第四章 銀河団を越えるトラブルバスターの章

第二十六話 暗黒の銀河

 稲葉小僧

ガルガンチュアは、今また銀河間の虚無空間にある。


「ガレリア、今度の銀河間航行には変に時間をかけていないか? 今までの銀河間航行って、もっと短時間だっただろ?」


俺は丁度近くを通りかかったガレリアに質問する。

今回の移動はフロンティアが先頭になっているせいか、ガレリアは暇そうにしている。


「そうなんだよ、主。私は通常の予定通りに銀河を渡ろうと言ったんだが、フロンティアが、どうしても今回だけは探知を主にしたいと言うもんで、こんなノロノロ航宙になってしまってる」


そういう事か。

フロンティアは俺との付き合いが長いせいか機械知性らしからぬ感情を、たまに発露する。

ガレリアは、まだ機械知性らしい反応をするのでフロンティアとの会話や会議(双方の宇宙船がよくやる、会話を超えたデータのやりとり)に齟齬が出る時がタマにあるのだそうで今回のノロノロ銀河間航宙も、その口だろう。

一日一回の全員参加ミーティングにおいて、俺はフロンティアへ質問する。


「フロンティア、現在のノロノロ運転の理由は? 銀河間だから何もない……とは言わないが少なくとも、こんなノロノロ進む理由はないだろう」


答えが驚くべきものだった。


「それがですね……はっきりとした理由は自分でも分からないのですが……何だか、次の銀河へ到着するまでに何かあるという確信があるのです」


これは機械知性じゃなければ第六感で説明できることではあるんだが……


「フロンティア、それはおかしい。お前は私よりも先に宇宙を漂う宿命から目覚めて様々な経験を積んでいるのは理解している。しかし、それでも理由のない行動を肯定はできないぞ」


さすがにガレリアが異を唱える。

ガレリアの反応のほうが機械知性としちゃ普通なんだよな。


「ガレリア、言いたいことは分かります。でも私の行動には確信があるのですよ。どこの誰かは分かりませんが、私のメモリの中に命令が残っています」


ん? 

どこの誰かは知らないけれど、言いつけられたことは憶えてるって意味だよな? 


「フロンティア、確認したい。お前、機械生命体の銀河を出発してから宇宙船から出るようなことは無かったはずだよな。そこだけ確認したい」


「はい、さすがに銀河間は長距離なので、跳躍航法のポイント誤差が気になります。ですから本体と離れることはありませんでしたよ」


ということは、この巨大宇宙船ガルガンチュアとダイレクトに連絡をとれる奴……

一人、というか一存在というか。

そういう存在に心当たりがある。


「フロンティア、それは多分、宇宙の管理者だ。他には精神生命体とかも考えられるが、あんな存在は銀河系にいる奴だけだろう。宇宙の管理者からのメッセージを受け取ったんだよ」


「主、宇宙の管理者というと、もしかして、私やフロンティアを以前のマスターと切り離して、なおかつ我々を宇宙に放り出した奴か?!」


フロンティアは俺を通じて管理者の存在と役割を、ある程度認めているようなんだが、さすがにガレリアは、そこまで達観してないようだ。


「まあ落ち着け、ガレリア。知らないとはいえ、とんでもない目にあったことには同情するが、フロンティアも同様の目にあってるんだ。管理者も情け容赦のない存在ではないようだし、宇宙の段階が上がるに連れて通行許可の条件が厳しくなるのは、お前も予想が付くだろ?」


「ま、まあ言いたことは分かる。しかし主、その管理者が、なにゆえに、それもフロンティアだけに指示や命令を残すのだ? 通常は、主のようなマスター権限を持つものに託すだろう?」


んー、そうなんだよな。

だからこそ、フロンティアだけ知っているという事が腑に落ちない。

俺が、その理由を考え始めた時、フィールドエンジンで衝撃など感じないはずのガルガンチュアに衝撃が走った! 


ドン! ! 


「全員、衝撃に備えろ! 大したことはないが、このガルガンチュアにショックが走るのはタダ事じゃない! フロンティア、ガレリア、共に準戦時体制! 副砲までのロック解除! その他の攻撃用・防御用システムは全てロック解除許可する!」


船体シールドを戦時用まで強化したのか、ショックは薄らいでいく。

フロンティアに目をやると俺の意図が伝わったようで、


「マスター、これが残されていたメッセージの内容です。不意打ちを食らう恐れがあるので、注意せよ。ですが、やはり充分ではなかったようで」


まあね。

一撃でガルガンチュアを一部でも破壊できるような武器は、そうそう存在しないよ。

俺達は銀河間の跳躍航行は中止したが、光速に近い速度で目的の銀河へ進んでいく。

仕方がないな、ガルガンチュアを直接狙ってくる奴がいるとは思わなかった……


敵と探知に時間をかけたので、ずいぶんと時間がかかったが、ようやく目標の銀河に到着。

ここでも気を抜かないフロンティアとガレリアは慎重に慎重を重ね、搭載艇群を放出して情報収集に当たる。

あの銀河間空間で攻撃してきた相手は、どんな生命体あるいは文明の仕掛けた罠だったのだろうか? 

あの衝撃を受けた一回だけだったので別に修理や修復に時間をかけたわけではなかったんだが、やはり気になる。

なんせ、この超巨大宇宙船に攻めかかろうとする相手だぞ? 

あの攻撃だって、後から分析してみると軽く通常の一個艦隊(巡洋艦や戦艦・空母を中心とする16隻が宇宙艦隊の一個艦隊と称する。それぞれの星系で数の大小はあるだろうが、これが標準)は壊滅できるほどの宇宙機雷だと分かったが、ガルガンチュアのバリアを抜けるほどの攻撃力は無かったようで一安心。

しかし、あんな宇宙空間の特定ポイントに機雷群を設置するとは、よほどの軍師がいるか、それとも太古の銀河戦争の証か……

こりゃ、この銀河のトラブルシューティングは、前途多難だぞ。


半月もすると搭載艇群からの情報が、ぼつぼつと上がってくる。

うーん……

何だかなぁ……


「我が主、この銀河でのトラブルシューティング、本当に実行されるつもりですか?」


「マスター、私も早々に、この銀河を立ち去ることに賛成します。ここは、下手すると銀河での大戦争になりかねませんよ」


「ご主人様、ご意見を申し上げます。私は、あえて介入すべきかと。あまりに無秩序です、ここは」


「キャプテン、私もエッタに賛成します。教え導く人物がいないので、ここまでひどい状態になっているんじゃないでしょうか。介入すべきです」


みんなの意見が出揃った……

あ、いや違う。


「ガレリア、お前だけ意見を言ってない。どうするべきだと思う? 忌憚のないところを言ってくれると助かる」


「主、そこまで言われるなら。私は、この船と主の能力を考えると、この銀河のトラブル……これをトラブルと考えるならの話だが……を解消して平和な銀河にする必要があると主が考えるならば、介入すべき。そこまで主に、この銀河への思いが無いければ、とっとと次の銀河へのコースを算定すべきだろう」


ガレリア、仲間になってからは、まだまだ歴史が浅いが、俺という人間の本質を見抜くような答えをするな、こいつ。


「そうか……俺自身の考えを述べると、俺は、この銀河の状態は、まあ酷いものだと思う。あの銀河間空間に宇宙機雷の山を設置してくれた奴らと同じか、それとも違うのか。そこが問題じゃなくて今の問題は、この銀河が、いわゆる暗黒時代の地球は北米のようなものだってことだ」


俺は、ひとまず言葉を切る。


「そして、だ。あの暗黒時代を終わらせたのは一人の税務官僚。警察官僚なら賄賂で腐ってる奴らばかりなんで最後に残るは税務官僚だけだったという話……この銀河も1つの星系国家だけでなんとかできる範囲を超えて、悪党たちが我が物顔で銀河を荒らし回ってる。こいつを何とかできるのは俺達だけだろうね」


「では、最終判断をいただけますか? マスター」


フロンティアが最終決定を迫る。


「決まってるさ、介入だ。この銀河、悪党ってデブリをキレイに浚って暗黒時代に突入した銀河に輝きを取り戻す!」


決定後は、やることが決まっているので行動は早かった。

まずは拠点づくり。

ガルガンチュアは銀河の縁へ駐留させて、その周辺宙域の大掃除。

それだけでも宇宙海賊の小さな集団を5つも壊滅させることになったのは、ご愛嬌。

こちらの足場を固めたら、まずは銀河の周辺宙域から掃除を開始する。

まあ、これも邪悪な宗教組織相手にやってきた例があるからね、作戦は同じようなものだ。

周辺宙域からの組織関係の団体やら隠れ蓑団体に対し、金銭供与を断つ! 

そして組織の金の流れを掴んで、星系警察組織か、あるいは星系の税務組織へご注進に及ぶ。

自動的に向こうで組織壊滅、あるいは脱税調査となるため後は放っておけば壊滅状態となる。

これを繰り返すこと数回。

一応、拠点とする星系の浄化は完了する。


面白いことに俺達の影の行動が星系の上の方に知られたらしく、星系政府から依頼されて闇の組織対策Gメンとなることを要請される。

俺達の正体は隠し通してるからバレてない。

俺達は、この政府からの要請を受けることにして、この星系と交易のある別星系でも活動を始めることにした…



ギャング・悪党というものは環境の変化に敏感である。

それは兎のような敏感さだと言っても良い。

肉食獣のように「狩る」存在の彼らが何故? 

との問いには、こう答えるしか無い。


天敵がいるからだ。

悪党にとっての天敵、それは、弱いものの側に立ち、搾取や圧政・理不尽な暴力から弱者を守る者。

正義の味方? 

そんな格好の良いものじゃない。

悪党には悪党の理念も正義もある。

しかし、ただひとつ、彼らは弱者ではなく、弱者を追い詰め狩るものである。

それに対し弱者の側に立ち、それを守るものが持つのは信念と己の信ずる理想のみ。

それが崩れる時、いとも容易く、守るものは狩るものに変わってしまう……

そう、守るものは立ち位置を変えた「狩るもの」に過ぎない。

そう、そのはずだった……

その一団を除くなら……


「おう、そこの。今日の売上、えらく少ないじゃねーか、よ!」


黒いダブルのスーツにサングラス、いかにも、その筋の猛者というヤセ型ながらも筋肉は落ちてないスマートな男が自分より若いやつを小突いている。

どうやら上納金の額が足りないので少し締めあげてやろうという腹づもりらしい。


「あ、あにぃー、勘弁してくだせーよー。このところ、シマを巡回して集金しても、どう脅そうが殴ろうが、てこでも払わねーって奴が増えてきたんですよ―」


「おぅ? 脅しても殴ってもダメだぁ? そこまで行くならチャカでやったらんかい!」


バシィ! 

と、どんな力で張り飛ばせば、そこまで飛ぶのか? 

若いのは5mあまり吹き飛んで事務所の壁に貼り付け状態。


「あにぃー、俺にはチャカなんて持たせてくれねーじゃねーですか。あにぃーみたいな有機サイボーグでもねー俺に、そんな無理言われても出来ねーっすよー」


三下には三下なりの理屈があるようで無理難題を言ったという自覚があるのかどうか、スーツ姿の男は、


「よし、分かった。俺が乗り込んでやるよ、おめーと一緒にな。そうすりゃ、相手も出すもん出すだろ?」


「さっすが、俺のあにぃー。よろしくおねげーします!」


「なーに、かわいい弟分のためだー、はっはっはっ」


下衆の極みである。

その話を聞きつけたか奥から、でっぷりと太った、いかにもという顔の初老の男が出てくる。

その世界では、ずいぶん前からの他の組織との抗争を双方の痛み分けという形ではあるが終了させて、小さな組織に過ぎなかったものを倍以上の組織員の数に膨らませ、支配する地域も3倍以上に広げたという、やり手の男だ。

ただし、噂では、この男が計画したんじゃなくて、その直属の部下の一人、懐刀と言われる者が全てを取り仕切ったという話だが……


「おう、お前ら、ちゃんと働けよ。今どき、切った張ったじゃ飯は食えんぞ。真面目に、毎日、集金に回って、売るもん売らなきゃ金は入って来ねぇ。分かってるか? おぉ?」


へい! 

分かっております。ちゃんと働ける毎日に感謝しております! 

と、事務所の全員が声を揃えて合唱のように答える。

こんなとこで、売るものといえば違法薬物。

一度だけなら眠気が取れたり徹夜の疲れも吹き飛ぶが、常用すると肉体がボロボロになり、精神にまで異常をきたす恐ろしいものだ。

厄介なことに、この組織の管理職には悪魔の如き知恵者がいるようで、星系間貿易で手に入れた異種族の薬品を、この星の人間に使うという、とんでもない事を考えて実行している。

異種族の星では、それは普通にドラッグストアで売っている頭痛薬のようなもの。

しかし、メタボリズムの全く違う種族に、その薬を使うと……

その効果は数100倍にもなり、習慣性や中毒性まで出る恐ろしいものとなる。

若いのと、スーツの男は、その魔薬とも言える毒物をスーツケースに大量に放り込み、


「ちょいと営業に出てきますのでー」


「しっつれーしやしたー」


と、いとも軽く事務所を出る。

その行く手に待ち受ける地獄を、まだ彼らは知るよしもない……

このコンビ、あくまで事態を軽く考えていた。

まあ、この手の構成員は、ごくごく一部を除いて、口より先に手が出るタイプばかりなので、スタンダードなのだが。

今回もショバ代やミカジメ料、つまりは「自分たちは何もしないけれど何もしないことが平和なんだから、おめーら、さっさと払うもの払わんかい!」の、言いがかりと強請りタカリの金。

しかし、今日ばかりは、このノーミソ筋肉コンビも最悪の厄日だったようで……

まずは、

断固として払う銭なんざねーぞ! 

おめーらみてーな人間のクズは、さっさと小惑星の開拓作業でもアブれるくらいの日雇いでもやってろや! 

ってな感じの、威勢の良い老境の方……


「おうおうおう! 今日は、俺のあにぃーが来られとるんじゃ。あにぃーは恐いぞ―。なにしろ有機サイボーグだからよー。ちょいっとオメーを可愛がるだけで、体中の骨がバラバラになるかも、な。きゃははははは! それが嫌なら、出すもん出しな!」


と、凄む三下。

これで、恐れ入りましたと金を出すかと思いきや、耄碌、いや、老境の方と交代に、見知らぬ男が一人。

三下より見る目があるダークスーツの男は、その人物を見て、ただもんじゃないなと理屈じゃなく本能で理解する。

まとっているオーラというか、空気というか。

自分に比べて、いや、比べるものとてない。

うちの親分や、その上の総長、大幹部のような雲の上の方々でさえ、こんな空気、雰囲気は、まとえるもんじゃねぇ……

ダークスーツの男が内心で冷や汗を流している頃、三下は、そんな気を感じることすら無理なようで、交代して出てきた人物に対し、いつものように……


「お? また、優男が出てきたな。兄ちゃん、悪いことは言わねーからよ、こんな場へ、しゃしゃり出てくるんじゃねー、よ!」


いつものように木刀で一発殴れば、こんな奴はヒーヒー言いながら引っ込むだろ? 

と、いつものように、

……できなかった……

木刀は確かに、その優男の顔面へヒットする寸前。

そこで止まっている。

三下が止めたわけじゃない。

彼は力いっぱい木刀を叩きつけようとしたのだ。


「う、動かねー。てめぇ! 何かしやがったな?! 木刀が、押しても引いても、ビクともしねー。あにぃー! 何とかしてくだせー! お願いしますー!」


木刀も、その木刀を持つ手も何かに固定されたように、その場から動かない。

ダークスーツの男は自分の有機サイボーグの力をもってすれば! 

とばかりに三下の木刀を持つ。


「ん、確かに動かねーな。おい、そこの兄さんよ。サイボーグの俺の力すら及ばぬ物は久しぶりだ。このバカが失礼にも、あんたに殴りかかったことは詫びよう。これ、動くようにしちゃ、くれねぇか?」


その言葉を聞きたかった、とでも言いたげに、優男が、ふっと肩の力を抜く。

それだけで、びくともしなかった木刀と、それを持つ三下の手は自由になる。

優男が、はじめて口を開く。


「これは、ご挨拶という事で。こんな具合に君らの組織は、もうすぐに上から下まで押しても引いても何も動けなくなるってことを憶えておいてくれ」


くるっと背を向けると優男は去っていく。

気がつくと老人もいない。

三下も、その上司たるダークスーツの男も、自分が経験した事が現実かどうか、認識するのに時間がかかる。

自分が理解できない、何か不思議な力で無力化されたと認識した後に、彼らは次の集金周りをすることができなくなっていた……


あいつが出てきたら、何もできない。

暴力も、サイボーグの力さえも通用しない謎の力を使う優男。

彼らの頭の中には、それまで感じなかった「恐怖」という感情が渦巻いていた。

自分の理解の範疇には無い、異質な人物と、その力。

事務所へと早足で帰った二人は、何故か、青い顔で、事務所の隅に体育座り。

冬でもないのに毛布を頭から被り、ガチガチと恐怖に震えている。

事務所にいる暴力の専門家たちも一目置くマッドドッグ(狂犬)と呼ばれる二人組は、これ以後、使い物にならなくなったという……


組織の構成員がやられた……

そのニュースは、その組を中心として上部組織へも下部組織へも急激に広まる。

ただ単に、のされたとか反撃されて倒れたとか言うなら、まだ組を上げてのお礼参りでメンツは保たれるが、今回は違う。

丸腰の相手に木刀で打ちかかって逆にやられたという。

それも、殴られたとかではなく当たる寸前で止まったという……

事務所の誰もが、その状況に


「? ? ?」


と首を傾げざるを得ない。

止まった? 

受け止められたとか、ではなく? 

その現場を見ているのは、事務所の隅でガタガタ震えている二人のみ。

子細を聞いても全く要領を得ない答えばかり。


「あいつが言ったんだー。この木刀みたく、お前らの組織は上から下まで身動きできなくなるってー。ううう、あいつが、あいつが来るーっ!」


三下は、もはや用無し。

言ってることが支離滅裂。

兄貴分の方は、まだ言ってることは分かるんだが……


「本当だ、本当に、その場で、いいか、奴は何も持ってなかったし、あいつの手が木刀に触れたとかも無い。しかしな、まるで空中に縛り付けられたかのように……俺の力でも、有機サイボーグ化した俺の力でも、ピタッと空中にある木刀も、舎弟の手を外すことすらできなかった。ありゃ一体、何だ? 手品の類じゃないのは俺が確認してる。見えないほどの細い糸で固定したとしても、俺の力は500馬力だ、動かせねぇはずがねぇんだ……俺は、魔法とか全く信じなかったんだが、あいつは本物の魔法使いかもしれん……」


これも、頭から信じられない話だ。

何もない空中に木刀を、その握る手も共に固定化し、圧倒的な力でも動かせない……

親分と呼ばれる太っちょは、その男を探すように構成員全てに知らせる。

手くいけば、俺の座る椅子を、もうひとつくらい上げてくれるかも知れないからな……

親分は気楽に考えていたが、これが傷を広げるとは、考えもしなかった。

下衆は、自分以外も下衆と考えるのだ。

数日後、泡を食ったような構成員の集団が、事務所に駆け込んでくる。


「お、親分! 親分の言ってた、例の男らしき奴が、この事務所に向かってきます! 確かに丸腰で、チャカもドスも、ナイフすら持ってません。しかし、あいつはヤバイですぜ、親分。言っちゃあ悪いですが、奴の持つ風格とか雰囲気は、もうこの事務所にいる奴で敵う奴がいるわけ無いと断言できるくらいです。に、逃げましょう、恥じゃないですぜ、生きてりゃ儲けものだ!」


太っちょは、こいつは何を言ってるんだ? 

と、ギロリと睨む。


「親分、今まで俺は、あんたの眼力が怖かった。しかし、あいつを見た今、親分の眼力は小学生みてーなもんだと思えます。アイツを一目でも見たら分かる奴には分かる! ありゃ、人間の形をしちゃいるが化けもんです!」


仮にも親分と呼ばれる人物である。

切った張ったの場数は、それなりに踏んできている。

そう思っていたのだが……


「や、こんにちわ。今から、この事務所、実質的に潰させて貰いますので、よろしく!」


えらく明るい声が、事務所入口の方から響く。

その声に怒りの声で答えているのは、組員に成り立ての若い奴ら、または舎弟の組員未満ばかり。

正規の構成員、いわゆる組員たちでも古参になればなるほど、その男の雰囲気、風格に呑まれて言葉も出ない。

組長は、なけなしのプライドから、その男を見ようとして事務所へ顔を出す。

見なきゃ良かった……

親分は後悔する。


あの二人組が、あんなに震える理由が分かった。

ありゃ、人間が持つ雰囲気とか、そんなもんじゃねぇ。

神とか魔神とかがいるのなら、あの男は、それだ。

そんなものに逆らおうと考えること自体が罪に当たるのかもな……

親分は事務所の閉鎖と組の解散、下部組織への解散通達を即座に実行したという……


「マスター、今回はテレパシーを圧力と感じるくらいに放ってたんですって?」


「ああ、どうなるか興味があったんだが……さすがにやり過ぎたかも知れないと思ったよ……もう、地球の旧きビブリオファイルにある印籠並だったもんなー。あれは、トラウマになるかもな」


軽く言っているが、元組長以下、正規の構成員達の中には毎夜、眠りにつく度に悪夢で飛び起きる者が続出し、精神科クリニックは大繁盛だったという……


その日から、組織の崩壊が始まった……

崩壊をはじめてしまった自覚のない元親分には、自分たちが所属していた組織が、どれだけ地元に根強く蔓延っていたかを思い知らされることになる。

まず、中間にあった「組」の崩壊。

それと共に、その下部組織であったチーマーや暴走主体の改造バイク乗り達の集団も崩壊していく。

それだけなら話は理解できるが、意味がわからないのは「組」より上の組織すら崩壊していくこと。

自分たちの組が大きくはないことを自覚していた元親分には、圧倒的に大きかった上の組織の幹部や大親分、会長や大御所と呼ばれる、影にいるはずの雲の上の方達にまで捜査と逮捕の手がかかるのを、メディアニュースで呆れながら見ていた。


「これは、やらせじゃありません! スタジオからの仮想映像でもありません。今、この場で起きている、リアルな現実です! この地域どころか、地方を牛耳っていた、影の大御所と言われる人物が、今、その隠れ場所から引き出され、連行されていきます! その目は虚ろ、表情は絶望……私の目に映る人物像は、とても現代の地方自治そのものを裏から操っていたと噂される人物のものとは思えない、人生に絶望した老人の表情としか思えません。果たして、この老人に何が起こったのか? ……え? 警察本部から緊急特報?! で、では、今から切り替えます!」


リポーターから送られたカメラは地方の警察組織の本部を映している。

その地方の広い範囲をカバーするため、庁舎もバカ高くて大きい。

その玄関前から明らかに高官と思われるスーツ姿や本部長やら参事官やら、地方の警察署長やら100人近い大群が手錠と縄付きの姿で引き出されてくる。

一体何事?! 


「えー、警察本部玄関前です。暴力組織に金銭あるいは賄賂や物的・ピンクサービス等で便宜をはかってもらっていた容疑で警察の上部が次々と逮捕されていく光景。私は、こんな光景を見るのは生まれて初めてです。何かと怪しい煙たい噂が流れていた警察組織に、ついに自浄のメスが入ったということでしょうか」


ガサ入れの日時を事前に教えてくれていた部長や課長などの顔も見えた。

元親分は心の底から、


「あー、あの時に解散しといて良かった……これからは心底、心を入れ替えて真面目になろう!」


こう思ったという……

逮捕された警察上部組織の者達は最初こそ怒り心頭で、


「バカなことを! 組織が回らなくなるし、こんなものは冤罪だ!」


その言葉を放った舌の根が乾かないうちに検察官は書状を突きつける。

そこには過去に自分たちのやって来た悪行の数々と、暴力組織との馴れ合い、共存どころか依存していた現状の事まで全てが克明に書かれ、組織と警察の定例会合までスッパ抜かれていた。

前代未聞とまで言われた同時進行の検挙合戦(口さがないマスゴミは対立を煽ろうとしたが、そのゴミにすら上部に暴力組織とつながりのある人物が複数いることが分かり、一気にマスゴミは信用を失う事となる)

それを場末の薄汚い安食堂でニュースとして見ているのは……


「プロフェッサー、あのデータは本当に爆弾ものだったな」


「ええ、本当に。我が主の力で本人たちの記憶の中から読みだした、二重帳簿やら警察との談合例会写真やら様々な証拠をデータチップで検察本部へ送ったら、しばらくして、蜂の巣つついたような大騒ぎになりましたからね」


「今回、サイコキネシスは使ってないけどな。ちょいとエッタに指導してもらって、ターゲットの表層意識の少し中まで覗けるようになったんで証拠データは選り取り見どり! いやー、楽だったわ」


「えーっと、それを楽だと言える我が主の常識が恐いです。普通、こんな簡単に証拠なんか掴めませんって!」


「まーね。それにしても、汚いのは組織と警察だけかと思ったら、それを放送するマスゴミも。これには驚きだったね。あっちこっちでトップ屋やマイク片手の突撃レポーターが多いなと思ったら、プロデューサーより上のレベルで癒着してるんだからタチが悪かったね。まあ、この際、悪いのはまとめてポイしちゃいましょう!」


検察が頑張ったおかげか、それとも影の主役が裏から手を回したのか。

今回の逮捕者全て、死ぬまでの開拓星送りとなった。

老人だろうが話題の芸能プロデューサーだろうが、もう犯罪人で、じゅっぱひとからげ。

一年に一回しか連絡船の来ない未開の星で、死ぬまでの肉体労働作業に従事させられる。

死期が早まる? 

いや、そんなことはない。

医療設備は最新のものが整っている。


手足を失っても、よしんば胴体を失っても、頭部だけあれば有機サイボーグの身体に載せられる。

ただし管理官もいなければ、部下も友人もない無人の星だ。

医療技術が完璧なだけに狂うこともできず、ただただ労働の毎日を過ごす運命……

死んだほうがマシだったと、ここで見つかった手記に書かれていた……



俺の名はアルフレッドⅣ世。

俺の先祖はケチなコソ泥から成り上がって、アルフレッド帝国とも言うべきものを社会の闇に作り上げた。

警察とは最初の頃は色々と悶着があったらしい。

ガニマーやら、デュパーンやら、ホームスンやら、当時の名刑事や名探偵達とも、やりあったらしい。

まあ、そのへんは公式記録とやらで、ちょいと大きな本屋なら、その顛末を記したデータブックが売られてる。

その次のアルフレッドⅡ世の時には、もうアルフレッド帝国に敵うものがいなくなったらしく、退屈になったご先祖は海を渡ることにしたようだ。

まだ見ぬお宝、まだ見ぬライバル、まだ見ぬ伴侶を求めて、ということらしい。

で、はるばる星を半周して大陸の途切れた、さらにその先の弓の形をした島国へ上陸したんだと。

何を思ったのか、ご先祖は、その国にあった製鉄技術に惚れ込み、その製鉄技術を得るために部族長の娘と結婚し、その地に落ち着いた。

その地で製鉄技術と共に太古より伝えられていた刀剣製造の技術も得たご先祖は、苦心惨憺の末に一本の刀を打つことに成功したんだそうだ。


どんな刀かって? 

そりゃ、聞くだけ野暮ってもんだぜ。

抜けば玉散る氷の刃、その刀にかかったら断てぬものは何もないという、まさに魔剣、妖刀の類さ。


ちなみに俺はガンマニア。

愛用の銃はあれど刀剣類は好きじゃない。

ちょいと横道にそれたな。

それを持ってアルフレッドⅡ世は、世直しとばかりに、その当時の腐りきった政府や大富豪、横暴の限りを尽くす地方代官などを狙って、ご先祖の血を復活させたんだそうだ。

つまり、持ってるものの金を持たないものに還元してやるってこと……

つまりだ、怪盗復活ってやつだ。


もともと、血のなせる業なのかⅡ世の盗賊としての技術はズバ抜けたものだったらしいが、そこに妖刀が加わったもんだから相手になるものがいない。

あっという間に、その地では知らぬ者のない大怪盗となり、全国指名手配と相成りましたとさ。

捕まったのかって? 

おいおい、俺はⅣ世だぞ。

そのへん考えりゃ、当然のごとくさ。

襲い来る官憲の手から、ことごとく逃げ去り、そのついでとばかり食料倉庫や宝物庫を襲って、そいつをまた民間にばらまく。

時の政府からは睨まれ追われたが、民衆は両手を上げて歓迎した。


まあしかし、怪盗の現役は、どんなに頑張っても20年がそこそこ。

それ以上は、身体が言うことを聞かなくなる。

それからⅡ世はⅢ世を鍛えはじめた。

Ⅰ世と比べてもⅡ世は傑出していたが、Ⅲ世は、それ以上だった。

世の趨勢というのもあったのだろうが、Ⅱ世の時代には、その国を出るというのは命がけの事だった。

しかし、Ⅲ世の頃になると、世界は小さくなっていた。

星が縮んだわけじゃない、移動手段が増えたのと、その移動時間が一気に短縮されたのだ。

Ⅱ世が、その息子に全てを譲った時、Ⅱ世は息子の未来については心配していなかった。

Ⅱ世は、彼の息子が自分よりも優れた怪盗であることに疑問を憶えなかったと言われる。

その通りⅢ世は世界を股にかけて怪盗ぶりを発揮していった。

アーメリーカ国では不自由の女神の像とやらを盗み出し、イージリッス国では女王の椅子を、フラフランス国ではギロチン台を、痛リーヤではロマーノーの禁書図書館より古代の発禁卑猥図書を盗みだしたそうで。

まあ、どの国も国家の威信にかけて捕まえなければならぬ事件であるが、物品に関しては、そんな大切なものでもないという……

そんなⅢ世が、いよいよ引退の時が近づいてきた時、俺に向かって、こう言った。


「俺はアルフレッドⅢ世の名を継いで、この星を引っ掻き回した。まだまだ、怪盗や義賊の活躍が期待されてたからな。だけど、今じゃ、怪盗も義賊も、この星じゃお役御免。ただの犯罪者と同格だ。さて息子よ、アルフレッドⅣ世として、お前なら、どうする?」


親父の疑問に寸時も惑うこと無く、俺は言ってのける。


「親父、この星が平和なら、俺は宇宙怪盗になる! もっとでっかい、スケールの大きなものを盗んでやるさ!」


この時から、俺、アルフレッドⅣ世は宇宙怪盗として世に名を残していく。

とある星では、その星系最大の秘宝と言われる指輪を盗みとり、はたまた、あちらの星では、惑星の核の近くにあった直径50mの純粋天然ダイヤを盗み、そちらの星では過酷な運命に遭っていた他の星の姫君を奪い取り(このお姫様には後で酷い目にあわされた。故郷の星に戻してやろうとしたら、どうしても帰りたくない! 泥棒も憶えます! あなたの相棒になりたい! と、ワガママを言い、あちらの星の乳母や執事、政府高官達には俺が思想洗脳を仕掛けたと、ありもしない罪人に祭り上げられるところだった)……

まあ、そんなこんなで、今じゃ気楽な宇宙怪盗、銀河系指名手配のアルフレッドⅣ世とは、俺のことだ。

あ、やばい、俺を捕まえるのを人生の目的としている銀河独立捜査官、25代目クロモーン・デンシーチ警部が、最新型の追跡ロケットで追いかけてきやがった! 

あいつだけは苦手なんだよなぁ、俺。

ってなわけで、次の恒星系まで跳ぶぜ! 



儂は、クロモーン・デンシーチ。

ご先祖から数えて25代目となる、由緒正しき法の番人だ。

この銀河にゃ808の星区が存在し、普段はそこの一区を守護している。

しかしだな、この星区に、ただ一つ。

俺達、法の番人には許しがたい事と、男が存在するのだ。

アルフレッドⅣ世という、自分では宇宙怪盗と名乗っちゃいるが、ケチな宇宙海賊のなりそこないだ。

確かに、賄賂で肥え太った役人やら政治家やら、地方星区の悪自治官やらを、盗みで闇から引きずり出し、お天道様の下へ姿を表すように仕向けてくれるのは結構だと思うんだよ、儂も。

奴の怪盗ぶりも、最近じゃ、なかなか格好がついて来た……


うぉっほん! 

いや、法の番人が口にする言葉じゃないな、忘れてくれ。

記憶に新しいところでは、他の星区の地方自治官(そこの法律では、王家と呼ばれるらしいが)の愛娘が誘拐されて過酷な境遇に落とされていたのを助け、誘拐させた組織団と、その親玉を見事に手玉に取ったのは、さすがに儂も見直しかけたがな。

あまりにすごい活躍だったので、当の姫君がアルフレッドⅣ世に惚れ込んじまって、別れたくないと駄々をこねたのには正直、まいったがね。

仕方がないから最終手段として、俺が姫様に最後の言葉を送ってやって、ようやく諦めたくらいだ。


「奴は宇宙を股にかける泥棒です、貴方の心を盗むくらいは、お茶の子サイサイだ。貴方には貴方の居場所があるように、奴にも宇宙という居場所があるのですよ」


姫君は一筋の涙を流して、全てを悟ったようだった。

それからは、その星区での犯罪率と検挙率は見事に反比例していくんだが、それは別の話としよう。

儂も何度か、アルフレッドⅣ世を捕らえ、監獄送りにしたことがある。

奴の犯罪歴は、それこそ生まれてから今までの時間と同じと言っても良いくらいだ。

それゆえ、一つ一つの盗みや犯罪は大したことはなくとも、総合すれば死刑確定のようなもの。

まあ、監獄も奴には休暇村みたいなもので、悠々と脱獄しやがったが……


ただな……

儂も、正直に言うなら奴の行動と心情は理解できんわけじゃない。

奴は、生まれと育ちが違ったら、ああなっていただろうという儂の分身みたいなもんだ。

そりゃ、儂の方が庶民に近いし、奴は闇の世界とはいえエリートだ。

しかし、奴と儂とは考え方の基本が似ている。

奴が盗みの手口を実行しようとする。

それが儂には何となくの勘ではあるが分かるのだ。


ただ、奴は数人の仲間と少数で犯行に及ぶが、こちらは大人数で、おまけに儂は中間管理職。

上の指示がトンチンカンなバカなことばかり言ってくるので、いつも逃げられるんだが。

とうとう数年前にブチ切れて、上司を通り越して銀河パトロール総司令に文句言ったら、銀河独立捜査官という、どこでもフリーパスの捜査権と逮捕権を与えられた。

その総司令はメガネのようなものもくれたんだが、儂はメガネは好まんので着けてない。

なにやら、そのメガネが認識票と警察手帳を兼ねた万能装置らしいんだが、好きじゃないので着けてないのだ。


儂にゃ、この宇宙十手がある。

房は紫、総司令からのいただきものだ。


制服もあるぞ……

色はくすんだ灰色で、あまり目立たないし、捜査には都合が良いがね。

女性陣には野暮ったいと言われるが、一部の捜査関係者からは別の視線で見られる。

この制服、独立捜査官のみの支給らしく、どんな政府の、どんな地位の人間にも妥協や指示を受けなくて良いそうで。

つまりは銀河の司法を一人で背負う者にしか与えられないらしい。

まあ、儂にはアルフレッドⅣ世を追跡・逮捕できるなら、どんなものでも歓迎だがね。

ちなみに、この地位の特権として、予算に上限がないってとこが素晴らしい。

だから、今現在も、アルフレッドⅣ世を追いかけているわけなんだがな。


「待てーい! 年貢の納めどきだー! アルフレッドⅣ世、おとなしくお縄を頂戴しろーい!」


「しつこいオトッツァンだねー。まだ捕まえられたくねーんでな。あーばよー、クロモーンのおとっつあーん!」


まだまだ、アルフレッドⅣ世のあるところ、常にクロモーン・デンシーチの姿あり。

銀河の果てまで追いかけてやるぞー……


俺、アルフレッドⅣ世。

俺の頼りになる仲間たちを紹介しよう。


俺をはるかに超える腕を持つ、あらゆる銃の達人、ミスター・ディメンジョン。

略して、ミスターD。

ニックネームだが、本人は元の名前よりも気に入ってるらしい。

惑星上では、固体弾を使う銃を。

宇宙空間ではパルスレーザーの妙技を魅せる、にくい奴。

仲間の中では一番の古株で、俺の怪盗デビュー時からの付き合いだ。


俺とミスターDはガンマニアだが、俺達とは逆に刀剣マニアの、ミスター・ザエモン。

略して、ミスターZ。

これもニックネームだが、本人はザエモンと呼ばれる方を好む。

惑星上でも宇宙空間でも、愛刀を手放さないヤツで、その愛刀は、俺の親父の形見だったもの。

俺がガンマニアだったこともあり、どうしても譲ってくれ! 

とのザエモンの土下座を拝めたこともあって、今や、ザエモンの腰に収まっているというわけだ。

こいつもすごい特技、というか、いくら門外不出の秘法を使って打ったとはいえ宇宙船のレーザービームすらたたっ斬るというのは、やはり腕なんだろうな。


ここまでが、通常の仕事をする時の仲間たち。

後一人、いることは、いるんだが。

俺の組織、アルフレッド帝国の情報網は、そんじょそこいらの星系警察や銀河パトロール支部を凌駕する情報収集能力を持つんだが……

それでも、この女の素性は全く掴めなかった。

ミス・ハニーと呼んでくれと自分じゃ言ってるが、恐らく偽名だ。

たまに裏切られて俺が監獄へ放り込まれたこともあったが、まあ、そんなことは気にしない。

俺に気があるんだか無いんだか分からない、全く謎に包まれた女。

大きな仕事で仲間になった時の活躍は、ミスターDやザエモンに匹敵するんで、ちょくちょく連絡を取るんだが。

連絡員からミス・ハニーに繋がる糸をたぐろうとすると、いつも途中で切られてしまう。

まあ、こんな少数精鋭で、俺達は大きな仕事をしているわけだ。


今回も、そんな大きな仕事。

ド田舎の星系ではあるが、お決まりの腐った役人と闇の組織との癒着で、庶民の暮らしは一気にどん底。

役人の官邸には黄金の山、庶民は食べるものにも事欠く始末。

普通にやったんじゃ、この構造をひっくり返せそうもないということで、俺達の出番。

闇の組織の親玉も、政府高官も丸マル引っくるめて、全財産を盗んでやった。

盗まれた方は怒ったね。

星系軍まで動かして、俺達の船を追跡してきやがった。

さすがに星系軍。

俺達が、いくら腕が立つとはいえ、本式の軍隊に敵うわけがない。

宇宙船はボロボロ、俺達は満身創痍。

もう一撃、命中弾を食らおうものなら、大きな花火が宇宙に上がるところだった。


ん? 

そんな目にあって、何故に生きてるのかって? 

もうダメだと、俺達は全員、観念したよ。

その時だ。


「あー、あー、こちら銀河独立捜査官、クロモーン・デンシーチである。こちらは銀河パトロールを代表している。星系軍に告ぐ、その宇宙船を開放し、こちらへ引き渡せ。その宇宙船に乗っている人物は、別の容疑で儂が遥か昔から追ってる奴だ。捜査と逮捕は、こちらにまかせてもらおう」


星系軍、というより、そいつを動かした政府高官と組織の親玉は、腸が煮えくり返ったろうが、銀河パトロールの独立捜査官に逆らったらどうなるか理解しているために、俺達への攻撃を中止し、星系軍基地へと引き返していく。

一難去ってまた一難。

命は助かったが、今度は宇宙監獄でも最難関と言われる中性子星付近の宇宙監獄へ送られるだろうな……

そんなことを考えていると。


「アルフレッドⅣ世、久々の再会だな。まあ、こんな状況だから、また逮捕されると思ってるんだろうが、今回は違うぞ」


はぁ? 


「おとっつぁんよ、捜査官が嘘はいけねーや。この怪我じゃ、大人しく逮捕されるしかないからな。お縄を受けるよ」


「違う、アルフレッド。理由は話せんが今回だけは純粋に、お前を助けに来た。儂が相手にするのは、星系政府と組織の方だよ」


と言うと、クロモーンのおとっつぁんは病院船を呼び、俺達を緊急入院させてくれた。

こういう場合、入院費用もバカにならないんだが、


「気にするな、費用は銀河パトロール持ちだ。今回の指示と命令は、上の方から出てるんで、儂の意思ではないことをつけくわえておこう。個人的には逮捕したいんだがな」


と一言。

その後は目の前の星系でやることがあると言い残し、足早に去っていった。

わけがわからねぇ……

俺達が撃墜されれば、クロモーン・デンシーチの主命令は取り消しになるはず。

逮捕して監獄へ放り込めば、それに準ずる扱いとなるだろうし。


それから、俺達は一ヶ月近く強制入院。

ミスターDは重傷だったため、有機代替臓器などの移植手術すら受けた。

リハビリの期間も含めると、一ヶ月以上にはなっただろう。

退院時にも、銀河パトロールや星系警察・軍が関与してくるようなこともなく、俺達の宇宙船すらボロボロだったのが新品同様になって宇宙港にあった……

不審と疑いの中、俺達はレバーも軽くなったように感じる宇宙船で、その星系とおさらばする。

とりあえず、銀河パトロールに1つ借りができたと心の中で思いながら……


《総司令、こちらクロモーン・デンシーチです。今、アルフレッドⅣ世の宇宙船が宇宙港から飛び立ちましたが、何もせずに、との指示で追跡ビーコンもつけておりません。良かったのでしょうか? 》


《ああ、それでいいよ。彼には、もっと別の方面で役に立ってほしいからね。それと、クロモーン君、君に渡したアイテムを常に装着していてくれなきゃ困るよ。こいつはテレパシー増幅装置も兼ねているんだから》


《しかしですね、総司令。儂は、こういうものは好きになれないんですよ。申し訳ないですが》


久々に総司令と話し終わると、クロモーン・デンシーチ25代目はメガネのように見えるアイテムを外す。

こいつはピコテクノロジーの芸術品とも言える物らしく、身分証・通信機・テレパシー増幅装置の数役を同時にこなす超科学の産物らしい。

いまだ、この銀河で、この代物を分析すらできていないし、複製も同様。

とてつもない代物と権力を背負わされたと、クロモーン・デンシーチが気付いた時には遅かった。

このメガネみたいなものを装着することにより、もともと微弱なテレパシー能力を持っていたクロモーン・デンシーチの能力が大幅に増幅され、容疑者の心の中も読めるようになる。

これを使い、今回も傍目には一瞬で罪人と一般人の区別を行ったように、クロモーンは瞬時に罪人判定を行い、その刑までも確定する。

それを見ていた傍聴人達は、銀河独立捜査官の能力の一端を見られたことに感激し、銀河パトロールの伝説に、また一話が増えることになる。

「これさえなければなぁ。儂はアルフレッドⅣ世さえ追っていれば満足なんだが……」


俺達は戸惑っていた。

怪盗稼業を続けるのか、それとも、ここで身を固めて子供を育てて……

なんてのは正直、俺のカラーにゃ、あわねぇ。

しかし怪盗稼業を続けていくとしても、その裏に銀河パトロールの影がちらつく今の状況では、やる気になれねぇ……


「どうする? アルフレッド。このまま何もしないってのも怪盗にゃ似合わねぇ話だろうに」


ミスターDの言。

そうなんだよ、この銀河にゃ、まだまだ理不尽にも不幸のどん底にある人たちが多いってのが事実。

俺達は怪盗とはいえ非道はしないのを信条としている。

そういう俺達にとり格好の獲物ってのが、腹黒い役人や闇の組織だ。

アルフレッド帝国も同じだろうって? 

形としちゃ、同じだな。

しかし、その目指すところは大違いだ。

俺達は、貧しい者、虐げられた者に一番に手を伸ばし、盗みで救う。

盗みは悪いことだよ、ああ、分かってる。

しかし、世の中キレイ事ばかりじゃ誰も救えねぇんだ。

ちなみに、この銀河にも宗教はあるぜ。

その宗教の教会では、貧民街の孤児たちを集めて無償で食事と勉強を教えてるんだが……

末端は立派だよ。

しかし、俺達が、この宗教の総本山へ忍び込んだ時、総本山の幹部たちの暮らしが見えた。

末端教会では、予算もつかないながら毎日の食費にも事欠きながらも立派に子どもたちを育てようとしてるシスターや神父がいる。しかし、総本山では人間の欲望が開放されてた……

もう、飽食と虚栄と、そして性欲の塊のような教会幹部が連日連夜、狂宴というか、サバトというか、まあ、察してくれや。

あきれ果てた俺達は、その総本山の魔宴を襲い、そこにある教会最大の秘法を盗んでやった。

宝物庫の隠し扉の中に大事に仕舞いこまれてたそれは、こともあろうに悪魔像。

とんだ邪教集団だったことが発覚してしまい、その教会は全面的に取り潰しとなった。

でもな、末端の教会では、本当に真面目に孤児たちの面倒もみてたんだぜ? 

裏から手を回して、末端の教会取り潰しだけは勘弁してもらった。

これが俺達以外の、例えば、クロモーンのおとっつぁんなら、平気で末端までの教会を取り潰すよな。

悪には悪の使い道があるってことだ。


「思い悩むのは、アルフレッドの血ではない。行動してこその怪盗ではないのか?」


ザエモンが、そう語りかけてくる。


「アルフレッドー、あなたらしくないわよ。怪盗の名が泣くわね」


くっそー、ミス・ハニーまで。


「ああ、皆がそうまで言うなら、でっかいお仕事やってやろうじゃないの! ちょうど、ここからなら、跳躍航法で10回以内で着ける、見事に役人と裏の組織が癒着しちまった典型的な星系があらぁな」


俺の言葉に、ミスターDが気づく。


「お、おい、アルフレッド。お前さんの言う、その典型的な星系って……もしかして、ギ・ンーザか? あそこはヤバイ! お前さんでも無理だよ、やめとけ」


その言葉に、ザエモンが、


「悪の総元締めとか組織の総元締めとか言われてる、この銀河の808星区あるうちで一番古い星系ではなかったかな? あまり背伸びをしすぎると、痛い目にあうぞ」


「そうよ、アルフレッド。もう少しお手軽なお仕事にならないの? あそこへ行くのは、星区の幹部会議の時か、あるいは、緊急事態の時だけでしょ? あそこは入国管理の段階から政府と組織が癒着してるから、逆に旅行者には手出しはしないけど、あたしたちみたいなのは即座に処刑コースよ」


そうなんだよ、皆、分かってるじゃねーか。

しかし、だ。

そのリスクを今回ばかりは背負わねーことには、俺のプライドと、アルフレッド家の歴史と誇りが許さねぇんだ。

おれ達のバックに銀河パトロールが見え隠れしようが、どうしようが、あの腐った星系じゃ何ともできまいて。

そこで、オレ達だけで仕事を片付けりゃ、もう何も怖くはねーぞ。

ほいじゃ、例の星系へ、しゅっぱーつ! 


もうすぐ、ギ・ンーザ星系に到着するんだが、さて、と……

どうやって潜り込むか。


「おいおい、ここまで来といて無計画かよ。お前さんの気まぐれにゃ、助けられたことも多かったが今はプラン無しじゃ無茶だろう」


「まあまあ、ミスターD。無計画っちゃ無計画。プランがあるっちゃプランあり。観光客待ちなんだよな、こいつが」


「プラン名、出たとこ任せ、ってか?」


「ザエモンよぉ、それを言っちゃぁ、おしめぇだ。今回のプランは、この星系の入出国管理レベルの高さを逆手に取るんだから人手がいるのさ」


「あたし達の装備とか準備は?」


「なーんもせんでいいよ、ミス・ハニー。何もしないことが逆に俺達を通してくれる材料になるんだ」


さて、このポイントで観光用定期宇宙船待ちだ。

しばらく待っていると、ほーらほら、でっかい観光用の大型定期客船が通過する。

さて、ここからが俺達の出番。

通信チャンネルオープン、と。


〈ちょいと、そこ行く観光客の皆様。只今、目的のギ・ンーザ星系ではお祭りの真っ最中です。そのままの観光客姿じゃ、お祭りに混ざれないでしょうから、ここで時間を拝借して、我々が皆様を仮装・変装させていただくこととなります。あ、ボランティアですので無料ですよ、無料〉


最後の無料に心をひかれたか、大型宇宙船は減速し、停止する。

俺達4人は、それぞれに変装道具・仮装道具を持ち、船客だけじゃなく、ついでに乗務員まで仮装・変装させる。

トータルの時間はかかったが、それでも手早く済ませたので、宇宙港到着時間の変更はしなくてすんだようだ。

俺達の作業に感心しながら、さよ〜なら〜、と手を振る観光客たち。

俺達も手を振り返しながら、これで準備完了と、ほくそ笑む。


いっぽう、こちらギ・ンーザ星系入出国管理局。

悪名高き宇宙怪盗アルフレッドⅣ世がギ・ンーザ星系目指して航行中との情報を得てからこっち、担当職員に安らかな眠りは約束されない。


今日も早朝から宇宙港に到着する宇宙船があり次第、大人数の職員で、それ以上の観光客の大群をさばく。

アルフレッドⅣ世は変装の達人と言われているため、変装チェックの専用探査装置に一人づつ乗ってもらい、怪しいやつをチェックしていくのだが……


「うえー、こいつもかよ。朝の3時から起き抜けに容疑者が大量発生して、もう仮留置所は満杯だぜ」


「ぼやかない、ぼやかない、お仕事なんだから。とは言うものの、こりゃ、ちょっと多すぎないか?」


宇宙船から下りてくる客全て。それどころか、乗務員まで変装と仮装をしているため、怪しいやつばかりになって業務が停滞するどころの話じゃなくなっているのだ。


「今日は朝から厄日か? 変装チェッカーで異常がなかったのは、朝からやってて、たった4人だぞ! どうなってるんだぁ!」


てんてこまいの入出国管理ゾーンを抜けた当の4人は何事も無く、宇宙港の建物からロボットタクシーに乗る。


「お気の毒だけど、恨むんなら腐った政府と、それに絡みついてる闇の組織を恨みなよ。さて、仕事の準備にかかるぜ!」


とアルフレッドⅣ世が一言。

彼らはアルフレッド帝国の支部員たちが用意してくれたアジトで、これからの大仕事の計画と準備にとりかかる。


「ちなみにアルフレッド? 祭りって、どこでやってるのよ?」


とはミス・ハニーの疑問。


「ここでやってるとは、誰も言ってないぜ。ここは惑星だ。地域国家なら、いつでもどこかで祭りくらいやってるもんなんだよ。例え星の裏側でもな」


「あきれたね……思いつきで、これほどの事態を引き起こすのか。お前、怪盗よりもテロリストになった方が良かったんじゃないか?」


「うむ、我も、そう思う。天性のテロリストだな、社会の大混乱を引き起こして、それでも死者や怪我人は1人もないという」


「ミスターD、ザエモン……お前らなぁ……だーれが天性のテロリストだ、だれが!」


ワイワイ怒鳴り合いながらも、着々と大仕事の準備は進んでいく……


完了。

仕上げを御覧じろというところだ、な。

さて、ここからが肝心。

まずは予告状配布。

メディアと政府、暗黒組織の3つに対し、犯行予告を書いたものを届ける。

もちろん、人手なんぞ使わない。

ルートをプログラムした小さなモデルプレーンを飛ばして、庁舎やアジト、本社前に軟着陸させるようにする。

後は、拾った奴が予告状を見つけ、目の前にある建物に持っていくだけの話。

今日から一週間後、この星系ギ・ンーザが宇宙に誇るお宝、超重合物質で出来た兜をいただく。

伝説では、この兜、ふさわしい人物の手に渡ると銀河を救う英雄が誕生すると言われているのだそうで。


しかしねー、1つ重大な問題が。

この兜、いかにも軽そうに見えるんだが、超重合物質と言うものは見せかけに騙されるのだ。

子供でも被れてチャンバラでも出来そうに見えても、こいつの重さは1tを軽く超す。

この代物を保管する台座でさえ、通常の保管庫や金庫じゃ耐えられなくて数年も保たない。

重力制御のされた特別な保管庫に入れられている兜だが、盗むことは簡単。

こんなものに警備なんてつける必要がないから、警備も数人。

ただし、盗んだ後が大変だ。

こんなもの、どうやって運ぶんだ? 

という話。

でかくて重い物なら、ご先祖様の頃から、いくらでも盗んできてるアルフレッド一族。

潜水艦から戦車、宇宙船から核ミサイル、果ては小惑星まで(こいつは今でもアルフレッド家のアジト兼補給物資貯蔵庫として使ってる)

しかし、ここまで小さくてクソ重い物なんて初めてだ。

問題は運搬方法……

超小型ヘリとか超小型ロケットも候補に上がったが、そんなもので1t超える重さを運べるわけがない。

どうやって運ぶ? 

回答は、身近な所にあった。

土建業界で使われてる、強化外骨格だ。

こいつなら、生身にまとうだけで怪力が出る。

そう、確かにこの方法を取るしか無いんだが……


犯行予告日。

警察や組織、メディアの裏をかいて兜を盗むのは簡単。

さーて、こいつを宇宙船まで運ぶんだが……

俺はコンパクトに畳まれていた強化外骨格を装着する。

たちまち、内蔵されていた超小型バッテリーとモーターが動き出し、1tを超える重さもなんのその、ひょいひょいと運んでいく。

ただねー、こいつの問題は……

30分後。


「ご苦労さん、アルフレッド。交換用バッテリーだ。短時間しか保たないのが欠点だな、こいつ」


と、ミスターD。

そうなんだ、ここまで来るのに、もう2回もバッテリーを交換してる。

呆れるほどのバッテリーの消耗度だな。


「それは仕方ないだろうが。通常は100Kgまでの重量定格しか無い物に、無茶と無理して1t超える代物運ばせてるんだ。バッテリーが10分も保つなら御の字だろうが」


へいへい、ミスターDの言う通りでございます。

それから10数回、宇宙港へ到着して船内の重量物専用保管金庫に入れるまでバッテリーの交換を行う事となった。

え? 

その間、政府も組織もメディアも黙って見てたのかって? 

そんなわけないじゃないか。

あちこちからレーザー、銃弾、小型ミサイル、電磁加速砲なんかで狙われて、ひっきりなしのピンチが続いたさ。

でもな、そういう時の仲間。

銃弾やらミサイルを真っ二つにし、レーザービームを逸し、跳ね返し、返す刀と銃で発射点を粉々にし、襲撃してくる奴らを叩きのめす。

よく死人が出なかったと褒めてやりたいもんだ。

相手は俺達を殺しに来てるよ、ちなみに。

でもね、俺達は殺しはしない(よほどの相手以外は、ね。悪の権化とか、腐りきって更生の見込みもないやつとか)

これが宇宙怪盗の自負ってやつだ。

盗みはすれども、非道はせず。

ふっふっふっふ……

宇宙に非道がある限り、怪盗アルフレッド、どこでも参上! 

ちなみにだな、お宝が重すぎたのか、宇宙船の燃費が異常に悪かったのは、またの話だ。


「アルフレッド、たまには豪勢に行きたいわよ。宇宙船の燃料代にバカスカお金をつぎ込むの止めたら、もっとお金の使い道が広がるわよ?」


とはミス・ハニー。

言ってることは分かるが、こればっかりはなぁ……


《総司令、アルフレッドⅣ世の件、いかがしましょう? 現在は監視だけにせよとの総司令のお達しで手は出しておりませんが》


《ご苦労様、クロモーン君。そろそろ良いか、こちらも動くとしよう。しかし、逮捕とか監獄行きとかじゃ無いんで、そのへん、よろしく》


銀河パトロール総指令、何を考えてるんだ? 

儂の生きがいだったアルフレッドⅣ世逮捕を、今こそ実現できるというのに! 

と、クロモーン・デンシーチ25代目は考えていた。

総司令の思考は、その斜め上を行くと、この時は全く考えてもいなかった……


お仕事、大成功! 

ってなわけで、秘密のアジトだった小惑星基地にて、大宴会を繰り広げてる俺達。

クッソ重たい兜は、倉庫の中に反重力ゾーンを設定して、その中に置いてある。

それにしても、この、お宝なんだけど傍迷惑な物、どっからの情報だろうな? 


「俺は知らんぞ。ギ・ンーザ星系に、こんなものがあるなんて実物見て初めて知った」


へ? 

ミスターDじゃないの? 

それじゃ、ザエモン? 


「俺も知らぬよ。これは確かに、お宝かも知れぬが、こんな扱いにくいもの、どうするんだ?」


え? 

じゃ、じゃあ、ミス・ハニー……


「あたしも知らなかったわ。アルフレッド一族の日記とかに書いてなかったの?」


え? 

ええーっ? 

それじゃ、誰なんだ? 

この兜の情報、流してきたのって……


待てよ。

俺達は基本、少数精鋭主義でお仕事をやってる。

だから外部の情報屋に頼るにしても選りに選って、下手な情報屋は使わない。

だーかーらぁ。

そんな俺達に、極秘だけど非常に厄介な物を盗ませようとする者がいるのなら……

必然的にだな……


「ヤバイ! 皆、すぐにこのアジトを引き払うぞ!」


と、結論に至った瞬間! 

通信装置が緊急チャンネルで、それも外部からのコントロールでボリュームを最大にされて俺達の頭の中に響き渡る音声を……


「あー、こちら銀河パトロール本部だ。儂はクロモーン・デンシーチ25代目。アルフレッドⅣ世と、その仲間たちに告ぐ。この小惑星は完全に包囲した。逃走用の宇宙船もトラクタービームで捕捉済みである。もう逃げられんぞ。観念して、お縄を頂戴しろ!」


うわ、最悪の可能性が実現しやがった。

レーダー見たら3D表示が敵属性で埋まってやがる。

こりゃ、もう足掻くだけ無駄だな。

っということで俺達は銀河パトロールへ連行された。

しかし、変だな? 

クロモーンのおとっつぁんを頭に独立捜査官がやたらといるところなのに、俺達に対しての侮蔑も軽蔑も、それどころか犯人扱いされてないんですけど? 

どういうことだ? 

おとっつぁんに聞いても黙って口を、への字にして喋ろうとしない。


取調室? 

違うよな、こんな豪華な一室。

まるで政府の高官達がいるようなところだ(腐ってないほうね)

そこに連れられてきて数時間が過ぎる。

手錠も捕縛縄もかけられてない俺達に、食事まで用意されていたのには驚いた。

何がしたいんだ? 

銀河パトロールって俺達みたいな怪盗に何の用があるんだよ?! 

その答えは半日ほど経って緊張がほぐれた頃にやってきた。


「や、初めまして。私が銀河パトロールを組織・立案した総司令、クスミだ。アルフレッドⅣ世、君に依頼したいことがあってね、わざわざ本部に来てもらった」


えっらく若く見えるが? 

銀河パトロールって、もう100年近く前に組織されたものだろ? 

それも組織・立案者? 

この男、一体、何歳なんだ? 

俺は目の前にいる、どう見ても40代前半としか見えない人物に突然に恐怖を感じる。


「あんた、もしかしてアンドロイドか? それともサイボーグ?」


普通の人間が、これほどに若さを保ちながらも100年を超える時など生きられるわけがない。

クロモーンのおとっつぁんが、こいつ、総司令に何と言う無礼を! 

などと怒りのテンション上げようとするが、クスミ総司令は慌てず騒がず。


「いいや、どっちでもないよ。私は特別製でね。少なくとも、あと数万年は、このままなんだ。まあ、君たちには理解できないテクノロジーだと思って間違いないよ」


うわ、この人、自分が特別製だって自分で言っちゃった。


数万年もの寿命……


憧れはするけど、本当に自分が相対的不死者になったら……

いいや、俺は否定するね。

死なない身体なんて欲しくもない。

寿命があるから生きている実感が掴めるんだ。

俺は不死なんて欲しくない。

俺の意思が伝わったのかどうか、クスミ総司令は、依頼を伝えてきた。


「早速だけどね、アルフレッドⅣ世君を筆頭とするアルフレッドファミリー、いわゆる「アルフレッド帝国」の面々を、銀河パトロールに迎え入れたいんだよ、どうしても」


はいー?! 


「えーっと、クスミ総司令? あなた、自分の言ってることに根本的な矛盾があると分かってて、そんな事を言うんですか?! 俺達は悪者、どうしたって日陰の、闇の存在ですよ?! 貴方がたは、それに対する存在、正義と公正、太陽の光の下を歩く存在でしょうが?!」


「いや、それがな、アルフレッドⅣ世よぉ。我々だけじゃ、正義は成り立っても、そこから人情は生まれないそうで……悪でも非道はしない、お前たちのような人材が、これからの銀河パトロールにゃ必要なんだとさ」


クロモーンのおとっつぁんが、言いにくそうに発言する。

まあ、そりゃそうだろうね。

正義の道を突き進む銀河パトロールに情けは無用。

情けがあるとするなら悪の側にしか無いよなぁ……


「ってなわけで、この時点から君たちのアルフレッド帝国は銀河パトロールの裏の実行部隊となる。でもって、君たち中核をなす4人は、この銀河パトロール本部で、それぞれの実行部隊や計画・試案隊の長となってもらう」


? が飛び交う俺達に対し、それぞれの副官が既に用意されていたようで、俺を除く3名は別室へと連れられていった。


「で? クスミ総司令。俺は一体、どこの部門を受け持つことになるんでしょうかね?」


イヤーな予感はしてるんだ……

クロモーンのおとっつぁんが俺の傍を離れようとしないのが気にかかる……


「ふふふ、アルフレッドⅣ世。君の名は、今この時点から宇宙怪盗ではなく、銀河パトロール総司令アルフレッドと呼ばれることとなる。どうだい、闇から一気に陽の当たる場所へ来た感想は?」


「よせやい。それじゃ、あんたは、どうすんだよ? 総司令辞めたら、どこにも行きようがないじゃんか。不死者なんて、どう考えても潰しが利かない人種だぜ」


「心配してくれて、ありがとう。いやいや、お言葉を返すようだけどね。私は……えーい、まどろっこしい! もう総司令じゃないんだから口調も戻す! 俺は元の仕事に戻るだけなんだ。銀河から銀河へ、銀河団すら超えてのトラブルバスターへと」


一瞬、俺はクスミ元総司令の言っていることが理解できなかった。

銀河から銀河へ、銀河団すら超えてのトラブルバスター、だと?! 

という事は必然的に……


「あ、あんた、この銀河の生命体じゃ無かったのか?! どっか別の銀河の尖兵で、この銀河を侵略しようと……いや、それだと変だな。腐りきった政府と暴力とが支配する星のほうが侵略には良いはず。もしかして、本当に宇宙のトラブルバスターなんてやってんのか? 何の利益もないのに?」


「あ、ひどいなー、利益くらいあるぞ。俺の望みは、この大宇宙全ての生命体が平和に、そして安全で幸せに生きていけるような宇宙を作ることさ」


こいつ、どれだけ誇大妄想家なんだろう? 

しかし、このくらい大風呂敷で誇大妄想気味でなきゃ、宇宙の生命体全てを救うなんて事、やろうとも思わないだろうが。


「それじゃ、総司令のバッジは、これから君が受け継ぐ。頼んだよ、この銀河。俺は、また隣の銀河へ向かうからね」


そう言うとクスミは総司令のバッジを俺に渡して、本部の中核となっている部分へ続く扉を開けた。

クスミが中核部に入ると本部が微細振動に襲われる。


「あ、言い忘れたてたけどね。この銀河パトロール本部のステーションって、もともとが巨大宇宙船ガルガンチュアを元にして作り上げられてたんだよね。今から中枢部を切り離すんで、質量は半分くらいになるよ、気をつけてねー」


おいおい! 

そんな重大なこと、今言われてもだなぁ! 

という俺の声も虚しく、銀河パトロールの巨大宇宙ステーションを構成していた中枢部がドッキングを解かれて、その巨大宇宙船としての姿を現した。

それは始めは静かに、そして、段々と力強く、その異形を宇宙空間へ向けて移動させると、そのまま急加速で本部を離れていく……

後に残された俺達は、それでもクスミ元総司令が残していってくれたデータチップにあった機材や新型宇宙艇を生産し、なおかつ銀河パトロールの発展組織となる銀河救助隊の設立を目指し、あっちこっちの紛争や災害に介入していくのだった……


暗黒の銀河がクスミらガルガンチュアクルーの手によって明るい銀河となってから、すでに500年ほどが過ぎた……

今では暗黒時代の面影はどこへやら。

銀河パトロールは発展解消し、今ではギャラクシーレスキュー、略してギャラック……

と、本当なら正式略称したいところだったのだろうが、誰が言い出したのか「ギャラッキュー」なる愛称が定着してしまった。

組織名が、えらくカワイイ名前とは言うものの、やってることは重大災害への対応と、時たま起きる星系単位での小競り合いの仲裁作業。

つまりは警察と消防救急との合体した銀河宇宙規模の組織。

できない救助はない、消せない火消しはない、止められない戦争はない、これを合言葉に毎日が戦場のような忙しさ。

しかし、腐った政府が元に戻り暗黒組織も姿を消したので、それぞれの星系にあった軍事組織が用無しになったのを全てギャラッキューに吸収して星系支部としてしまったため、小規模な災害や紛争なら本部からの指示で星系支部が動いて解決することが出来るのが非常に助かっている。


「災害対策部長! 只今、**星系の大規模山火事鎮火作業より帰還しました!」


部隊リーダーが報告している。

大量の樹木が燃えている現場での作業だったため、防火・防水・防疫を兼ねた万能作業着も、その顔もススで真っ黒。


「了解。今回も頑張ったな。若い星で酸素含有量が20%超してたそうだな。ひどいもんだっただろう」


部下の無事の帰還を喜び、労う部長。


「いいえ、それよりも延焼を食い止めるのに苦労しました。陸地に民家が無かったのが救いでしたね。この星も本気で海底都市化しません?」


と、最後には軽いジョークまで飛び出す始末。

こちらでは、


「はーいはい、わっかりましたわー。どうあってもお隣星系との悶着を進めて、星間紛争としたいおつもりのようですね……それならこちらも、それなりの対応を取りますわよ……まずは、両星系政府トップのゴシップを一般公開しまして、お次は政府高官の中央星系視察旅行でのご乱行を、これも全てメディアに公開しますが……え? まあ、そうですか! それはそれは、このいさかい、無かったことにすると仰るのですね。素晴らしいです。さすが高潔な志をお持ちの方々がお揃いですわねぇ! では、そのように……はい、トラブルが解決したなら、この情報はどこにも出ませんよ、はい」


ちょっと、傍で聞いてると脅しなのか交渉なのか判断しづらいが、ここが星間紛争調停の現場。

とにかくドでかいギャラッキュー総本部の建物の中には、ありとあらゆるトラブル解消のために、人材・資材・最新技術と、これは外に出せない情報だが、この銀河のテクノロジーレベルを大幅に超える宇宙艇やガジェットも揃っている。

そこの本当の中枢とも言える総司令室。

そこで数人が定例会議を行っていた。


「今月に入ってから、ようやく銀河西部周辺部の治安と経済状況が安定してきたようで。なんにしても唐突に太陽がノヴァ化するなどという突発事件が起きた割には数カ月で通常に戻りつつあるのは喜ばしいことですね」


そう話すのは救助技術工作部課長。

身分は課長だが、その上には総司令しかいないため実質は技術開発部門のトップ。


「そうか……また、このデータチップに助けられたな。まさか太陽活動まで制御できる機器の設計データがあるなんて、今まで気が付かなかった……」


そう呟くのは総司令。

アルフレッド家の長男で今は24世ほどに当たるのだろうが、そんな名称は本人も名乗らなくなって久しい。


「もう、ガルガンチュアとクスミ初代総司令が旅立ってから500年以上が経つが未だに我々のテクノロジーレベルは、このデータチップの中身に追いつかない。大体だな、このRENZ(レンズと発音してね)なんて代物、いまだに解析も量産も不可能なんだぞ。こいつが量産できれば現場と本部の通信が、どれだけ楽になることやら……おまけに、こいつは太陽の炎も宇宙空間の極寒も強烈な腐食液すら表面に傷も残せないと来てる。実際問題、RENZって何なんだ?」


アルフレッド総司令の疑問に技術課長が答える。


「さっぱり分かりませんね。こいつについてはクスミ初代総司令の残されたデータチップにも記載がありませんし、生産装置もブラックボックスそのもので、透視用のスパイビームを最大強度にしても跳ね返される始末。かと言って分解しようにも、あまりに貴重で予備機もないので不可能。どうすりゃいいのか予測もつきませんや」


この課長、本当なら技術本部長という地位なんだが本人いわく、


「古代と言ってもいい初代総司令からの置土産のデータにあるものを超えるものができたら、すぐにでも本部長の地位につかせていただきます。でも今のテクノロジーで、このデータチップとRENZ生産装置に勝るもの、あります? だから課長止まりなんですよ、私」


と言い放って後輩の迷惑も考えない頑固者である。

おかげで他の部門には係長、課長、部長、本部長、部門指令という肩書があるのに対し、技術開発部にだけは、まだ課長以上の肩書を持つものがいない(過去には、いた。今の課長が意固地なのだ)


「そうは言っても初代総司令は別の銀河、それも銀河団すら違う星の出身らしいからな。そんな超越者と比べるほうが間違ってると思うが……」


これでも当の技術課長、有能で、装備のコンパクト化や改良案は今までに幾つも採用されている。

そんな課長に対して総司令は、気持ちは分かるが組織上、混乱するから、いい加減、上に上がってくれと暗に言いたいようだ。


「RENZを使って太陽表面に生息する生命体に許可を貰ってから使用するように、とマニュアルに書かれていた時には、冗談だろ? と思ったもんだが、本当にいたなプラズマ生命体。いや、驚いた」


その後も話は続いていき、


「あ、総司令。そういえば引き継ぎの大元になった迷惑なお宝、超重合物質の兜って結局どこ行ったんですか? 書類にも初代総司令と共に消えたと書いてありましたが、あんな重い物、どうやって運んだんですか?」


総務部長が疑問を呈する。


保管庫に眠ってたはずの兜、どうやってガルガンチュアに移動させたのか? 

それを説明するにはクスミが総司令を交代してガルガンチュアに戻る時まで時を遡らねばならない……


「ん? 微弱な精神波。何かが俺を呼んでる……」


保管庫は、ちょうど中枢部に行く途中にある。

ガルガンチュアに戻るついでに保管庫に寄ってみると……


「あ、こいつか、俺を呼んでたのは。伝説のアイテムと言われるだけあって太古に造られたものなんだろうな、この兜。重いものだけどサイコキネシスで支えてやれば……おっ?! 何だ?」


クスミが兜を被った瞬間、兜自身が、その形を変えはじめる。

武将の兜状態から、いわゆるバイクヘルメットか宇宙服のヘルメットとも言える形となる。

そして、兜自身に内蔵された回路からクスミに向かって自身の使い方のレクチャーが始まる。

精神波でのやりとりなため、数秒で終わったが、兜は、いやヘルメットは脱げない。


「ん? レクチャーが終わったのに、なんで脱げないんだ? もしかして、装着者のパーソナルデータを収集してるのか?」


クスミの推測通り、数分で脱げるようになった。


「マスター、今回は長かったですね。ガルガンチュアも、まさか本部ステーションを建設する時の基礎になるとは、思わなかったでしょうに」


「ああ、100年以上かかったが、これから、この銀河は変わっていく。その基礎を作ったんだ。時間がかかっても成果があれば良い」


「主、その手にある物体は? 主は簡易宇宙服しか着ないと思ったのだが?」


「ああ、このヘルメット? いや、これ正確に言うと太古に造られた個人用の決戦兵器みたいだ。このヘルメットの中にある超重合物質を装着者の体格に合わせて様々な形、言葉を変えれば様々な兵器にできるらしい」


「え? 我が主、そんなもの持ってて大丈夫なんですか? 我が主は兵器嫌いなんだと思ってましたが……」


「うーん……太古の時代には兵器だったんだろうけど今のテクノロジーで見るとだ、航空機、車、バイク、潜水艦、そして簡易宇宙艇なんだよな。便利なガジェットじゃないか?」


「あ、そうなんですか? じゃあ、私もキャプテンにお借りしてコスプレもどきやってみようかな?!」


「やめときなって、ライム。こいつ、見た目は軽そうだが実際には1t以上ある。被ったら潰れるぞ」


そう、強力なサイコキネシスを使える者だけが、これを被れる。

サイコキネシスを使えるということは微弱であってもテレパシーも使えるだろうということで、このヘルメットは俺を装着者だと認識したようだ。

後で最後の通信を銀河パトロール総本部とやりとりした中で、兜の事も伝える。

所詮、装着者を限定するような中途半端なお宝、差し上げますのでどーぞどーぞと押し付けられたのは言うまでもない。

ま、これからの長い旅。

いつかは、このヘルメットに助けられる事もあるかもね。


宇宙船ガルガンチュアは今日も果てしない宇宙を跳ぶ。

その力と頭脳で解決できぬトラブルはあるのだろうか? 

そして、この銀河では解決しなかった銀河間空間での攻撃を目論んだ相手とは? 

周りには平和と安全と安心を振りまき、自身には謎が謎を呼ぶ得体の知れぬ影が近寄るガルガンチュア。

その航海には何が待つのか? 


PS、

結局、RENZとは何だったのか? 

クスミとプロフェッサーの会話を一部、公開しよう。


「プロフェッサー、お前が考案したんだよな、RENZって。つまりは、あれ何なんだ?」


「回答しましょう、我が主。あれは我が主の脳の状態を詳細に精査した成果を詰め込んだものです」


「具体的には?」


「ガルガンチュアの工作機械で生産可能な一番小さな超々……いくつになりますかのLSIをシリコンの薄くて柔軟な基盤にプリントし、それを絶対物質、つまり中性子星を作ってる物質に貼り付けて、その周りを人造超ダイヤで囲んだものです。装着者の皮脂を燃料として精神波による通信と、そのものの微弱なテレパシーその他の強化、そして銀河パトロールに所属する一員としての資格証も兼ねてます」


「はぁ、つまりは、俺の力の劣化版だけど普通の人間を強化するってのか? 剣呑だぞ、おい」


「その点は大丈夫。数十世紀経とうがRENZを解析したり生産装置を解析して大量生産は出来ないようにしてあります。RENZに関しての技術データは全く残してありませんので生産装置を分解したらそれまでですし、RENZは適正な者の精神波を感じて作動しますので、適正でないものにRENZの供給はありません」


「盗まれたりすることは?」


「それは危険ですね。適正な装着者でない場合、RENZの強化精神波は不正装着者の精神を破壊しかねません。こうでもしないと不正装着者が激増しますからね」


うん分かった。

危険性だけは後から連絡しとこうっと。