第四章 銀河団を越えるトラブルバスターの章
第三十七話 銀河のプロムナード(伏線編)おまけ付き
稲葉小僧
銀河間宙域でガルガンチュアはフロンティア部の拡大増設・増強作業中……
「ガレリア、フロンティアの拡大作業はいつまでかかりそうなんだい?」
聞いているのは郷。
自分の星系の銀河を出て初めて見知らぬ銀河への跳躍航行中に突然停止し、さっぱり動く素振りすら無いのだから、郷としては落ち着かない。
「ゴウ、焦っても仕方がないわ。まあ、一年とか二年とかの長丁場じゃないんで安心しなさい。長くても数ヶ月くらいです」
質問に答えるガレリア。
たまたま手が空いたので現場から出てきたらしい。
「す、数ヶ月ぅ?! この船のクルー達って気の長いどころじゃない人たちばかりなのか?」
正式クルーとなって間がない郷、他のクルー達の時間感覚が理解できないのは仕方がないところ。
見かねて楠見が郷を慰めようと、
「郷、君はクルーになってから短いから一年や二年が長く感じるんだろう。ここで考え方を根本的に変える必要があるぞ」
郷以外のメンバーは、もう手慣れたもの。
フロンティアとガレリアはフロンティア部の拡大によるガレリアの影響と、その手直しをどうするか協議している。
プロフェッサーとエッタ、ライムは……
「この際です。棚上げになっていた我が主の専用ガジェットの開発を推し進めませんか? お二人共」
「賛成! まだまだフロンティア拡張作業は終わりそうもないし、ご主人様のガジェットなら基本部分はできてるんだから……」
「そうですね、キャプテンのガジェットへの増設用装備開発って、もう基本設計は完了してるんでしたっけ?」
「はい、設計は終了してるんですが小型化と反応速度が問題点として残ってまして……ちょうど面白い能力を持つ新人クルーもいるようなので、我が主ともども手伝ってもらいましょう」
という事が3名の話し合いで成立し(だいたい、楠見の参加は強制的。今回は郷も)郷の特殊能力である思念3次元モデル投影能力を思い切り有効利用したガジェット用アタッチメントの開発がスタートした。
ちなみに郷の能力がフロンティアの拡張作業にも有効だと分かったためフロンティアやガレリアも郷を作業に欠かせぬ人材と有効活用することになり、郷はあっちこっちと引っ張られることとなる。
「ふーむ……このモデリングだと反応度は上がるかも知れないが……アタッチメントの装着時に問題出るな。俺が素体で出た場合、後からアタッチメントを装備するのが非常に難しいぞ」
「ん? そうですね、我が主の言われる通り。じゃあ、この部分を、こうして……この形状ですとアタッチメントの装着は素早く出来ますね……ただし、反応速度との兼ね合いで、あまり速く動くとアタッチメントの接合部が弱いのでは?」
「はーい! キャプテンのガジェットの元々はヘルメット型で超重合物質なんですからアタッチメントもポリマー化してみるというのは?」
「あのねぇ、ライム。アタッチメントは追加用の防御や攻撃用途ですからポリマー化したら質量分離でポリマー化の意味が無くなっちゃうじゃないの! 衝角とかならまだしも」
「おいおい、体当たり兵器は止めてくれよ。俺はまだ特攻なんてやりたくないぞ」
などという会話が途切れること無く続いていた……
およそ3ヶ月後……
「し、師匠ぉー。こんな武装があるんなら、これを使わせてもらえば早かったんじゃないですかぁー」
郷が武器や防具の山を見て一言。
試作が、とりあえずの完成を見たので今日は試運転……
というかダメ出しのテストというべきか……
郷の目には完成品としか見えないが、これは、
「ガレリアやフロンティアの工作機械は優秀だからな。設計図さえあれば量産品のレベルでカスタムメイド品や規格外パーツも造ってくれる……ただし、そいつが実用に耐えるかどうかは別物」
「へ? これが実用に耐えないって? どう見ても私の星の製品より優秀で高性能なものばっかりなんですけど?」
ヘルメットガジェットを被った状態で楠見が解説すると郷は疑問を更に深くする。
「あ、そうか……郷の基準を忘れてたよ。俺達の使う宇宙船や搭載艇、ごくたまに使うパラライザーやらスタンナー、使用頻度の高い救助器具などは通常レベルに惑星上で使われる器具や装備などとは要求する次元が違う……例えば耐熱や耐寒性能としての目安は……」
ガルガンチュアでは秘密でも何でもないが郷にとっては未知の世界の産物ばかり、
教育機械で使い方はレクチャー済みだが、それとスペックを知ることは別。
郷は自分の星とは比べ物にならないガルガンチュアの装備や機器の基本性能を知ることになる。
「耐熱と耐寒性能って……ああ、太陽制御装置とかありましたもんね。相当に高い耐熱じゃないとダメでしょう」
「そう、耐熱は太陽表面温度の数倍を。まあ、10倍位が通常かな? 巨大恒星になると、それ以上の性能を要求されることもある。耐寒は、まあ絶対零度一歩手前まで。宇宙空間で凍りついたりヒビ入ったりしちゃダメだし」
さらっと楠見は流したが郷にとっては大変な一言。
とりあえず自分の星じゃ要求を満足する物は出来ないと知る。
「で? 師匠の被ってるそれも、ここで造ったオーパーツですか?」
「オーパーツと言う点は合ってるが、これは他の星の宝物だったものさ。ただし、適合者がいないと小さくても1t軽く超える邪魔者にしかならないんで許可を得て貰ってきた。強力なテレパシーと、こいつを自由自在に扱えるだけの力、サイコキネシスも含めての力を持つ者なら適合者と認められるんだが……郷、ちなみに君も適合者になれる要素はあるが今は俺が、こいつの適合者として登録されてしまっているから他の者には使えないぞ。こいつは今の適合者が死ぬか、こいつを放棄するかしない限り、別な者を再登録は出来ないようだ」
もったいない気はするが、まあ宝物なんて、そんなものだろうと思う郷。
ファンタジーで言う「聖剣」なんてのも持ち手を選ぶんだったな、確か……
「よーし、じゃあ、テスト開始だ。転身、Go!」
掛け声と共に瞬時に変身完了。
「この頃、ヘルメットガジェットが慣れてきたのか変身までの時間が短縮されたな。よーし、次はアタッチメントのテストだ。まずは事前装備型のアタッチメント……おい、プロフェッサー、こいつは大きすぎないか?」
「まことに申し訳ありません、我が主。本体部分は小型化出来ても、なにぶんにも攻撃用アタッチメントの、それも実体弾を撃ちだす砲なので口径が大きく、砲身が長くないとダメなんですよ」
「それなら理解できるが……まあ、倉庫行き決定のアタッチメント代表だな、こいつは。とりあえずテストはしようか。で、狙う的は?」
「はいはーい、キャプテン。銀河間なので、流星群もなきゃ浮遊惑星もありません。ですから、小型搭載艇に標的積んで出てもらいまーす!」
「お? 何か出てきた……巨大鉄板を牽いてるのか……あれみたいですよ、師匠!」
「よし、それじゃ宇宙へ出る。ここからはテレパシーでやりとりするぞー」
了解!
と、それぞれのテレパシー波が返ってくる。
もちろん、テレパシー発信能力のないプロフェッサーからは電波で返信。
様々なガジェット用アタッチメントをテストしていくメンバーたちだった……
ガルガンチュアの拡張・増強作業は未だ終わらず……
「ところでフロンティア。今回の拡張・増強は、どこまでやる予定なんだ?」
楠見は、ずいぶんと大きくなったフロンティア部をメインビューワーに縮小表示させて、久々にメインコントロールルームに姿を現したフロンティアに聞いてみる。
「あ、マスター、お久しぶりです。拡張部分は、だいたい半分程度終了しております。増強作業は……3割ほどですね、進捗は」
「意外だな、ここまで拡張と増強に時間がかかるなんて。今までは跳びながら各星系や銀河でトラブルシューティングやってる最中でも拡張とか増強作業やってただろう」
今までとは、ちょっと違うフロンティアの力の入れ具合が気になる楠見。
「ええ、今までのような設計段階での完成状態に近づけるような拡張や増強なら、ですね。少し前の銀河間空間で奇襲を受けた経験から今のままでは防御や攻撃において中途半端だと思いまして。まあ将来ガレリア以外の姉妹・兄弟船が合体しないとも限りませんし」
楠見は今の2隻合体状態で完了だと思っていたため、このフロンティアの発言を意外に思った。
「以前の話だと銀河団を渡れる能力を持つ船は、この2隻の他に後8隻。合計10隻しか建造出来なかったと聞いてたが?」
「はい、その通りです、マスター。ただし私が建造された時に超銀河団渡航用の船も建造計画だけはありました……まあ、それが建造されたとしても管理者達に認証されるとは、とても思えませんね、今なら」
こんな馬鹿でかい船の、さらに上のクラスまで計画されてたんかい! ?
シリコン生命体の文明に改めて畏怖と尊敬をおぼえる楠見だった。
「まあ、俺もその意見に同意だ、フロンティア。管理者と知り合いになったからこそ分かる事もある。銀河を超えるまでなら割合簡単に認証が出るが銀河団になると、かなり厳しい。超銀河団なんて、ほとんど認証が出ないだろうな。俺達ガルガンチュアメンバーでさえ未だに超銀河団の渡航許可は貰えない状況なのが、その証拠だ。ちなみに郷……君にも関係あることなんで、この話は聞いておくといい」
ちょうど近くに来ていた郷を呼び寄せ、会話に加える楠見。
「何です、師匠。超銀河団なんて、とんでもない単語が聞こえたんですが……え? まさか超銀河団すら超える予定があるんですか? ガルガンチュアは……」
「半分当たりだな、郷。超銀河団を超える予定はあるんだが、まだまだ許可が下りない。それまで銀河や銀河団を渡ることしか出来ないのが現状だ」
「師匠ぉー、無茶苦茶ですよ。今更ですけど、ほとんどの銀河の生命体で自分の銀河を超えられる種族が、どれだけいると思ってるんですか? もう確率として極小ですよ。ガルガンチュアみたいに、あっさりと銀河団を渡れる船を持つ生命体なんて、もう天文学的な存在確率なのが分かってます?」
「まあ、ガルガンチュアが確率の特異点に近い存在なのは理解してるよ、俺も。だけど宇宙の全生命体に対して、その生命を脅かす深刻なトラブルを根本から解決してやろうと思ったら、こんな船が必要になるだろ?」
呆れてものが言えない郷……
しばらくして、ようやく元に戻って、
「し、師匠って本気だったんですね……以前にも、それに似た言葉を聞いてたんですが冗談だと思ってました。俺の意見を言わせてもらうと……それ人間、と言うか宇宙に棲む生命体の台詞じゃないですよね。自分でも分かってるみたいですけど、ほとんど宇宙の管理者みたいな考え方ですよ」
「ゴウ、君はクルーになって短いがマスターの事を理解してますね。そう、マスターの考え方や能力は、とても人間、というか肉体を持つ生命体のものとは思えません。私も造られてから、もうすぐ一千万年近くなりますが、こんな力を持つ生命体で肉体を持つのはマスターくらいのものでしょう。精神生命体とか管理者であるなら、このレベルでも納得しますけど」
「郷、フロンティア……頼むから俺を神や怪物扱いしないでくれるか。それでなくても、この頃、サイコキネシス能力が上がってるのが気になるんだから……テレパシーは、それより上の段階にあるようだけど」
「ほら、ごらんなさい、ゴウ。ここまで強力なテレパス・サイコキネシスの力を完璧に制御できるというだけでも人間離れしてるんですよ。あなたも強くはなっていますが、またマスターに引き離されましたね。どこまでマスターの力が強くなるのか、この私にも予測不能です」
「分かってますよ、師匠に勝てないのは……ESP封じた状態でも格闘で、どれだけ完璧に負けてることやら……4次元スープレックスへの入り方がライムさん並みに上手いんだからなぁ」
「ん……それは多分、俺の空間把握力が上がってきたからだろうな。自分でも、このごろ超空間が、ぼんやりとだけど本能的に理解してきているようでね……郷の名づけた「4次元スープレックス」だったか? あれも少しづつだけど「この世に存在しない角度」というものが掴める感じがしてきた」
「ほーら、師匠はやっぱり人間じゃない。そのうち、生身で超空間入っても理解出来るようになるんじゃないですかね? 私にゃ基本的に理解不能ですけど」
「面白いですね、2人の反応を見てると。マスターの脳領域の開発と発達、ゴウの脳領域の開発と発達は同じように見えても差異があります。これが先祖返りに近い形のマスターと、その星での自然な発達としてのESPを発現したゴウとの違いなんでしょうね」
フロンティアは改めて楠見が遥か昔の先祖である先史種族の血を色濃く受け継いだ突然変異に近い特殊個体であることを理解する。
「ところでマスター、少しお聞きしたいことが。いわゆる先史種族、タイムマシンで未来の宇宙へ自分たちを送り出した太古の種族ですが1つ疑問が出てきました……先史種族って、もともと、どこで生まれたんでしょうかね?」
「唐突だな、フロンティア。ふむ……しかし、面白い問題ではあるな。俺の推測にしか過ぎないことは前提として……先史種族は銀河系の生まれじゃないと俺は思ってる」
「え? 何の話です? 私、教育機械でも教えられていない話題に加われと言われても無理ですよ。私に関係ないでしょ?」
「まあまあ、ゴウ。多分、あなたにも関係あることになると思います。マスターとゴウ、あなた達は、たぶん太古の先史種族につながると思われます。マスターの推論は高確率で事実であることが多いですから」
? ? ? ? ? を多量に出す郷。
話題に付いて行こうと必死なのだが想像力がついていかない……
「まあ、話半分で聞いてりゃいいよ、郷。先史種族は宇宙を渡るのに宇宙船を使わない特殊な種族だった。通常の移動は転送機を使って、緊急用にはタイムマシン機能付きの転送機を使ってたんだろうな、多分。様々な星系や銀河の探索にはロボット船を使っていただろうと推測出来る。ちょっと飛躍するんで間違ってるかも知れないが俺の推論では何らかの手段で前の宇宙の崩壊を生き抜いた種族かも知れないな。そうでなきゃ、あまりに完成された人類型の肉体と高度な文明が宇宙の晴れた初期に存在するなどという破天荒さが考えられない」
「と言うことはですよ、マスター。ゴウやマリーさん、マスターなどの超常的なエスパーを普通に生み出してたってことになるんですか? 先史種族って」
「いや、こいつは個人資質の問題だろうと思う。脳領域の開発や成長は、かなり脳そのものに負担をかけるってことが俺自身、分かってる。俺や郷、マリーさんを含めて超越的とも言える領域に到達できる人間は限られてるだろうな。普通の人間が俺達と同じ訓練と教育をやっても狂うだけ」
「ちょちょ、ちょっと聞き捨てならない一言! 私も、マリーさんとか言う人も狂う一歩手前の訓練と教育やってたって?! あんたら人間の尊厳を何だと思ってるんですか?!」
「いや、でも郷もマリーさんも会った最初からESP能力を発揮させてたぞ。俺は、それを伸ばして強化する訓練を施しただけ。最初から人体実験に近い形だったのは俺だけだ。まあ全ての切っ掛けを作ったのは、そうするとプロフェッサーということになるんだよな……」
フロンティア部の拡張作業の傍ら、こんな話がされている……
当分はガルガンチュアの動き出す予定もない。
あっちでもこっちでも、この時とばかりに様々な活動や開発が行われていた……
ガルガンチュアの拡張・改装作業が終了した。
ガレリア部は接続部が一回り拡大されて延長もされた。
今回の長期間作業で大きく変わったのはフロンティア部のほうだ。
もともと直径が5000km超えの衛星サイズだったのが今回の拡張作業で直径1万km超えの惑星サイズにまで拡大された。
ガレリア部と合わせると、ほとんど地球と月の関係に近いものがある形になった。
改装作業ではガレリアにもフロンティアにも転送装置が装備されるようになり、接続部の通路を使わなくとも相互移動が可能となった。
それだけではなく搭載艇の規格も拡大されフロンティアにだけではあるが搭載艇母艦という形で直径5kmの搭載艇が新たに開発され、とりあえず現在は郷専用艇として運用予定となる。
「師匠? 私専用の宇宙艇にしては、あまりに大きすぎません? まあ、専用の宇宙船が貰えるのはありがたいですが」
「ああ、郷は宇宙船の運用に関しての経験が全く無いだろ? それで、惑星への着陸や衛星軌道への進入・待機やら母艦の運用経験を積んで欲しいんだよ。他のクルーに関しては、もう充分に経験積んでいるんで君だけの練習艦だと思ってくれ」
「ちなみに聞きたいんですが……これって完全なロボット艦ですよね? 私、必要ですか?」
「おや? それを聞くかい? フロンティアもガレリアもそうなんだが搭載艇に関しても同じで機能を全て使おうと思ったらロボットじゃないマスターが絶対に必要となるからだよ。フェイルセーフというか宇宙船の暴走を防ぐためなんだろうが」
とりあえず新型の搭載艇母艦のマスター登録は郷となり、銀河間空間での航行と運用の経験を積むこととなる。
以前からの救助器材やら新しく配備する予定の改良型まで様々な搭載器具に慣れる事も含むため、郷はあちらこちらと跳び回ったり宇宙空間での各種器材の使用訓練までこなしていく。
これだけ見れば巨大な宇宙船だと言えるのだが、すぐ傍に惑星規模の宇宙船と衛星規模の宇宙船が合体してる巨大な建造物のようなものがあるため搭載艇母艦の巨体は無視しても良いレベルになる……
郷のやる気が上がらないのは仕方がないだろう。
銀河間でガルガンチュアが以上のことをやっていた時、同時に遥か離れた銀河団空間ではガルガンチュアを構成するフロンティアやガレリアに負けないほど異形にして巨大な宇宙船が……
この異形宇宙船も何処かの時点でマスターを失ったのだろうか。
その銀河間空間に停泊なのか、それとも動けないのか……
生命の輝きという点では失われて久しい船となっていた。
しかし外側からは全く窺えない宇宙船内部では様々な情報が飛び交い、最新情報を得た搭載艇が密かに取り込まれては宇宙の政治・軍事情勢などが精査されていく……
謎の宇宙船の頭脳体は動かぬ本体と違って活発に動きまわり、情報収集に飛び回っている。
「ふーむ……どうやら、フロンティアとガレリアが同じ生命体を主として行動するために合体したというのは事実らしい……ガルガンチュアという船名に変わって、よりいっそうの活躍を始めたようだが……未だに良くわからんな、主になったはずの生命体の行動原理が。自分に全く何の利益ももたらすことのないリスクだけが高すぎるほど高い強制介入や救助活動を自ら進んで行うなどという生命体など、このワシも聞いたことも見たこともない。シリコン生命体が造らせた探査宇宙船シリーズには、このように異種生命体に積極的に関与していくような性格も行動原理も組み込まれていないのだから、これは全て新しい主の指示と行動だろう……まだまだワシが介入・関与するような段階でもないし距離的にも遠すぎるが、このままだと、そう遠くない将来、ガルガンチュアと出会うことになるかも……知れぬな。ふふ、それまでにワシの興味を引く存在になっていてくれよ……」
謎めいた言葉を発するが……
この宇宙船の出番は当分ない。
「ど、どういう事だ? ワシが参加しなければ超銀河団を渡るなど夢のまた夢となりかねんのだぞ! こら姿なき解説者よ、聞いておるのか?! そもそも、おのれが初期設定に……」
うるさいので音声オフにしておこう。
ちなみに近い将来に出る予定の宇宙船として4隻目の探査宇宙船もいたりするのだが、そちらは未だ動きなし。
こちらも主を失っているのだろうか全く動きがなく、こちらの場合は小さめの惑星上にて巨大山脈のように埋まっている。
この惑星に生物がいて山を登ろうと思っても計画段階で止めるだろう。
なにしろ半分以上が埋まっているとはいえ高さが2000km以上もある。
長い年月、風雨に曝されてはるが、外被上に土が積もっている部分は少しだけ。
頂上部分は成層圏を遥かに超えているため、宇宙空間から見ると惑星に大きなコブができているようにも見える。
シリコン生命体の宇宙船とは言え数百万年の時間は、あまりに長かったということか。
ただし損傷している風には見えない。
この宇宙船も主を失って主動力部が動作停止してしまい、惑星周回軌道を維持できずに落ちてしまったのだろうと推測される。
こんなものが周回軌道から落ちてきたら古代に地球で起きた巨大隕石による恐竜絶滅のような事態になっただろう。
現在では宇宙船そのものが風景の一部に……
なることはない、あまりに異物感が強すぎる。
ガルガンチュアと楠見達が、この見知らぬ宇宙の見知らぬ星に来ない限り、この埋もれた宇宙船が目覚めることはない……
ちょうどいい、確認出来るだけで良いので他の宇宙船が現在どうなっているのか確認していこう。
フロンティア、ガレリアを含めて現在その軌跡や現在地が確認されている(当然、シリコン生命体種族には、だ)のは9隻。
1隻だけ、どうやっても現在地と航跡が確認できないのでシリコン生命体としては主もろとも失われたものとして処理している。
確認できるうち4隻は先に記述済。
その他5隻について簡単に書いておくとしよう。
1隻は老いた太陽、つまり巨大化した恒星の周りを巨大重力にも引かれて落ちること無く適当な距離を置いて周回している。
動きはないが周回軌道を維持しているということは最低限のエネルギー供給はされているということだ。
また1隻。
こちらは少し大きな惑星の衛星と化している。
こちらにも動きなし。
まるで、宇宙から星の成長を見守っているような形になっている。
偶然だろうが、この星に月がなくてよかった。
もし、2つの月があったら今頃は軌道が交差して衝突していただろう。
あるいは衛星の重力が大きくなりすぎて惑星気象が大変なことになっていたかも知れない。
また1つ。
こっちは何もない宇宙空間を漂っている。
銀河間空間ではないので、どこかの恒星系に辿りつくかも知れないが、現在は動きなく、漂うのみ。
残り2隻のうち1隻。
こちらは超銀河団間空間を漂っている。
何が原因で、こんなところに跳ばされたのか?
管理者に渡航許可は貰ったが超銀河団空間の移動中にトラブルか事故でもあったのか。
その証拠に内破したような傷跡が見える。
重要機関に支障はないとは思うが、あの事故だと宇宙船に生命体でも乗っていたら一瞬で、あの世行きだろう。
ラスト1隻。
こちらは活動中だ、珍しい。
ただし1隻のみでの通常探査活動らしく、他の宇宙船を従えていたりガルガンチュアのように合体改造などはしていない。
大きさも設計段階のもののようで直径が5000km。
それらの宇宙船の活動・位置や軌跡は、もちろんガルガンチュアに通知されることはない。
シリコン生命体としては様々な銀河や銀河団、ひいては超銀河団の貴重なデータが採集できれば良いのだから今のガルガンチュアの状況はもってこいだった。
誰が銀河団探査船の主になろうと、その力を悪用しなければ何も問題はない。
自分たちが望んでもついに渡航許可を得られなかった(1隻は許可を取ったようだが超銀河団を渡る途中で事故が起きた)超銀河団への挑戦権を得られる可能性が非常に高い生命体がフロンティアとガレリアのマスターとなり2隻が合体することとなる。
シリコン生命体といえども銀河団調査船の2隻が合体するなど予想だにしないことだったので興味津々で今の状況をモニターしている(もちろん、フロンティア、ガレリア、楠見達がシリコン生命体の監視に気づくことはない。これは宇宙船本体にも知らされることのない特別な装置だ)
それらの宇宙船達は、たった1隻を除きシリコン生命体に徹底的にモニターされている。
言い換えればシリコン生命体とは現場を他の生命体に任せて、その経過と結果を眺める、いわゆる「神」のような存在。
今日も9隻のモニターデータは刻々とシリコン生命体に届いている。
おまけ短編(郷主役という、めったに無いシチュエーション)
吾輩は探偵である。
シャルロック・ホームスペースと言えば、この星広しといえども知らぬものなど無いと自負する。
今までに様々な怪事件を解決してきた我輩ではあるが、今回の事件だけは難解だと自分でも思う。
「ワットスレン君、これは単なる自殺とは思えないと言うんだね?」
吾輩は助手であり医師免許を持つワットスレン君に確認する。
「そうだ、ホームスペース。この被害者には自殺する動機もなければ、その理由すら無い。仕事は順調、家族は円満、おまけに息子と娘が近々、結婚するって予定。ここまで幸福なのに自殺する必要があるか?」
「うーむ……しかし、この状況は自殺としか考えられないな、確かに。地元警察の鑑識と捜査の結果も自殺と断定……するわな、この状況では」
家族が吾輩の事務所に連絡してきたのが警察からの発表後。
どうしても自殺とは認められないという家族の感情は理解できるが……
「部屋は完全なる密室状態。ロックは中からしか掛けられず、死亡時にはロックがかかっていた。おまけにこの部屋、この辺りで一番の高層ビルで最上階だ。外から侵入しようとするなら、どうしたって物音がするが、この部屋の隣にいた家族に変な物音は聞こえていない……」
「そう、それに警察の鑑識が発表した遺体発見時の状況では被害者は胸の前で手を組み、着衣に乱れはなく、眠るように亡くなっていたという……ただし被害者には命に関わるような持病はなかったとのこと」
状況証拠からすると突発性の心臓発作としか思えないんだが。
外部から何かの外力が加えられたような形跡もないし、最新型の光線兵器や音波兵器で撃たれたような形跡も無し。
これは、自殺で決まりか?
いやいや、被害者の回りの状況からして自殺とは思えない……
ライバル会社との熾烈な受注競争の真っ最中で、ようやく被害者の会社の方に受注が決定するはずだった。
あと、被害者の会社では近日中に全く新しい新製品の発表を予定していたというし。
「おや、その方が探偵さんですか? 一刻も早く真犯人が分かるといいですね」
今、我輩に声をかけてきたのは被害者の事業パートナーでゴウと名乗る青年だ。
途轍もない斬新なアイデアと理論で次々と業界へ新製品を送り込んでいるらしい。
口さがない連中の間では被害者よりもゴウ氏のほうが実質的な社長ではないかという噂が飛び交っている。
被害者家族とゴウ氏の仲は良いようで社長が亡くなったという非常事態にも関わらず会社として上から下まで揺るぎもしないのはゴウ氏の経営手腕と亡くなった社長の温情経営とが良い関係だったということであろう。
ちなみにゴウ氏は独身。
もう事業パートナーとなって10年以上にもなるというのに、昔と全く見た目が変わっていないのは特異体質だろうか?
社内の独身女性たちからは完全にロックオン対象となっているのだそうだが当人は全く異性に興味がないそうで……
年に数人ではあるが、あまりの高みに挑んで敗れた女性社員が一身上の都合で退職していくそうだ。
吾輩が一番に怪しい人物として挙げるなら、やはり、このゴウ氏になるだろう。
しかし、ゴウ氏には社長を殺害する動機が全くない。
むしろ社長が生きていたほうがゴウ氏の役に立つのは間違いないところだろう。
ちなみにアリバイも、ちゃんと証明されている。
被害者が殺害された時、ゴウ氏は特殊研究開発部の新製品開発成功打ち上げパーティに呼ばれて部下たちと盛り上がっていたらしい。
「少しお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
我輩、ゴウ氏に対して質問をする。
容疑者リストにあるような人物ではないので当たり障りのない日常生活に関するものだ。
いくつかの質問に答えてもらい、最後に、
「それにしても、あなたの頭の中には、どんな発明構想があるんでしょうな? あなたが事業パートナーになられてからの10年余り、この会社の成長と株価、業界内での立場も含めて、もの凄い成長度ですから」
軽い質問ではあったがゴウ氏は少し考えるように、
「そう、ですね……私はこの星……いや、この国に、もっともっと新しいテクノロジーと理論、技術改革を進めたいんですよね。少々の躓きがあろうとも、そいつもステップボードとして飛躍のタネにしたいなと思います」
邸宅を辞した後、吾輩はワットスレン君とお茶の時間を過ごしている。
「ワットスレン君、君はゴウ氏を、どう評価するかね?」
「そうだね……彼は一種の天才だろう。上に立っても中間管理職にあっても、たとえ平社員であろうとも、その立場から頂点まで駆け上がる実力と、そして周りを鼓舞してチームとして最大の能力を発揮させる統率力すらある」
「へぇ、君も人間観察が得意になったようだな」
「ただね、ホームスペース。僕は、あのゴウ氏に天才どころか人間離れしたものすら感じるよ。なんというのかな? 賢者とか言うよりも東洋の不思議な「仙人」だったか? 不老不死で、とてつもない神秘に手を染めているような……」
「そこまで人間観察が出来たとは成長したね、ワットスレン君。実は吾輩も同様な感想をゴウ氏に抱いた。あれは通常の人間に辿りつけるような知識や知恵のレベルじゃないものを見て会得しているとしか思えない。会話の端々に国だとか都市だとか人種だとかを超越してるような言葉が混じっていたのを覚えているかい? 少なくとも彼の中では星単位でのことが最低限なんだろうな」
「そうするとゴウ氏は少なくとも普通の人間とは思えないって点では当たっていると?」
「最低限は。殺人とか犯行とか、そういう些細なものには関心がないということだろう。彼の目標が、どういうところにあるのか? 神ならぬ我輩らに神に近い人間の考えることは分からない……」
その後、真犯人が判明し、犯行の手口も分かった。
ライバル会社の試作マイクロロボットが暴走し社長の行動だけを制御するだけのはずが脳の血流を阻害してしまったのが死因。
ただし、それが判明したのもゴウ氏の力だ。
なんと、新しいナノロボットのテスト中に、暴走して社長を殺害してしまったマイクロロボットの残骸を見つけて行動記録を発見したのだそうで……
もう、探偵の活躍する時代は過ぎ去ってしまったのではないだろうか?
吾輩は、この頃、探偵を引退し養蜂家として余生を過ごそうと真剣に計画しているのだ……