第四章 銀河団を越えるトラブルバスターの章
第三十九話 宇宙の子ら、戦う
稲葉小僧
俺の名は、刃(じん)。
俺の眼前には惑星の海が見えている……
俺達は今、銀河をさまよいながら落ち着く先の星を探しているところ。
ビアーエンペラーという合体型宇宙母艦に、バンボットと名付けられた巨大ロボットを積んでいる。
宇宙航行中に出会うだろう凶悪宇宙人に対抗するためだ。
まあ、数年前に、その凶悪宇宙人の造った宇宙船(こっちの宇宙船より大きな、まさに宇宙空母とでも呼ぶべきもの)と出会い、交信する間もなく攻撃を受け何とか撃退(というより破壊か? 宇宙船が完全に破壊されるまで攻撃を止めなかった)した。
しかし、その戦いで重要な航行機器にダメージを受け、航行速度はガタ落ち。
光速度や超光速どころの話じゃない近くの星系へたどり着くのがやっとという事で、数年間かかって今まさに惑星へ降りようとしているところだ。
「ばあさん! 合体したままだと、あまりの空気抵抗と重力で船体が保たん! 今から合体解除するぞ。3体に分かれて小さくなれば何とか降りられるじゃろうて!」
俺達は、じいちゃんとばあちゃんの指示の下、それぞれの一家ごとに分かれて小さくなったビアー1、ビアー2、ビアー3(まあ、それでも500m前後の大きさはあるんだ)に移乗。
合体解除後には、それぞれが船を隠せる場所まで移動し、そこで住む事になる。
「この星に、あの問答無用の凶悪宇宙人が来なけりゃ良いけどな!」
ビアー2に行った広大(こうた)が通信機で話してくる。
「さてね。こればっかりは相手さんの都合だから来るなと行っても来ちゃうこともあるし、待っていたら結局、来なかったって事もあるだろうし……」
俺が返すと、
「まあ、来たら来たで、またやっつけてやるだけね。大人しく滅びるのなんか、まっぴらゴメンだわ」
恭子(きょうこ)がビアー3から割り込んできた。
「刃、広大、もしもの時には、あたし達がバンボットで戦うのよ! 覚悟しといてね!」
その言葉を最後に俺達は、この星で長い平和な、それでも退屈とは無縁の時を過ごすことになった……
「刃! また手抜きしおったな! シミュレータの点数と戦術レベルが低すぎるぞ! もっとマジメにやらんかい! 破滅の使者がやってくると言うのに、そんなことじゃ一撃でやられちまうぞ」
親父の雷。
シミュレータは正直だね、まったく。
同人誌即売会のために数日間、徹夜してたから当然とはいうものの我ながら動きにキレがないとは思う。
「悪いね、父さん。このところの徹夜作業で体調が最悪なんだよ。まあ、もう少しで徹夜作業も終わるからさ……今は勘弁してくれ!」
言い訳しても丸わかりだから正直に謝る。
親父は苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、
「まあワシの若い頃を思えば同じようなもんか。しかしなー、ワシラは外でバイクを走らせたり女の子を誘って夜のツーリングやドライブに行ったもんなんだが……ドージンシだったか? そのために若い男女が揃って徹夜とは……時代は変わったなー」
あなたの頃と現代を一緒にしないで、親父さん。
我々は環境も汚さないし世間に大幅な迷惑もかけません。
好きなことを、やりたいだけやってみたい……そういう人たちの集まりが同人誌即売会です。
広い会場ですが、その中から外へは出ませんよ?
さてさて、やって来ました首都湾岸エリア最大の建物!
昔はトチョーとかいう政治家と官僚の勤める建造物だったらしいんだが今では大きなイベント会社に買われてビッグイベントの会場になることも多い。
メジャーな先生方のマニアックな同人誌は全て一階のホール周辺に売り場を充ててあり、これで人の動線を確保。
マイナーな方々はどうするんだ?
というと2階から上のフロアや会議室に種別をつけて放り込まれてく。
俺達の本は架空軍事歴史本という、マニアックにも程があるという分野。
なので、もう過疎地域扱いの13階まで上げられる。
まあ、書いてることは嘘じゃないが。
俺達の種族が故郷の星を追われて宇宙を彷徨うことになった経緯から、あの凶悪宇宙人との戦い、そして傷ついた宇宙船が、この星を見つけて降下するまでの歴史を細かく書いてる。
あまりに細かいので、その筋じゃ日本のトールキンなどと噂される事もあるとか聞いてるが。
でも、あれは作者の完全な想像の世界。
こっちのは事実のみを書きつらねた異星人の歴史本だ。
あまりの緻密な描写と書き込みに、こんな、どマイナーな世界でも固定ファンが付いてくれたようで、新刊出せば、そこそこ売れるまでになった。
ありがたや、ありがたや。
お客様は仏様です、拝ませていただきます。
「今回も、もう少しで完売ね! 刃、広大、ご苦労様。少しづつでも、これで私達の事を理解してくれる人たちが増えると良いんだけど……」
恭子が俺と広大を労ってくれる。
その時!
ウーーー……
長いサイレンの音に続き、緊急避難放送が流れる。
『緊急避難警報発令中! 緊急避難警報発令中! 都内隣接の湾内より、巨大なる機械と生物が融合したと思われるものが現れました! 宇宙局の発表によりますと、これは先日の湾内に落下した巨大隕石の中にいたものだと推測されるとのことです。防衛隊が急遽、出動していますが全く武器が通用しません! 』
俺達3人は互いに視線を交わす。
ついに来たか、凶悪宇宙人!
さあ、バンボット出動だ!
俺、広大、恭子の3名は緊急発進システムを起動させ各自の戦闘機を呼ぶ。
こいつと、それぞれの母艦から発進する3体のバンボットが合体し、まずは小隊フォーメーションでの戦闘。
「バンボット1、最接近! 自動合体装置起動、合体!」
「バンボット2、最接近! 自動合体装置起動、合体!」
「バンボット3、最接近! 自動合体装置起動、合体!」
各自、ロボットとの合体が完了し戦闘準備完了となる。
ちなみに防衛隊へは既に、じいちゃんが通知済み。
もう少しで民間人の避難も完了するため、それまで本格的戦闘は控えて敵の誘導に徹する。
「おい刃! ちんたらちんたらやってても埒が明かねーぞ! 武器ロック解除は、まだ来ねーのかよ!」
「無駄よ広大! 民間人の避難が完了しなきゃ武器システムのロックは外れないわ! それまでに本気で戦っても被害が少なくて済むフィールドへ誘導するのよ! 防衛隊の攻撃は、どれも通用しなかったんだから私達の武器でないと通用しないのは確認済み。今は耐えるの!」
そう、この星の防衛隊の所持する武器では奴らに通用しない。
奴らと戦った経験がある俺達の宇宙船やバンボットでないと武器の威力が小さすぎて通用しない。
「もう少し、もう少しなんだ。もう少し離れれば、そして、もう少しの時間があれば本気で戦っても民間人への被害は無い。具体的には軍艦島だな。あそこまで行けば大丈夫だろう」
俺は2号機と3号機へ通達する。
軍艦島への誘導は成功した。
防衛隊より民間人の避難完了との通信も入る。
よし!
これで本気で戦える!
「フォーメーションαからθへ展開しつつ、敵を包囲して殲滅攻撃!」
武器システムロックを全面解除し攻撃態勢を整える。
「全機、攻撃開始! フォーメーションは各自、適正に変更し、最終的に包囲殲滅だ!」
俺は1号機、一番小さな機体だが、そのスピードを活かしてヒット&アウェイを選択。
2号機は一番大きいが、その分、防御も固いので敵との撃ち合いに持ち込んでいる。
3号機は……
ははぁ、チャンスを見て特大迫撃砲をブチ込む気か……
それなら敵の気をそらしてやろう。
俺は武器を変え、大型ライフルを選択。
一番の弱点である目を狙うことにする。
慎重に……
狙いをつけて……
よし!
命中、顔からメカのような破片が飛び出してくる。
片目になっちゃ、攻撃も防御も隙だらけになる。
おっ!
恭子の3号機が、ついに特大迫撃砲を撃つ。
敵メカの皮膚が異様に硬くて、それまで目を狙った攻撃が成功しただけだったんだが、今回は大幅な箇所に皮膚のヒビと剥がれを確認。
「迫撃砲の当たった箇所を集中攻撃! やれるぞ! 包囲殲滅攻撃、開始!」
3体で敵を囲み、皮膚の剥がれとヒビの入った箇所を集中攻撃。
弾数切れも忘れて全ての武器を撃ち込むと……
数十発も撃ち込んだだろうか。
全ての皮膚が硬化した状態から通常の軟化した状態へ戻った。
こうなると、もう後は……
メカが飛び散り、融合してた肉片も飛び散る。
包囲殲滅攻撃宣言してから数分後、ようやく敵の爆発炎上を確認。
「過去にも戦った資料を見たけれど、こんなに固くて厄介なのかよ、凶悪宇宙人の送り込んでくるメカ怪獣は! ?」
「諦めなさい、広大。こいつらと戦うのは私達の使命であり運命なんだから……」
「そう……そうなんだ。この星を守りぬく、それが俺達に与えられた使命なんだ! 誰に依頼されたわけでもない、俺達の故郷は、この星だから!」
最初の一体、なんとか倒した。
しかし問題はこれから。
敵が戦力の分散という愚策を続けるとは思えない。
一体だけで、これだけ苦労したのが数体まとめて攻めてきたら……
いや、数体ならまだしも数十体なら……
俺は冷たい汗を拭うことしか出来なかった……
惑星上での戦いを初めて経験した俺達に休みなど無かった。
凶悪宇宙人は次の融合獣(あの戦いを検証した防衛隊と俺達との会合で敵の機械と生体の融合したロボットの名前が決まった)を送り込んできた。
「刃! ボケっとしてないで現場に急行するのよ!」
「ちょっと待ってくれ! 昼の弁当くらい食わせてくれよ!」
「刃! 俺だって弁当の食いかけで戦闘機に乗せられてんだ。あきらめな」
恭子も広大も言いたい放題だ。
ちっくしょー!
今日はオムライス弁当だったのに……
食い物の恨みは深いぞー、融合獣!
俺だけ少し遅れたが、バンボットが来るまで各自の戦闘機で凌ぐ。
戦闘機の機銃やミサイルだけじゃ、かすり傷くらいしか与えられないのは分かってるが、これも民間人の避難を完了させるための時間稼ぎだ。
「広大、恭子! バンボット来たぞ! 合体するんだ!」
バンボット3機が次々と合体して戦闘態勢をとる。
しかし最初の奴とは違って、この融合獣は本格的に侵略・破壊用らしい。
両腕と両膝に杭打ち機に似た接近戦用の武器が備えつけられ、背中に背負うは巨大な剣……
「こいつ、コンセプトが読めないわね」
「ひょっとして、近接武器のみ? それしかない融合獣?」
「でもな、えてして、こんな奴が厄介だったりするんだよ」
俺の予想は大当たり!
当たってほしくなんかないんだがね、こういうの。
包囲攻撃を計画しても強引にソロの戦いに持ち込まれてしまい、フォーメーションが崩されてしまう。
「刃! こっちも合体だ! 他の二人とシンクロしろ!」
「じっちゃん?! 合体って、シンクロって言われても、どうするんだよ?!」
「刃、いいか、よく聞けよ。バンボットは3機が各自で戦うことも、3機合体で巨大ロボットになることも可能だ。そのための機能を今からロック解除する。合体には3人の意識を同調させる事が必須となってくるので3人一緒に合言葉を叫べ。合言葉は……こいつだ」
「分かったよ、父さん、じいちゃん。聞いてたな、広大、恭子。3カウントで合言葉を叫ぶんだ、用意はいいか?」
「2号機、準備よし! いつでもいいぜ」
「3号機、用意よし! 刃、頼むわよ! 集中制御で、合体後は刃がメインパイロットになるんだからね!」
よし、やるぞ。
「いいか? 行くぞ! スリー、ツー、ワン!」
「「「バンボット、スリー、イントゥ、ワン!」」」
その途端、俺の機体も含めて3体のバンボットは、その形を変形させて合体シーケンスに入っていく。
さすがに大型ロボットの合体シーケンスを初めて実行するので、えらく時間がかかっている。
「変ね? 融合獣、攻撃してこないわよ?」
「戦闘機と個別攻撃でダメージが蓄積されたか?」
「バカ! ありゃ、余裕がありすぎて俺達の行動を見てるだけだ。ちくしょう! 絶対に倒す! 余裕ぶっこきやがって!」
30秒ほどかかった合体シーケンスが終わり、巨大ロボットが誕生する。
「刃、そのグレートバンボットで敵を倒すんじゃ! 武器はグレート専用の武器と、後は……こちらから発射するイオン粒子砲がメインだな」
「分かった、じいちゃん! 武器は……こいつか! バンボット薙刀って、マニアックだな、どうにも」
「刃! 薙刀は最強よ! 槍と刀の長所を持ってるからね!」
はいはい、恭子は地元高校の薙刀部主将だったな、たしか。
「くらえー! グレート薙刀ぁ!」
すっぱりと敵融合獣の片腕が斬れた……
超高速振動するブレードに、さらに高熱を与えた凶悪すぎる切れ味の薙刀みたいだ。
初撃で大ダメージを食らったためか、さすがに余裕も無くなったようだな、融合獣。
大型ミサイルを連続発射した後、巨大剣を抜いて斬られた腕先に装着し無事な方の片腕は杭打ち機を盾代わりにして、その巨体を驚くべきスピードで走らせて、俺達に迫ってくる。
「足がお留守だよーっと! グレート薙刀、水平斬り!」
脛を目標に下段斬り。
見事に足が無くなった融合獣に……
「最後だ! バンボット、スターライト・エンディング!」
グレートバンボットの頭部より巨大な高熱源エネルギーが融合獣へと伸びていく……
接触、爆発!
ふぅ……
合体時に敵が見逃してくれなきゃ絶対に死んでたな、これは。
次からの戦いに、つい愚痴をこぼしたくなる俺だった……
2体目の融合獣を倒してからは敵の攻撃パターンが変化してきた。
1体づつの個別攻撃から2体以上の複数対応になってしまったのだ。
「刃! こいつを倒しても、まだいるからね! 気を抜くんじゃないわよ!」
「分かってるよ、恭子。ただし、必殺技が使えないのが難点だけど……」
そう、今回の敵は3体。
1体は何とか倒したんだが、あと2体もいるんだ、これが。
「どうするんだよ、グレートバンボットのスターライト・エンディングを使ってしまうと、しばらくエネルギー切れで動けなくなるんだろ。かと言って、これ以上、町を破壊されるのも……」
そう、相手は勝手に暴れまくるだけで建物やインフラ、人命さえも簡単に奪える。
こちらは、そうはいかない。
避難は完了してるとは言え建物やインフラなど生命維持につながる設備を、これ以上破壊されるわけにはいかない。
「とはいってもな、このところの融合獣は強力になってきてるんで、そうそう必殺武器を温存するわけにもいかないんだよ、これが」
必殺武器を使えれば倒せるんだが……
こちらは1体、あっちはまだ2体残ってるし……
と、無い知恵絞って考えあぐねていると……
「刃! レーダーに、もう1体の所属不明巨大ロボットが確認されたわよ! 敵か、味方か……」
所属不明?
俺達も、そうじゃないのか?
と答えようとしたんだが、それより先に……
「侵略者に対抗する力は多いほど良いってね。無敵のアイアーン3号、登場だ! そこの、アイアーンに似たロボット君、助太刀に入らせてもらうぞ!」
グレートバンボットより頭一つはデカイ。
変形機構はあるようなんだが、パーツごとの合体とかは考えられていないようで、その代わり、アイアーンの名前通り防御力は高そうだ。
「それじゃ、まずは小手調べ。アイアーン、ハンマー!」
とにかくドデカイ、鋼鉄の塊のようなハンマー(それこそ、100tハンマーと言えそうな重さだ)を構えた助太刀ロボットは、もう1体に巨大ハンマーを振るう。
ガイーン!
耳に痛そうな金属音が発生し、さすがに思いもかけぬ攻撃だったのか、ビームバリアではハンマーは難なく通してしまい、敵融合獣は吹き飛ばされる。
胴体がボッコリと凹んでいるのは、この攻撃の凄さの証拠だろう。
じゃあ、こっちもやるか!
「グレート薙刀、展開! そーれ、それそれぇ!」
メカ触手をぶつ切りにする、グレート薙刀。
ようやく、厄介な触手攻撃も終わる。
さぁ、最後の必殺攻撃!
「太陽に助太刀を! それ、必殺のぉ……フレア・アタック!」
「バンボット、スターライト・エンディング!」
お互いが互いを見合う……こいつは同じような設計思想で造られたようなロボットだ。
防御武器というよりも、どちらかといえば決戦兵器に近い用兵思想の持ち主が違う星にもいたらしい。
戦いの終わった後パイロットがアイアーン3号というロボットの中から出てくる。
なるほど、合体しない時には戦闘機から車両、小型潜水艦にまで変形するマシンとなって日常で使えるのか。
「便利ですね、その変型メカ。俺達のは戦闘機だから日常使用できないんですよ」
俺が羨ましそうに変型メカを見ていると、
「やぁ、君が巨大合体ロボットのメインパイロットだね。僕は、千尋万丈という。恒星間航行のためのテスト宇宙船で事故にあい、故郷の星に帰れなくなったんで、あっちこっちの星を旅して回っている。この巨大ロボットはアイアーン3号。変形機構により恒星間も渡れる宇宙船、海中でも行動可能な万能戦車、そして戦闘・資源採取用の巨大ロボットにもなれる。しばらくの間だが、この星を守るのに手を貸したい。良いかい?」
思いもかけぬ助太刀。
「良いも何も、ぜひともお願いします! 必要な物資は提供しますので、凶悪な侵略者から、この星を守る仲間として参加してください!」
俺、広大、恭子は3人で頼み込む。
こうして頼もしい仲間を得て俺達の戦いは更に苛烈なレベルに突入していく……
あれから休む間もない、侵略者との戦いが続いた……
こちらが2体になったという事で、敵さん側も容赦のない複数攻撃を仕掛けてくるようになった。
今も、その状態。
「万丈の兄ちゃん、大丈夫か? 今回、そっちに2体も融合獣が行ってるんだけど?」
「おう、刃。こっちは大丈夫……とは言いがたいが、ね! 入れ替わり立ち代りの攻撃を仕掛けられては、たまったもんじゃないよ、まったく!」
そうか。
まあ、こっちも他人の心配などしていられる状況じゃ無かったりするんだけど……
「刃! アイアーンに連絡なんかしてる場合?! こっちの相手、身体がゼリーみたいで通常の武器が通用しないのよ! どうすんの! ?」
「恭子! とりあえず試してみたいことがある。そっちの小型ロボット時に使うミサイルと広大の固定武装、小型レーザー砲を同時に撃ってくれ! 光学兵器と通常兵器、同時に食らったらどうなるか相手の出方を知りたい!」
「「やるぞ(わよ)! 3,2,1,発射!」」
ミサイルとレーザー砲を同時に食らった敵は……
あれ?
ミサイルの方がダメージ与えてるな。
レーザーの方は表面で反射されてるようだ。
「わかったぞ! 恭子、広大。あいつ、こっちの使う武器に合わせて物理シールドとエネルギーシールドを使いわけてやがる。厄介だけど分かっちまえば、こっちのもんだ!」
それからグレート薙刀とレーザー砲の同時攻撃やら、バンボットライフルとレーザー砲の同時撃ちとか、なんにせよ相手に一方は防がれてもダメージは与えられるようになった。
「シールドも弱まってきたな……行くぞ、必殺! バンボット、スターライト・エンディング!」
必殺技と同時に薙刀を下段から上に向けて逆唐竹割り!
ようやく厄介な融合獣を片付ける。
よし!
次は万丈兄ちゃんへ加勢する!
「お待たせ! 加勢するよ!」
「おう、刃! ありがとな。1体だけなら……オラオラオラぁ!」
「こっちも行くぜ! グレート薙刀ぁ! 一文字斬りぃ!」
簡単に追い詰める。
最後は互いに必殺技で、相手を仕留めて終わり……
「……って、何だこりゃ?! 次が来たのか?!」
万丈兄ちゃんの叫び声。
敵も本気になったようで10体の大世帯で来やがった。
「刃! どうするの?! 3体でもギリギリだったのよ、10体なんて相手になるわけ無いじゃないの! 一旦、撤退よ! 作戦を練りなおすしか無いわよ!」
恭子が叫んでるが、ここで引いたら……
「それは出来ないな。ここで引いたら敵は更に数を増やして来る……こりゃ、自爆も覚悟しなきゃならんかも……」
万丈兄ちゃん、不吉なことを言うのはやめてくれ。
フラグなんぞ立った日にゃ自爆エンド決定じゃないか。
「自爆など、やらないよ」
「でもな、刃。やらなきゃならない時もあるぞ」
「それでもだよ、万丈兄ちゃん。自爆は……死ぬほど痛いと誰かが言ってた」
「ふふ、ふははは! そうか、死ぬほど痛いか。じゃあ、痛くない方を選ぼうか!」
「そういうことだよ! さあ、かかってきやがれ!」
「ちっちっち、違う違う。ここは……バンボットとアイアーン、この2体の力を恐れぬなら、かかってこい!」
さっすが、生きてきた長さが違う。
俺達も覚悟を決めて……
そう思った時、天空に影がかかった。
「おいおい、何だありゃ? こっちの表示には全長500mもの巨大宇宙船と出てるぞ」
広大がデータを読み上げる。
少なくとも、今の敵、凶悪宇宙人では無さそうだな。
第一、敵の宇宙船は、あんな球形じゃない。
大きさは同じようなものだと思うんだが、今、目の前にいる宇宙船に敵意は感じない。
〈両方共、武器を引け。こちらは巨大宇宙船ガルガンチュア所属の搭載艇である。これ以上の破壊活動、および戦闘行為は禁止する。従わない場合、実力行使するので注意するように〉
こりゃ、通常の無線通信じゃない。
特殊な通信方法、いわゆるテレパシーだな。
あれに乗っているのは、ともかく好戦的な宇宙人では無いようで安心した。
アイアーン3号とグレートバンボットは武器を収め、バンボットは合体を解く。
敵さん方は……
あの注意……
というか宣言を聞いても向かってこようとしている。
ひょっとして、こいつら思考能力が低い、戦闘特化の融合獣?
宇宙船へ向けて融合獣達は攻撃を始めた。
当たらない。
ビーム兵器も実体弾も近接武器ですら、かすりもしない。
いや、宇宙船は動いてないんだ。
シールドと言うかバリアというか、ともかく見えない壁に当たったかのように融合獣の全ての攻撃は跳ね返され止められ、宇宙船にダメージを与えることができない。
宇宙船は攻撃しようとする意思すら見せない絶対的な優位にある。
数分後、ようやく自分たちの攻撃が通用しない恐るべきテクノロジーレベルの敵だと分かったようで融合獣達は一箇所に集合し、どこかへ連絡をとっているような仕草を見せる。
数十分後、一体の融合獣が宇宙船の前に進み出る。
スポークスマンのつもりかな?
胸の覆いが開くと、そこには巨大なスピーカーらしきものが見える。
「キサマはイッタイ、ナニモノか? ワレのスウコウなるシメイをジャマするのであれば、このボカンをもってしてキサマをウチヤブルのみ!」
音声による通告だったため宇宙船の方も音声で、
「こちらは先に宣言した通り巨大宇宙船ガルガンチュアの搭載艇である。こうやって通告している我が名はゴウ。ガルガンチュアのマスター、ジェネラルクスミの部下でありガルガンチュアクルーの一員だ。防衛側、攻撃側、それぞれ言い分もあろうが、まずは武器を収めて話し合いだ。私が仲介役に入ろう」
なんだか変なストーリーになっちゃった?
「では、これより侵略者と防衛グループとの会談というか話し合いを開始する。双方とも静粛に」
ここは惑星政府の首都であり政治の中心とも言える巨大ビルの一室。
一室とは言えホールと言いたいほどの空間があるそこに防衛隊の上部組織の防衛軍のトップ、刃たちを主としたバンボットとアイアーン3号のパイロットである千尋万丈が防衛側に着席している。
一方、侵略者側には一目見て分かる大きな人型ロボット一体が鎮座。
このロボットがスポークスマンとなり、この会議における全権責任者となるらしい。
「では始めていいかな? そもそも、この戦いは、そちらが侵略行為を行ったことに始まるわけだが……刃くん達に聞いたところ君らは他の星系へも侵略……というか種の絶滅を計画している風にも見られる攻撃をしているな。通常の侵略や侵攻だと徹底的な破壊よりも、むしろ現地の労働力や資源を出来るだけ残そうとするのが普通だが。まずは君ら侵略者側の意図を明確にしたいと思うので聞かせて欲しい」
ゴウが双方の中間位置に座り双方の意見を聞こうと司会者役を務める。
大型ロボットは少し躊躇するような時間を挟んで、その口を開く。
「この星の言語に、ようやく慣れたので、これからは流暢に話すことが可能となった。今までの侵略行為? 少し違うな。我々は宇宙を掃除する任務を帯びた大型コンピュータ宇宙船のシリーズだ。我々に与えられた任務は、この宇宙から悪しき考えと行為を行うものを駆逐することである。これだけを行うために我々は造られた」
ざわつく防衛側。
刃は、あまりのことに、
「じゃ、じゃあ何か? 俺達の元の星の人たちも、ここの星の人たちも、この千尋万丈さんも、お前たちから見たら全て悪人なのかよ?! 無茶苦茶だ! そんなこと言ったら、この宇宙全ての生命体を抹殺しなきゃなくなるだろうが!」
大型ロボットは、それに答える。
「ふむ、こうやって直に聞かれるのも新鮮なことである。答えよう、異星から来た者よ。我ではないと思うが我がシリーズは全て同じデザインと意匠で作られているので見た目には違いがない。なので他の機体が行ったことも我が行ったことと同じことと思えば良い、そこに我がいたら同じことを成していただろう」
万丈が聞く。
「疑問がある。その、君たちの宇宙船シリーズが星に住む生命体を「悪」だと判断する基準は? それが明確でないと単なる虐殺宇宙船団となってしまうだろう?」
「答えよう、基準はある。我々は思考波を受信する装置を持っている。思考波発信の機能はないが、その受信装置で長期間、その星の生命体を観察するのだ。その結果、悪い考えが満ち満ちていると判断されるとメインコンピュータより攻撃許可が下り、その星を浄化する事となる」
意外な回答を得て防衛側は動揺する。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。長期間、生命体の考えを受信して観察すると言ったな。その中には良い考えの持ち主もいただろうに!」
防衛隊の長官が堪らずに発言する。
一律で「悪だ」などと生命体を種族ごと抹殺するなど正気の沙汰ではない。
しかし正気の沙汰ではないことを、このコンピュータ宇宙船シリーズは通常業務として行っているというのだ。
「確かに良い考えの持ち主もいた、それは否定しない。しかし長期に渡って受信と観察を行い明らかに悪い考えのほうが良い考えを駆逐するだろうと思われるポイントに達すると攻撃開始の命令が出されるのだ」
防衛側もゴウも、この発言には唖然とする。
確かに言っていることに矛盾はないし正しいだろうと思われる。
ただ、これは「無慈悲なる機械の論理」だ。
悪人ばかりで善人が少ないからと言って全てを滅ぼすのは、あまりに酷い。
「それは神にも等しい存在の論理だな、コンピュータ宇宙船のスポークスマンロボットよ。お前たちが悪い者達を善き側へと導くように出来なかったのか?」
ゴウは相手が高度なコンピュータだと理解したので自己判断によって命令を変更できなかったのかと問う。
それに対する返答は、
「無理だ。我々のメインコンピュータには主目的として悪の抹殺しかプログラミングされていない。我々に他の生命体に対する憐憫や慈悲のような考え方はできないのである」
この回答にゴウは頭を抱える。
あまりに杓子定規だと思ったら破壊と抹殺しか命令がないとは……
自分では、もうこれ以上、話を進められないと思ったゴウは上司たるクスミに連絡する。
〈師匠、今までのことは全てわかってますよね。こいつは私じゃ解決不可能ですよ。あまりに侵略者側の頭が固すぎます〉
《《分かった……ゴウ、そこにいる当事者たちを全員、ガルガンチュアに転送してくれ。俺に1つ方策がある。多分だが、それが解決の緒になると思う》》
クスミより返答を貰ったゴウは宣言する。
「これは我が権限を超えると判断し我が上司の判断を仰ぐこととする。皆、その場を動かないでくれ。これより、ここに居る全員を巨大宇宙船ガルガンチュアへ転送する!」
その言葉が終わるや否や、かなり広い会議室にいる全ての生命体、ロボット、及び、その話合いを中継していたマスコミまで引っくるめて、その場より消える。
次の瞬間、全てのものが見たこともない広いホール? の中へと現れる。
「ようこそ、宇宙船ガルガンチュアへ。私はゴウの上司というか、この宇宙船のマスター、クスミという。君らのトラブルは解決されると思うので今しばらく待っててくれ」
見知らぬ人物が歓迎と自己紹介を行う。
侵略者側の大型ロボットが最初に判断力を取り戻したようで、
「クスミという名の生命体よ、この聖なる戦いと悪の抹消作業を妨げるというか。それなら我が方は徹底的に反撃を行うのみだ」
防衛側がざわつくがクスミは全く動じることもなく、
「まあ、そう答えざるを得ないわな、そちらの状況として。では、これを見せようか……」
クスミは、はるか昔に銀河系の機械生命体に貰った証明バッジを見せる。
それを見た途端、大型ロボットに衝撃が走ったような動きが。
「そ、それは太古にあった機械生命体種族の終身名誉首脳証明! お前は、いや貴方は一体、どういうお方なのでしょうか?」
クスミは苦笑しながらも、
「それは、ずいぶん前に、この銀河団じゃない宇宙、銀河系というところで君たちの創造者、機械生命体から貰ったものだ。宇宙は違っても機械生命体の本質は変わってないだろうと思ったんだが、やはり当たったか。君たちの宇宙船シリーズは機械生命体によって造られたんだな?」
「はい、肯定します。このバッジを持つ生命体は、その生命が続く限り、どこの機械生命体種族においても首脳とみなされ、その発言は最大限に重視されます」
態度が急変した大型ロボットに呆れたゴウは、
「師匠、何ですか、そのバッジ? 相手にゃ、よほどの貴重品と見受けますが……」
「ああ、ゴウには見せてなかったか。こいつは俺のコレクションの1つだ。銀河系って、はるか遠い銀河団の中の銀河で、そこの機械生命体のトラブルを解消して、その礼に貰ったもの。まあしかし、これほど強力なアイテムだとは思わなかったよ」
大型ロボットが緊急連絡したのだろう星系内に停泊していた侵略側宇宙船も大慌てでガルガンチュアの傍へとやってくる。
その宇宙船との通信も確立したので船内だけでなく双方の相手方にもリアルタイムでガルガンチュア内の様子を中継する。
ちなみに惑星側では大混乱になりかけた。
最初は侵略者側の宇宙船が大写しにされ異形の大型宇宙船、大きさ500m以上の母艦が写されて衝撃だったが問題はその後。
その大型宇宙母艦が接近していくのは大きさが桁違いなもの。
1つは直径5000kmの独楽状の異形物体。
もう1つは直径10000kmを超える球体。
それを繋ぐのは直径3000km・長さが10万kmを超える円筒。
それは、もう宇宙船とか言うレベルのものではない。
宇宙航行可能な惑星と衛星と言っても良いのではないか。
ゴウが惑星に降りてきた時に言った巨大だけど搭載艇だという意味が、ようやく分かった人々だった。
「理解して貰えたなら戦闘は一時休止して俺達を案内して欲しいんだが」
クスミが大型の人型ロボットに向かい提案する。
「はい、案内は可能ですが何処へ?」
先ほどとは手のひらを返したように従順な人型ロボットにゴウも刃たちもあっけにとられる。
「ゴウさん? あんたの上司、クスミさんって何者? とてもじゃないけど普通の人間じゃないよね。まあ、それを言うなら、あんた達が何者か? って話になるんだけど」
刃がゴウに質問する。
「うーん……どう答えたら良いものやら……私達は宇宙を渡り歩くトラブル解決集団とでも言うのかな。そこにトラブルがあるなら頼まれていなくても駆けつけてトラブルを解決して去っていく、そんな宇宙船とクルーなんだよ。代表者が、あの人。私が師匠と仰ぐ、クスミ・タダス。今この宇宙に存在する生命体の中で最高のテレパスにしてサイキッカー、そして宇宙一のトラブルバスターだ」
ゴウの説明を受けても今一つ理解できない刃たち。
「それじゃ何かい? 君らは何の関わり合いも持たない別の銀河の別の星のトラブルや戦争に、わざわざ介入してトラブルを解決するってことを銀河単位でやってるってことかい?」
万丈が呆れたように聞く。
「そうだ、その通り。私も実は師匠に助けられて自分の星のトラブルを解決してもらい、その縁でガルガンチュアクルーに拾ってもらった過去を持つ。私は、この銀河の近くの銀河にある星の出身だが他の生命体やロボットは違うぞ。何しろ全く違った銀河団にある銀河の出身だから」
ゴウが答える。
その答えに唖然とし何も言えない刃や万丈たち。
こんな生命体が大宇宙には存在するのか……
という思いがあるのだろう。
「案内して欲しいのは君らの創造者たる機械生命体の星系だ。先に言っておくが侵略や攻撃の意思は全くない。ただ君らの思い込みと誤解を根本から訂正しておきたい」
周辺のざわめきには関与しないとでも言うようにクスミは大型の人型ロボットと会話している。
「はい、了解しました。そのバッジを持つ生命体の言葉に我々は盲目的に従うように造られていますので、ご案内いたします」
刃たちを転送機で星に帰しても良かったのだが、こんな物騒な宇宙船団を造った種族の顔が見たいと刃達が主張したためガルガンチュアは、そのまま殲滅母艦を船内に収容して機械生命体の星へと向かう。
殲滅母艦のメインコンピュータもクスミの持つバッジに対する畏敬の念から従順な態度で道案内を行う。
その甲斐もあり数日後には機械生命体の星へと到着する。
「バッジの持ち主よ、あれが我ら大型コンピュータ宇宙船シリーズを創りだし宇宙へ放った機械生命体の星です。ここからはバッジの持ち主にお任せします」
殲滅母艦のメインコンピュータは、これより交渉の主権をクスミに引き渡すようだ。
クスミは最大の強さにしたテレパシー波を送る。
《《大型コンピュータ宇宙船シリーズという生命体の虐殺者を創りだした機械生命体たちよ! こちらは巨大宇宙船ガルガンチュアのマスター、クスミだ。君らの創りだしたものが、あまりに大量の虐殺と殲滅を繰り返したため抗議に来た。そして君らの誤解を訂正したい》》
強力なテレパシー波を受けて驚愕した機械生命体たちは慌てて返信を寄越す。
「ご主人! 久々の強力なテレパシーに数秒間、酔ってしまった事をお詫びします。ようやくお戻りになりましたか、この十数億年、どんな思いでお待ち申していたことか……お顔を拝見したいので、ぜひとも星に降りてきてください!」
「あはは……こうなるから、やりたくなかったんだよなぁ……まあ仕方がない。このバッジを使った報いか。では、転送してくれフロンティア。一緒に行くのは……ゴウと刃、それだけで良いだろう」
「マスターに危害は加えないでしょうから、それで良いと思います。では惑星表面へ転送します」
いつものやりとりの後、クスミ達3名は機械生命体の星へと転送される。
大歓迎の用意をして待っていた機械生命体たちへ、始祖種族は戻らないこと、しかし、この宇宙には始祖種族の子孫たちが一杯いるということを丹念に説明するクスミ。
銀河系の例を出し、この銀河でもあり得るのだと刃の生体検査を要求するクスミ。
何の痛みもないし生命に関わるような検査でもないと納得した刃が進んで検査にかかり、その結果……
「始祖種族の遺伝子が変質した痕跡があります。これを例とするなら、この銀河に住む、ほぼ全ての有機生命体(人類種族)が始祖種族の子孫となりますね」
機械生命体の代表者がクスミに宣言する。
「それなら話は早い。生命体を虐殺・殲滅する宇宙船団シリーズの運用を今すぐ中止し、その行動原理を生命体の育成と保護に変更して欲しい。このままでは始祖種族の子孫を減らすばかりだろう」
「こ、これは気づきませんでした! 今すぐに10機のメインコンピュータへと業務中止、命令変更を出しますので。それにしても、さすがは終身名誉首脳証明バッジの持ち主です。我々が虐殺者の汚名を手にする事を、よくぞ止めてくださいました。これからは我々も星の外へ出て自分たちの目で他の生命体を見ていきます」
それで、ですね……
と持ちかけられたところで、クスミは、
「それでは我々は、これで。あっちにもこっちにもトラブルが待っていますので」
と、早々に星からガルガンチュアへ転送してもらう。
「師匠? なにも慌てて帰らなくても良かったんじゃありませんか? 大歓迎してくれるんだし」
と、浮かぬ顔のゴウ。
それに答えるクスミ。
「最後の頼みをしそうだったろ? あれ、分かってるんだよ。当分の間で良いから、この星に残って首脳として機械生命体を指導して欲しいってことだ。それを承諾したら最後、帰る段になったら俺のクローンを創りだすくらいはやる種族だからね。だから機械生命体とは深く関わりたくないんだよ」
「へぇ、師匠は機械生命体が苦手なんですね」
と、ゴウの感想。
「いや、苦手というよりは……フロンティア、プロフェッサー、なにを笑ってるんだ?! こっちの身にもなってみろ!」
「申しわけありません、マスター。ゴウ、苦手というよりはマスターは先祖返りに近い特殊な生命体なんですよ。つまりマスターは今この宇宙にいる全生命体の中で一番、始祖種族に近い力を持っている存在なんです。機械生命体としては喉から手が出るほどの存在ということですね」
「え? 師匠が、そんな特異な存在……まあ、納得できますけどね」
刃を故郷となった星へ送り、ガルガンチュアは、また、あてのないトラブル探しの旅に出る……
その後、殲滅から保護・育成へと行動命令を書き換えられた母艦は刃たちの星へもやってきた。
しかし穏やかな交渉と、その提供するテクノロジーの魅力により、あっという間に機械生命体のファンが出来ることとなる。
「わっかんねーもんだよね、全く。数年前は命がけで戦ってた相手だぜ? 熱狂的なファン集団って……」
刃がこぼす。
「妬くな妬くな、刃。平和が一番なんだよ」
広大が揶揄する。
「広大の言うとおりよ、刃。戦いなんて無い方が良いの。バンボットだって災害救助や惑星開拓に使われる方が本望でしょ?」
恭子の本音である。
「それにしてもなぁ……万丈兄ちゃんは故郷の星を探して翔び立っちゃったし、俺たちゃ防衛隊から災害救助と惑星開拓へ任務変更されちまったし」
刃本人は気づいていないようだが故郷の星に戻る際、クスミよりデータチップの入った箱を渡されていた。
それは今の段階では高度過ぎて使い道のないデータ。
そのデータが使いこなせる状況になった時、それが、この星が宇宙文明へと飛躍する時代の幕を開ける時だ。
宇宙には様々なトラブルがあり、それを解決できるのはガルガンチュアという巨大宇宙船。
今日も宇宙船ガルガンチュアはトラブル解決のためにあっちの銀河こっちの銀河と跳びまわっている……