第四章 銀河団を越えるトラブルバスターの章
第二十二話 「滅びた星の生き残り達」他、おまけ短編
稲葉小僧
俺達は眼下に大都市の名残を見ている……
いや、正確に言おう。
俺達は今、眼下に巨大都市の残骸を見ている……
ついに、ついに見た。
俺の意識下の悪夢、それが現実になった光景を……
核戦争?
あるいは宇宙からの侵略者か、はたまた宇宙戦争か。
まあ理由は様々だろうが争いの果てには、こんな光景が待っているという事。
大気中の放射線量を計測してみたところ、まだ放射線量が強い。
数100年前か数1000年前か、惑星規模の戦いだったらしく星のあらゆるところで破壊しつくされた都市の残骸が発見される。
まあ、とりあえずガルガンチュアの補給物資確保をかねて、この星に漂う放射性物質の浄化・収集を行うことにする。
雲霞のごとく放出された搭載艇群に命じて、この星の北極部分より南極部へかけてのローラー作業を開始する。
搭載艇群の通り過ぎた後の大気と地上は清浄化されているが生えているのは雑草ばかり。
まあ、ここまで強力な放射線の大気中でも生き延びてる植物の生命力には驚くばかりだ。
さすがのガルガンチュアといえども星1つをまるごと放射能汚染から清浄化するのには数日かかりますとの報告が、フロンティアから来る。
地上はまだしも海や成層圏など立体的にやろうとすると意外に時間がかかるらしい。
「でも、久々に備蓄が増えます。私の方の船体に主砲を建設中なので資材はいくらあっても足りないですからね」
若干、嬉しそうな口調のフロンティア。
「で、ガレリアの方は、どうなの?」
話を向けてみると、
「今現在、我も資源探査に搭載艇を飛ばしている最中です、主。あまり面白いレアメタルや特殊金属は無さそうに思え……ん? なんだと?!」
「どうしたガレリア? 何か見つけたか?」
「主、これは、ちょっと困ったことになりかねません。この星の住民たちが建設したと思われる地下都市を発見しました」
は?
この星の住民たちは戦争でも宇宙へ逃げることはせずに地下深くへ逃れようとしたのか。
「ガレリア、その地下都市に生命反応は? 地上には雑草しか生えていないが、もしかして地下へ避難した生命体は無事なのか?」
「はい、生命反応はありますが……なんというか混沌としているようでして……あ、 地下都市内での放射線反応は地上に比べて低いのですが、それなりに高いですね。これはミュータントが生まれている可能性が高いかと」
うーん……
個人的にミュータントを排除するものではないが、種としての存続という点からは少しまずいとは思う。
ただし、どういったミュータントが生まれているのか?
という点が重要なんだが……
まあ地下都市への通信は地上の清浄化が完了してからにしよう。
ここまで酷い戦いから避難してきたんだ、明るい未来くらいは用意してやらないと。
ということでガレリアには他にも地下都市がないかどうか探してもらうことして、フロンティアには惑星の清浄化作業を続けてもらう。
こういう点で合体宇宙船は並行作業ができるから助かる。
ちなみに、この星に衛星、つまり月は無かった。
珍しいことだが宇宙には月のない惑星も無数にあるので異常事態ではない。
だからガルガンチュア本体を月の代りとして軌道に滑りこませることにする。
通常は惑星系のバランスに支障がない距離まで離れて搭載艇のみで星に下りたりするが、今回は近場に本体宇宙船があるので惑星との行き来も楽になる。
「楽になったからと言ってホイホイとマスターが惑星上に降りるようなことは推奨しませんからね」
へいへい、まったく、いつまでたってもマスター保護主義から抜け出せない奴だな、フロンティアは。
じわじわと進行していく惑星清浄化を横目で見ながら、俺は地下都市が、それぞれの国家に1つづつくらいはあるんじゃないかと思い始めていた……
俺達は未来のない星に生きている。
俺達の先祖は、ちょうど千年前、互いに対する少しづつの怒りや憎しみが蓄積していって頂点に達したのか、 お互いを滅ぼす兵器を、それぞれの敵に向けて発射した……
数分後、自分の敵は消滅したが自分も消滅して互いが互いを消滅させていった。
丸一日経った後、残っているのは敵に対する憎しみも無ければ恨みもない、ただの無垢なる市民たちが避難した、 地下深くに建設された地底都市にいる者達。
核パルスによる電子機器の破壊もあり、通信機器は全て使用不能。
おまけに有線・無線通信系も核爆発による巨大地震の誘発等の影響で外部との連絡が全て絶たれた事に気付いたのは数日後。
外部に出るのは自殺行為だということは充分に承知しているため探索隊も組織されることなく数10世代が経過する。
今の地下都市に暮らす者達は地底深くに建設された都市内に存在する放射性元素で汚染された大気を都市の吸入口と 排出口に設けられた巨大濾過フィルターによる中途半端な清浄化でも我慢して、呼吸している状態だった。
食糧事情も決して良くはないが、まだまだ太陽灯や光ファイバーによる地表からの光の恩恵にあずかれるので、 キノコやカイワレ大根などの食料も自給できてはいる。
まあ備蓄食糧が随分減っているのは間違いないし、食料自給率100%ではないので将来には備蓄食糧も無くなる日が来るのは間違いないが。
問題は、それまでに地上が俺達の住める状態になっているかどうか?
希望は薄い。
高濃度放射能の大気が、今俺達が呼吸しているレベルになるまでの半減時間を計算した奴がいるが少なくとも10万年だそうだ……
一万年も地下都市が保つようには設計されていないので、あと数100年もしないうちに俺達は地下都市を捨てて地上に出なければいけなくなる。
レミングの集団自殺行進のように人間たちが、わらわらと地下都市から汚染された地上へ出て、 数日もしないうちに血を吐いて死んでいく光景が目に見えるようだ……
今日も俺は都市内の空気汚染状況をモニタする仕事に取り組んでいた。
まあ汚染度が高くなろうが何もする事が出来ないってのが悔しいが……
幸い放射性物質の濃度も空気の汚染度も通常の度合いから外れることなく、今日も無事、生きていられる事をクソッタレの神に感謝する。
神とやらが本当にいるのなら何故、この星が自滅するのを黙って見ていた?
それこそ万能の神とやらが登場する、またとないチャンスではないか?!
気まぐれにより中途半端に生き延びさせられた人間たちの絶望を知るがいい、神とやら!
モニタリングポストの設置点より帰還するため、俺はノロノロと観測機器を片付けていた。
その時だ!
〈地下都市の住人たちに告げる! こちら、外宇宙からやって来たクスミという。 宇宙船の名はガルガンチュアだ。君たちに希望を与える、地上の空気は清浄化された。 地下都市の汚れた空気より、よほど綺麗だぞ。地下都市から出てくるといい〉
近くで大音量スピーカーが鳴ったというか自分の頭の中に聞こえたというか、 どういう理屈か理解不能ではあるが地下都市のあらゆる住人に一人の漏れもなく届いたらしい謎の声は、あちこちで騒動を巻き起こした。
「おい、聞こえたか?」
「ああ、頭の中に響き渡った! 地上が再び住めるようになったのか?! 奇跡じゃないか!」
「嘘だ! これは地下都市政府の陰謀だ! あの地上の高濃度放射能大気が、 こんな短期間で清浄化できるわけがない! 政府に逆らう者たちを都市外へ追放する偽ニュースだろう」
「でもな、相手は政府じゃないぞ。外宇宙から宇宙船に乗ってやってきたと言ったじゃないか! 我々に不可能な 超絶テクノロジーを持っていても不思議じゃない。さっきの声もそうだろう、あれは噂に聞くテレパシーか?」
ふと聞くともなしに聞こえる会話だけでも、こんな調子だ。
俺自身は今の閉塞状況が変わるなら、この不思議な声に賭けてもいいか?
くらいに考えていた。
「クラン56、君を地上への探索部隊リーダーに任命する。あの謎の声と地上世界の現在の状況をチェックし、 できるなら広範囲にモニタリングして欲しい」
都市長が俺を名指しする。
まあ年齢と体力を考えると放射能濾過フィルター付きの呼吸マスクを背負っての過酷な地上探索には無難な人選だろう。
「了解です、クラン56、謹んで地上探索任務に着任します」
ということで俺達、地上探索隊10名は長らく使われることもなかった地上と地下都市とを繋ぐ竪穴に設けられた大型エレベータに乗り、 地上を目指している。
このエレベータ、高濃度放射線が検出されたら、すぐにでも地下都市に戻れるように、ゆっくりとしか上がらない(下がるときには高速エレベータだ)
「まあ、この地下都市自体が地上から3000m以上の地下にあるんでな。通常のエレベータでも時間はかかるんだ」
俺は雑学ではあるが都市の豆知識を披露する。
短期間ではあるが、こいつらは俺の配下となる。
心配事は少しでも無くしてやらねば。
「リーダー、疑問が」
さっそく質問か。
「ん? なんだ? 分かることなら答えるが」
さすがに知らないことは答えようがない。
「あの、頭に響いた声、リーダーも聞きました?」
「ああ、俺にも聞こえた」
「あの声を発したのは何者? いや、何物? リーダーは、どう考えますか? 本当に異星人なんでしょうか?」
「正直なところを言う、俺には全く推測不能だ。声の主が言ってたように異星人かも知れないし、 そうじゃなくて高濃度放射能下で生き延びてミュータント化した生命体かも知れない。まあ、その可能性は低いとは思うが」
のろのろと上がっていく地上へのエレベータの中で俺達は、いつまでも謎の声について議論する……
真実は、その議論を更に上回る強烈なものだったが……
地上に到着したのは、なんと30時間後だった。
まあ、そのために大きなエレベーター室の中は保存食やトイレまで装備された、ちょっとした大部屋状態なんだが。
地上に到着して俺達が最初にやった行動は、何はなくとも地上の空気の汚染度調査。
で、こいつが、びっくり仰天!
「リ、リーダー! 我々の地下都市内の空気より清浄です! 放射性元素、ほとんど検出されません! 嘘……奇跡……」
「よし、少なくとも、あの不思議な声の主は嘘をついてたわけじゃ無さそうだ。地上には風も吹いているし、 このまま30分ほど汚染度調査を行い、異常がなければ地上は清浄化されたと報告してくれ。そのために2人ほど地下都市へ戻ってもらう」
戻る2名を選ぶのに、ちょいとすったもんだしたが(放射能濾過マスクをつけなくとも地下都市より綺麗な空気なんだ、 地上のほうが。そうなると戻りたくない奴もいるってこと)
なんとか納得させて1時間後に報告担当を見送り、残り8名は探索を続ける。
ほどなく地下洞窟を抜けた俺達の目に入ったものはというと……
「な……なんなんだ……なんなんだ?! あの空に見える巨大物体は?!」
探索隊の一人が絶叫する。
気持ちは分かる、この星には衛星に相当する物は無かったはず。
それも球形ならまだしも円錐形の巨大なる衛星のようなものが、こちらに角を向けている光景。
俺は、その光景を見た時、あの不思議な声が言ってた、
「宇宙船の名はガルガンチュア」
の部分が引っかかった。
しかし、これが、もし宇宙船だとしたら、なんという巨大宇宙船か……
このような超絶的とも言えるテクノロジーを持つ文明なら奇跡のように思える、この星の清浄化も納得だ。
あの宇宙船の直径など想像だにできない。
恐らく数1000km単位であろうことは確実。
ということは、あの声の主が、ちょいとでも、その気になれば、この星は一瞬にして宇宙の塵と化すだろう。
ただ、あの声の主が破壊に動くことは全く無いだろうと言う確信めいたものがある。
どのような生命体だろうかと想像するが、いわゆるクソッタレな神なる存在よりマシ。
少なくとも絶滅に向かうだけだったこの星に希望を与えてくれたわけだから。
1時間後、少しは落ち着いた俺達は、ここでも空気のモニタリングを行う。
やはりというか想像通り放射性物質は、ほとんど検出されず。
もう確定!
この星は、あの巨大宇宙船にいるだろう存在により完璧に清浄化された。
最終報告としてレポートをまとめ、3名を選出して地下都市へ戻ってもらうこととする。
残り5名は引き続き地上の探索と今度は別任務、あの宇宙船とコンタクトを取ることにする。
さて、通信機もなければ、それを駆動する電源すら無い状態で、どうやって相手に自分の存在を知らせるか?
大問題である。
残りの5名で、それに対する回答を話し合う。
様々な意見が出た。
明日からは、そのアイデアの一つ一つを試してみることにしよう。
今日は、とりあえず探索に専念する。
少し歩くと、ちょろちょろと流れる川に到着。
当たり前のようにモニタリングすると完全に浄化されている天然水。
飲用も可と表示されているので少し飲んでみる。
うん、水だ。
地下都市のように再利用を繰り返して、おかしな味と匂いのついた水じゃない、本当の天然水だ!
持ってきた食料を、この天然水を利用して食べることにする。
合成食は不味いが水が美味い。
これで、食い物が天然の植物や動物の肉だったら……
俺は地下都市で禁忌とされた考えにふける……
地上では地下の法に縛られることはない。
あちこち歩きまわりモニタリングするが、結果は放射性元素は空気中にも水中にも、ほとんど検出されず。
もう決定事項。この星は……
きれいになった!
夜になった。
俺達を照らすのは、今、この星の衛星と化した異星の巨大宇宙船。
夜目には少しまぶしいくらいの光が、この星の夜の側を照らしている。
その夜は、あまりに興奮して5名とも寝られなかったようで朝方にはアクビを連発するはめになった。
しかし、夜を徹して起きていたおかげで巨大宇宙船についてわかったこともあった。
巨大宇宙船は三角垂だけではなく円筒形の部分もくっついていた。
おまけに、その円筒形の反対側には球形の巨大宇宙船が、もう一隻くっついているような状態。
どうやれば、このような巨大宇宙船を建造して、それをくっつけるなどという発想になるのか?
俺のような存在では理解不能な、それなりの理屈があるんだろうな。
寝ぼけた頭ではあるが、それなりに早起きしていたため、俺達は次の使命、あの宇宙船とのコンタクトにとりかかるのだった……
俺達は昼でも見える時があるくらい巨大な宇宙船を頭上に見ながら、まずは倒木を組み合わせて巨大文字絵を作ることにした。
1日や2日で完了する話ではないが一週間もすると追加の地上探索班(どっちかというと地上帰還班というべきじゃないか? )の ヘルプもあり10日間で巨大な文字絵が完了。
一辺が数100mにも及ぶものだったが、これで衛星軌道にある宇宙船から見えるかどうかは分からない。
だいたい、宇宙船の主が、こちらとコンタクトを取る気があるのかどうかも分からない。
なにしろ、この星を生き物の住めない地獄の地上と化してしまったのは我々の祖先。
そして空高く見える宇宙船は、その地獄から、いともあっさりと我々を開放してくれた存在。
まさに「神のごとき存在」であり、この星では塵芥というより邪魔な存在でしかない我々は無視されても仕方がない。
地上の清浄化情報でさえ、あの声の主(宇宙船の主と同じ存在だろう、絶対に)の放ったテレパシーが届かなければ、 いつまで経っても我々自身で気づくことは無かっただろうと思う。
今さらながら、そのことを思い出すと無謀なことをやっていると自分でも思う。
我々のような極小数の人類を除いて我らが祖先は、この星の全ての生命を一度根絶やしにしてしまった。
それから千年あまり、この星には雑草しか生えるものはなく昆虫も含めて動物も、微生物すら一度は根絶してしまった。
地下都市からの循環空気口から我々の呼吸した空気を排出することにより、ある程度の微生物や雑菌は回復したようだが、 それでも今、この星に我々以外の動物はいない(遺伝子保存のため地下都市には戦争前に万が一の事を考えて、 この星の動植物の遺伝子標本は残されている。家畜として地下都市で飼われている動物はいないが)
光を利用したデータバンクで保存に電力が必要なかったのが幸い。
今現在でも、その遺伝子バンクは残っている。
俺は、できることなら土下座してでも宇宙船の主に頼み込み、地下都市の遺伝子バンクから動植物を蘇らせてもらいたいと思っている。
人類は今のままでいい。
星を一度殺してしまった深い、重い罪を背負いながら生きていかねば償いにならないだろう。
しかし、このような超絶テクノロジーを駆使する存在が、もしも核戦争前に到来していたら……
たらればの話などジョークにもならないだろうが、そういった存在なら核兵器を全て無効化するとかも自在にできたのではないだろうか?
宇宙の無限とも言える大きさを思うと、あの宇宙船が、この星に飛来する可能性は無限小に等しくなる。
千年経過したとは言え、巨大宇宙船が来てくれたことにより星は生き返った。
我々は自分達が、いかに思い上がっていたか、いかに自分勝手な生き方・考え方をしていたか、この光景で思い知らされる。
我々は星を殺すことは出来たが生き返らせることは不可能だった。
空に浮かぶ巨大宇宙船は、それをいとも簡単にやってのけた。
我々には、あの宇宙船の主と同じ存在になろうという希望、あこがれも持てないのか?
まあ、その前に同じ同族同士のいがみ合いやら反発すら克服してない段階で、そんな望みを抱くほうが間違っているとは思うが。
巨大な文字絵の次は狼煙だ。
全員で数日かけて大きな穴を掘り、そこへ倒木や鉱石を砕いた粉などを入れこむ。
わざと燃えにくくするために水も播いて、火をつける。
煙が上がったら大きな布を被せて、煙を出したり抑えたり。
狼煙の信号台の出来上がりだ。
できることなら初期の電信でも良いので無線通信ができたらなと思う。
地下都市でも有線・無線の通信機は全て核パルスにより使用不能となり、修理も出来ないまま、ずっと放ったらかし。
近代・現代に通信手段が無いというのは、こんなに不便なのかと思い知らされる。
狼煙は2日間で取りやめ。
布に火が回ったのもそうだが、大勢での煙の出し入れのタイミングが、あまりに取りづらい事が判明したから。
最後に物理的じゃないが思念を送る事を思いついた奴がいて、皆で手をつなぎ大きな輪になって、同じ意思を送ることにした。
「貴方達とコンタクトが取りたい!」
ただ、それだけ。
複雑な思念じゃ、互いの常識の違いで無視される恐れがあるためだ。
で、最終的に返答が来たか?
というと……
〈君たちの集合思念は受け取った。君たちのいる地点も判明しているので、こちらから出向こう〉
相変わらず強いテレパシーだ。
おまけに、こちらの事情をある程度理解してくれているようで、巨大宇宙船からこちらへやって来てくれるとのこと。
こちらには何の技術的手段もないので、空を飛ぶことはもちろん宇宙へなんて出られないから助かるんだが。
その返答から数分後……
大空に黒い点が現れたと思ったら、ぐんぐん大きくなる。
どんなスピードだ。
あれじゃ着地が胴体着陸になりそう……
などと思ったら地上数mでピタッと止まり、それからは微速で地上へ。
どこまで進んだ科学力なのか?
船体は直径数10mある球形船。
傍で見ると、でかい……
着陸用の接地脚のようなものもなく、だけど不安定さは全くない。
球体の底の一点で接地しているが、球体というより円筒形の接地面のように、雑草は円形に沈み込んでいる。
球体の底の一画が開き、乗員が降りてくる。
一人だ。
人類のように見える。
体つきも我々と変わりない。
顔の作り、様々な器官の位置も同じ。
声をかけようとして、俺は思い出した。
彼は異星人。
どんな言語を使うのか?
それさえも分からない。
〈高性能な異言語翻訳装置がある。辞書を作るために、しばらくそちらの会話を聞かせて欲しい。数時間後には相互会話が可能となる〉
こちらの戸惑いを見透かすかのように、テレパシーが送られてくる。
それから数時間、こちらの一方的な会話と仲間たちとの相談事まで、ずっと彼に聞かせる事となる。
それが終わると、彼の話す言葉は理解不能だが身につけた翻訳装置のスピーカーから流暢な言葉が流れてくる。
「お待たせしてしまったようで。もう通常の会話は大丈夫だと思うので、これからはテレパシーではなく、こちらで会話しよう」
異星人とのコンタクトは意外にも簡単に始まってしまった……
会話と交渉は順調すぎるほど順調に進んだ。
「あのー、こう言ってはなんですが、我々は自分の星と生命を一度は根絶やしにしてしまった者たちです。 ここまで親身にしてもらう資格などあるのでしょうか? あまりに、そちらの支援提案が凄すぎて、かえって恐縮してしまうのですが……」
そう、そうだ!
あまりに親切、あまりに贅沢とも思える支援の内容だった。
※地下都市にいる者達全てが地上に出てすぐに生活が可能なように簡易的な住居と保存食料、 そして地下都市に保存されている全ての遺伝子サンプルの生物、植物の再生と増殖の実行支援
※生活上、欠かせないエネルギーの支援。
(詳細は、今までの核エネルギーや水力や火力の発電ではなく全く放射性物質を出さないE=M・C2乘炉という、 エネルギー炉としてもエネルギーの物質転換炉としても使用可能な超高性能炉の提供)
※数年間の生活と安全の保証
※光速まで出せる宇宙船の資料提供と資材提供
最後について宇宙船の実物提供は可能ですが、それではトラブルがあった時に対応できないでしょ?
だから自分たちで造れるように造船所も建てられるだけの資材とデータを提供しますね……
と将来についてまで配慮してくれた。
後で地下都市の高官たちには、
「あまりに好条件すぎないか? こちらから提供するものについての条項が全くないのが気にかかる。 もしや人体実験や奴隷化する裏条項とかあるんじゃないのか?」
と不審がられた。
無理もない、同じ星の生命体、同種族にも不信の目を向けて、お互いに殺しあい、星を殺してしまった過去がある我々に、 こんな好条件(相手の持ち出しばかりで、こちらの支払いが全くない一方的な援助)など信じられるわけがない。
まあ、その返答には俺個人の見解として、という一文をつけてだが、
「じゃあ、こちらは何を提供できるんでしょうかね? あらゆるものについて技術、精神、 資源の活用についても圧倒的に進んでいる異星人なんですよ。だいたい、あの空に浮かぶ巨大な宇宙船を見たら、 こっちが何しようと無駄だと思いません?」
この一言で地下都市高官の全ての反論が止まった。
反論なんかできるわけがない。
こうして星の復興が始まった……
全てが異星人に、おんぶにだっこという形で……
数日、数カ月で1つの滅びた星が復興できるわけがない……
とか思ってるでしょ?
違うんだなぁ、そんな時間のかかる自然任せのテクノロジーなんて地球人(後でわかった、 異星人の故郷の星の名前は地球というらしい)が取るわけも無し。
数日で俺達の地下都市の他にも地下都市が数カ所あることを確認した上で、 俺達と同じようにテレパシーにて呼びかけを行い、地上はクリーンになったよと教えてやる。
10日も経つと他の地下都市からの合流組が俺達のグループと合流し、とりあえず一箇所に集められることになる。
2週間後には全ての地下都市住民は俺達の地下都市近くに全員が集合。
異星人が作ってくれた簡易住居に入るということになったが、ドームのデカイ物を想像していたら全く違った。
個人単位では、さすがにないが、家族単位やグループ単位、最小は2人ペアという形での住居を割り当ててもらえる。
地下都市の狭い住居空間を考えると夢のような家。
簡易住居とは言うものの、この住居そのものが天災にも強い設計になり、大津波や大地震が来ても安心だという。
海の上に住居ごと放り出されても数年は大丈夫という、度を超えた安全住宅である。
エネルギー供給炉もサンプルの一基は作ってくれたが後は自分たちで……
まあ、最初の一基を作るのに詳細なデータと資材があっても数年かかったけどね。
後の量産は楽だった。
大問題だったのは海上に浮かぶ船を作るんじゃなくて一気に宇宙船だったために、 あまりの基礎技術力の無さにデータも理解できなきゃ、理論すら理解不能だったこと。
まあ、この辺りは地球人のほうが我々の宇宙船技術のあまりの程度の低さに気付いて、 後から教育機械なるもので一気に知識レベルを引き上げてくれて解決した。
ただし、宇宙船の製造に関してのノウハウが全くない状況での工廠建設やら資材配備やらが非効率極まりないものだったことは、 後日、本格的に宇宙船が量産されて赤っ恥ものだった事に、ようやく気付いたのはご愛嬌だろう。
で、なんやかんやで数年後。
衛星が無かったおかげで宇宙船の開発技術が進歩しなかった我々も、 ようやく他の惑星へ開拓団を送れるようになった(ここまで引っ張りあげて、 手取り足取り懇切丁寧に指導してくれた地球人の努力は凄いと思う。 あまりに知恵遅れのようなワガママな我々に、よくもまぁ呆れること無く忍耐強く指導してくれたものだ)
ちなみに、我々の宇宙船に武器などというものは装備されていない。
レーザーカッターはあるが、これは完全な開拓用。
防御用に恐ろしく強度のあるバリアシステムはあるが攻撃用の武器などは全く無い。
その理由を地球人に聞いてみたことがあるが、そこで返ってきたのは、
「ああ、今は使えないだけで宇宙船内に装備はされてるよ、 隠されてるんだ。使えるようになるのは君らが精神的に成熟してからね。 多分、超光速エンジンと同時くらいには武器も使えると思う。それ以前には危なくて許可できない」
今の我々の精神的な発達度で他の恒星系へ行けるような行動性を持つと必ずと言ってよいほどに他種族や他の生命体を攻撃するという。
俺は自分の行動を想像してみて、例えば自分と全く違う生命体を絶対に攻撃しないか?
という問題に、攻撃しない自分が想像できないということを思い知らされて反論できなかった。
あ、遺伝子バンクに保存されていたサンプル生命体は全て開放されて、今では死の星だったことが嘘のように、にぎやかな星となっている。
まあ、これでも無数の生物種が遺伝子バンクに残ること無く、再生もされなかったのだが……
地球人に対する感謝を表すため巨大な像を建てようかという話にもなったのだが、地球人の強硬な反対にあい、実現しなかった。
そこで我々は子孫への教育課程として、異星人の偉大なる援助を学ぶ事にした。
それこそ、この恩を忘れることがあるなら我々は滅びるだろう。
その滅びは今度こそ再生しない、滅亡への一方通行。
忘れるな!
地球人が助けてくれたのは奇跡だ。
2度めはない……
今では巨大な星間帝国の、その名も忘れられている故郷の星に置かれた、巨大な石板に書かれた歴史書の一部より……
帝国とは言うものの、その統治は「愛」と「恵み」であったという。
武器は使わず、ただ、貧困にあえぐ星、生命体が増えすぎて食料すら不足する星に無償の援助を惜しみなく行う、 それだけで星間帝国を作り上げていった者たちである。
圧政者からの攻撃にも無敵のバリアシステムを張り、ただ耐える。
攻撃用のシステムは宇宙船に装備されているが、決して使うこと無く、ただ宇宙震の災害救助用に、 様々な資材の1つとしてレーザーや熱線銃を使うのみ。
徐々に、この愛と恵みの星間帝国は同調者と星系を増やしつつ、巨大なるネットワークを構築していく事になる……
ただし、あまりに距離があるため、銀河系を含む銀河団との連携を取ることは、ついに無かったという……
おまけ銀河のプロムナード「管理人たちの会議」
ここは、この宇宙の、どこでもない場所……
ここに集まるのは銀河や銀河団、超銀河団、それをも超える巨大な宇宙空間と次元を管理するもの、そして時間すら管理するモノ達。
本来の業務を外してまで、本来は孤独でいるべき存在たちが何故こんな特別な場所に集っているのか?
それは彼らの話を聞いてみれば、だいたいのところは理解できるだろう……
「様々な報告があったが、そろそろ、 この例外とも言える管理官の全員集合などという馬鹿げた会合の趣旨を説明してもらえないかね? アンドロメダ大銀河周辺の特別管理官殿」
おや?
この会合自体が定期的なものではなく特別な例外事項に当たるようだ……
それも、要請したのがアンドロメダ大銀河と、その周辺銀河というからには当然、銀河系も含まれるのだろう。
疑問を受け、周囲の注目の中で発言したのは、どこやらで見たような存在。
楠見を含めたフロンティアクルーの銀河団脱出を許可した管理人ではないか?
「はい、どうしても皆様にお知らせしたい事、というか人物と宇宙船がありまして。 それで特別管理官権限で、この会合を主催させていただきました。この人物と、 その宇宙船に関しては一部の方達には、その存在が知れ渡っていると思われますが」
一群で、うんうんとうなずく数10人の管理人達が居る。
「その人物、この宇宙の辺境星域とも言える銀河系という小さな銀河で生まれたものです。 その辺境銀河の、さらに辺境である太陽系という星系の普通の酸素型惑星に生まれたタンパク質生命のうち、 はるかな祖先が銀河系のタンパク質生命の始祖とも言える太古の生命存在の血を受け継ぐもの。非常に稀な存在です」
この管理人、楠見のことを調べつくしていたようで太古の始祖種族の血を引くものという楠見しか理解してないことまで知っている。
「その人物の固有名は楠見糺。この者、巨大宇宙船に搭乗し、 故郷の銀河だけでなくアンドロメダ大銀河、周辺銀河、 それだけでなく近くの銀河どころか今は故郷の銀河団すら後にして隣の銀河団で活動しております」
ざわ……
高位の管理人達にとり、そんな大宇宙を自由に航行するような存在は最大限の要注意人物となる。
そんな心配があるのか高位の超銀河団管理者が質問する。
「そのような人物と宇宙船に銀河や銀河団を越える許可を出した方々に質問したい。 宇宙の平穏と、その維持という管理人の主たる任務を忘れていないか?」
それに対して特別管理官が回答する。
「それは大丈夫でしょう。その人物にあるのは支配欲や戦いを好む意志ではなく平和と相互救助の精神です。 管理者の皆様方、あなた達が管理している銀河や銀河団、超銀河団で争いや戦い、 侵略行為が無くなった宇宙はありますか? 銀河系やアンドロメダ大銀河、周辺の銀河、 これを含む銀河団は少なくとも平和を謳歌しています。我が銀河団の隣の銀河団の管理者殿? そちらの状態は、いかがでしょうか?」
「ご指名いただきましたので、お答えします。そのクスミという人物、確かに現在、 私の管理する銀河団におります。まだまだ到着して間がないのですが、 それでも滅びた星の再生や戦争状態にある銀河の戦争を終わらせたり、様々な有益なる活動をしております」
「ありがとうございました。お聞きになったように楠見と宇宙船のクルー達は、 その進みゆく先々で平和をもたらす存在となっております。そこで提案ですが楠見達はこの後、 超銀河団も超えようとするでしょう。その時に楠見達に超銀河団を超える許可をいただきたいのです」
前代未聞。
実験用の宇宙船で銀河団や超銀河団を超えようとするものが現れる時、 その許可を与えるかどうかの判断は本来その宇宙の管理人に任されているはず。
予め許可を与えようなどという発言は物議をかもした。
楠見の活躍と影響を一度でも見たものは文句なく賛成し、そうでないものは疑問を呈する。
特別管理官からは今までの楠見達の行動と結果をまとめたものが提出されたが、それも疑問を増やすことになる。
「光速を超えるテクノロジーは精神の習熟度を待って公開する、というのは良いが、 それまでの宇宙航行テクノロジーを無条件で与えるのは、どうかな? これでは一部の生命体へ、 どうぞ宇宙侵略でも使ってくださいと差し出すようなものだ」
これは誤解だと楠見の活躍を見たことのある者達は弁護に廻る。
大災害への救助を、その惑星だけでなく近くの惑星にまで広げるためのものであり、 侵略用として使えるような武器システムは提供しない事が明記されているではないか。
侃々諤々、議題は紛糾し、結論は出なかった……
しかし、これにより一部の管理人しか知らなかった放浪のトラブルバスター楠見と、 その乗船する巨大宇宙船ガルガンチュア、そのクルーたちも宇宙の管理人達にあまねく知られることとなる。
この事により後々、楠見達の運命が大幅に変わってくるのだが、まだそれを語るべき時ではない……
ガルガンチュアは今日も宇宙を進んでいく。
巨大なる船体に溢れんばかりの超技術と、平和を目指す精神と若干のお節介心を保ちながら……
おまけその2キャラクター一覧表(銀河団を駆け回っている段階のガルガンチュア時点)
これは銀河から銀河へとトラブルシューティングに駆けまわる巨大合体宇宙船ガルガンチュアのクルーを備忘録の一環として書き記すもの。
「楠見糺」
この物語のメイン主人公。
そして、様々な銀河におけるトリックスター。
最初は、ただの三流灰色企業の派遣社員(おまけに、太陽系連合政府の影の労働管理官)でしたが、 とある事情と偶然が重なり、普通の、やけに直感が鋭いだけの人間が強力なテレパシーとサイコキネシスを操る超天才に育て上げられてしまう。
そこまでなら、この物語はエスパー楠見として違ったものになっていたのだろうが、 ここに絡んでくるのが超古代(少なくとも一千万年どころじゃない太古の昔)に造られた名称が発音不可能の異銀河団の巨大宇宙船。
もともとは違う船名だったが、楠見の名付けた船名は、
「フロンティア」
遥かな太古に異銀河団のシリコン生命によって造られし巨大宇宙探査船。
主人たる生命体が乗船していないと何も出来ないため、数万年の時を木星のメタンの海底で過ごしていた、ある意味、不幸な船。
とある偶然にして必然で楠見と出会い、これ幸いと無断で楠見をマスター登録してしまう。
それ以来の、ながーい付き合いとなる。
ところが!
フロンティアより楠見と先に出会い、楠見を超天才にして強力なテレパシーとテレキネシスの使い手にしちゃった奴がいる。
それが、楠見が名付けて、
「プロフェッサー」
こいつが全ての元凶にして物語の発端を開いちゃった奴。
普通の人間、真面目で(?)不幸な派遣社員というサラリーマンだった楠見を、 ほんの偶然で高性能な人工頭脳をジャンクヤードで格安で買ったというだけで楠見の宇宙ヨットに取り付けたのが、 この物語の始まりを作ったようなもの。
地球から木星への宇宙ヨットを使った孤独な旅のお供に近い存在だったはずの人工頭脳が、 お茶目なイタズラを仕掛けたおかげで楠見は危険な脳領域開放実験の試験体とされてしまい、隠れていた真の実力を目覚めさせてしまう。
宇宙ヨットの中で行われた脳領域開放実験によって異常なまでの力をもったエスパーにして超天才となった楠見は、 この人工頭脳にプロフェッサーと命名し、それからが一人と一体との腐れ縁となる。
ちなみに今のボディはフロンティアの予備ボディだったものにプロフェッサーの人工頭脳を宇宙ヨットから移植したもの。
単独行動が可能となった今でも楠見やフロンティア達と行動を共にしたがるのは、やはり楠見の脳領域開放実験の結果が気になるからか?
「エタニティ」
フロンティアが機械生命体との出会いの次に出会った精神生命体が創造した有機端末。
とはいうものの、もう精神生命体とのリンクは消えているようで、立派な女の子として自意識もある。
テレパシー能力も高く、クスミが苦手とする他人の意識を読む能力に長けている(テレパシーの強さは楠見のほうが強いが、 いわゆるテレパシーの使い方が上手いのはエッタである)
最初は楠見に色仕掛けをしていたが完全に仲間となった今は、時たま女性であることをアピールするくらいである。
「ライム」
不定形生命体(スライムからとった名前。しかし楠見の意識はバ○ル2○のロ○ムの印象)の一体が楠見達に興味を持ち、 クルーの一員にしてくれと頼み込んできたため、承知したら少女形態で固定化してしまったもの。
細胞段階で何にでも変われる能力を持つため、某黒豹の形態にも変われると思われるが、それは未だに見せていない。
「ガレリア」
銀河系やアンドロメダを含む銀河団を越える前に出会った、フロンティアの姉妹船。
こいつも最初は主がいないので機能制限されていたが、強引な力技でフロンティアの行動を感知したのだろう、 楠見を引き渡せと銀河を超えてやってきた。
プロフェッサーの提案で楠見がガレリアとフロンティアの2隻の巨大宇宙船のマスターとなることになったが、 その解決方法が巨大宇宙船の合体という何とも力技……
結局、その方法しか平和な解決が出来ないので、2隻を合体させて超巨大宇宙船ガルガンチュアが完成!
銀河団を越えるときに色々色々あったが、今は無事に銀河団を超えて、お隣の銀河団宇宙へ到着。
その銀河団にある銀河宇宙を、トラブルはどこじゃー、トラブルはどこじゃー、と走り回ってる状態……