第四章 銀河団を越えるトラブルバスターの章
第三十五話 銀河の巫女姫 マリー登場 (おまけ短編付)
稲葉小僧
私はエスパー。
それも希少な予知能力者。
ただし、この能力を公表できない。
あまりに悪用しようとする人たちが多いから。
たまに自分でも悩む。
なぜ私だけ、こんな特殊な力をもって生まれて来てしまったのか。
他の人達のようにテレパスや、テレキネシス、百歩譲ってクレアボヤンス(千里眼や透視のことを言う)、ポストコグニション(過去視)なら良かったのに。
あ、自分のことだけ言ってちゃダメよね。
私の住む星では、どういうわけか昔からエスパーが大勢いる。
それこそ掃いて捨てるほど。
どっかのお手軽ファンタジーじゃないけれど、それこそ魔法の使える世界の人たちのように、この星では普通にESP(超能力)やテレキネシスを使える人たちが多いってわけ。
でも予知能力は、このエスパー満載の星にも、ごく少数しかいないの。
これって、ほとんど運命や宿命すら変えかねない力だからかしらね。
この星に私達の祖先が入植してきてから数百年、それだけの時間を経ても予知能力者というのは、いまだ片手で数えられるほどしか出現してないそうなのよ。
一説によると銀河規模の災厄が来る前兆として大きな予知能力を持った子供が生まれるって話なんだけど……
まさかね。
まあ深刻な自己紹介は、ここまでにして。
私は今、20歳。
普段は普通に会社行って普通に仕事して普通にお給料貰ってる(ただし、エスパーじゃないという事で就職してるんで、お給料は安い)
まあ、これでも私1人だけなら普通に食べて暮らしていく分には、どうってことない。
ただ、私も、たまには贅沢したいって思うの。
だから定時で仕事が終わったら、それから2時間だけアルバイトしてるわけ。
水商売?
ううん、そんな勇気なんかない。ちょっとした占い屋台よ。
今日も定時で仕事が終わったんで(事務職だけど景気が悪いので仕事も定時終了なの。まあ、だからこそアルバイトの意味もあるんだけど)妙に当たると評判になっちゃって、たまに行列まで出来る占い屋台に出る。
あ、お客さんだ。
いらっしゃいませ。
「よく当たる占い師って事で見てもらいに来たんだけど、えらく若い占い師さんだね、大丈夫なのかい?」
皆さん、最初はそう仰られますね。
でも占いは結果が全てですよ?
お年を召されてても占いが外れちゃ意味無いですよね?
「まあ、そう言われてみれば。じゃあ、俺の未来を占ってくれないか?」
分かりました。
あ、近い将来、あなた、友人に騙されますね。
ずいぶんと貯めこんでたお金全て、その事業に注ぎ込んで、一年もしないうちに倒産です。
その友人、完全に口だけ。
自分では何にもしないで貴方のお金だけに頼り切りになります。
その後、莫大な借金を背負ったあなたは他の友人たちからも見放され、返済まで20年以上かかります。
「おいおい、ぞっとしねえな、その話。じゃあ、そういう話が来たら即、断るべきってことかい?」
そうですね。
その方が、あなたの未来は明るくなるでしょうね。
では。
「ああ、助かった。占いにしては、いやに現実味にあふれた回答、ありがとよ!」
ふぅ、これであの人の未来も少しは変わるかな?
あまりの借金の額に、お母さんがショックで倒れるって未来も見えたんだけど、まあ友人に騙されなきゃ良い話だものね。
あ、次のお客さんだ。
いらっしゃいませ。
「会社の同僚に聞いてね。どうにも良く当たる占い師がいるって探してきたんだが」
どうでしょうか?
私の他にも占い師は大勢いますけれど?
「いや、すごく若くて営業時間は2時間だけ。それ以上は営業しないって。ここだけでしょ? そんな店」
ああ、それでしたら、この店と私です。
あなたの未来を占うと……
ん?
「ど、どうした?」
いえ、ちょっと気がかりな事が……
分かりました。
近い将来……
とは言え約10年後、あなた、厄介な事になります。
「おいおい、よしてくれ。今の俺は順風満帆。仕事も家庭も、これ以上にない状態だぜ」
今は、ですね。
10年後に、あなたは厄介な病気に侵されます。
病名も特殊で治療方法も分からない。
そのせいで家族もバラバラになり、あなたはそれから数年後、病室で一人寂しく……
「うわ! それ以上はやめてくれ! ど、どうすればいいんだ?!」
簡単です。
あなたが今、裏社会から手に入れている薬、それを今すぐ止めれば何とか最悪の未来は回避できるかも……
「う……わ、分かった! 命には代えられないな、疲れも吹っ飛ぶ良い薬だったんだが……」
悪魔に魂売って買った薬なんて、ろくなもんじゃないでしょうにねぇ……
早目に手を切らないと、あなただけじゃなくて周りの人たちまで悲惨な目に会いますよ。
では。
ふぅ……
疲れた。
短いようだけど、もう2時間近いね。
今日は早仕舞しましょう。
ちなみに私の店の見料は、お安くない。
だから興味だけで来るような客は、ほとんどいない。
まあ、だからこそ私も突っ込んだ未来予知をしているわけなんだけどね。
ああ、一度だけでいいから、この力、全開フルパワー状態で使ってみたい!
まあ、そんな事になったら世界が滅びる寸前かもしれないけれど……
その日は、朝から何だか予感というのかな……
弱い予知能力が働いてたとしか思えないの。
ベッドから起きた時からワクワクするような、それでいて少し怖いような、おかしな気分だった。
もちろん普通に仕事して(オフィスでの仕事よ)定時までは普通に会社にいたわよ。
でもって後は2時間だけの占い師。
この日に限って、おかしなお客様ばかりで困っちゃったわ。
新婚なんだけど将来、妻が浮気をするだろうから相手を教えろだとか、自分の残り寿命を時間単位で教えてくれだとか、そんな相談ばっかり。
口コミで何か私の占いを変なふうに解釈してる人がいるみたい。
まあ、浮気の方は奥様の浮気は旦那さんが原因で起きる可能性が高いから今からでも奥様を信じて愛することが一番の浮気防止ですって伝えておいたわよ。
寿命相談の方は、あなたの食生活と一般に言えない特殊な趣味を抑え気味にしたら可能性として一番短い寿命の時より50年以上は長生きできるって答えておいたの。
だって相談者の人は選択する未来によって最長寿命で120年生きる時もあれば、占い屋台を出てすぐに死んじゃう未来もあったんだから……
もうすぐ2時間経つなー、朝からの予感は久々に外れかな?
とか思ってた……
その時よ、その人が現れたの。
凸凹コンビじゃないけれど、中肉中背の普通のオジサンと、こっちは頭1つ高い、どう見ても外国人のコンビが私の占い屋台目指して歩いてきた。
探してきたって感じじゃなかったわね、あれは。
確実に私がここに居るって確信があるって歩き方だった。
背の高い方は屋台の外で待つようで普通のオジサンが私の屋台の中に入ってきた。
「やあ、こんばんわ。占い師のマリーさんってのは貴女かな?」
はい、私です。
お初ですよね、私の占い屋台は。
こんな言い方するとご気分悪くされるかもしれませんが、うちの屋台、見料高いですよ?
「ああ、それは分かってる。まあ占いだけ頼むつもりじゃないんで、少々、お高くなっても構わないんだ」
え?
ここ、占いだけの屋台なんですけれど……
水商売とかのスカウトなら、お断りしますが。
「あ? いやいや、そんな事じゃない。実はだね……君の予知能力を、しばらく俺達に貸して欲しい……というか俺達と一緒に来て欲しいところがある」
はい?
占い師の雇入れですか?
「占いじゃないよ、俺達が必要としてるのは。はっきり言おう、君の予知能力者としての能力を、しばらくの間、俺達の仕事だけに使ってもらいたい。報酬は高いよ」
(うわ、この人、確実に私が高レベルの予知能力者って知ってる。どうしてバレた? 占いで少ししか力を使ってないのに)
「不審があるみたいだね。どうして分かったか? 俺はね……」
《強力なテレパスだからだよ。これは君だけに指向性をかけて送信しているテレパシーだ。このレベルになると隠し事は無理だよ》
分かったわ、分かりました。
ここまで強力なテレパスじゃ私が力を隠してた理由も分かるんじゃないのかしら?
「ああ、公表するには、あまりに誘惑の高い能力だからだね、予知能力ってのは」
そこまで知ってるなら、お願いだから放っておいてくれない?
私、できるだけ波風立てない生き方がしたいの。
マスコミとか派手なメディアは好きじゃない。
まあ占い師の衣装は、これは仕事の制服みたいなものだけど。
「あ、そういう意味での雇入れじゃない、今回のは純粋に銀河の危機だ。力を貸して欲しい」
は、はい?!
突然に銀河の危機とか言われても頭が着いて行けないんですけれど?
「うん、そうだろうね。突然、こんな話されても驚くだけで理解できないだろうな。まあ、落ち着く所へ行って話そうか……プロフェッサー、入ってくれ」
プロフェッサーと呼ばれた背の高い人が入ってきた。
「我が主、近距離転送の準備は出来てます」
なに?
近距離転送?
やめてよね、何かのドッキリ企画なの?
「まあまあ、落ち着いて。ここから搭載艇に向けて移動するだけだよ、一瞬で」
何の冗談よ?!
と言うつもりだったけど瞬時に目の前の景色が変わったのに驚いて何も言えなくなっちゃった。
だってさ、今の今まで盛り場の路地で占い屋台やってたはずなのに今見えてる景色は星の世界なの。
よく見ると私の足元近くに、大きな星が……
違う、これ、私の生まれた星だ。
メディアが衛星写真だって言って、ちょくちょく画面に写してる宇宙空間からの写真にそっくり!
「驚きで何も言えないかな? お嬢さん、ようこそ大宇宙へ! 君の出番を待ち望んでいる人たちが大勢居るぞ」
それからだ、私の日常が狂っちゃったのは……
数ヶ月後。
今のところ、私が何やってるかというと……
「マリーさん、次は、どの太陽だと思うかな?」
うーん……
恐らくだけど、この小さな太陽だと思うわ。
ギャラクシーマップで見ていって嫌な感じがしたのが、この辺境の小さな太陽よ。
この太陽、惑星を持ってて、そこには宇宙文明段階にもなってないけれど小さな文明があるの。
このままじゃ太陽の気まぐれな巨大化で星ごと焼かれちゃうみたい。
「よし、聞いたな、ガレリア。搭載艇に太陽制御装置を積んで跳ばしてくれ。目標は……およそ2万光年先だ。任せたよ」
銀河の危機だって言われて、せっかく馴染んだ職場も放り出し、評判になりつつあった占いのアルバイトも捨てて、今は銀河の中央部近いところに居るわけよ。
で、何やってるかって言うと、これが近々に不安定化するだろう太陽の特定作業……
いえね、当の太陽系にいる人たちにとっちゃ大変なことなのは理解してるのよ。
これが、その人たちの星を救うって大事業なのも。
でもねぇ……
私のやってることってギャラクシーマップ上で予知能力を働かせて、不安定化する星(太陽ね)を特定してるだけなの。
私をスカウトした、この巨大宇宙船(直径が6000km近い衛星サイズの宇宙船が2隻、太い円筒でつながってるのよ? 長さだけなら軽く惑星サイズよね。バカみたいに大きな宇宙船だわ)のマスター、クスミさんの言うことにゃ……
「マリーさんの予知能力は、まだまだ伸びる。そのためには少し銀河レベルの大きさを意識した予知訓練をしてもらおうか。訓練と言っても実用的なものだから」
と言われて、やってるのが今の作業。
確かに銀河のレベルで考えると、あっちにもこっちにも不安定な星があるのよね。
これは訓練というか宇宙レベルで予知能力を伸ばそうとしたら最適な訓練だと思うのよ。
思うんだけど……
これより凄いレベルの銀河の危機ってのが何かって、ふと思うと……
そら恐ろしくなるのよね。
これより危険度が高いなんて、それこそ銀河そのものが壊れるとか消滅するとか言う事になりそう……
そんな絶対的な危機に対して私の予知能力なんて役に立つのかしら?
「マリーさん、ちょっと休憩だ。これで直近の数ヶ月後までに不安定になるだろう太陽の90%以上が特定されて、それぞれの不安定さに適したカスタマイズを施した太陽制御装置を積んだ搭載艇が現場へ急行してる。一休みしても状況が悪くなることはないだろう」
そうですか、じゃあ休憩させてもらいます……
うわ、予知能力を使いすぎたかな?
足元がよろけて……
「大丈夫ですか、マリーさん」
がっしりと受け止められた。
ありがとうございます、プロフェッサーさん。
それにしても驚いたわ。
この巨大宇宙船のクルーって、たった6人だって言うじゃないの。
私らの星でも星域内で宇宙船はあちこちに飛んでるけれど、こんな巨大なものを、たった6人で動かせるとは思えないわ。
一番大きな輸送用の宇宙船でも乗員が30名以上じゃないと飛ばせないって言うし……
まあ、それでも長さが300mくらいで比べ物にならないんだけど。
あとは、そのクルーの中にはロボットが半分の3人もいるって言われて、耳がおかしくなったかと思った。
プロフェッサーさん、フロンティアさん、ガレリアさん。
この3名がロボット(正確にはアンドロイドと言うらしいんだけど)だと言われて最初は嘘だと思ったわ。
私に対して冗談でも言われたのかと思ったら、本当のことだと言われて更に驚いたの。
完全に澱みのない動きと発音、さらに思考能力まで持ってるロボットなんて信じられる?
もう、見た目は人間よ、人間!
クスミさんの言うには、
「ロボットだ人間だと分ける必要があるんでしょうかね? 自分で考えて判断し、動ける。間違ってたら修正して成功まで行く。そんな事を実際にやれるなら、それは生命体では?」
うん、私も賛成する。
「予知能力とは言え頭脳労働ですよ。大量の糖分が使われますから補充しといて下さい」
同じエスパーだからクスミさんのアドバイスは的確だ。
予知能力を長時間、全開で使ってたから脳の糖分が足りなくなって目眩を起こしかけたみたい。
プロフェッサーさんからチョコバー(マーケットで売ってるものを再現したんだそうで、見た目も味も、そっくり)を大量に受け取り、もうバリボリとかじる。
周りには見知った顔ばかりだから、もう羞恥心とか、そんなもの感じない(この宇宙船に来て半月以上になるのよ)
それにしても、あまりに巨大すぎるのと、環境があまりに快適すぎるのとで、ここが宇宙船の中だってことを忘れそうになるわ。
コリオリの力こそ無いけれど人工重力で普通に地に足のついた生活はできるし、ちょっとした広さのグラウンドまであったりする。
フィットネスジムは?
って聞いたら、あるんだって。
異星の文明でも体を使わないと肉体そのものが萎えてしまうというのは同じだそうで、サウナから普通のお風呂、温泉からサイクリングコースまで作られてるみたい。
まあ、これだけ巨大な宇宙船なら何があっても不思議じゃないわね。
「マリーさんの予知能力も、ずいぶんと伸びたようですので、もう少しだけ太陽の不安定化予知の訓練を続けたら次の段階へステップアップします。一応、予定だけはしておいて下さいね」
自分じゃ、どれだけ予知できてるのかわからないんですけど。
次の段階って、より危険度が大きくなるってことなんだろうなぁ……
まあ、この船が危機に陥ることはないんでしょうけれど、ちょっと不安になるのよね。
最終的な「銀河の危機」って何なんでしょ?
それから数日後……
「マリーさん、今日から新しい訓練プログラムに取り掛かってもらいます。ちなみに、こいつはちょいとばかりスリルありますよ」
え?
スリルは求めてませんけど、私……
問答無用とばかりに小型搭載艇で宇宙空間へ。
何が始まるんだろう?
その答えは、すぐに分かったわ。
こともあろうに流星群の真っ只中に放り出されてるのよ、この小型搭載艇!
通信機からクスミさんの声が聞こえる。
「そこで丸一日過ごしてもらいます。命に別状はないと思いますが特に大きな隕石が当たったら、その限りでは無いかと……予知能力が全開になれば軽く避けられると思いますけどね。あ、ちなみにその搭載艇に武器は搭載されておりません。バリアで防ぐか、それともヒラヒラと避けるか。どちらでもご自由に選んで下さいね。もう一度だけ言いますが、命に別状はないと思いますが、あまりバリアを信用しないほうが……では」
鬼!
悪魔!
冷血漢!
ありったけの罵詈雑言を通信機に向けて怒鳴ったけど、悪魔クスミに届いたかしらね?
レーダーには、こちらへ向けて進みつつある流星群。
まあ、ご丁寧にも搭載艇の跳躍航法用機器は使用不能になってるし、否が応でも、ここで流星群を相手に一日過ごさなきゃいけないわけですか……
き、来たぁ!
でっかいのが衝突コースへ!
これだけが救いの、反応の素早いフィールドエンジンだけが私の身体を肉片化しようって隕石達から守ってくれるわけ。
片手にエンジンスロットルと方向舵を一緒にしたようなバーを握りしめ、もう片方は、ひっきりなしに襲ってくる脳の糖分不足を補うためにチョコバーを握ってる今の状況……
大人がスリル性の高い遊園地の乗り物で遊んでるようにも見えるなぁ。
実際には避けたらすぐに次の衝突コースに来る隕石だらけで、冷や汗すら流す余裕も無かったりするんだけど……
とりあえずチョコバー50本ばかり消費したくらいで流星群の領域を抜けたみたい。
後は残りのチョコバー50本を一気に食べて、死んだように寝ちゃったわよ。
私の乗った搭載艇は自動操縦でガルガンチュアに戻ってきた……
徹夜後に寝ちゃいるけれど、まだ疲労が抜けないわね(トイレで鏡見たら目の下にクマが出来てた。あまりの集中と予知能力開放に身体が無理しすぎたみたい)
「お帰り、マリーさん。凄いねー、新記録じゃないかな? あれは。小型宇宙艇を使って特撮要らずの宇宙ショーを開催しても大好評だと思うね」
悪魔クスミが何か私に喋りかけてるわね。
もう、あんな体験、二度とお断りです!
本当に命の危険を感じたのは、アレが初めてよ。
「それでも、マリーさんの予知能力は、あれで飛躍的に伸びた。やっぱり直接的に命の危険に曝されると生命体の本能的なものが発揮されるんだろうな」
止めてちょうだい、お願いだから。
あんな経験、二度と御免だわ。
まあ、それからは、あんな無茶な訓練は無くなったわわね。
今度は実戦的なものだそうで……
「じゃあ、この宙域で。やることは、この銀河の大勢力が勢力争いしてる、まさにその一点ですから……マリーさん、聞いてます?」
ふぁ?
あ、ええ、聞いてますよ、聞いてます。
私は上の空だった……
理由?
スクリーン見れば分かるわよ。
この銀河でも一大勢力を築いてる4つの種族が、お互いに宇宙戦闘艦の大軍団を展開してて今にも大戦争が始まろうとしてるんだもの!
え?
え?
クスミさん、これが銀河の危機、本番じゃないの?
「すいませんね、マリーさん。あくまで実戦訓練です。本当の危機は、こんなもんじゃありません」
うわぁ、今から逃げさせて頂いても構いませんかぁ?!
私の力が通用するなんて、とてもじゃないけど思えるようなレベルじゃないんですけど……
「ここまで関わって今から逃げるなんてのは無理ですねー。腹くくって予知能力を全開にしましょう。このくらいならマリーさんの力で簡単に解決できますって」
クスミさん、あーたねぇ……
もう呆れ返ってしまい、変に落ち着いてしまった。
やったことは簡単だ。
各艦隊の旗艦の動きを予知して開戦寸前に旗艦を行動不能にする。
4勢力の旗艦艦隊のうち、どれが本物の旗艦か分からないようにしているため私の予知能力じゃないと旗艦の特定は不可能でした。
もう糖分摂取も全開で脳内領域フル回転でやったわよ。
時間にして4時間ばかり……
それでも私の必死の予知により銀河大戦は防ぐことができた。
その後、ガルガンチュア本体がお出ましになって、勝てるわけがない各勢力が降伏宣言しちゃったのは見てて痛快だったけどね。
「さて、と。このくらいで大丈夫かな? 今の訓練で一石二鳥、この銀河の意思統一まで出来たんで危機に対処しやすくなったな」
え?
これからが本番?
クスミさん、これ以上の危機って、どんな内容なのよ?!
ようやく、銀河の危機ってのが何だったか分かったわ。
いわゆる、銀河の衝突現象よ。
通常、億年単位でしか見られない特殊な(でも無限の宇宙では結構ありふれてる)現象よね。
でも、この銀河と、もう一つの銀河では、そんな悠長なことを言ってられない事になってたの。
銀河と銀河がぶつかるのは普通、それぞれの軌道が交差する時に発生するもの。
部分衝突もあれば全面的な衝突もあるんで、その時に交差した空間は……
普通なら宇宙空間って隙間だらけよね。
でも銀河規模だと部分衝突でも結構な数の恒星系がぶつかり合うのよ。
その衝撃と痕跡は衝突後に星雲(銀河)の形が変わるくらいのもの。
まあ宙域の数%の星系が衝突したとするなら、その周りにも被害が及ぶでしょうから当たり前です。
でもって、とんでもない事を考えて実行する奴がいるわけです、ここに。
その名は超巨大宇宙船ガルガンチュアのマスター、クスミ!
どうするかって言うと……
私の予知能力で、ぶつかる運命にある星の軌道をずらしちゃおうって、大規模も良いところの、とんでもプラン!
もちろん一番早くても数万年後の話だから、まだまだ銀河同士は離れてるわけよね。
その時間的・空間的な余裕を利用して、その星系(太陽と、その所属惑星ごとって話よ?! )ごと、どこにもぶつからないコースに移転させちゃおうって、どこの空想癖の持ち主の妄想よ、って普通は、なるわよ。
そんな妄想に近いプランを実現させちゃったのが、ガルガンチュアとクスミさんです。
私はギャラクシーマップを二銀河分、用意してもらって(縮小されてるとは言え、とてつもない広さよ。ガルガンチュアじゃなきゃ、こんなの表示させることも無理よね)数万年後から百万年以上後にぶつかる予定の星系まで特定し、その後は銀河同士が離れていくから予知も不要、ってな作業を幾日も幾日もやったわ。
ぶつかる相手を特定し、マップ表示に印をつけ、その相手も同様に印づけ。
それが終わったら予知能力で不安定な軌道をとってる星系も特定して、また別の印をつける(不安定軌道だと、よほど特殊なポイントに置かないと、あっちこっちにフラフラしちゃって、ぶつかる予定じゃない星にぶつかる危険性が高いわけ)
マーキングが終了したらガルガンチュアが再計算して、これなら安全ってギャラクシーポイントへ星系ごと移動させるんだけど……
これが、もう笑っちゃうような手段なのよ。
ガルガンチュアには、その対象を時空間から切り離すって力を持つ主砲があるんだけど、今回は、その応用編らしいの。
星系ごと特殊フィールドで覆ってしまって、銀河のエネルギー法則からは関係なくなってもらい、その星系ごとトラクタービーム(牽引車の要領よ、つまり)で引っ張っていくってことになるわけ。
跳躍航法の時には、どうするのかって?
そこまで、私は聞かされてません。
まあ、こちらの銀河の四強種族も手を貸してるんですから何とかしてるんでしょ?
私は毎日のように数万年から百数十万年先の予知に脳細胞をフル使用してますので些細なことは知ったこっちゃないのよ(ああ、自分でも荒んできたと思うわぁ、このところ)
なにしろ百万年先なんて未来を予知できる生命体ってのは、この銀河広しといえど私だけ、たった一人だけなんですって!
今日も一人ぼっちで朝から晩まで(宇宙空間だからいつも真っ暗だけど)ギャラクシーマップで予知能力を働かせて、あっちの星、こっちの星と印づけ。
もう何日、何年同じ作業やってるのか自分でも分からなくなってくるわ。
だって、いくら全面衝突じゃないからとは言え銀河同士の衝突よ。
その衝突するエリア内に、いくつの星系が存在すると思って?
部分的に見れば小銀河くらいの膨大なエリアよ。
いくら未来予知で200万年先までは見なくても良いとは言っても、ちょいと30万年先まで予知すると、あっちにもこっちにもぶつかり合う星の幻影が見えてくるのよ。
こいつを無くすためにやってるとは言え太陽や惑星が悲惨なことになってる映像は(いくら予知の見せる幻影とは言え)精神的に衝撃が走るわよ。
でもって、やってもやっても、ほんの一部のエリアしか安全にならないの。
もう精神的にズタズタよ。
まあ、こういう時に、こちらのチラッと見せた弱みにつけこ……
いや違うわね、弱音を見せると対処療法だけど優しくしてくれるのがガルガンチュアクルー、特にマスターのクスミさんです。
惚れてまうじゃろー!
ってなくらいの気遣いと優しさを見せてくれたりするんだなぁ……
時には厳しかったりもするんで飴と鞭かな?
とも思うんだけど。
他のクルーの人たちに、クスミさんって、どんな人?
って聞いたことがあるんだけど……
「キャプテンは優しいですね。どんな見た目の生命体でも見捨てません。あたしの種族もキャプテンに救われました」
とか、
「不思議な人よね、ご主人様って。精神生命体とか旧称・邪神とかの異形の生命体でも変な前提感情を抱かないの。すんなりとコミュニケーションに入れる、あの精神って地球人独特のものかしらね?」
とか。
もう聖人君主?
神様?
って感想しか返ってこない。
まあ今までにやってきた事を圧縮した再現ビデオ映像を見ても、
「なにこれ? 何かの英雄神話を元にした劇? それとも空想ドラマ?」
としか言いようのない答えが出てくるだけ。
だいたいねー、圧倒的な武力を持ってるのに、それを使わずに、ほとんどの事例は解決しちゃってるじゃないの。
異次元生命体とか、この宇宙の前に生きてた生命体の造った精神生命体とか、果ては宇宙の管理者なんて「神様」すらも知り合いになってるらしいし……
クスミさん、あなた、絶対に生まれる次元と時代を間違えてるわよ。
あー、疲れるわぁ、まったく。
毎日が、起きたらギャラクシーマップとにらめっこよ。
でも、そのかいあって少しづつだけど予知に引っかかる星系が減ってきたの。
まあ、まだまだ、なんだけどさ。
ふぅ……
一息ついても大丈夫かな?
半分くらいは終了よ。
「マリーさん、ご苦労様。栄養補給と休憩は確実にね。なにしろ通常の軌道計算では衝突しない予定の星系まで衝突予知してもらってるんだから。訓練した俺が言うのも何だけど凄い力だね」
ふふん、見なおした?
もっと褒めてもいいのよ、私は褒められるとやる気が出るタイプなの。
って、以上のようなやりとりが、ずーっと続く毎日だったわ。
でも、あと数個の印をつけたら、それも終了。
3、2、残り一個……
あれ?
「ん? どうしたんです? マリーさん。考えこんじゃってるけれど」
あ、クスミさん。
いえ、ほとんどの星系の軌道予知と衝突予知は終わったんだけど、このポイントにある小さめの、この星。
これだけが、どうしても予知不可能なのよね。
私の力の及ぶ範囲で最大の未来予知も、この星だけ不確定なの。
おっかしいなぁ?
今まで、こんなことは経験してないんだけれど……
「え? マリーさんの予知能力でも未来が不確定になる? そんなバカな星が……あ、これですか! あはははは、これは不確定になるはずだよ、マリーさん」
えー?
不確定でも当然みたいに言わないでよね。
こっちは初めてなんだから、こんな未来の読めない星なんて。
「いやいや、ごめん。こいつが不確定なのは当然なんだよ、当然。だって、このポイント、ここだよ」
え?
「だから、このポイントにある物体というか星に似たものってのは、このガルガンチュアなんだ。宇宙船の行動が不確定なのは当然だよ」
あー!
ガルガンチュアの大きさを失念してた。
というか、これが宇宙船だということを失念してたわ。
まあ、最後の最後で、お約束のようなことやっちゃったけれど、とりあえず、わたしの作業は、これで終了。
ガルガンチュアにいて作業進行を眺めてても良いし故郷の星で作業終了を待ってても良いって話を聞かされて……
「マリーさんは、どっちが良いかな? 俺としちゃ、もう準クルーみたいなもんだから、ここにいてもらっても構わないよ」
とクスミさんに言われたけれど終了報告までの間だから自分の星に帰るって事にしたの……
だけど、これがマズかったのね、結局は。
ちなみに、私は私自身を未来予知したことは無い。
これをやるとパラドクスが起こりそうで怖かったら占い師の規制と同じで自分自身には力を使わないことにしてるの。
「分かった、故郷の星で待っててくれ。最終作業が完了したらマリーさんの最終選択を聞きに行くよ」
え?
ドキドキものだったわよ、今の発言。
こんな宇宙船の中じゃなかったらホント、プロポーズの言葉じゃない?
まあ、そんなこんなで私は故郷の星に戻ってきたんだけど……
まあね、覚悟はしてたわよ、一応。
だけどさ、これは恥ずかしかった!
故郷へ戻ったら、宇宙港へ着いた途端、待っていたのが星を上げての「お帰りなさい」集団!
数ヶ月ばかりは自宅に帰ることもできずに、あっちこっち引っ張り回されて国家の未来やら星の未来、果ては見える限りの遠未来のことまで様々な場所とメディアでインタビューやら対談やら。
やっと落ち着いたと思ったら、その後はSPが集団で警護につくって話になっちゃってる。
理由を聞くと、
「当然でしょう、あなたは、この銀河でも希少な予知能力者。その中でも特に優れた強い力をお持ちだ。もし、あなたが敵勢力に誘拐されて敵に都合の良い未来を示されてしまったら我々は対抗措置が取れません。それでなくとも最大の力を持つ予言の巫女として、この銀河の至宝とも言えるお立場なんですから」
うわ、厄介だわ。
答えを聞いた時の正直な反応よ。
ガルガンチュアが、いくつもの銀河を救っておきながら、その幾多の銀河や星が開催しようとした祝賀会への参加を拒否して次の目的地へ行ったという話も今なら理解できる。
自分のやれることを、やりたいようにやっただけなのに感謝感激されるのは、ちょっと困るわね。
人の噂も75日。
私の方は、そんな簡単に静かにならなかったけれど年を追うごとに少しづつ沈静化していった。
まあ、ちょっとした紛争や政治的・経済的に大きなことがあると、すぐに私のコメントを求められるのは勘弁して欲しかったんだけど。
ガルガンチュアとクスミさんからのプロジェクト終了報告は、なかなか来なかった。
10年経ち、20年経ち、30年経っても。
ここで私は自分の変化に気付いた。
いえ、正確に言うと「自分が変化しないことに気付いた」の。
故郷の星に帰ってきてから、もう35年以上が過ぎてる。
それなのに私の顔も肉体も最初に星を旅だった時の21歳、そのまま。
考えてみれば訓練期間も相当に長かったし銀河衝突回避プロジェクトだって10年や20年で終わる作業じゃなかったわよね、わたしの予知パートでも。
ずっと以前、クスミさんたちに聞いたことがあった。
実際は何歳なの?
って。
クスミさん、エッタさん、ライムさん、肉体を持つ3人の年齢は実際には数千歳になってると言われたわ。
ライムさんに至っては一万歳を超えてるとか。
銀河どころか銀河団、それをも超える超銀河団を渡ろうとするのなら最低でも数万歳の寿命がなきゃ無理だろう?
とか言われたのよ。
そうすると、短い間だったけれどガルガンチュアで暮らしてた私も、そんな相対的不老の体になっちゃったのかしら?
そんな事を考えながら更に10数年経った頃……
ついに銀河衝突回避プロジェクトが終了するってニュースがメディアを駆け巡った。
私がガルガンチュアとクスミさんに、ようやく会えるとワクワクしてると……
銀河統一政府の高官って人が私に話したいことがあると言ってきた。
その人が改まって言うには……
「マリー様、お願いですから、この銀河を見捨てないでいただきたい。具体的には、もうすぐこちらへ来るでしょうガルガンチュアへの乗船を、しないで欲しいのです。あなたの予知能力は素晴らしい。素晴らしすぎて、もう重大な政治や経済の局面では、あなたの予知なしには統一政府も動けなくなってるんです。お願いです! 我々の希望、予言の巫女として、この銀河に留まっていただきたい!」
銀河統一政府の高官達10人ばかりが一斉に土下座するという光景を初めて見たわ……
私も迷ってたところだし……
「さあ、迎えに来たよ、マリーさん。尽きることのない新しい文明や生命体の待つ大宇宙へ行くかい? それとも、ここに留まるかい?」
最後の言葉を聞いちゃった……
私の回答は、もう決まってた……
最後にクスミさんと会ってから、もう三百年以上が過ぎた……
今でも私の肉体は二十台前半。
この星というか、この銀河では伝説的存在に近くなってるけれど、まだまだ私の寿命は尽きない。
私が、この銀河の人たちを捨てられませんという答えを出すと、クスミさんは分かってたよとでも言うように私の頭を撫でてきた。
「どうするかはマリーさんの自由だ。だけど一時期でもガルガンチュアクルーになった君に最後の贈り物がある。受け取ってくれ」
そう言って、クスミさんは私に小さな箱のようなものをくれた。
「今はガルガンチュアで食べてた食料に含まれてる特殊成分で不老になってるけど、そのうちに効果が消える。その時になったら開けるといいよ」
開ける、それだけで良いらしい。
「ただし、開けたら、それまで。世の中に飽きちゃうようなら開けないほうが良いだろうし、相対的に不死に近くなりたいなら開けるべき。選択はマリーさん次第だ」
まだまだ、そんな事を心配するような徴候すら無いけれど数百年後には、これを開けるかどうするか悩むんだろうなぁ……
「マスター、マリーさんは躊躇してるようでした。強引にでも連れてきたほうが良かったのではないですか?」
「いや、最終的にマリーさんが選んだのは自分の故郷だ。それを壊すようなことはしたくない……まあ休暇か何かで、この銀河へ戻るような事が、もしあったとすれば、あの星の3丁目5番街にある家を訪ねても良いかも知れないけど……」
ふと、フロンティアは気付いた。
マスターの表情が何とも言いがたいものになっていることを。
楠見は微笑しているような、ちょっと困ったような、それでいて何かを懐かしむような……
そんな顔をして遠ざかっていく銀河を見ていた。
おまけ短編「巫女姫マリーのタメ息」
私、予言の巫女姫、マリーです。
ガルガンチュアが私を残して、この星系を去ってから幾年月……
あれから10世紀近く経っちゃったんですね。
さすがにガルガンチュアにいた頃に摂取してた食料の効果が300年前に切れちゃって、貰った箱を開けるかどうか、つまり、
「不老で相対的不死に近くなるか、それとも普通に老いて死ぬか?」の究極的選択を迫られてしまいまして……
開けない選択肢を選んでたら、今、ここに私はいないんだけどね(苦笑い)
箱を開けたら黒い雲のようなものが一瞬見えたんだけど、それも私の顔の前で消えちゃって……
でも、それから老いることも身体が調子悪くなることも無くなっちゃって、見た目20代後半のまま現在も巫女姫宮殿にいます。
あ、以前に住んでた住居は、なぜか分からないけれど「聖地」とか「巫女の力を分け与えられるパワースポット」だとか言われて一種の観光地になっちゃってる。
今現在、私に会って予言を聞けるのは、ある程度の限られた人数しかいないの。
まあ、セキュリティの問題で、あまり大勢の前に出るのも問題になるんだけど……
600年前くらい前に巫女姫就任400年記念とか言うので大きなグラウンドを借り切って30万人ほどの観客集めたこともあったんだけど、その時にテロリストやら暗殺者やらがワラワラと……
自分のことは予知しないけど観客の安全のためにと予知能力使ったら、出るわ出るわ死者重軽傷者が万単位!
SPさん、地元警察、地域の保安軍、はては星系軍まで駆り出してのテロと暗殺阻止。
ものすごい騒ぎになっちゃったけど、それをメディアが、
「予言の巫女姫が、ありとあらゆる災悪を自分の元へ呼び込んで浄化してくれた!」
なんて持ち上げちゃうもんだから余計に盛り上がっちゃってね……
それから、銀河評議会の偉い方たちから言われたの。
「貴女の存在が、いかに重要なものか理解しました? これに懲りて大衆の前に出ようなんて無謀なことは金輪際、しないでください。貴女が亡くなられたら冗談じゃなく銀河を割った大戦争が勃発します!」
とか真顔で言われちゃって……
それから普通に買い物にも行けなくなっちゃったのよねー。
必要なものがあれば、お側に控えてる者たちに言って下さい、すぐに揃えますから。
なんて事になっちゃって、住む所も、このバカみたいに広い、見た目ピラミッドみたいな家に半ば強制的にお引っ越し。
以前の住居に残してた家具とかは、大家さんに処分してくださいって言ってたんだけど地域政府のお役人が巫女姫の持ち物を勝手に処分できないだろうと部屋ごと政府で借り上げて(100年単位での自動更新だから、もう買い上げてるんじゃないのかな? )巫女姫の住んでた部屋とか言って観光地化しちゃってるのよ。
でもって私の日常は一ヶ月に数件の未来予知だけ。
あまりに個人的、狭い範囲の予知は、もったいないって話みたい。
持ってこられる依頼も、この星系で起きそうな地域戦争とかが最低基準で、それより上の銀河的な経済指針とか星震や宇宙震のおきる地域の特定だとか、そんなのばっかし。
あー、昔の占い屋台は個人的な話ばっかりで楽しかったなー。
まあ、それもこれも、あのガルガンチュアとクスミさんのせいで、今、こんなんなってるんですが。
あ、不満じゃないのよ、そうじゃないの。
ただねー、今でも時々、思っちゃうのよね。
あの、クスミさんの最後の選択。
一緒に行くって方を選んだら今頃どうなってたんだろう?
さぞかし面白い事件が次々と起きてたんだろうなー。
未知の未来を予想するのが予知能力だから、私が選ばなかった未来を予知することは出来ないんだけど。
ガルガンチュアとクスミさん達、今頃は、どこの宇宙を跳んでいるのやら……
私が一緒に行けなかったんで、代わりのクルーはいるんでしょうか?
今頃、どんな星、どんな生命体や文明に出会ってるんだろうなー……
もう遭うことはないんだろうけれど、でもね……
とある銀河の至宝と言われる予言の巫女姫は、今日も夜空を眺めて少しばかりのため息をつくのでした……