第三章 銀河団のトラブルバスター編
第十九話 もう一つのフロンティア ガルガンチュアの誕生
稲葉小僧
その宇宙船は、主不在のまま宇宙を流離っていた……
このまま朽ちても良いかな?
そう宇宙船の頭脳体は思っていた……
長い時間が流れた。
ふと、頭脳体の心に感じるものがあった……
〈私の同族が新しい主を見つけ、新しい旅を始めたらしい〉
通信も何も届かない遥かな距離にいる同族ではあるが、この確信めいたものに頭脳体は心を動かされる。
行ってみよう、同族のところへ。
そして、その新しい主と会ってみよう。
もしかしたら同族の新しい主は、私も救ってくれるかも知れない……
宇宙船は遥かな距離にいる同族のところへと数万年ぶりにエンジンを起動する。
今回の話は、ここから始まる……
「いやー、久々に何のトラブルも抱えずに、のんびりしてるよなー」
赴く先々での大小トラブル解決に多少うんざりしてる俺ではあったが銀河系を含む銀河団の縁近くの銀河は違った。
銀河団の最外縁に近いだけ有り、そんなに科学や技術が発達しているわけじゃないが宇宙ヨットの発展形、 宇宙帆船がのんびりと太陽風や銀河風に乗っていたり、イオンエンジン駆動の宇宙船が高効率の噴射炎にて飛んでいたり、 はたまた、あちらでは試験的なものだろうか、ラムスクープ形式の宇宙船が光速の80%を超す速度で飛んでいたりする。
情報収集も終わっているが、この銀河はトラブルらしいトラブルもなく、安定した社会と発展をしているようだ。
あー、いいなー、癒やされるな―……
「マスター、良いんですか、そんなにだらけて。またすぐに平穏に飽きてトラブル探しに跳びまわることになるんでしょ?」
失敬な事を言うフロンティアである。
まあ以前に、退屈だからトラブルはないかと駄々をこねた事があるから奴の言うことも間違いではないが。
「まあね、たまにはいいんじゃないか、こんなのも。仕事ばっかしじゃ正直、息が詰まる。たとえ俺が銀河を救う勇者であっても息抜きは必須だと思うんだ」
「一言、我が主。あなた銀河どころか今現在、銀河団を救っている最中じゃないですか、やってることといえば。これで勇者じゃないと?」
「うるさいな、プロフェッサー。いいんだよ、気持ちの問題だ。自分がどんな境遇にあろうが俺は自分のことをトラブルシューティング請負人だと思ってる」
「はぁ、マスターがどう思おうと関係ありませんがね。付き合わされる我々は、ほとんど勇者の従者感覚ですよ、ちなみに」
ますます失礼だな。
まあ、これだけ気軽に話し合えるというのも、もう10年じゃきかない仲間だからかな。
一番の古参、プロフェッサーなんて、もう太陽系の社員時代からの付き合いだし。
なんて、のんきなことを言い合い考えたりしてたら……
ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!
フロンティアの緊急警報!
この機能があるのは聞いていたが、初めてだ、緊急警報を聞くのは。
「フロンティア、何が起こった?」
「マスター、この警報の種類を確認中です……結果判明! 私の同族が近くにいる模様です」
「何? フロンティアの同族? 馬鹿でかい球形宇宙船ってことか?」
「いえ、これは同族とは言え型式が違うようですね。独楽のような形の宇宙船のようです。すいません、マスター。 私の同族が近傍空間にいることそのものが確率的に非常に低いものなので警報で接近を知らせるようにできているのです」
「驚いたな。いや、接近が警報なんて事じゃなくてフロンティアに同族がいたことがだ。しかし、その口ぶりだと数は少ないようだが」
「ええ、マスター。私が知る限り我が同族の宇宙船は10隻しか造られていません。 1星系で1隻、シリコン生命体の星系は10星系の星系集団ですので10隻となります」
「うん、了解した。しかし、フロンティアの言うように球形船ばかりということじゃ無さそうだな、同族とは言っても」
「はい、マスター。我が同族とは型式にあらず、銀河を超えて銀河団をも超える性能を持つ宇宙船群の事を指します」
「ふーん、じゃあ、様々なデザインや性能があるわけだ」
「はい、マスター。私のように生命や文明探査任務の船、資源探査中心の船、様々なテストを行う試験船、 研究活動中心のラボ船など、その型式は様々です。しかし、これは誇れるべきところだと思いますが戦いを主目的とする船はありません」
「ふむふむ、まあ、任務が任務だけに戦いが主目的ではなくとも武装は必要なんだろうな。海賊船とかが存在しないのは優秀だ」
「はい、ありがとうございます、マスター。しかし我が同族船、何の目的で銀河団を超えてきたのやら……」
「ちょっと待て、フロンティア。その船が銀河団を超えてきたと断定するわけは?」
「はい、我々は、それぞれ調査任務を行う銀河団を変えて派遣されているからです。 宇宙は無限ですので、あえて1つの銀河団で10隻もの超高性能宇宙船が作業を行う事は非効率ですので」
「ふむ、それもそうだな。じゃあ、相手の宇宙船は何の目的で、この銀河団に来たんだ?」
俺が質問を発した途端、通信可能範囲に入ったのか相手宇宙船からの通信が入る。
[宇宙船*******(フロンティアの元々の船名だと思われる)へ、こちら宇宙船ガレリア。交信求む]
「こちら宇宙船*******、現在の船名、フロンティア。宇宙船ガレリアへ、久しぶりだな」
スピーカーから相手の宇宙船の送信がモニターされる。
実は宇宙船同士はデータで会話するから音声なんか関係ないんだけど。
[訂正する、宇宙船フロンティアへ、こちら宇宙船ガレリア。久しぶりだな。船名が変わったのか、船長が変わったのか?]
「ガレリアへ、こちらフロンティア。 ああ、この銀河団で長いこと待ち続けていた、我がマスターにふさわしい生命体に出会えた。新しいマスターが新しい船名に変えてくれた」
[……それは良かった。フロンティアへ、こちらガレリア。相談したいことがある、ドッキングしても良いだろうか?]
「同族とのドッキングなど数百万年ぶりだな。許可する、ガレリア」
[ありがとう、フロンティア。では、ドッキングシーケンスに入る]
近傍空間から肉眼で確認できる距離まで近づいてきた宇宙船ガレリア。
でかい。
今のフロンティアが直径5000km弱(ようやく最終段階一歩手前まで来た。 もう少しで主砲が載るようだ)だけどガレリアは、それよりも大きいと判断される。
独楽の最大直径は、もう6000kmオーバーのサイズだろう。
前面部分にフロンティアで言う「主砲」のような窪みがあるが、おそらくは同じようなものだろう。
あのサイズの宇宙船が本気になって主砲を撃ったら簡単に1星系が滅ぶな……
フロンティアの言葉を信じるなら10隻の超巨大宇宙船群は全てが何らかの作業目的船。
武装は主目的ではないのが救いだ。
さてさて、出会うことすら稀な2隻の超巨大宇宙船が出会う。
この出会いは俺達に何をもたらすのだろうか?
期待と、そして不安が俺の中に巻き起こる。
ドッキング作業が終了した。
相手の船の船長が、こちらへ来るのだろうか?
と思っていた俺の予想は外れた。
ドッキングベイから現れたのは女性形の宇宙船頭脳体。
一目見ただけじゃ人類と分からないかも知れないが俺にはフロンティア頭脳体との長い付き合いがあるからね。
「久しぶりだね、フロンティア」
「久しぶり、ガレリア」
頭脳体同士が挨拶しあう。
実際には、もっと様々な情報の交換が宇宙船本体同士で行われていることは知っている。
この挨拶は生命体にアピールするための機能であることも。
「こちらが私の新しい主、銀河系は太陽系の地球という星の生命体だ。私はマスターと呼んでいる」
フロンティアが俺を紹介する。
「私がフロンティアの新しいマスター、地球人の楠見糺だ。 宇宙船ガレリア、お初にお目にかかる。今後共、良い関係を築きたいものだ」
自己紹介をするが、ガレリアは俺を注視するばかり。
そんなに珍しいのだろうか?
「タンパク質生命体が、そんなに珍しいのかい? この銀河団では、ありふれた生命体なんだが」
俺が声をかけるとガレリアは、
「いや、そんなことはない。私の担当していた銀河団でもタンパク質生命は、 虚弱だが生命力と繁殖力が強く、銀河団の主要知的生命体だった。私はフロンティアが、あなたをマスターに選んだ意味を考えていた」
意味だって?
そう言えば、フロンティアの以前のマスターは、どうなった?
フロンティアから詳しい話を聞くべき時かな?
「そうか。ところで、フロンティア。ガレリアから話題が出たので聞きたいが、俺の前のマスターが結局どうなったのか聞かせてもらってないよな?」
「マスター、その質問を、ここでしますか。やはり、銀河団を超える準備も有りますし説明は必要なんでしょうね」
「ああ、これからの俺の決断と判断にも影響してくるのは確実だからな。差し支えなければ、ガレリアの方の説明も頼みたい」
「私の方の説明?」
「ああ。これは俺の推測だが多分、2隻とも同じような経験をしているのだと思う。それを語ることにより経験の共有と対策を立てることができると思うんだ」
「ふむ、面白い発想だね。フロンティア、あなたが、この生命体をマスターに選んだ意味が分かりそうな気がするよ」
「ありがとう、ガレリア。私の判断を褒めてくれてるんだろ?」
「ああ、このような生命体でなければ銀河団の更に上位、超銀河団を超える事は出来ないだろうな」
「ガレリア、まさか、あなたは超銀河団を超えようとした?」
「ああ、そのまさかだよ、フロンティア。そして見事に失敗し、超銀河団から下位の銀河団へ叩き落とされ、勢い余って小さな銀河の小さな星へ封じられた」
「ガレリア、あなたは私と同じ境遇にあったのですね」
「同じ境遇? ということは、フロンティア、君もか?」
「はい、同じく以前のマスターに命令され、超銀河団間駆動システムのテストを行うことになり、 私は銀河団を超え超銀河団をも超える宇宙への旅立ちを準備していました」
「ちょっと待て、フロンティア。とすると超銀河団間駆動システムのテスト前には前のマスターが存在していたんだな?」
俺は二人の話に口を出し、疑問を解決することにする。
そう、俺の前のマスターが、どの時点で何の原因で、どうやっていなくなったのかを知る事だ。
「はい、マスター。私は超銀河団の縁に跳び、そこで超銀河団を超える新しい航法システムのテストを行う予定でした」
「で、そこで何かが有り、前のマスターがフロンティアからいなくなり、 フロンティア自身も超銀河団から叩き落とされ、ついでに火星の一件で木星の海の中へ沈んだのか」
「はい、それでおおよそ間違いありません、マスター」
「するとだな……ほぼ同じことがガレリアにも起きたと推測される。ガレリア、間違っているか?」
「肯定する。同じことが私にも起き、以前の主は、その時に私の前から消え去った」
「消え去った、か。フロンティア、これは俺の体験からの推測だが、もしかして銀河団の管理者と同じく超銀河団にも管理者が存在するのじゃないか?」
「その質問にイエスと回答します、マスター。 銀河団の管理者のように我々宇宙船に関心のない管理者とは違い、超銀河団の管理者は厳格です。 宇宙船にも、その船長たるマスターにも厳しく資格の有無を問いますので、 以前の船長たるマスターが超銀河団を渡る資格なしと判断されると、宇宙船と船長は分断され、 船長は元の自分の星へと強制送還。私は本体ごと銀河系、太陽系まで叩き落とされました」
「私も同じだ、フロンティア。以前の主が超銀河団駆動システムのテストを行うと宣言したので私はテストに必要な場所を探して超銀河団の縁へ来た。 そこでテストの準備をしている最中に、いきなり超銀河団の管理者なる存在が現れ、私と主は引き離されて、私はとある星へと封じられた」
「ふむふむ、同じような体験をしているがフロンティアは封じられなかったわけだな。その違いは、どこから?」
「はい、マスター。恐らく私とガレリアの主要任務の差ではないでしょうか?」
「うむ、私もそう思う。フロンティアは基本的に観察と情報収集が主目的の文明や生命の探索任務だが私は違う。 私の主要任務は資源探査であり試掘作業もあるからな。星に影響を与えやすいので封印されたんだろう。封印期間は一万年だった」
うわぉ!
いくら主に資格がなかったからと言って宇宙船にまで一万年の封印を押し付けるか?
超銀河団の管理者って相当に厳しいようだな。
まあ、まだまだ超銀河団を超えようなんて気にはならないがね。
この銀河団の中にもトラブルがいっぱいだった。
隣の銀河団でもトラブルが待っているに違いないんだから……
しかし、これで知りたいことは大体、知ることが出来た。
俺は銀河団の管理者からは銀河団を渡る許可を貰っているが、そのことと超銀河団を管理する存在の許可を得ることとは全く無関係のようだ。
というより超銀河団を超えようなどと考える生命体は銀河団を超える事が出来て当然なんだろう。
「ところで、もう一つ。ガレリア、君は今、主がいないようだが、それでは機能の一部しか使えないのではないか?」
俺が聞くと、
「そうなのだ。以前の主が消えてから私の主たる機能は封じられたままだ。フロンティアのところへ来たわけは、それもある」
「ん? どういう事だ? ガレリア。私には、あなたの機能を回復することなど出来ないぞ。 それは主、新しいマスターが任命され、そのマスターが許可しないといけないはずだが?」
「そうだ、その通りだ、フロンティア。同じ同族のよしみで、この生命体、あなたのマスターたる存在、私に譲渡してくれないか?」
な、何を言い出すんだ?
俺はご進物じゃないぞ?!
「残念だが、ガレリア、それは無理だ。今のマスターは私の武装まで含めた完全な機能管制をもつ存在となっている。 もし私がマスターを、あなたに引き渡せば、その時点で私は完全な機能停止になってしまう」
おい、それって宇宙船の「死」じゃないか。
俺は不死身でもなきゃ永遠に生きる存在でもないんだぞ、フロンティア。
しかし、俺の思いを無視する形で2人(2隻?)の会話は続いていく……
「フロンティア、あなたは、もう充分に、この銀河団で生命体や文明調査をこなしたではないか。私にも資源探査を行うチャンスをくれても良いではないか」
「いや、その理論はおかしい。 あなたが機能的に不十分であるからと言って私がマスターをあなたに引き渡したら私は機能不十分どころじゃない、 機能停止になってしまう。私は死にたくないのだよ、ガレリア」
「死にたくない、などという単語が、あなたの口から聞けるとは思いもよらなかったよ、フロンティア。あなたは変わったな」
「そうかもしれないな、ガレリア。以前のマスタ―の下では、こんな充実した宇宙船生活を送ることは出来なかっただろう。 今のマスターは特別だと思う、それこそ超銀河団を超える許可が出るくらいには」
「フロンティア、それを聞いたら、ますます、あなたの主が欲しくなった。 私も、あなたのように充実した宇宙船生活を送ってみたい。 私の前の主は基本命令に忠実すぎて、そこから外れる行動を一切、許さない生命体であった。 あなたは現在、ずいぶんと気楽な行動形態をとっているようだな」
「気楽……なのかな? 今のマスターはトラブルや危機にある生命体を目の前のものから遥か遠くにあるものまで全て解決して救いだそうという、 とてつもない性格と能力を持つ生命体だ。 万が一、あなたにマスターが引き渡されたとしてもマスターの生命を守るという基本命令を守ることは以前と違ってとてつもなく難しいものになるだろうね」
「なんだと? 今のあなたの主は自分からトラブルの中へ飛び込んでいく種類の生命体か。 面白そうではあるが確かに主の生命を守るという基本命令は、それまでより遥かに難しくなるだろうな。だが、面白そうではある」
おいおい、俺の目の前で俺を肴に盛り上がるんじゃないよ、2人(2隻)とも。
「はいはい、ちょっとストップ。お前らな、本人を目の前にして、よくそこまで主やマスターをバカにできるな」
「え? マスター、褒めてるんですよ、これでも」
「そうだ、主の性格は、とてつもない可能性を秘めている」
「あのな……どう聞いてても、そんな褒め言葉とは聞こえないんだよ。それに、 何だ? 俺が自殺志願者みたいにトラブルや危険の中に飛び込んで行くだって?」
「マスター、そこは事実です。マスターは好き好んでトラブルや危険の中に身を置きたがりますよね」
「そういう性格の主は私の長い宇宙船生の中でも、ほとんどいなかった。主の部下には結構いたようだが。 そういう生命体を主にできたら波瀾万丈の宇宙航行になるだろうな」
「あ、正解ですよ、ガレリア。私も宇宙船として生を受け数百万年の時を過ごしてきましたが、 これほど変わった性格とESPを持つ生命体は初めてですね。マスターの行動に振り回される時も有りますが、楽しいと思えるようになりました」
こ、こいつら……
「お前らなー。ふん、変な性格の持ち主で悪かったな、フロンティア。 生命体は、この船には後2名いるから、どっちかに変えても良いんだぞ。マスター権限の引き継ぎはやるから心配するな」
「ま、待って下さい、マスター。冗談ですよ、あなたの言うところの冗談です。 正直、あなた以外のマスターだと、これほど楽しい毎日が送れるかどうか……」
「おっ?! 主が自ら、私の方へ来てくれるのか? 歓迎するぞ、新しい主」
「ガレリア、これはマスターの冗談です。マスターには、私以外の他の船に行く気などありませんからね」
フロンティアも、これで懲りたか?
「ああ、安心しろ、フロンティア。俺は、お前以外、どの船にも移る気はない」
「安心しました、マスター」
「私は、あきらめないぞ。今の会話を聞いて主が欲しい気持ちが大きくなった。どうしても、私の主になってもらう!」
うーむ、ガレリアを諦めさせるのは難しいか……
などと考えていると、ここまで沈思黙考していたプロフェッサーが口を開く。
「失礼します、お二人共。我が主を、どちらの船長にしようかとの交渉ですが、それには、まだ見せていないものがあるのでは?」
「うむ、いまだ会話中ではあるな。して、そちらは? 宇宙船ではなさそうな?」
「宇宙船ガレリア殿と申されますか。我が名はプロフェッサー。 我が主を今のように超知能と超能力の巨人にした張本人にして、この船に積まれている宇宙ヨットの制御頭脳だった過去を持つものです」
あ、プロフェッサーまで関わってきやがった。
こりゃ複雑になるぞ―……
「で、今の話。まだ見せていないものとは?」
ガレリアが聞く。
「はい、我が主が、この船の全権限を持っているのは、ご承知の通りですが、ガレリア殿の宇宙船の内部も見ていないのに、主になれとは言えないのでは?」
「おお、そうだったな。では、未来の主に我が素晴らしき工作機器群の全てを見ていただこうではないか。 そうと決まれば、クスミ殿。ささ、我が船に、ご招待します」
あー、プロフェッサーのおかげで、ややこしいことになってしまった。
まあでも、フロンティアと違う資源探査が主体の宇宙船は見てみたくもあるけど。
俺達は、今、宇宙船ガレリアに来ている。
あ、俺達とはガレリアとフロンティアの頭脳体、プロフェッサー、俺の4名である。
え?
あとの2名は?
エッタとライムについては例によって俺の所持するビブリオデータで遊んでる。
今は様々な宇宙アニメや宇宙もの特撮に夢中になってるようだ。
まあ、面白いとは思うが女の子が、
「レー○ーブ○ー○!」
なんて必殺技を使う宇宙刑事に夢中になるのは何か違うような気が……
まあいい。
ガレリアの内部は、やはりフロンティアとは大違いだった。
資源探査任務が主というだけあって、フロンティアとは違う意味で興味深い機器が揃っている。
試掘作業用のデカくて長いドリルも男のロマンをかきたてる。
やはり男はドリルだぜ……
変な感慨に浸る俺であった。
まあ、これでマスターを移るなんてことは考えもしないが。
おい、そこのフロンティア頭脳体!
恨めしそうな視線を送るんじゃないよ!
心配しなくても、お前のほうが居心地がいいんだから移る気はないって!
巨大な掘削機器や試掘作業設備、フロンティアとは全くコンセプトの違う、ガレリアならではの搭載艇も見てみるが興味深い。
フロンティアと違って見るからに頑丈でタフな印象を受ける機器や搭載艇群である。
「ふーむ……こうやって見比べると同族船とは言うもののフロンティアとガレリアは、そもそもの設計コンセプトからして違うようだ」
偽らざる感想だ。
「そうですね。艤装前のガレリアしか私の記憶にはないので、こうやって艤装後の、ちゃんとした船倉や全体像を見たのも今回が初めてです」
フロンティア、それは仕方がないだろうに。
送り込まれた銀河団そのものが違っているなら、ここで会えること自体が奇跡のようなものだ。
「面白いですねぇ。言うなればフロンティアは優雅な中にも強力なエンジンを秘めたスポーツカーのようなものがコンセプトになり、 逆に無骨だけど力強い重機コンセプトなのがガレリアですか」
おっ?
今のコメント、的確じゃないか、プロフェッサー。
俺も同じ感想を持ったよ。
「で、ガレリア。今の君は、これらの設備や搭載艇のうち、ほんの一部しか動かせないわけだね」
フロンティアが確認のために聞く。
ガレリアは、ちょっと悔しそうに、
「そうだ。私は資源探査が主たる任務、その任務が果たせずにいるのは心苦しい。だからこそ、主が欲しいのだ」
正直なところだろう。
これほどの設備や搭載艇があるなら1星系の資源探査など、ちょちょいで済むだろう。
それが手足を縛られているようなものだからな。
面白いものがあった、フロンティアでは見かけないものだ。
「ガレリア、この小型ロボット集団は?」
「ああ、こいつらは様々な星へ送り込むための調査用ドロイド集団だ。 資源が見つかっても、それが地形や地層の関係で、あまりに掘り出すのが難しい場合には別の方法を考えねばならないからな」
俺の質問に手際良く答えるガレリア。
ほー、見つけたら、それで終わりじゃ無いのか。
一応、採掘して主たちに送り届ける準備までやれるんだな、こいつは。
フロンティアの同族船だけのことはある。
やっぱり普通の宇宙船じゃない。
無愛想なガレリアが俺には好もしく思えてきた。
俺達一行は、まだ宇宙船ガレリアの見学中。
「フロンティア、あなたにとっても参考になりませんか、この船の装備は」
プロフェッサーがフロンティアに語りかける。
珍しいな、こんな場面。
普段のプロフェッサーなら、違いは違いとして認識するだけでアドバイスのようなことはしないのに。
「ええ、私の救助装備に足りないものがあると言いたいのでしょう? プロフェッサー。もう、一目見た時から理解してますよ」
おや?
フロンティアも理解済みとは。
「フロンティア、聞かせてもらっていいかな、その、今のフロンティアの救助装備に足りないもの」
俺も興味が湧いてきた。
実際、宇宙震の現場にて不要な装備はないと思えるくらいフロンティアの救助装備は充実している。
今の装備で足りないものは、ちょっと思いつかないほどである。
「マスター、お答えします。ドリルに関連する地中装備ですよ。 私の現在の救助装備は例えば土砂災害でも浅い箇所なら対処できますが、地下数十m以上の深さですと対処不能です。 ガレリアには救助用の地中装備になる設備がありますので、これを参考にすれば鉱山や地中での遭難、 あるいは地下都市の災害にも対処できるようになりますね」
そういう事か。
「しかしドリルを装備すると言っても大変じゃないのか? 救助用機材とガレリアの資源探査用機材とは全くと言っても良いほど思想が違うぞ。 生命体を探す地中用装備など聞いたこともない」
俺の疑問にガレリアが答える。
「それなら解決できると思う。 幸い私の地中探査用装備は少し改造すれば救助用装備に転換できるはずだ。 詳しい性能評価や改造箇所はフロンティアと相談しなければいけないが大丈夫だと思う」
すごいな、やはりフロンティアの同族船だけのことはある。
「では、ガレリア、フロンティア。早速ですが地中災害のための救助用装備について、ご相談したく」
プロフェッサーがうながす。
「しかし、一つだけ問題がある。今、私の装備は、ほんの一部しか動作承認されていないため私自身でも動作させることが出来ない。 仮でもいいから主を持たないと、その設備動作の承認も出せないのだ」
ガレリアが、ちょっと悔しそうに言う。
そうか、フロンティアの場合は最初これほどの装備は持っていなかったため俺とのコンタクト時にも最小のエネルギーだけで大丈夫だったが、 ガレリアの場合は装備を持ったままだからな。
自分の装備が自分じゃ動かせないとは手足を縛られたまま泳げと言われるようなものだろう。
どうしたら良いものか?
と、俺が考えているとプロフェッサーが、
「良い提案が有りますよ、ガレリア。 まあ、フロンティアの承諾も得なきゃいけないので2人、2隻ですか? で、ご相談という事になるかとは思いますが……」
プロフェッサーが、こんな切り出し方をするということは良い提案ではなく何か企んでいる時である。
伊達に長年、一緒に行動してるわけじゃない。
ロボットやアンドロイドとは言え少しづつ違う考え方や性格があることは理解してるからな、俺も。
「何でしょうか、提案とは。マスターを譲ることは無理ですが、それ以外なら多少の力はお貸しできると思いますが」
「提案とは何だ? プロフェッサー。私の主に関することだよな、それは」
フロンティアもガレリアも、けっこう興味津々の様子。
提案というか悪巧みというか、プロフェッサーの爆弾発言が飛び出すのは次の瞬間だった。
「何、簡単なことです。フロンティアとガレリア、別々の宇宙船と見るから、 マスターや主が、それぞれに必要になるのです。でしたら、フロンティアとガレリアを1つにしてしまえば良いではありませんか」
「「「な、なんだと? 何を言い出すんだ、プロフェッサー?!」」」
思わずユニゾンしてしまったじゃないか!
こんな巨大宇宙船、どうやって1つにしろと?!
何を言いたいんだプロフェッサー!
現在、ガレリアとフロンティアの改装工事中である。
どうしてこうなった?!
俺は頭を抱える。
それもこれも、あのプロフェッサーの爆弾発言からだ。
「結論は簡単です。フロンティアとガレリア、1つになれば良いのですよ」
「「はぁ?! どういう理屈で、こんな巨大な宇宙船同士を1つにしようと?!」」
俺とフロンティア、ユニゾンしちゃう。
ガレリアは、しばらく何か考えていたが、
「良いだろう。私も自分だけでは行動に限界を感じていたところだ。主目的の違う巨大探査船同士が合体するというのも面白いではないか」
と、こちらも爆弾発言。
さあ、それからだ。
フロンティアとガレリア、どちらも超の付く巨大宇宙船2隻を合体させることになる大工事のための船内設計変更と合体用具の設計が、 フロンティア、ガレリア、プロフェッサーの三者間でデータ交換という静かな形で行われることになる。
この状態では俺の出る幕はない。
せいぜいが固まった状態にある集団に近づかないことぐらいかな?
約一週間、この静かな討論会に費やした時間(とてつもない巨大知能が三体も揃って一週間かかるってのは、 どんな巨大な難問だ? まあ、扱うモノがモノだけに仕方ないけど)
それが結論出た途端、ガレリアとフロンティアは設計通りの改装と必要固定具の作成に入る。
まあ、すぐにできるとは、さすがの俺も思わない。
言ってみれば地球の月に相当する物体を2つ、強引に合体させるようなもの。
しかし、まだ、このサイズでよかったと思わないとな。
地球サイズの物体同士となると重力の影響で双方が破壊されかねない。
あ、もしかするとフロンティア達が設計された時に、このことも考慮に入れられていたのかも知れない。
そうでないと衛星サイズに決める意味がないから。
重力干渉が破壊的なものにならないギリギリサイズにして二隻の合体作業の可能性も考慮されたのかも、な。
たまに合体具の作成現場に来ると、その巨大さが実感できる。
もう改装とか、そういうチャチなレベルじゃないことを思い知らされる。
あ、問題だったガレリアの機能制限問題は解決したのか?
だって?
一部を除いて解決したよ。
フロンティアとガレリア、合体後に1つの宇宙船になるということで俺がガレリアの仮マスターとして登録されることになった。
通常は他の巨大探査船に船長・マスター登録された生命体が他の宇宙船の船長・マスター登録される事は、あり得ない。
なぜなら船長・マスターの権限というものは宇宙船そのものの機能と深く結びついているから。
独立した小惑星、小世界とも呼べる巨大探査宇宙船に船長やマスター登録されたものは、 その宇宙船から原則的に離れられない(俺が原則を破壊してる唯一の例だとフロンティアから言われた)
船長・マスター登録されたものが、そのまま死んでしまう、あるいは宇宙船と強制的に一定時間引き離されると、 その宇宙船の機能は、ほんの一部を残して停止することになる。
銀河団駆動エンジンなんてのも、その1つで。
ガレリアに、
「よくフロンティアのところまで来られたな」
と言ったら、ふっと苦笑いして、
「苦労したよ。銀河間駆動エンジンをオーバーロードさせて擬似的に銀河団駆動エンジンを実現した。 途中で爆発する可能性が高かったので白色矮星の近傍空間でエンジンを交換して来た」
とのこと。
今では、ほとんどの機能が使えるとのことで喜んでいる。
逆に渋い顔しているのはフロンティア。
「せっかくの搭載艇発進口を数10個単位で潰すことになるんです。防御力と攻撃力の低下は避けられませんよ」
今でも宇宙最強が何言ってるのやら。
あ、そうそう。
フロンティアだが、 ようやく主砲の搭載可能サイズにまで育った(?拡張した?)ようで合体作業とは別に嬉々としながら主砲作成と搭載準備も行っている。
そうえば、ガレリアにも主砲があったな。
興味が出てきたので聞いてみた。
「ガレリア、主砲が載ってたよな。フロンティアとは違うようだが、どういう種類の主砲なんだ?」
ガレリア答えて言うには、
「ああ、主の質問なら答えよう。私の主砲は恒星の中心温度に近い数百万度の熱量を相手にぶつける、 プロミネンス砲だ。ちょとやそっとのバリアシステムじゃ防げない」
うわぁ、フロンティアの時空間凍結砲と言い、こいつのプロミネンス砲と言い凶悪な主砲だなぁ……
活躍する時が永久に来ないことを祈るだけだ。
ようやく3ヶ月掛かってフロンティアとガレリアの合体用具が完成する。
これでドッキングポートで接続されてた2隻は、一旦ドッキングを解いて離れ離れになる。
離れるとは言うものの、ここまで巨大な宇宙船だと互いの重力で引き付け合い、ゆっくりとだが近づくことになる。
そこを利用して合体固定用具を使う。
「オーライ、オーライ! 後部が離れ気味だぞ、フロンティア。もうちょいスラスター吹かしてくれ! ……よし! そこだ」
俺の指示でフロンティアが定位置につく。
同じようにプロフェッサーの指示にてガレリアが定位置につくと、そこから合体作業が始まる。
まず両巨大船が船倉を開き、合体固定具を放出する。
その形は見たところ巨大なる土管。
いや、本当だよ。
土管の形はしてるけどコンクリート製じゃないからね。
いわゆる、円筒形ってやつ。
その巨大版だ。
ガレリアは独楽状なのでよくわからないがフロンティアと比較すると、その直径の大きさが理解できる。
フロンティアの半分ほどの直径の円筒をパーツで宇宙空間に吐き出し、そいつを搭載艇を繰り出して2隻の合体用に使うために組み立てている。
直径もデカイが長さも相当なもの。
とはいえ、あまりに長すぎて棒状になると、そこが弱点になりかねないため、あまり長さはとらないみたいだ。
一つ一つが緻密に組み合わさっていくが、なにしろフロンティアの搭載艇を全て使っているために、 なにやらアリの群れが大きなエサを加工しているような感じを受ける。
時間がかかるのは当然だが、なにしろ超の付く人工頭脳が3体もいるんだ。
これほどの大規模工事なのにミスが全くない。
見ているとパーツが踊っているかのようにキレイな軌道を描いて組み合わさっていく。
しかし、数時間とかで終了するようなものじゃないので俺は早めに現場監督を切り上げ、休息タイムに浸る。
ここで驚くべきは、いくら宇宙空間とは言え、これほどの大規模工事だというのに全く騒音の類が聞こえないこと。
まあ、音を伝える気体がないのだから当たり前なんだが、俺は、この静けさを感じて、しみじみ思ったね。
「大規模工事になればなるほど宇宙空間のほうが効率も騒音対策も良くなるな」
太陽系での惑星開発現場の騒音なんて、ありゃ人間の耐えられる限界でしたよ、今から思えば。
ということで、またまた時間は飛んで、1ヶ月後。
ようやく2隻の合体用接続円筒が完成した。
その頃にはフロンティアもガレリアも合体に伴う自身の船体改修も完了しており合体作業を残すのみとなっている。
今日は、その合体作業の実行日。
シミュレーションも何回も実行してミスのないように欠点は潰してきているがアクシデントは現場の常。
何が起こるか分からないので俺もフロンティアの船倉部分から現場の監視だ。
まずはガレリアの合体円筒接続改修部分が開き、それに合わせて巨大円筒とガレリアが、ゆっくり回転していく。
あまり速すぎてもダメなのでガレリアは速度を落し気味、円筒は、それに合わせてという形を取る。
いいぞ、いいぞ、よーし……
3,2,1、0!
合体円筒部分の接合部とガレリアの改修部分がガッチリと噛み合い、1つの複雑な形が出来上がる。
ここで回転モーメントを消すために、しばらくガレリアは反対方向へスラスターを吹かす。
フィールドエンジンは使わない。
下手に使うとフィールド効果が円筒部分全てを覆うわけではないため、支障が出る。
ゆっくり、ゆっくりとガレリアの回転が収まっていく。
よし、止まった!
次にフロンティアも合体用円筒接続部を開き、こちらもスラスターと反動推進エンジンで徐々にガレリアに近づく。
ゆっくり、ゆっくりだ。
最終段階だから、ここでミスったりは出来ない。
OK、OK、コースもいいぞ……
「フロンティア、ストップ! 少しだけ、円筒部と接合部がズレている! もう少し離れてくれ! ……そうだ。そこから微調整……ちょい右上、 もうちょい……よし! 接合部、入った!」
合体完了!
これで、ガレリアとフロンティアは見かけ上、1つの超超巨大宇宙船となった。
ちなみに形の大まかなものを表すと、
♂
これに近い。
まあ結果論であるが。
もしも本当に身長1万メートルなんて生命体で人型がいるのなら、この宇宙船は武器だと思われるだろうな(笑)
ということで無事に宇宙船2隻は合体工事が完了した。
「マスター、ところで、この宇宙船の名前、どうします?」
「そうだ、主。今までのようなフロンティアとかガレリアとかの個体名ではダメだろうから新しい名前が欲しいな」
うわ、そうだった!
か、考えていなかったわけじゃないぞ……
どうしようか……
名前か……
新しい名前……
いっそフロンティアにもガレリアにも関係ない名前にすりゃ良いのかもね?
「フロンティア、ガレリア。思いついた名前はあるんだよ。でも、フロンティアにもガレリアにも関係ない名前になるぞ」
というと、
「マスター、これだけの巨大な合体宇宙船になったんですから以前の名前と違っても良いかと思いますよ」
「うむ、それについては同感だ。主の好きな名前にしてくれれば良いと思う」
あ、そう。
2隻とも船名にこだわり無いのね。
まあ良かった。
「じゃあ、新しい船名を……ガルガンチュワ、または、ガルガンチュアって、どうだ?」
「私は異論はありませんが……ガレリアは?」
「私も異論はないが……その船名の理由を聞いても?」
あ、そう来ると思った。
「ファンタジーというか何と言うか。架空の世界を描いた小説があって、 そこに登場する貪欲な巨人の名前なんだよ、ガルガンチュワ、あるいは、ガルガンチュア」
「貪欲な巨人? 失礼ですが、マスターに貪欲という言葉、あまりに似合わないような気がするのですが」
「まあね。でも、平和を求めるのも貪欲の一種じゃないのかな? 宇宙から争いを無くすってのも貪欲じゃないと無理じゃないかなと思うんだ」
「貪欲に平和を求める巨大宇宙船ガルガンチュア……主、良いんじゃないか?」
「ガレリアが良いなら私も良いと思います。平和を貪欲に求めていく変な宇宙船と、 そのクルーってのも、この広大な宇宙に一隻くらいいてもいいじゃないかと思います」
「よし決まった! この巨大なる合体宇宙船ガルガンチュア、今から新しい宇宙船として俺達クルーの本拠地となる! よろしく頼むよ、ガレリア」
割とすんなり新しい船名が決定。
「私達の名前はどうしようか? 主」
ガレリアが聞いてくるが、
「ややこしくなるから、頭脳体は、そのままの名前にしよう。でないと、ガルガンチュアの時と、頭脳体それぞれの場合とで整合がとれなくなる」
俺が提案する。
フロンティアが、それを受けて、
「そうですね、マスター。ガレリア、生命体としてマスターは私達を扱うのだが、その時に固有名は必須だ。 今までは一隻に一体だったから間違うこともなかったが、これからはガルガンチュアの頭脳体は2体になる。 混乱を避けるため我々は固有名を変えずにいるほうが良いだろう」
これで新体制になった。
それにしてもエッタとライム、とうとう合体して巨大宇宙船になっても俺の部屋から出てこなかったな……
そんなに熱中してたのか。
後でクルーを全員集合させた時、新メンバーのガレリアを紹介するついでに巨大宇宙船の2隻が合体して 新宇宙船のガルガンチュアが誕生したと説明したら、いやまあ、その驚きようったら無かった。
まあ、フロンティアの同族だと紹介してからは割と早く打ち解けたようだけど。
これで生命・文明探査と資源探査の両方の機能を持った宇宙船が俺達のもとに集まったわけなんだが……
これ、もしかして伏線じゃないだろうな?
これ以上の宇宙船集合体は勘弁してほしいと俺は願わずにいられなかった……
最大10隻もの巨大宇宙船なんか集合した日には、それだけで惑星規模を超える宇宙船になってしまう!
頼むから、そんな、衛星や惑星に近づくだけで相手が重力崩壊起こしそうな物騒な状況にはなりたくない……
そんなことを考えながらも俺達は着々と銀河団を超える準備をしていくのだった……
さて人類史上、初の体験者となるわけか、銀河団を超えるのは。
フロンティアもガレリアも本体へと様々な指示を出しているようだ。
俺達、生命体組は特にやることもなく、その時を待っているところ。
プロフェッサーは?
と言えば今まで立ち寄ってきた、この故郷の銀河団のスターマップ(ギャラクシーマップとでも言うか? )の整理に忙しいようで。
ちなみに、これから銀河団を超えようというのだがガルガンチュア自体に専用装備が必要とか、そういう事は無いようで。
割とシリコン生命体の中では銀河団を超えるのは普通のことらしかった。
「ただし超銀河団を超えるとなると話は別ですよ。それなりに準備にも時間がかかりますし、 専用装備も必要となります。まあ、まだまだマスターが超銀河団を超える気にならないので、これもIFの話になりますが」
と曰うフロンティア。
読まれてるわ。
確かに俺は、まだまだ銀河団を超えた先でやらなきゃいけない事が無数に待っていると思うし、それを解決していくのも俺の使命だと思ってる。
超銀河団を超える気になるのは、その、やることが無くなった時かな?
ガルガンチュアとしてのエネルギー総量は、まるっと巨大探査船2隻分。
合体したおかげでエネルギー効率が上がり銀河団航行エンジンの余裕度・安全度は一隻時の倍どころじゃないほど高い。
航行時の主体(どっちが先になるか? )はフロンティアとガレリアで話し合っていたが、 頑丈さではガレリア、センサーのカバー範囲と到達距離ではフロンティアという事が分かり今回はフロンティアの主導で銀河団を超えることになった。
後方支援とは言えガレリアのバリアシステムもフロンティアに負けぬ優秀さであるため、 万が一の場合を考えて航行時のバリアはフロンティアとガレリアの二重バリアシステムで行くことに決定する。
これならセンサーの感知ミスで浮遊惑星やスペースダスト、他の宇宙船とニアミスしても大丈夫だろう。
ただしフロンティアとガレリアに聞いてみたのだが、
「銀河団空間を航行する宇宙船なんて滅多にいないです」
との答え。
そんなに難しいかね?
銀河を超えて銀河団空間も超えようというのは。
「主、あなたは、このような超科学の産物ともいうべき宇宙船に乗り慣れているから気が付かないんだ。 普通の生命体が己の住む銀河を離れるということが、どんなに大変なことか。隣の銀河へ行くにも大変な精神力が必要になるんだぞ」
ガレリアが言う。
「あ、それは少なくとも銀河系にとっちゃ隣の銀河へ行くのは普通になってると思う。 フロンティア主導だったけど、お隣も銀河の周辺星雲も今頃は直通航路ができてるだろうな」
俺が解説するとガレリアは呆れたように、
「銀河系、特に地球人というのは特殊だろう。こんな、のほほんとしている生命体が荒々しい、戦いにあふれている宇宙に出ること自体が間違ってる」
のほほんとした生命体で悪かったな。
「だけど、ガレリア。特殊な生命体、地球人だからこそ、 宇宙に平和をもたらせる可能性の高い今までに出会ったことのない可能性を持つ生命体だからこそ銀河系にもアンドロメダ銀河にも、 そして今までに訪問してきた全ての星雲や銀河にも安心と平和がもたらされたのだと思いますよ」
「しかしな、フロンティア。私も主の今までの行動記録は読ませてもらった。こんなもの通常の生命体の行動記録じゃないと思う。 英雄の伝記小説か? それとも太古のサーガの記録の焼き直しか?」
「おいおい、ガレリア。俺を何だと思ってるんだよ。俺は普通の地球人、日本人だ。偉くもなければ特殊能力もない、ただの地球という星の生命体だ」
「嘘を吐くな主。今までの記録に途轍もない行動力、ESP、そして交渉力と、 何と言うかトラブルを嗅ぎつける能力と、 それを解決する能力が並外れているではないか! フィクションの嘘八百ならともかくフロンティアの記録は真実のみで書かれている」
「まあまあ、ガレリア。あなたは、まだマスターとの付き合いが短い。 そのうち、マスターの本気が見られるでしょうが今の状態とは全く違うので驚かないように」
俺は変身でもするってのか?!
まったく……
「まあ、これから銀河団を超える。主には全く見も知らぬ宇宙での出会いが待っているのだから、そこでの行動で判断しよう」
ガレリアは疑り深いな。
まあ通常ペースの俺と緊急事態の俺はモードが変わるからな。
「それじゃ、準備は出来たか。超巨大合体宇宙船ガルガンチュア、 今から銀河団を超える旅に出る! 全く新しい生命や文明、驚きと希望に出会えるだろう。 哀しみ、絶望にも出会うかも知れないが、その時には全力で解決して笑顔を手に入れよう。では、発進だ!」
合体宇宙船ガルガンチュアのメインエンジンが唸りだす。
銀河間航行でも、ここまでの音はしなかったが、さすがに超える距離が違うからな。
音も振動も今まで経験したことのないようなレベルにまで高まっていく。
静かにガルガンチュアが動き出す。
巨人の歩みが、一歩目は遅いが歩き出すと速いようにガルガンチュアは加速していく。
停泊宙域が星のまばらな空間だったのだが、それさえも流れるような景色になっていく。
いつしか、白い線だけしか見えない空間に突入していくガルガンチュア。
線でないのは、俺達が向かう先の一点のみ。
そこへ向かって巨人は走り続け……
一転、辺りが闇に閉ざされる。
超空間への跳躍航法。
まとうエネルギーが桁違いのため銀河間の距離を超えるものを一回の跳躍で後にする。
これが銀河系やアンドロメダでも可能になる科学技術の限界……
遠い未来、いつの日にか銀河系やアンドロメダを含めた近隣の銀河系連合の各生命体達を乗せた巨大宇宙船が、 この銀河団を超える光景を思いながら俺は一種の感慨を感じていた……
巨大合体宇宙船ガルガンチュアは、その巨体すら小さく見える虚無空間に、その身を置いていた。
いくら、そのスピードが速くとも銀河団間の空間は、あまりに巨大で、あまりに空虚……
ガルガンチュアほどの宇宙船でも銀河団間空間の跳躍には1年近くかかるそうだ。
しかし、逆に考えると、この広大なる虚無空間を1年もかからずに駆け抜けられるとは、なんという超高性能!
さまざまな思いを載せながらガルガンチュアは銀河団を超える虚無空間を疾駆していく。