第三章 銀河団のトラブルバスター編
第十七話 光の銀河へ
稲葉小僧
俺は……
俺は今、猛烈に感動している!
目の前に見えるのは俺が幼い日に思い描いた聖地。
そう!
俺は、ついに「M87星雲」を目の前にしている!
いやー、ここに来られる日が来ようとはなー。
感慨も、ひとしおである。
まだ遠くからではあるが猛烈な星間ジェットも見えるし、エネルギーに満ち満ちている銀河であることも分かる。
多分、ここでは数多くの生命と文明に出会えるだろう。
光の巨人は?
って、あーた、いくらなんでも、そりゃない。
そりゃーさ。
自慢の(星間)ジェット、あるし光の国(つーか光の銀河っつーか)だし、条件は満たしているだろうけど。
俺も、いくらなんでも空想と現実の区別くらいはつく。
まあ、ここまでエネルギーに満ちた銀河ならエネルギー生命体の一人や二人、存在してもおかしくないとは思うけど。
しかし眺めてるだけでも、いいなー、絵になるなー……
「マスター、スクリーン見つめてデレーっとトロけた目をしないで下さい。これから下準備で超小型搭載艇群を放出しますからね。こんなに猛烈なエネルギーの凝集している場なんて、どんな生命体や文明があるか分かったもんじゃない」
フロンティアが注意してくるが上の空。
なんと言っても地球人で、この場に立つものは俺が最初なんだから。
自己満足とは言え栄誉は充分に堪能させてもらう。
「我が主? だめですな、これは。完全に自分の世界に入ってしまってます。どうしましょ?」
「仕方ないんじゃないのかなー、ご主人様、この銀河に相当に入れ込んでたからねー」
「それまでも遠くに見えると言っては写真データを撮りまくり、近くに来たと言っては動画データを撮りまくり。果ては、すぐ近くまで来ちゃったら動かずに銀河に見入っちゃってるんですもの。今のキャプテン、使い物になりませんよ」
周辺から雑音が聞こえるが気にもならんもんね。
俺は今、M87星雲を記憶に焼き付けようとしているのだ。
見ているだけで、お腹いっぱいですよ、ホント。
銀河内に突入する気が起きるまで、後少し待って頂戴。
で、数時間後。
ようやく現実復帰した俺は、フロンティアが収集した搭載艇群のデータを検討しているところ。
「このデータを見ると、この銀河には生命体やら文明やら、うじゃうじゃいるようだな。さすが光の銀河!」
「マスター、そんな悠長なことは言ってられないかも知れませんよ。ちょっと、不穏な空気が感じられます」
「え? 争いとか戦争とか、そんな事が起こっているとは報告に上がってないと思ったが?」
「我が主、まだ兆候にすぎません。実際に起きているなら、紛争も戦争も止めさせることは簡単なのですが」
「と言うことは、だ。情報収集に時間かけるより、実際に、そこへ行ってみるというのが正解じゃないか?」
「それはその通りですけど、ご主人様。危険地帯へ、わざわざ乗り込んでいくのも、ちょっと無謀というか何と言うか……」
「その意見に賛成です。とは言え、トラブルの未然防止という点からキャプテンが現場へ乗り込むのは適切かと思われますが……問題は危険度ですね」
そこからは、どうやって危険を回避して現地でトラブル発生を防止するか?
という点に集中することになる。
ここで検討会議で出た問題点を書き出していく。
1,このM87銀河には生命体・文明が、これでもか、ってくらい存在する
2,大体は平和な、このM87銀河ではあるがトラブル(騒動、争いか? )の兆候有り
3、トラブルの事前防止を行いたいが、これだけ生命体と文明が過密状態のM87銀河である。どうやって現地情報を入手して防止策を実行する?
まずは、これだな。
「マスター、くれぐれも無謀な真似はしないでくださいよ」
と、早々にフロンティアが釘を差してくる。
「ああ、分かってるさ。細心の注意を払って潜入行動する。ところで、ここまで生命体や文明が多いとフロンティア本体は目立ちすぎてM87銀河内部には入れないよな、どうする?」
通信のタイムラグの問題だ。
超光速波というものが無いので星系外ならともかく銀河外で待機するには現場とのタイムラグがありすぎる。
「そこなんですが……超小型搭載艇を伝書鳩代わりに使おうと考えています」
フロンティアの説明を聞く。
ステルスモードで護衛を兼ねて、数10機の超小型搭載艇を俺達の側に着けておき、伝言があれば、その都度、一機づつ俺達とフロンティア本体の間を往復するという計画だ。
さて、通信の橋も確保する事が決定したしM87銀河内に潜入。
ここはM87銀河の縁部にある小さな星系の中にある、普通にハビタブルゾーンに入ってる小さな星。
住民は酸素呼吸をしてる。
星の空気解析も通常に入る状況で文明も星系内でのロケット段階の往来が少し。
いわゆる、地球で言うところの「20世紀から21世紀」の宇宙へ飛び出したところの文明程度。
住民の宇宙に対する興味は……
「いつか宇宙へ行けたら良いよねー」
程度。
その惑星上に、まだしがみついてる段階の文明の星に様々な地域文明がある。
まだまだ地域や大河、海や山脈などが地域文明を国家を隔てる障害と成り得る段階なので、地域により文明程度に差があるのは当然。
そんな文明の恩恵に背を向けて広大なる砂漠を学術調査のために歩きまわってる男がいた。
色々な調査器具を、でかいパネルトラックに積み込んで、ただ今、砂漠のど真ん中を地図に示されたオアシスに向かって驀進中。
「あっついなー。いくら砂漠とは言え今の季節に、これは無いんじゃないか? 雨季と聞いたが、この半月ばかし、ぽつりとも雨が来ないぞ」
1時間ほど走るがオアシスの蜃気楼すら見えてこない。
「ん? 地図を読み間違えたか? えーと……磁北は……うわ! コンパスがぐるぐる回ってる! 役に立たないじゃないか、このバカコンパス!」
コンパスも地図も役に立たないと理解した男。
とりあえずトラックを停止させる。
このトラックの唯一の利点は燃料が不要なこと。
膨大なる太陽の熱と光のエネルギーを受け、蓄積し、走るため、燃料は不要。
しかし、それだけでは人間は生きていけない。
男は水筒から水を呑み、パサパサだが栄養豊富な軍用レーションを齧る。
まだまだ水もレーションも積んであるが、このままではジリ貧だ……
そう考えた男は救助用にと積んである無線機に灯を入れる。
しばらく救助を呼ぶために送信し、受信しを繰り返すが、太陽雑音がザーザーと響くばかり。
「本格的に遭難したかな、こりゃあ」
そう呟いた男は今度は本気になって救助を呼ぶ。
「こちら%%の砂漠地帯にて遭難。誰か、救助を願う! 至急、至急、至急!」
送信して、しばらくすると待望の返信がある!
「こちら%%砂漠にいる。しばらく送信しててくれれば、こちらで、そっちの位置を把握する」
溺れるものは藁にもすがる。
男は必死になって送信と受信を繰り返す。
そのうち相手より返信がある。
「そっちの位置は把握した。無人飛行艇を飛ばすから荷物や車は置いて、その飛行艇に乗ってくれ。自動で、こちらへ帰還するようになっている」
その返信が終わるかどうかというタイミングで小型の飛行艇が飛んでくるのが見える。
人員が乗っているのかと見れば誰もいない。
今の世界、どこの国でも実現してない完全なオートパイロット。
男は疑いを抱きつつも、それでも搭乗する。
命には代えられないからだ。
男を乗せると、飛行艇はフワリと飛び立ち、凄い速度で一定方向へと飛んでいく。
この未来技術を駆使するのは一体どのような人物だろうか?
この自動制御技術1つとっても今の技術を遥かに凌駕する。
それを普段から使いこなしているように飛行艇すら簡単に飛ばしてくる。
考えていると、いつの間にか飛行艇は着陸し、扉が開いている。
バ、バカな!
いくらなんでも着陸の衝撃すら感じないなどという飛行艇は聞いたことがない!
「心配せずとも私は君の心配しているような人物やバケモノじゃない。安心して降りてきたまえ」
飛行艇の無線装置から相手の声が聞こえる。
えーい!
ここは度胸1発!
男は覚悟を決めて飛行艇を降りる。
タラップを降りきり、顔を上げた瞬間、男の表情も身体も固まった。
驚きに、である。
男の目の前に見えるのは砂漠とは思えぬ巨大なるビル。
おそらく高さは300m以上あるだろう。
しかし、どうやって建てた?
ここは砂漠。
とても高層建築物を建てられるような場所ではない。
飛行艇の着陸のスムーズさにも気が付き、建物と反対側を見る。
そこには砂漠とは思えぬ広大なる飛行場があった。
砂の侵入も何かの技術的装置で食い止めているようで、滑走路には砂が見当たらない……
男は自分がファンタジーの世界へ迷いこんだような気になった。
頬をつねる。
痛い。
これは……
目の前にある、この光景は現実だ。
男は、しばらく、その場から動こうとしなかった……
しばらく立ち止まって辺りを眺めていると、不意に視界を遮るものがある。
ロボットだ。
それも人間型。
表情すらも笑顔を浮かべて人間そっくり。
その足運びが、あまりに人間離れしていて足音すら聞こえなかったのでロボットだと気づいたのだが、それがなければ普通にメイドだと思っただろう。
「お客様、こちらです。ご案内するように言いつかりましたので、参上いたしました」
少し古い言葉遣いではあるが本当に人間そっくりだ。
ここの主人のテクノロジーは現代よりどこまで進んでいるのやら……
逆に興味が湧いてきた。
うむ、と、メイドに頷いてビルの中に案内してもらう。
殺風景かと思ったら異星の異界風景を描いた絵画や、どう見ればよいのか見る角度が変わる度に印象が変わる彫刻など様々な芸術品も置かれている。
ここの主人、案外と個性的な趣味があるのかも知れない。
一直線に主人の部屋へ案内されるかと思ったが、そうではないようで。
エレベータ(上昇も下降も慣性を感じなかった。どういうテクノロジーなのだろうか? )を降りると、そこには広い一室が有り、その部屋に案内される。
「ここで、しばらくお待ちくださいませ。ご主人が、少ししたら、こちらへ参りますので」
と言ってメイドロボット(人間と変わらん印象。これ1つだけでも世間に出たら衝撃を起こす代物だ)がドリンクサーバやフードサーバなどの機器の使い方を説明してくれる。
ここの主人が水も食料も置いて身一つで来いというだけのことはある。
このドリンクサーバとフードサーバでは個人の好みに合わせて様々な料理や飲み物が出てくるようなっている。
味も超高級料理店クラス。
まかり間違っても、もう味気ない軍用糧食バーには戻れんな、こんなもの食べたら。
飲料も甘露というか何と言うか……
アルコール類がないのが不満だが(エールすら無いのだ、ドリンクメニューに)贅沢を言える身分でもない。
しばらくぶりに天上の味と飲み心地を味わっていると、ドアチャイムが鳴った。
ようやく、ここの主人のご登場か。
私は飲食する手を止め、
「どうぞ、お入り下さい」
返事を返す。
ドアを開けて入ってきたのは思いもしなかった長身の男。
2m近くあるんじゃないか、この男。
しかし暴力的な感じは一切受けない。
目には深い知性の光が輝き、その表情には微笑が浮かぶ。
「君が遭難救助の信号を出していた本人か。ちょうど通信系統のチェックをしていた時だったから聞き逃さなくて良かったよ」
長身の男が、すまなそうに言う。
助けてもらったのは、こちらのほうなので、
「何を言われますか。助けていただいたのは、こちらの方です。あの救助通信が届かなければ、どのみち砂漠で迷子と化すだけで、そのうち食料と水が尽き……思い出すと恐怖ですね。救助いただき感謝いたします」
と返す。
「まあ、君は運が良かった。この辺りは砂嵐がひどくてね。砂嵐が吹き荒れると通信も途絶するから救助艇も飛ばせなくなるところだった」
そう、この辺りは砂嵐が頻繁に発生する地域なのだ。
だからこそ奇怪で不思議な事がある。
思い切って主人に聞いてみる。
「ここ、もしかして砂嵐地帯の中心部じゃありませんか? こんな場所に、だだっ広い滑走路や巨大なビルが建設されているなんて今も昔も聞いたことがないのですが?」
主人は答えを拒否するかと思った。
しかし主人は私の疑問に、こともなげに回答する。
「ああ、それなら簡単。昨年なんだよ、ここを建て替えたのは」
「はい? 今、なんと言われました?」
「昨年なんだ。ここ周辺の土地を買ってボロボロになってた遺跡を修復し、それを囲むように巨大ビルを建てたのは」
無茶苦茶なテクノロジーと財力だ、この目の前の男が持つもの。
私の目の前に立つ人間が、その瞬間から私には別の存在に見えてきた。
未来から来たとでも言うのだろうか、この男。
さらっと言った一言が、いかに現代にマッチしてないかいという事すら理解してない様子だが。
「失礼ですが、よく、この辺りの土地が買収できましたね。たしか、邪教と言われる古代宗教集団が根城にしていた土地なんじゃありませんか?」
私は一番の疑問をぶつけてみる。
そう、この周辺の土地が物騒なのも、いわくつきなのも全て、その古代宗教集団が、この辺りに根城を構えているせい。
この辺り人間蒸発や誘拐など、あまり良くない噂でいっぱいなのだ。
「はっはっは、そんな事か。お馬鹿な宗教集団など数日で壊滅だよ。もっとも、あいつらのおかげで、この周辺の土地は、ものすごく安く買えたがね」
すごいな、殺人教団と言われる宗教集団まで、さっさと壊滅させるか。
目の前にいる人間が私と同じ種類の人間だとは到底、思えなくなっている。
「遺跡の上に、このビルを建てたと言われましたね。そうすると、このビルの地下は遺跡が保存されているのですか?」
「お、察しがいいね。そうだよ、小さい遺跡だったからビルで囲むようにできたのさ」
小さいとは言うものの小さな闘技場ほどの大きさの遺跡だったはず。
まあ、あの滑走路の広さを見れば、こんなビルの土地など狭いものだろうが……
「地下の遺跡や遺構は、そのまま残っていたよ。まあ邪教集団が根城に使っていたので色々と摩耗していたり別の用途に使われていたりして遺跡の文物の保存状態は、あまり良くなかったがね。君も見ただろ、ビルの入り口から1階部分にある様々な芸術品」
「も、もしかして……あれは……」
「ご想像通り。遺跡の中にあった比較的、保存状態が良かったものを展示してあるんだ。この星……いや違った、人間には理解し得ない芸術品が、いくつもあっただろ? あれは、どうやら今の人類の発生前に繁栄していた生命体の作品らしい」
数100万年どころじゃない数字を、さらっと口に出す主人。
しかし言われて始めて理解できる。
とてもじゃないが、あんな彫刻や壁画、絵画など、どのような思考形態をした生命体が造ったのだろうか?
「私も、ここの遺跡を研究し始めて数カ月だ。まだまだ分からないことが多いのが実情だよ。もし、よければだが、君も、ここの研究をしてみないか? 衣食住と、ある程度の給与は保証するよ」
うわぉ!
これだけのものを見せられて食指が動かない考古学研究者がいるだろうか?
断れると思うかい?
いーや、無理だね絶対!
「ぜ、是非ともお願いします! とてつもない考古学的な発見が待っているに違いありませんから!」
私も、その口だった。
この目の前に広がるだろう遺跡の宝物群を前に断るなど研究者として言語道断!
こんなチャンス、絶対に逃さないぞ!
今の糊口をしのぐような調査など、やってられるか!
「では契約成立だ。後で秘書に文書で書いた契約書を持って行かせるからサインしてくれたまえ。ここの遺跡は機密事項に当たるものも多いので、その辺りの機密保持契約も含むからね」
「分かりました、大丈夫です。で、貴方のことは何と呼べばよいのでしょうか? あと、どうでも良いといえば良いのですが私のトラックはどうします?」
「その辺りは抜かりはないよ。今、トラックは、こちらへ輸送中だ。あと、私だが「提督」と呼んでくれれば良い。わかったかね?」
「了解です、提督。トラックの件は感謝いたします」
「ははは、そんなにかたくならなくても良い。退役、とも言いがたいが私の任務にも関わる事が、この遺跡に隠されているようなのでね。資金は心配しなくていいよ、一国の国家財政を超える資金があるから」
提督は簡単に言うが、この一言で私はこの研究の背後に、とてつもない巨大組織があると感じた。
そんなものを、いともたやすく扱う提督にも驚く。
超古代の遺跡に超科学をもって当たるようなもの。
どちらが強いとかの話じゃない、もう人間の、個人の研究や探索の範囲を超えてしまっている。
こうして私は一研究者として、この超古代に作られたであろう今は忘れ去られた遺跡を研究・探索することとなった。
それから数カ月、私は他の研究者たちと共に地下遺跡の探索を行っている。
驚くべき遺跡だった。
地表に出ている部分(邪教集団が根城にしていた大部分)は一番新しい遺跡だということが分かった。
つまり、地下に行けば行くほど旧時代の遺跡ということになる。
こんな研究者の興味を引く遺跡もないだろう。
そして、この遺跡、地表に出ている部分よりも地下のほうが巨大だとの調査報告が上がる。
地下深く、それこそ地表部分を突き抜けそうな勢いで、この遺跡は地下へ行けば行くほど巨大になっている。
深さも、いまだに不明。
おそらく数100mどころじゃない地下深くに、この遺跡の底がある。
私達は無線電話と有線電話の2種類を持ち、地表にいる提督と連絡を絶やさぬようにしながら地下深くへ潜っていく。
ある程度(数10mくらい)降りると、そこからは地下に大きな穴が開いている。
この穴を塞ぐように、ある時代からの遺跡は造られていたようだ。
穴の回りには宗教的な意味があるのだろうか、五角形を示すようなサインを刻んだ柱が五本、立てられていた。
長い年月が経っても、この柱は頑丈なようで、サインは薄くなっているが視認はできる。
我々は穴の傍に据え付けられた即席のエレベータにより、穴の中へと降下していく。
これからは常闇の世界だ。
一応、有線と無線電話の接続を確認しておく。
一抹の不安とは別に両方共、会話に問題はなかった。
穴の縁に有線と無線、両方の中継器を取り付けてあるからだ。
中継器は荷物の中にいくつもある。
今回は通信回線の確保もあるので、行けるところまで行く予定。
穴は地の底まで続いているかと思われるほどの深さだ。
当然、光を底に向けても何も見えない。
我々は簡易エレベータで降りられる限界まで降り、そこから壁面に開いている横穴(大穴)に入る。
しばらく進むと先に明かりが見えてくる。
地底世界に明かりだと?
いぶかしみながら我々は進む。
突然に暗闇の洞窟を抜ける。
薄明かりではあるが壁面が輝いている広大な場所に出る。
暗闇に慣れた目には、これでも十分に明るく感じる。
これはヒカリゴケ?
それとも鉱石が発光しているのか?
壁面をこすってみたが光は変わらない。
鉱石発光のようだ。
今まで、こうやって探査してきているが、生命体には全く出会わない。
おかしい。
ここを建造した生命体は滅びているだろうが、地中に生きる生命体は多い。
それなのに、虫一匹、見つからないとは。
私は、一休みして、報告を入れようと提案する。
全員の賛同が得られ、小休止。
私は、提督に、この光の広場のこと、生命体には出会わないことを告げる。
虫の一匹もいないと報告すると、提督は興味を惹かれたようだ。
充分に注意しながら、探索を続けるように指示される。
我々は、気力や体力が回復したと確認後、探索を続けることにした。
我々は横穴を通信が届く限り進んでみた。
鉱物と若干の植物は見つけたが(洞窟に生息するような植物たちだ。これはこれで大発見には違いない、おそらく新種ばかりだから)
ほとんど、いや全くと言っていいほどに生物・動物とは出会わない。
これはおかしい。
植物のある地点なら他の生物(虫やイモリやカエルのような小動物とか)がいるはずだし、それがいないことがおかしい。
まあ、どこかのペーパーバックのように洞窟内に原始時代の植物や恐竜がいる、とかいう話じゃないのは科学的だが。
一応、横穴の限界点を目指して歩いて行く。
果たして次の日の昼ごろ(時計を持ってきて正解だった。時間の感覚がわからないからな、地下だと)になると我々は大きな湖に到着する。
この水は砂漠が緑に覆われていた頃の太古に降った雨水が地中に染みこんで造られた地下の巨大湖だろう。
通常は地下にも水路があるため河のように地下水路が流れているのだが周辺の地盤が固かったのか、太古の雨水が貯められたまま湖水になったと思われる。
一応、水質検査キットも持ってきていたため様々な水質試験を行うが、汚れのない澄んだ水だと分かっただけだった。
これは人間が飲んでも害はない。
あるいは、何か生物がいるか?
とも思ったのだが、やはり岸の周辺に少々の植物が見られるばかりで、他に生物は見られない。
投光機の一番大型のものを数台用意して反対側の岸を照らしてみると、やはりというか光る石の反射が見られる。
水の流れも全くないので、これは行き止まりだな。
探検隊は穴まで引き返すことにした。
食料は、まだまだあるし、水は、この湖で補給したし、余裕で探検が続けられる。
有線電話(無線は湖までは届かなかった。まあ障害物が多いから当たり前だが)を使い、提督に連絡する。
「提督、湖を見つけました。地底湖ですが、やはり生物は見つかりません。少々の植物が見られるだけです。横穴は、この湖で終わりのようで湖水に流れはありませんので我々は穴まで戻ります」
報告を終えると提督から返事が来る。
「ご苦労様。地底湖の発見は貴重だな、それと地底の植物も。できれば地底湖の水と地底植物のサンプルが欲しい。土付き根付きで採取してくれないか?」
二つ返事で了承する。
戻る途中で植物サンプルと土壌サンプルを採取していく。
2日かけて横穴の端に到着する。
簡易エレベータは、これ以上、降下できない。
地上へ戻ることを提案し全員の賛成を得る。
ふと思いついて巨大なる竪穴の土壌サンプルも採取しておこうと考える。
横穴で採取したサンプルよりも岩盤が固いので苦労したが何とか採取に成功する。
我々は暗闇の中、簡易エレベータを上昇モードに切り替えて地上へ戻る道すがら、穴の周辺を観察することにする。
ふと気づく。
降りる時には完全なる静寂だった竪穴に、かすかだが何かの音が聞こえる。
この発見を他の研究者たちに話すと皆、注意深く音を聞き、確かに、微かではあるが何かの音が聞こえると言い出す。
私は、とりあえず提督に報告しようと無線電話のスイッチを入れる。
「提督、新発見です! 下降時には静寂そのものでしたが、上昇している現在、何か微かな音が聞こえます! 穴の底の生物の音かも知れません」
提督の返事は予想を裏切るものだった。
「そうか……今はともかく君たちの生命を一番に考えよう。エレベータの上昇速度を最大にしたまえ。そして穴の最上部に辿り着いたら何も考えずに地上目指して上がって来なさい。いいか、できればサンプルは欲しいが君たちの生命が一番だ。最悪サンプルも機材も放り出して構わん!」
何なんだ、この提督の焦ったような命令は。
ともかく我々はエレベータの上昇速度を最大に切替え、下降時の数倍の速度で上昇していった。
しばらくしてエレベータが停止。
最上部に着いたようだ。
我々は素早くエレベータから降りて、エレベータの電源を切る。
その後、荷物も必要なものを選択し最大限に減らした軽い荷物で地上を目指す。
穴を蓋している近代部分の遺跡にたどり着く寸前、私は気づいた。
気付いてしまった……
エレベータで聞いた微かな音が、未だに小さいけれど確かに大きくなっている事に。
我々は何かに追われるように、その音から一目散に離れて安心な地上に出たいと願いながら、できるだけ早足で遺跡を地上目指して上っていく。
あの穴の蓋から、もう数10m以上、ビルで言うと10階分以上は上っているにも関わらず、あの音が自分たちのすぐ足元まで迫ってくるようで我々は恐怖にかられていた。
数時間後に地上の光が見えた時、我々はへたばってしまっていた。
驚いたことに探検隊の出発地点に提督が迎えに出ていた。
提督はホッとひと安心したように表情を緩ませると、我々を労ってくれた。
私は大事な土壌サンプルと水サンプル(水筒の水だが)植物サンプルを提督に渡すと自分の部屋に行こうとして……
竪穴の土壌サンプルも採取したことを忘れていたので、それも提督へ渡す。
「ありがとう。しかし、君たちの命が大事だ。サンプルなど捨ててくれても良かったのだぞ」
提督は言うが、喜びは隠せない。
「いいえ、サンプルがなければ、この探検行の意味が無くなります。これを持ち帰ることにより地下遺跡の謎に迫れるかも知れません」
私の言葉に、うむ、と頷く提督。
「では、このサンプルを至急、調査解析班に回そう。ご苦労だった、しばらく休息を取り給え」
提督に言われて自分の部屋へ戻るが、寝付こうとしても、あの微かな音が耳について離れない。
あんな音は生まれて初めて聞く。
どんな生物、あるいは生命体が立てる音なのだろうか?
興味と、微かだが「恐怖」も感じる。
その夜は何とも言いがたい悪夢にうなされ、何度もベッドから飛び起きた。
あの、地下の巨大なる穴の中から逃げ返ってきた日より我々、地下遺跡探検隊の者達に奇妙な事態が起こっていた。
日常的には何ら問題はないのだが夜、就寝時に悪夢を見るようになった。
飛び起きても、朝の目覚め後にも何も夢の内容は憶えていないのだが、とにかく悪夢には違いない。
しばらくは各々の個人的なトラウマかと思われたのだが地下探検に行った者すべてが、その後に悪夢を見るというのは、ただごとではないと思われた。
私は、これは由々しき事態と考えて、この建物と遺跡の主である提督に報告することにする。
「ほぅ、それで毎日のように悪夢を見ると。しかし、その夢の内容を誰も憶えてないというのは、おかしいな」
提督が、かなり考えてから言葉を出す。
「そうなんです。おかしなことは、まだありまして……悪夢の内容を誰も憶えてないにも関わらず全員が残り時間が少ないと思っているようなんです」
私は報告に付け足す。
そう、あれから全員の心理テストを行った結果、ある一定の焦りがあるとのこと。
その焦りの内容を詳細に聞き取り試験したところ、全員が大なり小なり何かの時間がないと焦っていることがわかった。
「これは……いや、まだ決めつけをする段階ではないな。ともかく、ここにいるから悪夢が襲ってくるのかも知れない。数人、ここから離れた場所へ一時でも離れさせよう。そうすれば、この遺跡に原因があるかないか分かるだろう」
提督の薦めに従い、数人ここから離れた場所へ移す。
実験を兼ねているので一人ひとり、移された場所は違う。
比較的、遺跡から近い場所や、ここから数100km以上離れている場所や、海をわたって違う大陸へ移した者もいる。
一週間後、移動した者達が悪夢を見るかどうかの結果が送られてくる。
まとめた物をレポートとしてみたが遺跡から遠くなるほどに悪夢は薄れていくようだ。
ちなみに私だが未だに悪夢に悩まされている。
とは言え、まだ体力も精神力も衰えるほどではない。
「ふむふむ、これを見る限り、悪夢の原因は遺跡だね。直接な原因を推測するならば君たちが帰りに聞いた、ある音。具体的に言うなら、その音の主が悪夢の原因だろうよ」
提督は断定するように言っているが、これで断定などできるわけがない。
微かではあるが我々は、あの音を確かに聞いた。
今から思えば、あまりに深い闇を覗いたための幻聴であったのかも知れない。
「提督、これで穴の底に何か居ると考えるのは早計ではないですか? そもそも、あの微かな音そのものが幻聴であった可能性も捨て切れませんよ」
私は提督に忠告する。
しかし提督は、
「そんなことはあるまい。音は、あの時、地下の大穴にいた全ての人間が聞いているのだ。それに遺跡や横穴に植物以外の生命体がいなかったのも気にかかる」
ここで私は気がついた。
提督は何かを知っている!
我々、ここにいる研究者たちが知らない情報と知識を、この目の前に居る男は知っている。
それが何かは、まだ分からない。
推測も出来ない。
しかし遺跡の中に植物以外の生物がいなかったこととの関連性、穴のそこからの微かな音の報告を聞いた時の即時撤退の命令、そしてレポートを読んだ後の奇妙な発言。
科学者の発言とは思えぬ奇妙な断定発言。
これは何を示す?
分からない、私には、さっぱりわからない!
「提督、ずばり聞きます。貴方はいったい何をご存知なのですか?」
もう格好つけてる場合じゃない。
失礼に当たるかも知れないが単刀直入に聞かせてもらおう。
「うむ、気がついたか。君は天才レベルの切れる頭脳を持っているようだな。しかし惜しい! 今の境遇からだったら私の伝手で有名国立大学や著名な博物館の研究室にも入れてあげることが可能だ。しかし秘密を聞いてしまったら君は陽の下を歩けなくなる」
「待ってください。私は名誉や資金を要らないとは言いませんが少なくとも自分は現場へ出向いて遺跡や遺構、化石などを回収・保護するほうが好きです。何を聞いても覚悟はできています」
私の事を気遣ってくれるような提督の言葉。
しかし、いまさら遅い。
私にも意地がある、その意地にかけて、この妙な悪夢など些細な事だと告げる予感がする。
予感は当たった。
しかも悪い方に……
「君は覚悟はできていると言ったね。しかし今から話すことは、そんな研究者としての覚悟じゃ足りないよ。君の人間性、魂の変質を許容できるかどうかという問題だ。はっきり言うと君は正気を保ったまま狂えるか?」
提督が奇妙な発言をする。
正気で狂えるか?
互いに反する語句だ。
「提督、クイズのような物言いは止めてください。狂うのと正気なのとは精神状態として反する状態です。狂いながらも正気を保つなんて、できるわけありませんよ」
私は正直に答える。
「クイズ……そうかもしれんな、回答がないこと以外は。では事実だけを話すとしよう。君は、この銀河宇宙が特殊なものだと知っているね?」
「はい。我々の銀河は中心部にある超巨大な特殊ブラックホールのおかげで銀河中に膨大なエネルギーが星間ジェットとして満ちています。一部は、この銀河を飛び出して虚無空間へも吹き出すほどです」
「よろしい、前提としての知識は充分だ。そこで一段、深い疑問がわかないか? この銀河、知的生命体は、この星系に住む人間だけなのか? という」
「はい、それは常に疑問として持ってます。しかし、それを解明するに必要な宇宙旅行と宇宙探検の手段を我々は未だに持っておりません。ようやく空に見える衛星へ行ける手段を近年になって持つようになったくらいが関の山です」
「ふむ、よろしい。ここまでは満点。正気度も満足点を与えよう。では、ここで君の知らぬ事実を教えるとしよう。実は、この銀河宇宙、またの名をM87星雲とも呼ぶが、この銀河は君の想像もしてないほどの知的生命体で溢れている」
「ま、待って下さい! 事実と言われましたが、その証拠は? そして、どれほどの数の知的生命体がいるというのですか?」
「む、そう来るか。では、このレポートを読み給え。時間がかかっても良い、事実を受け入れるのだ」
「では、読ませていただきます」
提督から渡されたレポートには詳細な写真まで付属していた。
数10Pの短いレポートではあったが付属する写真が数100枚になり、それを見るのに時間がかかる。
1時間後、私と提督はソファに座って対面していた。
私の頭の中はレポートの内容でいっぱいだ。
それは私の想像を軽く超える代物であった。
証拠写真は、あらゆる形態の生命体を写していた。
偽造写真と言い張れるかも知れないが提督の人柄と誠実さは、この数カ月で身にしみている。
彼が、こんな手のこんだイタズラを私に仕掛ける理由が思いつかない。
ということで、これは実物の生命体を写したものだと理解しなければならないのだが……
「提督、様々な点から考えて、このレポートと写真は実際に異星で写されたものだと思われます。で、これを真実だとするならば最大の疑問が1つ。こんな銀河を飛び回れるような宇宙船、この星には未だに存在しませんよね?」
「その疑問は、もっともだ。では、まず、それを解決してあげるとしよう……あれを見給え」
提督が指差す方向へ私も視線を移す……
空しか見えない、いや!
遥か彼方の空の高みから小さい影のような点が……
違う!
みるみる大きくなってくる、その影……
球形の宇宙船ではないか!
ロケット型ではない、砲弾のような形でもない。
見たこともない、いわば小惑星のような球形の宇宙船である。
こんなもの、どこから持ってきたんだ、提督は?
いや、それよりも……
こんな宇宙船を持つ人間、この星には存在しないはずだろう?
見ていると、その宇宙船は音もなく降下してきて広い滑走路となっている地帯に音もなく着陸する。
ロケットの打ち上げ時の轟音や大気圏再突入時の轟音を知っているだけに、この宇宙船に使われている技術のとてつもなさが理解できる。
提督とは何処の何者?
いや、それよりも目の前の人物が人間かどうか疑わしい。
異星人の星系侵略軍の尖兵か?
それとも宇宙船の事故で、この星に取り残された哀れな宇宙飛行士か?
どうでも良くはないかも知れないが、私は提督の素性よりも、目の前に着陸した宇宙船に惹きつけられていた。
この宇宙船があれば私は、この銀河宇宙の何処へでも行けるようになるだろう。
我々の想像、妄想、そんなものを遥かに超えた生命体や文明に出会える可能性が目の前にあるのだ。
「提督、これで宇宙へ出られるんですね?」
私の声は、かすれていたかも知れない。
でなければ、あまりの興奮に息をするのも忘れていたからかも知れない。
提督は何も喋らず、ただ頷いた……
「感動しました……ありがとうございます」
私は提督に向かい、礼を述べている。
着陸した宇宙船に、提督は私を招待し、この星の衛星、2つの月を巡って、今は元の着陸床というか滑走路というか、ともかく元の場所に戻っている。
ものすごい経験であった。
驚天動地とは、このことだろう。
私は今までの固定観念を全て捨て去らなければならなかった。
提督は宇宙船に乗ってから何も言わなかった。
今なら理解できる、そのわけも。
私の陳腐な常識が、提督が何を語ろうと、信じるような素振りすら宇宙へ出る前は見せなかっただろうと。
「常識も思い込みも今までの経験も何も通用しない事態があると分かっただろう君なら、もう話せるかな? ついてきたまえ」
提督が久々に喋った。
私は逆に頷いただけで、提督の後に続く。
ふと、宇宙船の方を振り返ると、今まで見えていた宇宙船は消えていた。
あれだけ近くにいて飛び去る音すら聞こえないというのは超絶の技術力と科学力だな。
もう、とりあえず提督についての詮索は止める事にした。
巨大なるビルの中、もう私も数カ月は暮らしている、その建物に入る。
エレベータに乗る私と提督。
いつもの階ではなく止まるまでやたら時間がかかる。
階数表示を見たら最上階であった。
ここは私も初めて来る。
通常、提督のパーソナルスペースとして最上階エリアは提督以外の人物が入ろうとしても、階段も扉で鍵がかかり、エレベータも止まらないようになっている。
コツ、コツ。
私と提督の靴音が響く。
しばらく歩くと重厚な扉が現れる。
近代的なビルにはふさわしくないが歴史の重みを感じさせる扉だ。
音もなく重厚な扉が開くと、私と提督は、その特別な部屋に入る。
内装は、あっさりしたものだったが、そこに並べられている彫刻と絵画、なんと言えばいいのかわからない古代芸術品等、何かの波動のようなものを発しているようだ。
「ここは特別室だ。下の階にあるような一般芸術ではなく遥か太古の国家……それを造ったのも支配していたのも人間じゃないよ、ちなみに……そして人類とは全く違った生命体の宗教団体が用いたであろう祭事用の呪物だ」
「なんですって?! そんなもの普通に展示して危険じゃありませんか?」
「大丈夫だよ……とはいうものの残留思念があるものも多いので普通の人間が長期間この展示室にいることは、お勧めできないがね」
「私は普通の人間ですよ、ちなみに。大丈夫なんですか?」
「ああ、問題ない。長期間この呪物たちの残留思念を受け続けると発狂くらいはするかも知れんが」
問題ありまくりだろうが!
提督が人間とは思えない証拠が、またひとつ……
「ところで本題。ここに君を連れてきたのは君に世界の裏歴史を話すため。宇宙へ出る前の君なら、とても信じられないだろう事実と真実のオンパレードだ。最終確認だよ、この話、聞くかね? 聞いたら、もう後へは引けないよ?」
ごくっ……
自分の息を呑む音が聞こえる。
これ以上は通常の人間が立ち入るべき世界ではないと、あらゆる本能と理性でもって説得しに来る自分の精神と肉体。
やめろ!
聞くな!
関わるな!
自分の存在そのものが危機に晒されるぞ。
宇宙に憧れと夢を持ってるんだろう?
それが恐怖と絶叫の世界に変わるぞ。
やめろ、やめるんだ!
しかし私の口は意思に反して、こう言っていた。
「はい、覚悟しています。あこがれと夢が恐怖と悪夢に代わろうが真実と事実を知りたい」
ああ、ここから私は宇宙に対し恐怖と悪夢に怯える毎日を選んでしまった……
「まず、君には心構えとして、この宇宙には様々な生命体、様々な文明があるということを認識してもらった」
提督は静かに話しだした。
その話、長くなりそうだ。
私達はソファに座り、お茶を飲みながら話し合うことにした。
「その上で君に、この世界の裏の歴史を話すことにする。まず最初、この宇宙は自然に出来たものではないという事だ」
「神が造ったとでも言うのですか? 提督」
「自然な疑問だろうね。答えよう、違う。この宇宙は私達とは全く違う生命体……生命体と定義できるかどうか分からないのが実情だが、住む次元が違う、私達のいる3次元を遥かに超えた高い次元の生命体により創造されたと考えるのが最適解だろうね」
「やっぱり神ではないんですか? 我々の想像もつかない高次元の生命体など、まさに神の定義に入ると思うのですが」
「違う。私自身も、その高次元生命体の一人? に会ったことがある……会ったというか、話、テレパシーを交わしただけだがね……思考形態は我々の延長上のようだよ。彼自身も自分を神とは考えていない、どちらかというと管理者のように思っているらしかった」
とんでもない情報が出た!
目の前にいる提督と名乗る存在、一体何者?
宇宙をも造る存在と同じような存在であろう「管理者」を名乗る存在とテレパシーらしき会話を交わしただと?!
私は以前からの疑問を、より深く確信するに至る。
やはり提督は人間じゃない!
少なくとも我々と同じ人間じゃない!
「提督、深い話を聞く前に、はっきり聞いておきたい事があるのですが、よろしいか?」
「なんだね? 私に答えられることなら何でも質問し給え」
「提督って多分、偽名ですよね。本当の名前は?」
「タダス・クスミという。ただ、君達の言葉だと発音しにくいと思うけどね」
「タダシュ・クシュミ……言いにくいな。でも、これではっきりしました。提督、あなた、この星の人間じゃない」
「その通りだ。私は、この星の、いや、この銀河、Mー87星雲の生まれ育ちではない。ここより遥か数百万光年離れた銀河系という星雲の太陽系という田舎の星系の出身だ」
「提督、あなたの、この星での目的は? 侵略ですか? それなら小指を動かすまでもなく、こんな科学技術の低い星は簡単に侵略できますよ」
「いや、私の目的は、そんな安物ペーパーバックに載るような三流科学小説ではないよ。私の目的、それは異次元宇宙からの侵略を防ぐこと。君の予想とは全く逆だよ」
予想もしてない展開だった。
自分たちには全く関係ないだろう遥か遠くの銀河系から、この銀河へ侵略者を阻止しようとやってきた生命体がいる?
お節介にも、ほどがある。
しかし、そういう超越存在に守られるしか無い立場が、この星に住む我々人間であることも確かだ。
だいたい、この星に侵略者がいるという話も提督から初めて聞くくらいだ。
「完全に理解したわけでも納得したわけでもありません。頭の中が混乱状態で、何が正解で何が間違いか、分からないのですよ」
「無理もないね、普通に生きていては知らない真実を初めて聞いているわけだから。しかし、話は続けなければいけない。君は真実を知らねばならない」
「はい、分かります。続けて下さい」
「では……この宇宙が造られたものなら、そこに生きる生命体たちは? それも、やはり人為的に生命の「種」が蒔かれたのだ。だからこそ今現在、あらゆる銀河・星雲、星に、ありとあらゆる形態と考え方を持った生命体がいる」
「やはり、生命の元は宇宙に蒔かれたものだったのですか」
「ああ、その通りだ。そして、ここからが表の宇宙史と違う裏の宇宙史となる」
「……続けて下さい」
「分かった。現在、宇宙が誕生してから億年単位での時間が経つが初期の、まだ小さかった宇宙に破れ目が発生した」
「ん? そんな話、聞いたことがありませんよ? 宇宙の破れ目?」
「宇宙の破れ目とはブラックホールとホワイトホールのような「宇宙の穴」とは違う、宇宙の時空間そのものが破れている箇所だ。勿論、我々には宇宙の破れ目……これを「異次元断層」と呼ぶこともあるが……は見ることも感じることも出来ない」
「そんなものが宇宙にあるなら、この宇宙が広がるに連れて破れ目も大きくなっていくのでは?」
「君は鋭いね、その通りだ。異次元断層については管理者すら対処しようが無いようで今でも放って置かれている」
「何も問題はないんですか?」
「そのことだ。最初は管理者も、宇宙の時空間が破れても、そこから、こちらの宇宙の生命体が落ちてしまうようなことがない限り、あまりに環境が違う「破れ目の向こう」の宇宙からやってくるものなど無いと思っていたらしい。しかし、それは間違いだった」
「ということは……その異次元断層とやらの向こうから何かがやってきたんですか?」
「その通り、やって来てしまった。それも最悪とも言える存在、今では「邪神」と呼んでいる存在と、その下僕たちが」
「え? そんなの程度の低い大衆向けペーパーバックに載る三流の恐怖小説のストーリーじゃないですか。真剣に聞いているんです、冗談は止めてください」
「私が今まで君に冗談を言ったことがあったかね? これは裏の宇宙史。事実だよ……そして、この邪神群は一時期、この宇宙を征服する」
「太古のことであろうとも、そんな宇宙の征服が事実なら今でも記録が残っていないのは、どうしてですか?」
「残ってはいるんだ、人間じゃない生命体による記録として。あそこにある真っ黒な石柱を見給え。あの石柱に、びっしりと彫られた摩訶不思議な文様、あれが太古に生きた生命体が邪神群の存在と行跡を後世に残そうと考えた末に作ったものだよ。文字もない文明だったようで絵をもって説明しようとしたようだ」
次に、隣を指差した提督。
「邪神を崇拝した文明もあったようで、その文明の残したものが、あの壁にかかっている絵画…壁画を拓本取りしたものに彩色したんだがね」
黒い石柱には気味の悪い生命体達が描かれている。
それぞれ形も大きさも全く違う生命体達、空を飛んだり地を這ったり、水の中を泳いだりしている。
迫害されているのは初期の爬虫類や魚類だと思われる存在。
壁画からとられたという絵も写実的な絵柄で、邪神群と、それをうやうやしく崇拝する両生類と思われる存在が、いきいきと描かれている。
ただし素晴らしい芸術作品ではあるが近くによると、そこから感じる悍ましいほどの違和感がある。
提督の話は、まだ続く……
提督の話は衝撃を克服するかしないか、の心理的バランスをとっている私の心に続く衝撃を与えるものとなる。
「それで、だ。ここからが肝心なんだが邪神という存在も、その下僕である生命体群も、今もなお生きている……というか死んではいない」
「太古の昔の話、ではない今の話ですね。そんな不死の存在を何とかできるんですか?」
「邪神そのものは生命体というよりも精神体というか純粋なエネルギーというか、ともかく、それに近いものだ。人間や他の生命体で、どうこうできるものではないよ」
「そんなものを、どうしろと?」
「幸いにして邪神の中でも上位にある、そう言った精神体、エネルギー体という形をとるものたちは、この宇宙や星に、あまり関心がない。だから放っておいても大丈夫なんだが……問題は……」
「分かりました、提督。精神体やエネルギー体に、なりきれていない中位から下位の邪神群と、その下僕群が厄介なんですね?」
「正解。この世での物質的な肉体も持ち、かと言って邪神たる力もある……まあ上位の邪神達ほどではないにせよ……星一個は軽く潰せるほどの力が。それにも増して厄介なのが、その下僕達。こいつらの力は人間に毛が生えた程度から下位邪神に近いものまで千差万別」
「では我々、人間が彼らに挑むとするなら、まず手始めに力の強くない下僕達から始めると」
「君は真実の受け入れが早いな。普通の人間は、ここまでで気持ちの整理がつかなくなるものなんだが」
「呆けていても何も始まりませんからね。我々の力で、できるところから邪神達の力を弱めないと」
「素晴らしい! 私は君を初めて見た時から、このプロジェクトに幹部として迎えようと考えていた。では最期に、とっておきの秘密を教えよう」
「何でしょうか?」
ごくっと、息を呑む音が聞こえた。
提督ではないと思われるので、私のだろう。
最期の秘密とは何だろうか?
「このビルの下。つまり太古の遺跡と思われている場所、実は太古に邪神を崇拝する生命体たちが作った神殿だ。そして君たちが地下遺跡として探検していた場所、特に底も知れぬ穴……あの穴の底に下位の邪神、あるいは邪神の下僕でも上位の奴が眠っている可能性が、ひじょうに高い」
な、ん、だ、っ、て?
じゃあ我々が聞いた、あの音、微かな、そして少しづつではあるが大きくなっていた、あの音は……
「提督、改めて聞きますが我々が聞いた、あの音の正体というのは、つまり……」
「ん、そうだ、君の想像通りだ。おそらくだが眠っていた邪神関係の生命体が何らかの理由で目を覚ます兆候ではないかと思う」
なんて場所に、力も何もない俺達を放り込んだんだ、この男は!
一瞬、激昂しかかったが、よく考えてみれば、この数億年もの間、眠っているモノである。
余程のことがなければ目を覚まさないだろう。
しかし、この度は、なぜか目を覚ましそうになった……
「原因は、なんでしょうか? 数億年も眠っているモノが起きる理由は?
提督は、ちょっと言いよどんだ。
「ひじょうに言いにくいことだが……原因として考えられるのは君が採取した土壌サンプルだな」
「え? 水のサンプルも植物サンプルも無害ですよ。土壌サンプルも同じだと思われますが……」
「それがね、一つだけ土壌サンプルが異常な成分を検出したものがあってね……君が非常に硬くて厄介だったと言った、あの竪穴の土壌サンプルさ」
「はい?! あれくらいのサンプルで、深い眠りから覚めそうになったと?」
「あの竪穴そのものが一種のセンサーになっていたと思われる。通常に上下運動をするくらいなら問題ないのだろうが、壁を掻き取るとかすると敏感に反応するんだろうね」
「危機一髪だったということですか、あの行為は。今は音もしなくなっているんですよね」
「ああ、穴の近くに高性能マイクを配置しておいた。現在は微かな音ひとつしない、静かなものだ」
「それは良かった。しかし、そうなると、こちらから手を出して目覚めさせるより他に穴の底で眠っている生命体が出てくるようにする方法がないわけですよね、どうします?」
その質問が出た途端、提督の目が輝いたと私には思えた。
「その点は計画済みだ。もうすぐ準備も整うだろうから、後数日、待つのみ」
いやに自信たっぷりに断言する提督であった。
その自信の理由と計画の実際を見たのは、それから2日後。
それは工作班の潜入から始まった。
TNT爆薬数10Kgを持ち、遺跡を素早く降下し、竪穴にたどり着く。
竪穴の周囲に立つ5本の柱にTNT爆薬を仕掛ける。
「提督、遺跡研究を行う立場からすると、この破壊工作は見ていられないんですけど」
私は現場から送られてくる映像を提督と共に見ながら、そんな感想を漏らす。
「仕方がない。あの柱は、どうも穴蔵の中に居る怪物を眠らせておくための装置のようなのでね。文様や素材、長さや高さ、太さなどは研究済だよ」
「太古の人々は、この怪物を退治できなかったんでしょうか?」
「分からないね、そのあたりは。ただし邪神や眷属、下僕達も含めて太古の様々な生命体や過去の人々には炎や爆薬・どんなに進んでも核兵器までが精一杯だったろうね」
「しかし、それでも倒せなかったと? 今の我々でも核兵器が最大の武力ですよ? あ、いや提督の場合は別でしたね」
「その通り。私の手には過去にある兵器とは全く違ったものがある。今までは、それを使うことに対し私には躊躇いがあった。あまりの威力に自分が怯えていたのかも知れない」
「しかし今回ばかりは……」
「そうだ。しかし、この兵器群の封印を解くことは、ある意味、最終手段としたい。その前に怪物とコミュニケーションをとってみたくてね」
「正気ですか?! 太古の昔から邪神や眷属、下僕たちと交渉を持つこと自体、正気の沙汰ではないと様々な警告がなされていたではないですか!」
「それは今までの生命体、人間も含めてだが彼らの思考領域に近づける者が一人もいなかったからだと思う。君は邪神とか怪物とか言われている存在と我々の最大の違いは何処にあると思う?」
「そ、それは異次元断層さえも越えて来る能力、ですか?」
「違う。それなら精神生命体とかエネルギー生命体ならば、こちらの宇宙の生命体でも可能だ。彼らと我々の違い、それは……思考する次元の違いだ」
「思考する次元? 存在する次元が違うというのは理解できますが思考の次元とは?」
「彼らが思考する際の周波数のようなものだと考えれば良い。まあ細かい点は色々違うが。ともかく彼らとコミュニケーションを取れるくらいに思考するためには、こちらの脳が焼き切れるくらいの高い周波数で思考する必要があるということだ」
「え? そんな事、生物に可能なんですか? 言っては何ですが私から見たら超人に近い提督でも、そんなことをすれば脳細胞が焼き切れますよ」
「しかし、やらねばならないだろうな。宇宙の管理人すら放り投げた事態を収拾するには、そこまでやらないとダメだろう。それで交渉も不可能だと分かれば殲滅戦になるだろうが」
「そこまで外部の力に頼るとは……我が星ながら生命体の一人として情けなくなります。そこまでやっていただく必要性が提督には全く無いでしょう」
「はるか遠い星雲の彼方にある星の住人だから? やめ給え、そんなことを考えるのは。同じ3次元宇宙の同じ銀河団に属している仲間じゃないか。仲間がピンチにあるなら助けに来るのは当たり前だろうに」
私の目に涙が浮かぶ。
そうか、この人は命をかけてまで……
「提督、この星の全生命体を代表して感謝を述べたいと思います。ありがとうございます!」
「いいさ、もともとは、ただのトラブル発生の事前防止だったんだから。しかし、ここまで話が大きくなるとは思ってなかったが」
唖然とする。
こ、この人は、この星が砕けるかも知れないような事態を前に、これがトラブル発生の事前防止策だと、こともなげに言っている。
怪物というのは、この人の精神なのかも知れないな。
「ん? 私の精神がどうだって?」
「あわわ! 勝手に心を読まないで下さい! プライバシーの侵害ですよ」
「意識的に読まなくとも強い感情だと勝手に受信してしまうんだよ。普通は他人の心など読まないようにしているさ。どす黒いものばかりで嫌になるからね」
そうか、テレパスは好むと好まざるに関わらず他人の感情や思考が飛び込んでくるのか。
ESPとは厄介な能力だこと。
私は自分がテレパスでないことに対し、神に感謝した。
英雄や救世主という歴史や伝説に残る者達の中にも、こういう能力者がいたのかも知れない。
その場合、民衆の期待や憧れなどという感情の爆発で、のっぴきならない事態に放り込まれた奴も相当な数、いたんだろうな……
かわいそうに。
そんな思いに囚われながらも、私と提督は柱の爆破作業を見ている。
もう現場にはカメラとマイクしか残っていない。
大量の爆薬が5本の柱に巻きつけられ、そこから有線が伸びている。
もうすぐ、ここに工作班が戻ってくる事になっている。
その手に持つ有線を爆破スイッチに取り付けたら準備完了だ。
今のところ竪穴からは何の音も無い。
数10分後、工作班が戻ってきた。
さすがにエキスパート部隊、我々が数時間かかる道を、この時間である。
持ってきた有線の端を爆破スイッチに接続する。
我々は万が一の事を考え、ビルから離れた場所へ避難している。
研究者も全て、ビル内にあった絵画、壁画、美術品(? )から黒い柱まで全て撤去されて別の場所へ運ばれている。
秒読みが始まる。
さあ、これからが邪神群への人間、いや、この星の生命体達の反撃の狼煙となる。
提督がスイッチをひねる。
一瞬遅れて、鈍い爆発音。
地下深くだからな。
マイクは吹き飛ばされて音は拾えないが、カメラは奇跡的に生きていた。
地下からの映像を伝えてくる。
映像がブレる。
カメラの異常か?
と思ったが、地表にも異常な振動が伝わる。
これは?!
怪物が目覚めたか。
咆哮が振動となって伝わってきているのか。
数分後、カメラはブレながらも、なにか大きな物体が穴から出てくるところを捉えていた。
その数秒後、突然、映像が途切れる。
怪物に踏み潰されたか。
ビルの土台が揺れて、巨大なビルが倒壊する。
その後、ゆっくりと瓦礫が持ち上がり、巨大なる怪物が太陽の光を浴びて咆哮する。
闇の生物だな、太陽を嫌うとは。
攻撃隊が各自の兵器の照準を怪物に合わせる中、提督は、ゆっくりと、怪物の元へと近づいていく。
兵器は嫌いだと言っても拳銃1つ持たないとは……
しかし、提督を止める者はいない。
予め提督が計画を話しておいたからだ。
まず、提督が怪物とコミュニケーションをとってみる。
それが破綻するか、そもそもコミュニケーションが取れない場合、提督からの攻撃開始の合図があるので、それから全面攻撃開始だ。
提督が怪物と、わずか数mの距離にまで近づく。
正念場である。
提督が怪物と向き合う。
怪物は不審げな顔をしている。
そりゃ、そうだろう。
太古の昔から今まで怪物と呼ばれ邪神と呼ばれ、邪神の眷属と呼ばれ邪神の下僕と呼ばれ、崇拝されるか又は逃げ去られるか、どちらかだったのだから。
こいつ何者?
ってな表情を浮かべていることだろう、怪物的には(人間には怪物の表情は理解不能だ)
提督がテレパシーを使いはじめる。
怪物は、ぴくりと反応するが、それだけだ。
提督の言っていたように、通常の人間の思考波では怪物や邪神には届かないのだろう。
何かしているのか?
という小石を投げつけられたくらいの感覚しかないのではないか?
提督が思考に集中し始める。
あれで、いわゆる思考の次元を上げているんだろうな(提督の言葉を借りるならテレパシーの周波数を上げているってところか)
普通の人間どころか今まで、どんなテレパスでもやったことのない次元へ思考そのものを持ち上げる。
どうやるか?
どうのように制御するか?
そんなの邪神群を除けば提督しか分かってないと思う。
提督の顔から汗、いや脂汗が流れ始める。
ものすごい集中力であるが、いまだ怪物には届いていないようだ。
さすがに怪物も提督がなにかやっているとは感じているようで襲いかかることもせずに、じっと提督を見ている。
そのうち、怪物の態度が変わってきた。
提督と比べると、まさに「巨大怪物と小さき人間」の図なのに怪物が提督に対して、うずくまってしまっている。
提督は?
と見れば、ようやく集中状態を解いたようで極度の疲労状態だ。
しかし言葉はしっかりと、
「やはり、この邪神の眷属は知性体だった。テレパシーでの会話に成功したよ」
「提督、思考の次元が違うって件は解決したんですか? 極度の集中状態にあったようですが」
「ああ、何とか解決した。彼らとの会話は可能だ。だが生まれた次元というか世界が違いすぎるため彼らの思考形態と思考している次元が、こちらの生命体とは全く異なるものになっている。そのため通常での会話は不可能だった」
「でも提督は彼らとの話し合いを可能とした、と。これは新発見と言うか新しい文明が見えるくらいですよ」
「元々の思考形態そのものが違うってのもあるんで共通項を揃えるのが難しかった。しかし、これで交渉のテーブルにつけるぞ」
休養のため、しばらく提督を休ませる必要があったが、怪物の方は?
と見ると、うずくまったまま動きがない。
「提督、聞きたいことがあるのです。あの怪物、提督とのテレパシーコンタクトのあと、うずくまったまま動きがありません。どうなったのですか?」
動かない理由を聞くと驚くべきものだった。
「ああ、しばらくは動かないだろうね。理由は簡単、今まで自分が気づかずに邪魔に思って気ままに殺しまくってた害虫が急に知性を持っていると理解したためだ。あれは知性体を、それと知らずに殺していたと落ち込んでいるんだよ」
もう言葉もない。
思考形態も違えば思考の次元も違う知性をもつ生命体同士が、お互いに、それとは知らずに互いを嫌い合って殺しあうところだったのか。
危ないところだった。
提督の無謀とも思える行動がなければ知性を持つ生命体同士、互いに殲滅しあうところだった。
数時間経っても怪物は動くことはない。
その頃には提督は回復し、また会話が再開出来た。
怪物と提督、互いに体の一部を接触させてテレパシーでの会話を行っている。
後で理由を聞いたら肉体の一部を互いに接触させたほうがテレパシーが通りやすくなるんだとか。
疲労度も、ずいぶんと軽減できたと喜んでいのだが……
私には怪物に提督が呑み込まれるんじゃないかと気が気ではなかった。
最終的には思考の高次元化にも慣れたらしく提督は怪物と話し込んでいた。
「結論が出たよ」
提督の怪物とのテレパシー交渉の結果報告会である。
提督の横には結果的に「気のおけない友人」となったと提督言うところの怪物、名は人間に発音不能らしいが仮に《ナイル》と名付けられた邪神の眷属がいた。
ただし、ナイルの語るところによると彼がテレパシーで彼と同様な地位にある眷属らに語りかけたところ、ナイルの言葉を頭から信用しない勢力もいるとのこと。
その勢力(邪神一柱に対して1つの勢力があるという事。そしてナイルの言葉を全く受け着けない邪神群も数は少なくて、総数の一割くらいだとのことだ)の旗印はクトゥルーまたはクトゥルフあるいはク・リトル・リトルと呼ばれる。
邪神としての力や地位は比較的弱くて中位くらいなのだが厄介なことに、こいつらは食料として生命体を好んで食べるとのこと。
邪神群は本来、別の次元世界に属するものなので、こちらの生命体は摂取しても栄養にならず無意味なのだが精神的な意味での食事にこだわる頑固な一派なのだそうで。
まあ生命体が食べられるときに発する精神波が多少は栄養になるとナイルは言うが。
上位にある邪神たちは、この事態を察していたらしく人間を含めた生命体との同盟を反対意見もなく受け入れてくれた。
さあ、それからが大仕事である。
生命体との同盟を受け入れた邪神群達の眠ると言われる遺跡群、衛星、各惑星や恒星系に行き、その永遠の眠りを覚ます作業が待っている。
まあ、これには同盟に反対する勢力は含まれていないので、せいぜい永久の眠りを続けてもらおう、自由になったものたちをテレパシーで見て歯ぎしりしながら。
怪物や、邪神という名称は改称されることとなった。
新しい名称は「異次元生命体」である。
この方が怪しい邪神や怪物などよりも、よほど彼らを表すことになるとのことで人類側の最高会議での決定だ。
まだまだ一般人にまで異次元生命体の存在や、その数、力まで公表できる状況ではないので各国の最高権力者と、宗教学者や宗教の最上位者(教皇や最高指導者、阿闍梨など裏の宗教にも詳しい人々が集められた)に限られたが、その席での異次元生命体の存在発表は爆弾を投下したがごとくの混乱を呼び起こすこととなる。
とてもじゃないが受け入れることなど出来ない!
と叫ぶものは、まだ良い方で。
地点がわかっているなら、そこにピンポイントで核を落とせ!
などと叫びだすもの数10名。
永久の眠りについているなら、そこから絶対に起こすな!
も数10名。
約三分の1が絶滅あるいは起こすな!
宇宙の果てまで捨てに行け!
派である。
まあ、この辺りは会議をするまでもなく分かりきっていたことでもあった。
ちなみに提督は、この騒ぎを冷ややかな目で見ながら、こう呟いたという……
「やはり、か。まだまだ成熟した人類、成熟した社会とは言えないな、こりゃ。超光速は、まだまだ遠いな」
しかし、およそ議会の三分の2を占める大国と、その勢力下にある国家群が異次元生命体の擁護に賛成する。
彼らの知識と、その力に注目しているのは明らかだが、そんなものは提督の力で何とかできる。
会議は紛糾したが三日三晩の徹夜に次ぐ徹夜を繰り返して、ようやく異次元生命体の受け入れが可決される。
しかし絶対的に反対する勢力もあったので、そこには異次元生命体は入れないように厳命するということで渋々だが納得させた。
そこから本格的な異次元生命体の覚醒と救助作戦が始まる。
この星と星系内にある異次元生命体の寝所(とこしえの眠りにつくには貧相なベッドと枕だが)は提督の技術提供による宇宙船と各種機器や地中探査機、深海潜水艇によりカバーできたが、問題は遥か遠くにある星系で眠りについている異次元生命体たち。
提督によると技術提供された宇宙船には超光速エンジンやエネルギー系も別系統で組み込まれているとのこと。
確かに設計図にはブラックボックス化された機器や特殊エンジンがあり、これには特別なロックがかかっている。
ロック解除の条件は?
と冗談で聞いたら驚くべきことに答えてくれた提督。
「簡単なことだ。この星の人間全てが人種や能力、そして生命体として全く異なる種族をも嫌わずに心から歓迎する事ができるように精神的に完熟したなら自然とロックは解除され、ブラックボックスも全てデータとして読めるようになるよ」
しかし、この答えを聞いて私は絶望した。
それではロックが解けるまで数一〇〇年かかるだろう。
では、どうやって遠い星系にまで行って異次元生命体の眠りを解除し、彼らを救助できるのか?
簡単だ。
提督は超光速エンジンが自由に使用できる宇宙船を持っている。
それを使わせて……
いや違った、
我々が使うとロックがかかる。
その宇宙船に同乗させてもらえばいい。
ということで作業そのものは簡単なゆえに、30名ほどのグループで各星系で眠っている異次元生命体の覚醒および救助を行うチームを結成する。
提督に頼み込んで様々な星系に飛んでもらい、ちゃちゃっと用事を済ませる。
一ヶ月ほどで全ての星系を廻ることが出来た(とてつもない性能だった。これでも提督に言わせると「たかが搭載艇」だそうで。本船は、このM87銀河の外にいるとのこと。あまりに大きいので今回のような現地への潜入作戦には適さないらしい。大きさを聞いてみたが、およそ直径3000kmの衛星クラスの宇宙船だそうで……あまりのスケールに、しばらく開いた口が塞がらなかった)が、これで我が子孫たちに希望ができた。
いつか遠い未来、異次元生命体と自然に手を取り合う事ができるようになった子孫たちに、ある日プレゼントが届けられる。
それは夢にまで見た超光速エンジンと、その周辺機器のブラックボックスのロック解除の知らせだ。
今は自分たちの星系と、お隣の星系くらいしか行けないが、いつかは、この銀河を自由に飛び回れるだろう。
あ、この作業で今まで気づかなかったが友好同盟に反対する勢力に対する牽制手段も手に入れることとなった。
なんのことはない今まで異次元生命体たちを強制的な眠りにつけていた封印道具である。
石柱やら石板やら、ただの文様が描かれた石も含めて、大なり小なり異次元生命体を長年縛り付けていた封印であるから、それを反対勢力に用いれば良いだけの話。
今の状態でも充分な効果があるが異次元生命体の同盟賛成派を眠りから解除した後に残された封印具を、反対派の眠る地域に重複して置いてやる。
それだけで、もう眠りから覚める可能性は大幅に低下する。
怒り、歯ぎしりし、執念が燃えたぎるが彼らが眠りから覚めることはない。
もう彼らも高度な知性体だと判明している。
殺傷することは論理面からもためらわれるので、このまま眠り続けてもらいたい。
提督は笑顔で我々の作業を見守っている。
多少もたつくことがあっても、これからは平和と安全が保証される。
後は異次元生命体の存在と彼らとの友好を、いつ、どのように一般発表するのか?
残された問題は、それだけだ。
頭が痛い問題だが……
我々は太古の昔より邪神と呼ばれて恐怖の対象となっていた。
我々が世に出ると決まって我々を目にする生命体たちは、恐怖にかられて逃げ出したり、恐怖のあまり狂ったり、恐怖に耐性を持つ生命体にあっては我々に攻撃をしかけて一部の眷属や下僕達は殺戮されたりした。
さすがに我々の上位種にある者達は実体がない者達が多いため、そのような虐殺からは逃げ延びたが、それでも相互にコミュニケーションが取れない状態では、お互いが相手を知性体と認識していなかった悲惨な事実があるため双方が相手を大量虐殺しても良心の呵責をおぼえなかったという哀しい事実が続いていた。
いつしか我々の上位種の一部には果て無き争いの果てに双方が絶滅する未来が見えたのであろう、圧倒的な力を持つが繁殖力が無いに等しい我々に対し、この宇宙の生命体たちは、か弱いが繁殖力に置いて遥かに我々を凌駕するものだと判断し我々全ての異次元生命体に対し、はるかな未来に、この宇宙に生まれた生命体たちとのコミュニケーションが成立することを願い永久に近い眠りに付くことを命令する。
遥かな願いであり、ささやかな願いであり、かなわぬ願いであった……
たった一人の、この銀河の生まれではない生命体……
我々に比べて、あまりに弱く、あまりに小さく、あまりに未熟と考えられた生命体の、後で聞いたら命を削るが如き挑戦の賜物として奇跡が起きるまでは。
我々の、上位種ではないにしても中位の下くらいの力を持つもの、永久の眠りについて数億年、世界に対して関心すら失っていた同族に対し、その特異な生命体は、その眠りから彼を叩き起こし怯むような気持ちもなく、その小さな身体からは信じられぬテレパシー能力を発揮し、我々異次元生命体との歴史始まって以来のコミュニケーションを成立させる。
怪物と呼ばれ邪神と呼ばれ、畏怖と恐怖の塊、宇宙の恐ろしさの実現化、様々な名称が我々につけられていた。
それもこれも相互コミュニケーションが全くと行っていいほどに成立しなかったからである。
しかし、この小さき生命体の挑戦により太古からの悲願が達成された。
小さきものの説明によると、我々と、この宇宙の生命体との思考の次元が違いすぎて小さきものの以前に挑戦した者達の脳が、いわゆる焼き切れた状態になってしまい失敗したのだそうだ。
過去に挑戦した勇者たちには敬意を表する。
と共に、この小さきものの存在がなければ、そして、この小さきものが銀河と銀河の遥かな宇宙空間を跳んで、この星系、この星へと来ていなければ未だに我々は果てなき夢の旅路をたどっていたことだろうと考えると、この世に我々を超える存在、いわゆる「神」の存在を確信する。
この小さきもの、優秀な技術者でもあるようで我らと人類(この星を支配する生命体の種の名前)の会話を仲介する装置を作り上げてくれた。
これがあれば、ささやかな誤解はあるにせよ、お互いの殲滅戦などという愚かしい行為は避けられるだろう。
ちなみに人類との共存と友好を望まぬ者達も我が同胞の中にいる。
哀しいことだが、これも事実である。
彼らの主張は、人類を含む、この宇宙の生命体は我々の奴隷となるべきであり、劣っている種である。
よって共存ではなく支配者として我々が宇宙を制覇すべきだと声高に叫ぶ。
馬鹿な、愚かな。
我々の繁殖力は非常に低い。
その代わり、下位の同胞は死ぬこともあるが中位以上は、ほとんど不死である。
そんな我らが、この無限の宇宙を支配し制覇する?
無理難題を言っていることが彼らには分かっていない。
宇宙の一部は確かに制覇できるだろう。
そのまた一部は支配できるかも知れない。
しかし、それからどうする?
未来永劫、支配し続けるなどという愚かな事が可能だなどと考える時点で彼らは狂っている。
だから友好同盟を締結した人類に、こちらから提案する。
「我らの眠りを覚ますために撤去した呪術具を、こちらの過激派の眠りを深くするために使って欲しい」
と。
この提案は実行され過激派の暗躍は影を潜めた(それまでは強力なテレパシーで眠りの中からも邪教信者や狂った科学者や芸術家などに影響を与えていたのだが、呪術具が増やされたことにより、その活動も低下して完全な眠りについたようだ)
現在、我々は人里離れた場所に隔離され一般の人類とは隔絶された場所にいる。
まあ、分からないでもない。
つい最近まで邪神やら怪物やらと呼ばれていた存在が実は知的生命体であり人類と友好関係を結んだ、などと言われてもハイそうですかと納得できるものではない。
これは我が方の過激派と同じようなものだ。
今までの常識を覆すような発表をしても信じるものは少ないだろう。
まあ、気長にやるさ。
数億年の眠りに比べれば数十年や数百年など一瞬だ。
異次元生命体との和平が成立して数年後……
まさか、こんなに早く一般大衆に異次元生命体の存在と、その力、その隣人としての友好を発表するとは想像もしなかった。
「皆さん! 太古の昔より邪神だ怪物だと恐れられ、恐怖の対象となり、なおかつ狂った教祖による邪教の神として人類のみならず人類以前の知的生命体全ての恐怖と憎しみの的となっていた異次元生命体は実は友好的な知的生命体だったのです! では詳細を、ここにおられますジョン教授に語っていただきましょう」
MCが仕切る、特別番組の主賓として私は、ここにいる。
本来ここに座るべきなのは提督がふさわしいのだが、提督には固辞された。
「まあ、他の銀河の住人である私が関わるのは、ここまで。これ以上は、この星の人間がやることだよ。君の双肩に君たちの星の未来がかかっていると思えば、やる気になるだろ? 頑張ってくれ」
そう言われて私が大衆啓蒙番組に召しだされた。
こんなの、体の良い生贄じゃないか!
後で提督には散々文句を言ってやるとしよう。
ここで異次元生命体達を一般大衆に受け入れさせなければ超光速の未来が一気に遠のくこととなりかねないからな。
腹をくくろう。
「ご紹介にあずかりました、ジョン・カーターです。専門は超古代から古代の歴史探究と発掘、探検です。では今回の異次元生命体との友好同盟締結に関する詳細説明を行いたいと思います……」
「彼も見事に自分の役割を演じられるようになったじゃないか。そう思わないか? プロフェッサー」
俺はフロンティア本体に戻っている。
事態が解決したため、フロンティア本体はMー87銀河の外から、この星系の外まで入ってきた。
もちろん騒動を避けるためにステルス機能全開である。
いつの間にか、フロンティアは、また大きくなっていた。
俺が潜入工作してる間、様々な星系からデブリやゴミ、放浪衛星、浮遊小惑星などを拾ってきて自分を大きくしていたらしい。
もう、現在は直径3000km超。
あと少しで目標の5000km超になり主砲を乗せられるとフロンティアは意気込んでいる。
「そうですね、我が主。現地人にしては、かなり優秀な人材だと思いますよ。しかし、どこまで行けるやら……潜在意識にまで刷り込まれているであろう邪神の、いえ異次元生命体の恐怖というものは、そう簡単には拭い去れないと思われます」
「マスター、私も同じ考えです。いくら太古からの誤解が招いたこととは言え、マスターが挑戦するまではコミュニケーションどころか相互理解すら不可能だった種族ですからね。10年や100年で誤解と恐れが解消するとは、とても思えませんよ」
「でも、キャプテン。同じような境遇の不定形生命体である私達さえ銀河系では尊敬の念を込めて扱われるようになりました。まあ長い年月が必要だったことは認めますけれど。異次元生命体も同じ道をたどることにはなると思いますが将来は明るいと思います」
「私も同じです、ご主人様。精神生命体として同感できるところです。全く違う存在形態であっても、どんなに思考形態が変わろうが思考次元が違おうとも、いつか分かり合えると思いますわ」
皆が好意的な回答だな。
まあ同じような存在やら、同じように迫害されてきた(迫害するか迫害されるか表裏一体であり、立場はコロッと入れ替わるものだ)歴史を持つ存在だ。
ここは、もう心配ないだろう。
俺がいた潜入拠点ビルも全ての学術資料も技術資料(搭載艇の設計データ含む)も全て彼、ジョン・カーターに譲渡する手続きは済ませておいた。
まあ超光速のロックは、そんなに早くは解けないだろうが、ゆっくり大衆を啓蒙してもらいたい。
「さーて、と。次、行ってみようか!」
「はい、マスター。ではMー87銀河を離れるコースに入ります」
「さて、次は何処になるかねー。トラブルが俺を呼んでいるぞー」
「キャプテン、これから出発って時に、お先真っ暗みたいな台詞は止めてください。希望のある言葉とか聞きたいです」
「そんな事言われてもな。俺にはトラブルが必要なんだ」
「何を言ってるんですか我が主。無茶苦茶ですよ、その論理」
苦笑が絶えない船内。ステルスも解除してフロンティアは徐々に加速していく。
一方、こちらはジョン・カーター教授。
特別番組(なんと4時間生放送! )が終わって、へとへとになって拠点ビルへ戻ってきたら提督の姿なし。
提督が座っていたデスクの上には分厚い封筒と一通の手紙が。
手紙を開けてみると……
「提督! 私に全て押し付けて自分は一人で気ままに宇宙放浪の旅ですか?! 恨んでやる、絶対に許さんぞーっ!」
と、虚空に向けて吠えるジョン・カーター氏の姿を見た者があったとか無かったとか……
ちなみに異次元生命体との本格的な友好は、まず宇宙空間から始まった。
おっかなびっくりで宇宙船と光速度までの足を手に入れた人類。
宇宙へ乗り出すにも手探り状態である……
はずだった。
「宇宙の水先案内は我々にやらせてくれたまえ。我々は次元断層も越えて来たのだ、宇宙空間なら、お手の物だよ」
そんな異次元生命体たちからの申し出に、これ幸いと乗っかる人類。
それからは安全にして快適な宇宙の旅が始まる。
とある未探検の星に来れば凶暴な暴力衝動に満ちた生命体だらけ……
そんな場合でも異次元生命体達が強力なテレパシーで相手を無力化あるいは平和的な探検旅行だと説得し、生命損失無しの宇宙旅行が実現する。
これは思いがけない副次効果をもたらした。
宇宙旅行に異次元生命体達の恩恵をこうむった者達が口コミで異次元生命体の見た目と違った優しさと力強さを伝え広めていった。
これより数10年後、思いもかけぬプレゼントを、この星の人類は受けとることになる。
「な、何じゃと?! 超光速のブラックボックス部分が解除されているじゃと?! 信じられない……数100年はかかると思っていたのに……」
老いてなお盛んなジョン・カーター学長は、さっそく星系統一政府にロック解除の報告を上げる。
これより数年後Mー87銀河に名を轟かす、誠に奇妙な人類と異次元生命体との共存文明が花開く事となる……
今日も宇宙は平和である。
これをもたらした張本人が知ったか知らずかは別として……