第五章 超銀河団を超えるトラブルバスター
第五十六話 短編、いろいろ
稲葉小僧
一本目
ーーーーー特別医療船の苦闘ーーーーー
その星は未来も宇宙からも、そして、それ以外からも閉ざされている真っ最中だった。
その星には未知の疫病が蔓延していた。
最初、その星の支配階級や政治階級たちは、厄介ではあるが、そのうちに終息してしまう例年の新型風邪だと思っていた。
しかし、その新型風邪は全くもって過去のものとは違っていた。
その病状は過去のものより深刻で死者率も高く、政府がもたもたしている間に、あっという間に全惑星規模で広がっていく。
政府の高官たちが事態の深刻さに気づいた時にはすでに遅すぎて手のうちようがなかった。
感染者は十万や20万をあっという間に越え、百万、200万という大台にすぐに届く。
このまま進めば、その惑星内の人口の1割超が感染者となるのはグラフを見るまでもなく一目瞭然。
惑星政府は最後の一手に賭けることにする。
星単位の病原惑星宣言。
これをやると宇宙船の発着が即時に禁止されるが銀河統一機構からの特別医療船が派遣されてくるという特典がある。
惑星政府は、もう自分たちの手に負えないまでに感染拡大した病原体に対し打つ手が何も無いと宣言した。
「オルガ、今度の星は新型伝染病で感染率も死亡率も異様に高いらしいぞ。俺達で大丈夫かね?」
ここは緊急発進した特別医療船。
パイロット含めて全ての乗員が医療資格、それも医師資格はドクターと呼ばれる博士号持ち。
この銀河内でも有数の医療チームが登場している(なんと、看護師含めた乗員数は300名を越す)
全長800mという異様に長い船体は全幅300mほど。
これは収容する患者を全て隔離状態におけるということを最優先した結果。
ちなみに本船で足りない場合、救援要請で特別輸送艦が派遣されてくるが、こいつは本来、宇宙空母となる予定だった船殻を利用。
全長2000mという超弩級の輸送艦ではあるが、ほぼ全てが隔離可能の個室ベッドという特殊艦。
当然、スペースポートに着床など無理なので、衛星軌道で周回しつつワクチン開発を待つという時間稼ぎ用途に特化したもの。
過去、一番厄介な病原菌汚染事件となった惑星においても、このコンビで乗り切った。
「分からないわ、ルード。今度ばかりは特別輸送艦でも時間稼ぎにならない可能性はある。私達が及ばない領域は確かにあるのよ」
とりあえず特別輸送艦に待機準備を要請して司令部との通信を切るパイロットの二人。
ようやく見えた当該惑星、それは太陽の影に入っているからか、それとも未来を告げているのか真っ黒な姿を見せていた。
「スペースポート管理官へ。こちら銀河統一機構派遣の特別医療船、グラミー号。特別権限により当スペースポートへの着床を願う」
待ってましたとばかり広めの着床ポイントを指定される。
慎重に降りていく。
着陸すると政府代表の歓迎は断って、時間を争うように大学病院へ。
今までの病原菌対応と当該病原菌に対するデータを取るためだ。
ちなみに空気感染するかどうかも不確かなため完全な防護服着用で行く。
その姿は過去の農薬散布要員か、それより昔にあったという細菌戦争や毒ガス戦などの最前線兵士を思わせるもの。
まあ、無線と超小型強化外骨格装置により太めのちょい怖キャラクターとなっているので不安感はキツイものではない。
大学病院で最新の研究結果を見せてもらうが芳しくない。
あまりに早い病原菌の変異にワクチン開発が追いつかないようだ。
しかし病原菌の秘密が一つだけ分かった。
「こいつは人為的に変異させられた病原菌ですね。専門の研究所で秘密裏に研究されていたものが、何かの事故で外部に出てしまったということだそうです」
病原菌専門研究の医師チームの一人がデータ検証で確認したことを報告する。
定例の報告会を兼ねた全員出席会議の場において発表されると、より事態は深刻だと感じられる。
「と言うことはですね……その研究者のヘマを我々が尻拭いするということなんですが……その研究者は? 参考人として意見を聞きたいのですが」
「それが……最初の死者が、当の研究者でして。死ぬ寸前まで病原菌の研究と対処法を探っていたらしいのですが……」
「何も残さずに亡くなってしまったと?」
「いいえ、最後に書き残した文章があるようで……これは、我々の手には負えない。神の手に委ねようではないか……そう、書かれていたそうです」
当の研究者すら手が届かなかったもの本当に我々がなんとかできるのだろうか……
全ての関係者が深いため息が出るのをとめられなかった。
特別医療船が宇宙港に着陸してから数週間が過ぎた。
「これだけの日数が過ぎても病原菌の基本的構造くらいしか分からないとは……ちなみに未だ空気感染するのかどうかも判明してないんですよね?」
スペースドクター集団の一人が現地医師団に確認を取る。
「はい。亡くなった研究者の書類を見ても、これが特殊な変異をする病原菌としか書かれていませんでした。研究者自身は、この病原菌を様々な病原体のカウンターとして作り上げる予定だったと書いています。残念ながら結果的には最悪の病原体となってしまったのですが……」
カウンターウィルスのような仕事をさせるため病原体自身が変異しやすくするようにしたのか。
研究者の理想は理解できるが、そのために最悪の状況になってしまうというのは本末転倒だろう。
それから一ヶ月。
一応、基本的な抗体を持つワクチンは作り上げることが出来た。
「ただし、これでは病人の一割にも効かない。病原体の基本的構造から推測してワクチンを作ってみたが、この病原菌は変異するので変異してしまった後ではワクチンは効果を発揮しない」
巨大な大学病院にいる医療関係者全員に諦めに近いため息が漏れる。
どうやったら、この病原体全て、変異したものも含めて効果があるワクチンができるのか?
「研究者の最後の言葉ではありませんが、それこそ神の御手に委ねるしかない状況ですね」
現地医師団の中から半分冗談であろうが、そんな意見が出てくる。
銀河統一機構の特別医療船のクルーというのは、この銀河でも最高レベルの医療技術と頭脳を持つスペシャリスト集団。
その専門家集団ですらお手上げに近い状況というのは、もう最終判断をするしかないのかも知れない……
それでも、最後の望みを賭けて特別輸送船を呼ぶ。
特別輸送船は、その容量いっぱいまで患者を収容し、衛星軌道上を周回することとなる。
ただし、この特別輸送船に医師の集団は乗船していない。
患者の収容と隔離が主目的のため、ロボット看護師団が大多数だ。
対症療法が主となり、病状の悪化を抑えるのみで治療行為を行うことは出来ない。
医療船、輸送船、惑星側の全ての医療関係者が完全な手詰まり状態となっていた。
それから数ヶ月。
基本的なワクチンが軽症者にはある程度の効果があると分かり、二割ほどの患者が症状改善と見られるようになる。
しかし、それ以上の患者に対しては投与しないよりまし、くらいの効果しか無いので処置の方法もない。
「銀河統一機構から指示が来ました。こうなったら運を天に任せるしかないな、とのことです。輸送船の巨大出力送信機を使い、この銀河中に救助要請を発信しろとのこと」
特別医療船パイロットから通信が来た。
「馬鹿か? 本部の奴らは。我々以上の医療技術を持つものや種族など、この銀河のド田舎や辺境の辺境まで探しても、どこにもいないのは周知のことじゃろうが! あまりに酷い迷信じみとる!」
教授の異名を持つスペースドクターが叫ぶ。
数分間、教授をなだめ、落ち着かせる。
「教授、言いたいことは分かります。しかし、これ以上は我々の手の出せる領域ではありません。発信も、やってみるべきです。何も起きないならそれまで我々がなんとかするしかありません。もし、それで奇跡が起きるなら、それはそれで良いのではないでしょうか」
理屈にもなっていなかったが全員が納得する。
そこまで追い詰められていたということだろう。
「こちら銀河統一機構、特別輸送船。ただいま当船のいる位置にある惑星にて重大パンデミック発生中。特別医療チームが派遣されてきたが手も足も出ないのが実情だ。誰でも良い、救助を乞う! ただし医療的な隔離手段を持たない宇宙船は来てはいけない。銀河中に病原菌をばらまく恐れがある。繰り返す、医療船の派遣を願う。医療船以外、来てはいけない!」
これを数回、数分おきに繰り返した。
この特別輸送船の送信機なら銀河をまるまるカバーできただろう。
辺境ならレピータシステムによって、より遠くへも届いたに違いない。
「返事、来ませんね」
「いやいや、送信終了してから数分じゃないか。もう少し待とう」
一時間弱……
「こちら、全てのトラブル解決船、ガルガンチュア。新型病原菌でのパンデミック、了解。ただいま辺境地区にいるため、少し待ってくれ。数時間後には到着できると思う」
返事が来た!
「しかし……トラブル解決船? 銀河統一機構に、そんな部門あったかな?」
「まあ、なんでも良いから、救援に来てくれるんだ。ありがたい! 最悪、特別輸送艦に収容しきれない患者の追加ベッドとして使わせてもらおうじゃないか」
数時間後……
ガルガンチュア到着。
あっという間に病原体は駆逐され、おまけとばかりに亡くなった研究者の理想のようなものが進呈される。
「こいつはナノマシンの塊です。こいつを散布すれば大気中の病原体を食い尽くし、薬用として摂取すれば体内の病原体駆逐と共に体調を正常化してくれて、さらに抗体や抵抗力までアップするというものになります。様々なデータと共に、こいつも差し上げますよ」
あっという間に惑星全部をきれいにし、あっという間に去っていった巨大な異形船。
人々は空いた口が塞がらなかったという。
後に、このデータが元になり銀河統一機構には災害救助部隊という医療や災害救助専門の巨大部門ができることとなる。
当の惑星では異形の巨大船ガルガンチュアをミニチュア化したペンダントが大流行し、病気や災害から人々を守護する象徴として信仰の対象となったという。
二本目
ーーーーーインターフェース革命? ーーーーー
その星では闘いが行われていた。
戦闘の主役は乗用型のロボット。
建設重機からの兵器なのでレバーやらボタンやらが操縦席にやたらめったらと附随している。
それを扱いに慣れた専門家が扱って、相手のロボットを倒し、そのついでに宇宙船やらステーションやらも攻略していくのである。
ちなみに、このロボットの闘いは専用に造られた闘技場でのみ行われ、その勝敗により相手の持ち物(宇宙船、領地となるステーションも含まれる)を奪う権利が勝者に与えられる。
敗者には抵抗する権利はなく、どのようなものを要求されようが差し出さねばならない(闘いの規定により要求できるものは一つだけ)
まあ、すったもんだの争いに発展する可能性もあるため普通は双方で差し出すものを決定してから闘うこととなるが。
ロボット闘技者となるためには専門的な教育と技術を教え込む必要があるため、普通の人間がやりたいと思っても、そうそう一朝一夕になれるわけではない。
専門教育を行う学校も存在するが、そこはそれ、土建機械の講習に毛の生えたような最低限の教習学校から、戦闘ロボットに特化したバトルパイロットを純粋培養する国家管理された軍の兵士養成校みたいな非常にレベルの高いところまである。
軍の養成校では学生募集をしている。
国家の金で兵士養成するため学費はタダ。
おまけに通常の仕事報酬の半額ほどになるが学生は定期的に報奨金の名目で結構な金額がもらえる。
特に貧しい家庭など、この報奨金で家族を食べさせようと募集に応じる者も多かった。
このような情勢のため、この星では大規模な戦争は起きなくなっていった。
代理戦争とも言うべきロボット同士の闘いで決着をつけようという文化が自然と育っていき、そのために国家の威信を賭けた闘いともなると、そのバトルに賭ける資金や掛け金、国民の期待や情熱、そして、賭けられるモノの大きさと価値は跳ね上がる。
以上のようになった土壌で国家代表として闘うロボットには、その国の最新の技術が惜しみなく投入され、それを扱うパイロットにはとてつもない高給が支払われることとなる。
勝てば、その栄誉は跳ね上がり、その役職は飛び級、報給は倍以上の額となる。
負ければ一気にどん底となり、民衆に石を投げられ、役職は取り上げられ、報給は無となる。
言ってみれば命をかけた人生レースのようなもの。
しかし、そんな高リスクで高配当な人生にも関わらず、このロボットパイロットを目指す輩の多いこと。
国家の威信を賭けて闘うパイロットなど一つの国家に一人か二人しかいないにもかかわらず、現状では数万人の現役パイロット(土建業界含む)、候補生まで入れれば数百万人まで膨らむ。
とてつもない急峻なピラミッド構造など目に入らないかのように明日の最高栄誉を手に入れるため、今日もパイロット養成校ではひよっ子たちが教官からの訓練(と言う名のシゴキ)を受けている。
「オラオラ、もっと速く! ロボットに乗ったって基本の体力が無きゃ長期戦は無理だからな! 体力の向上には走るが一番! ほーれ、あと80周だ、頑張れ! これが終わらなきゃ次の搭乗実習には行けないんだから!」
はぁ、はぁ……
足が、足が上がらない……
手は惰性で振り続けているので、とりあえず進むが、スピードなんて上がるわけがない。
心臓の鼓動が耳に響く。
肺は必死に酸素を求めるが要求に応えるだけの量は入っていかない。
あと何周だっけ?
もう頭も働かなくなってきた。
晴れた日の太陽……
暑いなぁ……
「おいっ! どうした一年生! 早く起きて……いかんな、熱中症か……医務室へ運ぶぞ! 手伝え!」
気がついたら僕はベッドで寝ていた。
起きようとするが頭がクラクラする。
「ダメよ、慌てて起きないように。熱中症で倒れたんだから、しばらくは安静にしないと」
あ、医務室か、ここ。
大好きなロボットに乗れるんならって、この学校選んだんだけど早まったかなぁ……
初日から体力勝負の授業なんて、ついていけないかも知れない……
ちなみに僕、当麻修(とうまおさむ)15才。
小さい頃からロボット大好きっ子。
子供の頃にはラジオ・コントロールや有線コントロールのロボットを父に買ってもらい、そのままでは面白くないのでカスタム、改良を行って遊ぶ。
ラジコン、リモコン操縦では僕の右に出るものはいなかった。
町のロボット相撲大会やリモコンロボットバトル競技会では常勝。
地区大会、地方大会、全国大会までは常連。
全国チャンピオン大会を経て、大人も交えたリモコンロボットバトル大会では、さすがに及ばなかった。
「はっはっは、まだまだだな。所詮、おもちゃの操縦機。安物じゃ本物には勝てんよ」
世界チャンピオンの一言。
世界チャンピオンのコントローラーは、そのまま乗用ロボットのコクピットを持ってきて、コントローラーにしたもの。
子供の目には、どれがどの部位を動かすのかすら理解不能だったけど、今なら分かる。
そして、そのコントローラー(ほぼ実物)が、いかに金をかけたものだったのかも。
それは子供心に好奇心と敵愾心をかきたてた。
相手が実物で来るのなら、こっちは実物を超える操縦装置を作ればいい。
とりあえずロボットの実物を操縦できる入り口に立った僕は、それから数年後の僕だった。
入学から一年が経ち、僕の体力も人並みにはなってきた。
とはいうものの、まだまだ基礎体力が人並みになっただけで同級生のトップなど、もはや異次元に近い体力お化けなんだけど。
「ほらほら、ビリグループ。トップと一周近い差が付いてるぞ! 走れ走れ、それしかないんだ」
教官は新入生を柔軟体操で悲鳴上げさせてる中、僕らのほうも見逃さない。
引退したとは言え一時期はロボットバトルのトップグループにいたこともあるというのは嘘じゃないみたいだ。
2年生からは搭乗実習もあり、これが目当てで入学した僕らのような学生(どうも同級生の大半が搭乗実習目当てだったみたい)は狂喜乱舞した。
厄介だったのは搭乗実習の他に整備実習もあったこと。
こいつは一部の生徒(メカマニアって言うの? 機械系を触ると感動を覚える人たち)には大受けで、巨大な前腕パーツを数千もの微細パーツに分解したりする実習も含まれるんだけど、そういう分解整備は、はっきり言って僕には面白かった。
どういう形で、どういう系統でロボットが動かされているのか?
それが基本的理解できたことは幸運。
3年に上がると研究課程に進む。
この頃になると、さすがに体力も新入生の頃とは別物になってくる(でも、この体力養成は卒業するまで続くそうで……気が滅入る)
研究課程って何かって言うとロボットを操縦する時のインターフェースから人工知能(もどきだけど。本物の人工知能を搭載すると闘いを拒否するんで)の育成、武器や装備の研究開発なども含まれる。
僕が選択したのは教育型コンピュータと、そのインターフェース。
実際に何やってるかって言うと……
「えい! えいっ! ジャンプ、しゃがみキック! パンチ、パンチ、キック!」
エクセレント!
という対戦画面表示……
あ、遊んでるんじゃないよ、これ(絵面的には遊んでる以外に表現しようがないけどさ)
インターフェース研究の実用化試験、真っ最中。
僕の前には小さな箱がある。
そこから伸びる一番大きな部品はスティック。
てっぺんには丸い球体が付いていて、これを360度操作しながら武器や装備を利用するわけ。
後は大きな赤いボタンと青いボタンが一つづつ、緑と黄色のボタンが一つづつ。
箱には、その他には何も付いていない。
たった5個の部品でロボットを操作しようって画期的なインターフェースだ。
僕が開発したんだけど資金がなくて、軍と絡んでる企業に上から紹介してもらったら、その企業が僕のインターフェースに食いついた。
ロボット操縦に使うんじゃなくて新しいゲーム(対戦格闘って言うらしい)に僕の開発したインターフェースを使いたいってことらしい。
援助金は凄い額だったんだけど僕は条件を付けた。
「このインターフェース、僕の開発してる新型ロボットにも使えるように」
この一つだけ。
研究費がたっぷりあるんで、その後の開発は順調だった。
卒業資格も博士号も、このインターフェースと教育型コンピュータで勝ち取ったさ。
今?
今の僕は憧れだったロボット搭乗者。
今から初戦、初めての実戦体験。
とある企業VS企業の代理戦だけど、けっこうな因縁があるようで、双方の社員たちから怒号が飛び交う。
闘いが始まった。
向こうは実戦経験豊富な戦士のようで、まずは様子見のようだ。
さて、こっちも始めよう。
まずは全速前進。
手前5mで急停止、しゃがみキックで相手を崩し、ジャンプからのサマーソルトキック、そして大技、ジャイアントスピン!
ゴロゴロ転がった相手ロボットは、なんとか起き上がった。
ここで決める!
かかと落としから必殺のパイルドライバー!
搭乗部は大丈夫だけど頭部がひしゃげた相手ロボットから、搭乗者が出てくる。
コクピットは頑丈に作ってるんでパイロットが死ぬなんてことは滅多に無い(たまにあったりするんで怖いんだけど)
僕は勝利者コールを受けて、退場する。
さて、と。
こいつでインターフェース革命起こしてやるぜー!
ちなみに、このインターフェースは一部には絶賛の声を持って迎えられれたが全体的には受けなかったと言われている。
格闘用に特化しすぎているため建機や宇宙用の作業には使い物にならなかったと言われているが……
三本目
ーーーーー巫女姫の、ため息ーーーーー
たまには、ガルガンチュアが出ない別の話を語ろうと思う。
とは言うものの全く関係のない話ではないが。
ここは、とある銀河。
一部のものは、
「予言の巫女姫の銀河」
と呼ぶ。
そこを統べる、と言うか、その銀河全ての生命体に愛され崇められている当の巫女姫さんの名前は、マリー。
もう3000年以上の長きに渡って、この銀河の未来を示し、戦の兆候があれば、それを警告し、はたまた宇宙震や惑星規模の災害が起きると予言して様々な自然・宇宙災害から命を守る仕事をしていた。
未来は定まったものではない、それは自分でも理解しているので彼女は予言の公開すらも慎重に行っている。
例えばプレコグニション(未来予知)の能力で戦争を予知したとする、
その予知では、どの星系の、どの星の何処の誰が戦争の引き金を引くか?
まで予知することができる……
が、発表は何処の星系で、どの星で戦争が起きる、までの情報しか公開しない。
理由は?
その予知により当人が逮捕されたり殺されたりしたら未来が変わりすぎるからだ。
まあ、2つの銀河の衝突という大災害を回避しておいて今更という気はするが、それは当人の気の持ちようだ。
今、その予言の巫女姫様は……
「ふわぁーっ! 退屈だわー。このところ平和で平和で仕方がないのよねー。まあ不穏な未来が見えないのは良い兆候でもあるんだけどねぇ……」
見た目、20代後半。
実際には3000歳を越えている巫女姫様はアンニュイな気分になっていた。
自分を除いた世界で世代が交代していく。
その時間の移り変わりから自分は隔離されているようなものだ。
「いい加減、巫女姫様なんて立場から離れたいんだけどねぇ……この、でっかい神殿みたいな場所から逃げても、すぐに追手がかかって連れ戻されるだろうけど……敬われるのは良いけど、神のように拝まれるなんてのは何回見ても慣れないのよー。もっとフランクに接してもらいたいんだけど」
何度も何度も、彼女は巫女姫の立場を降りたいと願ったが政治・宗教・経済・軍の全ての部署から反対が出る。
「あなたの予言があるから、この銀河は平和になっているんです。それが消えたら我々の行動指針が無くなるようなものですよ。どうやって、この銀河を管理して行けと?」
いや、それを管理するのは予言者ではなく、あんたらだろうと言う彼女の意見は聞く耳持たないとばかり、
「トラブルや災害を予知されているから事前に適切な手が打てるんですよ。それが無くなってしまえば災害や戦争が起きた後に手を打つしかない。この違いは如何ばかりか? 当の姫様が、おわかりにならないはず、ありませんよね?」
こう言われてしまえば彼女としても何も言えなくなってしまう。
言外に、予言が無い時も予言がある時に匹敵する利点があると言っているからだ。
「どうしようかしら? これからもずっと、この神殿に半永久的に自由意志ではあるけれど、閉じ込められてるような状況は、とてもじゃないけれどゴメンなのよねー」
巫女姫のため息は今日も止まない……
今日も巫女姫マリーは悩んでいる。
「世の中は平和だけど私はちっとも平和と平穏じゃない。あいも変わらず緩やかな軟禁状態……まあ、私が普通に町中に出ちゃったら大変な事態になると分かってるから、そうそう外へ出るのも自粛してるのもあるんだどさ。はぁ……たまに外出くらいしたいよねぇ。このままじゃ、どっかの星の神話じゃないけど岩屋の中に引きこもって出てこない女神様だよねぇ……あーっ! なんで私は、あの時にガルガンチュアに乗らなかったかなぁ……」
いつもの愚痴だと自分でも理解はしてる。
しかし、こればかりは、どうしようもない。
自分が選ばなかったポイントからの仮定の未来は予知もできないし、そもそも時間線が伸びているかどうかも分からない。
だらだらと愚痴がこぼれる中、ふいにインスピレーションが来たと感じた。
「何? このアイデア……これを実現させたら、もしかしたら……」
巫女姫は天啓と称した画期的なアイデアを部下たちに説明する。
しかし、そのアイデアは星系どころか銀河全体を巻き込んだ。
「巫女姫様のクローンを大量に作るだと?! そんなことして大丈夫なのか?」
「巫女姫様ご自身のアイデアなんで不敬なのかどうかは不問としてもな。まずは、あの未来予知能力そのものがクローンを作成した場合に受け継がれるのかどうか? という基本的な事から考えねば」
「いや、基本的に遺伝子は同一だが精神は違ってくるはずだ。ということは脳の構造は同じでも中の回路が違うと思えるんで万に一つも同じ能力が発現するとは思えんのだが……」
「いやいや、博士。完璧なクローンなら基本的に脳の構造は同じはず……ということは今の巫女姫様の脳領域マップを作って、それを転写してやれば同じ人間が作れるんじゃないのかね?」
「脳が精神の容れ物なんて実証も実験もされとらんぞ。仮に脳領域マップの完全版が手に入ったとしても、それをコピーしたところで同じ精神構造となるなんて保証は、どこにも無いんじゃよ、大臣」
侃々諤々の論議が始まったが、いつまで経っても結論は出ない。
未来予知の能力など巫女姫以外に所持する者が皆無だからだ。
あまりに貴重で希少なサンプルとして、巫女姫のクローン計画は慎重にスタートすることとなった。
「では姫様。サンプルの遺伝子を採取させていただきます」
実際には血液や唾液、汗などが巫女姫の体から採取されることとなる。
「計画は順調かしら? 予知能力者が銀河全体でたった一人ってのが、この事態のそもそもの原因でしょ? それなら、予知能力者を増やせば、この過剰警備も解消されるんじゃないかと思ったのよ」
「はい、クローン製造のための研究設備も拡充され姫様のサンプル待ちという状況です。とは言うものの姫様のお力そのものが貴重で希少な為、クローンが同じ力を持つとは言い切れませんが……」
「それは保証できないでしょうね。そのために未来予知することもできないわ、これは私自身の未来予知と同じことなんだから……」
これより巫女姫量産計画がスタートすることとなる……
この計画による銀河の未来が、ほんの少し変わったのは事実だが……
クローン作成の研究が始まる。
ただし、一般人のクローンではない、こともあろうに予言の巫女姫のクローンなので研究は慎重にも慎重を重ねられることとなる。
前提とするクローン技術は医療用として臓器や皮膚、骨格までの部分クローン技術は完成しているため失敗は考えられない。
しかし難しいのはオリジナル(巫女姫マリー)の完全クローン体を作り上げるよりも、その超常能力、未来予知能力が受け継がれるのかどうか? という点。
こればかりはクローンが完成してみないと、どうにも分からないし成功の可能性すら未知のもの。
研究開始から数年経って、ようやく第一号とも言えるクローン体が完成。
さっそく、この第一号の超常能力開発に取りかかれと号令がかかり研究所はクローン体作成及び育成の班と超常能力開発班とに分かれることとなる。
オリジナルも、これで訓練したということで教育機械へ第一号を。
巫女姫本人から教育機械のプログラムを聞いたが別に私専用のプログラムとかじゃなかったって聞いてるわよと、とのことで汎用教育プログラムになる。
ただし巫女姫の脳領域マップデータがあるので、それと同じようなものにするため教育機械に少しばかり超常能力方面の知識とデータを詰め込んだ特別バージョンのモードにして教育機械は第一号の教育を開始する。
できるだけオリジナル脳領域マップに違いがないようにしていたが、そこはそれ、クローンとは言え別人と同じ。
少しばかりの相違はあるが最終的には96%の相似形となる脳領域マップが第一号に出来上がる。
で……
「はぁっ?! 超常能力は発現したが、強いテレパシー能力だけ? 他の能力は……はぁ、よわーいサイコキネシスは発現したと思われるが予知能力は少しもない……そうか。残念だったが、まあ強力なテレパス能力者が一人生まれたと思えば失敗ではなかったな。博士、クローン体第二号は、この結果から修正して今度こそ未来予知能力を持った個体にしたいものだ」
「そうじゃな、大臣。脳領域マップが4%ばかり違っておったのが原因と思われるが、そうではない可能性もある。これは数をこなすうちに発現するのではないかと思うが……」
「とりあえず巫女姫様にはクローン体は完成したが未来予知能力は発現しなかったと報告しておく。しかし巫女姫様の中には実は強力なテレパシー能力も眠っていたのだな。これでサイコキネシスまで発現したら、どこまで才能の塊だったという話になりそうだわい」
大臣は、そう軽口を叩いたが、それがフラグだったとは知る由もなかった。
ちなみに彼には予知能力は無かった。
第二号は一号よりも慎重に慎重を重ねてクローン体誕生にも時間をかける。
誕生すると通常の生活空間で育てられ、教育機関へも入学、卒業。
仕事も数年間経験させ、それから教育機械へ。
脳領域マップも慎重に慎重を重ね、ミスの無いように相似させていくが……
「大臣、今回は非常に時間をかけたが脳領域マップは97%までしか一致しなかった……超常能力は確かに発現したが何だったと思う?」
「もしかして……未来予知ではなく……サイコキネシスとか?」
恐る恐る聞く大臣。
それを聞いて、深くうなずく博士。
はぁぁ……
深い、それは深いため息が2つの口から同時にもれ出た。
それから長くて険しいクローン育成と教育の膨大な実験が始まった……
第二号の失敗にめげず巫女姫クローン化研究所は頑張った。
頑張って頑張って……
およそ1000体のクローンが造られたが、結果……
「超常能力は全ての個体で発生したが全て未来予知とは違うものだったと? 未来予知能力は欠片ほどの目も出なかったというのか……仕方がない。最終報告として姫様に提出する報告書には未来予知の能力は何か銀河規模の災厄やトラブルがあるときのみ発生する特殊な力、神からの贈呈物に近い能力ではないかと思われる、と書いておこう」
計画は失敗したが、ある意味では大成功だった。
なぜなら1000名もの超常能力者、それも強力な力を持つものばかりが揃ったのだ。
これを様々な組織に組み込めば例えば災害や火災被害からの救助の面でも助かる。
要救助者の捜索に強力なテレパスが一人いるだけで効率が全く違ってくる。
そして大きな救助機材が入れない土砂災害地域でも強力なサイコキネシス能力者を一人送り込めば救助効率が格段に違う。
様々な分野で、この1000体のクローンたちは活躍して行くこととなる。
自然と同じ顔が社会のあっちにもこっちにも見受けられるようになる。
最初は、
「うわ! 巫女姫様が、なぜに災害現場に?」
とかニュースにもなったが銀河統一政府の説明により徐々にではあるが巫女姫のクローンたちは社会に受けれられていく。
そしてクローンたちの人権も保障されるようになると(初期に闇の奴隷市場でクローン体の一体が売られそうになったが、すんでのところで救助され、それからクローンの市民権運動が盛んになり、数年後には人権が認められて結婚も可能となった)クローンの子どもたちも社会へ出るようになり、クローンたちは通常人と変わらぬ生活を送ることとなる。
ここにクローンたちが社会に受けいれられて一番、得をした人がいる。
当の予言の巫女姫本人だ。
「あーっ! このところ毎日のように外へ出歩いてるけど、少数の護衛で済むようになったわねぇ、嬉しいなぁ」
もしかして、こうなることを予知していたんじゃないかという一言は大臣からも博士からも他の面々からも出なかった。
まあ、口に出したくとも巫女姫の機嫌が悪くなるような一言は言えなかっただろうが。
ちなみにクローン体たちは全て普通に育ち、子を生み、老いていく。
限られた寿命しか持たないが、それなりに充実した人生を送っているようだと巫女姫は羨ましく思う。
「こんな身体にしてくれたガルガンチュアと楠見さんに恨みはないけどねー……あーっ! なんであたしは、あの時にガンガンチュアクルーにならなかったかなぁ?! 過去に戻れるものなら、あの時の自分を張り倒してでもガルガンチュアに乗る方を選ばせたろうに……」
いつまで経っても銀河の至宝とまで言われる予言の巫女姫、マリーさんの愚痴は止まらない……