第四章 銀河団を越えるトラブルバスターの章
第二十三話 魔法のある星
稲葉小僧
【作者より作品解説】
もともと、ようこそ宇宙へ! ……の前に書いていたファンタジーです。
『俺って、災害級の迷惑かけてます? とんでもないギフトで転生後の世界を巡る』 という題名のファンタジー(まあ、転生してファンタジー世界で魔法を使うって王道物(笑)) なんですが、ようこそ大宇宙へ! ……を書き進めていた時に、突如閃きが!
【ん? 無限の大宇宙なんだから、魔法もありじゃねぇか? 転生ってのも、神が下級の管理者だとすれば……おお! 自作でコラボが書けそうだ!】
というアイデアのもとに書いちゃったのが、この話(笑)
ですので、魔法を使う転生した元地球人と、宇宙船で銀河団すら渡ってきちゃった生身の地球人楠見との顔合わせが実現しちゃいました(笑)
かなり無理があり、中途半端な終わりになってしまいましたが、 できるなら、もう一回チャレンジしたいものです(実は、なろうの方ですが、 別の作家さんのホラー短編をオープニングとした、ようこそ大宇宙へ! ……の話を書く企画を進めてます。 無謀だとは承知です(笑)が、やはり挑戦したい気持ちがあるのです)
ちなみに、ファンタジーの方の主人公は、楠見の生きている時代とは隔絶した大昔に死亡しています(楠見の時代に大型トラックは走っていません)
西暦2***年ごろの人間で、その頃の地球は邪神や悪神の企みのせいで破滅に向かっておりました。
主人公は、勇者あるいは英雄と呼ばれる存在になるはずだったのですが、邪神・悪神たちに気づかれて、あわれダンプの下敷きに……
しかし、主人公が死ぬ前に書いた卒論(だと自分では思っている)が、地球を悪の手から救います。
主人公が書いた卒論には、この世の裏側に存在する邪神や悪神、そして、それに連なる闇と悪の勢力の暗躍の歴史、 正体、その影響を、事細かく書き連ね、最終的に地球が破滅から救われる行動指針をも指示していたという、 とんでもない論文でした(自分では、そんな物を書いた記憶がない主人公)
楠見との会話で涙を流すシーンは、自分の存在は無駄ではなかったと証明されたからですね。
また新しい星系に来ている。
今度の星系は、ちょっと変わっているようだ。
「マスター、フロンティア本体への主砲搭載作業で私は船を離れられません。大丈夫ですか?」
フロンティアが心配してくるが、こっちは慣れたもの。
「まあ、大丈夫だよ。この星、まだまだ宇宙船を建造するような文明度じゃ無さそうだし」
ということで小型搭載艇へ、プロフェッサー、エッタ、ライムと俺の3名と1体の降下要員が乗る。
今回も都合の良いことに酸素呼吸のタンパク質生命体、それも哺乳類の系統が、この星の主要支配生命体らしい。
まあ様々な生命体の混合文明らしいが昔の地球のように分裂国家形態で主要な国家すら10を超える。
島国まで数えると100近い数になるらしいので、とりあえず最大の領土を持つ「帝国」と呼ばれる国家へ降りること。
このような時代だと身分証明も緩いから、4名分の身分証明もすんなりと発行される。
数ヶ月もすると俺は特殊な身分「錬金術士」の一人として、様々な道具や生活必需品を作り出す仕事で有名になる。
後の3名は俺の弟子という扱い。
俺の創りだすものは、生産管理と品質管理が徹底されているためか評判がいい。
そのため短期間で小金持ちに。
ものづくりの拠点として屋敷も手に入れて、惑星降下から半年後、俺達は様々な計画を開始する。
「さて、と。まずは、帝国以外の国家情勢と、この惑星そのものの正確なサーチだな」
俺が行動開始の発言を。
「はいはーい! ご主人様がサーチしたいのって、この星独特の「魔法」についてでしょ? あれ、なんでしょうね、一体」
エッタが発言。
そう、この星には「魔法」なる特異現象がある。
呪文詠唱と発動体(剣や杖などが一般的だが篭手や脚絆などの装具もある)により生命体が発火したり、水を出したり、風を制御したりする。
最初に見た時、全く理解不能ではあったが魔法使用者を詳細に調査(小型ビデオカメラで隠れて撮影)したところ 他の星では見られない特殊元素「魔素」と仮に名づけたものが人体に働きかけている事が分かり、今回は魔素を詳細に調査することになった。
ちなみに俺達3名もプロフェッサーも魔法を使うことは不可能でしたとさ(持って生まれた才能なのか、 それとも、この星に長く居ると魔素が体内に浸透する? )
「それにしても変な星ですよね、魔法なんて。銀河系や私達の銀河団じゃ全くと言っていいほどに聞いたこともない現象と能力です、キャプテン」
「普通、そう思うよな、ライム。魔素なんて元素も銀河系じゃ検出されたって話すら聞かないし。プロフェッサー、なにかデータを持ってないか?」
「そう言われましても、我が主。地球の大昔のビブリオファイルにある「ファンタジー小説」というジャンルには、 そういう魔法の記述が残っていますが、これはあくまでフィクションですし……実際に魔法などという現象を見たのは私も初めての体験です」
そうか、そうだよなぁ、地球人や銀河系の生命体にとって魔法や、それを使う魔法使いなど、完全なるファンタジーの産物だもの。
ものづくりに特化した錬金術士なんて、この星では便利品の発明家扱いだものな。
あ、ちなみに錬金術士ってのは、この星では生産職のことを言う。
鍛冶とか薬師とかも錬金術士の職の1つと言い、つまりは魔法を使わず(使えず)に物を作り出す職業を指す。
面白いことに魔法が使える星だけあり、この星には「魔物」が存在する。
どうも、この星の土着生物(動物や植物)が魔素に汚染されて体内細胞が変質してしまった生物らしい。
これを退治、殲滅する仕事を請け負うのも魔法使いや魔術師の仕事らしいが……
この一風変わった星。
俺もライムもエッタも、どうやらプロフェッサーも気に入ったらしい。
災害やら変な宗教やらも無いようで(真っ当な宗教の教会や神殿はある。ひどい腐敗も汚職も無いようで、こちらが介入しなくとも自浄できるものだ)
今回は、ちょっと田舎の星系で、のんびり休暇と行くか。
フロンティア達は主砲の整備や搭載作業が終盤になり、目が離せないようで、船からは離れることが出来ないと連絡してきた。
まあいい、今までトラブルシューティングの連続だったんで、この星で休暇としゃれこもう。
この星の料理も、かなり美味いので、いくら自然物と変わらない構成とは言うもののメニューに限りがあるガルガンチュア船内食には飽きてきたところだ。
エッタやライムが、ここの土着料理に、かなりハマっており、帰る頃には船内食メニューが、かなり増えるだろうな。
ということで俺達は、この星をエンジョイさせてもらうことにした。
トラブルシューティングが主じゃない惑星生活は久しぶり!
俺自身も、たっぷり楽しませてもらうとするか。
今日は拠点にて様々なものづくり。
それが終わると作ったものを商店や商会へ納品。
昼過ぎには予定が終了したので皆と落ちあい、ちょっと遅いが昼飯とする。
「むぐむぐ、新鮮な材料使ってるので美味しいですね、これ」
エッタは新作料理のレシピに興味があるようで今週のお勧めは頼まない。
ライムは逆に定番ものばかり頼んでいる。
「ひょいぱく、ひょいぱく。うん! 定番料理の定番の味、信頼の味。これぞお店の経過年齢の味! これは歴史の味です」
ふーん、そんなものかね。
プロフェッサーは一応、アンドロイドの機能として通常食料をエネルギー化する事も可能なんだそうで。
味というか様々な料理の調理過程を類推しながらでも食べてるんだろうなぁ、あれは。
俺はというと軽い料理ばかり数を揃えて食べている。
めったに食べられない異星の土着料理だ、こんなもの一点でも多く食べずにいられるか!
ということで俺達のテーブル席だけ無言か、つぶやきの小声が聞こえるような静かな席になっている。
あ、料理屋の女将さんとご主人!
料理が不味いわけじゃなくて、美味いから沈黙して集中してるだけなんです!
そんな不安な顔しなくていいですよ。
食事が終わって支払い時に、大変に美味かったので沈黙してましたと伝えると、やっと明るい顔になりましたとさ。
お釣りはいりません、そのぶん、また美味いもの食わせてください、と言って、この頃は常連になってきた店を出る。
食事後は、ものづくりのヒントにでもなればと、皆で町をぶらつく。
いわゆるウィンドウショッピングというやつ。
「ヘー、武器屋や防具屋、アイテムショップの多いこと。いわゆるマジックアイテムってやつも売ってますよ、キャプテン」
ライム、えらく食いつくな。
まあ、ファンタジーの世界ではスライムは雑魚キャラになるか、はたまた完全生物として世界に君臨するか、どちらかの扱いしか無いんだけど。
もしもライムが武器や防具、マジックアイテムを身につけたら、ファンタジーのお約束を完全破壊したバグキャラになりそうな気がする……
「銀食器や銀のナイフやフォークとか、この世界って銀製の物が多いんですね。綺麗ですけど日常の管理と磨きが大変そうです」
エッタ、それはね……
毒入りのワインや食べ物で暗殺される危険性が高いって事なんだよ。
まあ、このあたりの歴史的常識は後で教えてやろうか。
「我が主、生産職だけではなく冒険者と呼ばれる人種も多いですな、このあたり。兵士よりも稼げるからでしょうか?」
「あ、それもあるがな、プロフェッサー。兵士になるのは農民が多いんだ、 国家で訓練してくれるので戦争以外には魔物が増えすぎたための討伐任務と都市内警備くらいのもので楽な仕事だからな……給料は低いけど」
「ということは……」
「つまり、金を稼ぎたいやつ、腕に憶えのあるやつ、 貧しいので兵士の給料じゃ家族を養えないって奴らが冒険者になる。 まあ、一部には戦いが生きがいって者もいるけど。だから冒険者の仕事は危険と隣り合わせだが、美味しい仕事が多いって事にもなるな」
「そういう理由でしたか。では我々は、あえて冒険者にならずとも良いということなのですね、我が主」
「そういうこと。魔物とは言え、あまり生命体を殺すような仕事には就きたくないってのも本音としてあるけど」
「そーそー、キャプテンは強いけど優しいから、冒険者にはならなくても良いんです」
っと。
ライムの余計な一言が耳に入ってしまった冒険者の一団が、俺達に近寄ってきた。
やだなー、俺は暴力沙汰が嫌いなんだよ。
「おーおー、優しいから冒険者にならないんだって? その口ぶりからすると、いつでも冒険者風情には勝てるって言いたいみたいだけど?」
あー、やっぱり因縁つけてきたよ、この筋肉ダルマの脳筋冒険者さん達。
ライムも余計な一言を放つ場所を考えてほしい。
まあ本当なんだけどね、冒険者風情に負けないよってのは。
「ああ、気に触ったらすまないね。俺達は……」
「知ってるよ、このところ売り出し中の錬金術士の一家でしょ? 品質も一流なら、 その奇抜さも一流って折り紙つきのアイテムや発明を次々と発表してるらしいじゃないの」
おや、俺達の事、ずいぶんと噂になってるようだ。
ただし、この方達は生産職に良い印象を持ってないようだけど……
「えーと、その口ぶりからすろと、生産職がお嫌いのようですけど……」
俺が答えると、
「そうね。生産職の8割方が詐欺師ですもの。武器やら防具やらアイテムやら、 信用して高い金出して買ったら、すぐに壊れてしまうのよねー。 あなた達の作り出す物がそうだとは言ってないわよ。品質や耐久性も悪い評判聞かないから。でもねー、あなた達の工房の商品、高すぎるのよ」
「おやおや、それはご愁傷さまとしか言えませんね。高くとも、 うちの工房の製品は折り紙つきですよ。安かろう悪かろうの極悪製品じゃないから、一度は使ってみてくださいな」
そうかー、騙されてたのねー、色々な生産職の方々に。
だけど、あなた達冒険者も扱いが雑すぎるしなー、ご同様な気がするけど。
「っということでな、俺達の恨みのはけ口になって欲しいんだよ、あんたたちには、ね!」
うわっと!
いきなり殴り掛かってくるんじゃないよ、この筋肉ダルマ!
はぁー、一戦交えるしかないのかね、こいつらと。
「ねぇ、やめません? お互い直接の恨みも何も無いんだし……」
提案するんだが……
「いーや、今のを避けるとは、お前、やるじゃないか。これは、どうあっても戦ってもらうぜ! 面白い戦いになりそうなんでなぁ!」
あっちゃー!
やっちまったか……
今、ひっじょーにマズイ状況になっております、俺達一行。
問題は俺達に危害が及ぶということじゃないんだが……
生産職と冒険者が揉めるということがマズイ。
でもって、サイコキネシス使えるとか強力なテレパシー使えるとかエッタとライムの特殊能力や プロフェッサーの怪力(アンドロイドの体だからね。歩くパワードスーツです)とかが世間に広まるのが、ひっじょーにマズイ。
だってさ、この星でサイキッカーやテレパス、ライムのような不定形の肉体とか、エッタの読心力(心を読む力にかけてはエッタは俺より手馴れている)とか、肉体強化の魔法なしで数千馬力の力持ちのプロフェッサーとか、魔法使いじゃなく規格外の力を持つ集団なんて、あり得ないんだよな。
ちなみに、商工ギルドで試しに全員が魔法適正を測ってもらった。
全員が不合格。
魔素を体内に取り込む生来の能力がないという結果が出たらしい。
まあ、全員が魔法なんか無くとも生活に支障ないんで普通に生産職やってる。
ただし、この諍いで俺達が冒険者を圧倒的に無双しちゃったりすると 魔法が使えるという圧倒的なアドバンテージをもつはずの冒険者が、か弱い生産職に負けることになり常識が引っくり返される。
これ、非常にマズイと思いません?
あまり詳細に俺達の身体を調べられると、この星の生命体じゃないことが判明してしまうだろうし……
と、こんなことを考えながらも俺は筋肉ダルマさんの攻撃をかわし続けている。
これも多重思考の恩恵。
それに加えて相手の肉体強化魔法に対抗するために、ごく弱いサイコキネシスを使って相手の拳やら蹴りを微妙に逸らせている。
反応速度は、まだまだ俺のほうが上だけど肉体強化魔法の効果は絶大で、こんなパンチやキックが急所に当たったら大怪我しそうだから。
「ふぅふぅ……や、やるじゃねえか! こ、ここまで俺の攻撃を躱されたのは、おめーが初めて、だ!」
「避けなきゃ殺されそうだからね。ほいっと! 今のは危なかったね、と」
「い、息も切らして無きゃ、汗もかいてねえとは、な。さ、さすがに俺の体力も尽きて、きたぜ!」
「まあね、カウンター恐いから攻撃しないんだけど、こうやって攻撃を躱されるのも地味に辛いでしょ?」
「あ、ああ。連続攻撃を、これだけ躱されると体力が続かねえ……やめだやめ! もう強化魔法の限界時間だ。これ以上は俺の身体がもたねえよ!」
肉体強化魔法を切ると筋肉ダルマは、その場に突っ伏した。
強化魔法の反動で精も根も尽きたらしい。
「勝負は、そちらの勝ちで良いですよ。実際、俺は攻撃できなかったんですから」
「それにしては余裕よね。こっちは地面に伸びてるというのに」
「いえいえ、生産職に攻撃は似合いませんので、このへんで。お互いに身体は大事にしましょう、仕事に差し障りが出ますよ」
「それもそうね、いいわ。今回は、これで引き下がります。 でも、あなた本当に魔法使いでも魔術師でもないの? さっきの戦いの時、こいつに何か仕掛けてたでしょ?」
「お、目がいいですね。ネタを明かすと対策されちゃうような陳腐なものですよ。一応、秘密にしときます。命がかかってますんでね、こっちも」
ごめんね、サイコキネシスなんて、この世界に言葉すら無いから説明できないんですよ、実は。
「ふーん……麻痺香とかの類いかな? それにしては何の匂いもしないけど……まあいいわ、 これからは私達も絡みません。不気味な錬金術士には近づきたくないわ」
「それが無難でしょうね、お互いのために。では、これで……あ、そこで倒れてる方に、これを進呈します。一錠で疲労が取れますよ」
俺は液体から固形タブレットに改良したポーション(回復薬)の瓶を冒険者の女性に手渡す。
これが俺が生産している物の中で一番の売れ筋だ。
通常の液体薬より高価だが、瓶が割れても薬が台無しになることもないので高レベル・高クラスの冒険者たちには売り切れになるくらい大評判の物。
「え? これ、ギルドの中でも噂になってる固形のポーションじゃない! あんたが作ってたのね。 はあ、あんたに怪我がなくてよかったわ……これが作れなくなったら、 下手すると冒険者ギルドから除名されてもおかしくなかった。ごめんなさいね、いまさらだけど」
わかってくれたか、ようやく。
「いえいえ、分かってもらえれば良いんです。では、これで」
なんとか遺恨も残さずに解決できたようだ……
そう思ってました。
だけど、そうじゃなかったんだよねー……
この星に地球からの転生者がいたんだ。
これが、ファンタジー小説並にチート野郎でした。
俺の名はラスコーニコフ。
相棒であり従魔であり俺のペットでもある狼魔獣のジャックと旅をしている。
まだまだ俺達のレベルは低いので邪神やら悪神やらの本体とは戦えるレベルじゃない。
冒険者として邪神や悪神の使い魔やら手下、その配下達と戦う日々を送っている。
あ、表面上は様々な依頼をこなしつつ、その依頼を妨げる原因排除という形で悪神や邪神の手下を倒している。
直接な神殺しの依頼など、あるはずもないので、こういう裏での仕事になってしまうのが辛いところ。
まあ、今現在で俺がレベル200を軽く超えたところ、ジャックについてはレベル150も近いところ。
これで神本体ならいざ知らず、その配下の魔獣や魔人、魔王軍でも問題なしに一個師団相手に無双できる。
今日は久しぶりの大きな町への逗留なのでジャックと一緒にショッピングを兼ねた美味いもの探し。
食堂や出店、屋台も多く、久々に俺とジャックは美味い食事にありつける。
こんなこと言いたくないが転生後の俺の生きてきた時間の中で(あ、まだ5年も経ってないよ、 生まれてからね。この世界では急激なレベルアップをすると、 そのレベルの数値に合わせるように肉体が急成長する)本当に美味いものを、たらふく食べたのは数回。
この世界にある巨大教会組織の枢機卿会議という腐りきった部分の掃除を行った後の法皇さまたちとの夕食会は凄かった!
あれは美食とか言うレベルじゃなかった。
もう、金に代えられない食材の塊みたいなものを、この世界でも有数の腕を持つ料理人達が技術と時間とをかけて作り上げる芸術だったなー。
ジャックが、まだ俺と出会っていなかった頃だから仕方ないが、ジャックにも食べさせてやりたかったな、あの肉料理。
などと思いながら、大通りをジャックと歩きながら、商品を鑑定魔法で選別しながら見ていった時、その一団と出会った。
相手は冒険者。
ちょいと鑑定魔法かけてみたら、おやおや、Cクラス冒険者でも、相当な腕の持ち主ばかりのグループ4人組。
でもって、その男たちの一団は魔法の才能すら無いと思われる生産職の4人組。
お互いが女性2名、男性2名の構成なんだが生産職グループが圧倒的に不利だな、これじゃ……
とか、俺も思ってましたとさ。
不用意に生産職グループの女性の一人が冒険者を侮蔑する言葉を発してしまい、 それを冒険者グループが聞きとがめて、いや、いちゃもんつけたんだな、これ。
生産職にも色々あって安いけれど壊れやすいものしか造れない奴らの製品を買って、ひどい目にあったんだろうが、こりゃ、ひどい言いがかりだ。
あまりにヒドイいじめになるようなら俺のAクラス冒険者証を披露して止めに入ろうかと思ってたんだが……
なんだこりゃ?
嘘だろ?
なんで、身体強化魔法までかけてるCクラス冒険者(魔法使わない時のBクラス冒険者と同じくらいの強さ、 素早さに底上げされている状態だ。時間的制限はあるが)が、たかが生産職の魔法使えない生身の人間に対し、拳も蹴りも当てられないんだ???
これが同じ冒険者だったら、まだ分かる。
しかし、どう見ても魔法を使ってない生産職ふぜい……
いや!
違うぞ、これ!
冒険者の男の拳や蹴りが微妙に逸らされている。
確かに生産職の男は魔法は使ってないが、魔法のような力を使っているようだ。
しばらく見ていると冒険者側が強化魔法の時間切れらしく、肉体疲労でぶっ倒れた。
俺は今、この世界ではあり得ないものを見た。
転生前の地球で見た合気道の達人とボクサーの戦いを見たような気がする。
冒険者側とのいざこざも解消したようで俺は、この時とばかりに、生産職側のリーダーと思われる男に鑑定魔法をかける。
何か魔力が非常に通りにくい感触がある。
なんなんだ、これは。
レベル200も超えた俺の魔力と無属性魔力カンスト99%の力をもってしても鑑定が困難な奴が居るだと?
あいつが邪神や悪神なら分かるが、どうみても一般市民で生産職。
全ての能力の鑑定は出来なかったが、一部の情報は取れた。
人族楠見糺462歳(不老化処置済の地球人)
異名:管理者より許可を得た、大宇宙のトラブルシューター
レベルなし
体力不明
魔力不明
素早さ不明
器用さ不明
賢さ不明
魔法・魔術:なし
武器・防具:なし
ギフト:なし
ただし、擬似ギフトとして強大なるテレパシーと超強力なサイコキネシスを使用可能
俺は、その場に立ちすくんだ……
なんだと?
地球人?
転生者ではなく生身で宇宙の深淵を超えてきたというのか、この男!?
と、するとだな……
神というのが、ここにある「管理者」の事を指すのだろう。
俺は魂の状態で、この異世界に転生させられたと思っていたが実は地球のある3次元宇宙と同じだったのか?!
で、では、俺とあの男は転生者と生身のままという違いはあれど同じ地球人の魂を持つものなのか?!
俺は思わず、その生産職の男たちを追いかけていた……
逃してたまるか!
あの男と会って、話をしたい!
同じ地球人として……
「おーい! 待ってくれ、そこの錬金術士!」
俺は去っていく生産職連中に声をかける。
声がけに生産職、というのは侮蔑に当たるとのことで鍛冶士、錬金術士、薬師、とか言うのが普通。
生産職、というのは魔法適正がない奴、というのと同じだからということなんだが……
どちらにしても同じような気がしないでもない……
あ、こちらに気がついたようだ。
俺達は小走りで彼らに追いつく。
本気で走ると俺もジャックも人の目に追えなくなるから。
「やあ、俺の名はラスコーニコフ、冒険者にして修行僧だ。こっちは俺の相棒、狼魔獣のジャックだ、よろしく」
とりあえず自己紹介。
どこの誰とも分からん奴に親しげに声をかけられたら、そいつは詐欺師だと思って間違いない、ってのが俺の信条だから。
「え? 私達に冒険者の知り合いはいないんですけどね。それに見たところ、 あなたは高レベルで高クラスの冒険者では? でなきゃ、そこまで強力な魔獣をテイム出来ないですよね?」
ふーん、見てるところはよく見てるんだな、やっぱり。
生産職でも、けっこうな高レベルだと見たぞ、こいつら。
「まあ、こういう大通りでは、ちょいと話しづらいんで、そこいらで何かつまみながらでも……こっちにも同様な理由のある話なんだ」
「ん? 双方に同様な理由? 何か分かりませんが、そういう事でしたら、ちょいと軽いものでも飲みながらにしましょうか」
推測ぐらいはしてるようだ。
こいつ、すごく頭の切れる奴らしいな。
「じゃあ、少し歩いたところにバルがあるんで、そこで。連れの子らにも軽い飲み物が出る」
ということで俺達は連れ立って近くのバルへ入る。
あ、バルってのは、いわゆる「バー」の事。
日本のバーではなく海外で言うバーだね。
パブより気軽に入れる店のことだ。
飲酒も食事もできるので、ちょっとした息抜きに入る店としては丁度いい。
「では、こちらも自己紹介を。私はタダスクスミ、生産職の錬金術士だ。こちらは、私の弟子たち」
「名前は分かってたよ、楠見さん」
「ん? その発音……この星の言葉の発音じゃないね、君、地球人、それも日本人? それにしては、姿形が日本人離れしてるけど……」
「ああ、俺は純粋に、この世界の生まれだよ。ただし日本人からの転生者だ。前世の記憶・魂を、この肉体に、そのまま持ってきた」
「わぉ! ファンタジーだな、そりゃ。しかし、君が話す日本語には、えらく古い言い回しがあるが、君、もしかして随分昔の人?」
え?
俺、もしかして転生前は魂の状態で数百年も異世界と地球の間にいたの?
「えーっと……俺が死んでから、もしかして、ずいぶんと時間が経ったのかな?」
「んー、残念だけど、そうみたい。まあ、ぶっちゃけ、気軽に話そうか。 俺が地球にいた最後の年が太陽系統一歴%%%%%年。ちなみに、ADでいうと&&&&年だ」
がーん!
……ショック……
俺が死んでから数千年の時間が流れてた。
大和朝廷時代の人間が現代に着いたようなものか……
地球へ行きたいって望みが無いとは言わないが、これで帰る理由も無くなったな。
歴史上でも俺の存在など、もう跡形もなく消え去っているだろう。
「そ、そうかい……俺は、そうすると数千年前の人間だ。教えてくれ、 地球は、地球はどうなっている? 邪神や悪神の影響は、どうなった? 人類は滅亡……は、 してないみたいだな、あんたというサンプルが居るからには相当に繁栄してるとは思うんだが」
その答え、俺の予想を超えるものだった……
「そうだね、現在のことは分からないけど少し前までのことなら。 人類は繁栄という言葉で語れないほどに充実している。 太陽系のみならず銀河系や大小マゼラン星雲、 アンドロメダ星雲までの友好勢力を確保し銀河系では欠かせない技術を持つ種族となっている。 俺達が通ってきた周辺銀河の生命体たちも銀河系を主軸とした銀河連合の形態へ移行しようとしている最中だよ」
ふっと気が遠くなる……
そうか、もう邪神も悪神も手が出せない領域にまで人類は成長したか。
もう次は「神」を目指すしか目標がないのでは?
「すごいな、想像もつかない超未来技術の塊となっているんだろうな、 今の地球は。俺の生きてた頃は、極地紛争が、あわや戦争へ?! とか、 テロリズムに困った大国が小国を文字通り踏み潰すようなテロ対策をとったりしてたんで、未来は明るいものじゃなかったなぁ……」
「いやいや、それがね。そのころの古代歴史を習った記憶があるんだけど、核技術をおもちゃにしてた頃の地球世界ってのは本当に危なかったらしいよ」
「へ? やっぱりね。で、それが、なんで、どうして、大宇宙へ花開くほどの一大文明になったの?」
「いや、それが、とあるところに封印されてた一冊の文書が登場するんだよ。 それには超古代から、書かれた時点までの邪神や悪神の様々な影響と、人類への関与、その目的。 それだけじゃなく、その力への対抗方法と邪神や悪神への対抗組織を造れとの具申、 そればかりか、できる限りの邪神や悪神への対抗呪文や魔法陣の作成方法、 憑かれた者共の特定と、その解呪方法まで書かれてあったというから凄いよね。 筆者名は歴史に残ってないけど、その対抗措置が取られた時には亡くなっていたようだ」
ああ、俺の存在も無駄じゃなかったのか……
あの卒論、最終的には役立ったんだなぁ……
俺は何故か流れてくる涙が頬を伝うのを感じていた。
拭う気も無かった。
これが個人的には歴史に名を残せなかった男が神に対して足掻いた抵抗が実を結んだということ。
何故に泣いているのか楠見さんには不審がられたが、説明のしようもないので昔を偲んで泣いたということにしておいた……
ひとしきり泣いた後、とりあえず説明をする。
「過去の地球もそうだったんだが、この星でも邪神や悪神の影響が強い。 それが知らされていなかったのが過去の地球だったんだが、それは解決され、 対策が取られた事により地球人類は邪神や悪神の影響を脱することが出来た。 だからこそ、それからの進化と発展が可能となったんだろうな。 ちなみに邪神や悪神は星の周辺までの範囲しか影響を及ぼせないらしい。 まあ、これは俺が加護を貰ってる方の神様から教えてもらったことなんだが」
意外な顔をする楠見さん達。
「ヘー、宇宙の管理者と神とは同一だと思ってたんだが、そうでも無さそうだな話を聞くと。 するってーと、神は星々に住む生命体を管理し、管理者と名乗る存在は、 その名の通り宇宙そのものを銀河や銀河団、超銀河団という塊で管理しているわけか。 ようやく、この宇宙の裏の姿が見えてきたぞ……ありがとう、ラスコーニコフさん」
「いや、俺のことはラスと呼んでくれて構わない。友人や親族はラスと呼ぶから。楠見さんたちにも、そう呼んで欲しい」
「そうか、分かったよ、ラスさん」
「まあ、初対面じゃ、そのくらいかな? 呼び捨てでも構わないけどね」
同じ地球出身者同士、打ち解けた俺達は様々なことを話し合った。
俺は未来の歴史を知るため、楠見さん達は大昔の地球や日本のことを知るために。
その日は俺もジャックも久々に笑顔になった。
ちなみに、楠見さんは魔法は全く使えないが地球人のご先祖である始原の種族の血を色濃く伝える突然変異体、 ミュータントのようで地球人にして始原の種族が使用していたテレパシーとサイコキネシスを使えるらしい。
そんなもの使えるなら魔法より便利でしょうね、と言うと、
「そうでもない。これで色々大変なんだ、脳領域を開放すると糖分を一気に大量消費するから。 通常は開放度は30%がリミットになるようにしてる。それ以上は緊急事態にならないと使用しないよ」
ふーん、そうか、自分の力を使うから消費エネルギーは大きいだろうな。
魔法の場合、魔力は自然回復するから特に俺の場合は使いたい放題だ。
他の人間は無理だけど……
「ところで楠見さん。あんた、この星へ来たんだよな、宇宙から。大事なことを聞きたかったんだが宇宙船は何処にあるんだ?」
そう、同じ日本人に会えたショックが大きすぎて聞くのを忘れてたが、この星へ来たのなら宇宙船はどこに着陸した?
「ああ、中型の搭載艇で降りたんだけど、それは山中にステルス状態で隠してある。 本体の宇宙船は持って来られないよ。ロシュの限界で月が破壊される恐れがあるんでね」
な、なんだと?!
どんだけ巨大な宇宙船なんだよ!
そんな巨大な宇宙船を造れるまで地球人類の科学力って進歩したのか?
「まあ、銀河団を超えてきたってのが事実なら、そこまで巨大な船でも納得だけど。 でも、どう考えても人類に超巨大宇宙船は似合わないと思うけど……」
「あ、説明するの忘れてたな。宇宙船本体は超銀河団すら超えた異銀河のシリコン生命体文明の産物だよ。 完全に異質な文明と科学により造られたもの。それも、途中から2隻が合体して超巨大合体宇宙船ガルガンチュアとなったけど」
おい!
かるーく言ってるけど異銀河の生命体の種類すら違う文明の産物って、どういうことだ?!
「なんだか、ふかーい事情があるようですけど。今日は時間あるんで、お伺いしても?」
「まあ、構いませんが。拠点にしてる家もあるんで来ます? そこの狼ちゃんも大丈夫ですよ」
うわ、軽い星への訪問という割に結構本格的じゃないか。
普通、家を買うって移住するぐらいの本気度だろ?
お言葉に甘えて、お邪魔することにする。
店を出て、しばらく歩いたが、ここは商業区の外れ。
商店、鍛冶屋などが立ち並ぶ大通りからは離れているが居住区とも距離のある、錬金術士ならではという区域に建っている家だ。
「さて、ここなら他人に聞かれたくない話でもできる。ラスさんにも俺たちにも、そんな話はいっぱいあるからね」
楠見さんが語りだす。
「それじゃ、俺達のことから話そうか。いかなる理由で太陽系のブラック企業の一派遣社員が、 大宇宙のトラブルバスターとして銀河団すら超える、星から星へのトラブル解決に走り回ってるのか? って話を……」
あ、これ長くなりそうだな……
やっぱり長かった……
ジャックが睡魔に負けてしまうくらい長かった……
俺は興味が尽きなかったから耐えていたが本当に一晩中語っちゃったよ、楠見さん。
俺達二人の他に起きてたのはアンドロイドだというプロフェッサー氏のみ。
娘さん二人はジャックより先に睡魔に負けて早々に離脱。
ジャックは娘さん2人の間に入って、すやすやと寝てしまう。
こいつ、俺と寝るときには、ついぞ見せない安らかな寝顔しやがってまあ……
朝が来たが俺と楠見さん、プロフェッサーは元気なもの。
俺は体力を消耗するような事をしてないので元気なんだが、楠見さんは凄いな。
脳を含めた体内の血流まで、やろうと思えば調節できるらしい楠見さんは疲労物質など溜まるそばから排出するように身体ができているようだ。
とりあえず皆が起きてくるのを待ち朝食を食べながら(この朝食も中型搭載艇から持ってきた エネルギー=物質変換機で創りだされたものだそうで)これからの予定を打ち合わせしておく。
「俺とジャックは、これから迷宮へ行こうと考えてます。通常は多人数のグループで迷宮攻略を行うそうですが、 もし良かったら楠見さんたちも一緒にどうですか?」
と、俺は楠見さんたちを迷宮へ誘う。
「ファンタジーの定番、迷宮攻略ですか。現実には果たせない夢ですね。でも、我々が一緒じゃ迷惑になりませんか?」
と、楠見さんはご謙遜。
「あはは、楠見さん、俺の前で、そんなポーズは止めましょうよ。 魔法が使えなくとも高レベル冒険者に負けないくらいの能力、あるんでしょ? 楠見さん以外の皆さんも」
「いや、見ぬかれてましたか、やはり。普通は私のサイコバリアで全員守れるんですけどね、 やろうと思えば各自がソロで冒険者並みに動けるのは確実です」
やっぱりね。
ということで冒険者ギルドへ向かい、臨時のパーティを結成する。
ただし本式のパーティ結成ではなく楠見さん達は俺とジャックの付き添いのような形式を取る。
俺は本式パーティとしても良かったんだが、楠見さんが、
「パーティ組むとモンスター倒した経験値がパーティに等しく入るでしょ? 経験値は我々には邪魔だから不要です」
と一言。
そうなんだよな、あくまで彼らは、この星では「観光客」のようなものだから。
まあ、ギルド受付嬢には不審がられたが、生産職が冒険者にくっついて素材取りに迷宮へ行くのは良くあることらしい。
そういうことだよと、受付には話して納得してもらった。
まあ、質のいい物を作ってる錬金術士と言うことで、なにか特別な素材が必要なんだろうと推測したのかな。
では、出発だ!
迷宮へは乗合馬車が一日に数回、出ているので、それに乗って行くのが費用も時間も節約できる。
俺とジャックだけなら走ったほうが速いのは内緒。
都市の門から一時間半ほど馬車に揺られると、もうそこは迷宮の入口。
冒険者ギルドによって管理されている迷宮への出入口の横には、迷宮で役立つ様々なアイテムや、 今までに知られている攻略済みの階層情報が地図付きで売られていたりする。
俺も、ここで絶対に必要となるポーションは買わなきゃいけないと思ってたんだが……
「あ、ラスさん、ポーションなら買わなくていいです。私のバッグに固形薬型ポーションが30個ほど入ってますので」
わお!
固形の薬型ポーションって、話題の新商品じゃないか!
この売店でも売ってるが、けっこう高価なので個数は売れないらしい。
まあ、買っていく高レベル冒険者は決して少なくないが……
この新型ポーションの生産者だったんかい、楠見さんって。
あの、いちゃもんつけた冒険者たちが最後にぺこぺこ謝ってた訳、分かった。
この固形薬型ポーションが作られなくなったら、ギルド長ら上の方達の怒りが炸裂するだろうからな。
俺は、それじゃということで階層マップ(攻略済み箇所のみ)を購入。
食料は保存食関係は俺のマジックバッグに収納してあるので、大人数で長期の攻略道中でも問題なし。
さて、それじゃあ、地球人同士(俺は魂のみ地球人だけどさ)の気軽さで、レッツゴー、ダンジョンへ!
ラスコーニコフです。
今、俺達は迷宮に潜ってます。
俺達今、潜って2時間位しか経ってませんが、もう20階層目のボス戦となっております。
速すぎるだろうって?
そうなんです。
いくら俺とジャックが人外レベルの強さだとは言え通常ならば罠や宝箱開けるのに時間かかるのが普通。
それと相手だって武器やら身体能力やらが通常の猛獣・魔獣のレベルじゃない強さなのが迷宮ですので、多少は苦戦するはずなんだよね……
それが、この状況って何よ?
「ラスさん、ライムがボスを縛ってるうちに倒して! 一撃でしょ?」
あ、はい。
そうなんですけど……
「わっかりましたー。行くぞ、ジャック!」
わふ、と一声のジャック。
君も呆れてるんだね、この状況。
右と左から俺とジャックが一撃。
階層ボスだったはずのオークロードは、あっけなく首と胴体が泣き別れ。
ブシュッ!
という音と共に中くらいの魔石が残る。
「はい終了。楠見さん、あまりにヒドイです、この状況」
「ん? なんでだい、ラスさん。目標までの道のりなんだ、楽な方がいいじゃないか。あ、ボス倒したんで宝箱が出た。さて、と」
サイコキネシスで鍵部分をカチャカチャやってる。
ピン、と音がしてロックが外れ……
あっけなくお宝(これがマジックアイテム……でも汎用品の宝剣で売る以外に方法がない)ゲット!
罠についても同じ。
サイコキネシスで事前に罠発動、あるいは罠を発動させずに固定させた状態でさっさと進む。
無茶苦茶だ、これ。
迷宮の攻略方法としては理想的なんだろうけど、マップも魔力レーダーも意味がない。
途中から俺とジャックが攻撃を受け持ち、楠見さん達が罠発見と対処、そして敵の動きと攻撃を封じるという方針にしてから、サークサク♪
このままだと30階層ある迷宮も多分、夕方までかからずに攻略できる。
チートだな、これ。
あまりにあまりなチートチーム構成です。
さっきのは娘さん弟子のライムさんの奥の手。
なんと、ライムさんってスライムだった?!
後で聞いたら不定形生命体という種族らしかった。
スライムと違い特定の生命体に擬態できる……
違うな、正確に言うと、どんな生命体にもなれる(生存可能な領域・範囲というのはあるらしいが)のだそうで。
さっきのは基本の不定形生命体に戻り、オークロードを行動不能にしたというわけだ。
他にもレイスやアークメイジなどの知的な魔法使い相手には、エッタさんが対応。
なんと相手の思考を読めるのだそうで魔法発動のタイミングを正確に読んでくれる。
そこまで分かれば、俺とジャックの相手じゃない。
これもサクサクと倒して経験値と魔石を手に入れる。
迷宮に入って5時間……
予想通り俺達は最終ボスとの戦いに突入してた。
ここの迷宮はデーモンロードとバンパイヤロード各5名づつにアークレイスやアークメイジが10人。
普通は絶望する構成なんだろうが……
「はい、行動も呪文斉唱も止めました。さっさと倒してね」
ああ、あまりに呑気な。
はいはい、ジャックも呆れてるけど、これで終わりだからね。
歩いて的(敵?)に近づき、刀で一撃。
ジャックは飛びつきがてら牙と爪で。
相手のターンは永久に来ないな、これだと。
「楽なんですけど……あまりといえば、あまりのチート軍団です、楠見さん」
あまりのことに俺の本音が出る。
「言いたいことは理解できますけど、ラスさん。楽してレベルアップできるなら、それに越したことはないですよね」
いや、それはそうなんですが……
確かに、それはそうなんですがぁ!
これを是としたら、この世界と俺の中にある何か、根幹にある了解事項のようなものが崩れるような気がする……
魔石は俺達が貰い、宝箱の中身は楠見さん達に渡す。
今夜のレベルアップ確認が恐いな、これ。
地球人同士のチートチームは、あまりにヒドイと双方が理解することになり、迷宮探索はこれ一回にて止めることにした。
ちなみに次の日に鑑定魔法で確認したら、俺はレベル250超えに突入し、ジャックは200間近という物凄さだった……
まあ、これでもマジに楠見さんと対決することになったら勝つ自信は全くない。
あの人は、どれだけ自分の力を抑えてるんだかね。
緊急事態以外は30%までに抑えてるって自分で言ってたけど、迷宮内でも恐らく10%開放してないと思う。
冒険者ギルド内で人は俺の事を化け物だと呼ぶが、宇宙には俺など砂粒にもならない実力者がいる事が、しみじみと理解できた。
これからも精進して自分の生まれた星の邪神や悪神くらいは自分で倒せるようになろう!
でもって楠見さんに誇れるくらいの宇宙文明を、この星にもたらすのだ!
俺達が、この星に降りてから約1年が過ぎた。
この星では骨休みのつもりだったが意外なことに俺と同じ地球出身者と出会う。
まあ俺のように宇宙船で来訪したわけじゃなく俺の時代からすると、どえらく過去に亡くなった魂が、この星の人間に転生したらしい。
銀河団も違う宇宙に同じ地球の出身者がいた事にも驚いたが彼、ラスコーニコフ氏から聞いた話が、また驚くべきものだった。
なんと彼は、この星の神により転生させられたとのこと。
それも、よくよく話を聞けば、どうやら宇宙の管理者や地球の神も関係しているような風である。
一回、彼とパーティを組んで迷宮へも行ってみたが予想通りというかなんというか、 お互いの能力が予想をぶっちぎっているため簡単に攻略が出来てしまった。
お互いに相手の能力に呆れ返ってしまい、二度目のパーティ編成はなかったが良い経験になった。
俺の感覚だと彼はスキルやレベルが際限なく伸びるようだ。
俺の脳開放は、もう限界が近いから将来的に言うと彼の方が強くなるだろう。
まあ、この魔法が使える星という特殊環境に限ってのことなんだが。
俺が、どうしても感覚として掴めなかった「魔素」そのものの使用方法にも熟達しているようだったので近い将来、 彼の言う邪神や悪神との対決も可能になるのだろう。
ただし邪神やら悪神やらを倒した後、ラスコーニコフ氏がどのような存在になるのか?
それは、さすがに俺にもわからない。
俺は自分の心の赴くまま、宇宙に飛び出してしまった。
結果的に一番良い運命となったが彼、ラスコーニコフ氏の場合は星の特殊事情により宇宙へは出られないだろう。
神を倒すということは己が神となる事と同義となる。
彼は、あれほどの技と魔法、精神の強さは見せたが基本的に人間だ。
果たして、人が神となった時、神たる精神の高みと安定を保てるのだろうか?
俺は実は怪しいと感じている。
人たるものが不安定な心のまま神になった時、それが邪神や悪神と呼ばれるものにならない保証はない……
まあ、その事で俺が何とかできるか?
というなら今現在では何とも出来ない。
悪に傾く可能性があるからと個人を抹殺できるか?
無理だろう。
まあ、若干の不安はあるが今のラス氏であれば大丈夫だろう(未来は不確定だし)
約一年の惑星ぐらし。いい長期休暇となった。
いつものように、ここで作ったもの、そのデータを図面化したもの、性能を詳細に説明した文書も全て商業ギルドへ持ち込む。
「あ、クスミさん、いつもご苦労様です。あなたの工房の製品、いつも大評判ですよ!」
うん、いいことです。
「あー、それについてですが……ちょいとギルド長様にご相談が……いいですか?」
「え? 少しお待ちを……え? 大丈夫ですか? ……はぁはぁ、ギルド長、今なら大丈夫だそうです!」
「ありがとう。では、おじゃましますね」
数十分後……
「クスミさん?! 何を言い出すんですか?! 今、あなたとお弟子さんたちに旅立たれてしまったら、 この街で特産品になりかけてる製品が、すべて生産中止になってしまいますよ! 用があるなら冒険者たちを雇っても構いませんし、 なんなら例外的に錬金術士でも貴族に叙する事も可能です、あなたなら!」
やっぱり旅立つという一言で、こうなったか……
「あ、いえ、我々はあまり1つのほし……いや、1つの街に長くいられないんです。放浪を宿命付けられた一団と言いますか……そこで、ですね」
この街で俺達が発明したもの、改良や改造を施して実用化したものの全てを商業ギルドに図面付きで譲渡する事を提案する。
もちろん、無償で。
「クスミさん、本気ですか? これ莫大な資産になりますよ?」
「分かってます。ただし商業ギルドでこの製品を作るのも売るのも、 その説明書に書かれた通りの性能を発揮する物しか制作も販売も許可しません。 これは製品を使う人に危険がないことを前提とするものですから」
「はい、難しいでしょうが、ドワーフや職人たちに協力願えれば大丈夫でしょう……しかし価格については原価に近いもので、 できるだけ安くすることと言うのは……正気ですか?」
「ははは、言われると思ってました。原価でも高いんですけどね。ただし、 これらについて私は金銭を要求しませんので、その点だけでも安くしてください。 長い旅になると思いますが、また戻ってくる予定ですので、その時にあこぎな商売してたら、 その時には私も本気で怒りますので、そのつもりで」
表情変えずに喋り、俺が本気だと思わせる。
ギルド長、青くなったが、最終的には、その条件で俺の工房の製品全ての引き渡しを了承する。
最終日には、この星で稼いだ金を全て使い、ギルド加盟者だけでなく街の全てを巻き込んでの一大どんちゃん騒ぎを行う。
拠点も引き払うので、もうギルドへ告知済み。
次の日、街の皆が酔い潰れている中、一人の人物がテイムしている魔物と一緒に俺の前に現れ……
「楠見さん、行っちゃうのか」
「ラスさん、もう時間なんだよ。宇宙船の整備と主砲の調整も終了したそうだからね。いい休暇だった。気が向いたら、またこの星に来るかもね」
「同胞がいなくなると寂しくなるな。まあ、次に来る時までには、この星に邪神や悪神がいないように頑張ってみるさ、期待してていいぜ!」
「ふっ、期待してるよ。平和な星になってること」
お互いにサムズアップ!
これ以上の言葉は不要だ。
俺達4名は俺のサイコキネシスで空中へ。
テレパシーで呼んだ中型搭載艇がステルス状態で待機しているので乗り込む。
地上から見ると俺達が空中に溶けたように見えるかな?
では、さらば同胞!
神との戦い、成功する事を祈っている!
「マスター、お待たせしました。私もガレリアも万全の状態です。巨大合体宇宙船ガルガンチュア、発進準備、完了です」
「フロンティア、お疲れ様。主砲の整備と調整も終了した?」
「はい、今までになく我が機体は順調作動しております。主砲も万全です!」
「よし、では行こう。超巨大宇宙船ガルガンチュア、星系を出る! 微速前進、星系を出たら、跳躍航法にて隣の星系へ向かう!」
宇宙は広い、個人の思いなど飲み込むように……
今日も宇宙は平和である、平和を維持している無数の生命体も含めて……