第四章 銀河団を越えるトラブルバスターの章

第三十二話 様々な生命、様々な文明

 稲葉小僧

シーンその一


今、この時に新しき形の命が生まれようとしている! 


「さあ、今こそ生まれろ! 我が息子の魂を受け継いだロボットにして自ら思考し、行動する新しき生命となるのだ! お前の名は、アストラ!」


過剰な電流が一部の配線を焼き切り、高圧電流と思しき配線では端子でスパークが起きる。

太古の昔から、この星は生命体といえば有機物から出来た生命体ばかりだった。

ここに今、この星の歴史始まって以来の新しき生命が誕生しようとしている……

いや、誕生する、はずだった……


「だめだったか……またダメだったか……ああ、何が悪いのか? どこに間違いがあるのか? 自己判断までのルーチンとプログラムに抜けやバグはないのに、そこから一歩進むだけなのに! どうして自ら考えて自らを動かすロボットやアンドロイドは出来ないのか?!」


某国の科学省長官であり、ロボットやアンドロイドの設計と、それにも増して「自己判断を可能とするプログラム」の発明による名声が限りない、しかし、それゆえ悩みも果てしない一人の科学者が、そこにあった……


「人間の手では、これ以上のロボットは造れないのか? 自己判断プログラムは、それより進歩できないのか? 自分で自分を改造するくらいの思考プログラムを造れないのだろうか?」


科学者は自問自答する。

答えは出ない。

自分の考えうる最高の設計、最高の人工頭脳、最高のロボットボディを組み合わせて起動した結果が彼の目の前にあるガラクタだから。

どこが間違っていた? 

何処にミスがあった? 

どこがまずかったのだろうか? 

問うても問うてもキリがない。

幼くして亡くなった我が子の代わりとなって、この世に産まれてくるはずだったアストラ。

どうして出来ない?! 

創造の神に作られし存在が新しき種として自立思考型ロボットを生み出すことは無理なんだろうか? 

そんな思いにも駆られる。


コツ、コツ、コツ、コツ……

自分以外は誰も入るなと厳命しておいた筈が誰かの靴音がする。


「誰だ?! 今は機密実験中……今ちょうど失敗したところだがな……フン、笑いたいなら大いに笑ってくれ……」


ところが名も知らぬ訪問者は、そのガラクタを一目見るなり、こう叫んだ。


「おお、素晴らしい! あと一歩ではないですか! 科学省長官、飯田橋博士。次は成功しますよ、絶対に」


ガラクタを見て興奮するとは、こいつはジャンク漁りの変態科学者か? 

飯田橋長官は、そう思った。


「ふん、どうせ下心見え見えの副長官の取り巻きの一人だろうが。自立思考型ロボットは今回も失敗だ! 笑いたければ笑え! 副長官はロボットに自立思考は不要という立場だったらしいが俺は諦めんぞ!」


飯田橋長官は、そう言い放ったが、その訪問者は違う回答を持っていた。


「いいや、飯田橋博士。自立型ロボットは必ずできる。なぜなら、この星以外では、とうに自立型ロボットは誕生し、他の生命体と共に平和な宇宙を作る役目を担っているから」


おや? 

こいつ、いかにも見てきたような話をするな。


「ふん、副長官に見切りをつけて、俺の方へ鞍替えする気か? まあいい、これで99回目の失敗だ。さすがに俺も即座に次というほどの馬鹿じゃない。君の意見、聞かせてもらおうじゃないかね?」


本来の用途は会議室なのだが飯田橋長官は実験室と自宅の往復が面倒だという理由で実験室隣の会議室を準備室の名目で自分用の部屋にしてしまっていた。

通常なら上から叱責が来るのだが彼の実績と行動力が文句すら封じ込めてしまっていた。


「さて、話を聞かせてもらおうか、あ……そうか、名前も聞いてなかったか」


天才の欠点の1つなんだろうが技術上や設計上の細かい点は気にするのに生活全般や人付き合いというものに対して少しも気を使わない、それが飯田橋という男でもあった。


「私の名前……秘密でもないのですが、ちょっと隠させて下さい。私のことは「K」と呼んで下さい。ちなみに私、博士号はありませんので、博士は付けなくて結構です、飯田橋博士」


ぎょっとした。

ここに勤務する職員は飯田橋長官の都合で全て博士号持ちの人員ばかりのはず。

そういえば、ここは秘匿通路で隠されていたはずだな……

こいつ、どうやって入ってきたんだろうか? 


「まあ、分からん点は後で聞き出せば良いか。では、ミスターK。君は次回の実験で必ず自立思考型ロボットの起動は成功すると言ったな。その理由を聞きたい」


「個人的なことから聞いてくると思いましたが、ズバリですね。うん、気に入りました。私の持つ極秘情報と、ちょっとしたプログラム……というか制限条項ですかね? をお渡ししましょう。このデータチップ、読み取れますよね」


Kは小さなデータチップを差し出してきた。

これは最近になって流行してきたセキュリティと暗号化に優れた規格のデータチップではないか。

まあ科学省の備品に古いものはないので大丈夫だが。

ん? 


「ミスターK。この、イサク・アジモヴとは何者だ? ロボット工学三原則だと? 何の冗談だ?」


「飯田橋博士、冗談ではありません。この国の人工頭脳技術は、もう充分に発達しています。後は起動時の読み込み時に、この条項を付け加えてやればロボットは自己意識を持つようになります。保証しますよ」


それから飯田橋とKの協力作業が始まった。

というよりKが飯田橋を引っ張っていく。


「あ、博士。そこ違います。自己意識の発動には必ず条件付けが無ければダメです。刺激を与えて自ら考えないとダメだという形に持って行ってやるのが大筋です」


「ふーむ……最初から条件付けか……盲点だったな、これは。では立ち上げのプログラム順位を変更してベースのプログラムが走ったら次にアシモフとやらの三原則を読むように変更だ。これで最初に条件付けができるわけだ」


数ヶ月後、全く新しい構想のもとに行われた自立思考型ロボットの起動実験は、あっけなく成功する。

それは新しい生命体が、この星に生まれた瞬間でもあった。

数百年後、この新しい生命体は密かにデータの中に埋もれ隠された全く新しい宇宙船の建造用データと数多の救助機材データを公開する事になる。

それは、この星のみならず、この銀河の新しい夜明けともなるべく、ふさわしき文明となるまで隠されていたものだ。

ちなみにロボット工学上の偉大なる開発者、発明者の中にミスターKと名乗る人物は、どの記録にも残されていない。

ミスターKは写真や大勢の集まりには決して近づかず、ただ最先端のロボット研究者達の前に現れては道を示し、あるいは悩みの元である計算の欠点を指摘し、あるいは全く考えもしなかった方向からの開発と発明、発見を助けたという。

なんとミスターKと名乗る人物と会ったというロボット関係者をリストにしてみると、これが50年間も続いている。

歴史上のミステリーとも言われるが、このミスターKがいなければ今のロボット開発は不可能だったとも言える。

1つの星に、ささやかな謎を残しながらステルス状態で巨大なる宇宙船は旅立っていく……



シーンそのニ


私は今現在、考えている……

自分が「考えている」と考えることができるのが不思議だ。

私は何なのだろうか? 


宇宙は時折、まことに珍しい生命体を生み出すことがある。

この生命体も、その一つだ。

長い長い年月。

その星は、ハビタブルゾーンにありながらも何故か高等生命を生み出すことはなかった。

生命発生の条件は整っていた。

海があった、陸地もあった。

原始的な植物も発生し地球で言う「フデイシ」のような海藻に近い植物プランクトンの巣が固定された石のように存在し酸素も炭酸ガスも窒素も含む大気として有害な宇宙線の放射からも守られる環境にあった。

ところが、どうしたことか。

魚類も頭足類も三葉虫に似たものすら生まれず、海は平穏に包まれて何も生まれぬ、何も泳がぬ海が、ただそこにあるだけだった……

植物プランクトンの巣であるはずのフデイシは何もない海に長い長い年月をかけて進出していった。

彼らを捕食するはずの動物プランクトンも、それより大型の魚類すらいない一見すると死の海のように見える広大な海に、少しづつ少しづつ、フデイシは勢力を伸ばしていった。


最初のフデイシが発生してから十億年ほど過ぎた。

広大なる海には、まだ植物プランクトンのような生命しか無く、海底にはフデイシが所狭しとギュウギュウ詰めに生えていた。

これだけなら「外れの星」と言うことで、どこかの星系から飛んできた生命体が植民するのにもってこいの星となったかも知れない。

しかし、自然のイタズラで、この星に巨大な天候異変が起きることとなる。

それは、ちょっとした太陽のクシャミのようなもの。

しかし、それは安定していた太陽風を猛烈に動かし、安寧をむさぼっていた当の星にも激烈な天候をもたらした。

大気上層部のバンアレン帯を猛烈に揺さぶった太陽風のおかげで平穏だった海に突如、嵐が起こる。

通常では考えられない規模の巨大な雷が天と地を繋ぐ。

これだけなら、ただの異常気象となっただろう。

しかし、この星には海の中にフデイシが詰め込まれていた……


化学変化? 

それとも一種の「神のいたずら」か? 

猛烈な雷の電気によりフデイシの一部が、その中身を変質させた。

もともと組織のように小さな生物が出入りするフデイシの構造が変質し、フデイシが電荷を帯びたのだ。

そうなるとフデイシに入る小さなプランクトンは電荷によりイオン化したものとなり、出るプランクトンはイオン化を解除される。

星の天候が変化し雷が普通に落ちる状態になると、このフデイシの変化が加速される。

数百万年後、フデイシ達は一種のネットワークを形成することとなった。

初期ではあるが計算能力が生まれたのも、それを加速させることになった原因かも知れない。

しかし、まだ自己意識や自我など望むべくもない段階だった。


また一億年が過ぎる。

その頃にはフデイシたちに初期の自己意識のようなものが生まれていた。

大きなコロニーが1つの塊となり、別のコロニーとイオン化したプランクトンをやりとりすることで情報交換することを覚え、それを惑星規模に拡大させたのだ。

これだけでも1つの自然の奇跡だろうが、ここに宇宙からの客人が登場する。

その客人は、この星に、たった一つだけ欠けていたものを送り込み、ただそれだけで去っていった。


星に欠けていたもの。

それは鉄分だ。

アルミも鉄も、銅も金も銀も、この星には埋蔵どころか大気中にすら含まれていなかった。

宇宙からの客人は数百トン単位の鉄隕石の塊を星に向けて落とした。

その衝撃は大きなものだった。

数万にも及ぶだろうフデイシコロニーの壊滅や一部の地殻の蒸発と、猛烈な地殻変動の引き金を引いた巨大隕石は、また別の役割も担うこととなる。

巨大隕石とは言え数万年もすればボロボロになり、鉄分は周辺に散り、また海流により遠方へ運ばれていく。

その僅かな鉄分を吸収したフデイシコロニーは、その計算能力が数倍に拡張されたことに気がつき、より多くの鉄分を吸収しようと隕石周辺に多くのコロニーを作るようになる。

こうして少しづつ、その星に巨大な群体生命体が誕生することとなる。


また数億年後。

太陽がクシャミをし、星には猛烈な嵐が吹き荒れ、巨大な稲光が何本も立つ。

フデイシは、この頃、ある程度の自己意識は確立されているようで、積極的に雷のエネルギーを得ようとするコロニーも出てきた。

極小のキャパシタ(コンデンサのようなもの)が無数に集まって雷の膨大なエネルギーのごく一部ではあるが蓄えられるように進化していたのだ。

フデイシコロニーは進化し続け、それぞれが1つの部品と化すように特定の方向へ進化を進めていく。


では、それを統一する「意思」の持ち主は? 

それは、また数億年後に現れる。

それは星そのものだった。

1つの星が1つの生命体。

当然、自然や天候は自分の意思でコントロールされるため、変な生命体など生み出さない。

生み出したのは植物と昆虫、それだけ。

それ以上の高等生命体など星の維持には不要と判断したのか、それ以外の生命が生まれることはなかった。


その星は孤独だっただろうって? 

いやいや、そんなことはない。

目に見えぬ生命体や辺りの宇宙空間を飛び回る宇宙船、辺りを見回せば、仲間はいっぱいいる。

コミュケーション手段はテレパシーだが、これを常用する種族や生命体は数多くいるので孤独など感じている場合じゃない。


いつの頃からか、植民は不可だがバケーションには最適という1つの星が噂となりはじめる。

遠くの巨大稲光や天然のスコール、緯度によっては様々に変化するオーロラが見られる未開のままの星。

星の意識は時たま立ち寄るお客の満足の感情を喜びとしながら、宇宙の一員として一定のポイントを定点観測する仕事にも喜びを見出すのだった……



シーンその三


僕は今、見知らぬ宇宙船の中にいる。

僕はロボット、自由意志を持つ高等ロボットだ。

僕らの住む星の太陽が不安定になったため僕らの主人たる人類は星から脱出して、僕らロボットが星を守る事となった。

太陽の不安定さは、この星の不安定さにもなったようで様々な異変が起きたけれど僕らロボットは長い活動データから類似例を参照して、それらの異変から星とロボットの皆を守った。

最終的に太陽の不安定さを抑える装置が人類脱出前から開発されてたんだけど、それがついに完成となって、その太陽制御装置を積んだロケットを太陽へ打ち込む事となった。

今だから正直に言おう、

この太陽制御装置は欠陥品だった。

装置そのものは太陽の熱でも大丈夫だったんだけど、その制御装置部分が太陽の熱にやられて溶けてしまったんだ。

僕は自分の身体を太陽制御装置に接続し、僕のボディそのものを制御装置部として太陽制御装置を動かそうとした。

でも、ダメだった。

僕のボディは、かなりの熱量に耐えられるんだけど、それでも太陽表面温度には耐えられない。

分かってはいたんだけど少しでも可能性があるならと、僕はロボットらしからぬ賭けに出て負けちゃった。

ああ、僕の最後って誰にも知られずに溶けて無くなってしまうことだったのかぁ……

などと、最後の最後に電子頭脳が人間的な走馬灯現象を見せてくれてたところだった。


《ロボット君、君の声を聞いた。勇敢なロボット君に敬意を表し、俺達が太陽を正常化してあげよう》


あ、これは音声や電波じゃないな。

超能力者との付き合いもあった僕には、これがテレパシーだと理解できた。


「どなたか知りませんが、ありがとうございます。僕はもう力尽きました。あなたがたが太陽を正常化してくれるのなら、僕はこのままスクラップになっても本望です」


《そんなことはさせないよ、勇敢なロボット君。君は俺達が直してあげる。ちょっとした贈り物もさせてもらおう》


そこまでの記憶しか、僕にはなかった。

太陽の高熱で電子頭脳がハングアップしてしまったからだ。

次の記憶は、どこか知らない修理台かベッドと思われる物の上に寝ている自分だった。


「あれ? 人工皮膚もセンサーも全て高熱で溶けてしまったはずなのに……なぜ、僕は見えるんだ? 聞こえるんだ? 手足のセンサーも正常に動いているようだけど……」


僕が不思議がっていると、見知らぬ人が現れた。


「気がついたかい、勇敢なロボット君。勝手に運び込んで勝手に修理させてもらった。英雄が溶けたままなのは、いかに第三者であろうと見過ごせないのでね」


あ、この人が僕を修理してくれたんだ。


「ありがとうございます。修理してもらっておいて、こんな事を言うのは変だと思いますが……僕の内部、いじりましたか? 原子力エネルギーなんで危険だったと思うんですけれど……」


現代のロボットたる僕らは原子力エネルギーで動いている。

特に僕は、この小さな身体に十万馬力という超高出力を備えているため内部構造に詳しくない人が僕の内部をいじると大変に危険なんだ。


「ああ、そのへんは君の上位版になるだろうフロンティアにまかせたんで大丈夫だよ。ちなみに君の動力部、原子力じゃないが、より安全なエネルギー転換炉に替えておいたそうだ。通常出力で安全係数が今までの10倍ほどになっているというから緊急時には百万馬力ほど出せるようだな」


え? 

さすがに百万馬力じゃ僕自身が保たないけれど、それは凄い! 


「でも、凄い科学力ですね。もしや、僕らの星の宇宙船じゃなくて……あなたは宇宙人?!」


「おいおい、とっくに分かってると思ったよ。そう、ここは巨大宇宙船ガルガンチュア。俺は、この星系、いや銀河どころか、この銀河団の生まれでもない地球人という。君を飛んできた星に返す前に肝心の太陽の件だな。もうすぐ、この太陽に合わせた制御装置が完成するので、それを打ち込んで太陽を正常化させるとしよう」


「この太陽に合わせた? もしかして太陽のクラスや不安定状況に合わせたカスタマイズすら可能なんですか?!」


とんでもない科学力だ。

僕らの星なんて、この地球人と名乗る人物の持つ科学力に比べたら赤ん坊みたいなものかも知れない。


「そうだよ、これでも、もう10個以上の太陽に専用の制御装置を打ち込んで来たから信頼性と実績はあるんだ。まあ安心してくれ」


僕の耳に何気ない調子で、とてつもない台詞が飛び込んでくる。

太陽すら自由自在に操る科学力を持つ宇宙人には僕らの星の全ての科学力と技術力をもってしても対抗すら無駄だろう。

ただし、この宇宙人は悪意と言うものが全く感じ取れない。

僕の7つの能力のうち善意と悪意を見分ける能力は正常に働いているので、これは決定事項なんだけど侵略も攻撃意思も全くない純粋な援助と救助なんて僕らの星の人類にも今まで感じたことがない。

僕を作った「お父さん」にも悪意や攻撃意思、殺意などが感じられた事があって僕はお父さんに歯向かってしまった過去を持つ。


数時間後、僕の持ってきた物とは全く違うコンセプトにより作られた太陽制御装置が完成したと言われた。

地球人さんの説明によると太陽表面にはプラズマエネルギーを糧にしている生命体が住むのだそうで、その生命体に許可を取って制御装置を打ち込むとのこと。


「何の事前説明も無しに自分の星に得体の知れないものを打ち込まれて喜ぶ奴はいないだろう? そういうことさ」


ということでテレパシーで事前に太陽の異変を正常に戻す装置を打ち込むと説明して、その生命体達の許可を取ってから制御装置は太陽に打ち込まれた。

数日もすると、その効果はてきめんに出てきて、荒れ狂ってた太陽フレアが見る見る落ち着いて、黒点の数も少しばかり増えている。


「地球人さん、ありがとうございました。あなたは僕らの星の恩人です。ぜひとも、僕らの星へおいでください。全人類とロボットで歓迎したいと思いますので」


と言うと当の地球人は、


「いや、やめとこう。そういうことが嫌いなんでね。性に合わないんだろうな、やっぱり。君らの未来がより良いものになるなら、それが俺への報酬だよ」


そう言うと、小型搭載艇で僕の星まで送ってくれた。

宇宙船本体が、あまりに大きすぎるので惑星の近くへは行けないんだと説明された。

ロシュの限界とやらで、お互いの重力で星が破壊される可能性がある、とのこと。

僕は、その説明を始めは信じなかっただけど搭載艇で宇宙船の外へ出た時に、これは真実だと思った。

僕の目に飛び込んできたのは巨大な2隻の宇宙船を繋ぐ筒のようなもの。

こんな宇宙船が作れるようになる未来が僕らの星に来ますように……

僕は、この光景を電子頭脳の最大機密箇所にデータとして格納した。


今現在、この宇宙船の存在と超越した科学技術は僕らの星には善悪両極端なものになるだけだ。

この情報を公開するのは遠い未来となるだろうな……



シーンその四


宇宙は無限である。

よって生命もまた無限の可能性を持つ。

有限の寿命ではあるが(エネルギー体であろうとも、やはり寿命はある。それが数年、数10年、数百年、数千年、数万年、数億年、数十億年……となるだけのこと。無限の寿命を持つ生命などというものは存在しない)生命体には生きようという意思が働く。

生きる意思が薄弱なものは早々に生命の終わりか来て、頑固に意地汚くとも生きる意思の強いものには長い寿命が与えられる。


ここに、この宇宙でも稀な生命体と言える一種のエネルギーの塊のような生命体が存在した。

寿命は、たぶん(推測するしか無い)この宇宙と同じか、または何かの手段で宇宙の終わりに巻き込まれるのを回避できるようならば、この宇宙より長い寿命を持つ。

その生命体は見るものにより様々なイメージを彷彿とさせるのだった。

あるものは「鳥」を想像し、あるものには「龍」またあるものには「何かわからないが、そこに何かあることは分かる」ような、しかし確かに生命体として存在するのである。

通常、その生命体は大宇宙を跳び回り、様々な星で伝説や民話のもととなる奇跡を起こして回っているのだった。

彼? (性別はない)の根源は退屈しのぎ、である。

え? 

あまりに酷い言い草ではないか? 

ですと? 

崇高なる、不死に近いエネルギー生命体の様々な星系における奇跡のような事件や事象の根源動機が退屈しのぎなわけがない! 

と、貴方はおっしゃるのですな。


よろしい。

では、エネルギー生命体の他の生命体に関わる動機が退屈しのぎ以外の何物でもないのだと、ここで証明してみせましょう。

よろしいか? 

けっこう。

では、まず、このデータチップに残されていたビデオ映像を見てもらおう。

これは、私が宇宙考古学の発掘作業をしていた時、その作業を映像として残すために動画カメラを回していたものに偶然だが、伝説のエネルギー生命体が映り込んでいたものだ。

私は現地の星での作業時には必ず、その星の担当地域に詳しいものを雇うことにしている。

この映像は、その雇った現地人が映り込んでいるんだが……

風景だけしか写ってないじゃないかと言われる? 

まさに映像は、その通り。

しかし、実は私の動画カメラは、その現地人に焦点をあわせていた。

現地人が映っているのじゃない、風景だろう、ですと? 

いえいえ、このアングルで更に移動しながらも固定アングルにしてるのが、まさに「そこにいる誰かを写している」証拠。


その証拠に通り過ぎる者達は普通に映ってるだろ? 

後で私自身が思い出したんだが、その人物の記憶が曖昧なんだよ。

どうも、その当該生命体が私の脳に、幻影を見せてたようなんだ。


ちょいと、時間を進めることとする。

同じような風景と作業現場が映っているだけだからね。

おっ、このポイントからだ。

食事時に、この相手と話してるところが映っている。

この会話中、私は不思議な光景を見ていたのさ。

では、音声も出力して、この場面を見ていく事としよう……

ちなみに、この場面でも被写体は映ってない。

ただ、不思議なことに音声は入ってるんだな、これが。

では……


「ところで教授、あなたの星の方々は、よく「我々は宇宙を征服した!」などと言われますが本当でしょうかね?」


「何だね急に。問答かい?」


「いいえ、そのままの意味での質問ですよ。あなた達の星が確かに、この銀河一の科学力と技術力を持っている事は否定しません。でも、それだから宇宙も征服したと言い切れますかね?」


「ふむ、そういう事か。この銀河中で一番ということは、もしもだが他の銀河へ行っても相当に上の科学力と技術力じゃないのかね? まあ、この銀河から隣の銀河へ行くことは未だに難しいんだが……」


「良いことをお教えしましょうか。あなた方の星へは訪問しておりませんが実は銀河どころか銀河団すら越える能力を持った宇宙船が少し前に……とは言うものの百年以上も前の話ですが……この銀河へ来てました」


「な、何?! そんな超越科学と超越技術を持った宇宙船が我々の探索の網に掛からないわけがあるまい。君、もう少しマシな冗談を言いたまえ」


「いえいえ、冗談ではありません。これは本当のこと、真実です。その宇宙船は、この銀河で用いられている全ての技術・科学の遥か上を行く超技術で探査にもかからず、この銀河を調べつくして去って行きました。まあ、この銀河にいる生命体には彼らの救いの手は不要だと判断されたのでしょう」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! そんな超越技術を駆使する宇宙船が訪問してるのに我々とは出会わずに密かに去っていったというのかね。どうして?! どうして我々は、その異星人の興味を惹かなかったんだ?!」


「この銀河が、争いも貧困も差別にも無縁だったからですよ。トラブルを抱えている銀河に立ち寄っては援助と知恵を与え、トラブルを根本から解消して金銭も名誉も何も求めずに去っていく。そんな生命体が乗っている巨大宇宙船ガルガンチュアに、この銀河は介入不要と判断されたんですよ。光栄に思うべきではないでしょうか?」


「大ボラと判断するには、あまりに詳細を知っているような口ぶりだね、君は。古代には栄えていた星に住む退化した種族の口ぶりじゃないな。君、本当は、どこの星の出身だ?」


「映像記録を残しているようなので、あえて音声出力にも手を出さずに置いておきます。ちなみに私の姿、このカメラには写りませんからね、そのつもりで。私は、決まった肉体を持ちません。寿命はありますが、あなた達に比べて極端に長い時を生きるので、ほぼ不死だと思われています。私は、一種のエネルギー生命の融合体です。あまりに大きなエネルギーを内包しているので、宇宙に出ると光り輝いて見えると言われます」


「君の言うことが全て真実なら、私は奇跡のような時間を過ごしている事になる。伝説の不死の生命体、ある時には鳳凰、不死鳥、また黄龍とか赤龍とか呼ばれる生命体で間違いないと思うが?」


「はい、それで間違いありません。ちなみに私の話に出てきた宇宙船ガルガンチュアは、この私の力を凌駕しています。私は銀河を渡ることはできますが銀河団を超えることはできません。宇宙船ガルガンチュアには、それが可能なのですよ。まあ、彼らの目指すところは私には理解不能ではありますが。だって、この宇宙全ての生命体の抱えるトラブルを全て解決して回るって……もう神様か、あるいは狂人の妄想ですよね」


「いやいや、その理想は高すぎるだろうが、そんな生命体の乗る宇宙船が人知れず銀河を救いまくって人知れず去っていくなどと……どこの妄想ドラマの脚本なのか? というところだな、普通は」


「そう思いますよね、教授も。私も興味が湧いたので彼らの宇宙船に訪問して提督に聞いてみましたよ。回答は何だったと思います?」


「ん……聞きたい! 是非とも」


「答えはね……「そうしなきゃ俺の気がすまない」からですと」


キャハハハ! 

と爆笑の声が入る。


「はぁ、久々に笑ったな、私も。誰も知らない要望もしてない、それなのに全て解決し全て救おうと大宇宙そのものを駆け巡っている、そんなお節介な生命体が実在するとは! ちなみに君も伝説の生命体だろう? 君の残した伝説や起こした奇跡の動機は?」


「ああ、それは簡単。長き時を生きると退屈するので、ただの退屈しのぎ。それだけです。教授、あなたと話せて楽しかったです。せいぜい、この銀河だけでも深刻なトラブルのない平和で豊かな銀河にしてくださいね。私も宇宙から見守ってますよ」


ここで、映像終了。

最終画面が一瞬、あまりの輝きの為に真っ白になる。これは、かの生命体の本質が現れたからだろう。

諸君、私が問題とするのは、この伝説の生命体ではない! 

いや、この生命体も貴重さでは負けてはいないが、それよりも、この生命体をすら凌駕する宇宙船が存在するって事だ。

銀河を普通のように渡り、時には銀河団すら超える超越した科学と技術。

我が星の科学技術は、こう言うと悪いが停滞しているだろう。

目指すべきは宇宙船ガルガンチュア。

我々が目指すゴールは未だに遠いと気付かされたのだ。


この講演より、教授の名は2つ名をつけて呼ばれることとなる。

宇宙最大のホラ吹き教授

しかし、ごく一部で、この教授の講演を真実だと見抜く人たちがいた。

近くはない未来だったが教授の予言通り銀河を渡る宇宙船が完成するのは歴史のイタズラではなかった……



シーンその五


生命体の終焉は必然でもある。

ある種族が滅びるのなら、それは大宇宙の歴史が決めたこと。

ごくごく一部の生命体を除き、ほとんどの生命体は自分の所属する宇宙の終焉と共に消え去る。

どんなに足掻こうと、どんなに知恵を絞ろうと、宇宙そのものが無くなってしまえば、どうしようもない……

しかし意地汚いと言われようが何と言われようが、つばを吐きかけられて罵られようとも、

死にたく無い! 

滅びたくない! 

と考える生命体やら種族がいるのも無限の可能性が存在する宇宙では不思議なことではない。

ここに今の宇宙の前、ビッグバンで宇宙が生まれるその前の滅びてしまった宇宙に存在していた筈の生命体の名残が、どこの銀河にも属さぬ銀河間空間に、ひっそりと保存されていた。

それは言ってみれば避難所。

言い方を代えれば残留思念の、俗な言い方にすれば幽霊の保管場所。

本来そこは定期宇宙航路からも離れたポイント、のはずだった。

ところが。


「おい! どこを跳んでるんだ? この船の現在位置がGPS(ギャラクシー・ポインテッド・システムの略)装置が壊れてるせいで全く分からなくなったって?! 無茶な跳躍したら中性子星、ブラックホール、恒星の中、惑星の中心部、どこへ出ても不思議はないぞ!」


ここに、この銀河でも最も不幸、不運な星を背負った宇宙船が登場する。

この銀河内では自分の船の銀河内での絶対位置が自動的に判明するシステムが装備されているのが普通だった。

それで船の高性能人工頭脳が他の宇宙船と交信し、危険な星区やポイントを回避し安全に速く宇宙を跳ぶことが可能となっている。

しかし、この宇宙船、少し前に小規模で危険指定もされていなかった浮遊隕石群に遭遇し、よりにもよってGPS装置にピンポイントでダメージを受けることとなった。

通常なら人工頭脳やライフライン、GPS系統は特に障害を受けにくいように保護されているのだが、この宇宙船は、そのGPS装置にだけダメージを負ってしまった……


「しかしなぁ、昔はGPSなんて無くても宇宙航行してたんだろ? どうして高性能人工頭脳だけで跳躍できないんだ?」


乗員は、たった二人。

パイロットとコ・パイロットの二人だが、どちらも正規のパイロット資格は持っている。

この船、本来は宇宙探査用の小型軍事用宇宙艦だったのだが、この二人がお役御免で耐用期限の為に格安で払い下げられた船を買い、民間用の輸送船として引き続き宇宙を旅することとなった。


「こちら宇宙船アンラッキー号! 浮遊隕石群との遭遇事故によりGPS装置に致命的なダメージを負った。至急、救援を乞う!」


至急の救急通信、返事は多数あるのだが……


「ちくしょう! どの船も自船の正確なポイントが分からないようじゃ救助に行けないと異口同音で通知してきやがる。そこだけなんだよ、俺達の船がダメなのは!」


愚痴とダメ出しの塊となっている同僚兼親友を横目で見ながら、メインパイロットである人物がため息混じりで口を開く。


「まあ、そう愚痴るな。そもそも、この宇宙船に命名したのは、お前だろうに。自分の船の現在位置が分からなきゃ宇宙船を跳ばすことは不可能だ。やれることといえば光速以下の速度でノロノロと実空間を進むだけなんだが……一番近い星系まで数十年かな?」


その時、人工頭脳が音声からデータを引っ張って来た。


「お? 会話から至近距離にある恒星系を計算してくれたようだ。相対距離だけだから人工頭脳でも認識できるんだな。まずは助かった……って一番近い恒星系まで十光年以上?!」


つくづくアンラッキーな船である。

しかし彼らは知らなかった。

船の人工頭脳も知らなかった。

彼らの現在位置が太古の幽霊たちの保管場所の、すぐ近くだったことに……

この時点で呪われしポイントと不運な船は30万Kmほど、つまり地球と月ほどに距離があった。

しかし不運な船と不運なコンビに、まだまだ不運が降りかかる。


「とりあえず通常エンジンで行けるとこまで行かなきゃ仕方ないだろう。恒星系に到着したら、もしかしたら宙間パトロール隊の分署か何かあるかも知れないからな」


至近距離(12光年ほどの距離)にある恒星系へ向かうことにした宇宙船アンラッキー号。

しかし、その方向は……


「このところ宇宙空間での貨物引き渡しが続いていたから通常エンジンを起動するのも久々だぜ。俺達の運ぶ荷物は軽いけれど緊急性の高いものばかり。この船、足だけは早いからな」


愚痴の多い相棒も船自慢だけは同僚に引けはとらない。

あまりに二人が愛船を褒めちぎるため女性陣から引かれているのにも気づかないほどだ。


「そういうこと、それじゃ、通常エンジン始動! ゆっくりでも近づいて恒星系に入ったらまた緊急通信出せばいいだろう」


ゆっくりと動き出した宇宙船アンラッキー号。

数十秒後……


「なんだ?! 通常エンジンに異常が見られないのに何かに突っ込んだか捉えられたかのように宇宙船が止まっちまったぞ? どうなってんだよ、相棒!?」


「俺にも分からん! ともかく宇宙船に何も異常や不調はない。しかし、動かないんだよ、このポイントからな!」


神ならぬ身、自分たちの絶対ポジションが分からないがゆえに陥った最大の不運。

宇宙船アンラッキー号が陥ったのは特殊な空間。

そこには、この宇宙より前に滅びた宇宙にあった生命の名残り、幽霊の保管場所だった……


【きたぁ……ようやくきたぁ……まっていたぞぉ……】


「ん? 相棒、なにか言ったか?」


「いや、何も。お前こそ、俺の耳の傍でぞっとするような声を出すんじゃないよ」


「いや、俺も何も言ってないぞ」


「はぁ?! 今さっき、俺の耳元で地獄から来たようなおどろおどろしい声……を……?」


何かの気配に二人が恐る恐る後ろを振り向くと……


「で、出たぁ! 出やがった! こいつがパイロットの間で噂になってる宇宙幽霊ってやつかい!?」


「お、俺も初めて見たが……恨み骨髄って顔してる方々がいっぱいいらっしゃるようだな、こいつは……」


「ちくしょー! なんでお前は、こんな時にも冷静なんだよ!? パニクれや、異常事態なんだから!」


「相棒、むちゃくちゃ言ってるって自分で分かってるか?」


「ああ、ああ、分かってますとも! ちっくしょー、レーザーもパラライザーもスタンナーも効きゃしねー! 幽霊だからかなぁ、相棒!」


「ちくしょー、バリアシステムも通り抜けてきやがる!」


「え? 俺達には触れられないみたいだが……」


「俺がサイキッカーだってこと忘れたか? サイキックバリアは突破できないみたいだな、さすがに」


数十分後、奇妙な緊張関係が出来上がった。

幽霊の集団は意味不明なことを呟いたり喚いたりしながら、そこいらじゅうを漂っている。

ただし人間2人には触れらないので、そのへんは恨めしそうだ。

宇宙船の壁やドアは幽霊たちにとっては障害とはならないようで……


「えーい! 腹立たしい奴らだ、まったく。トイレタイムくらい孤独にひたらせろや!」


そんなこんなで数ヶ月が過ぎる。

もう2人の人間と幽霊の集団たちとの共同生活は通常の生活とかわらなくなっている。


「人工頭脳が幽霊たちの有効活用法を見つけたようだぞ」


要は跳躍時の出現地点に何もないことが分かれば良いのだから相対ポイント位置のみでの跳躍航法を行うという。


「出現ポイントに何もないって、どうやって確認するんだ? 絶対ポイントがわからない現在、それは無理だぞ」


「幽霊に確認してもらうんだとさ。人工頭脳は、ある程度、幽霊たちと意思が通じるらしい。思念だけの生命体なんで超空間も自由に行き来できるんだと」


「ぞっとしねえな、超空間に自由に出入りできるって。それこそ、生物じゃないって証拠だな」


幸いにも距離は12光年ばかしの超ショート跳躍。

やってみる価値はあった。


「用意よし。相対ポイントの跳躍出現ポイントに物質無しを確認、跳躍航法、開始!」


賭けに勝ったアンラッキー号は無事に近くの恒星系に到着。

緊急通信で救助船がすぐに助けに来たのだが……


「ぎゃぁぁ! お助けぇ! 幽霊だぁ!」


「相棒よぉ、これで10隻目だぜ、救助船が逃げ帰っちまうのは。俺達、今じゃ疫病船扱いなんだとよ……まあ文字通りの幽霊船なんだけどな」


「うまいこと言ったつもりか馬鹿野郎。しかし、このままじゃラチがあかないぞ。幽霊船を着陸させてくれるような星は、どこにもないからな」


「はぁ……気のいい幽霊たちなんだけどなぁ……見た目で損してるよなぁ、こいつら」


そう、生きたいという意思が強いだけで、あとは普通の生命体(ある意味、中途半端な管理者に近いか? )だ。

逃げ帰ってしまった救助船を見て、幽霊たちも悲しそうな顔をしている。


「なんとかならんもんかね、こいつらが生きていく、というか存在しても良い惑星とかがあれば良いんだけどな」


そんなことを思う2人。

そこへ突然の強力なテレパシーが! 


《こちら、宇宙船ガルガンチュア。救助の件と幽霊の就職先は解決してやる! 》


何もないはずの宇宙空間がゆらぎ、そこにないはずの超巨大宇宙船が現れた……


それから数年後……

とある星の宇宙港にて。


「なあ、相棒。この船の名前、アンラッキー号は、もしかして普通の幸運より大きな、それこそ惑星級の幸運をもたらす船だったのかもな」


「ああ、そうかもな。今までの不運を帳消ししにて、それより数万倍のでかい幸運を運んでくれたからな」


隕石群との衝突事故から数年。

船名は「アンラッキー」と変わらないが、船そのものは直径500mもある球形船に変わっていた。

本格的な大型輸送船で球形なので、ほとんどの貨物がカーゴベイに収容され、輸送依頼も超大口まで可能となる。

エンジンは静かだわ、惑星への着陸すらそのまま可能だわと、まさに理想的な貨物船。


「それにしてもなぁ……分からないもんだねぇ、人間の運命ってもんはさ」


2人は次々とカーゴベイに積み込まれる貨物の山を見ながら奇妙な運命について考えていた。


「ああ、そうだな。まさか幽霊たちが作業用ロボットに憑依、というか、のりうつれるとは思わなかったなぁ」


この貨物船を手に入れたことにより2人の会社は零細企業から1年も経たずに大企業へと躍進する。

今年中にはもう一隻の輸送船を買って、銀河の中央部へ事務所を構えるなどと言うことが夢ではなくなってきている。


「積み込み完了しました。船長、社長、発進準備も完了しております」


作業ロボットの一体が報告してくる。


「ご苦労さん。この仕事が終わったら無人星へでも慰安旅行へ行こうぜ、社員一号君!」


ロボットたちにはそれぞれナンバーがあり社員一号から現在は社員二十八号まで。

幽霊たちが乗り移っているせいで低性能の作業用ロボットが高性能な自己意識を持つロボットと同程度に働く。

人間があれこれと指示をしなくても良いため、その作業性の高さはダントツ! 


「なぁ、相棒よ。無人星へ行くついでに例のポイントへ寄って、この宇宙への就職を希望する幽霊達をスカウトしてこないか?」


生きようとする意思が強いものほど、この宇宙では高い位置につけるようだ……

少なくとも、この銀河には幽霊だろうと差別はない。



シーンその六光子の国の掟(中編)


あんな生命体、こんな生命体、様々な形の生命体が。この無限の宇宙には存在する。

形あるもの無いもの。

有機質と無機質。

大きさもマイクロメートル単位から光年で計算するほうが早い大きさのものまで。

ここにも他には見られない珍しい生命体が存在した。

それは光子エネルギーで作られた肉体を持つ生命体。

肉体が光子エネルギーのため宇宙空間の移動に宇宙船が不要(ただし跳躍航法は無理なため、近場の星系内移動に限られる)

さすがに銀河内を旅するには跳躍航法が使用できる宇宙船に搭乗するしか無いが、それでも宇宙船が惑星に着陸しなくても良いため、非常に効率的な宇宙船運用が行える種族となった。

今日も今日とて銀河内を循環バスのように巡る定期航路の宇宙船が次々と宇宙港から発進していく(ただし惑星から飛び立つのは全て艀あるいは搭載艇。大型の輸送船や観光船、ごく小数の軍用艦などは全て衛星軌道上にあるスペースドックへ入ることになっている)姿は爽快の一言。

ごくごく小数の宇宙海賊やら小さいのから巨大なものまで浮遊隕石群、果てはブラックホールまで航行の障害となるようなものは全てギャラクシーマップに要注意点、危険点、災害点としてポイントされて航行の安全に役立てるようになっている。

ただし災害や障害物というのは予測されたものだけではない。

広大な宇宙では、いつ、どんなことが突然に起ころうとも不思議ではない。


「星間パトロールU01号より本部。一部の宙域を荒らしまわっていた宇宙海賊の首領と思われる生命体を逮捕した。これより本部への護送を開始する」


いつもの光景だった。

星間犯罪者は全て中央裁判所へ送られて、その罪により罰を受ける。

例外は惑星あるいは星系単位の生命体大量虐殺行為の現行犯処遇のみ。

その場合は光子エネルギー体の柔軟さを最大限に利用する対応を試みることとなる(当然、中央からの許可あるいは指令が必須となるが)


「手こずらせやがったが、これであの宙域の海賊たちも壊滅だな。また1つ宇宙が平和になった……」


U01号は呟く。

全般的に言えば、この銀河は平和になった。

しかし周辺星域(具体的には辺境星域だ)では、まだまだ宇宙海賊達が横行しており、被害を受ける生命体も、その損害額も莫大なものとなる。


「まあ何と言っても手が足りないのが原因だよな、こいつは。なんで俺達の種族だけが星間パトロールなんて職種に半ば強制的に就かなきゃいけないんだよ! もっと様々な種族がいるだろうに、この銀河は生命体で溢れてるんだから」


彼の愚痴も、もっともな話である。

彼の種族は世にも珍しい光子エネルギー生命体。

エネルギー生命体という種族は、そこまで珍しいものではないが(希少な種族であることは間違いない)光子エネルギーのみで構成される体を持つ種族は非常に珍しく貴重なのだ。

その体の構成ゆえ自動的に彼の種族は銀河を守る警察官、いわゆるギャラクシーポリスのような役目を負わされることとなる。


「まあ、俺は嫌じゃないけどね、この仕事。たまーにだけどストレス発散もできたりするしな」


ストレス発散が、どういうものかというのは後で説明するが、とりあえずは彼の状況を見ていこう。

彼は単独で、この任務をこなしている。

彼の種族は、ほとんどが単独任務だ。

まあ、この種族に勝てるものは、ほとんどいないという実情もあったりして事実上この種族が乗り出した事件は、ほとんどが解決している……

もちろん解決してない事件もあるのだが未解決事件は全体の0.1%も無い。

未解決の原因も実は種族の裏事情にあるのだが、それもまた後の話にするとしよう。

順調に本星に帰還したら、そこの本部で犯罪者は裁判の手続き上、一時的な勾留を受けることになる。

まあ銀河法によれば「数多ある生命体そのものをおろそかに扱う種族や個人は、そのレベルによって罰を受ける」という基本原則に従って裁判され、ごくごく短時間のやりとりの後に結審されるのが普通。

この宇宙海賊の場合、ずいぶんと悪どいことをやっていたため通常の罰金刑や懲役に至らない執行猶予は無理だろうな……

U01号は、そんなことを思っていた。

ふと彼が気を逸らしていた隙に、それは起きた。


「うわっ!? 未登録の宇宙船だと? データが来てないから危なく正面衝突するところだったじゃないか?! でも少し、かすったか?」


彼の宇宙船は最新型のため、様々なもの(有害宇宙線から浮遊隕石群、果ては先ほどのような突発的な宇宙船事故まで)からの衝突防止用シールドシステムが装備されている。

彼は忘れていた。

この宇宙船が装備しているシールドシステムの有効範囲が、さっきまで最大距離に設定されていたことを……

衝突事故の相手側宇宙船はU01号のシールドシステムに横から衝突したようで。


「あー、やっちまったかな。しかし相手のミスとは言え、こちらと相手の技術力の差がモロにでたな」


そう、U01号側は、かすり傷1つ負っていないが相手の宇宙船は大破、というか、ほとんどバラバラになっている。

相手側の宇宙船にはシールドシステムのようなものは装備されていないようだった。


「とりあえず救助作業開始だ。宇宙船をオートパイロットにして自分を追従させるようにして、と」


U01号自身は乗船用ドアを開けて宇宙空間へ。

こういう場合、瞬時に行動できる光子エネルギー体は便利だ。


「さてと。救助者は……小さい宇宙船だったみたいだな、これは。恐らくは跳躍航法の実験船か。とすると乗員は少ないと思われるけれど……いた! コクピット部分は頑丈に作られていたようで原型を保ってるな。乗員は2名で1人は気絶してるだけ。もう1人は……」


とりあえず2人を救助するU01号。

男女二人の乗員は女性の方は無事で気を失っている状態だったが、問題は男性。


「とっさに同僚に宇宙服着せることだけ考えて自分は急激な空気流出によって亡くなったか……勇敢なやつだ。しかし弱ったな……こういう場合、我々の基本原則では救えるものは救えと言われてはいるんだが……」


事故報告を本星に行うと、やはりというか何と言うか。


「君の宇宙船が相手の宇宙船を大破させた原因なのは間違いない。君自身は罪に問われることはないだろうが、それでも君に救える命が、そこにあるのだろう。君にできることを、やりたまえ」


やれやれ。

あれをやるのは精神的にキツイものがあるんだけどな。

俺は異種族の男性の遺体に向き合うと自分の体を固体化から存在を希薄化し、その男性と重なるようにして融合していった……


僕は……

ありゃ? 

僕は死んだはずだ。

未知の宇宙船と衝突して僕らの外宇宙航行用試験機は木っ端微塵になったはずだ。

その時、とっさに同僚に簡易宇宙服を着せることには成功したんだが僕自身は空気が抜ける方が早すぎて、どうしようもなく気が遠くなっていった記憶しか無い。

ん? 

僕は、どうして考えられる? 

もしかして、あの宇宙船事故から生き残ったのか? 

そんな馬鹿な! 

それこそ幼児向けの科学教育番組「エクセレントマン」の世界じゃないか。

僕は故郷の星、水球ではインテリゲンチャで通っていた。

いくらなんでも、あの事故から無事に生き延びられたとは思えない。


(コドーと言うのか、君の名は)


おわっ!? 

だ、誰だ?! 

僕の思考中だぞ。

頭の中から声がしたように思ったが……


(安心したまえ。君が死んだわけでも狂気に陥って幻聴が聞こえているわけでもない。私は、この銀河のパトロール隊に所属する者だ。君の宇宙船が私の宇宙船に衝突して大破してしまったため私が君と同僚の2人を救いだしたのだ。ただし君の体は生命力が尽きかけていたため私が君と融合して君の体が回復するまで一緒にいる)


そういうことだったか……

では、正式に名乗ることとしよう。

僕の名はコドー。

正式な名は、もっと長いが通称だけで良いだろう。

同僚の名はユーリーだ。

僕らは水球で初の外宇宙用航行機関を積んだ宇宙船で試験飛行を行っていた。

歴史的に残るだろう外宇宙航行機関を試験運転したところ、そいつが暴走してしまい目的のポイントから大幅にずれてしまって……


(ああ、大体の事情は把握した。偉大なる冒険家にして挑戦者に敬意を評すよ。さて、そうすると君たちの故郷の星系は近場にないということになるな。少し遠回りにはなるが、こちらの本星へ一緒に来てもらい、そこで君たちと同じ種族の住む星を探して貰ったほうが良いな)


は、ははは、そうか。

僕達が宇宙へ初めて出る種族だなどと驕っていたら、もうすでに宇宙は異種族の宇宙船で一杯だったわけか……

まあ、それが良いかも知れない。

僕らは、あまりに宇宙のことを知らなすぎたんだな。


(では、そういうことで。しばらくの間だが、よろしく、コドー)


よろしく、U01号。


(おや? 名乗った憶えはないが)


僕にも、すこーしだけどテレパシー能力がある。

無防備な精神なら少しは相手の考えが読めるのさ。

少し強くブロックされると無理だけどね。


これより異種族同士の融合体が宇宙を旅することになるのだった……

数週間後のU01号宇宙船(光子エネルギー生命体の宇宙船は、ほとんどが個人用宇宙船のため、個人名が宇宙船名であることが多い)内である。


「ちょっと、コドー、来てよ。食料合成器が言うこと聞いてくれないんだって!」


「ユーリー、何度言ったら理解するんだ? 分子名から入力しないとダメなんだって。君みたいに、レストランのメニュー注文みたいに言っても合成器には理解できないんだよ」


「あなたが入力して記憶させたものならメニューから選ぶだけなんだけれど、私は違ったものが食べたいの! たまには中華丼があったっていいじゃないのよ!」


「だーからー。新しいメニューは入力が複雑なんだってば。君が入力作業を放棄したから僕が全てのメニュー入力をやったんでしょうが」


「じゃあ、また新しいのお願い。中華料理メニューが食べたいのよ」


「はあ……君って女性は……」


「女性は複雑な事は放棄するものなの!」


宇宙に出ても女性という生き物は何とワガママなのであろうか……

コドー=U01号の融合体にも、この命題は理解不能だった……

そんなドタバタが続いたのは数ヶ月後。

ようやくパトロール隊の本星に到着した融合体+1人は本部に出頭し、U01号の捕縛した宇宙海賊の引き渡しと不運な事故にあい宇宙の迷子となった水球人の2人の帰還を要請する事に成功する。


「U01号と融合したのは君、コドーくんと言ったか。数ヶ月だったが身体のどこかに異常はないかね?」


本部指令と会話中のコドー。

もちろん現在はU01号との融合は解除されている。

ユーリーも一緒ではなく、これは指令とコドーの私的会話だ。


「はい、どこにも異常はありません。U01は僕らに親切でしたよ、とても。最後まで融合してることも秘密にしてましたし。おかげでユーリーに僕が異星の宇宙船に詳しいことがおかしいと根掘り葉掘り探られましたけど」


色々と、その件ははぐらかしたり、医療機械で治療中にデータをインプットされたのだとか様々な言い訳を使っていたらしい。


「まあ我々が銀河のパトロール隊員である限り、君らを早急に故郷の星に帰還させてあげられるようにと数多の星図データと生命体の勢力図や星系図を参照しているところだ。そんなに時間はかからないとは思うが、なにしろ銀河は広い。星系さえ特定できれば速いんだがなぁ……」


「お世話になり感謝しております。ここで学ぶことも多いですし、まだまだ帰らなくても大丈夫ですよ、指令」


「そう言ってもらうと助かる。絶対に君達を故郷の星に帰してやるからな、期待してて待っててくれたまえ」


そういう指令だったが、コドー自身は、そう簡単に見つからないと思っていた。

彼らの星系に異星人の宇宙船の来た証も異星人の伝説も残っていた形跡がないからだ。

僕らの星系って、よほどのド田舎星系だったんだろうなぁ……

コドーは、あまりの文明度の差に溜息が出そうになりながらも、しっかり異星文明の高度な科学を学ぼうと決心する。


僕らが異星の文明圏で学ぶようになってから数年後……

ようやく、待ち遠しかった知らせが届いた。


「お待たせしたね。君たちの故郷の星が、ようやく判明したよ。しかし、君らは幸運だったなぁ、あの暗黒星区から脱出できたとは」


ん? 

何か聞きなれない単語が耳に入った。


「ありがとうございます、指令。ところで、その暗黒星区とは、どういう意味でしょうか? 僕らの星は暗黒なんかに覆われてませんよ?」


こりゃしまった! 

という顔をした指令。


「いや、言葉を間違えたな。我々の文明圏では君らの故郷の星を含んだ星区のことを暗黒星区と呼んでいるのだ。真っ暗という意味じゃなくて、こちらの探査の手が届かないという意味なんだがね」


長いこと僕らの故郷の星が判明しなかった原因が、これか。

データのない星区では、参照しようにも元がない。

あれ? 

じゃあ、なぜ、僕らの星を含む星区だけ暗黒星区なんだ? 


「指令、お聞きしてもよろしいですか? 僕らの故郷を含む星区が暗黒星区なのは何が原因なのでしょう?」


「うーん、それがだなぁ……」


指令は言葉を濁す。

そこへ割り込んできた者がいる。


「原因は、その星区だけが異常な空間なんだよ。ともかく宇宙船の原因不明の遭難から旅行者の失踪、原因不明の星の爆発や喪失まで、とにもかくにも異常事態が多すぎて立入禁止にするしか手がない特別危険宙域なんだ」


U01号。

久しぶりだが衝撃的な回答だった。

僕らの故郷の星を含む一帯の星域が、この銀河でも特に危険な暗黒星区と呼ばれるようになったのは、およそ十万年ほど前から。

ともかく一定の宙域だけで異常とも思える宇宙船事故の多さと、その星域を旅行する異星人達の失踪数の多さに対処に困った銀河のパトロール隊は、この星域を通常の星区分けとは別にして「暗黒星区」と名付け、特別危険宙域にしていたというわけだ。

もちろん定期的な調査や事故原因解明調査、失踪人捜索隊とかが一切入らなかったわけじゃないが通常の星域や宙域と違い、その担当調査員の数そのものが、ごく小数だったこともあり、僕らの星を含む宙域は、ほとんど調査の手が入らなかったわけ。

調査データが無い、言ってみれば禁断の宙域から来たとも言える僕ら二人は、そうとわかったとたんに当局の担当者に質問責めにあうこととなる。

自分の星の科学力の程度や技術段階、星に住んでいる人口や種族の数、文化はもちろん、通常の挨拶やマナー、言語の種類についてまで根掘り葉掘り聞かれることとなった。

一週間、罪人じゃなくても質問責めにあってご覧よ。

当分の間、他人と話もしたくなくなる。

孤独ってイイなぁと、僕も同僚も心底、そう思った数日間だった。

そんなこんなで一年間は、あっちこっちへ引っ張りまわされて暗黒星区の住人ということで貴重なデータ源だと思われたんだろう、故郷の星への帰還など、どこかへ吹き飛んでしまっていた。

ようやく実験動物扱いから解き放たれて故郷の星へ帰れる事になったのが、つい最近。


「コドー、ユーリー、ようやくだが君たちを故郷の星に送り届けてあげることが可能になった。待たせてすまなかったね。しかし貴重なデータを貰って我々も助かったよ。君たちを送り届けるのは……」


まあ、予測はついてるけど。

指令の言葉に次いで、


「それが私、U01号です。ちょいと長旅になるけれど、よろしく」


数ヶ月の間、融合してた間柄だからね。

僕は彼のことを理解してるし、彼もそうだろう。

問題は……


「プライバシーは守ってもらいますからね。アタシの船室は無断で入室しないように! それと、食料合成器のメニューは簡単に操作できて数多くの種類にして欲しいわ!」


ああ、やっぱりそうだった、トラブルメーカーは彼女……

若干の不安を抱えながら僕ら3人は暗黒星区にある僕らの故郷の星へと向かうのだった……


僕らの帰還の旅は本当なら数日で終了するはずのもの。

しかし宙域が特別危険指定の暗黒星区のため途中からの日程が遅々たるものになるのは仕方ないところだろう。


「ねぇ、まだ帰れないの? いい加減、この合成器のメニューにも飽きたのよ。もうちょい、こう、パパッと跳べないの?」


ユーリーは、こうやってワガママを言う。

まあ本当は自分でも分かってるんだろうけれど、それでも故郷の星で待ってる家族のことを考えると一刻も早く帰りたいんだろうな。

僕? 

僕は天涯孤独だしね。

生まれ故郷には帰りたいとは思うけど、帰っても待っててくれる人たちは……

ま、湿っぽいのは嫌いだ。


「すまないね、今すぐにでも故郷の星に戻りたいのは理解できる。しかし、この宙域では何が起きるか分からないのだから注意し過ぎることはないんだ。このノロノロ航宙も意味があるんだから、もう少し我慢してほしい」


U01号、本当にお詫びの気持ちが強いようで。

まあ、ここより遠い銀河の果てでも数日で行ける性能の宇宙船で、ここまでノロノロ運転じゃ、そういう感情になるのも当然なんだけど。

しかし、この宇宙船の性能は凄い! 

僕らの乗ってた外宇宙航行試験船なんか、この船と比べたら月とスッポン。

僕らが、おっかなびっくりで手探りしながら自分の星系の外へ出ようとしてたガレー船だとすると、この船とU01号などはモーターボート、それも快速船になるのかな。

ともかく主機の出力も跳躍航法(外宇宙での超空間航法のことを、こう呼ぶのだそうだ)の効率も最大跳躍距離も全てが段違い。

こういう宇宙船を僕らの文明が普通に乗りこなせるようになるのは、いつになることやら……


「まあ、そうは言っても段々と近づいてくことに変わりはないさ。安全第一だ。レーダーに反応なし……え? 違う! 巨大エネルギー反応あり! 今までは何も反応がなかった空間に何か巨大なエネルギーを持つものが出現!」


そうか、これが暗黒星区の由来か……

僕は警告の叫びを上げながらも、こんな思いを感じていた。


「コドー、ありがとう。相手よりも先に探知したようだ。こいつは私が対処する。君たちは、そちらのスクリーンで見物していたまえ」


U01号は、そういうと彼専用の脱出シュートで船外へ。


「キャー! 彼、宇宙服も作業艇も用意してなかったわよ! 生身で宇宙になんか出られるはず無いじゃない!」


まあ、普通はそう思うよね。


「ユーリー、安心して良いよ。彼は光子生命体って種族だ。僕らのように酸素呼吸など必要ないし、宇宙空間だって生身で移動できるんだよ、ホラ」


僕はスクリーンを指差す。

そこには脱出シュートから飛び出したU01号が宇宙空間にある光子を集めて巨大化していく様子が映し出されていた。


「何? 何なの、あれは。宇宙人と言ったって、あんなに巨大化できるはずがないわ。子供向けの科学教育番組に出てくるヒーローじゃないのよ、あれじゃ。もう、常識が吹き飛んじゃいそう!」


気持ちは分かる、ユーリー。

U01号は20mほどに巨大化すると近くに出現した巨大な何かに向かっていった。

僕はスクリーンを調整し、U01号を追いかけるようにカメラの倍率を上げていく……


出現したものの正体が判明した。

僕らの星では太古の昔に絶滅した恐竜に似た生命体だ。

しかし呼吸器もなければ宇宙服すら身につけていないところを見ると、あれもU01号と同じようなエネルギー生命体なんだろう。

U01号は、そのエネルギー生命体に向かって飛び膝蹴りをかましていった……


「うん、こうやって見てると本当に子供向けのメディア番組よね。現実だとは思えないわ」


ユーリー、それは言っちゃいけない台詞だ。

僕も、そう思うけど。

巨大化したU01号と怪物との戦いは数分に及んだ。

先にスタミナが尽きたのは怪物の方だ。

その先は、もうU01号の一人舞台。

怪物はサンドバッグ状態で……


「あ、必殺技? 光線出してるわね。これ、そのままウチラの星に持って行ったら大評判になりそうな映像よ」


だからさー、ユーリーさん。

気分を削ぐなよ、頼むから。

光線技を受けた怪物は、なぜか大爆発を起こし、バラバラになって宇宙に消えていった……


「や、お待たせ。久々に実戦やったから多少欝気味だった気分も晴れたよ。いやー、やっぱ思いっきり身体を動かすのは気持ちいいよねー」


通常のサイズにまで戻ったU01号は、戻る早々、こんなことを言い出す。

そうか、エネルギーに満ち溢れてるような種族だから、たまに全力で戦闘とかしないとダメなんだな。

僕は、そう結論づけた。

実は、もっと深い物があったんだけど……


ふと疑問が湧いた。

僕らの星を含む宙域って、どうしてこんな宇宙恐竜(と仮に呼ぶとしよう)みたいな奴が頻繁に湧いて出るんだ? 

こんなに出現するんだったら僕らの星にも太古の昔から出現しても不思議じゃないだろうに……

こう考えてる間にも数時間で2体ほど宇宙恐竜、U01号に聞いてみたら彼らの組織では「怪竜」と呼ぶらしい存在が僕らの進路を塞ぐように出現し、その度にU01号に退治される。

そうなんだ、あまりに頻繁に出現するんだよ、こいつら。

まあ、だからこそ、この辺りの宙域は暗黒星区などと呼ばれて特別危険宙域に指定されているわけなんだが。

僕は根拠は無いけれど、その時に何か関連がありそうだと感じた。

僕らの星が暗黒星区の中にあるのは偶然なんかじゃないなと。

この怪竜が出現するのと、僕らの星が怪竜に襲われないのは多分同じ理由だ。

しかし、この推測は裏付けがない。

まだまだユーリーや、ましてやU01号になど言えるわけがない。


「しつこい奴らだな、まったく。この船が向かってる星が分かってるかのように進路上に出現して邪魔してくるんだから」


怪竜撃退に成功したU01号が、こう愚痴る。

ん? 


「本当に、あの怪竜たちは、この船の進路を妨害しに来たんだろうか?」


「え? 何を言い出すんだ、コドー。これで合計8回だぞ、君らの故郷の星への進路上に奴らが現れたのは。こりゃ意地でも我々を目的の星へ到着させたくないとしか考えられないだろ?」


うん、それは事実だろう。

ただし……


「U01号、これは僕の推測と直感なんだが。あの怪竜たちは、この暗黒星区の守護者じゃないだろうか?」


「えーっ?! 何を言い出すのよ、コドー。あんな凶暴で醜い怪竜たちが守護者なわけないじゃないのよ! どこをどう考えれば、そんな推測が出てくるのよ? あなた、おかしいわよ」


ユーリー、君は楽観主義者で性善説論者だったな、確か。

僕は生来の性悪説論者だ。

こと、ここに至って僕の目には他人とは違ったものが見えてくるようになった……


「とりあえず僕らの星へ向かってくれないか、U01号。証拠が必要だ、僕らの種族の有罪の証拠が……」


あー、自分で言ってて落ち込む台詞だ。

今から故郷の星へ行って、自分たちのはるか昔の祖先たちがやらかした大犯罪を、よりによって、この僕が暴くことになるとは……


数日後、ようやく僕らの故郷の星へと到着した。

怪竜たちが星へと向かう僕らを妨害してきたのは合計20回以上。

巨大サイズ1体だけじゃなく、3体合同で出現した時もあった。

その時にはU01号に妙な変調があったが、まあ何とか切り抜けた。

その後は数体がかりなどという異変はなくて1体づつ片付けていったんだけど。


「コドー、ユーリー、よくもまあ無事で帰ってきてくれた! 空間レーダーで追跡中に君らの宇宙船が消え去った時には絶望したが、良かった良かった。で? この見知らぬ宇宙船と、どう見ても宇宙人の、この人は?」


宇宙軍総監が僕らを労ってくれる。

僕らはU01号を総監に紹介する。


「……というわけで、僕らの宇宙船は主機が暴走し、とんでもない距離を跳躍してしまいまして彼、U01号の宇宙船と衝突してしまったんですよ。僕らは彼に助けられて彼らの母星へ行き、帰還の時期を待っていたんです」


僕の説明が終わった。


「そうか、まあ試験機は残念だったが、それよりも有能なテストパイロットが残ってくれたのは有難い。君らの報告から主機の改良箇所も判明したし、次は成功するさ!」


総監は、そう言うんだが……


「総監、お聞きしたいことがあります。これは重大なことなんですよ。我々は、この星で生まれた生命体ではありませんよね?」


「んん? 何のことかな? 知らんぞ、そんな太古のことは私が知るわけがない」


はぁ、語るに落ちたな……


「総監、僕は弱いですがテレパシーが使えます。今、総監の心を読んだら我々は宇宙からの移民者だと判明しているとのこと。真実を話して下さい! 総監!」


「う……そうか、そうだったな。君に対して嘘は付けないか……そう、君の推測は当たっている。我々は宇宙からの移民団だったのだ……」


宇宙軍総監の語る、僕ら種族の太古に犯した大犯罪とは……


「コドー、君の推理した通り我々の祖先は宇宙からの移民者だった。移民してきたのは、およそ十万年ほど昔のこと……」


その年数に反応したのはU01号。


「何?! この宙域が特別危険宙域、いわゆる暗黒星区に指定されたのと、ほぼ同じ頃じゃないか」


そう、そうなんだ、U01号。

僕らは君に助けられる資格がない種族なのかも知れない。

総監の話は続く。


「我々の祖先の住んでいた星は太陽の気まぐれで大規模なフレア爆発を起こし始め、それが長く続いたのだそうだ。ある程度は主星との距離があったために最初は宇宙船を跳ばすときに気をつけなければならなかったくらいでよかったんだが、だんだんと生活そのもの、具体的には惑星の気温が高くなっていき、とうとう雨の日以外は外出ができないくらいに気温が高くなりすぎた。そこで祖先は、その惑星を捨てて、もっと暮らしやすい星への移民を計画したんだそうだ」


そうか、祖先の人たちも大変だったんだな。

でも犯罪は犯罪。


「総監、お尋ねします。通常の宇宙移民措置だけなら、ここまでおかしな事態になってなかったでしょう。この星への移民時に何かあったんですね?」


僕は核心を突く。


「そうだ……遥か昔の古文書を解読して分かったことだが、この星には先住民がいた。まあ、宇宙へ出るほどの科学技術は持っていなかったんだが、おかしな性質があってな。闘争本能が異様に高いらしく通常は町や小さな都市単位での争いを常に繰り返していた。だから武器や防具、戦闘技術の類は異様に発展度が高かった」


僕が口を挟む。


「そんな先住民がいたのなら、移民なんて認めるはずが無いですよね」


「ああ、君の言うとおりだった。祖先は最初は彼ら先住民と共存させてもらおうとしたんだが彼らは祖先たちを拒絶した。代表団は殺されはしなかったものの殴られ蹴られて追い返されたと古文書には記されていたよ」


総監の話は続く。


「移民船は簡易的な作りの宇宙船だったため、それから新しい移民星を探すことなど不可能だった。数億とも言う人口を住まわせるのに目の前の星しか手段がなかったそうだ」


ここから悲劇が起きるわけか……


「祖先は、とある組織……後の宇宙海賊と言われるようになる者達……と取引したらしい。古文書には彼らの根城となる宙域を提供したとあるだけだが取引したのは間違いない。宇宙海賊達は祖先らとの契約を実行する。つまり、その星の先住民の抹殺だ」


聞きたくなかったが、やはり……


「抹殺には数十年かかったらしい。移民開始は百年後からだったと書かれているから。その契約では宇宙海賊の根城となる宙域を提供する代わりに、この星を外部の手から守護することも含まれていたようで、十万年後にも、この星は宇宙海賊の手によって守られているのだよ。だから、この十万年、宇宙人も宇宙船も一切の外部からの干渉はシャットアウトされていたのだ、この星は。ある意味、鎖国のような状況だったとも言える。外宇宙航行可能な試験機も過去には契約違反だとされて宇宙海賊に沈められるものが多数あったようだ」


つまり僕らは、まさに命をかけたテスト要員だったわけか……


「ありがとうございます、総監。さてU01号、君に守られるどころか僕らは君たちに攻められて滅ぼされても当然の種族だと判明したわけだ。君の判断を聞きたい」


U01号は迷っているようだ。

見も知らぬ異種族なら冷静に死刑執行も下せるのだろうが長い付き合いになってしまっているからなぁ……

僕は彼に助け舟を出す。


「どうだろうか、僕ら種族が自首するというのは?」


「何を言い出すのよ、コドー。自分で自分が犯罪者だって公表するわけ?」


ユーリー、君の言いたいことは理解できるが、これは先祖の犯罪を隠し続けた僕らの罪でもあるんだよ。

U01号が口を開く。


「コドー、具体的には?」


「君の宇宙船を使わせてもらい、この銀河のパトロール隊本部へ公開謝罪文と告発文を届けてほしいんだ。古文書を同封すれば君らの上司にも分かりやすいだろう。僕らは、どんな判決が出ても反対しない。民族が消滅しようとも抵抗しないよ」


U01号には総監と一緒に作成した文書を手渡し(古文書のコピーも忘れずに)本部へ跳んでもらう。

僕らのやることは、まだまだある。

総監の言うには、この真実を知るものは僅かな者達だけだとのこと。

今から、あらゆるメディアを使い、この太古の大犯罪を周知徹底しなければ。


爆弾が破裂した。

僕が手配し、政府の上部関係者さえも説き伏せて、この星の全住民に太古の大犯罪を公開した後のことだ。

あらゆるメディアが、あるものは太古の祖先たちの罪であり我々には関係ないと絶叫し、あるものは先住民の抹殺など許される行為ではないと弾劾し、またあるものは自己弁護、はたまたあるものは自己批判……

世の中がカオス状態になる。

面白いことに自分には関係がないと絶叫する者達には政府の高官や社会的に高い地位にあるものが多いこと。

今の権威や地位を失いたくないという意図が透けて見えるのがおかしくて笑えてしまう。

まあ、それも数ヶ月も経てば落ち着く。

祖先の犯した犯罪とは言え、自分たちには無縁の事と言い切るには、あまりに酷すぎた。

おまけに現在の宇宙鎖国状態なのは、この事件との関連が強いと言われれば当事者感がいっそう強くなる。

世論は、とにもかくにも色々あったが、僕らの先祖とはいえ罪は罪。

償えるものなら子孫である自分たちがやらねばならないと言うことになった。

まあ、過去には大犯罪を犯したが、それもこれも子孫のためだったということが大きかったのかも知れない。

更に、その傾向に拍車をかけたのが怪竜の出現。

今までは僕らの星には決して出現しなかったものが、ついに僕らの星に現れて破壊を行うようになった。

怪竜たち、つまり宇宙海賊達に言わせれば今まで律儀に契約を守って星を守護してきたんだが、それを一方的に破ったのが僕らの方だ。

契約が破棄されたのであれば、こんな星など不要だ、とばかりに宇宙からの招かざる使者がやってくるようになった。

当然、僕らも自衛しなければ滅亡するわけだから、自然と対抗策を選ぶこととなる。

対怪竜との戦いが主となるために対怪竜防衛隊、略して怪防隊が設立され当然のことながら僕とユーリーも隊員となった。

相手がエネルギー生命体であり惑星上では行動や力に制限があるということが分かっていたため怪防隊は初期対応が必須の即応体制を採る。


幸いなことに惑星上に怪竜は直接には出現することができないようで宇宙空間よりの襲撃ばかり。

おかげで対象地域の市民に避難勧告もできるし僕らが対象地域へ向かう時間の余裕も出てくる。

そして、これが一番の利点、怪竜の力は惑星上では制限されるのか、およそ50分の1まで弱くなる。

まあ、そのおかげで生身の僕らでも集団でかかれば怪竜に対抗できるし撃退することも可能となる。

今日も今日とて運良く海面に落下してきた怪竜相手の戦闘が一段落したので僕らは休憩がてら昼食に入る。

え? 

生死を賭ける戦いをしてきたばかりなのに、よくものが食えるな、って? 

これは慣れだよ慣れ。

始めの頃は食べても吐いたし、食欲も減退した。

だけど食べなきゃスタミナを維持できないし、そもそも重い武器を持って戦うことすら不可能となる。

無理にでも食べなきゃ死が待つばかりとなりゃ、そりゃ食べるでしょうよ。


「この頃、ようやく短時間で怪竜が倒せるようになったわよね、私達。腕が上がったのかしらね?」


ユーリーが得意げに言う。

おいおい、間違ってるよ、それ。


「ユーリー、それ、まかり間違っても宇宙空間での怪竜相手には、やめとけよ。惑星上では怪竜の力が50分の1に弱まるから、かろうじて僕らの武器が奴らに通用するんだ。宇宙空間だったら僕らの武器は奴らに通用しない。それどころか、腕の一撃で僕らは粉々だぞ」


真実を教えてやるのも同僚の勤めだ。


「分かってるわよ、コドー。言ってみただけよ。U01号の戦い、私も見たのよ。あんな戦い方、私達じゃ無理だもの……そう言えば、U01号、行っちゃったきりね。私達は、やっぱり有罪ってことで彼らから見放されたのかしらね……」


それは僕も考えていたことだが決して口には出さなかった……

考えたくないことだといえば正解だろうが、やはり自業自得という言葉が重くのしかかってくる……


「怪竜出現時のエネルギー波、探知しました! 落下地点は怪防隊のいるそばです! 対応、お願いします!」


通信機より、また怪竜出現の報告。すぐ傍に落ちてくるのなら、好都合。

僕らは落下予測地点へ急ぐのだった。


「何だぁ? ありゃあ……今までの怪竜とは違うようだな」


アラーシー隊員が、落下してくる怪竜を見て呟く。

皆も同意見だ。

今までは薄いカプセル状の皮膜に包まれて大気圏突入時の高熱を遮っていたんだが、こいつはカプセルに包まれていない。

自分で落下速度のコントロールが多少なりとも可能な力があるようで、ブレーキをかけつつ落下してくるようだ。

こいつは、今までの奴とは違う……

僕の第六感にピンと来るものがある。


「隊長! 気をつけて下さい、あいつは今までの怪竜とはレベルが違います! 最大火力で迎え撃つべきだと思われます!」


隊長は僕の意見を聞き入れてくれ、僕らの持つ最大火力で怪竜を迎え撃つ! 


「チクショー! スパイディショットが効いてないみたいだ。通常のミサイルもレーザー砲も、くすぐってるようなもんだぜ、こりゃ」


イッデ隊員が、ぼやく。

やはりというか何と言うか、惑星上でも、こいつの力は衰えない。

宇宙空間にいる時と同じ力を発揮してるんだろうな。

こりゃ、全滅覚悟するしか無いか……

その時、空に光が射すように一点が眩しく光った! 

それは宇宙にいた時に見た光の巨人。


「U01号、来てくれたのか……」


僕は、なぜだかわからないが流れる涙を止めることができなかった……


光の巨人は怪竜に挑みかかる! 

落下時の衝撃をマトモに乗せたキックからパンチの連打。

それが一段落し、両者ともに起き上がると後は殴り合いと光線技(怪竜も光線技を使った)の応酬。

2分間ほどの大勝負が続くと、U01号の動きが目に見えて遅くなる。

もしかして、エネルギー切れか? 

僕は弱くはあるがテレパシーでU01号に語りかける。


〈U01号、もしかしてエネルギーが足りないのかい? 惑星上だからエネルギー消耗が尋常じゃないのかな?〉


〈そうだ、コドー。私のエネルギーは宇宙空間なら無限に戦えるだけ取り込めて消耗を気にすることもない。しかし、惑星上では、そうはいかない。補充しようにも光子エネルギーの絶対量が足りない〉


〈良い手があることはある。それを使うかどうかはキミ次第だ、U01号〉


〈このままじゃジリ貧だ。良い手があるなら使いたい〉


〈よし。では、僕を君の中に取り込め。僕の身体は有機体、つまり質量の塊だ。これをエネルギー変換すれば膨大なものとなる。それを使えば、君はもっと長く戦えて光線技も使い放題だ〉


〈何を言っているのか自分で分かっているのか? コドー。それは、ヘタをすると君自身がエネルギー化してしまう、つまり、死んでしまうことにも繋がりかねないんだぞ!?〉


〈君が負ければ怪竜はこの星を破壊してしまうだろう。先に死ぬか後で死ぬかの問題だよ。ほら、早くしないと、もう残存エネルギーが残り少ないんだろ?〉


〈ええい! もうどうなっても知らんぞ。君と一緒に、この星を守ってやる!〉


そこから僕の意識はない……

意識が戻ったのは30分後の事だった。


「コドー、コドーったら! 起きなさい!」


「あれ? ユーリー。U01号と怪竜の戦いは?」


「あなたが消えちゃったあと見事な大逆転でU01号が勝ったんだけど小さくならずに大空の彼方へ飛んでっちゃったわよ……帰ってきたって挨拶くらいあっても良さそうなもんなのにね? その後、気がついたら消えたはずのあなたが、こんなところで気絶してるんだもの」


「そうか……勝ったのか。とりあえず、惑星上での決着はついたってところだな。さて次は宇宙海賊の本拠地へ乗り込むぞ!」


無意識で出た言葉だったが、その通りになった。

あの上位レベルの怪竜を倒したことにより、惑星上への攻撃は無駄という結論になったらしく怪竜の惑星攻撃は無くなった。

そのことにより僕らの目標は宇宙海賊の本拠地攻撃という一段と激しくなるだろう段階へと進む。


数ヶ月後……


「怪防隊の諸君! ようやく完成した量産型試験艦だ。これには光子を利用した攻撃兵器やバリアシステム等が新機能として組み込まれている。激しい戦いになるだろうが、この戦いに勝てば我々にも星々の世界へと踏み出せるのだ。頑張ってくれたまえ!」


本当なら宇宙艦隊での攻撃が理想なんだが、どう頑張っても我々の技術では、この宇宙船一隻を造り上げることしかできなかった。

いわば、これが僕達の星が到達できる最先端の科学技術の証。

これで宇宙海賊の大集団に戦いを挑む僕らには、しかし、悲壮感は全くなかった。

僕の中にいるU01号と、ステルス状態ではあるがU01号の宇宙船が共にあることが分かっていたからだ(宇宙船はオートシステムが働いて、U01号のテレパシー命令により攻撃や防御を行うのだそうだ)


「怪防隊、宇宙へ! 発進する!」


隊長の勇ましき声と共に僕らは宇宙へ飛び出す。

宇宙海賊の本拠地はU01号と共に宇宙のパトロール隊本部にいた時に暗黒星区の範囲を星間地図で見せてもらって、おおよそのところは把握している。

どうせ近くまで行けば防御網が働くので、そちらへ攻めていけば良いだろうという、まあ、ぶっちゃければ行きあたりばったりに近いプランだったりするんだけどね。


数回の跳躍後、僕らは推定される宙域へと出た。


「おかしいな? もう、敵方には補足されてるはずなんだが……自動防御システムくらい働くだろうに……」


そう、なぜか僕らは迎撃どころか敵艦の姿すら見ずに恐らくは敵の本拠地の本丸だろうという宙域まで進めている……

本拠地の心臓部と目されていた星域に到着した時、その理由がわかった……


「あわわわわ! た、助けてくれ! 誰でも良いから俺たちを、あの悪魔から助けてくれ! もう宇宙海賊なんて稼業は金輪際、やらねーからぁ!」


必死ぶりが分かる非常通信が、そこかしこから発信されていた。

パッと見ただけで数百隻の海賊船、それはもう見事にエンジン部分だけ撃ちぬかれて宇宙空間を漂っていた。


「こんな事のできるやつは……U01号、君の同僚か、または同種族に、こんなことができる種族っているのかい?」


僕は自分の中のU01号に語りかける、が。


(さあ? エネルギー生命体は少ないと言っても銀河全体なら数多くいるが、こんなことが可能な生命体や種族は聞いたことがないぞ、私も)


との返事が返ってくるばかり。

中心部の星へ向かって進むと護衛部隊だろう数十体の怪竜が宇宙空間で氷漬けになっている場面に遭遇する。

こんなことの可能な生命体……

変な話だが神の怒りという言葉が頭に浮かんできた……


中枢部だろうと思われる地点へ向けて僕らの宇宙艦は、ゆっくりと進んでいく。

ん? 

どうして、ゆっくりなんだ? 

一刻も速く中枢に行かないとダメだろう、って? 

いや僕らも早く行きたいんだよ。

でも辺り一面、エンジンを撃ちぬかれた海賊船や氷漬けの怪竜たちでいっぱい。

こいつらをかき分けながら進んでいる状態なんで、いつまで経ってもじりじりと進む芋虫状態なんだ。

数時間後、ようやく中枢と思われる小惑星にたどり着いた。

もう戦闘は終わったらしく、そこに残っていたのは超光速推進エンジンを見事に撃ちぬかれた小惑星型の巨大艦が1つ。

と、更に巨大な、こちらは衛星のサイズと言っても良い5000Kmを超える直径の球体と独楽状の巨大艦。

そして、その2つを繋ぐ巨大な円筒形構造物が1つになった、もうわけが分からなくなるくらいの超々巨大宇宙船。

ただし超々巨大艦の方はバックアップを担当しているようで、この惨状(?)を作り出したのは小惑星艦と超々巨大艦の間に、ぽつんと小さなもの、いや超小型の戦闘艦? 

違うな、パワードスーツと宇宙艦を1つにして半分にしたような(訳がわからないって? 僕もだよ)おかしな機動スーツを身にまとった生命体のようだ。

僕はU01号に確認してみる。


「U01号、ああいった無敵装甲のようなパワードスーツを身にまとう種族や生命体を知ってるかい?」


(いや知らない……聞いたことも無ければ見たこともない。あの超々巨大な宇宙艦もそうだが特にワケがわからないのは、あの小さな機動スーツの方だな。あんな無茶苦茶な戦闘性能を持つ機動スーツなど聞いたこともない)


そんなやりとりをしていたら機動スーツ姿の方の生命体に感知されてしまったようだ。

僕の微弱なテレパシーを、こんな遠くから感知するなんて凄いテレパスだな。


《やあ、遅かったね。君たちの存在には気付いてたんだが宇宙海賊とは関係ないと感じたので今まで声をかけずにいた。君たちは一隻だけで、ここに乗り込んできたのか。勇敢だが無謀とも言えるな。俺達がいなかったら、とっくの昔に宇宙のチリと化してたぞ》


〈どうも初めまして。あなた達の使ってる宇宙船……というか惑星規模の移動体というか……も、そうですが、その機動スーツも、あまりに科学技術の段階が僕らの銀河と隔絶してますね。あなた方は、どちらの星から来られましたか? この銀河にある宇宙のパトロール隊でも、あなた方の存在は知られていないようでしたが〉


僕の疑問は通常レベル。

返ってきた回答は超絶レベルだった……


《ああ、知らなくて当然だね。俺達は、この銀河の生命体じゃない。それどころか、この銀河を含む銀河団にも所属しない別の銀河団からやってきたものだ。いやー、まいったね。この銀河に着いて情報収集してたら問答無用で搭載艇は群れで落とされるわガルガンチュアは狙ってくるわ。さすがにこちらも反撃して勢い余って中枢部まで壊滅させちまった……後のことはまかせるから》


〈……あ、ちょ、ちょっと待って下さい! 宇宙海賊壊滅のお礼も言ってないのに……〉


《あ、そういうのはいいから。感謝とかパレードとかは性に合わないんで、どの銀河でも辞退してるんだ。まあ、これ以上のトラブルってのも無さそうだし俺達はまた別の銀河へ行くとするよ。じゃぁねー、お幸せにー、コドー君とユーリーさん。お似合いだよ》


機動スーツが超々巨大宇宙艦ガルガンチュアに収納されると、その巨大なフォルムとは裏腹にガルガンチュアはいとも簡単、身軽に進路を変え、その巨体からは信じられないくらいの加速力で、この宙域を飛び去っていった……

後に残った僕達のやったことは……

この戦場の後片付けに近いものだったとだけ言っておこう(大変だったんだからな!)


あの衝撃の「宇宙海賊根こそぎ壊滅事件」から丸一年。

いや、たった一年で、よくあの惨状とも言える宙域を整理、清掃できたと思うよ。

ガルガンチュアが去った後、僕達はU01号や宇宙のパトロール隊と協力して宇宙海賊の逮捕やらデブリと化した宇宙船の回収、氷漬けとなった怪竜たち(氷漬けになっても怪竜たちは生きていた。運動エネルギーを最小限にされていたために動きたくとも動けなかっただけだったのだ。ちなみに宇宙海賊にも死者は1人も出ていない……とんでもない戦闘能力と、とてつもない生命体への愛のなせる奇跡のような結果だった)の回収と解凍に走り回った僕達。

怪竜たちが生きていたおかげで、怪竜たちもエネルギー生命体でありエネルギー吸収を自己管理できる分より過大に吸収しすぎたために身体と精神が変質したのが「怪竜」だと判明したのは、ずいぶん後のこと。

なんのことはない、エネルギー生命体にも弱点があって、そこを間違えると正義が悪に直結するということだったわけ。

ちなみに僕らの先祖の大犯罪は、この宇宙海賊壊滅によって相殺されることとなった。

まあ暗黒星区が暗黒じゃ無くなったんだから、このくらいは赦してやろうという温情があったのは間違いないだろう。


「U01号! 流星群の対処だけど、どっちがやる?」


「どっちが主体でも構わないぞ! 今日は君、コドーがやってみるかい?」


僕はテレパシーで承諾する。

U01号が僕と融合する感覚が……

僕は光の巨人となり、今にも星系に到達しようとしている流星群を片っ端から光線技で破壊していく。

小さなものはユーリーが宇宙艦の主砲で撃ち落としていくので僕らは大型の物だけを担当する。


「ふぅ……これ位小さく破壊すれば惑星へぶつかっても大気圏で燃え尽きるだろう。もう安心して良いと星系政府へ連絡してくれ、ユーリー」


数年前、僕はユーリーと結婚した。

U01号と僕が融合する秘密も彼女には明かしている。

今、僕らは異色の3人組として様々な宇宙のトラブルに対応している。


「U01号、そろそろ彼女の1人も作らなきゃいけないんじゃないの? あなた達の種族って、なかなか種族が大きくならないんですってね。それって異性に淡白すぎるから?」


「やだなー、ユーリー。仕事が忙しいだけで作ろうと思えばいつでも……何だ? コドー、その疑惑の眼差しは」


「いや、そのセリフが異性に対して興味が少ないことを証明しているんじゃないかな? と思うんだが……」


ひどいなー、事実だろうが、そうそう、などと今日も宇宙艦の中は大騒ぎ。

しかし彼らのおかげで、この銀河の一角は平和だった……