者達の対立を避けようと、新しい者たちだけの「町」を創ろうということになった。
*そこで、探したところ、危険性が高いということで「予備部屋」扱いされていた居住区10が候補に上がり、先頭グループや計算機にも反対の声は上がらなかったため、新しい者達は全て居住区10に引っ越すことになった。
*普通人の人たちには、新しい者達は保安班に全て連れて行かれたという説明をしたために、保安班はいわれのない別称「死神」と呼ばれるようになる。ただし、これは保安班も承知済みだったんだって。
*新しい町は人口が少ないだけで、順調に生活できるようになったため、これから生まれてくるだろう、後に続く「新しい者達」も、居住区10の町で受け入れることにしたんだって。
ということで、この居住区10の町の設立から現在までの歴史は分かったんだけど、どうも僕にはわからないことがある。聞いてみることにした、
「ありがとうございます、説明はおおよそ、理解しました。あと1つ、分からないことがあるんですが、良いですか?」
「ああ、良いよ。私で分かることなら説明してあげよう」
「この町の統治機構って、どうなってるんですか? ざっと見たところ、普通に統率者がいるような感じじゃないですよね。意思の統一とか、意見のすり合わせとか、どうしてるんです?」
「おっ?! もう、それを疑問として聞くか、さすがに長老が推す天才児だな」
「やめて下さい、僕は天才でも何でもないし、知能指数だって普通の中ですよ。テレパシーが使えるだろうってことは自分で理解してますけどね」
「違う、君は、サミーは、自分が何者なのか、まるで理解していないんだな。まあ、無理もないが。じゃあ、早速、その答えを理解するためにも、そろそろ、この町を案内して、長老の家に行くとするかね」
そう言うと、案内人の彼は、席を立って、僕を促すように見てきた。僕も立ち上がり、彼の後についていく。
長老に会うって言ってたよね。長老って、どんな人なんだろうか? 新しい人たちを率いてるんだから、顎鬚はやしたおじいちゃんかな?
僕は、期待と不安が混ざってる複雑な気持ちで、彼が町の案内をする声を聞きながら、町の各所を歩き、見ていった。
1時間ほど、案内人に説明を受けながら、僕は居住区を見回っていた。終着地は、長老と呼ばれている人の家らしい。
それにしても、他の居住区(1から9)とは、ずいぶんと変わっているようだ、ここは。人数的には、他の居住区と比べて少ないようなんだけど、様々な変わった装置が使われている。
「あの、他の居住区ではあまり見ない機械装置が使われていますよね。それは、やっぱりここが異能者たちの街だからなんですか?」
聞いたところ、普通に、
「ああ、そうだよ。超知能とかの異能者もいるからね。概知技術の発展形みたいな機械装置なら、ずっと前から使ってるぞ」
そうなんだ。あれ? でも変だな?
「改良した物が他の居住区に広まらないのは何故?」
そういう点だ。以前のものより使いやすくて高性能なら、なんでこちらの機械装置に置き換えないんだろ?
「ああ、簡単だよ。船に使われてる計算機が、改良された装置達の能力に付いて行けないんだ。計算機が管理できないものは船全体には普及できないって事だよ」
え? それって本末転倒なんじゃないか? とは思ったけど、それ以上の質問は止めた。
基本的に、ここの進んだ機械装置類は、世代宇宙船が現在の計算機システムを使っている限り、他の居住区へ波及することは無いみたいだから。
でも、と、黙った僕に対して案内人の彼が言うには、
「でもな、計算機のソフトウェアの欠陥を直してやれば、まだまだ古い計算機でも改良型の機械装置を管理できるんだって、長老は言ってるんだ。ただ、それをやるためには、宇宙船のシステムを一度、止める必要があるんで、実質的に無理なんだけどな」
うーん、そうか。
宇宙船は止められない。いや、爆発推進は止めても、中に住んでる人たちの生活や空気、水などの循環を止めることは絶対にできないよね。
でも、欠陥部分が修正されないまま飛び続けても大丈夫なんだろうか? そんな事を考えながら、僕は歩いていた。
少し疲れたかな? そんな事も感じながら歩いていると、一軒の家の前で、案内人の足が止まる。
「さあ、着いたぞ。ここが長老の家だ。おっと、忘れていた。長老には敬意を払えよ。何しろ、居住区10が我々の町となった頃からの歴史の生き証人みたいな方なんだから。サミーの力についても詳しく教えてくれると思うぞ」
ついに、長老の家に到着か。様々な疑問があるけれど、それがいくつかでも解消すれば良いな、僕は、そんな思いに耽っていた。
「待っていたよ、坊や、いや、今はサミーだったか。入って来なさい、我々の希望よ」
家の中から、そんな声が聞こえた。長老様だよね。
「長老! 新しく、この町の住民となったサミーを連れてきました。入室、よろしいですか?」
案内人の彼が、かしこまる。僕も倣ったほうがいいのかな。
「ああ、お入り。待ってたんだ、サミー。希望の星よ」
長老は、玄関先まで迎えに出てくれてたらしい。僕は、長老の両手でハグするようにして歓迎された。
案内人も驚いているようだ。ここまで歓待するとは思ってなかったのかな?
「初めまして、長老様。僕はサミー。仮では有りますが名前を与えられて光栄に思います。僕の能力はテレパシーですが、小さな力でも皆の役に立てたらいいなと思ってます」
僕は、長老に挨拶した。長老は、初めはニコニコしてたけど、小さな力でも、って僕の言葉を聞いて、おかしな顔をした。
あれ? 僕、変なこと言ったっけ? 案内人の彼が、長老に説明してくれる。
「長老、サミーは、自分の力がどんなものか、まだ理解してないんです。急に力が発動した者達は、そういう弱気になるものが多いようですね」
また、僕が自分の力を理解してないって話だ。僕の力? テレパシー以外に何があると言うんだろ。テレパシーだって、まだまだ小さい力なのに。
「まあ、まだ子供だし、仕方がないわな。では、サミー、君の力を、君自身に納得させてあげようではないか。儂の手を取りなさい、サミー」
僕は、おずおずと長老の手をとる。握手のような形になるけど、これでいいらしい。
「では、サミー。君自身が、君の精神の中に入って行くことになる。心配するな、儂も一緒じゃよ」
そう言うと長老は、僕の心の奥底まで届きそうなテレパシーを送ってきた。痛くはないけど、何も服を来てないような精神状態だ、恥ずかしいな。
「儂の能力は、テレパシーでも接触テレパスだ。体の一部が触れてないと交信できないが、しかし、こうやって触れ合えば相手の全てが分かるのだ。さあ、サミーよ、自分の真実を知るのだ。それがお前に一番必要なんだから」
僕は、長老と一緒に、精神の深みへ落ちていった……
僕は、いや、僕と長老は落ちていく、僕の心の深海へ、そして、それより深い心の海溝へ、海淵へ……
息苦しくなってきた。僕の呼吸が乱れると、長老が穏やかに諭してくれる。
「サミーよ、自分の心の奥底へ来たのだから、見たくないという気持ちが生じても不思議じゃない。それが体に影響を及ぼして、今の呼吸の乱れになっているのだよ。さあ、怖がらずに、自分の精神の根源と向き合いなさい」
僕は、長老の言葉通り、何も見えないほどの闇の中を、心を落ち着けて見ようとする。すると、今まで真っ暗だった視界が急に晴れて、何もかもが見えるようになる。
赤ん坊の頃の僕がいる。
計算機によって相性が最適とされた、ほんの少し前まで僕のお父さんお母さんだった人たちとの顔合わせだ。
僕が無邪気に笑う姿に、仮であったとしても両親は喜んでいた。
幼年時代の僕がいる。拙いながらも言葉を発し始めた頃の僕。
ああ、そうか、この頃からテレパシーの素質はあったんだな。
父親が僕を見ながらも違うことを考えてると、ぺちぺちと父親の顔を叩いて、自分に向けさせようとしてる。
「僕、仮だったとは言え、両親に愛されてたんですね」
「ああ、それだからこそ、サミー、君のように異能者でも真っ直ぐな心の持ち主に育ったのだよ」
「僕の力は、どうやって理解するんですか?」
「簡単じゃ、力の全てを見たいと思えばいい。ここは、サミー、君の心の中なんだから」
僕は、自分の力の全てを知りたいと願った。突然、見えるものが変わっていく……
僕の力の全てが、僕の前に示された。他人には到底、理解し得ないだろう心の全て、精神の全てが自分にとって明らかになる。
そうか、僕の力は、こういうものだったんだ。そして、こんなにも強いものだったんだ。
「長老様、ようやく理解しました、僕の中にある力、その能力を」
僕は、静かに言った。何も知らない子供の僕、さようなら。僕は今、大人になった。
「では、元に戻ろうかの」
長老は、そういうと僕へのテレパシーを弱めていく。僕はテレパシーの強さをコントロールすることも知らなかったんだな、今まで。
だんだんと、無意識領域から意識領域へ、半睡眠状態から覚醒状態へと意識が戻っていく。元の状態に戻ったところで、僕は長老から手を離す。
「ありがとうございました、長老様。おかげで自分の事を理解できました」
「いやなに、ほとんど君自身の力じゃ。儂はちょいとばかし補助をしただけじゃよ。しかし、サミー、君は今までに儂が経験したことのない強力なテレパスだ。恐らく、故郷の星、ご先祖たちにも君クラスのテレパスはいないだろう。それから、儂に様付は不要じゃよ」
「はい、長老、わかりました。でも、それなら、僕が最初にテレパシー交信した相手、宇宙船フロンティアの船長の方が強力なテレパスですね。僕なんか、多分、足元にも及ばないんじゃないかと思いますよ」
「ほう、サミーほどの強力なテレパスでも敵わないと最初から思わせるほどの力を持った者が居るのか……宇宙は広いよなぁ、はっはっは!」
「今から考えると、僕が無意識に放っていた微弱なテレパシーを、フロンティアの船長のほうが拾ってくれた感じがします。そんな力は、さすがに僕にもありません」
案内人が、横から意見してくる。
「おいおい、俺を除け者にするなよ。ちなみに俺の名は、フィールってんだ。ところで、サミーよりも上位の異星人の異能力者がいるって? さすが、広い宇宙だね。上には上がいるってか」
僕は、遂に名前がわかった彼に言う。
「フィールさん、ご案内、ありがとうございます。ええ、もうすぐ世代宇宙船とランデブーするフロンティアって宇宙船には、僕なんか足元にも及ばないほどのテレパスがいますよ。それと同時に、フロンティアの船長については、僕の印象では、他にも様々な異能力を持っていると思いますけれど」
長老が、それを聞いて驚く。
「なんと! 異星人の宇宙船の船長は、世にも稀なマルチ異能力者か! これは、我らも異星人と会わねばなるまい。ふむ、しかし、先頭グループや、他の居住区の統率者たちが、儂らを同席させてくれるかどうか、じゃの」
その疑問は、ね。
「それは簡単に解決できると思うよ。まあ、あと少しの辛抱さ、ここに居るのも」
僕は、気軽に答えた。そうだ、宇宙船フロンティアの船長が、もし僕の思ってるような人物だとすると、この状況を良しとは思わないはずだからね。
僕が、この居住区10の町に収容されてから、3日が過ぎた。
その間、色々と異能力(僕の場合、テレパシーと、少しだけ超知能があるようだ。長老は、それでもダブルの異能力者は、過去にも数えるほどしかいなかったぞ、と言っていた)を鍛えてはいたんだけどね。
数日だけど、僕はようやく自分のテレパシーを制御するコツを覚えたよ。
あと、今まではまき散らしていたようなテレパシーを絞り込むことも覚えた。
変な感じだね、不特定多数の人じゃなくて、狙った人だけにテレパシーを送るってのも。
それだけじゃないよ、僕のテレパスとしての素質は送信型なんだって長老から言われたけれど、実は少しは受信能力もある。
それでなきゃ、フロンティア船長からのテレパシーは受信できなかったからね。
受信能力も少しは上がったよ。
さて、明日ようやく、この宇宙船、世代宇宙船こと第一号宇宙船は異星人の宇宙船フロンティアとのランデブーを迎える事になってる。
長老は、先頭グループへ、異星人とのファーストコンタクトは、テレパシーで僕が最初に始めたので、異能力者の皆じゃなくても僕だけは、その場に参加せてほしいと願いを出したそうだ。
まあ、その答えは聞かずとも分かるよ。異能力者と普通人とは、同じ場に出席できないと船内法に規定されているので、許可できないって断られたんだよね。
その点について、僕は楽観視している。テレパシーって、思考そのものを交わすものだから、時には感情や性格と言ったものまで交わしてしまう。
その点で、僕はフロンティアの船長に期待しているんだ。
彼は純粋に自由と平和を愛していると。
ところで、異能力者の町というだけあって、居住区10には様々な異能力者たちが住んでいるんだ。
超知能、接触テレパス、サイコキネシス、過去幻視に未来幻視、千里眼。
さすがに、それ以上の能力は無いようだけど、それでも凄いよね。
昨日、興味があって未来幻視の力を持つ人の家に行ったたんだけど、僕の顔を見るなり、こう言われたよ。
「おお、未来は確定しないが、大きな平和と自由をもたらすか、それとも未来を闇に包んでしまうか。君の行動に、全てがかかっているだろう」
挨拶もしてない、聞きたいことも言わぬ前から、これだった。その一言だけで、後は何も語らずに彼は僕らを追い出した。
明日、僕がなにかするんだろうか? その結果によって、僕らや、この船だけじゃなく、故郷の星まで平和と自由が来るか、それとも閉ざされた暗い未来になるか、が確定されるんだろうな。
今日、僕らは千里眼の力を持つ人の家に来た。その人は、僕らを歓迎してくれて、こう言った。
「依頼は想像つきますよ。異星人の宇宙船を千里眼で覗けないかって言うんでしょ? 確かに、千里眼で覗くことは可能です。でも、今は何か、壁のようなものがあって、私の力が異星人の宇宙船には届かないようですね。うっすらとは見えますが……一言だけ。巨大な宇宙船です」
僕は更に聞く。
「他に、特徴は分かりませんか? 船の形だけでも分かれば助かります」
「ふむ……あとひとつだけ。巨大な小惑星ですね、形は。噴射口も無ければ、この船のような推進用爆薬の放出口も無し。球形に近い巨大な小惑星ですよ。どんな原理で宇宙航行しているのか、想像もできません。こりゃ、敵対行動を取ること自体が無意味ですな」
とんでもない回答が返ってきた。僕は異星人だろうがなんだろうが、少なくとも科学技術は基本的にこちらの発展形だと思っていたんだから、驚くよね。
異星人の科学力は、小惑星そのものを宇宙船として航行させることすらできるんだな。
「ありがとうございました。明日には全てが分かりますよ。異星人の姿や形も、どうやって小惑星を宇宙船としたのかも」
僕達は、礼を言って千里眼能力者の家を辞する。
本当なら、僕のテレパシーでもってフロンティア船長と交信し、リアルタイムで情報交換すれば良いことなんだろうけど、さすがに今の世代宇宙船とフロンティアのランデブー間近だという事を考えると邪魔はできない。
全ては、明日だ! 明日! 明日、世代宇宙船とフロンティアがランデブーした後なら、聞きたいことも、こちらの願いも、全て相手に伝えられる。
と、さっきまで僕は浮わついた気持ちで、明日を待っていたんだけど……
いきなり、警報が響き渡る! 何? 何が起こった? 僕達が長老の家に走って行くと、そこには保安班の姿が。それに、何だい、この数? 暴動でも鎮圧するつもり?
「居住区10の異能力者の方々に通告する! これより72時間、この居住区10の町より出ないこと。これは、肉体的なものに限らず、精神的なものにも適用される! テレパシーや千里眼など、居住区10内での使用に関しては認めるが、それ以外の居住区やエンジンルーム、先頭部にテレパシーや千里眼反応を送る事は禁じられる! 我々は、異能力検知器を持っているので、この針が一定基準以上に振れるようなら、その人物は強制的に電磁バトンで気絶させるので、そのつもりで」
なんだって? 明らかに異星人との接触を断とうという意思があるぞ?
長老に手を伸ばす。手を触れさえすれば、長老に意思を伝えられる。
届いた! 長老が、僕の疑問を代表して聞いてくれるようだ。
「強硬にならんでも、儂らは抵抗なんぞせんよ。それより、1つだけ聞きたい。これは先頭グループ、船長からの最上位命令なのか?」
長老の言葉に、保安班のリーダーらしき男が答える。
「いや、船長からの命令ではない。各居住区の統率者からの要請で、先頭グループが保安班に命令を出したと聞いている。こちらも力づくで負傷者や死者を出したくないのだ。おとなしく従って欲しい」
そうか……やっぱり市民の過激派の要請が強硬だったんだろうね。
統率者は、僕らが居住区10に居ることは知らされているはずだから、それを知らない過激派とは言え、統率者に強く要請をかければ、こうなって当然か……
どうしよう? 今から72時間なんて、フロンティアがランデブー宙域から離れちゃうじゃないか!
僕は、いや、僕らは焦っていた。居住区に保安班が乗り込んできて僕らを監視し、異能力で異星人とコミュニケーションさせまいと宣言してから12時間が過ぎた。
異能力検知器は、どれも安全範囲内から逸脱するような動きはないようだ。長老が手向かいするな、と異能者の皆に宣言してくれたおかげで保安班の誰も捕縛や電磁バトンによる制圧は行っていないのが救いだ。でも、制動噴射のための小型水爆の爆発は間隔が短くなっている。
そろそろ、宇宙船フロンティアとのランデブー速度に近づいてきているようだ。
僕らは、異星人との対面に顔を出すことはおろか、テレパシーによる交信、千里眼による現場の幻視すらも禁じられた中で、じりじりしながらも、その時を待っている状況だ。
「保安班リーダーさん、非常事態だということは理解していますから、このままの状況は受け入れましょう。でも、船内カメラでの異星人との初の会見場面だけは見させて貰えませんか? どうせ、他の居住区では映像を配信してるんでしょ?」
僕は、せめてもの情け、と提案すると、保安班リーダーは、どこか(たぶん、先頭部グループの人だろうな)へ連絡入れて、ちょっと押し問答やってた。
だけど、すぐに回答はくれた。
「坊や、いや、今はサミーだったか。君の提案は通ったよ。手近なスクリーンに、今から他の居住区でも見られている共通映像を映すから、それで我慢してくれ」
リーダーさん、いい人だったようだ。死神なんて呼んでて、ごめんなさい。
しばらくすると、先頭部の映像が映る。もう、レーダーなんか不要だったみたいだ。
宇宙船フロンティアの航行映像が、世代宇宙船のコントロールルームからも容易に見える。
一言……巨大な船だった。全長は、この世代宇宙船と同じくらい、およそ500kmはあるだろう。それが球形なんだ、あの千里眼の能力は確かだった。
こちらのように、どこが前後か左右、上下なんてありはしない、ほぼ完全なる球形の小惑星。
コントロールルームがどこかも分からないし、どのように推進しているのかも理解不能(噴射口も、爆薬排出口も無かった)
船長以下、さすがの先頭グループも、想像を超える宇宙船(と言っていいのだろうか? )を目前に、驚きが隠せないようだ。
まあ、市民の中に居る過激派も、この超科学の産物を一目見れば、フロンティアに敵対しようなんて考えは無駄だと思うだろうけどね。
仮のお父さんだった人の意見では、この速度でもフロンティアは世代宇宙船とランデブーしようと思えば可能らしい。
でも、こちらが対応できないから危険ということで、もう少し速度が落ちるのを待つようだ。
「一号宇宙船へ、こちら宇宙船フロンティア。ずいぶんと速度は下がったみたいだな。ランデブーについて、そちらの都合はどうか?」
通信が入る。副船長らしき人が答える。
「宇宙船フロンティアへ、こちら一号宇宙船。こちらからも、そちらの船体が見える。しかし、こちらとそちらでは、宇宙船の形が全然違うのだが、ランデブー可能なのか?」
僕もそう思う、フロンティアの、どこにドッキングポートやドッキングベイなどあるんだろうか? しかし、フロンティアでは、そのように考えていないようだ。
「一号宇宙船へ、こちら宇宙船フロンティア。ドッキングするわけじゃないから大丈夫だ。こちらの搭載艇で、そちらを訪問する。そちらの搭載艇、あるいは作業艇の発進口はどのくらいの大きさだろうか? それに合せた大きさの搭載艇で行く予定だ」
え? 搭載艇で来るって? じゃあ、今の速度じゃ危険なんじゃないか?
と、僕と同じ意見だったらしい副船長が、
「それでは、もっと速度を下げないとダメだろうな。そちらの搭載艇の速度では作業艇の発進口に来ることは自殺行為だ」
しかし、相手の返事は想像を超えていた。
「大丈夫だ。こちらの搭載艇は最低でも亜光速まで出せる。さすがに&%$航法が可能な物は小型と超小型には少ししか無いが」
今の言葉にならなかったものは恐らく「光を超える航法」だろう。
僕らの科学力が生み出していない物に対しては、相手の言葉が通訳できないんだ。
すごい、すごい! 今、僕達は、前人未到の体験と知識、そして力を持つ、まさに「神の如き存在」を相手にしているんだ!
「それでは、ランデブー体制に入ろうと思うが、いかがか? 宇宙船フロンティアへ、一号宇宙船より」
「こちらは問題なし。そちらの船長より、作業艇の発進口の規格をもらった。これなら、小型搭載艇で充分に通過できるだろう。では、30分後に会おう! 以上」
「こちらこそ、楽しみにしている。お待ちしているよ、宇宙船フロンティア。以上」
通信は終わった。いよいよ、異星人との対面が待っているのか!
スクリーンに映った画像とは言え僕も異能者の皆も、そして僕らを規制している保安班の人たちまで、その異様な雰囲気に飲まれている。
10分ほど後、宇宙船フロンティアの地面としか思えない一点が開き、小型搭載艇と向こうが呼ぶ物が発進してきた。
僕達は、その搭載艇の動きに息を呑む。
どういう原理かしらないが地表に現れてフヨフヨと漂っていたと思ったら、いきなり見えなくなったんだ。
いや、言葉を変えよう。僕達の目には追えなかったんだ。
多分これを撮影しているカメラが、あまりの速度差に付いて行けなかったためだと思うんだけど、それほど急な加速をして、その搭載艇は次の瞬間、僕らの目の前にいた。
こんな馬鹿げた加速を僕らの世代宇宙船の作業艇にやったらどうなるか?
作業艇はバラバラになり僕達の体は一瞬で押しつぶされてしまう。
科学力の違いは、ここまでの魔法じみた違いになるのか……
ここで数分かけて搭載艇と世代宇宙船の速度差を最小にすると、また、フロンティアの小型搭載艇はフヨフヨと揺らぎながらも静かに作業艇発進口へと入っていった。
船長以下、先頭グループは万が一の事態を考えた非常人員以外を残して、先頭部から作業艇区域へ移動し始める。
カメラも先頭部の物から通路部分へと切り替わり、船長達の行く先を追う。
数分後、作業艇区画に到着した先頭グループは作業艇区画のハッチを開ける。
区画内に入るのは船長一人のようだ。
他にも護衛の為、数人が入ろうとしたが船長が止める。
「危険はあるまい。ここで危険なのは彼ら異星人の方なんだから」
船長、あなたは偉大だ! やっぱり、船長職を任されている人です!
安全を確認したのか、それから数分後、小型搭載艇のハッチが開き5人の影が降りてくるのが見えた。
逆光になってしまい姿形はカメラに映る映像では、よく見えない。
ようやく船内照明に当たるところまで来ると2名はロボットだと判明する(こちらの技術水準のロボットじゃない、完全なアンドロイドと言ってもいい超高性能なタイプだ)が3名は、まだ宇宙服とヘルメットを取っていないから、よくわからない。
数十秒後、ロボットの一人が船内の空気は安全だと告げると、ようやく3名はヘルメットを取る。
僕達に、そっくりじゃないか!
どこが異星人なんだ?
しかし船長は間近で、その顔を見たようで非常に驚いている!
しばらくして、僕にもその理由が分かった……彼ら異星人は2つ目だったんだ!
僕らのように額に感覚器としての「目」があるわけじゃない。その痕跡すらも認められないツルツルの額をしている。
僕らは、しばらく、あっけにとられていた。あまりの驚きに。
驚きは僕らだけじゃなく作業艇区画にいた先頭グループ全員も、そうだったようで。
船長以下、驚愕の顔色が隠せないままフロンティアの船長と会うことになった。
「よ、ようこそ、宇宙船フロンティアの船長。私は、この第一号宇宙船の船長、カリクと言う。後ろにいるのは、この船の運行管理を行う者達だ」
船長が驚きから回復中に話すものだから、まごついてしまってる。
でも僕でもあの場にいたら、そうなっちゃうだろうな。
特に目の数だけ違う、あとはそっくりな異星人なんて誰が想像しただろうか?
「歓迎かたじけない、一号宇宙船の船長さん。俺、いや私は宇宙船フロンティアの船長、というかアドバイザーと言うか何と言うか。自立思考ができる宇宙船なんで、とっさの判断が必要なときに私がいるようなものなんですがね。一応、船長の=〜|”! {`と言います」
名前は翻訳されなかったようだけど、まあ、これは仕方ないよね。言語の基盤そのものが違うんだから。
世代宇宙船船長は、さっそく異星人の申し出を検討したいようで、
「さっそくだが、そちらの申し出を詳細に検討したい。会談とはいかないが、小さいけれど会議室を用意したので、こちらへ」
船長達と異星人5名は作業艇区画の近くにある船外作業計画の会議室へ向かったんだ。まあ、あそこくらいが会議場として的確かな。
カメラが、また切り替わる。今度は船外作業の会議室のようだ。コツコツ、と足音が聞こえたと思ったらドアが開いて船長たちが入ってきた。
結構大きな会議室なので両側に船長達と異星人たちがすわり、壁にあるスクリーンに今の世代宇宙船の状態と苦境をリストにして表示していく。
「この状況を見ると近い将来、少なくとも数年以内には遮蔽板の一部に亀裂が入り一部の放射線が船体に悪影響を及ぼすのは目に見えてますね」
一瞥しただけで異星人の船長は世代宇宙船の一番の問題点を挙げる。ほかにも色々あるけれど、これが一番の問題点だろう。
「分かりますか、やはり。そうなんです、原子分裂や融合を利用した爆発物なので衝撃やショックウェーブがすごく、それで、どんな金属遮蔽でも経年劣化が早まるのです。解決できますか?」
船長は、どうにも仕方がないとあきらめているようだが、
「簡単ですね。駆動方式を変えればいいだけの話です」
と、異星人の船長は、こともなげに言う。そんなことが可能なのかな? これだけ大きな宇宙船の改修、いや全面的な作り替えになるだろうに。
「それよりも一号宇宙船船長。あなた、私に隠してることが有りますよね?」
こともなげに言った一言なので船長も追求の言葉だとは、最初、分からなかったようだね。
僕らはカメラの目を通して見てるから理解できたけど。
船長は、
「な、何のことでしょうか? 少なくとも私達の科学技術は宇宙船フロンティアの足元にも及びません。隠し事をする理由など何処に有りますか?」
まあ、船長のところへは僕達が隔離されていることくらいまでの情報しか届いてないだろうから。仕方ないといえば、そうなんだろうね。
「まあ、船長が全てのことを知っているとは限らないでしょうからね。でも、このままでは私は貴方がたの星も救う気はないし、この宇宙船も救助・救援する気はないです。最初は、そのつもりでしたが」
その言葉を聞いて船長たち先頭グループは震え上がると同時に絶望的な顔色になる。
「もし、あなたたち異星人の援助を受けなければ、この船だけじゃなく、この船に乗っている全ての人命が失われることになる。もし我々が間違ったことをしているのなら指摘して欲しい。必ず改善する!」
船長は言い切った。まあ、ここまで言わないとフロンティアが行っちゃうからね。
「そうですか……では、まず貴方達が異能力者と呼ぶ人たちが、この先頭グループにも、この会議室付近にもいないのは、どうしてでしょうか? 彼らは貴方がたの仲間ではないのですか? 精神的に突出した才能を持つからと行って、それを封じ込めるのは間違いですよね」
先頭グループでも過激な思想に染まったような人が、どうしようもなくなり叫びだす。
「そんな突然変異の人間は俺達、普通人とは相容れない者達だ! それを隔離して何処が悪い?! 異星人には、この感情は分からんさ!」
それを聞いたフロンティア船長、静かに、
「そうですか。野蛮な精神に先端知識である科学技術は不要ですね。では、これにて我々は、この船を去ります。あ、隔離している方たちは、これから私達で、こちらの宇宙船に乗せ換えますから、安心して数年後の死に怯えて下さいね」
あまりに静かな宣言だったため僕達でも最初、何を言われたのか理解できなかった……でも、じわじわと喜びがこみ上げてきた! やっぱりフロンティアの船長は僕の思った通りの人だった!
先頭グループは過激発言した人物を取り押さえて拘束し、会議室より連れ出して行った。
彼は、どこまでも過激に、異星人など殲滅しろ! とかなんとか喚いていた。
船長は、あまりの事態に、
「彼の発言は個人的なものであり、この船の総意では決して無い! どうか早急な決断は避けて、援助を考えて欲しい」
というのが精一杯だったようだ。後は両者とも黙ってしまった。
言葉は発してないがテレパシーは別だ。僕は懐かしさすらおぼえる、フロンティア船長からのテレパシーを数日ぶりに受け取った!
《数日ぶりだね、異星人の坊や。おや? 名前がついたのか、サミーだね。この船にいるほとんどの人は救うに値しないと俺は思う。君は、どうしたい? 君たち異能力者は救えるぞ。故郷の星にも帰してあげることは可能だよ》
強力だけど僕個人にだけ絞って届いてるから、近くに居る保安班の検知器に反応はない。すごい力と制御技術だ。
僕なんか、やっぱり足元にも及ばないや。
〈嬉しいけれど、やっぱり僕は、この船のみんな、普通人も異能力者も全員が故郷の星に帰れる方が良いと思います。確かに過激な人はいるけれど、それでも僕は、この船と人々が大好きですから! そして故郷の星系の太陽の異常も救えますか?〉
できるだけ絞っているつもりだけど、やはり検知器の針が振れているようだ。なんとか至近距離範囲で収まってるようだけど。
《分かった、この船も、この船に居るみんなも、君たちの故郷の星も太陽も、みーんなまとめてめんどうみてやろうじゃないか! サミー、心配するな。全て救ってみせるさ、このトラブル解消専門宇宙船とまで言われたフロンティアと、そのクルーがな! 》
そこまで救っちゃったら、それは神様と言うんじゃないでしょうか? などという僕の疑問はスルーされて無言ながらもフロンティア船長は笑顔になった。
でもって一言だけ、
「よし、分かった! このトラブルシューティング、この俺とフロンティアが全て解消してやるぞ!」
船長は、あまりのことに開いた口が塞がらないようだ。
それから事態は物凄いスピードで推移していったんだ。
フロンティア船長の「全てを救う宣言」から1時間後、もう僕たち異能者集団は宇宙船フロンティアの大型搭載艇に移っていた。
すごかったよ、あれは。
乗員5名と聞いてたフロンティアだから、もう誰も残ってないだろうと思ってたら巨大小惑星から、これまた巨大(宇宙船的に、だよ)な500mほどの大きさの搭載艇群が、いつ開いたのか、そこかしこの発進口から数十機、発進してきた。
そして僕達も含めて全ての第一号宇宙船の乗員を収容しちゃったんだ。
移乗作業中、僕はフロンティア船長へ、僕らの世代宇宙船はどうなるのかテレパシーで聞いてみた。
すると、こんな答えが即時に返ってきたよ。
《心配しなくていいよ、サミー。君たちの宇宙船も君たちと一緒に故郷の星へ持って行ってあげる。資源を無駄にしないのが宇宙に生きる鉄則だからね》
どうやるの? と聞きたかったけれど、それは、すぐに起こった出来事で聞けなかった。
船長以下、運行クルーまで移乗した結果、無人のまま光速の2%弱の速度のまま逆向きで宇宙を疾駆しているはずの世代宇宙船が姿勢を変えている!
それどころか徐々に速度を落として(爆発物の投射も無し、だよ当然)1時間後くらいには全く速度がゼロになっちゃった。
これには船長以下、普通人の皆も僕ら異能力者も驚きで頭の中が真っ白になっちゃった。
後で、
〈船長さん、世代宇宙船を無人のまま制御したのって何ですか? あんな科学技術は想像もつきません〉
と聞いたらフロンティア船長さん、こともなげに、
《ああ、ただのトラクタービームの強力なやつさ。長さは同じでも君たちの宇宙船とフロンティアじゃ、エネルギーの桁が違うんだ。ちなみに俺達は君たちの星系の近くにあるアンドロメダ銀河じゃなくて、もっと遠い銀河系から来たんだぞ。このくらい簡単さ》
これを聞いて僕は科学技術の未来は果てしないと確信したよ。人って、そこまで行けるんだね。
後は簡単、止まったのなら逆に加速してやればいいだけ。おあつらえ向きに世代宇宙船は故郷の星に頭を向けているから、そのまま加速してフロンティアと世代宇宙船は適当な距離を取りながら故郷の星に向かっていった。
え?
フロンティアのほうが速いんだから、僕らと一緒は時間の無駄だろうって? いやいや、様々な問題を抱えてる僕らの星に向かうんだ。
だから船長以下、一番最新の情報を知ってるだろう人たちを集めて会議する必要があったんだよ。
ちなみにフロンティア側では、もうとっくの昔に僕らの故郷星系に無人搭載艇を飛ばして星系の最新情報を入手していたんだって。
さすがトラブル解決専門宇宙船!
「……ということで君たちの故郷の星系の人たち、いわゆる「ご先祖達」は、まだ生存してますよ。この一号宇宙船の完成・発進後、すぐに太陽が不安定になり、その後の二番艦、三番艦の建造は中止されたようですが、しかし人々は惑星の地中に都市を建設し、なんとか生き延びているようです」
とのフロンティア側の報告。僕達は嬉しかったけど世代宇宙船の船長は、
「良いニュースが逆にこちらには悪いニュースになりましたな。故郷の星との連絡は、もう数十年以上も途絶えたままですし、どうやって灼熱の星に近づけば良いのやら……」
と、苦しい表情になる。太陽が原因じゃ近寄るにも命がけだね。なんて僕達が思ってるとフロンティア船長が、いとも気軽に、
「太陽の異常発熱なんて、すぐに解決できますよ。まあ数十年もあれば、もとの太陽表面温度と大きさに戻るはずです。プロフェッサー、確か以前に回収した球状生命体の太陽制御装置があったよな。解析は終了したと聞いてるが、あれ使えないか?」
プロフェッサーと呼ばれたロボットの一台が、すぐに答える。
「はい、ちょいと改造する時間はかかりますが数時間もいただけば目標の太陽に投入できると計算します、我が主」
「よし、それではフロンティア。太陽制御装置の改造プランをプロフェッサーと相談して工廠で改造にとりかかってくれ。無人でも大丈夫だろ?」
フロンティアと宇宙船の名前で呼ばれたロボットが答える。後で聞いたら宇宙船の頭脳体なんだって。とてつもないな。
「はい、マスター。では、さっそく」
データ交換用の線をお互いにつないで2体のロボットは動かなくなる。あの中では僕らの計算機なんかとは段違いの難しさの計算とデータ交換が行われてるんだろうな。
「さて、と。改造が終わっても投入前には太陽表面にいるエネルギー生命体に一言、制御装置を投入するぞと伝えておかないと、いらぬ混乱を与えるからな」
え? 船長さん、僕らの星系の太陽に生命体が住んでたんですか? と、これも後で聞いたら、
「ああ、どの太陽にも太陽のエネルギーで生存し活動するエネルギー生命体がいるんだよ。彼らの祖先は、この宇宙が暗くなる前は宇宙を駆けまわってたんだぞ。今は太陽から離れすぎても表面温度から高すぎてもダメだけどね」
驚きが多すぎて僕の頭はおかしくなりそうだ! 数日後(僕らが100年近くかけて航行してきた距離が光を超える特殊航法を使うことなく数日で戻れる……世代宇宙船の皆、どう考えて良いものやら悩んでいるようだった)僕らは無事に、故郷の星の衛星軌道にいた。
その後……
これは、過去の記録を探る者達の物語である。
彼らは、あるときは図書館へ、あるときは古びた金庫の中を探り、あるときは国家の宝物庫まで、その入りゆくところに禁止条項はなく、その得られた成果は個人のものとはならず、ただ過去を照らす一筋の光となるだけの、世に出ることなく過ごす者達のことである。
その者達は今、200年以上も前に成された、まさに神の奇跡か、または偶然が重なって奇跡となったのか理解しがたい過去の出来事に関し様々な資料とデータを探査しているところである。
「なあ、本当なのかよ、これ。よりにもよって異星人との接触によって今、我々が使っている技術がもたらされたって資料だぜ? これを信用するなら今の科学技術は、その異星人の接触によって全く違う次元へ持ち上げられたとしか判断できなくなるぞ」
「それを判断するのは我々ではない、我々の長のみが真贋の判断をする。超知能を持つものが判断しなければ我々普通人が勝手に判断すると、抜けが出るからな」
「それはそうなんだがなぁ……異星人と接触したタイムポイントを仮に0年と規定すると、それまでの科学技術ってのは子供のお遊びに過ぎなくなるんだよな。宇宙船だって水爆や原爆を爆発させて推進力とするロケットなんてヤバいもの普通に最新型で使ってるんだぜ」
「それに比べて0年ポイントを過ぎると急に技術が進歩……いや進歩なんて話じゃなくなるよな、これ。今でも普通に使われてるフィールド駆動方式や全くエネルギーを使わずに太陽風を使う宇宙ヨットの出現もそうだ。0年ポイントより前には全く出現も無く実験すらされていない」
「恐ろしい話もあるぜ。0年ポイントまでは、この星系の太陽が膨れ上がって下手すりゃ絶滅寸前! なんてところまで行ったというニュースもあるぞ。本当なのかね? 確かに今でも地下都市の名残はあるけどさ。あれが使われていた当時には行きたくないね」
「異星人が異常発熱していた太陽に摩訶不思議な機械装置を打ち込んで元通りにしてしまったという話だろ? あれ、都市伝説じゃなかったのか?」
「いや、この時期の報道やメディアの記事を検索しているが、どこもかしこも謎の異星人のことばかり書いていたり、その成果を映像にしていたりするな。どう考えても実在していた異星人が関与していたと思われるぞ」
「まあ俺達が、ここでごちゃごちゃ言っても仕方がない。全ての資料を持って長の所へ行くぞ!」
しばらくして何処とも知れぬ、長とだけ呼ばれる翁のもとに男たちが集めた資料とデータ、報告書が届けられる。
「長、ようやく過去の資料の分析が終了いたしました。ご判断を、お願いいたします」
長と呼ばれた男は、おもむろに資料と報告書を手に取り無言で読んでいく。
時間が流れる、流れる。
数時間後、ついに長は報告書の山から手を離し静かな声で話しだす。
「お前たちが集めた資料、これは全て事実である。異星人の関与と援助も事実だ。お前たちが不思議がるのは何故に異星人の姿をまともに写した映像がないのか? という点だと思うが、どうだ?」
「はい、正直に申しますと、その一点のみが不思議・疑問なのです。なぜに異星人の姿形を写した記事もデータも報道も無いのでしょうか? 何かの組織の関与があったのでしょうか?」
「そうではない、そうではないのだ。その姿形を写した物が一切ないのは、この星の民衆の恐れと反発をメディアも政府もよしとしなかったからだ。それほど彼らの知識と科学技術の援助が欲しかったのだよ、我々は」
「と、言われますと?」
「彼ら異星人は姿形は全くと言っていいいほど我々にそっくりだったのだよ、ただ一点を除いて」
「はい? そんな情報どこにも載ってませんでしたが……」
「それはな。彼らが二つ目だったことだ。我々の迷信というか遥か昔からの怪談話に二つ目の妖怪に祟られる話があるのは、そなたたちも知っておるな。彼らは、その二つ目妖怪そのものの顔だったのだ。額はツルツルで何もない。それでいて他の二つ目は正常に働く」
「うっ! ちょっと怪談話というかなんと言うか実際にいたらホラー映画というか、なんと言うか。民衆は反発しますね確かに。討伐しろ! なんて声も出そうだ」
「で、あろうな。だから政府とメディアは異星人の姿を写す映像は一切撮らなかったのだ。彼ら異星人は強力な異能力、テレパシーを持っていて、そんな兆候があったらすぐにでも援助を打ち切って旅立ったであろうな。それを嫌ったのだ」
「はあ、そんな裏事情があったのですか。太陽異常の件も異星人の技術ですか、やはり」
「ああ、そうじゃ。太陽表面にいるエネルギー生命体に連絡を取ると、向こうも困っていたようで歓迎すると言っとったらしい。すぐに太陽制御装置が打ち込まれ数時間後には太陽は安定し、ゆっくりと縮小して元の大きさまでになる、まあ数十年かかったがな」
「そうすると今の宇宙船技術も、やはり異星人から?」
「そうじゃ、それこそが大いなる贈り物じゃった。今までの駆動系とかロケット技術では空想されたこともないものを惜しげもなく我々に教えてくれたよ、彼らは。ただ一つ光を越えて飛ぶ理論と方法だけは教えてはくれなかったがね」
「え? まだ教えてもらえなかった秘密があったのですか?」
「そうじゃ、我々が異種族、自分と全く異なった生命体に恐れも軽蔑もなく接するようになれた時、その時にこそ光を越えて飛ぶ理論が明かされると私にだけはフロンティア船長は言ってくれたがの」
「え? 長、もしかして異星人と会ってるんですか? 歴史の証人じゃないですか! こんな事しなくても貴方の言葉だけで歴史の謎が明かされるんですよ!」
「いやいや、儂の言葉だけでは、この星の人間の考え方は変わらぬよ。ほれ未だに我々は光速よりも速く飛べないではないか。我々自身が考え方を変えるとき、それが我々が本当に星の世界に飛び出す時なのだ」
とある星系にはフィールド駆動エンジンを積んだ宇宙船と、経費節減からエネルギー消費が最小である宇宙ヨットの発展型である光子帆船の輸送船が星系を縦横に飛び回っている。
それは知る人が見たら、ある時期の太陽系宇宙空間のようだった。
この文明が跳躍航法理論を開示され跳躍航法機関の使用許可を得た(民衆の意識レベルが高くならないと超光速関連のファイルもエンジンも全てにロックがかかっていた)のは、この問答から一世紀近くが必要であったという。
その頃には、もう異星人の姿形を憶えているものは誰もいなかった。
ただし、超光速に対応した文明ということで近傍にあるアンドロメダ銀河の目に止まり、一気に恒星間文明へと広がっていくのは言うまでもない。
銀河を超えて、大宇宙は今日も平和である。