第三章 銀河団のトラブルバスター編

第二十話 楠見、太陽系へ一時帰郷する 他、おまけ短編数編

 稲葉小僧

フロンティア……

違った。

今は巨大合体宇宙船ガルガンチュアだ。

ガルガンチュアは今、銀河の間の空虚さどころではない銀河団同士の空間、本当の意味での虚無空間を跳んでいる。

これから1年ばかり、やることといえばフロンティアのお仕事、銀河団空間の観測である。

そう言えばフロンティアの任務って銀河団空間の観測と観察だったんだ、いつも忘れそうになるけれど。

フロンティアそのものが生命体や文明を探すように基本的に造られている。

他の同族宇宙船は造られた時の仕様と目的が一致するがフロンティアだけは何故か違う仕様と目的だった。

ある時、興味がわいたのでフロンティアに聞いてみたのだが自分でも分からないそうで。


「出航時から私の仕様と目的は違っていましたね、そう言えば。 先代の船長なら何か知っていたかも知れませんが、 その本当の目的を知らされる前に超銀河団の管理者によって船長とは引き離されましたから、 私の記憶ブロックには本当の目的ファイルなどは残っていません」


ふーむ……

しかし、シリコン生命体の、あの気の長い種族が、そんな変な仕様の宇宙船を、わざわざ造るはずがない。

シリコン生命体は、フロンティアのデータによれば寿命の長い種族なら億年単位で生きるそうで(ただし、 その生活速度もスローモーなどという範囲じゃなく、本当に地球で言うマントルが生命を持っているような単位になるそうで。 つまりは人間じゃ、その生命活動がわからないって話)

まあ、いつか銀河団を超えて超銀河団すら超えようとする時が来たら、その本来の目的が判明するかも? 

俺は、そんな予感にも似た思いに耽っていた……


《地球人よ。よく、ここまで来たな。お前たちの科学進化、精神進化の速度では、ここまで来るのに、 あと数百万年はかかると予想していたが、とてつもないミュータントが生まれたようだ。 ちなみに、お前という個人だよ。荒々しい闘争本能に支配されがちな地球人類にとり、お前は指標となった存在である。 お前の後に続く地球人類は、お前という指標があるために、もう一段階、進化のステージを上がることとなる》


「あ、銀河団の管理者ですね。お久しぶりです。 はて? 俺が地球人類の進化の指標? そんな大した者に生まれついた感覚も地球上での仕事もしてませんけれど?」


《はっはっは、謙遜するでない地球人よ。自分では気づかないかもしれんが、 お前の行跡と能力、そして太陽系のみならず銀河系やアンドロメダ、そして、その他の銀河に及ぼした影響は計り知れぬものがある》


「そんなもんでしょうかね? わたしゃ、いつものようにトラブル解決と、悲しんでる人を手助けしてあげただけなんですけど?」


《自分では、そんな評価か。まあ自分のことは自分では気づかぬものだがな……ということで、お前に褒美をやろう》


「は? 褒美って……今の状態が褒美というと貰いすぎのような気もしますが……」


《違う違う。その合体宇宙船は、お前が自分で呼び込み作成した、お前だけの宇宙船だ。 これは、お前の運命というか何と言うか……まことに数奇な運命だとは吾も思うがな》


神に準ずる存在に同情されても……


「で? そのご褒美って何ですか?」


《うむ、褒美というのは……故郷の星に短時間ではあるが一度、戻してやれる》


「この状態を変更せずに? 今更、宇宙船と引き離されるのも半身が無くなるみたいで気持ち悪いんですが」


《安心しろ。こちらの時間とは無縁の一時帰国のようなものだ》


「一時帰国、よくもまあ、そんな単語知ってますな。あ、ということは精神だけで飛んでいくという話?」


《そのへんも考えてある、肉体共にだ。つまりドッペルゲンガーとなるが、あまりに遠く離れているが故、問題にならぬ》


「はあ、そんなもんなんでしょうかね……で? どれだけの期間、地球や太陽系にいられるんですか? その滞在費用や滞在時の衣食住は?」


《それだけ瞬間的に、よく思いつけるな、さすが新人類の先駆け。安心しろ、金銭も衣食住も不自由させぬよ》


「期間は?」


《お前が望むだけ。とは言うものの、かなり時空的に負荷がかかるドッペルゲンガーを使うので、いいところ1ヶ月程度かな?》


「分かりました。それだけの期間なら、さよならを言えなかった人や、もう一度逢いたい人にも逢えるでしょう。地球、太陽系へ俺を送ってください」


《分かった。では送るぞ。宇宙船へ帰りたくなったらテレパシーで呼びかけてくれれば、いつでも戻せるからな》


と、テレパシーで言うが早いか俺の精神と肉体を持ったドッペルゲンガーは太陽系は地球にあった……

フロンティアと出会ってから幾年経ったことか……

あれからの太陽系、地球は、さぞかし……

ええっ?! 

俺がびっくり仰天したのも無理はない。

俺がいる地点から見えるのは俺がいた時点の地球文明ではなく、もう銀河文明の主たる同盟者となった太陽系、地球の都市の姿だった……

ロボットカーなど、もうどこにも走っていない。

どうやって人々が移動しているのかと観察してみれば街中にある転送ボックスで瞬時に転送されている。

さすがに、この転送技術はフロンティアでも実用にならなかったが太陽系では実用化されたか……

後に判明したのだが今の時代、 転送システムは銀河系中に張り巡らされており今は大小マゼラン雲やアンドロメダとの転送ネットワークを構築する実験段階に入っているとのこと。

フロンティアの技術の凄さが普通になっていたため、こういう技術開発には疎くなっていた俺だったので新鮮な驚きだ。


今の太陽系、地球の経済事情はどうなっているのか? 

貨幣や紙幣は無くなっているようで。

ちなみに俺が太陽系を離れた時点から数えてみても、もう100年ばかし過ぎているらしい……

フロンティアで後先考えずに人助けばっかりしてたら、もう1世紀すぎたか。

その割に俺やエッタ、ライムが老けたとかいう兆候すら無いのはフロンティアの食事や船内空気に細胞のテロメア不活性化物質が含まれているせい。

フロンティアは遺伝子レベルで長寿命になったとか言ってたが、そういうDNAの瑕疵を修正したのだろうか? 

あいつなら、あり得るな。

マスターが老衰で亡くなるなど私の船では、あり得ませんよ。

とか、にこやかな表情で物騒なこと抜かすやつだから。

まあ俺自身のことはいい。

今は地球事情だ。

カードが一枚、上着のポケットに入っていた。

どうも、これで全ての経済活動に参加できるらしい(つまりは物が買える、ホテルにも泊まれるという事)

銀河団の管理人さんも粋なことやるじゃないか。

試しに昔の会社があった場所に行ってみることにした。

転送ボックスにカードを差し込み、行きたい場所を指定してやると次の瞬間、そこにいた。


フロンティア、違ったガルガンチュアにも、このシステムが欲しい! 

俺は痛切に思ったね。

まあ、このシステムだけじゃなくて様々なインフラあってこその転送ネットワークなんだろうが。

そこんとこは後で考えるとして、だ。


俺は辺りを見回す。

あれ? 

あのブラック派遣会社が入ってたビルがない。

それどころか高層ビル街だったのに低層ビルばかりで圧迫感が皆無だ。

精神的には良いことなんだろうが古い感覚してるエンジニアの俺からすると、 あのビルに入って集団の一員になったような感覚は独特のものだったよなー……

なんて感慨も湧く。

そこらへん歩いてる人に、古いビル街はどうなったの? 

と聞いてみると、


「あんた、よほどの田舎星系から来たみたいだね。 今から70年位前に来た異星人集団の地球訪問事件から数年後には高層ビルなんてものは無くなっちまったよ。 工業系コロニーや農業系コロニー、太陽系の開拓が今までの10倍できかない速さで進んだこともあって、 いつのまにか地球は休暇を楽しむリゾート星のような位置になっちまった。 今現在、地球上で仕事してるのは異星人の観光客相手のガイドか、今でもどんどん増えてる異星や異銀河からの訪問者対応の人たちだよ」


ありがとう、と礼を言い、その場を去ったが、その時に相手が変な表情をしていた。

(ちなみに本人は聞いていないし、その場を見ていないのだが相手の呟きを文章にしてみよう)


「あれ? 今の男の人、どこかで見た憶えがあるぞ? うーん……どこだったけ? 有名人? とは言え、 インフォメーションやスクリーンに出てくる俳優や声優じゃないだろうし……うーん、 歴史に名を残した人だっけ? でも武将じゃない…あ! 思い出した! 人類初のファーストコンタクトした人、 今でも古代の巨大宇宙船で銀河系どころか、宇宙の果てで活躍してる伝説の日本人! でもなー、 似てるけど、あの3Dホロの映像と、そっくりだったぞ? 百年前の人間だぞ? いくら何でも不老はあり得ないだろう」


ちなみに、この人物、ギャラクシーネットにて(インターネットの氾銀河版。 今では大小マゼラン星雲やアンドロメダも一部、サービスの恩恵を受けている)この疑問を発したところ、


・(笑)笑笑。本当に不老だったら、どっかでバンパイヤ種族と交わった? (笑)


・それ、あり得るぞ。伝説の男だったら、どんな種族とも出会ってるはずだから


・それはないと思われ。いくら超高性能の宇宙船とは言え今の銀河系に来たら、 どんなステルス施してても見つけられる。それがないというのは、身一つで来たってか? 


・いくら今までに出現したことのないエスパーだった人物だとは言え銀河系や星雲を、 どれだけ通過してると思ってるんだ? 今、アンドロメダの周辺銀河からも地球へ訪問者が来てるんだぞ。当然、宇宙船は、その先へ行ってるじゃんか


・そこまで行くと、もう小説すら飛び越して、コミックの世界になるよね。 どんだけのエネルギーが必要になると思ってるんだ? もう、恒星1個の出力すら超えたテレポートになる。事実なら人間の姿をした宇宙怪物だよ


えらい言われようである。

書いた当人もネタにされた当人も。


地球で俺がもう一つだけ行きたい場所があった。

俺が暮らしていたアパート。

高層ビルの件があったので、そんなに期待はしていなかったが……

驚いた。

俺が住んでいた頃でもオンボロアパートだったが、一応は建て替えたようで。

管理人も代替わりしていた。

俺は、ずいぶん昔に、ここが建て替えられる前に住んでいた者で懐かしさのあまり見に来てしまったと伝える。


「まあまあ、ここの昔を知ってる人は、もう何人もいなくなったんですよ。 それにしても、あんたさん、お若く見えるねー。もしかして、 最後のコールドスリープ船の乗員だったのかい? あの船に乗ると往復で最長10年ほどは年をとらないそうだから」


「いえ、コールドスリープは体験しましたが俺の船は超光速船ですよ。 実は遠いところから一時帰国で帰ってきてまして。また、しばらくしたら遠いところへ出かけないといけない身なんです」


間違ったことと嘘はいってないよな、うん。


「まあまあ、 それじゃアンドロメダ銀河とやらとの直通航路を作ってるお方ですかね! もう最新で最先端の技術者なんて 引く手あまたでしょうに! 亭主元気で留守がいい、この標語通りの人だわ! 家にも娘がいるんですが、どうですか?!」


うわ、押しが強いな、このオバサン。

悪気はないんだろうが……

俺は新しい建物を見させてもらって昔の管理人さんの位牌に手を合わせる。


「まあ、今の若い子たちは先祖に手を合わせることもしないってのに。お兄さん、若いのに古い風習を知ってるねー」


「まあ、ね。親が古い人間で小さい頃に躾けられましたから」


オバサンの親(前の管理人さんの子)が、俺が仏壇に手を合せていると感心したように言ってくる。

俺、実は貴方より古い人間なんです、と言えればね……

さて、これにて地球に知り合いはいない(もう同級生も仕事の同期も全てが墓の中)

火星や木星も行ってみたいが、まずは地球観光かな? 

様々なところへ行ってみようか。


俺は今、火星にいる。

地球から火星まで一瞬……

転送網はカイパーベルトを抜けた先にある太陽系最遠惑星にまで届くようだ。

もう太陽系に気軽に行けない惑星は無いようで転送ボックスに太陽系の内線転送ネットワークとして水星から最遠惑星までの希望転送先があった。

だからといって、お隣へ出かけるみたいに水星へ行けるかってーと……

行けるようなんだ、これが。

遮熱システムが有効的に作用する一部の地域が有り、そこへ観光目的で行く事ができるようだ (他の地域へもいけるが、それには遮熱スーツやらの専門装備が必要となる)

ちなみに俺が今いる火星、そりゃもう見事に青空が広がる。

テラフォーミングも完全に終了して数十年、目の間には冗談のように火星の運河が広がっている(空を飛ぶよりも運河で物資を運ぶほうが確かに省エネ)

地球より重力が小さい火星では老齢となっても身体が動かしやすいので地球よりも過ごしやすいと熟年世代が多数、移住してきたようで。

俺の顔を見ては、

はて? 

どこかで見たような顔なんだがなー? 

と、いぶかしがる人々や、ぶしつけなのは申し訳ないがと単刀直入に聞いてくる人たちもいる。


「まことに申し訳ないのですが、あなた、ご先祖に伝説となった日本人がいませんか?」


質問は定形。

で、俺の回答も定形。


「はあ。親兄弟や先祖に、そんな有名人はいませんよ。おそらく他人の空似でしょう。日本人は同じような顔ですから」


というと何かのジョークとでも思ったのか、ハッハッハ! と笑いながら、いや済まなかったね、と言って去っていく人たちばかり。

まあしかし、俺のやった仕事も開拓史の一部(火星開拓館という歴史展示館が有り、 そこでは俺の仕事が重要事案として取り上げられていた。 うむ、これだよこれ。裏の仕事が時たま取り上げられて後から賞賛される。気持ちいいいよね)になり、紹介されているのが爽快な気持ちになる。


次、木星。

ここでは、さすがに俺の存在が大きく取り上げられていた。

後の異星人集団訪問にも関わっていたことが分かると、いっそう人気が上がったようで、 カリスト(イオ、エウロパ、カリスト等の衛星群の首都衛星である)の宇宙港には俺の銅像が建てられていた。

恥ずかしいから、やめてほしいのが本音である。

土星や海王星まで行こうかな? 

とも思ったが、あまり意味がないので地球に戻る。

現在のニュースを地球のホテルで見ていると、


”今週の訪問者達”

という、いわゆるB級の下世話なニュースを扱う番組が目に止まる。

これは様々な星雲、異銀河からやってくる生命体たちを取り上げる番組であるが、そこに興味深い生命体が映っていた。

獣人だ。

おやおや、そうすると、あの仕掛けは上手く働いてくれたと言うことか。

彼らの星間帝国が銀河共同体の一員となり、そこから銀河間駆動の開発に成功して想像の彼方だった銀河系の太陽系、 地球への訪問を成功させるまでになっていたのか……

自分のトラブルシューティングの成功例を見せてくれたとは、俺は幸運なのかも。

その前の、あの原水爆駆動の世代宇宙船の文明も、いつかは地球訪問しに来てくれたら嬉しいんだがなぁ……

おっと! 

この番組、過去の回も合せてデータチップに録画してガルガンチュアに持って行くことにしよう。

みんな喜ぶぞ。


でもって、お次はガルガンチュアでも成功していなかった転送機のことについて。

ネットワークで検索すると詳細な基礎理論からエラー訂正とその補助理論まで全てチップに保存。

こいつが実現できれば合体宇宙船の運用上、極めて有用なものとなる。

あ、ついでに超光速FAXも。

少々、値は張ったが実物を買い(当然2台。1台でどうしろと? )仕様書とマニュアルを覚えこむ……

まあ、後でフロンティアに魔改造してもらう予定。

超科学の産物とは言え、やはり開発までやろうとすると人員が足りない。

しかし、5人以上のグループではトラブルシューティング時の動きが遅くなりかねない……

大量のマンパワーで解決ってのも悪くはないが、やはり俺は少数精鋭主義論者。

役に立つものは取り入れるが、無くてもなんとかするのが現場を任された者の責任だろう。

ということで、このネットワーク端末の超小型化したもの、そして超光速化の実験中だという音声通信セットを購入。

ガルガンチュアへの土産がどんどんと増えていく。

何とかなるだろう、なにしろ相手が銀河団の管理者なんだから……

という先入観を展開し、様々な小物やデータを買い漁る(このカード、どれだけの資金が入っているのやら…いまだに底が見えない)


2週間後……

いい加減、太陽系にも飽きてきた。

ガルガンチュアに帰っても、やることはないんだけどね。


「管理者、もう里帰りは充分だ。ガルガンチュアに戻りたい」


そう呼びかけると……


《そうか。では、この銀河団には当分、戻って来られないからな。面白い地球人よ、さらばだ!》


俺にゃ、あんたのほうが、よほど面白いと思うけどね。

一瞬後、ガルガンチュアの船内に戻ってきた。

2週間ぶりとなる、プロフェッサーやフロンティアの顔。


「ただいま」


と言ったら、


「何を言ってるんですか。今まで、これからの方針を話し合ってたでしょうが」


と言われた。

それはドッペルゲンガーだ。

俺と同一人物ではあるが……


「まあまあ、聞いてくれ。土産も沢山あるんだから……」


俺は話しだす。

地球への里帰り、最新技術の成果と今の太陽系の状況を……

次の銀河団への道のりは、まだまだ。

しかし俺達の希望と情熱は、いまだ冷めぬ。

新しい生命、新しい文明、そして新しいトラブルを探して解決する! 



おまけ、その1銀河のプロムナード「楠見に続く者たちの悩み」


僕は超能力者だ。

いわゆるエスパーという人種になるんだけど突然変異とか先祖帰りとか、そういうことじゃない。

僕が生まれる10年ほど前だけど超能力者として生まれる子供の比率が急に増えたらしい。

学者さんとやらの解説だと、これは人類が進化するって兆候らしい。

まあ僕らの前に先駆者としての偉大なエスパーがいて、その人が人類の精神的な成長と進化の可能性を広げたらしいんだけど……

その人って今は地球にも太陽系にも銀河系にも、いない。

今は銀河系を飛び出して、この銀河団も後にしてるようだって聞いたけどね。

まあ、そんな偉大すぎるご先祖様(生きてる人に「ご先祖様」ってのは変だけど、こればっかりは仕方がない。 僕らには200年位の寿命しか無いけれど、彼の人の寿命は数万年に及ぶらしいから)に申し訳ない子孫のエスパーの一人としては、


「あまりに重いですー!」


の一言を送りたい。

だってさー、あの人、たった一人で太陽系も銀河系も、その他の星雲、果ては、この銀河系を含む銀河団も平和と安全の宇宙空間にしちゃったんだよ。

僕ら太陽系エスパーの子孫たちが銀河系のみならず、お隣の大小マゼラン雲やアンドロメダ銀河、 すこーし離れたアンドロメダ周辺銀河連盟の獣人たちにまで多大なる期待を背負わされちゃうんだもの。

太陽系人類だって分かると、どこでも、いつでも誰でもが異口同音に僕らに聞いてくる。


「フロンティアは、いつになったら帰ってくるんだ?」


「伝説の地球人は、いつになったら戻ってくるんだ?」


僕らにはわからないよ。

だって彼の伝説の地球人が太陽系を飛び出したのは、まだ太陽系人類が、


「宇宙にいる知的生命体は人類だけなんじゃないか?」


なんて真面目に考えてた頃、太陽系しか開発と探検の対象にならなかった頃、太陽系人類が恒星間跳躍航法を知らなかった頃なんだから。

その時から数えると、もう、200年は過ぎてるんだよ。

僕ら子供のエスパーが銀河系に社会見学や修学旅行、大人になったら研修旅行や出張で遠くの星に行っても、どこでも大歓迎される。

確かに僕ら太陽系エスパーの技術者集団は正確にして素早いトラブルシューティングと対応がウリだけど、それでも、この歓迎ぶりは変だよね。

一介の技術者が派遣されてきたに過ぎないのに星系の偉い人たちが視察に来るくる! 

一仕事終わると上司どころか星系のおえらいさんたちから歓迎会に出席要請され、仕事が終了すると送迎会に出席要請される始末。

僕ら伝説のトラブルバスターじゃないって、いくら言っても聞き入れてくれない。

果ては、どのようにトラブルを解決するのか秘訣を聞かせてほしいと懇願される……

トラブルシューティングってのは秘訣とか秘密があるわけじゃない。

書類をじっくりと精査し、現場へ何度も行って確認し、そして、過去の事例と首っ引きで解決方法を探る。

これしかないんだよ。

特定の人物や秘訣で解決するようなものじゃない。

それを伝説の地球人は、とてつもないスピードで、どんな難問題もスパスパ解決してくれるんで超常的じゃない普通のエキスパートたる僕らは困るわけ。

送れるものなら思念波の大波として伝説の男に送ってやりたいよ……


「あなたのおかげで、僕ら後発のエスパー技術者集団は困ってるんだー! トラブル解決は時間がかかるんだと教えてやってくれー!」


「ハックション! ハックション! おっかしいな? 体調に異常はないんだが……誰か、噂でもしてるのか?」


「マスター、銀河団空間で何をブツブツ言ってるんですか?」


「主よ、あまりに何もない空間が続くので調子が狂うのか? 我が工廠での新型合金の開発作業でも見るか?」


「いや、大丈夫だ。なんだか、すごい恨みの念を感じたよ。気のせいだろうとか思うが……」


銀河団も含む宇宙は今日も平和である。

一部のエンジニアには、そうでもないようだが……



おまけ、その2銀河のプロムナード「もしかしたら……の物語」(これは、小説家になろう、でクリスマス用の話として書いたもの)


これはIF(もしも)のお話。

もし巨大宇宙船が木星の海に沈むこと無く地球人との邂逅がなかったら? 

これは、そんなお話。


この状況、どこで、どう間違って、こうなったのか? 

まあ、ここで愚痴ってもしかたがない。

俺が、ここを持ちこたえられなきゃ、太陽系は得体の知れない異星人に占領されちまう……


あれは、そう、俺が木星へ宇宙ヨットで出張に行った時のこと……

木星の開拓団がトラブル続きで困っていたところへ、俺が到着した。

トラブルの原因はサボタージュ。

とは言え今の太陽系統一政府に反抗するような人間など、いるわけがない。

これでも太陽系統一政府は長い人類の歴史の中でも最良にして最善の政府である。

最初は過去の政府において甘い汁を吸っていた寄生虫共の反抗もあったようだが、 そんなものは太陽系人類の圧倒的な支持と信頼、そして軍備、特にエスパー、 サイボーグ、超天才の三柱に支えられた軍事作戦の圧倒的成功により消え去る。

その消え去ったはずのゲリラの生き残りでもいるのか? 

最初は俺も疑った。

しかし、それは杞憂だった……

ゲリラの仕業であってくれたほうが、よほど良いという結果にはなったが……

現場へ行き、書類を精査し、現場の声を聞き、また書類を精査する……

トラブルは根が深そうだった。

俺は、たまたまセンサーが捉えた、ある磁気異常のポイントに興味を持った。

そこが中心と仮定すると、このサボタージュの勢力範囲が円の形になると気付いた為だ。

俺は、そのポイントへ向かった……


ポイントには到着したが当然、メタンの海が広がるばかり。

俺はメタンの海へ飛び込む決意をし、木星開拓団本部へ連絡してから、メタンの深海目指して特製探検船を海へ沈める。

磁気異常をもたらしている物? 

は、このポイントの海底にあるようだ。

俺は探検船を慎重に深海へ向かって沈めていく。

まだまだ長距離センサーも目的物を捉えられない。

もしかして、ごくごく小さいものなのだろうか? 

しかし、そんなミニサイズのものが、こんな磁気異常をもたらせるとは思えないし、サボタージュの原因となるような力場も作れないだろうが……


おっと! 

木星特有のメタン海の大渦が付近を通ったようだ。

特製の探検船で大抵の木星現象は持ちこたえられるが、あの大渦だけは。

船は大丈夫でも、巻き込まれたら抜け出すのに苦労しそうだからな。

ずいぶんと深く潜ったが、未だに物が発見できない。

もしかしたら、海底のメタン堆積物の中に埋もれてしまったのか? 

そうであるなら、発見は困難となる。

慎重にセンサーを短距離から近距離、付近、と絞りながら探索する。


見つけたようだ。

探検船の真下で反応あり。

やはり、メタン堆積物の中に埋もれているようだ。

マジックハンドを伸ばし、慎重に堆積物を取り除いていく。

50cmも掘っただろうか、金属反応がある。

爆発物かも知れないので慎重に掘り起こし、小さな金属キューブを取り出す。

ありとあらゆる検査を、できるもの全て船外にて行うが、爆発物では無いようで。

一応、この発見、木星開拓団へ報告しておく。

団長いわく、


「本部へ持ち帰ってくれ。現場での詳細調査は無理だろう」


そう指示を受けたので、この小さな金属キューブ、持ち帰ることにする。

俺の勘ではあるがサボタージュ騒動は、これで終了するだろう。

木星開拓団の本部へ帰投する。

探検船を返し、団長室へ。


「失礼します、開拓団長。トラブル対策で地球から出張してきました、楠見糺です。メタンの海底で見つけたものを持ってきました」


返事があったので入室する。

団長は新しい発見を喜んでくれる。

俺は個人的な意見であると前置きしながらも、このサボタージュ事件、これが動作停止すれば無くなるでしょうと意見しておく。


「動作停止と君は言うが、これ動いているのか? そもそも動力や放射機関、 放射しているフォースフィールドの種類も分からんだろう。それに……これ、 どうやって分解するんだ? ネジも何もない固体としか思えない正六面体のキューブだろう」


「それは私にも分かりません。木星のメタンの深海の底に、ずいぶん長く埋まってたようで掘り出すのに苦労しましたよ。 しかし、こいつが磁気異常とサボタージュに関係しているのは間違いありませんね。長く、この物体を見つめていると頭痛がします」


団長は根を詰めすぎて疲れがたまっているんだろう、ゆっくりと休みなさい、と言ってくれる。

俺は、それに感謝しながら、くれぐれも短気に逸って(はやって)キューブを破壊したりしないようにと忠告する。

人類の知らない未知の生命体の遺産、あるいは太古に木星にやって来た異星人の落とし物かもしれないので調査は徹底的にやるべきだが、 破壊したり一面を剥がして中を確認するなどの行為は止めたほうがいいですよ、とアドバイスしておく。

団長室を辞して医務室へ。

あのキューブと接していると本当に頭痛がしてくる。


頭痛薬を貰って飲み、ついでに食料を大量に買い込む。

なぜかって? 

今からやることがあるから。

食料のついでに糖分も大量に買う。

もうわかったかな? 

そう、今から俺は脳領域を最大限に開放しようとしてるんだ。

今の状態では脳領域を10%も開放していない。

やろうと思えば俺は脳領域を90%以上、活性化して開放できる。

ただし脳のエネルギー消費が半端じゃないので普通はやらない。

なぜ、今やろうとしてるかって? 

虫の知らせってやつかな? 

何か良くないことが起きる予感がビンビンするんだよ、頭痛と共にね。

俺の仕事ぶりが轟いているのか、ここ、木星での俺の住居は、なんと広めの個室! 

ワンルームじゃんか、とか言うなよ。

開発、開拓中の惑星や衛星で個室を持てるなんてのは、よほどのエリート扱いなんだぞ。

どっさりと買い込んできた糖分中心の食料群を、俺は自分の回りに広げ、おもむろに食べ始める。

それと同時に脳領域の開放を、徐々に現状より広げていく。

うむ、理解力と推理力、そして想像力が見る間に広がっていく。


ピン! 

回答が閃く。

今のままでは危険だ! 

俺がオブザーバーでいなきゃダメだ! 

俺は走りだす。

両手に水ようかんと、ういろうを持って。

多分、俺の走りはオリンピック選手より速かったと思う。

適正なフォーム、適正な力加減、適正な蹴り足と、おまけに超天才の脳が組み合わさって人間の出せるスピードを遥かに上回っていたと思う。

あっという間に調査班の部屋の前。

挨拶もそこそこ、俺は、


「木星の海底で発見されたキューブ、どこにありますか? 危険です!」


あっち……

と、俺のいつにないマジな発言と顔色で大変な事態になったと思ったのだろう職員さんの指先にある扉へ直行! 

指示も無しにドアを開け、中へと入る。


「君、今は大事な作業中だ。危ないから外へ行きなさい」


との班長の指示も耳に入らぬ俺は、今まさにキューブに対して照射されようとしている切断用レーザーをサイコキネシスで曲げる。

ついでに電源ケーブルを切断しておく。


「おい! いくら発見者だろうが我々の調査の邪魔をするなど……」


問答無用! 

サイコキネシスの見えぬパンチを浴びせて、レーザーを発射しようとしたエンジニアを昏倒させる。


「ふぅ……危ないところだった。皆さん、私が団長にアドバイスした言葉、 聞いてますよね? 破壊したり一面を切って中を確認する事のないように、 とアドバイスしたはずです。それを皆さんは無視した。危うく、こいつの警報装置に引っかかるところでしたよ」


ひと安心したので俺は調査班に説明を行う。


「まず、この代物が木星の海底に置かれた事自体が一種の罠です。 これを発見できる文明や生命体は、かなりの技術力を持っていると断定できるでしょう。 そしてキューブを破壊したり一部でも切断したりすれば、そこで最終警報が轟く事になります。 なぜか? こいつは通常の手段での破壊や切断は出来そうもないですからね。 そうなるとレーザやメーザなどの超高熱デバイスを持つ文明だと言うことになるからですよ」


俺の説明に納得行って無さそうなリーダーが尋ねてくる。


「で? 君は、どうやってこいつを無力化できると思うんだ? 君の言う通りレーザやメーザ以外の手段では、 この代物には手が出ない。X線すら通さんのだ、何でできているかも分からないんだ」


その質問には、こう答えるしか無い。


「たぶん技術的手段で、こいつをどうにかした場合、こいつの持ち主が戻ってきて最悪、 太陽系人類はリセットされますよ……こいつを無力化する方法は、ただひとつ。 恐らくですが99%以上の確率で間違いなく精神的なものでしょう」


「精神的なもの? どういう意味かね?」


「言葉通りです。テレパシーやサイコキネシスなど、そういったESPのエネルギーで止まると確信します」


俺の言葉で調査班に団長が加わり、皆の見ている前で俺がキューブの無力化作業を行う事になった。


「始めてくれ」


団長の言葉で俺はまずテレパシー波でキューブへ停止命令を発する。

しばらく待つが何も変化は起きない。

次にサイコキネシスを用いて、キューブの中にあるだろうエネルギー発生器を無力化しようとする。

サイコキネシスの細い針のようなイメージを用いて、エネルギーの供給点を探っていく……

と、微妙ではあるが中心部にエネルギーの差があるポイントを発見! 

他にも無いかと探るが見当たらないので、そのポイントを接合点らしきところで剥がす。

ビンゴだったようで接合点を剥がしたところで頭痛がおさまる。


「無力化、完了です。あとは切断しようが破壊しようが、お好きにどうぞ」


俺がエスパー、それも宇宙軍レベルどころじゃないことが知られてしまったな……

しかし宇宙戦争の引き金を引くよりはマシだ、そう思っていた。


あの時はキューブが無力化されて、それを感知する別のセンサーが、まさか木星外の宇宙空間にあろうとは俺も予想していなかったんだ。

地球人の超天才よりも宇宙人の文明のほうが用心深くて賢かったわけだ、つまり。

俺は、まんまと騙されたわけ。


いやー、それからの奴ら「異星人」の打つ手が速かったこと! 

俺が例のキューブを無力化してから一ヶ月も経たないうちに大軍団で辺鄙な太陽系なんかに押し寄せてきたもんだ。

あっという間にカイパーベルトの向こうにある太陽系最遠惑星が占領され(この時まで太陽系の科学者たちは、 この惑星の存在を疑っていたんだが、占領されて初めて太陽系惑星だと認定した……遅すぎたね)冥王星、 海王星、天王星、土星まで、それこそ抵抗すら感じずに、ずんずんと外惑星系を占領してきた。

抵抗らしい抵抗が始まったのは、やはり木星から。

ここには10万を超える人員と、それに加えて強力な惑星開拓用重機(初期の知能付与済)が、 ごまんとあったので、立て篭もり戦術ではあったが、なんとか火星への進出は食い止められる。

とはいうものの最前線が崩壊するのは明らかで保たせられるのは数日から10日前後位だろう。

面白いことに機械類や武器の抵抗防御よりも彼ら異星人には「テレパシー」での呼びかけと停戦勧告が効いている。

彼らの軍団も一枚岩とは行かないようで、テレパシーコンタクトに応じようとする勢力もあって内部紛争を起こしているようだ。


ちなみに俺はどうなったかって? 

木星開拓団の総意により避難民と一緒に地球へ送り返されてる途中。

俺も木星開拓団と共に戦うつもりだった。

でも、


「楠見くん、君が人類史上でも最高クラスの超常能力の持ち主だということは良くわかっている。だからこそ、 君は最終防衛に参加するべきだ! ここで、緒戦で死ぬような人物ではない、人類のために太陽系の明日のために今は辛抱してくれ!」


と、団長自ら説得、否を言うべき場面じゃないよね。

俺は宇宙ヨット(様々な改造済なので、これは手放せない)と小さい手荷物一つで大型貨客船に乗る。

ここでも団長のはからいで俺は特別待遇にされた。

通常はバカ高い手荷物料となる宇宙ヨットも無料で積み込んでくれたし、部屋も小さいながらも個室。

普通は、こういうのはVIP待遇なんだが。

非常時だからこそ可能なことかも知れない。

ただし俺の情報は太陽系情報省防衛局へ直行とあいなった(こりゃ、地球へ到着してからが恐ろしい……特に長官は俺の秘匿身分での上司だし)

とりあえず俺はコールドスリープには入らず船長と相談の上で戦術アドバイザーなる臨時職に就く事になる (異星人対策だとさ。異星人のことを、この船の中で一番わかっているのは俺だから)

木星開拓団が悲壮な決意で時間稼ぎしてくれているため、それを利用して大型貨客船は距離を稼いでいく。

船長の、


「圧縮空間ゲートは、どうする? 機構を破壊して、少しでも足止めするか?」


との相談には、


「止めておいたほうがいいでしょう。ゲート機構を初めから造り直すとなると、 とんでもない時間と費用がかかります。異星人が勝つか太陽系人類が勝つか、どちらにせよ絶対、将来に必要になる機構ですから」


そう、あのナチス・ドイツのたった1つの社会的利益とは高速道路だったという言葉もあるくらいだから。

戦争後のインフラは少しでも残せるようなら残したい。

できるなら最新の木星状況を知りたいのだがメディアの関係者も全て、 この帰還用貨客船につめ込まれているため、残念ながら戦闘状況は知ることが出来ない。

そんなこんな、やきもきしながらも大型貨客船は地球へ向けて最大速度で飛んでいるところ。


ゲートも抜けて火星もパス。

ちなみに俺達が知る最新状況は通信で火星にも地球にも既に送信済み。

ゲート管理官(ロボットではない人間の管理官)には、できるなら逃げろよと言ってある。

責任感の強い管理官らしいので逃げるかどうかは分からんが……

ゲートの防衛機構って対宇宙海賊くらいしか想定してないんで異星人相手に戦闘となったら一瞬でお陀仏だ……

通常、エネルギー節約のために一月半以上掛けて木星ー地球の距離を飛ぶ宇宙船だが 今回は非常時のため半月足らずという驚異的な日数で地球圏ステ―ションへ到着する。


ステーションへ到着しても、ゆっくりなんかしてられない。

避難民は勿論、俺も大至急、太陽系情報省防衛局へ出頭せよと命令を受けている。

現在の時点で全く正体も何も分からないという異星人の情報を直接報告せよとの長官のお達しだ。

命令書を見せて、悪いが俺だけ特別扱い。

入国ゲートもパス、ロボタクシーも緊急時なので無料。

最短距離を使い警察権力まで総動員して、俺一人を警護・案内するために通常交通の大渋滞を引き起こす(数分間だけど)

そうまでして緊急でやってきた防衛局の建物。

俺は覚悟をして、その大扉をくぐる。

最上階(長官室)へ直通エレベータで向かうと、そこに俺の本当の上司、太陽系情報局長官が待っていた。


「お帰り、楠見糺君。いや、情報員ナンバー7と呼ぼうか?」


久しぶりだな、ナンバー名で呼ばれるのも。


「長官、普通に名前で読んでください。番号呼びは好まないので」


俺の意見に長官は、


「よかろう、楠見くん。ところで、この度の異星人侵略艦隊のことなんだがね」


さっそく最新情報を手に入れてたな。

さすがに太陽系情報局だ、やることが早い。

どこぞの政府系事務局や**課などとは基本が違う。


「最新情報は私の方こそ知りたいですね。木星を逃げ出してから半月、何の情報もなくて焦ってますよ、正直」


俺は本音を言う。

勇気ある木星開拓団の人たちを犬死にさせて無きゃ良いんだがな。


「いや、それなんだがね。君の心配した事態にはなってないんだよ、楠見くん」


はい? 


「えーっと……話が見えないのですが、長官。全滅は回避されたということですか?」


ところが長官、首を横に振る……

どういうことだ? 


「結論を先に言うとだね、木星開拓団も外惑星探索のメンバーも死んでないよ。全員が異星人に保護されている状況だ」


はぁっ? 

完全な侵略艦隊だと思ったら、まるっきり違ってたという事? 


「ど、どう言うことですか? 長官! 異星人とのコミュニケーションが早々に実現したってことですか?」


長官、複雑な笑顔を作って俺に話してくれるには……

ここで、かいつまんだ、その時の会話を再現しよう。


「地球人類にとって非常に明るい、希望の持てる展開になったという事態が1つ。 そして特定の人物には非常にツライであろう未来が確定しそうな事態が1つある」


イヤーな予感が、ひしひしと押し寄せる。

異星人にとって、ある意味、非常に興味を抱かせる行動を取った人物というのであれば俺の他にいない……


「長官? 一つだけ質問がありますが、よろしいですか?」


「いいよ、人類の救世主となるかも知れない男の質問なら、いくらでも答えよう」


「それを聞いて半分は確信しました。非常にツライ未来が待つ特定の人物って私のことですよね?」


「残念ながら大正解だ……異星人たちは君のテレパシー能力とサイコキネシス能力に多大なる関心を持ったそうで、 君個人に関心を持った種族が大挙して太陽系へ来たらしい。あ、君が無力化したキューブだが、 確かに異星人の策略の道具だったそうだ。 ただしトラップとかではなく文明の進化度とESP能力を持ちえているかどうかの測定器も兼ねていたらしい。 技術的な無力化や破壊を行えば注意すべき文明ではあるが、それまで。 もしもESPを使って無力化したなら彼らの言う「ご先祖」の能力を見事に開花させた文明ということで 彼らの関心と興味を最大限にひいてしまうことになるのだそうだ」


「ということは……俺は個人には最悪の結果、人類にとっては最大効果的な結果をもたらすことになったということですか……」


「楠見くん、全人類は君に対して最大限の感謝を贈る。しかし、君自身は太陽系にとどまる事は出来ないだろうな、この状況では」


「異星人の研究用モルモットの可能性が高いってことですか?」


「いや、彼らの興奮度合いから考えると、そんな待遇じゃすまないだろうね」


「は? 異星人達が俺のことで興奮? 研究材料が見つかって喜ぶならともかく……何だろう?」


俺の疑問は早々に解決される。

侵略者だと思っていた異星人たちは、かなり友好的であり、異星人達の科学力・技術力を太陽系にも教育・指導してくれるとのこと。

その代わりと言っては何だが俺は異星人の宇宙船の中でも最大の直径が1kmを超える母船に迎え入れられ徹底的な検査を受けることになった。

その過程で教育機械なるものを見せられて、俺もその機械に接続されて数時間のラーニングを受けることとなる。

驚いた! 

今まで異星人達の話す言語が全くの未知の言語だったにも関わらず今では地球標準語や日本語と同じように考えたり話すこともできる。

彼らの使用している超科学の原理や技術的なもののベースまで一目見ただけで理解できるようになってしまうのは、もう驚きを通り越して……

絶句である。

俺、トラブルシューターとしては最善の結果となったとは言え、もう少し異星人を信用しても良いのじゃないか? 

と、そう思えてきた……

あの一言を聞くまでは。

今、現在の状況。人類は恒星間航行も会得し、また圧縮空間ゲートの原理を応用して、 銀河に超空間ゲートをいくつも設置して、それまでは、てんでバラバラの超空間跳躍航行を安全に整理されたものにした。


俺? 

俺の立場は微妙だね。

いや、悪い立場じゃないんだよ、悪くはない。

太陽系に大挙して押し寄せてきた異星人達のグループには、それぞれに様々な事情があり、これが何と俺一人で解決できる状況だったのがマズかった! 


球状生命体の食料摂取問題は俺の血液サンプルを分析したら、見事にビンゴ! 

俺の血液をクローニングしてしまえば解決ってところに落ち着いた。

機械生命体の、はるか昔に彼らの元を去ったご主人様達の種族(どうやら、 俺と同じようなタンパク質生命体だったらしい)の問題に関しては驚愕の解決法となった……

それが今現在、俺を悩ませる問題だ。

何と、その遥か過去に、どこかへ行っちゃって帰ってこないご主人様と俺の持つテレパシーやサイコキネシスの強さが、ほぼ同じくらいらしい。

俺が機械生命体にテレパシーで声がけすると彼らは嬉しさで有頂天になる。

ちょうど猫にマタタビ与えるようなものなんだが、あれは一種の猫用麻薬。

こっちは長い間、使い道がなかったテレパシー受信回路に電流が流れるという電子的な快楽を引き起こすらしい。

で、最終的に、どうなったか? 

俺は機械生命体の皇帝に祭り上げられてしまった。

待遇は良いんだ待遇は。

衣食住は完全に保証され、俺が皇帝の座に少しでも長くいられるように健康にも気遣ってくれている (というか最新のテクノロジーまで使って不老化されちまったよ。1万年くらいは見た目変わらずに生きられるってさ)

ただね……

自由が無い、自由が。

俺の主張や意見は鶴の一声のように、またたく間に機械生命体により実現される。


太陽系への異星人殺到事件から数100年……

銀河は、とことん平和・安全になった。

今、何か宇宙空間で事故が起きて宇宙船から生身で放り出された人間がいるとしよう。

昔なら数秒で死んでしまい、その死体は宇宙空間を漂い続けることになる……

これが当たり前だった。

今は銀河系内限定ではあるが宇宙空間で事故が起きると1秒も経たないうちに事故ポイントが特定され、 生命体が事故ポイントにいた場合、問答無用で近くの恒星系にある転送ポイントへ転移させられる。

爆発事故で即死でない限り95%以上の確率で助かるという、惑星上の交通事故死者のほうが死亡率高いんじゃないか? 

という冗談のごとき生還確率。

これを実現したのは俺の超天才能力を発揮した救助網の銀河版である、転送ネットワークを最大限に利用した銀河間相互救助法の設定。


これに反対した生命体は0で、銀河評議会は全員一致でこの法律の可決を急いだ。

今じゃ死にたかったら惑星に降りろというジョークまで流行る始末で。

俺は、いつになったら機械生命体の皇帝を引退できるんだろうか? 

今じゃ、冗談だろうけど「銀河統一帝国皇帝」などと言われたりもする……

誰かぁ! 

俺を、ここから連れだしてくれーっ! 

でも、俺の心の叫びを受け止めてくれる存在は、どこにもいない……


この状況が解消されたのは、それから千年後。

銀河系とアンドロメダ大星雲との銀河間空間にて巨大な無人宇宙船が発見され、 それが銀河帝国永久皇帝ことカイゼル・クスミの目に止まって、その強大なるテレパシーにより目覚めた謎の巨大宇宙船が、 クスミ自身で「フロンティア」と名付けられ、そのマスターとして登録されてしまったがために、 クスミは、これ幸いと銀河皇帝としての身分と権力を、あっさりと捨てて深遠なる銀河団空間へ逃げた…

お供になったのはクスミの玩具と思われていた宇宙ヨットだったそうな…