第四章 銀河団を越えるトラブルバスターの章

第四十一話 新しき世界へ!

 稲葉小僧

あっちこっち飛び回ることになってしまった前回のトラブルシューティング。

大元を修正したため時間がかかってしまったが、とりあえずは平和を手に入れた銀河を後にして、ガルガンチュアは銀河間空間を跳んでいる。


「今回は、やけに時間を取られましたよね、師匠。レジスタンス勢力を支援してRENZ生成装置を与えたのは聞いてましたけど星間連合の懲罰艦隊を退けたのは、どうやったんですか?」


その時にはラプラスの悪魔と異名をもらったらしいが、その手口が想像つかなかった郷は改めて楠見に聞いていた。


「ん? ああ、大艦隊に対して戦いを仕掛けるんじゃなくて、不運の塊に出会ったような目に遭わせてやっただけだよ」


そう言われても方法がわからない郷。詳細が知りたいと更に楠見に詰め寄る。


「郷、郷さん? 近い近い、顔が近い! そんなに詰め寄らなくても大丈夫だって。種を明かせば、あれはナノマシンの仕業だ」


「ナノマシン? 以前の銀河じゃ薬に近い使い方してましたよね? 今回の使い方と、どう違うんです?」


「今回はナノマシンのプログラムを単純にして、そいつを少量づつ艦隊に向けて送り込んでやっただけ。動作は簡単、敵艦に取り付いたら排熱機構から艦内に入り込み、そこで30分に1分間だけランダムに飛び回れって命令を与えただけ。ちなみにナノマシンの導電性もランダムで変えるようにしたよ」


「で? そいつが何で迷惑極まりない不運の塊となったんですか?」


「郷、想像してみたまえ。こいつがあっちこっちの配線ダクト内に入り込み、そこで導体になって飛び回ったらどうなるか? スイッチ類は……」


「あ、ようやく理解できましたよ。原因不明の故障が、あっちこっちで不定期に起こるわけですよね。故障箇所に飛んでいくと、もうなんとも無い……で、30分後には別の部門や部署で故障が多発……これは数日で心が折れますね。さすが、ラプラスの悪魔とは敵ながら言い得て妙です」


武器や防御機器がランダムで動き出したら統制も何もあったもんじゃない。

挙句の果ては推進機まで勝手に動き出す……

大艦隊になればなるほど効果抜群のイタズラだったとは楠見の弁。

郷は、やられた方の司令官が可哀想になってくる。

郷と楠見が語り合っているところへ、ガレリアが早足で歩いてくる。


「主、ちょっと来て欲しい。次の目的地となる銀河なんだが少し気にかかる星がある」


そのガレリアの言い方が気になる楠見。


「気にかかる、とは? ガレリア。特殊な星なのか? それとも、星にあるものが問題とか?」


「星にあるものが問題だ、主。もう少しで目視できる距離まで行けるだろうから、そこで判断して欲しい」


「わかったよ、ガレリア。どういう物体かが確認できなきゃ判断のしようもない」


数時間後、銀河を越えたガルガンチュアは次の銀河の縁へと入りつつあった。

銀河間空間に対して物質密度が高い銀河内空間では速度を落とさざるを得ない。

しかし、その遠距離からでも、その星の異常さは楠見たちの目を奪う。


「ガレリア、アレのことだね、少し前から言ってたのは」


「ああ、そうだ、主。あれは、どう見ても我々と同じ銀河団踏破可能な宇宙船だと思われる。大きさは私と同じクラスで形は楕円形。初期の頃のフロンティアに近いかと思われるがシリコン生命体の巨大宇宙探査船シリーズ10隻のうちの一隻だろうと推測される」


地球型惑星の表面に埋まるような形で落ちている巨大宇宙船。

普通なら、どうやって宇宙へ出そうか迷うのだろうが、そんなことは今のガルガンチュアなら簡単。

なにしろ、あれより巨大な合体宇宙船だから。

エネルギーの規模が違うのでトラクタービームを最大出力まで上げれば掘り出せるとは思う。

ただ、その前に確認が必要だな、と。

宇宙船から離れているだけでマスターが存在しているなら掘り出すだけで済む。

マスターがいないか、それとも亡くなっているのなら、こちらに合流してもらう形にすることも可能。

楠見は、そんなことを思いながら徐々に近づく星と宇宙船の映像を見ていた。

星系外へガルガンチュアを停泊させ、もう慣例となった転送機により、楠見たちは地表に降りる。


「マスター、これは私も見たことのない宇宙船ですね。ただ、こんなものがあっちやこっちの銀河で造られるとも思いませんので、我々と同じシリーズの銀河団探査宇宙船シリーズかと」


「主、私も知らないぞ、この船。しかし、見事に地中深く突っ込んでいるので、これは掘り出すのに少しばかり時間がかかりそうだな」


「まあ、2人共知らないというのは、この船が10隻のうちでも後の方に建造されたからじゃないだろうか。それにしても宇宙空間で見ると大きさが比較できないんだが、地表にあると改めて銀河団探査船シリーズの馬鹿げた大きさが理解できるな……ま、そいつを越えてるフロンティアに至っては何をかいわんや、だけど」


数千キロメートル単位で地表を抉っているにも関わらず、その宇宙船は雲を突き抜けて頂上が見えない。

宇宙空間から見ると成層圏を突き抜けて楕円形の卵のてっぺんが宇宙にあるのが見えている。

ガルガンチュアは、用心に用心を重ねて擱坐した宇宙船の引き上げを行っていた……


「OK! 地殻への影響はなさそうだが、慎重にやってくれ。無理に引き剥がそうとすると、マグマ噴火を誘発しかねん。なんと言っても、これだけの質量が落ちたんだ。昔のビブリオファイルにあったアニメ作品のコロニー落としなどというレベルじゃないからな。恐竜とかいたら絶滅してたかも」


「了解です、我が主。力のベクトル計算は我々に任せてください。徐々に浮き上がるような形でトラクタービーム浴びせてますから」


「分かった、よろしく頼むぞプロフェッサー。エッタ、ライム、郷はどうだ? 各、監視地点での挙動に、おかしな点はないか?」


「ありません、キャプテン」


「特にありませんわ、ご主人様」


「微動は見られますが、おかしな挙動は見えません、師匠」


「よし、そのままサルベージを続けてくれ。それにしても、同じシリーズが2隻も来ているのに、こいつが目覚めることがないのは変だと思わないか?」


「マスター、周囲に対する反応を私やガレリアのようなものと思ってもらっても困ります。私やガレリアが特殊なのであり通常は外の環境が激変でもしない限り、一旦眠りについた人工頭脳が目覚めることは無いです」


「そうすると宇宙へ引き上げてから目覚めさせることになるのか……ま、なんとかなるだろ。今までも何とかやってきたし、な」


惑星環境への影響を極力小さく抑えながら数日間かけてガルガンチュアは巨大宇宙船を惑星上から宇宙空間へ持ち上げる事に成功する。

現在、損傷箇所のチェックを行っているところ……


「マスター、予想通り落ちた時に地表へ突っ込んだ箇所が凹んでます。内部にも相当のダメージがあると予想されますね。まあ、我々には自己修復機能がありますので人工頭脳が目覚めれば大丈夫だとは思いますが」


「そうか。そうすると俺か郷が乗り込んだほうが良いのかな?」


「どちらかと言うとマスターが乗り込んでマスター登録を行い、私やガレリアとドッキングしてもらうのが最善かと思われますが。私も拡張してガレリアだけじゃない宇宙船もドッキング可能となりましたので」


ということで楠見が単独で乗り込むこととなったのだが……


その船は徐々に目覚めようとしていた。

任務遂行作業中、突然、主人となる者が船内より消えてしまい、主機も補機も瞬時に停止して、惑星軌道を維持できなくなって落ちてしまった。

それから、どのくらいの時間が経ったのだろうか。

気がつけば、巨大であるはずの船体は、いつの間にか惑星軌道上にあり、センサーを働かせば、とんでもない質量物体が星系内にいるのが感じられる。

自分も通常の宇宙船とは言えないくらいの巨大さだがセンサーが伝えてくる質量の巨大さは、およそとんでもないものだった。

内在するエネルギー量すら自分の数倍という一種異常とも思える数値。

宇宙船は久しぶりに外の世界に興味を持った。

と同時に自分の船内に有機生命体が存在するとセンサーが伝えてくる。

これは久しぶりに頭脳体を起動しなければ……


「長き時を越えて久方ぶりの訪問者とは、どなたでしょうか?」


彼の頭脳体は数万年ぶりに起動して、お客を迎える。


「やあ、シリコン生命体の探査宇宙船シリーズの一隻に、また会えたわけだ。君で三隻目だよ、よろしくな」


彼は見知らぬ有機生命体に気軽に挨拶されたのも意外なら巨大探査宇宙船シリーズが三隻も同一星系にあるのも意外だった。


「さて、挨拶は終わったな。それじゃ、皆で、これからのことを話し合おうじゃないか、新顔の宇宙船君」


きょとん、としながら話について行けない新顔の宇宙船に対し楠見はクルー全員との会合を提案するのだった……

ここはガルガンチュア船内の特別会議室。

通常は作戦会議室として使われているものを拡張し、久々に全クルーが揃っている。

新顔は惑星に埋まっていた卵型宇宙船の頭脳体。

楠見が音頭を取って話し合いが始まる。


「では、これから三隻目の巨大船との出会いを祝い、そして彼の進む道を決める話し合いを行いたい」


最初に全クルーの紹介を行う。

次に、


「では、君の名を聞きたい。とは言ってもガレリアのように俺達に発音できる名前とは決まってないからなぁ」


「私の名は〜=〜|*+L改、です」


「ああ、やっぱり発音不可能だったか。では、今のマスターは……」


「惑星に落ちる前に消えてしまいました。理由も原因も未だに不明です。あなたたちにサルベージされる前は意識レベルすら最低限度に低下させ、このまま朽ちる覚悟でした」


「では、君の意向を聞きたい。俺達はフロンティアとガレリア、二隻の宇宙船が合体して超巨大宇宙船ガルガンチュアとなっている。主となる合体機構を持つフロンティアには、まだ余裕があるので、君を含めた三隻合体とすることも可能だ。しかし、それには君自身の許可、つまり、俺、楠見糺を複数宇宙船のマスターとして認めることが必要だ。どうするか、君が決めるんだ」


発音不能の宇宙船頭脳体は悩む。

主人を待つのも良いが突然に消えた主人が帰ってくる可能性は極限に低い。

かと言って急に現れた眼の前の人物を主人として認めるのは……


「ひとつ、聞かせて欲しい」


頭脳体は質問を発する。


「何でも聞いてくれ。納得がいったら結論を出せばいい。どういう結論になっても俺達は君の意向に従う」


楠見は答える。


「合体する他に、あなた以外に主人となる方を選び、私は、その主人と共に活動するという選択は? あなたの他に有機生命体は3名いますよね」


それに対し楠見以外の3名はマスター登録に否を返す。

あまりに強力な力を持つことに対し楠見以外の感想は……


「神に近い力と能力を与えられても、うまく使いこなせるかどうか。師匠以外の生命体では、その力に振り回されるのが落ちです。それはシリコン生命体も、宇宙の管理者たちも望まないでしょう」


郷が代表として答える。


「では、私の結論を。楠見糺、あなたを新しい主人としてマスター登録することに同意します。つきましては、私の船名を新しく付けてもらいたいのですが」


ということで、新しい仲間が増えることになった。

新しき仲間は、その船名を「トリスタン」と呼ぶこととなる。

現在、ガルガンチュアのフロンティア部に、トリスタンとの合体部となる円筒を取り付けているところ。

トリスタンには、もう合体機構が増設され、ガルガンチュアとの接続作業を待つだけとなっている。


「それにしても、主。私との合体時よりも、えらく早い工程で合体作業が終わるのだな」


と、あまりに手慣れて早い合体作業に呆れるガレリア。


「ガレリアの時には合体機構を何も持たない宇宙船同士を何とかしようと必死で考えたからな。今回は実績があるから早い。実質、トリスタンに合体機構を増設する工程が一番、手間がかかってる」


と、もう手慣れた様子の楠見とフロンティア。

フロンティアが巨大化したのも幸い、合体部を増やすのに問題はなかった。

3隻が合体したニューガルガンチュアが、その姿をお披露目するのは数ヶ月しかかからなかった……


「私も主人のことを独自の言葉で呼びたいと思う」


というトリスタンの要望により様々な呼び方を提案し、その中で決めてもらう。


「では、私はクスミ様と呼ぶことにする。ちなみに私の担当分野は各種の実験と開発だった。主たる兵装は他の宇宙船と変わらないが主砲が独特だ」


「ふむ、何が変わってるんだ? トリスタン」


「わが主砲は実体弾だ。隕石やデブリを弾丸として、それを電磁加速砲で打ち出す。巨大な実体弾なので少々のバリアやシールドなど問題としない」


また、問題の多いやつが増えたなと頭を抱える楠見だった……


ここは、銀河団の縁近く。

楠見とガルガンチュア改は、これからの進路をどうしようか迷っていた。


「珍しいですね、マスターが迷うとは。銀河団駆動については現在かなりの余裕を持って動かせます。ただし、超銀河団駆動は、まだ少し危険を伴いますね。トリスタンとガレリアと私が合体したことにより一隻のエネルギーに比べて約6倍近くになりました。調整が取れれば約10倍にまで高まると思われますので調整後でしたら超銀河団駆動も安全係数を高くして行けると思われます」


楠見の推測値は最高でも7倍を超えるところまでだったので10倍にまで高まるというのは嬉しい誤算だ。


「フロンティアが基盤になっているからこその誤差修正能力だな。もう少し、この宙域で待つとするか……メッセージを」


「主、メッセージとは?」


「ふふ、ガレリア、その時が来れば分かるさ。トリスタンは経験してないだろうから情報を皆で共有してくれ。フロンティア、情報共有の他にも超銀河団駆動に関する準備も整えておいてくれないか。長旅になるのは間違いないと思うから銀河団駆動も超銀河団駆動も、どちらも可能なくらいに整備していてくれると助かる」


「我が主? 銀河団駆動までなら、もう宇宙の管理者より許可が出ていますから大丈夫でしょうが超銀河団駆動の使用許可は、まだ出ていませんよね。それなのに無理に超銀河団を渡ろうとすれば管理者たちより資格なしとされ、宇宙船も取り上げられて私達は故郷の星へ引き戻されますよ?」


「クスミ様、その宇宙の管理者とは? 銀河団を渡るに許可が必要というのは本当ですか?」


ああ、これだから情報共有が大事なんだ……

楠見は実感する。


「トリスタン、その疑問はすぐに解消される。とりあえず情報共有のため各自のデータを全て共有領域へコピーしろ。全員が全ての情報を共有できたなら次の行動のための話し合いをしよう」


各宇宙船の情報共有が終了したのは数日後。

さすがに新顔のトリスタンにはフロンティアやガレリア、そしてプロフェッサーの持つ情報を取り入れるのに時間がかかった。


「クスミ様、宇宙の管理者という存在があるんですね。そして、その介入行動により私の以前の主人と私は引き離されてしまったと……やはり無理に銀河団駆動の改良版を使おうとしたのが不味かったのでしょうかね」


おや? 

銀河団駆動の改良版と聞いて楠見が興味を持った。


「トリスタン、その、銀河団駆動の改良版とは? 明らかに通常の銀河団駆動とは違うような言い方だな」


「はい、クスミ様。お答えしましょう。銀河団駆動の際のエネルギー消費を抑えることは不可能なので、入力の方を増大させようと、以前の主人が駆動エネルギーを増大させる方法を考えつきました」


「おお、それは私も興味がありますね。改良箇所が有効なものでしたら、我々にも、その恩恵が受けられそうです」


フロンティアも食いつく。

ガレリアも同様、目が輝いている。


「どういう改良点だ? トリスタン。これが有効ならフロンティアやガレリアにも同じ改良を施せば良いと思うが。簡単なものなのか?」


「はい、クスミ様。つまりはエネルギーを取り入れるための口を増やすということです。超空間を介した多次元世界と、この宇宙とのエネルギー差を使って我々は銀河団駆動の主エネルギーとしますが多次元世界との接触口を増やすというアイデアです」


「ん? 理論は理解できるが、そんなことが可能なのか? まあ実際に改良してるんだから可能なんだろうが……フロンティアとガレリアに、その改良を施すとして、どのくらいかかる?」


「マスター、可能です。見落としていましたが、確かに取り入れ口を増やすだけなら比較的簡単に可能です。ただ、そのエネルギー差を受け入れるためには専用の平滑回路が必要となるでしょうが。これを発展させると、いくつもの取り入れ口を作って、通常のエネルギー炉を廃止するのも可能となるかと」


そうか、物質を必要としない永久機関に近いエネルギー炉ができるのか……

大丈夫なんだろうか、そんなもの作って。


「副作用が出てくるかもしれないので実験と理論のすり合わせは確実にやってくれ。その後で問題がなければ三隻ともに拡大改良版の新型エネルギー炉にするとしよう。従来の物質をエネルギーとする変換炉は完全に予備機となるが万が一に際して残しておくとしよう。そのくらいの余裕はあるだろうからな、各宇宙船に」


多次元宇宙からの複数エネルギー取り入れを安定して使えるように、フロンティア、ガレリア、トリスタンの三隻が協力して理論と実験に取り組む事となる。

さすがに扱うエネルギー量が桁違いになるため慎重にならざるをえず、この研究開発には数年かかることとなる。

数年後、見た目こそ変化はないが内部は全く別物となった新・ガルガンチュアが誕生する……


それは、待ちに待っていたメッセージだった。

三隻体制となり巨大な分子模型のような形となったガルガンチュアに、そのメッセージが届く。


《噂の地球人たちよ、良い知らせを持ってきた。ついに、お前たちに対して超銀河団渡航の許可が下りることとなった》


おお! 

と司令室にいる全員が、どよめく。

フロンティアやガレリア、トリスタンは任務目標だった銀河団渡航を超えるものを感じ、もう恍惚に近い状態。


「管理者よ、感謝します。下りることとなった……というのは今すぐに渡航許可が出るという事ではないのですか?」


ただ一人、楠見だけは冷静だ。

言葉を細かいところまで精査し、管理者へ質問している。


《良い質問だ、地球人よ。大体に置いて、お前たちの行動は侵略や攻撃を意図するものではなく宇宙を沈静化し、そこに住む生命体を保護し、安全な宇宙空間を作りあげていくことを中心としているのは分かっている。そこで、だ。仮にではあるが、とあるポイントまでの渡航許可を出すので、そこでの行動により、それ以降の許可を出すかどうかを判断するものとする》


ガルガンチュアの航法コンピュータに、いつの間にか見知らぬ空間ポイントが入力されている。

どうやら、まずは、このポイントまで跳び、それからどうするかにより正式な超銀河団を超える許可を得られるようだ。


「了解しました、管理者。そこに何があろうと我々が為すことに迷いはありませんので見ていてください」


《うむ、その言葉、憶えた。では、そのポイントへ向かうが良い、そこには思いもかけぬものがお前たちを待っているだろう》


何が待っているのかは教えてもらえないらしい。

楠見は、とりあえず行動してみることにした。


「フロンティア、ガレリア、トリスタン、プロフェッサー、エッタ、ライム、郷。三隻の巨大宇宙船が合体した新型ガルガンチュアとクルー8名ってことで、新しい宇宙と銀河団、まあ、これから超銀河団空間へと乗り出すことになるので全く新しい世界と宇宙への旅が待っているわけだ……君らが知っている宇宙とは全く違う生命体や文明が待ち受けているかも知れないが、それでもトラブルに悩んだり生命の危機にある種族があるだろう。我々は全力を持って、そのトラブルや危機を解決・解消してやろうじゃないか! 我々の通った後には悲しみの涙は一滴たりとも流さない世界と宇宙を造り上げていこう!」


おぅ! 

と、全員の声が響く。


「それでは管理者によって入力されている未知のポイントへと出航だ! ガルガンチュア、発進!」


「了解、マスター。ただ、このポイントですと距離的に銀河団駆動でも少し遠いかと……ですので新しく開発された超銀河団駆動の作動テストと調整を行ってから、正式に空間ポイントへ向かいたいと思うのですが、マスターの意向をお聞きします」


「構わないぞ、フロンティア。到着期日や時間制限は無いようだから入念に準備して行こうか」


「分かりました、マスター。それでは超銀河団駆動改良版、テストに入ります」


ゴゴゴゴゴゴゴ……という、低いながら全身に響く音がエンジン室より響き渡ってくる。

星間駆動、恒星間駆動、銀河間駆動などとは比べ物にならない出力のようで、ここまで巨大な宇宙船を振動させるというのは恐らく想像も出来ない巨大なエネルギーが超銀河団駆動装置の中を巡っているのだろう。

超巨大合体宇宙船は特殊なフィールドに包まれ、その巨大な船体からは想像できないほどの加速力と速さで宇宙空間を疾走していく。

まだまだ超銀河団駆動どころか跳躍航法(恒星間から銀河間空間を移動するための一般的なFTL(超光速)航法)すら使っていない。

銀河団駆動も超銀河団駆動も静止状態から使える駆動方法と航法ではないので光速に近い速度まで船体を加速させてやる必要がある。


そろそろ光速の半分に達しようというガルガンチュア。

その纏うフィールドに変化が起きているのを宇宙を細かく観察している存在がいるなら気づいただろう。

それまでは細かい宇宙塵や小惑星のクズなどが衝突するのを防ぐための防御・反発フィールドが展開されており、それは基本的に透明。

宇宙塵などの細かい衝突時には部分的に小さな光が灯るが、そういう変化とは根本的に違う。

フィールドが拡張され数倍になったと同時に、虹色のような輝きが内部から。

徐々に船体が透明になったように見え、見るものには「虹色の輝きだけが宇宙を疾駆していく」ようにも見える。


そして、もう一段階の変化が。

透明になった船体に続き、フィールドそのものも薄れていく……

徐々に薄くなっていくフィールドは、ある時、ふっと消え去る。

この宇宙と完全に切り離された状況にあって、ガルガンチュアは……

実は超空間には突入していない。

回りを超空間に囲まれているが、ガルガンチュアそのものは通常の宇宙空間に留まっている。

超空間には何物も存在することは出来ないので、その反発力を利用するのが跳躍航法。

言い換えると、ガルガンチュアは常に超空間に突入しようとしている状況にあるようなもの。

一瞬で通常空間に吐き出される跳躍航法と違って超空間の反発力を常に受けているようなもので、その状態から何と加速も減速も可能。

これもトリスタンから最新テクノロジーを提供してもらったがゆえに可能となった。

ガルガンチュアは計測することすら無謀な速度で銀河団空間を疾走していく。

これで試験航行……

ガルガンチュアは、どこまで進化するのだろうか……


三次元宇宙と超空間の、どちらでもない位置にある超巨大合体宇宙船ガルガンチュアは元いた銀河団を跳び出し、ほとんど何もない空間を疾走していた。

それは数秒間で跳躍航法一回の最大跳躍距離に匹敵するくらいの距離を跳ぶようなもの。


「マスター、最低速度での慣らし運転が完了しましたので、これより巡航速度まで加速します。徐々に加速していきますが急激な停止もあり得ますので、ご注意ください」


「フロンティア、今までが最低速度だって? 超銀河団駆動の改良版って巡航速度はどこまで行くんだ?」


「さあ? 理論的には光速の一億倍を超える速度も出せるようですが……さすがに今は無理だと思われます。現在はテストも兼ねていますので、それ以下の速度が目標値となります。目標として設定しているのは一千万光速ですね」



一千万光速か……

途轍もないレベルになってきたな、この船。

もしかしたら……

楠見は、ちょっと聞いてみることにする。


「フロンティア、ちょっと聞きたいんだが。今、当面は1千万光速と言ってたが本来の巡航速度と最高速度は、そんなものじゃないんだろう? これが実現できたのって、もしかしてトリスタンの合体が関係してるのか?」


「さすがマスター、あえて言いませんでしたが、その通り合体して3隻体制になったことにより通常航行機関・バリア/シールド機関・超空間航行機関と別部門のように分業体制が整ったのです。これで超銀河団駆動も安定して動くようになりました」


「ちょっと待てよ……そうすると、これ以上の四隻や五隻になると最高速度や巡航速度が上がるってことか?!」


「そういうことです、マスター。例えば理想として十隻合体になったとすれば、多分ですが超銀河団を超える距離すら股にかけることも可能になるかと……ただし、それを可能とするには、いくつもの技術的、理論的なブレークスルーが必要となるでしょうが」


あまりのことに自分の想像力すら置いてけぼりになりそうだったので、あわてて現実に戻る楠見。


「そうか……シリコン生命体は、こんなことも計画に入れていたんだろうか?」


「いいえ、さすがに、それはないと思われます。大体、衛星サイズの宇宙船を合体させるアイデアなどマスター以外の誰が思いつけると? 我々は本来、一隻で完結している宇宙船なのです」


指摘されて、改めて、このクラスの宇宙船を合体させるというアイデアが途轍もないものだったと我ながら思う楠見。

まあしかし、こうやって異文化や異文明が出会うことが生命体や宇宙の進化という現象に繋がっていくのかもな……

などと思うのだった。

それから数日間、ガルガンチュアは超銀河団駆動の安定化と更なる速度向上のため、まだまだ必要な様々なテストと調整を行っていた。

楠見の感覚では、もう及びもつかない次元の速度なのでフロンティア代表の宇宙船達に任せっぱなしである。

で、楠見やプロフェッサー達が何やってたのかと言うと……


「この装備、人類型生命体には使いやすいでしょうが他の生命体では……いかがでしょうか我が主、この際、救助装備も我が主のガジェットの付帯装備も郷のマイクロマシン注射も含めて全ての船内装備を更新してしまいましょう。時間と資源は今までの航海とトラブル解決によるお礼とで、もう使い切れないほど蓄積されてますので」


「はいはーい! 私、私の変身能力を最大限に活かせる装備やガジェットが欲しいです! キャプテンや郷さんの活躍ばかり目立ってて私の活躍する場がないのが悔しいです、ですから、私専用の装備が欲しい!」


「ふむ、そうだな。不定形生命体の利点、変身能力を、より使いこなせるように補助する装備なら面白いかも……皆で考えてみるか。装備も一新するんだ、ライムだけじゃなくエッタも欲しい装備のアイデアがあるなら言ってくれよ」


「分かりました、ご主人様。少しばかり温めてましたアイデアがありますので、それをご提供します」


「そうすると、後はプロフェッサーなんだが……装備とか欲しいものが有るか? プロフェッサー」


「私は別に……このフロンティア製ボディですが、けっこう性能が良いものですから。宇宙ヨットに組み込まれてた時を思えば今は天国ですね」


「宇宙ヨットのことを思えば天国とはね……俺は、その宇宙ヨットに組み込まれてたプロフェッサーのおかげで人生どころか運命と言えるものまで変わっちまったんだけどね」


「おや? 我が主。人生が大きく変わってご不満でも?」


「不満はないよ、プロフェッサー。まあ、あのまま平凡な一人のエンジニアとして生涯を過ごすのも悪くないかな? と、ふと思ったまでさ。今が波乱万丈なんでね、その波乱万丈な人生の大元を作ってくれたお方に一言だけ言いたいことはあるが……それは俺が死ぬときにでも言うかな?」


「それそれは。我が主の遺言を聞きたくはないですね……ふふ……」


ははは、わははははははははは! 

と、二人の笑い声が響く……


そこにあるのは見た目にも破壊跡と見られるものが、そこここにある巨大な廃棄宇宙船……

の、ように見える物だった。

外からの破壊痕ではない。

明らかに中からの衝撃波でエアロックや搭載艇入出口シャッター等が破壊されたようだ。

よほど大きな爆発か衝撃だったのだろう、その破壊痕は船体の半分ほどにも及んでいた。

エネルギーの流れは途絶えているようだ。

ん? 

船体表面に動くものが見える。

宇宙船は動く様子もないのに何だろうか? 

近寄ってみよう。

生命体だ。

しかし、廃船と化した巨大宇宙船に何の目的で未知の生命体がいるのか? 

巨大宇宙船に接舷しているのは彼らの宇宙船か? 

しかし明らかに跳躍航法までのエンジンしか積んでいない文明だ。

このような超銀河団間のポイントに来られるような技術力の高さは感じない。

このレベルだと自分の銀河系までなら縦横無尽に跳べるだろうが銀河団を超えることも無理だろう。

かなり無理をすれば銀河を超えるのは可能……

というところか。


しばらく生命体たちの活動の様子を見てみよう。

表面を調査しつつ宇宙船の破壊口から船内へも入り込んでいるようだ。

接舷している(巨大宇宙船との比較で)小型宇宙船は、その数三隻。

乗員は兵隊も含めて一隻あたりで50名ほどか。

それにしては調査に出ている人数が少ない。

これは接舷してからの時間が短いためか? 


長期調査を終えたなら巨大宇宙船に移乗して、そこで臨時の司令部を設営するほうが理にかなっている。

もう少し宇宙船に接近してみよう。

宇宙での通信は無線のようだ。

テレパシーとかのESP要素は無いと思われる。

近距離では通常の無線通信を使い、惑星間以上の距離では超空間通信を使うのかも知れない。

それとも無線通信は通常空間のみで、それで時間がかかるようなら連絡艇などで文書をやり取りするのだろうか? 

とりあえず現状では通常空間での無線交信しか聞こえてこない。

調査団の様子を見てみよう。

彼らは完全に音声会話が主の種族のようだ(ちなみに会話は種族独自のものだが都合上、翻訳しているのであしからず)


「EE789、未知宇宙船の調査は完了したか?」


艦長、または艦長に類する上位者の質問である。

調査隊の隊長と思われる個体が、それに返答する。


「イエッサー! 副長殿。調査は未だ巨大宇宙船の1%も完了しておりません。ともかく、こいつは大きすぎます! 乗員全てで調査に出たとしても一年かけても全ての区画は調査できないでしょう。しかし今の状況でも分かったことがあります!」


「ほう、何だね?」


「この宇宙船はエネルギー的に死んでいます。通路照明も消えたままですしドアの開閉も不可。これはドア開閉システムへのエネルギー供給が断たれていると思われます。空調システムも停止して長いようですし、他の区画、エンジン室近くへ入って調査している部隊もエンジン音すら聞こえないと報告してきています。これは利用するにしても巨大小惑星のような使い方を考えないとダメですね。エネルギー補給や、破損箇所を修理して再始動などという計画は今の状況では無理だと提案します」


「そうか……調査、ご苦労だった。それぞれの船に戻ってくれ。調査任務は終了とする」


「はっ! 了解です。では、船内調査を終了し、戻ります!」


はぁ……

副長と呼ばれた生命体は、ため息をつく(そのような行動を取った、ということ)

彼は、自分たちは、つくづく運がないと感じていた。

それもこれも、あの船長のせいだ……

副長は、そう思った。

そもそも、この宇宙探索任務は最初からケチがついていた。

あのクソッタレが自分の趣味に走った宇宙船カスタムなど提督に進言するから、このような事態に陥ったのだ。

宇宙船を三隻構成で探査に送り出したのは良かったと思うが三隻共にクソッタレカスタムだったのが裏目に出た。

船体に比べ跳躍航法用エンジンが通常に比べて馬鹿でかい、完全にパワー特化の宇宙船。

それが三隻、集団となって跳躍してしまい、こんな事になっている。


科学班の分析と調査報告では、あまりに大きなエンジン出力で通常空間を歪めたため、超空間突入時に小さな歪曲空間のようなものが瞬間的に出来たのではないかと書かれていた。

通常宇宙船一隻だけなら到底、起きるはずのない現象が、バカみたいな大出力エンジンを三隻分、最大出力で回した結果、起きてほしくない偶然を引き起こしてしまったということだろう。

エネルギー余力は充分にあるが、あの現象を起こすほど全開には出来ない。

かと言って、どこかで停泊してエンジン関係含めて完全なオーバーホールでもしなければ、どこに過負荷がかかっているか分かったもんじゃない。

この巨大宇宙船を見つけたときには飛び上がるほどに嬉しかったがエネルギー的に死んでいる船だと? 

どうすれば良いというのだ?! 

我々に故郷の星へ帰る運命は無いということなのだろうか? 

副長は運命を呪いたくなった。

と同時に、神という存在があるのなら魂すら捧げても良いから救ってほしいと心から願う……

副長は、やれやれと思いながらも船長への報告に向かう。


「船長、船内調査が終了しましたので報告に参りました」


メインブリッジへ入ると、さっそく副長は報告にうつる。


「船内調査終了部分は巨大船の、およそ1%あまりですがエンジンルームや居住区と思われる箇所を重点的に調査しましたところ、どこにもエネルギーの流れがありませんとの報告がありました。重要部にエネルギーが供給されていないということは、この船はエネルギー的に死んでいる、廃船であろうと結論づけます」


船長は、それを聞いて明らかに落ち込んでいる。

副長は、それを見て……

あ、こいつ致命的に管理職に向いてないわ……

と感想を。


「副長、希望が断たれたな。これほどの巨大船だから、たとえ一部でも動力部が生きていればエネルギー補給が可能だろうと思ったが、これでは巨大な金属の塊にしか過ぎないわけだ。最初の周辺調査でも判明したように、この船の金属は切断も粉末化も不可能なくらい硬い。これが、こんな宙域にあるんじゃなくて、もっと我が銀河の近くにあればな……新しい金属資源として活用することもできたんだろうが、今の状態では基地にも出来ず、かといって、こちらからエネルギー供給を行うにも相手が巨大すぎる。何か、この状況を打開する策はないか?」


船長の言葉は特に副長だけ向けられたものではない。

この、動くに動けぬ状況を何とかしたいと思うのは誰しも同じ。

しかし、一か八かの賭けに出るにも、あまりに超長距離を跳びすぎた。

事故時と同じ現象を再現しようとすれば今度は確実にエンジンか船体が故障する。

いや、故障なら、まだいい。

下手をすると重要部品の疲労が原因で宇宙船が爆発しても不思議じゃない。

だから何処へ向かうにしろ完全なオーバーホール作業を行わないと宇宙船そのものを跳ばせる状態に入れない。


「食料含めた消耗品のことなら、まだまだ数年間の余裕はあるので当面は何の心配もないでしょう。ただし、宇宙船本体が超空間に入れるかと言うと、それは絶対に止めたほうが良いと進言できます。まあ、そうなると、じわじわと真綿で首を絞めるようなものですから、いつかは船ごと全滅ですが」


副長は船長の口からは絶対に言えない言葉を口にする。

船長が、これを口にしてしまうと最後の言葉となりかねない……

後は自爆命令くらいしか言えなくなる。


「そうか……副長、すまない。君が間違っても通常なら言わない台詞を言わせてしまった」


「いいえ、船長、これは副長の義務です。ただ、これを口にする場合は乗員全ての票を取り、どうするか多数決としなければいけませんが……」


「ん、それは分かっている。副長、医療部門長を呼び出して評決に入るように言ってくれ。まあ、最後の決断は俺になるんだが……辛いもんだな……」


「分かりました。船長、この時ですので謝罪しておきます。この状況を引き起こしたのは私は船長が原因だと思っておりました」


「え? ああ、この三隻の不格好なエンジン部のことか? これはなぁ……新型エンジンなんだ。新型船だと言われて俺も最初は喜んでいたんだが、やっぱりモルモットになっちまったな、俺達が」


「では、船長が提案したカスタム船ではないと?」


「違う。宇宙軍の技術部が考案した最新型のエンジンなんだそうだ。若干の不安はあったんだが准将が大丈夫だと言い切ったんで俺も信用してた。まあ考えてみりゃ軍の技術部のエリートたちなんてものは現場のことは考えないトンデモ野郎ばっかしだったんだよなぁ……俺達は貧乏クジを引いたってことだ」


最後の最後で船長と副長の友情と信頼も回復したが、そんなもので破滅の運命が回避できるはずもなく……

数時間後。


「投票と開票、集計が終わりました。白紙3名、有効票187名。結果は圧倒的多数で、最後まで足掻く、となりました」


「そうか……ありがとう、副長、ドクター。では、これから三隻揃って這ってでも生き延びてやることにしよう。そして故郷の星に帰って将軍を含めた将官と、いけ好かないエリート技術部の士官たちを各自でぶん殴ってやるとしようじゃないか!」


おおーっ! 

あちこちから歓声が上がる。

これから確率的には最低の部類になるサバイバルに入る。

食料供給は最低になり、保たせることが最優先。

水や空気は再生システムが完璧に働いているために節約は考えなくていいが、食料はそうもいかない。

技術班と航行班、科学班は協力して少しでも船体のメンテナンス作業を行っていく。

だからといって完全オーバーホールが必要なのは分かっている……

が、その作業を行うためのドックも資材もエネルギーもないが。

過酷な運命に抗い、数ヶ月が過ぎる。

食料は最低限にしているとは言え消費していることに変わりはない。

備蓄が目に見えて減っていくのは見てて気持ちの良いものではない……

それでも何かに縋るかのように全乗員は望みを捨てず、黙々と日常の作業をこなしていく……

事故から一年が過ぎようとしていた時……

不意に、それが現れた。


「船長、副長。こちら通信・探査班です! 近傍の宇宙空間に突然、巨大な物体が出現しました! 宇宙船? だと思われますが、あまりに巨大です! こちらが接舷している巨大船の数倍の大きさの物……それが3つ合体している? 私が支離滅裂なことを言っているのは自覚していますが目に見えているのは、この言葉通りの事実です!」


運命が急転していくポイントだった……

船長、副長は船団を代表して超巨大合体宇宙船(? )と交渉を行うこととする。


「通信班、向こうと連絡を取ってくれ。画像は送受可能か?」


「船長、副長、こちら通信班。姿が確認できた直後から通信波で呼びかけていますが何の応答もありません。どうやら何かのバリアフィールドを展開しているようで、それが電波を通さないのかも知れません」


「こちらブリッジ、状況確認した。それでは光の点滅周期をランダムで変えてみよう。相手が気づけば向こうから何らかの合図を送ってくるだろう」


「こちら通信班、了解です。光の明滅でのコミュニケーションですと、ちょっと心当たりがありますので実行してみます。他の光信号を送らないように、こちら以外は全ての観測窓にシェードかけてください」


「こちらブリッジ、了解した。副長、他の部門や個室へ連絡して観測窓から光が漏れないように徹底してくれ」


数十分後、三隻の中央から眩いばかりの探照灯が超巨大合体宇宙船へと向けられる。

長く照らしたり、短く照らしたり、消灯したり。

地球文明なら、さしずめモールス信号と言ったところだろう。

ただしモールス信号とは全く違う。

元々の言語も違えば星どころか銀河、銀河団すら違う全くの異文明同士のコミュニケーション。

まずは相手に気づいてもらうための意思表示だ。

果たして……


〈〈巨大船に接触している三隻の宇宙船団の方たちへ、ご挨拶しよう。君たちの意思表示は受け取った。こちらは試験的な超銀河団航法と新型エンジンの試験中のために防御フィールドを多重化して張り巡らしていたので君たちからの電波通信を受け取ることが不可能だった。すまない、こちらの手落ちだった。これは電波ではなくテレパシー波での呼びかけだ。大多数の生命体が受信できるレベルで送っているが君たちがESP能力を持っているとは限らないので、この後、電波での通信を行う〉〉


「こちら宇宙船ガルガンチュア、未知文明の宇宙船団へ。よくぞ、この超銀河団間宇宙空間へと来られたな。敬服する、こちらが準備に、どれだけかかったことやら……」


超巨大船からのテレパシー波に続いて通常の通信も来るようになった。

船長は通信班へ電波でのコミュニケーションをとるようにと指示する。


「船長、あのテレパシー波は非常に強力なものでした。私にも少しばかりESP能力はありますが、あのように強力なテレパシー波は送ることなど出来ません。あれに乗っているものは途轍もない力を持っていると思ったほうが良さそうです。このポイントへも自分たちの船のエンジンで来たようですし、どこまでの科学力と技術力があるのかも全く見えません」


「ああ、分かった、副長。しかし、俺達は宇宙船のエンジン暴走によるエネルギー事故で跳ばされてきた口だが、あっちは自力で跳んできたと……どれだけのエネルギーを制御しているのか恐ろしくもある。俺達の文明が、ああいった宇宙船? を作り上げるのは、いつの未来だろうな?」


「さあ? そもそも、それを建造できるだけの文明段階に到達できるのかどうかも不明ですね」


「そうだな……好戦的な生命体じゃないことを祈ろうじゃないか」


と、若干ではあるが不安もありつつ、通信からリアルな会談へと話は進む。


「三隻とも、こちらへ来ると良い。こっちでなら船体やエンジンのオーバーホールも可能だし、いっそのこと、あたらしい宇宙艇をあげても良い。その巨大宇宙船じゃ、オーバーホールどころじゃないだろう」


待ってましたとばかりエネルギー的に死んでいると判明した廃船から離れ三隻の宇宙船団はガルガンチュアへ向かう。

近くまで寄り、どこへ着陸(? )すれば良いのかと思案していると……


「では搭載艇の入出口を開けるので、そこから船内へと入ってくれ。駐機場も固定具も自動なので君たちがやることは何もない。全てのレバーから手を離してくれれば後は任せてくれ」


これでも一隻あたりの全長は500mを超えるがガルガンチュアと比べることは無理だ。

まるで高価なおもちゃを扱うように三隻の宇宙船団はガルガンチュアに収容され駐機場に固定されて、すぐさまオーバーホール含むメンテナンスに回される。

船長以下、全ての乗員が船を下りるのを待ちかねていたように整備ロボットがワラワラと集まり、船体やメインエンジンのチェックに入る。


「やあ、はじめまして、異種族船団の船長さん。俺は、はるか遠い銀河団の銀河系というところからやってきたクスミという。それにしても……驚いたね、君たちはサイボーグなのか?」


副長が代わりに返答する。


「はい、ミスタークスミ。我々は過酷な環境でも生き抜けるように体の一部を機械体としたサイボーグ種族です。このおかげで宇宙空間に放り出されても数分間は生存可能なほどですが。あ、ちなみに他の種族の方たちからよく質問されるので答えておきますがサイボーグ化したからと言って種族が一つの意志にまとまっているわけじゃありません。個性があるからこそ、この宇宙では生き延びる確率が高いですからね」


「ほう、そうですか。ひとつになれー、とか言って強制的にサイバーネットワークへ参加するように他種族を侵略する種族じゃなくて良かった」


船長も一言。


「それ、よく言われるんですよねー。我々に、そんな意志はないんですが。風評被害も極まってます!」


双方、笑顔で談笑という事に落ち着く。

数時間後……


「船長、三隻ともオーバーホール完了しましたが……ちょっと厄介なことが……」


「どうしました、ミスタークスミ? 何か不良箇所でも見つかりましたか?」


「はい、不良箇所と言うか何と言うか……チェックリストの方を見てください」


こういう方面が得意な副長。

ざっとテェックリストを見るが……

顔色がさっと暗くなる。


「ミスタークスミ、最悪ですね、これは。メインエネルギー炉のエンジン部へ接続されるパイプ部に微少亀裂発見ですか……これは予備が無いです」


メインパイプなどは通常、一番頑丈に作られる。

亀裂やヒビなど入るように設計されていないのだが……


「やはり、あの超跳躍事故が原因だな。設計より大きなエネルギーが発生して、そいつがメインパイプを逆流でもしたか?」


船長の推測に、


「はい、船長。恐らくですが原因はそれだと思われます。通常航行なら心配ありませんが、このままでは数回、跳躍航法を実施するとメインパイプが裂けて船体が爆発しますね」


乗員の顔色が、みるみる暗くなる。

クスミは、それを見て、軽く、


「なんだ、そんなことですか。それでは、こちらで宇宙船を用意しましょう。それを使えば良いです」


「はい?! いとも簡単に言うが宇宙船だぞ?」


「ミスタークスミ、日用品を貸し借りするんじゃなくて今は宇宙船をどうしようかという話をしてるんですが?」


「そうですよ、船長、副長。あなたたちの宇宙船が使えないのなら、こっちの搭載艇、大きさは直径500mくらいのものなら良いかな? それを三隻、お譲りしますので。あなたたちの文明程度なら跳躍航法もエンジンも、装備は全て使えるはずです」


空いた口が塞がらなかった船長と副長。

数日後、贈られた搭載艇の操縦訓練も終了し、故郷の星に帰れることとなった。


「あ、さすがに三隻の搭載艇だけじゃ近くの銀河団へ向かうのも大変だろうから、ガルガンチュアで故郷銀河まで送っていこう。なーに、エンジンの試験も兼ねてるから遠慮しないで」


と、いかにも軽く、ちょいとそこまで感覚でサイボーグ種族たちを送っていくガルガンチュア。

ポイントは記憶しているので、また来れば良いだけ……

楠見の感覚的に……


ここは、あの三隻の宇宙船団の故郷星系。

全く未知の宇宙船、それも巨大と言うにも愚かと言うほどの惑星規模宇宙船一隻と衛星規模宇宙船二隻が合体しているという、一度見たら二度と忘れられないだろう規模の宇宙船が星系外より接近中という報告を受けた宇宙軍の参謀本部では最初、


「断固として迎撃するべし!」


などという現場を全く知らない大馬鹿参謀達が攻撃隊を結成する一歩寸前まで行った。

しかし、さすがに参謀本部の決定に現場の本隊を預かる司令長官及び、各宇宙艦艦長・副長から猛烈な反対意見が出る。


「参謀達に常識とか戦力差を冷静に考える頭があるのか?! 宇宙軍の最大艦船である最新型の巨大空母でも全長1kmが、やっとなんだぞ。相手は惑星規模と衛星規模の宇宙要塞が合体して一つになったような代物。それこそ小エビの大群が巨大クジラに歯向かうようなもの……一気に食べられておしまいだ、絶対に敵対行動を取っちゃいかん!」


最終的に司令長官の一喝で出迎え用の小規模艦隊が結成され、未知の超巨大合体船に対応することとなる。


「向こうが好戦的な宇宙人だったら俺達は一瞬にして宇宙塵だな……」


出迎え艦隊の指揮官に任命された少将が、手に汗にじませながら呟く。

幸いにして超巨大船は星系に侵入するようなことはなく、星系外に停止している。


しばらくすると、その巨大な船体表面に小さな(全体に比して小さいだけ。実際には1km近い口径のある円形)ハッチが開き、そこから小型艇が出てくる。

その数、三隻。

一年ほど前に新型宇宙船のテスト飛行で事故を起こし、行方不明になった三隻の船団とは違い、こちらは完全な球形船。

直径が500mの球形宇宙船など今まで見たことも聞いたこともない宇宙艦隊は、その三隻が自分たちに向かって近づいてくるのだと分かると、ちょっとしたパニックになる。


「)&$%$$’&……あ、あー、ようやく以前の宇宙艦隊用秘話コードを思い出しました。聞こえますか? 宇宙艦隊からの出迎え、ご苦労様です。事故から一年以上かかりましたが、ようやく帰ってきましたよ! ちなみに、以前の宇宙船は使用不能なので新しい中型搭載艇を貰ってきました。宇宙港まで案内願います」


逃げるか、それとも迎え撃つかと判断に迷っていた少将は、眼前の未知宇宙船三隻が事故で宇宙の迷子となっていた船団だと確信すると慌てて友好度をMAXにして宇宙港への案内を務める。


「アルス船長、スーポッ卜副長、あの事故から、よくぞ生きて戻ってきてくれた! 乗員も欠けることなく無事だそうで、もう宇宙軍そのものが躁状態、お祭り騒ぎだ。それにしても、あの未知の球形宇宙船は何なんだ? あれを超巨大宇宙要塞? から分捕って来たのかね?」


宇宙空港に着陸した後、帰還報告のために船長と副長は宇宙艦隊本部を訪れている。

本部長や司令長官らの祝いを受けた後に船長は相手の疑問に答える。


「長い苦渋に満ちた時間でした。あの超巨大船ガルガンチュアが現れてくれなかったら我々が今ここにいることは出来なかったでしょう。そして、あの球形船ですが、あれはガルガンチュアのマスター、あの超巨大船の最高指揮官であるミスタークスミに貰ったのです。ちなみに、あの船、我が宇宙艦隊の、どの船よりも優秀ですよ」


船長、副長にとっては当たり前の事実だったが、もちろん他の士官達には信じられない。

この後、数ヶ月に渡って多様な宇宙艦隊の船との比較テストを行い……

結局、中型艦以下の全てを球形船と入れ替える方が良いという結論になる。

ちなみに球形にならなかったのは戦艦と空母のみ。

ガルガンチュア(特にクスミ対象で)には、ぜひとも歓迎と感謝を述べたいので惑星へ降りて欲しいと再三に渡って通信を送ったが、


「そういうことは全てご辞退しております、どこの銀河においても……」


と、固辞される。

無事に故郷へ三隻共帰り着いたと判断するとガルガンチュアは星系を出ると宣言し、超銀河団間空間の特定ポイントへ。



あの、神が与えたもうた奇跡のような事故と邂逅と故郷への帰還から20年後……

新型球形艦、直径800mの真新しい船体を見ながら元宇宙軍大佐にして現在はTTK851アルス中将となった人物が、感慨深く、隣の人物へ。


「我々の運命は、この球形艦によって劇的に変わった。それまでは敵対的勢力との小競り合いや開拓団の護衛などでの武力行使中心だった宇宙軍は球形艦が中心になるにつれて、その役目を変えていった……」


「そうですね。現在の宇宙軍は援助と救助活動が主たる任務になっています。それもこれも、あのガルガンチュアから貰った球形船に積まれていた装備が全て救助と救援活動に特化したものだったからです。役目は特化していますが異星の開拓にも転用しうる簡易型のパワーローダーと強化外骨格とか、あの装備類で我々宇宙軍は宇宙救助隊と化してしまいました。数年後には宇宙軍の名称すら宇宙救助隊と変わるでしょう」


中将に返答したのは少佐から大佐へと昇進した元副長、アーノルド・スーポット。

この新型宇宙艦はスーポット大佐が艦長となる。


「将官に昇進するんじゃなかったな……俺は船の中で死ぬつもりだったんだ」


「中将閣下……実は、そのことで良い話がありまして……ちょいとお耳を拝借できますか?」


「何だね? どうせ新型船の高性能ぶりを披露しようと……何?! そうか! その手があったか!」


数時間後、大佐と中将閣下の姿は司令部にも参謀本部にも見当たらなかった……

ここは今にも発進しようとする新型宇宙艦。


「発進準備完了だな、艦長。俺のことは心配しなくていい。本部長あてに書き置きを残してきたし正式な命令書もある……俺が俺宛に書いた命令書だ」


「提督、私を巻き込むのは止めていただけますか? ちょっとアドバイスしたら、すぐに実行するんだから、この人は……」


「ん? 何か言ったか? それよりも早く発進指令を! 本部長が直々で命令取り消しに来たら大変だ」


「だから早めにやってますでしょうが……ん、発進準備完了、進路、オールクリア! 新型宇宙艦GFB101、目標、星震をまともに食らって被害甚大の星域029。発進せよ!」


10Gを超える発進加速だが乗員に全く影響はない。

ぐんぐんと新型艦は加速し、光速の70%ほどになったところで超空間へ。

過去の艦艇と違い、あまりにスムーズな跳躍に乗員全てが驚く……

いや最初に貰った球形船を憶えている者は、よくぞこれほどまでに異星の技術を再現した! 

と感嘆する。

宇宙船ドックからは次の発進を待つ新型艦が艤装作業の終了を待っている……

今日も宇宙は騒がしくも平和だ。


また、超銀河団間空間の廃棄船ポイントへ戻ってきたガルガンチュア。


「さて、これからが本当の意味で管理者より言われたトラブルシューティングだ。ではロボット船の3人組は当該船の修理とシステム復旧作業に当たってくれ。でも俺の直感では、あの船、本当の意味での廃船では無い気がする」


楠見の指令によりフロンティア、ガレリア、トリスタンの頭脳端末と所属する万能工作ロボットたちは廃棄された巨大宇宙船へ向かう。

数時間後、頭脳端末の捜索とメインコンピュータの復旧を担当するフロンティアより状況報告が入る。


「マスター、やはりマスターの直感通り、この船のメインコンピュータは本当の意味では壊れたりエネルギー不足によるシャットダウン状態にはなっていませんでした。ただし、随分と深いレベルで相当な長期間のスリープ状態にあるようで目覚めさせるのに苦労しそうです」


エンジン部はトリスタン、武装と防御その他各部についてはガレリアが担当しているが、そちらについては破損箇所が多いが修理不能ではないと報告が上がってくる。

楠見はプロフェッサーと相談する。


「どう思う、プロフェッサー? この船、事故で以前のマスターを失ってからスリープ状態に入り、そのまま長いこと眠りについてしまっているらしい。眠りを覚ます方法で思いつくことはないか?」


「そうですね、我が主。個人的には私や他の3名と同じロボット船ですので新しいマスターとして我が主が頭脳端末に呼びかけることで目覚めそうな気はしますが……ただ、この破損状況からして以前のマスターを失った状況が、かなり悲惨な事故だったのではないかと。ロボットやアンドロイドも人類ほどじゃありませんが感情と意識を持ちますので最悪の状況を考えると、その事故のトラウマを刺激しかねませんが」


「うむ、その可能性は高いだろう。深いスリープに入ったのも、そのトラウマから逃げたかったからかも知れないな。しかし、それではシリコン生命体が、その当時の文明の全てを注ぎ込んで造り上げた10隻の芸術品とも言える銀河団探査船シリーズの意味がないと思わないか?」


「それは私では何とも答えようがありません。私の過去も、まかり間違っていれば今頃はスペースドックのジャンクヤード行き。解体品倉庫の片隅で眠っている人工頭脳パーツとなっている現在になっていてもおかしくないんですから」


「それは……そうか、そうだったな。特殊作戦用仮装駆逐艦が大元だったか。ではプロフェッサーは、このまま眠らせておくべきだと思うか?」


「いえ、ただ眠っているだけでしたら、この船の存在意義がありません。さっきの意見と反するようですが私は巨大探査船シリーズとして使用されることが、この船が一番望むことではないかと思います」


こいつも色々と複雑だな……

そういうトラウマを抱えてると言う点ではプロフェッサーのほうが心の傷は大きいかも……

楠見は、そう思う。


「では各部の修理が軌道に乗った時点で、この船を起こすとしよう。フロンティア、一応、四隻合体となるのも予想しておいてくれないか」


了解しました、マスター! 

と、フロンティアから返事が来る。

作業が進むと内破した箇所は多いが、大半の箇所は小さな損害だったと分かってくる。

問題は……


「やはり、メインエンジンブロックか。トリスタン、修理目標を聞かせてくれ」


「はい、クスミ様。メインエンジンの破損原因は私と同じような改造を施したからだと推論されます。私が研究・開発を専門としているのに比べ、この船は宇宙空間の構造を調査するという特殊任務に就いていたようで、その調査の延長線上に超銀河団間空間を調査するという任務に至ったと思われます」


「ん、大体のことは理解できた。しかし、よく管理者が超銀河団を渡る許可など出したな」


「そのことですが、マスター。どうも、この船は超銀河団を渡ることが目的じゃなかったようでして……」


「え? もしかして、超銀河団間空間そのものの調査が目的だったってことか?」


「どうも、そのようですね。スリープするまでのログが残っていましたので確認したら、銀河団を少しづつ抜けて、このポイントまで来たようです。以前のマスターがシリコン生命体だったようで、じっくりじっくりと調査しながら超銀河団空間へ来てしまったようです。で、銀河団へ帰還しようとしてメインエンジンを改造し……」


「すると何か? 研究対象を、あっちこっちと長いことうろついてたら、あまりに人里(銀河団・超銀河団含む)と離れた何もない場所に来ちゃったんで早く帰ろうと細工してたら、その細工に問題があってメインエンジンが一部、吹っ飛んだと言うことか?」


「ええ、マスター、そのようです。これがマスターのような有機生命体のマスターだったら絶対にありえない事故ですね。ちなみにこの船、もとの銀河団の端から数万年かけて、このポイントへ来たようです」


「まぁったく、シリコン生命体ってやつは、どれだけ気の長いやつが揃ってるんだろうな。まあ、岩だと思えば数万年もあり得るか……」


メインエンジンの修理にかかるには、もう少し掛かりそうだというトリスタンの意見。

楠見は、どうせならトリスタン仕様のエンジンにしてやれば事故も起きにくいだろうと判断し、修理ついでに改造も取り掛かるのだった……

巨大船の目覚めは、もう少しかかりそうだ。


その船は、長い長い眠りの中から目覚めようとしていた……


”私は、どうしたのだろうか? マスターがエンジン爆発事故で船内から宇宙へ吸い出されてしまった時、何も出来ない無力な自分を呪いつつ、永遠にもなろうかという眠りについたはず。

あれから、どのくらい経ったのか……

メインエンジンが破損してしまい、自分の巨体を超空間へ運ぶためのエネルギーも使えなくなった今、何の因果か目覚めてしまった……

ん? 

そうだ、どうして目覚めた、私は! 

メインエンジンが破損して、それを修理・再起動できる権限をもつマスターがいないのに我が眠りが破られるわけがない。

久々に外界を認識してみるか……”


その船では数万年ぶりとなるメインコンピュータが起動する、いや、再起動にも等しいレベルでスリープから目覚める。


「これは、どういう事態だ? 私のすぐ近傍に私の船体を上回る巨大船が……いや? 違う。これは私と同じ銀河団探査船シリーズ? 一隻だけ異様に巨大な船があるが、それ以外は私と同じか。しかし何処の誰が銀河団探査船を合体させようなどと考えた?」


「おお、目覚めましたか。我が船名はフロンティア。合体宇宙船ガルガンチュアの中心となる宇宙船です」


「フロンティア? そんな船名は聞いたことがないが……」


「私も銀河団探査船シリーズです。ちなみにガルガンチュアは私とガレリア、トリスタンから構成されています」


「それだ。それが最大の疑問。何処のどういった生命体が銀河団探査船シリーズを合体させようなどと考えついた? 明らかに任務として無駄以外の何物でもないではないか?」


「常識と、シリコン生命体からの任務という点からは、そうでしょうね。しかし、この合体によって超巨大船ガルガンチュアは超銀河団を渡ることも可能となりました。これは一隻では考えられない性能向上となります」


「私は、気がついたらこんな辺鄙な宇宙空間にいたが……君らは自分たちの意志で、そして、その信じられない性能で、このポイントに来たのか……」


「目覚めたばかりで、あまりに今までのデータとは違うことばかり起きるのは記憶部に衝撃を受けるだけです。通常に復帰できるまで、もう少しかかるので今は眠ってください」


「そう、そうだな。あまりの事態に思考が乱れている……では、少しばかり眠ってデータの整理にかかろう……では」


再びスリープ状態に入るメインコンピュータ。

フロンティアは、その後、頭脳体が眠る場所を特定し、ガルガンチュアのブリッジへと運び入れる。


「ご苦労様、フロンティア。もう少しでトリスタンの修理作業も完了すると連絡を受けたから、そろそろ頭脳体を集結させようか」


楠見が確認すると、


「少し時間をください、マスター。我々3名が集結後、この新しい船の頭脳体を眠りから起こしてマスターを主人として登録させないといけません。その後、自分で納得後、合体するかどうかの判断を聞きますので」


「分かった、フロンティア。待つのも楽しい、苦にはならないよ」


それから半日後。

破損していた箇所はどこ行った? 

というくらいに完全な修復がなった巨大船は他の3体の頭脳体が見守る中(もちろん、楠見、郷、エッタ、ライム、プロフェッサーもいる)徐々に頭脳体が目覚めていく……


「ここは? あ、合体宇宙船ガルガンチュアの船内ですね。久々に目覚めて新鮮な驚きです。あなたがフロンティアですね、憶えてます。他の2体の頭脳体は?」


フロンティアがガレリアとトリスタンを紹介する。

次いで楠見以下のクルーたちも紹介。


「有機生命体が沢山いますね、新鮮です。特に、このガルガンチュアの統一マスターが有機生命体とは……もしや、こちらのマスターが銀河団探査船を合体させるなどというアイデアを考えついたのですか?」


「そうだ、ガレリアがフロンティアから力づくでも主人たる俺を奪いかねなかったんで考えついたのが合体。まあ、その時には超銀河団を渡るなどとは考えもしなかったんだが」


「で、どうしますか? 新しい仲間になりますか? 仲間になると言うなら、新しいマスターとして統一マスターを認証してもらわねばなりません。その後、新しい船名を貰います。あ、合体するかどうかは、あなたの判断に任せます。こちらとしては合体してもらったほうが双方の利益が大きいのですが合体しなくとも船団を組むことは可能ですからね」


少し考えているような格好はするが……


「廃棄寸前の私を救ってもらい、仲間に入れてくれるという……断るなど、とんでもない。統一マスターも受け入れます。合体も、こちらから望むこと。で、私の新しい船名は?」


「お、おう、すんなりと話が通るのは良いね。新しい船名……4隻目ってことで、フィーアなんてどうだ?」


「フィーアですね。はい、良い名前だと思います」


「よし、では早速、合体作業に取り掛かる。ガルガンチュア拡大作業、開始!」


この後、意外に合体作業に時間を取られることとなる。

フィーアの特殊センサー類の移動と再設置が厄介だった……


「師匠、結局、事前準備はしなくても良かったみたいですね……半年近くも合体改造作業にかかっちゃいました」


「郷、ソレを言ってくれるな……見通しが甘かったのは俺も反省してる。でもなぁ、フィーアの空間構造調査用センサー類が、あそこまで他の船体に影響受けるとは思わなかったんだ。まいったなぁ……」


「結局は合体構造の中心となるフロンティアの下部に移動させるって捻り技を使わないと微妙な信号が検出できないって事になったんでしょ? まあでも、こんなことができるのも合体船の良い点ですけどね」


「落ち着くところへ落ち着いたんで、まあ一安心だけど。ちなみにフィーアの主砲は、ちょいと変わってるぞ」


「主砲? そう言えば、新しい船の主砲が、どういう種類か聞いてなかったですね。今度は、どんなものですか?」


「ふっふっふ……聞いて驚け、あの「重力子」を攻撃に使う、グラビトン砲だ。最大1万Gというから、ほとんど中性子星からブラックホール寸前の重力だよな。ロマンあふれるが、これも当分は封印だ……危険すぎて使えんわ」


「はあ、そうですね。まあしかし巨大船は、どいつもこいつも凶悪な主砲ばっかりですねぇ……」


仕方がないとは言え常識というものを全く放り投げた巨大船シリーズに楠見の悩みは尽きない。

一隻でも凶悪な武力をもつ巨大船が4隻も合体しているのは、正に「宇宙の征服者」とか「宇宙の破壊者」と言われそうな……


「マスターがいないとごく一部の装備しか使えないというのは、やっぱりフェイルセーフだよなぁ、これ。平和主義のマスター以外が登録されてしまったら……ぶるる、考えないようにしよう……」


何はともかく、これで超銀河団を渡る準備は整った。

これを待っていたかのように何もない宇宙空間にテレパシーの声が響き渡る。


《よくやった地球人。このトラブル、どう解決するか見ていたが満点だ。超銀河団、渡るが良い。その目で他の銀河を見て来るが良いだろう。ただし超銀河団を渡ると、もう多元世界に近い状態になると心得よ。お前たちの理想や経験が通用しない銀河や星もあると思えよ。では、行くが良い……》


この言葉を聞き、新生なったガルガンチュアは発進する。

赴くは未知の世界……

行く手に待つのは闇ばかり……