第五章 超銀河団を超えるトラブルバスター
第四十九話 偽ガルガンチュア現る!
稲葉小僧
彼らは今日も跳んでいた、彼らの銀河宇宙を。
彼らも宇宙に漂う伝説は聞いていた。
曰く、この宇宙には、とてつもなく巨大で強力な一隻の奇妙な形をした宇宙船が存在する。
曰く、その宇宙船には、とてつもない力を持つ存在、宇宙船の力と共に何物も、何者をも抵抗する意志すら放棄するほどの存在がいる。
曰く、ただし、その存在には全てのものを力で制するという考えは持たず、それよりも問題を抱えている星や種族、それが銀河宇宙規模の大事だろうと関係なく、あっさりと、あるいは時間をかけて問題を元から解決してくれる。
曰く、そして、その解決に関して何を求めることもなく次の問題を求めて去っていく……
「よお、いつも考えるんだけどさ、あの伝説って、伝説だよな?」
コントロールルーム(操縦室という方が適切? レバーやダイヤルが多量の計器と共に存在する部屋)に2人しか居ない当直時間。
当番の2人は眠気を追い払うため、他愛もない会話を交わしていた。
「ん? ただの伝説にすぎないだろ? 何を考えてるんだ?」
同僚の質問に質問で返す。
この銀河宇宙に、何処の星にもありそうな実際にある伝説に過ぎないだろうと。
「いやな……ふと、こう思ったんだよ。この伝説って何だか当たり前に何処の星にも存在しすぎないか? 俺はな、この伝説、全てが嘘とは思えないんだよな。いくつか真実が含まれてるんじゃないかと思うんだ」
同僚の意見に興味を惹かれた男は、
「じゃあ何処まで真実だと思うんだ? どれもこれも真実味なんか欠片もないと思うがね」
「いーや、違うね。まず、各星の伝説が少しづつ違うこと。特に力で全てを制することはしないって点が違う星がある。その星では実際に巨大船によって銀河が征服されたと言われててな……ただし征服したのは一瞬で、更に銀河が巨大船によって統一されたため今までより良い生活が約束されたという話だった。よりよい未来のためなら力の行使も厭わないってことだよな」
同僚の真面目な意見に引き込まれる男。
「ほうほう、少し違う伝説だが平和を求める事は一緒だな。次の相違点は?」
「それがな……伝説って言われるだけあって後に関与があったと分かった星や銀河が沢山有るんだが、そのほとんどが主役の裏に、そのおせっかいな存在が関与していた、または裏方として活躍してたという痕跡が有るんだとさ。しかしな、これで確定したことが有る」
「何がだ?」
「絶対にあると言えるのは宇宙船の大きさは主役の惑星クラス、そして衛星クラスの一回り小さな宇宙船が惑星クラスの宇宙船に接続されているという、もはや想像することも無理な領域にあるような形をした未知の巨大宇宙船、そして、その中にいるという全てを解決する謎の存在だけは、ありだと思う」
「おいおい、それは伝説上の存在が絶対にいるって断言してるってことだぞ……子供の絵本じゃあるまいし、そんな宇宙船も、全ての問題を解決してくれる全能の存在も、いるわけないって」
大人の判断をする男。
普通は、そんなスーパーな宇宙船に載ったスーパーな存在など子供の空想の中にしか無いと思うだろう。
「いや、それがいるんだよ。いると仮定しないと様々な事が説明不能になってしまう……」
そう、この銀河宇宙にも近隣の銀河からの訪問者が、この三百年あまり前から急激に増えてきた。
それ自体は歓迎すべきことなんだが問題は、その訪問者達が、どれもこれも「どうなってるんだ?!」と言いたくなるくらいに親切でおせっかい気味なこと。
そして、その理由が、この銀河で流布している「伝説」だった……
その宇宙船は巨大だった。
何しろ全長が80km以上、船腹は半分近い40km弱。
全体の形が四角の立方体という点が普通とは違っていた。
異様な形の宇宙船は、その進路を変えるため、船体のあちらこちらに小型イオンロケットノズルを取り付けて自由自在の方向へと宇宙を旅する。
ちなみに跳躍航法についても超大型輸送船の跳躍エンジンを2基搭載し、その巨体と重量を超空間へと跳ばすエネルギーを確保している。
そのコントロールルームには船長を始め副長、医療部長、通信士、そして、そこには似合わない格好をした、様々な種族で作られたグループがコントロールルームの隅に作られた会議室でなにやら怪しい会議を行っている。
「えー、では次の目標について。ほれ、お前の担当星区だったところだ。今度はうまくやらないと、この船の燃料代にも事欠くようになるぞ。燃料切れで動けない宇宙のトラブルシューターなんて格好つかないだろうが」
「分かってるよ、今度は成功するさ。えー、次の目標星区では重大トラブルに見舞われているそうで。それが、内戦から派生した星間帝国の世継ぎ問題。帝国皇帝の子供は2人いるんだが、これが絵に書いたように暗愚な兄貴と、それに対するような頭の切れと行動力を持つ弟。最初は皇帝も兄貴の方を次の皇帝にと計画していたらしいが、あまりに素行や世間の評判が悪すぎるんで弟を……って、お家の事情」
「ふん、事情は分かった。俺達が介入する余地は? 介入して、そこで得られる利益は、どのくらいと予想する?」
「それがな……それぞれ母親が違うんで、母親の実家や親戚、それと下々の民にも様々な意見があって、決まりは決まり、一度は兄を立てて皇帝にして、その補佐を弟にさせればよいという派閥と、まだるっこしい! 弟が皇帝になれば全て解決するって派閥。こいつが二大派閥でな、こいつから様々な細かい派閥が誕生して、あっちでもこっちでも小競り合いやってるらしい。俺達が介入する事は充分に可能だし、それで勝ち組に乗っちまえば報奨金は燃料代なんか目じゃねぇ額になろうってもんだ」
「まあ、相手は星間帝国皇帝一家の内紛だからな。勝てると分かれば、いくらでも支払ってくれるだろうさ。で? 問題は、どうやって、この問題を解決するかってぇ事なんだが……」
「そう、そこが問題よ。まずは売り込みなんだが、ここはほれ、例の伝説を利用させて貰おうじゃないか」
「伝説? ああ、惑星ほども有る巨大な宇宙船で、銀河から銀河へトラブル探して幾万光年……なんて、俺達の上位バージョンみたいな存在がいるってやつだろ? しかし、伝説を利用するって言っても、あっちは惑星規模の宇宙船に衛星規模の宇宙船が数隻合体してるって、もう想像することも難しい存在だろうが。俺達の宇宙船、いくら大きいとは言え、そんな化け物クラスとは比べられないぞ」
「さあ、そこだ」
「え? どこだ?」
「ギャグじゃないって。その伝説の宇宙船、大きすぎて惑星近傍空間どころか星系の近くにも留まれないとのことじゃないか。当たり前だが、そんな星系の外れにしか置けない宇宙船など、どんなに巨大だと言っても見たことある奴そのものが少ないよな。そこで、だ」
「え? お前、もしかして、とんでもないこと考えてないか?」
「とんでもないことなのかどうかは相手による。伝説ってのは、ごくごく少数の素晴らしきこと、偉大なことを成し遂げた人物や国、ものによっちゃ星や星系まで含まれたりするんだが伝説の宇宙船が、この銀河にやって来てるかどうかってのは未だにこの銀河で惑星規模の宇宙船を見たって報告がない以上、まだ来てないんだろうな……だから、その前触れと言うかなんと言うか……伝説の宇宙船の関係者ってことにしようじゃないか、俺達と、この船が」
「お前、ときたまだけど、とんでもない事を思いつくな。その巨大宇宙船が本当に、この銀河に来たら、どうするんだよ? 責任取れと言われても何も出来んぞ」
「まあまあ、落ち着きな。俺達は伝説の宇宙船の露払いをしてやるだけなんだ……でかいトラブルシューティングしようってわけじゃない、小さな事はこっちに任せてくれってことだよ」
「星間帝国のお家騒動を解決するのが小さなことかね? まあいい……伝説の宇宙船が現れる前に、ちゃっちゃと片付けてトンズラと行こうか。船長! 行き先が決まったぞ! 韋駄天号、巡航速度だ!」
それなりの大きさの有る韋駄天号、進路を微調整するためにイオンロケットノズルを数基、数秒ばかし吹かす。
数分後、進路を固定した韋駄天号は跳躍機関を作動させて星の海の中へと跳んでいった。
ここは、とある銀河の中規模な星間帝国。
現在の帝国皇帝は愚かではなかったが頭の切れる男でもなかった。
まあまあ中の中くらいの堅実な帝国運営と、帝国臣民の統治には成功していた。
皇帝には銀河制覇の野望もなく、かと言って帝国を解体して銀河春秋時代になるのを許すようなことも考えてはいなかった。
内政に力を入れたため星間帝国の内政は充実し、文化発展は加速し帝国内部の平和は盤石となる。
反乱の芽すら起こる気配もない、安定した安らかな数十年が過ぎる。
皇帝その人も老いには勝てない。
まだまだ矍鑠たる皇帝陛下、しかし、自らは老いが迫ってきていると感じ、跡継ぎの問題が浮上してくる。
子供は二人。
長男は皇妃(正妻)との子供。
皇妃は友好を結んでいた辺境の小さな星系出身で平民の出。
次男は愛妾との子供。
愛妾とは言いながら出身は中央星区にある比較的大きな惑星連合国大統領の娘。
友好的とは言え向こうから押し付けられた格好の姉さん女房である。
しかし、嫁いでからの愛妾は甲斐甲斐しく、皇帝の横よりも後ろにいるような控えめな女性だった。
問題は、この2人の息子の出来具合。
長男は幼い頃は賢かったが、長じてからはフラフラと遊びに出ることも多く、その行動も決して褒められるようなものではなかった。
対して次男は、これは幼い頃から一貫して生き馬の目を抜くような頭の切れを示し、長じてからも兄のサポートに徹した裏方の仕事も率先してやるような性格をしている。
誰が見ても次の皇帝には次男が良いと思うだろう……
しかし、帝国皇室典範には、こうある。
”皇帝の座を継ぐのは長男が第一。もし、長男がその座にふさわしくないと思えば、皇帝会議において参加者の半数を超える賛成を得なければ、その座を追われることはない”
普通に考えれば、まず長男を皇帝に据えて、その政治に不満があれば皇帝会議でその座を剥奪するしか無い。
しかし、それでは満足しないのが次男を皇帝に据えるべしという勢力。
愛妾本人ではないところが悩ましい点で、中央星区の惑星連合勢力が暗躍している。
長男側も、星間帝国の暗部が長男側に付き、惑星連合勢力との暗闘が続く。
朝の典型的なワンシーン。
家族揃って朝のひとときを……
などという微笑み溢れるような景色ですら、その裏では長男を毒殺しようとする側と、それを止めようとする側の隠れた戦いがあったりする。
皇帝も二人の妻も、その二人の子供も、もう疲れていた。
妻も息子も、互いは反発しあっているわけじゃない、勝手に回りが考えすぎて実力行使までやりだしたので止めようがない。
「それもこれも、ワシが優柔不断だからか……そろそろ、譲位しても良い頃じゃし、本気で、どちらが次の皇帝になるか決めなばな」
「……それで? この星間帝国のトラブルを解決しに来られたと?」
ここは星間帝国皇帝の執務室。
皇帝が相対しているのは統一された意匠とカラーの制服を着こなした4人の男たち、と1人の女子。
彼らは星間帝国へ、巨大な宇宙船でやってきて、ここで起きているトラブルを解消してあげましょうと言ってきた。
跡継ぎ問題に頭を悩ませていた皇帝は、知恵を貸してもらえるなら好都合と、その話に乗る。
「いかにも、その通りです。話によると、ご長男とご次男、どちらに皇帝の座を継がせるか迷っておられるご様子。そのために、帝国がいくつにも分裂して争っていると」
トラブルシューターを自認する者たちは核心を突く話をする。
「そうなのだ。典範によれば長男を選ぶべきなのだろうが、ここまで話がこじれてしまってはの。どちらを選んでも、どちらにも恨みを買う。どうすればよいのか……ワシには、もう分からんのだ」
苦悩を打ち明ける皇帝。
家族仲は良いのに、回りや親戚、外部勢力等がどちらかに肩入れし、影で戦いまで起きている。
さらには、この頃は暗殺まで始めるようになった……
「まあまあ、落ち着いて下さい、皇帝陛下。プランは、このようになります……」
計画は綿密、フォローも確実に組み込まれている。
トラブルシューティングの代金は高価だったが、皇帝は満足げに全額を支払った。
「おい、金はたんまりと稼いだが、えらく時間がかかっちまったじゃねぇか。大丈夫なのか?」
「ああ、大丈夫だと思う。伝説の船と存在には知られてないと……思うがな。あっちの力がどんなものなのか、どういう形でトラブルを解決していくのかも掴めていない以上、噂でも聞き続けなきゃ分からないだろうが。奇妙な、おかしな、見たこともない船や存在が出現したって噂すら無いから、まだ大丈夫だろう」
「そうかしら? 伝説の船は巨大すぎるけど、伝説の存在って、どんな種族かも分かってないのよ? 私達みたいな普通の人型種族だったらどうするの? 街なかで出会ってるかも知れないのよ? その存在が勝手に自分たちの先触れと言ってる私達の事を知って、どういう行動を起こすのかしらね? 私、知らないわよ……どうなっても」
「ふふん、知られたら知られたで、どうにかなるさ。この宇宙に存在するもの同士、なんとかならぁな!」
この発言が甘い予想だったと思い知らされるのは、それから後のことだ……
「さて、次は何処へ行く?」
四角い立方体の巨大船は、跳躍機関の燃料も満タンにして、次の目標(カモ? )を探していた。
「ねえ? この前の星間帝国お世継ぎ問題なんだけど。あれ、最後までフォローしなくてよかったの? 何か尾を引きそうな面々がいたのよ」
質問された、星間帝国担当だった男。
いとも気軽に、
「あ? そんなの知らねーさ。俺達のプランで見事に問題は片付いたじゃねえか。後のことなんか知ったコッチャない。トラブルは消えた、その時だけでも。それでいいじゃねーか」
「はぁ……そんなことだろうと思ったわ。イヤに分厚い計画書なんて向こうに出すから、今回は本気かと思ったのに……あんたは、また性懲りもなく口だけ詐欺をやったのね! ?」
「それが悪いことか? 星間帝国なんて政権基盤すら盤石じゃないし、銀河帝国のような懐の深さもない中途半端な帝国だぜ? 俺達が介入しても、あるいは見てるだけだったとしても、どのみち長い政権じゃねーよ、あそこは。今回、過激で実力行使すらしかねない集団や、その一歩手前で虎視眈々と見てた腹グロ集団は潰せただろ。後は次の皇帝陛下の仕事だ。俺達は今の皇帝陛下から頼まれたトラブルシューティングを実行しただけ……いや、プランを提出しただけ、だな。帝国の寿命が少しは伸びたんだ、感謝されるべきだろ?」
「はぁ……それが本音ってわけね。あんた、やっぱ生まれながらの詐欺師だわ。数年後に私達全員に指名手配がかかるのは間違いないわよ。あんたのせいで、またこの船の悪評が1つ増えるのよ……こら! 分かってるのか?!」
「い、イテテテテ! 耳を引っ張るな耳を! 俺の耳は先祖の遺伝子を受け継いで尖り気味なんだから痛みが大きいんだよ! あーあ、ばあちゃんが〇〇〇〇星のじいちゃんとなんかくっつかなきゃ良かったんだ。同じ人種同士でくっついてたら俺も無駄に悪事方面に頭が切れるなんてことにはならなかったろうに……生まれが違ったら今頃は銀河守護隊の精鋭になってたかも……」
「はいはい、寝言は寝てから呟いてちょうだい。まあ、あの仕事は、あの伝説の宇宙船と存在に関係してるって事で信用してもらった上での口だけ詐欺だからねぇ……御大が登場する前にトンズラするってのは全員が賛成したんだけどさ。あたし達、とんでもない存在に喧嘩売ったのかも知れないのよ? もし例の巨大宇宙船と伝説の存在が、あたし達に気づいたら……とりあえず、どこかの巨大太陽に宇宙船を隠して、しばらくほとぼりを冷まさない? それでなくとも、この船とあたしたち、10できかない数の星系と星間連合、星間帝国から指名手配受けてんのよ」
「うむ……俺も、ほとぼりを冷ますのは賛成だ。お前は、もう一稼ぎしたいんだろうが、もう少し待て。なにか嫌な予感がする。俺の勘は、悪い方には滅多に外れないから、ここは太陽に隠れろ。この嫌な予感が消えたら、その時にまた動き出そう」
この男、初期の予知能力でもあったのか。
ともかく、四角で立方体な巨大宇宙船は、巨大太陽の近傍空間へ急ぐ。
第一惑星より内部の、普通なら溶けるか焼けるか、それとも太陽に引かれて落ちていくかという巨大コロナが近くに来ることも有るという通常なら危険地帯で、その巨大宇宙船は身を潜め、隠れる事となった。
「近すぎないか? いくらなんでも。通常のポイントより二回り以上も近いぞ。探知はされないだろうが、このままじゃエネルギーロスもスゴイことになる。一年は隠れていられないぞ、この消耗率だと」
「大丈夫だ、ここなら。これ以上、安全なポイントに出るなら嫌な予感が強まる。実を言うと、もう一回りほど中のポジションに行きたいくらいだ……ここでも嫌な予感は消えん……少なくはなっているがな」
「ここより一回り内側? バカ言わないで! 太陽コロナに飲み込まれて、この船ごと燃え尽きるわよ!」
男の勘は正しい。
伝説の船、その名をガルガンチュア……
伝説の存在、その名をクスミ……
彼らは今しも、この銀河に近づいているところだった……
ガルガンチュアは目標銀河の縁近くに駐機中。
お隣の銀河から他星の太陽エネルギーを一万年以上に渡って奪ってた種族の痕跡を追って銀河をまたいだ追跡をしてきた。
「この銀河でいいか? フロンティア」
「はい、マスター。種族ごとに跳躍機関の癖みたいなエネルギー痕があります。それをセンサーで確認しつつ追ってきたら、この銀河へ入植したと結論づけられます」
「師匠? 確かによその太陽からエネルギーを盗むってのは犯罪かも知れませんが、もう一万年以上も前の話ですよ? この過去の犯罪をえぐり出しても今の当該種族と文明には何も責任など無いんじゃないかと思うんですが?」
郷の発言に、んー……
と考え込むような顔をする楠見。
「その一万年以上前にエネルギー搾取装置を太陽に打ち込んだ者たちは今の時点で亡くなっているのは知ってる。しかしな……大きな問題が1つ。この銀河へ移住しようとした時、当の太陽エネルギー搾取装置を停止あるいは撤去しておくのが常識だろう。搾取装置を打ち込んだという記録などが残っているのに、それも撤去せずに大急ぎで移民船を発進させたというデータが見つかった……これは移民たちの責任問題だろう。俺はそう思う」
郷は、それを指摘されると何も言えなくなる。
搾取された太陽の寿命が縮まる事を何も罪悪視しないのは大問題だ。
「で? 師匠は、その移民たちの子孫に対し、どのように償わせるつもりですか?」
問われた楠見、当然だろ?
との顔をして、
「多分、今でも種族としての性根が変わってないだろうから、少々のお仕置きは必要かなと……自分たち以外の種族に関心も薄い、更には、あの所長が秘密裏に実験施設を地下に作らねばならなかった理由……他の種族を自分たちより下に見る、言い換えると自分たち以外は見下す輩ばっかりの生命体が銀河を超えて広がるのは……多分だが管理者たちも望んでいない」
郷は、それ以上の反論は出来なかった。
楠見の今まで見たこともない表情が、そこにあった。
「ご主人様が久々にマジになったわね……自分たち以外の生命体が滅びようがどうしようが無関心とか、そういうのをご主人様は一番嫌うのよ」
と、エッタ。
ライムも、いつになく真剣な顔で、
「これは……相手の種族に哀れみすら感じてしまいます……私の種族を救っていただいた時のキャプテンよりも真剣な顔してます」
「そうか……この銀河にいるだろう移民団の末裔に降りかかる未来を考えると……あー、神の怒りのシーンとか、そういうのばかりが想像される……ここにいる移民団の末裔が真っ当な性根してることを祈るだけだな。これは……」
真剣な表情の楠見は銀河の外から情報収集用の超小型搭載艇を全機、放出する。
通常は多くても三割未満だったりするが今回は特別なようで。
一ヶ月も経たないうち、様々な情報が集まってくる……
その中には例の伝説の船の先触れを名乗る巨大船に乗った詐欺集団の事も楠見の耳に入っていく……
対象銀河の情報が集まり、それを取捨選択・細分化して検討した結果……
「色々あるが、まずはこれ! 隣の銀河からの移民の末裔が成立させた星間帝国だ。少し前まで後継者問題で揉めてたそうだが、それは何とか解決したようだ……しかし、この星間帝国そのものに問題がある」
「え? 何処が問題なんです? 長男と次男が後継者問題で争ってて、そいつは上手く解決したって書かれてますが」
「そこじゃない、郷。この星間帝国の支配体制そのものに問題がある。そいつは、お隣の銀河でもあったエネルギー搾取の件にも関わってくる」
「私が説明しましょう、我が主。この星間帝国、支配階級の人類型種族に関してですが、昔から変わることなく他種族を見下すようです。実際に、この帝国の政治体制では、支配種族が一級、同種族でも後から来た種族に関しては二級、人類型でないものは纏めて三級という形で、種族ごとに決め打ちされています。職業でも、何かの職で頂点に立つような者は全て一級種族、労働者とサブリーダーまでなら二級種族、下っ端で使い走りや下世話な仕事を主として行うのが三級種族……これが星間帝国の法律なんですよ? 郷」
「酷い! あまりに酷い法律! 師匠、この星間帝国では、この法律に異議を唱える者はいないんですか?」
「昔からある法律だからと、下級種族は諦めてるところがあるようだし、支配階級は自分たちに都合が良いから法律に疑問があっても変えようとしないし……という結論で今も昔と同じ階級制の社会制度らしいな。性根を入れ換えていれば、あるいは……とも思ったんだが、これでは昔にやった先祖の罪の償いも、その法律と一緒に責任を取ってもらうしかないじゃないか? 郷、ライム、どう思う? エッタは、あまりこういった問題には関心はないと思うが」
「キャプテン、不正は修正されなければならないと私は思います。思い上がった頭は冷やすべきで、ひん曲がった自尊心は叩き直すべきでしょう」
「師匠……俺も同感です。昔の事も一欠片も反省してないのは救いようがありません」
「精神生命体であった過去からの忠告ですが……一つの政治形態を根本から変えようと思ったら、よほどのショックが必要ではないかと思われます。普通の災害等のトラブルじゃない分、相当にタチが悪いですよ」
「そうか……オレ個人としては支配階級へテレパシー衝撃だけ与えてみて、それで改心しなかったら実力行使と考えてたんだが……甘かったか?」
「我が主。余計な一言かも知れませんが……大甘、糖分より人工甘味料より甘すぎると思われます」
「そうか、ロボットのプロフェッサーでも、そう結論付けるか……こういうのって苦手なんだよ、俺は。過去の過ちと現在の過ちを手早く償わせるのなら、こうするしか無いと分かってるんだけど……」
「マスター、ちょっと一言。まだ中央星系じゃない分、この銀河への負荷は小さくなりますよ。罰の与え方にもよりますが……まあ、実力行使はやむを得ないかと……」
「えーい! 分かった! 俺も腹をくくる。ここの星間帝国の星を一つや二つ消し飛ばすくらいの覚悟はしなくちゃいけないのは承知した。よし、それでは計画を立てよう……自分たちが最強だと思い上がった種族のひん曲がった性根を叩き直す! そのためには、ガルガンチュアの主砲も使う覚悟はある。まあ、生命体のいる星に使うのは絶対禁止だが」
「おお、ついにマスターが主砲を使う可能性を! この前のように微弱出力は勘弁してくださいよ?」
「今回に限り主砲の出力は規定しない。なにしろデモンストレーションは派手になる予定だから……ふふふ……」
「あ、主の悪い顔って初めて見た。そうか……こんなアルカイックスマイルになるのか……」
久々にやる気になった楠見とガルガンチュア。
相手の性根を叩き直す方法とは?
とある星間帝国では混乱が始まっていた。
「ええい! 皇帝が代替わりされて祝賀ムードに湧いていたはずなのに、どうしたことか?! 何処かの植民星が独立しようと抵抗運動起こしたのなら、いつものように鎮圧軍を送り込んでしまえば良いのに何をやっとるのか?!」
皇帝補佐が現れ、どたばたの現場に一喝すると徐々に混乱が収まっていく。
「どうしたのか、何が起きているのか私に説明できるのものは?!」
部所の責任者らしきものが部屋の奥から現れ、冷や汗を拭きながらも説明しようとする。
「これはこれは皇帝補佐閣下。大混乱をおさめていただき感謝の念に耐えません。混乱の原因をご説明いたしますと……」
「すると何か? 全くの原因不明ながら帝国辺境部で定期通信が絶たれていると。原因究明のため担当官を送り込むとか、もしものために鎮圧軍を送るとか手は打ったのか?」
もってまわった言い方が激しい部所長のせいで何が起きているのかが分かるのに時間がかかったが問題は原因が全くと言っていいほど掴めていないこと。
星間帝国内の定期通信は、もうルーティンワークに近いものであり近況報告と共に、
「異常なし」
の言葉で終えるのが普通になっていた。
それが、この数日間、定期通信どころか通常の軍や政府間の通信すら不通になっており原因不明だという。
「はい、まずは通信系統の故障、あるいは、可能性は低いのですが反乱分子の破壊活動かも知れぬということで小隊規模の鎮圧部隊と共に調査官を送りました。ところが……」
「その調査官も含め、鎮圧部隊からの通信すら途絶えたと言うことか……分かった。それ以上の規模の鎮圧軍や鎮圧用兵器部隊を動かすのは部所長権限では難しいだろう。報告書をあげてくれれば、私が動いて皇帝に大隊規模の鎮圧軍と鎮圧用兵器部隊の派遣を具申してやろう」
「あ、ありがとうございます! なにとぞ、なにとぞお願いいたします! このままでは私の地位が……」
「心配するな、まかせておけ。こんなことで左遷などしない。帝国は、まだまだ若い皇帝のもとで更なる発展をしていくのだから」
自信有りげに言った皇帝補佐の言葉に部所長は感激したのか涙すら浮かべている。
数日後……
「兄上、ご忠告通り大規模派遣軍と鎮圧用兵器部隊を二小隊ほど送り込みます。それでよろしかったですかな?」
皇帝となった弟の補佐の座に着いた自分が実務に励み、帝国皇帝としての政務と外交の纏めを弟の皇帝に任せれば良いとの前皇帝の父からの言葉で、兄弟も、その取り巻きも納得した。
まあ、以前から自分には皇帝という頂点は無理だという自覚はあったので対外的に愚かなふりをして皇帝の資格なしと言われるように仕向けていた。
裏方で皇帝を助けるほうが俺には向いているなと思い、今の地位での働きを喜んでいるのも事実。
「お前が現在の皇帝なんだから臣下に兄上などと言わなくて良い。私的な場だから良かったものの玉座にあるものが迂闊だぞ。まあいい、忠告より大規模ではあるが、それでも万が一ということもあるからな。皇帝判断として間違ってない。後は鎮圧部隊からの報告を待つばかりなんだが……何か嫌な予感がする……」
「兄上、いや違った、補佐。嫌な予感とは?」
「これは個人的なことなんだがな……我々の想像を超えた存在が迫りつつあるような恐ろしい、避けることも防ぐことも無理というものが、この帝国に迫りくる予感がするんだ……我が星間帝国の全武力をもってしても防げない力とは何だ? という話はあるんだがな」
ハハハ……
という軽い笑いを兄弟で交わしつつあった頃……
帝国辺境部では鎮圧部隊と鎮圧兵器部隊が散々な目にあっていた。
反乱鎮圧部隊大隊長ゾール記す
大隊、壊滅。
鎮圧用兵器部隊、二小隊壊滅(小隊単位で師団規模の兵力のはずだった)
そのための時間、目標と邂逅してから、わずか10分程度……
そいつは音もなく銀河の闇の中に隠れていたらしい……
闇の中から、その巨体を現した時には、もう勝負はついていた。
何処の誰が直径5kmを超える機動宇宙要塞を相手に戦えるというのか?
我々が、たかが反乱軍風情とバカにして舐めていた相手の正体は正に化け物と言うより他ない物と者たちだった。
特に恐怖したのは、その巨大宇宙要塞ではない。
鎮圧用兵器、巨大外部兵装(反乱軍の一部からは巨大ロボットとも呼ばれる)の二機もあれば直径5km程度の宇宙要塞なら攻略方法はある。
実際に宇宙要塞を前にした巨大兵装二機は戦闘意欲にあふれていた。
「おっしゃー! 壊しがいがあるってもんだ。兵装のフルパワーと兵器の制限解除も隊長のボイスコードで成立! これで怖いものなんぞ、あるもんかい!」
「その意気だ、軍曹。巨大兵装扱わせたら宇宙一と豪語するその腕、見せてもらおうか」
「りょーかいです、隊長! まずは……あり? やけに小さい奴が出てきたな? 何でしょうね、隊長」
「さあ? レーダー波を解析すると、どうも個人用救助カプセルに近い大きさらしいが……なんだ?」
「あまりに小さすぎて標的になりませんよ、隊長。あいつの相手は大隊にしてもらえませんかね?」
「分かった、地上軍に連絡する……了解したとのことだ。俺達は、あのデカイ宇宙要塞を相手にすりゃ良いってよ! やれ、軍曹」
「オーライ! まかせてちょー……」
巨大兵装部隊の行動は、そこまでだった。
目前の宇宙要塞から発進したと思われる救助カプセル大の物は、いともやすやすと巨大兵装二機の動きを止め(どうやったら止められるのか? 一機あたり50万馬力を超えるのだぞ? )その小さいサイズからは考えられない強さのビーム兵器で巨大兵装を切り刻んでしまった。
後で知ったが、切り刻んでも中の乗員には切り傷一つ無かったらしい(数十のパーツに切り分けられた鉄くずの中から放心状態の小隊員が発見されたと聞いた)
一機、また一機と巨大兵装を、熱したナイフでバターを切るようにスパスパと切っていく小物体。
呆れて見ていた地上部隊の大隊も任務を思い出して小物体に攻撃を加える……
当たっているようだが途中で何かに遮られているようにミサイルもビームも効いていない。
「嘘だろ……なんで一個大隊が全力攻撃して、たかが全長2m弱の物体が破壊できないんだ?!」
《実力差が飲み込めたか? こちら宇宙船ガルガンチュアの大型搭載艇より発進した個人武装、名をクスミという。このテレパシー通信は私の能力だ。ちなみに、巨大ロボットの動きを止めた力は、私のサイコキネシス能力である。サイコキネシスで一気に引き裂くことも可能だが、人命尊重のため、それは止めた。地上部隊の兵たちよ、まだやるか? 命まではとらないが、まだやるなら、とことんまで破壊するぞ……個人武装まで》
頭の中に響いてきた声……
軍の研究所で数m単位なら成功したとテレパシー実験の報告はある。
しかし、これほどの強度と距離は聞いたことがない。
しかも、この声、部隊全てに届いているようで。
私は、この時点で、この存在に抵抗することを諦めた。
大隊長権限で、全員そちらに降伏しますと念じたら通じたようで。
こちらの全武装(拳銃、警棒まで含めた)を一纏めにしたら、どこからか眩しい光が差し、次の瞬間には目の前に何もなかった。
軍を率いるものが言ってはならない言葉だが、我々は心が折れた……
「んで? 反乱鎮圧なのに、なんで一個師団&師団規模兵力の巨大ロボット二機なんて大規模な武力を送り込んでくるわけ? あー? 辺境星系だよな、ここ。完全なオーバーキルだって分かってんのかなぁ?」
俺の尋問が続く。
巨大ロボット二機と大隊規模の兵団を潰すと同時に残りの三大隊(四大隊で一師団ってことだった)が問答無用で仕掛けてきたため、さくっと潰した。
それから小一時間から数時間過ぎているが、お説教という尋問の時間。
師団長も参謀も一兵卒と同じように正座。
座る場所は石ころばかりの整地されてない広場のようなところ。
戦闘終了後から座らせているので、もう足の感覚もないだろう。
参謀の足の裏を、ちょいとつついてやる。
「! #&%>! ! ! !」
声にならない叫びを上げる。
師団長殿が脂汗を流す。
次は自分かと思っているのかな?
「で? 師団長閣下? 君らは下々の反乱に、いつもオーバーキル状態の軍備で乗り込むわけかな? 説明してくれない?」
ちょちょん、と足をつつく。
「あっ! ぐっ! そ、そこは……は、はい! 通常は少なくとも一個大隊を送り込みます……は、はひぃ! 下級民の奴らには、服従というものを身にしみて教えてやらねばならぬゆえ……です」
「ふむふむ……一級種族だから二級種族や三級種族は滅びて当然、ということなんだ……じゃあ、俺達に負けた君らは、弱小種族ということで滅びて当然と。そうだな?」
大隊長の足を、ちょいと力を入れて、ちょいちょい突く。
「あひゃ! ぐぅ! は、はい……ここまで、ここまで力の差を見せつけられては、我々は、そちらの足元にも及びません。いかようにされても結構です」
「こら、大隊長、中佐! 何ということを……しかし当然か……我々が下級種族にやったことを今度は我々が食らう番だ」
師団長閣下が暗い顔で呟く。
骨身にしみたかな?
「よし、正座終了! 立ち上がってよろしい。とは言っても足に力が入らないだろうから時間かかっても良い。一時間後に搭載艇の前に集合だ! 遅れるなよ。まあ全員をロックオンしてるから遅れても逃げても確保するだけだが」
うめき声が響く中、俺は大型搭載艇母艦の中へ。
「心はへし折り、常識は粉々にし、後は自分たちの小ささを思い知らせるだけ。奴らにガルガンチュアを拝ませてやろう」
「え? そこまでやったらプライドも誇りも吹き飛びません? 彼ら、この搭載艇母艦すら巨大要塞だと思ってるってのに……流石にかわいそうになってきましたよ、師匠」
「いやいや、まだだね。本星の全戦力なら、こいつと渡り合えると思い込んでる師団長の思いが読めた。自分たちが、どうあがいても太刀打ちできない存在があるんだと思い知らせないとダメだな、あれは」
「いやはや、頑固ですな彼らは。我が主、ガルガンチュアを見せてからデモンストレーションやるつもりですか?」
「ああ、そのつもりだ。その前に自分たちの先祖がやらかした悪行と、そこから今までの素行の悪さを描き出した映像ファイルを一時間ほど見せる予定……フロンティアに見せてもらったけど胸糞悪い代物だった」
「そこまでやりますか……自業自得とは言うものの、やっぱりかわいそう……」
郷は情けをかけたいと思うようだが、今回は非情になる。
魂が抜けかかっているような顔をしている大勢の帝国兵たち。
地上軍一師団と巨大ロボット小隊(一機につき4名が乗り組んで操縦する)2小隊分(巨大ロボットそのものはいくつものパーツに切り分けられて屑鉄状態)は搭乗させられた大型搭載艇母艦から眺めるガルガンチュアに、もう反抗心とか宇宙要塞でも本国の戦力全てなら勝てるかも、とかいう淡い希望を打ち砕くのは充分だった。
更に搭載艇よりガルガンチュアへ転送された後に、自分たちのやってきた行いを、この銀河への移民前から映像化して見せてやる。
自分たちが当事者の場合、悪行を悪行と認識しない場合が多いが、それを映像化して歴史的に整理して見せてやれば効果があると思ったんだが……
どういうことでしょう。
二種類に反応が分かれてしまいました。
「我々の行動は先祖からして間違っていた! そして今も自分たちだけが宇宙で最強だと誤った認識でいる。我々は心から悔いて、これからの行動を考えるべきだ!」
ってのが普通ならこっちだろうって反応。
んでもって厄介なのがこっち。
「ふん! こんなものは作り話でしかない! 宇宙で最強にして最高の存在である我が種族、数万年前から他種族を踏みつけにしてきたのである。我々が支配されることなど無い!」
あー、こうなのね。
これを主張しちゃうわけね。
「分かった……それではデモンストレーションを見てもらおうか。あれに見える小惑星、まあ小惑星と言っても大きいもので大きさは約500km。いびつだけど球体に近い形状なんで標的にしている。実際には、このガルガンチュアを構成している直径5000km台の小惑星でも同じことだと思ってくれ」
「それで? あなたは我々に何をデモンストレーションすると?」
「まあ、見てて欲しい。まずは、ガルガンチュアの主砲の一つ、プロミネンス砲……標的が3つ並んでいるだろ? 左端を見ててくれ」
「主、初めて私の主砲が許可されたな……では、発射許可を」
「うむ。ガレリア、プロミネンス砲、全力発射!」
ゴウン!
と、ガルガンチュアの巨体が一瞬、揺らぐ。
それでも狙いは正確なようで安全を考慮して100万Kmほど離れた標的小惑星に見事命中!
標的は無音の宇宙空間で、あまりの高温に蒸発するかのごとく消滅する。
顔色が青くなる兵士たち。
おいおい、まだだ。
「次、トリスタン。電磁投射砲なんで撃つのは何でやる?」
「はい、クスミ様。久々ですので、私も全力で撃ってみたいと。貨物タイプの最大、大きさ500kmタイプの鉄塊を打ち出します」
「お、おう。標的と、ほぼ同じ弾ね……じゃあ、発射許可を与えるので好きなタイミングで」
「ありがとうございます。ふ、行くぞ!」
トリスタンの表層から、バカでかいレールガンが現れる。と、左右の電磁投射装置が光って……数秒後、標的小惑星は粉々に。
「さて、最後はフィーアだ。詳細を知らないんだが、重力砲って、どういったものなんだ?」
「はい、チーフ。フィールドによって範囲を指定、その範囲内をゼロから10000Gまで自由に可変できます」
「聞けば聞くほど凶悪で無敵だな、これも……標的は残り一つ。あれを全力で。発射許可する」
「はい! 目標指定、重力カバーフィールド設定、グラビトン砲、最大発射!」
標的小惑星の周辺空間が、ぐにゃりと歪んだように見えて、数秒後、標的が見えなくなる。
「フィーア、目標が破壊されたとかじゃ、なさそうだな」
「はい、チーフ。目標は一万Gの重力子によって押し固められ、重量は同じでも体積は100分の一以下になっています。中空が軽いものだったらしく余計に圧縮率が上がっていたようですね」
はい、そうですか……
重力子砲は使用するシチュエーションが難しいな。
兵士たちは……
と見渡せば、もうこの世の終わりかと悟ったような顔になっていた……
無理もないが。
魂が口から出ちゃいそうになってる兵隊サン達はそのままに、俺達は(普通はやらない)ガルガンチュアで星間帝国本星に向かう。
ガルガンチュアほどの大きさの宇宙船が銀河内に入ると中小の衛星や惑星・微惑星が多大な影響を受ける恐れがあるので滅多に銀河内に入ることはない。
今回、俺がいかに腹を立てていたかが分かると思う。
別銀河に移民するような種族が、こんなに差別と偏見に満ちているようじゃ困る。
他種族にも銀河単位で生命体の監視をしている宇宙の管理者たちにとっても困りものだ。
ということで今回ばかりは心底から悔い改めて性根から叩き直して差し上げないとダメな種族なので、ガルガンチュアでやってきたわけ。
大型搭載艇じゃ舐めてかかる人々がいるのも分かったし……
さて、本星がある星系の外れだ。
俺のフル出力テレパシーで宣戦布告と行こう。
《星間帝国の支配者たちよ! 今から24時間の猶予を与える。今までの所業を悔いて真っ当な宇宙文明の担い手となるか、それとも宇宙の塵にもなれずに滅びるか、どちらかを選ばせてやろう。自分たちが何の罪を犯したのかと不審がる者たちもいるだろうから、こちらへ敵対してきた一個師団の兵隊と巨大ロボットを使って攻撃してきた二個小隊の兵隊を全て、そちらへ送る。その者たちから自分たちが如何に非人道的な存在だったか、如何にして師団と二機の巨大ロボットがやられたか詳しい話を聞くが良い! ちなみに、お涙頂戴のような弁明は不要! こちらと戦って塵も残さず消え去るか、それとも性根を叩き直すことに同意するのか、どちらかの返答だけで良い。返答なき場合、交戦の意志あるものとする。以上だ》
転送装置により倉庫に入れられていた兵は全て本星へ送られる。
武装解除はしてある……
と言うか個人武装から大隊、師団、巨大ロボットに至るまで全て、くず鉄と化してはいるが……
「二四時間後、どういう返事を返してくると思う? 郷」
「そうですね……あのプライドの高さだと経験者の体験談だけじゃ理解できないと思いますので二四時間を待たずに仕掛けてくる可能性が高いかと。まあ、どんな攻撃力をもってしてもガルガンチュアの四重防御バリアは貫通不可能だと思いますが……フロンティアだけの一重でも、それこそ太陽のエネルギーをそのままぶつけられるような攻撃力じゃない限り船体に傷すら付けられないと思いますけど」
「よし。相手が交戦を選んだ場合に備えて四隻分の多重防御バリア構築! それと主砲を除く全ての砲はロック解除! いい加減、憶えの悪い子供みたいな奴らと手加減しながら戦うのも飽きてきた。徹底的に思い知らせてやろう」
「マスター、久しぶりですね、そこまで怒るのも。ロボットの身ながら心配になりますよ、あっちの種族の未来が」
「情けをかけて良い場合と尻引っ叩いても矯正しなきゃいかん場合があるってのを今回はつくづく思い知らされた。まさか数万年単位で偏った思想と偏見に満ちた星間文明が育つなんて知らなかったからな……こんなえげつない種族、想像もしなかった。最初は偏見と差別に満ちていても宇宙に出るような文明が、まさか奴隷に近いような種族差別をしてるとは……」
「主、大丈夫か? いつもの優しい顔色が、いつになく厳しいものになっているんだが」
「ああ、ガレリア、心配しなくていい。これは俺自身の甘さを修正するチャンスでもある。常に飴だけ与えるような導きじゃダメってことなんだ。この状況だけ鬼になる」
果たして、二四時間も待たずに星間帝国の全兵力と艦艇で攻撃に出てきた。
が、四重防御シールドを破れるわけもなし……
面白いので、こちらは防御のみに徹することにする。
ミサイル、レーザー、物理兵器(巡洋艦クラスの特攻を含む)……
俺が予想していた太陽エネルギー利用の特殊兵器は開発されていないようだ。
そこまでの敵がいなかったのかな?
どれもこれも、いつまで経っても最初のバリアフィールドすら破れずに虚しくエネルギーを撒きちらしている。
さて、もう少しやらせて撃つものが無くなったら、こっちの反撃にかかろうか。
お?
4時間ほどで敵勢力攻撃の手数が減ってきたぞ?
全戦力とは言え階級制度で押さえつけていたからか、それほど強大な戦力は持っていなかったようだ。
戦艦、重巡、軽巡、駆逐艦、輸送船まで繰り出して、なけなしの燃料を使い果たしてまで戦力をかき集めたようだが、この光景は雲霞のごとく、などという程度にもならんな。
せいぜい15万隻というところか……
大帝国ではないので、これでも本星を守る主戦力なんだろう。
もしかして他の星から戦力を引き抜けなかったのか?
反乱を恐れて?
それだったら自業自得というもの。
強大な敵が現れても自分の領地内すら統制できていないという愚か者の見本だ。
「フロンティア以下、ガルガンチュア構成の4隻へ。搭載艇群を放出し、駆逐艦、輸送艦を殲滅しろ……分かっているとは思うが生命体は除いての殲滅だ。まだ最後の望みくらいは残してやるのが情けというもの」
音もなく頭脳体が船に指令を下す。
残弾全て撃ち尽くし、レーザー砲の残存エネルギーすら残っていない状況の中、巨大な宇宙船の全てから何やら煙のように見えるものが出てくる……
星間帝国軍は、次の瞬間、悟った。
「あれ、全部が搭載艇か? 直径5000m超えてるものもあるんだが……」
「バカ、5000mあったって、あの中に搭載されている時点で搭載艇だ。しかし、なんて数だ……ん? 戦艦を素通りしていくぞ?」
「敵の行動が判明! 駆逐艦と輸送艦のみを狙って破壊しています! もう2割を超える損耗率となります!」
それを聞いて司令官たる皇帝は、その理由が分からず困惑する。
「はて? 装甲と武器性能の高い戦艦や空母から破壊するものだろうが? あの巨大宇宙要塞は、どういった理由で駆逐艦や輸送艦など殲滅しようとする?」
参謀も、これには答えようがない。
「軍事の通常戦法とは、あまりにかけ離れているので理解不能です……もしかして駆逐艦と輸送艦は、あまりに数が多いので初めに減らしているとか?」
「そんな馬鹿な話は……いや、あるかも知れない……こちらの攻撃は全く受け付けず、向こうはこっちの弾切れを待ってやりたい放題だからか」
皇帝の想像は当たっていた。
敵と認識するのも面倒だと楠見は思っていた。
幼児の「イヤイヤ期」が大人になっても治らないダメな種族を叩き直すために、イヤと言うほどの敗北感を感じさせてやっているだけ。
駆逐艦と輸送艦の山を始末するのに1時間近くもかかってしまう。
「マスター、10万隻近くあっては搭載艇群と言えども時間がかかります。しかし、もう大丈夫ですね。あとは軽巡以上の宇宙艦しか残っていません」
「そうか……それじゃ、まずは軽巡のみ殲滅。次に巡洋艦、そして重巡、で、空母群を潰して、最後の最後に戦艦ね」
防御スクリーンを解除したガルガンチュア。
その副砲が全て軽巡に対して……
軽巡壊滅、重巡壊滅、空母は穴だらけにされ、残るは旗艦と副旗艦……
戦艦のみ数えるほどしか残っていない。
「我々、相手をとことんまで怒らせたようだな。こんなことになると分かっているなら、あの師団長の話を真面目に聞いておけば良かったと思う……まあ、これが我が種族の悪い点なのだろうな。唯我独尊で相手のことを考えずに自分だけが突っ走る。相手を見下し、下級種族に貶め最後には自分たちが殲滅対象となる、か」
その言葉が終わるかどうかのタイミングでガルガンチュアの副砲一斉射が行われ、帝国自慢の宇宙戦艦(装甲、武装、どれも最新の無敵戦艦と呼ばれていた)は全て宇宙の藻屑となる。
帝国軍がガルガンチュアに攻撃をかけて6時間後のこと……
その後、ガルガンチュアと搭載艇群の他にはデブリの塊と、よくよく見れば宇宙艦の残骸と見えなくもないという鉄くずだけが、その宙域にあった……
帝国兵の全て、貴族、皇帝一家……
全てが本星にあるだだっ広いスタジアムに集められている。
もちろん正座スタイル。
足元には小石が敷き詰められていて、足に相当なダメージが貯まり続けている。
俺が戦いの原因や、帝国の性根が腐っている事などを再び説明するのも面倒なので辺境へ派遣されて性根まで敗戦を叩き込まれた先輩兵士たちに、そのへんは任している。
師団長や参謀長、俺とガルガンチュアの恐ろしさが身にしみている連中が必死になって皇帝と皇帝補佐を中心に説得している。
正直、ここまで厄介な種族だとは思わなかった。
向こうの出せる限りの戦力で挑んできて何も出来ずに負けたのに未だに一部の軍人や貴族たちは、
「まだまだ、地方星系の余剰兵力や警備用兵力までかき集めれば、まだ一矢報いることくらいは!」
などと、戯けたことをほざいている。
あー、本当に、なんて面倒な奴らが星間帝国なんてものを造りやがったもんだ。
フロンティアなど、本気かどうか分からないが、
「いっそ、私の時空凍結砲で、この宇宙から切り離しましょうか? 一年が一億年くらいの長さになれば、もう抵抗する気力すら無くなるでしょう」
恐ろしい……
真顔で言うから、なお恐ろしい。
生きながらの異次元空間流しの刑を一億年……
想像しただけで背筋が凍る。
時空凍結が解除されたら、そこに残っているものは最初の種族ではなく、何か別の生命体だったりしそう。
まあ、俺も半分くらいは、そうなっても良いかなと思ってる。
「で? 自分たちの腐った性根や性格を根本的に叩き直すプログラムに参加する気はあるのかな? ん? 皇帝陛下ぁ?」
つんつん、つんつん。
「ひぃ! ぐぅ! や、やめよ!」
「何だって? こっぴどく負けちゃったのに、まだまだ反抗的な態度を取るのかなぁ?」
つん、つん、つん。
「ひーぃ! あぐ! や、やめてくだされ! お、お願いしますぅ!」
あ、泣いてしまった……
正座状態で泣き崩れる帝国皇帝ってのも絵になるが。
「はい、真っ当にお返事が出来るまでになりましたね。で? 性格矯正プログラムに参加の意志は? あ、良いんだよ、参加しなくても……種族を全て集めて星系ごと異次元へ送り込むだけ。一億年と少しばかりの年月ね。バカは死ななきゃ治らないーってか」
俺の言葉「断ったら異次元送りだ」と宣言したのを本気と分かったようで……
皇帝一族から近くにいた貴族たち、そこから回りの兵士たちにまで話が伝わり……
「皇帝陛下! 矯正プログラムへ参加しましょう! 星系ごと異次元送りはイヤです!」
「陛下、もう反抗など無理と納得しませんか? これ以上、我々より強者である存在に対し、反抗しても意味がありません」
「市民や兵士、一級種族全ての意志を無視して皇帝個人の意地だけで全ての帝国市民が異次元送りになるんだぞ! こんな皇帝など罷免しろ!」
あー、言いたい放題だな、こいつら。
正座を崩すと弱めた電撃を落とすので、正座状態でシュプレヒコール叫んでるのも笑えるが。
「くっ……さ、賛成する、いや、賛成します。種族全体の矯正プログラムに参加します、いえ、参加させて下さい、お願いします!」
はぁ、ようやく落ちたか、皇帝陛下……
案外、短かったね。
辺境派遣軍は6時間以上かかったのに、本星では3時間かからず。
ま、辺境派遣軍のほうが頑強、っつーか、鍛えられてた。
皇帝とか貴族って鍛えてるとか軍事訓練とか無用の立場だからなぁ……
じゃあ、これで正座はお終い!
明日から地獄の性格矯正プログラム実行と行きましょうか!
現在、本星スタジアムに種族専用チューニングを施された教育機械が数百台、並んでいる。
中に入って再教育(っつーか、性格と根性の叩き直し中と言うか)な、軍人の一部。
皇帝と、その一族。
貴族階級と軍人の将校クラス。
以上は、もう再教育が済んでいる。
あまりに価値観がひっくり返ってしまい、教育機械から出てくる者たちの表情は一様に暗い。
しばらくすれば倫理的にも納得できるのだろうが、今は過去の価値観と新しい価値観の入れ替え中のため、自分が愚かで下劣な生命体として感じられているのかも知れない。
軍人が終了すれば後は一般市民。
数百億人はいるようだが2級と3級の種族には教育機械は使用しないので実質は数千万人。
多く見積もっても一億人を超えるかどうかと言うところだろう。
ん?
教育し直しなら2級種族にも使用したほうが良いんじゃないかって?
いやいや、これマズイんだって。
見た目は立派な教育機械ですがソフト的にカスタマイズされすぎて教育というより矯正機械と呼ぶほうが正しいくらいになってたりするので。
説明すると被験者の脳波と同調したイメージを送り込み、様々なシチュエーションで被験者がどういう行動を取るのか? という選択肢を無数に用意し、他種族を見下したり自分たちより上の種族など無いとか思い上がったりした時点で悪夢を見せる……
これを1時間きっかり続けるんだが、この1時間、脳への直接データ接続と同じくらいの超高速なので実経験時間としては数年分にもなる。
これで、いわゆる真人間にならなきゃ、もうそいつは「破壊神の化身」とでも考えるしか無い。
え?
再教育って、某ブートキャンプみたいなことやるんじゃなかったの?
とな。
やるわけないじゃないですか、やだなぁ、俺を情け容赦のない某軍曹と同じに考えちゃいかん。
まあ人数的にも、そんなことが出来るような状況じゃないというのが本音ですが。
「師匠ぉ? 未だに忘れてませんからね、俺とマリーさんにやったスパルタトレーニングは」
あれ?
郷、まだ憶えてたか……
いいかげん、忘れてくれないか?
もう、あれから千年くらいは経ってるだろうに。
「死ぬ一歩手前の経験なんて忘れられるはずないでしょうが! ? こういう形のほうが良かったですよ」
え?
あっちの実地トレーニングのほうが、こっちよりは、よほどマシだと思うぞ。
こっちはトレーニングとか教育に名を借りた矯正という名の刑罰みたいなもんだから。
「え? 教育機械にかかってるだけのように見えて実は刑罰? 師匠がそこまで言うのは相当なものなんでしょうね」
ああ、皇帝や皇帝側近たちには特に時間をかけたからな。
数日間は使い物にならないだろう、あの調子だと。
「お、恐ろしい……少し腹を立てただけで、これですか……本当に師匠が怒り心頭に達したら、どうなるんでしょうね?」
俺自身にも分からんよ、実際。
テレパシーも全エネルギーで一人だけに絞ったら対象は破裂するんじゃないか?
サイコキネシスも、どこまで破壊の嵐になるか想像もつかない……
本星分が終了したら各植民星に移動して教育機械に入ってもらうことになる……
1級種族は漏らさずに全て。
星間帝国の深刻トラブルは解決。
元1級市民や軍人高官、皇帝と貴族たちは全て更生させて、種族別の階級分けなども廃止させて全ての種族が平等に衣食住を選択できる機会を与えられる社会構造とする。
階級差による社会的地位も一旦解体し、本当に、その地位にふさわしいものが実力で地位を獲得できる状況にしてやる。
数ヶ月ほど社会的に混乱が起きるのは予想済みだったので、その期間の衣食住は、こちらで用意する事も忘れない。
非情にも会社組織から叩き出される無能な元上役が激増したが、そのくらいは予想済み。
社会的に順応できない元1級市民が激増するのも予想済みのため、最低生活を保証する住宅環境も用意して、そのあぶれた無能者たちを収容する。
最低生活とは言うものの衣食住は保証されているし、空調完備、エネルギーシステムは全てが無料。
更に言えば、この社会に必要悪としてあった下水処理システムを撤廃し、下水そのものを一旦、エネルギー化してから再び純水に戻すように下水システムを徹底的に変更する。
メディアへのアクセスを可能とするシステムも用意し、全ての住宅に設置してあるため、基本的には金持ちと貧乏人の生活に差はない。
働きたくないやつは働かなくて良い環境ではあるが、生命体とは何かしないと生きて行く意欲すら湧かなくなるもので、元1級市民たちの中にも細々と会社や商売を始める者たちが出てくる。
娯楽方面に特化したような会社が多かったが、そこから数年後に意外な成果が上がってくる。
地球で大昔にブームを起こした、いわゆる「小規模人数用ゲームシステム」が安い価格で売り出され、それが今まで娯楽などとは縁がなかった元2級・3級市民たちに大ヒット!
ソフトを記憶チップ別にして、ハードさえ持っていればソフトを入れ替えるだけで全く別のゲームを遊べるという、どっかで聞いたようなシステムが受けて、ハードが行き渡った時にはソフト単体で安く売り出し、様々なソフトが世にあふれる事となる……
その時点で、ガルガンチュアは星間帝国を離れ、更なるトラブル対応事案へ向かう。
「師匠、こいつら許せませんよ。ガルガンチュアの名を騙って詐欺行為を繰り返し、大金を星系政府から掠め取ってるとか。元皇帝の口から、その話が出た時には真っ赤な嘘かと思いましたが、巨大宇宙船って事くらいじゃないですか? ガルガンチュアと、そいつらの宇宙船が似てるのって」
「まあまあ、落ち着け、郷。相手の宇宙船が巨大だってだけで、こっちと比べたら小さいもんだ。四角くて長いってのは今までに無い形式ではあるが、たかが小惑星クラスだ」
「しかし、マスター。こちらの名を騙り、あまつさえ我々と関係があると言ったそうじゃないですか。詐欺の片棒担いだようなもんですよ我々も。許せません」
「まあな、実は俺も憤慨してる。こともあろうにトラブルバスターがトラブルに関係してるなんて、笑い話にもならないからな。さて、本腰入れて、そいつらを探そうか」
「ご主人様。普通に探しても見つからないと思いますよ。どこかに隠れている可能性が高いかと」
「エッタに賛成します、我が主。巨大船ですので、隠れるとしたら巨大恒星の至近距離に潜んでいる可能性が高いかと思われます」
「ふむ……プロフェッサー、それじゃあ通常クラスと、それ以下の恒星は外して巨大恒星をリストアップしてくれ。リストアップが完了したらフロンティア達の小型搭載艇を派遣して、恒星付近の調査を行うとしよう。恒星付近に隠れているとしたら、それだけで相当なエネルギーを使うだろうから、比較的、楽に発見できるだろう」
リストアップが完了後、搭載艇群を解き放って調査開始。
一ヶ月も経たないうちに、当該宇宙船と思われる物を発見する。
恒星フレアのギリギリ届かないような超至近距離に停泊するような無謀を行う宇宙船など他にいないだろうから、こいつで確定だろう。
ふっふっふ……
つーかーまーえーた!
「ぶわっくしょん! ブルル、嫌な寒気がしたんだが……」
「はぁ?! いつ、この巨大太陽のフレアに捕まるか、気が気じゃないよの、こっちは。この状況で寒気とくしゃみ? バッカじゃなかろか」
「いや……俺も背筋に寒気が走った……もしかしたら、伝説の巨大船に見つかったという恐れが……」
「はっ! そんな事、あるわけないでしょうが! だいたい、太陽に飲み込まれる可能性が高すぎて、こんなポジションになんか注目する奴、いないわよ」
そう言い合ってる詐欺師達の宇宙船は、見えざる蜘蛛の糸に絡め取られているところだった……
気づかないうちに。
さーて、俺達の名前を騙った詐欺師共の位置特定はできた。
今はガルガンチュア搭載艇の半数をもって、当該星域を包囲している(濃密に、という言葉を付けたほうがいいくらい)
これで超光速の跳躍航法は無理(進行方向に邪魔物がある場合、初速が光速の数割程度必要な跳躍航法は不可能となる。言わば飛行機は滑走路がないと飛び立てないということ)
徐々に追い込んでやるからな……
待ってろよ、詐欺師共!
「マスター、また悪い笑顔を。よほど腹に据えかねてたようですね」
「ああ、間違ってないぞフロンティア。それじゃ、ガルガンチュア、発進だ。あまり早く当該船に近づくなよ、ゆっくりゆっくり、自分らの罪を数える時間をやろうじゃないか」
「おー、我が主は、今日もまた一段と悪い笑顔で。私は、こっち側でよかったと安心しますね、この笑顔を見ると」
「プロフェッサー……気が変わったら、お前、一度くらいガルガンチュアの敵側に回ってみる?」
「やめて下さい、我が主。私の電子頭脳がパニック起こしそうです」
「まあ冗談だが。殺しはしないが今回の教育装置カスタムの魔改造版を製造するための人体実験に付き合ってもらいたいと思ってるんだよ、ぜひともな。相手の都合など考えない」
「師匠……あんたは鬼か魔王ですか! ? もう、管理者はここまで事態が進んでいるのに、なんで止めに入らないんですか?!」
「はい? 郷、この事態で管理者が止めに入ると思ってるのか? 種族ごと宇宙から消すとか、銀河から放り出すとかしない限り、管理者は口出ししてこないぞ」
「あ、予想ついてて、やってるんですね師匠。ジェノサイド以外は、やりたい放題じゃないですか、そんなの」
「宇宙なんて、そんなもんだろ? 普通。それが嫌だから俺は宇宙に棲む各種族、各生命体が自分たち以外にも救いの手を差し伸べるように手段と方法を教え、そして救うための余裕を得られるようにトラブルシューティングをしまくってるんだ。俺の理想に逆らうものは矯正してやるだけ!」
「ちょ、ちょっと師匠! 落ち着いて下さい! どうどう……まあ言いたいことは理解できますが、それでも反対するものが出てきた場合、師匠は今と同じく矯正してやる方向へ行くんですか? ちょっと強引すぎるような気がするんですけど……」
「お? 俺の意見に反対するのか? 郷。じゃあ、どうしたら良いのか意見を言ってくれ。そちらのほうが優れているなら、そっちを選択しよう」
「師匠の意見にも頷けるところはあります。平和な宇宙で一人だけ我儘で暴力を振るう奴がいたら周り全体が困りますから何とかしたいってのは分かります。それを矯正するってのも理解は出来ますが……師匠の意見だと平和的でない種族や生命体は全て矯正対象ですか?」
「全てとは言わないが……まあ、他種族が困っているのにつけこむ詐欺師集団やら、この前の星間帝国のような種族優越主義なんてのは矯正した方が良いと思う。他には、やはり侵略主義とっている種族やら、やたらめったら攻撃的な生命体とかも含まれると思う」
「いやいやいや。師匠、言っちゃ悪いですが、この宇宙に棲む生命体は過酷な生存条件で進化してきたものたちばっかりですよ。進化も頂点まで行って宇宙へ乗り出すまでになれば、ほとんどは平和的になるとは言うものの、攻撃性を失ってない生命体の、いかに多いことか。その攻撃性ってのは言葉を変えれば生き残る執念です。師匠、生き残る確率を高める本能まで奪うんですか? あの教育機械改造版がやった矯正は、それに通じますよ」
「ふむ……言いたいことは理解できる。で? 郷。矯正する代わりに、どうすれば良いのかな?」
「詐欺師ならプランニングや説明力、構成力はずば抜けてると思うんです。ですから矯正して牙と一緒に生存本能まで奪うんじゃなくてですねぇ……」
「ふむふむ……こりゃ面白い意見だ! 現場主義一辺倒だった俺には思いつかない発想だ。じゃあ、教育機械のプログラムを少し変更しないと……」
「そうですね。で、ついでに、こういう指向性で教育したらより良い成果が出るんじゃないかと……どうです?」
「そりゃいい! 詐欺師が詐欺でなくなりゃいいだけだ!」
こうやって、じわじわとガルガンチュアと四角い宇宙船は、その距離を詰めていくのだった……
まだまだ詐欺師達の宇宙船に探知される距離には近づかない。
その前に準備だ。
「えーと……フロンティア。少し前の星間帝国でカスタマイズした教育機械なんだが、また少しいじりたいんだ。要望、大丈夫かな?」
「はい、マスター。前回で教育機械の根本機能をカスタマイズするとどうなるか、が詳細に分析できましたので、どのようなリクエストにもお答えできると思いますよ」
そうか……
星間帝国の方々には、ちょーっとだけ申し訳なかったかも……
「じゃあ、対象箇所とカスタマイズの要領を指図したメモを書くんで、それでやってくれないか。まあ今回は刑罰と言うよりは、その技能と才能を有効利用するための変更なんだけど」
「……これですか? マスター……ふむふむ、標準から、あまりいじらないようですね。これでしたら数時間で可能かと」
「おー、あいも変わらず優秀だね。じゃあ、ちゃちゃっと改造しちゃってくれ。それが完了次第、詐欺師君たちの宇宙船とのランデブーだ」
本当に数時間(実際には3時間ちょい)で教育機械改造が完了した。
シミュレーションも行い、正常動作をすると確認後、
「さて! はた迷惑な詐欺師君たちに、明るい未来を示してやろうじゃないか! ガルガンチュア、銀河内巡航速度。武器はロックしたまま、防御装置類とシールドは強化とロック解除だ」
「了解、マスター。ガルガンチュア、銀河内巡航速度へ!」
およそ半日後、巨大太陽の近くにガルガンチュアの巨体が飛び出る。
さすがに太陽と比べるとガルガンチュアも小さく見えるな。
ただし、こちらの武器を全力で撃った場合、この巨大な太陽すら崩壊させられるだろうが……
「師匠、もう少し軌道を内側に取れば、ガルガンチュアと例の船とのランデブー可能となります。予告、します?」
「ああ、分かった、郷。予告ねぇ……驚く姿も見たいけどショックが強すぎるかも知れんから、予めテレパシーで、もうすぐ捕まえに行くって告げてやるかな。どうせ動けないんだし」
「主、今は緩やかなトラクタービームを、あの船全体にかけているところだ。まあ、動き出そうとしたところでトラクタービームを最強にしてやるだけなんだが」
「よし、それで良いだろう、ガレリア。では逮捕予告だ」
《あー、ガルガンチュアと、その業務についての信用失墜と妨害、そして数多くの星にて犯した詐欺行為にて君らを捕まえに来た。予め言っておくが抵抗は無駄だ。こっちはもう、そちらの船をロックしている。逃げられないので諦めて降参しろ。悪いようにはしないから……まあ、ちょいと性格は治してもらうが、な》
一方、こちら四角い船。
突然、全乗員の頭の中に飛び込んできたテレパシーにてパニックになりかけたが目の前に迫る巨大太陽フレアの恐怖が勝り、なんとかフレアを回避する。
「ねぇ、さっきのテレパシーだけど……一番やばい人たちを怒らせちまったんじゃないのかね? あたしたちって……」
「この前の星間帝国からだろうな、最新情報は。でなきゃ、こんなポジションが特定できるはずがない。さっきも船長が船の操舵がイヤに重いって言ってたから、多分ロックされてるってのは、そのことなんだろうな。こりゃ、逃げるのは不可能だろう」
「お、おいおい! 何を悲観してるんだよ、お前ら。いいか、この船は、あっちこっちで買い叩いたり騙し取ってきた武器も、それこそ無数に積んでるんだぞ! いざとなりゃ一戦交えても……って! あれ見ろ! あれ! な、何が近づいてこようとしてるんだぁ?!」
「あ……こりゃ一戦交えるどころじゃないね……あの超巨大合体宇宙船の一番小さいのだって、この船の数十倍だよ。あんなものに、どんな武器が効くと思ってるんだい? あたしゃ、素直に投降しますぅ。死にたくない、生きててこその人生だもの!」
「うむ、俺も賛成だ。あのテレパシー、あの超巨大船の船長、あるいは、それ以上の力を持つ存在だろう。俺達が太陽の近くで寒気がしたのも当然か……俺も無条件で投降するぞ。他のやつは……反対は、お前一人のようだな……船長! 無条件降伏の通信を送れ。ウジ虫と怪獣の戦いなんて、勝てるわけもない。さっさと降伏だ、降伏!」
「お、お前ら……はぁ、気が抜けた。まあ、こっちの攻撃は無限に防がれて、向こうの主砲一発で、こっちは宇宙の塵と化すのは分かってるからなぁ……しかし、何処のどいつが、あんな馬鹿げた、夢にも出てきそうにない宇宙船を作ったのかねぇ……あれなら、それこそ一星系まるごとの生命体で宇宙旅行できるだろうに……いや、あれだけのサイズだから、銀河から銀河への旅かな? 一つの銀河じゃ狭すぎるよな、あれじゃ……」
いみじくも詐欺師集団の一人が呟いたガルガンチュアの用途。当たらずとも近からず、というところか。」
捕獲完了。
さっそく、教育機械(改造版)にかける。
性格の矯正は緩やかに、そのスキルや技能を潰さないようにする改造を施したものだ。
「さて、君らに俺達がやってやれるのは、これだけじゃない。少々の時間はかかるが君らの宇宙船を改造させてもらう」
俺の言葉に対し、最後まで反抗的だったリーダー? らしき男が返事する。
「そりゃ申し訳ない。もう犯罪で金儲けしようなんてこと、する気力もなくなりましたし。宇宙船の改造って四角形を球形にするとか?」
「いいや、そんなことやっても作業の無駄だ。エンジン部と推力調整の部分の改造だな、主に。具体的に言うと……プロフェッサー、説明してやってくれ」
「はい、我が主。詳細は改造マニュアルを読んで下さい。簡単に言えば、エンジンを我々が銀河内航行に使っているものに換装し、推力のコントロールを今までのロケット方式のような直線的な推力軸調整ではなく宇宙船全体を覆うフィールドにより加減速と進行方向を自由自在に行うことが可能となります。まあ実物を見て訓練すれば大丈夫、すぐに慣れますよ」
ここで四角形宇宙船の船長が堪らず口を出してくる。
「するってぇと何かい? 俺達の船は、この巨大宇宙船のように加速や減速でGを感じることもなく跳べるようになるってことですかい?」
「はい、球形ではないので、少々、舵が効きにくいかとは思いますが、ほとんど問題はないかと。それと兵器に関しては何も手を加えませんが、防御システムに関しては大幅にグレードアップします。この銀河の今の兵器体系でしたらフィールドバリアシステムを最強にした場合、貫けるものはないかと思われます。ちなみにマニュアルにも書かれていますが最弱モードでもガンマ線は通しませんので、ほとんどの宙域で行動可能になると思います……例外はブラックホールと、その周辺宙域くらいでしょうかね?」
おお!
という感嘆符付きの叫びが上がる。
「それは有り難い。ですが、こんなに俺達だけが得するのも……なんで犯罪者なのに、ここまでしてくれるんです?」
「ああ、それに関しては俺が答えよう。理由は君らが元犯罪者だから。悪に強いは正義にも強いって言葉があってね。悪人の気持ちが分かるなら善人の気持ちも分かるだろ。君らの罪に対する罰として無償でのトラブルシューティング作業をしてもらう」
「え? 俺達の船は大きいですが、この船のような各種装置は積んでないですよ? どうすれば?」
「安心しろ、こっちから必要物資と装置、器具は全て積み込む。超小型と小型の搭載艇も十機づつ搭載させるので、災害対応や様々な情報収集にも使えるようになる。後は……これは後のお楽しみだ」
言葉を濁されて、その数日後。
四角い宇宙船は、その全長を少し短くしていた。
「へぇ……ロケットノズルが無くなると余計に四角いのが強調されるわね。観測窓が無いと前後の区別も分かりにくいし」
「ああ、それと倉庫部分が拡張されてるな。燃料在庫の心配が無くなったので燃料倉庫が一割以下のスペースになったのに合わせて拡張されたようだ」
「倉庫部……やっぱり半分以上が新しい機材や資材だ。これは慣れるのに相当な時間がかかりそうだ」
乗員たちは新しくなったコントロールルームへ。
「おい? 今までの操舵システム、どこ行った? なんだこれ? スティックでも操舵輪でもないもの、俺達にゃ動かせねーぞ!」
その叫びを受け取って……
「お帰りなさいませ、船長。そして、この船の乗員の皆様。私は、この船のメインコンピュータです。操舵は通常、私が行いますので、皆様は進路を決めるだけで大丈夫です。詳しくはマニュアルをお読み下さい」
開いた口が塞がらない面々。
突然、宇宙船のコンピュータが自意識を持ったなどというのは納得できる話じゃない。
「あ、それから追加事項です。ガルガンチュアよりデータを、一部を除き、私のデータ領域にコピーされておりますので様々な初期宇宙文明やトラブルシューティングにお使い下さいとのことです」
《ということで、せいぜい頑張ってくれ。必要なものは、これで充分だと思う。君らの管轄は、この銀河内だ。じゃあ、これでおさらば! 》
「これでお別れですか?! 俺達に、この銀河を任せてガルガンチュアは何処へ行こうと?」
《お隣の銀河だよ、そっちでもトラブル発生中らしいんでな。ちなみに銀河から銀河への移動なら簡単。銀河団や超銀河団は、ちょっとどころじゃない壁があるが》
「銀河団? 超銀河団? あなたたち、いや、ガルガンチュアって何処の星から来たんです?」
《俺達は、この超銀河団の隣の超銀河団のなかの一銀河団の中の銀河系ってところにある太陽系って一田舎星系からやってきたんだ。いやー、超銀河団を渡るには苦労したぜ! じゃあ、頑張ってくれよ、期待してるぞ、はるか遠い宇宙から、な》
舷窓から巨大な船がとてつもない加速度で離れていくのが見える。
しばらくすると跳躍航法に入ったのか、その巨体が消える。
超銀河団すら超えるテクノロジー……
それを思えば一つの銀河内でのトラブルシューティング作業など鼻歌交じりのレベルだろう。
四角い宇宙船は、とりあえず近くの星系まで跳ぶことにする。
そこで、あちこちで起きているトラブルの情報を収集し、深刻なものから対処していこうと話がついた。
今日も宇宙は平和だ。
今日は泣いていても明日は腹の底から笑えるようになるだろう。
そうなるように飛び回っている宇宙船と人物がいるのだから。