第五章 超銀河団を超えるトラブルバスター

第五十七話 特殊能力、開発します

 稲葉小僧

ここは、とある銀河の、とある星系。

別段、特徴のあるような銀河や星系じゃない。

そこに、ここだけ変わった星があった。

その特徴とは星の住民の特殊能力。

いわゆる超能力というやつなんだけど星の住民の約8割を超えているESP能力保持者率。

まあ殆どが極端に集中してようやく目の前の人物の表層意識が読めるとか、脂汗流してようやく1gの物を浮かせられるとか、そのレベル。

しかし、その中には異常とも言えるレベルの超能力者もいるのは当然で……


「どうだ? もう降参して土下座しろ。こんなところで死んでしまったら何も良いこと無い人生だろうが」


ボロボロの僕を相手に相手は勝ち誇る。

くっそー、僕にも力さえあれば! 

最初は他愛もない諍い。

列に割り込んだとか、そんなこと。

相手も僕も意固地になり、喧嘩になったらいきなり相手がサイコキネシスあるいはテレキネシスを発動してきた。

僕のESPレベルなんて最低のE。

サイコキネシスもテレキネシスもありはしない、微弱なテレパシーのみ。

極端に集中して、ようやく相手の考えがぼやーんと見えてくるような、読心術のほうが正確だろうというような微弱な力でしか無い。

相手の方は多分だがテレパシーは持たず、サイコキネシスかテレキネシス。

それも一瞬で発動させて、ここまで相手を傷つけることが可能になるなど、どう見てもレベルC。

才能の違いというのを、まざまざと見せつけられた僕が、それでも立ち上がろうとしていると、どこかで警察官の声が。

どうも、野次馬が警察に電話してくれたようだ。


「けっ、命拾いしたな。これからは弱いくせに粋がるなよ!」


捨て台詞を残してスタスタと逃げていく相手。

僕は警官に助けられ、事情を聞かれる。

周囲の人が、僕が相手に割り込みを注意したのが最初だと証言してくれた。

僕は擦り傷や切り傷(あまり深くはなかったが、スッパリ切れている皮膚が数箇所あった)の手当をしてもらい、家に戻る。

体中が痛かったけど、僕はとりあえず食事を取り、お風呂は無理ということで早めに寝ることとする。


ベッドに寝てると無性に腹が立って怒りが湧き上がる。

ああ、畜生! 

もう少し僕に力があったら……

理不尽な要求や今日みたいな悪いやつに負けるようなことはないだろう。


しかしESP能力ってのは先天的な能力だというのが学校でも教わる常識。

一応、訓練すれば伸びるんだというのは経験的にあるようで軍や専門的な訓練所、研究所もあるんだけど、そこでもレベルが極端に伸びるようなことはないというのが定説。

僕の最低レベルEは、どうやったってDレベルに到達するのが関の山で、その上のCレベルなんてのは遥かな高み。

生きてるうちにCレベルになるなんてのは無理な話だと我ながら思ってる。

まあね、あいつはCレベルの念動力持ちだけど世の中には、いや、歴史的には、それ以上のレベルの人たちだっている(いた)

今、生きてる人たちの中ではレベルAという、もう人間離れしてる人たちが片手で数えられるくらいだけど存在してる。

過去には、それを超える、もうESP能力が肉体を持って生きてるとも言えるレベルSなんて人たちもいたと記録には残ってる。

僕の力が小さいのは理解してるんで、レベルAやSなんて無茶は言わないけど少なくともレベルBになったら……

ってな淡い希望は抱いてる(無理なことは承知してるけど)


朝、切り傷は別として擦り傷は治ってたんで、学校へ。

登校時、校門に立ってた教師に怪我の理由を聞かれ、


「ちょっとしたトラブルです。相手が念動力持ちだったようで……」


そこまで言うと教師は納得したという顔で通してくれた。

僕は正義感が強かったんで、こういうトラブルには、けっこう遭ってる。


授業は普通に終了し、下校。

帰りに少しお腹が空いたのでジャンクフード屋へ。

この店、店名が「ジャンクフード屋」という、あまりに洒落がキツイ、フードショップ。

粉物、ハンバーガー、揚げ物、ヌードル系と、あまり毎日続けると体に悪そうな食べ物ばっかり売ってる店。

飲み物も刺激の強いものを中心にカロリーも高めなものばかり。

学生や若い人たちが主として集まってる店。

まあ、金のない奴らが多いんで、その点でも単価の安いカロリー高めの食事が欲しい人たちには、うってつけなんだろうね。

その店で小腹を満たすため大きめのハンバーガーを食べていると、ふと目に着いたチラシが。

そこには……


「あなたの潜在能力、目覚めさせませんか? 自分で気づかない力、開発します」


ってなアオリ文字が。

特殊能力開発研究所? 

怪しさ爆発の名前だけど最初の数回は無料で受講できると書いてある。

気に入って本気で受講するとしても月数千円で大丈夫と……

えらく安いが大丈夫か? 

まあ自分の微弱な力が少しでも強まるなら……

という気楽な考えで、そのチラシの某研究所とやらへ行ってみることにした。


その変な会社(?)はジャンクフード屋と同じビルに入ってた。

僕は1F(ジャンクフード屋は1Fにある)からエレベータで最上階(8F)へ。


「ここか……特殊能力開発研究所(株)だって。怪しさ爆発してる会社名だね」


お目当ての部屋を見つけたけれどドアを開ける勇気が湧いてこない。

だって、あまりに社名が怪しすぎるんだもの。

どう見ても通常のESP訓練所や訓練学校の関係じゃない普通の事務所に思える。

もしかしたら詐欺? 

そんな事を思い、ドアを開けるのを躊躇してたら突然に目の前のドアが開いた。


「興味あるんじゃないかな? 入りたまえ」


そう言って眼の前の男性が僕を招き入れる。

びっくりしたけれど、僕がドアの前に立ってたから興味を持って来たんだろうと推測したなと思われる。

おどおどしながら部屋の中へ入ると、その会社の経営方針やら特殊能力開発の様子やらがパネルになって表示されているのが目に入った。


「どう? 君の精神は無限の可能性がある。最初の数回は無料だから体験だけでもやってみないか? まあ、今日は君の潜在能力だけを計測させてもらうんで能力開発は次回からになるんだけど」


にこやかな顔をして、その男性は僕に語りかける。

まあ今日は計測だけとか言うから体験だけやってみようかな? 


「はい、とりあえず無料体験だけやってみます。どのくらいの時間がかかりますか?」


一時間もかからないということで僕は変な形をした寝椅子に近いようなものに座らされる。

変なコード束なんかは伸びてないので安心したけれど、この寝椅子でデータを取ってるみたい。

およそ20分少々、退屈になってきたところで計測作業は終了。


「お疲れ様、こっちもデータ解析の時間があるんで今日はこのまま帰ってもらって良いよ。あ、これ1Fのジャンクフード屋で使える割引券。半額になるんで使ってね」


おお、これは儲けた! 

思わず知らず良いものを貰ったんで、僕はウキウキ顔で部屋を後にする。


次の日。

放課後、僕は特殊能力開発研究所(株)のドアの前にいる。

ドアをノックしてガチャリとノブを回し、僕は部屋の中に入る。


「こんにちわ、昨日、測定してもらった者ですが」


「お、早速来たね。じゃあ、計測結果の検討と君の能力開発について話そうか」


昨日も対応してくれた男性が話しかけてくる。

ネームタグに「郷」って書いてあるのが目に入った。


「あの、珍しいですね、郷って普通は名前に付けたりしますけど」


「そうだろ。珍しいんで一発で憶えてもらえるんだよ、これが。営業としては嬉しいね」


そうか、営業職としてはお客に名前を憶えてもらえるのが利点となるんだ。

そんなこと思いながら僕は他のスタッフさん(女性)が書類の束を持ってきて郷さんの横に座るのを目にする。

ネームタグには「ライム」と書かれてる。

まあ顔立ちも、この国の女性一般の顔立ちじゃないし外国人なんだろうな。

カタコトで話すかと思いきや流暢に話しかけてくるのでびっくり。


「では、東堂卓(とうどうすぐる)さん、ですね。あなたの計測データについてお話します。それから、これからの特殊能力開発スケジュールについても、お話します。スケジュールについては、そちらのご希望も取り入れることは可能ですので、なんなりと言ってくださいね」


へぇ、良心的だな、ここ。

最適な訓練や伸びがいのある方面しか訓練しない軍や訓練学校が多い中、こういうのは珍しい。


「あ、はい。まあ、できれば、なんですが……僕は微弱なテレパシーしか持ってないんで希望としてはサイコキネシスやテレキネシスみたいな力が欲しいなと……」


僕が希望を言うと郷さんが、


「ふむ……受動的なテレパスとしては伸びしろは高いけれど……潜在的な力としては能動的なテレキネシスやサイコキネシスも持ってますね、東堂さん。ご希望は能動的な力の方を開発したいとのことですが、どうです? このさい、全般的に能力を高めるってことで」


え? 

ESP能力を新規開発して旧来の力も含めて全般的に伸ばすって? 


「そ、そんな事、可能なんですか? 僕の知っている限り、弱い力を少しづつ伸ばすことは出来ても新しい力を開発して全般的に伸ばすなんてことができるとは思えませんよ?」


そう、そんなこと聞いたこともないし、何処の星でも国でも、そんなことが可能になるような理論が発見されたなどというニュースは聞いたことがない。

こりゃ、本当に騙されたかな? 


「普通は無理だと思うでしょ? ところがどっこい、うちの会社の新型機器なら可能です。ただし、ごくまれに相性最悪で無理な人はいるんですが。でも昨日の計測時に君は頭痛がするようなことはなかったでしょ? それなら大丈夫です」


昨日の計測作業は、その新型機器との相性も測ってたのか。

ってなわけで僕は初日とは違った、フード型をした枕(?)を備えたベッド状のものに寝かされる。

ベッドに寝た状態でフードが降りてきて、どうやるのか僕の体の形状に最適化された状態に変形したベッドと、頭の前後にフード状の枕が挟まった状況が出来上がる。


「あ、眠かったら寝てて良いですよ。約一時間後、自動的に終了となりますので」


あまりに良い寝心地で僕はぐっすりと寝てしまった。

気がついたら開発作業とやらの一日目は終了。

僕は熟睡したようなスッキリした頭で家に帰った。


その日は朝から頭が冴え渡ってたように思える。

学校でも授業がいやにスローペースに思えてしまうほどに理解力が高まっていた。


「東堂、ここ、前へ出て回答しなさい」


教師に言われて黒板前に立つ。

立った瞬間、どこがどうなって、どう読み解けば回答になるのか全ての筋道が理解できていた。

僕は、その筋道をなぞるように書いていく……


「っと、よし! 先生、これで終了です。あと、これが成立するための条件とは……」


「は? おいおい、東堂。そりゃ高校でやる次元じゃない……なんじゃそりゃ? 空間の歪み率? 虚数空間? そりゃ、理系大学どころの話じゃなくて今の最新理論だろう。お前、どこかで論文でも読んだのか?」


先生が呆れ果てた表情で僕を見てる。

昨日までの僕は、いわゆる「モブの一人」だったんだから無理もない。

この状況には僕自身が驚いてたりもするんだけど。


「いえ、何も見たり読んだりしてません。でも、この条件は外せないと急に思えたんです」


それ以上、俺も理解不能だと呆れた教師の顔を見ながら僕は席へ戻る。

次の授業では飛び入りの外語教師が来た。

言われている言葉は聞いたこともなかったんだけど、なぜか意味が理解できてしまう……


「素晴らしい! テレパシー能力が優秀ですね、東堂くん」


と言われたけど僕は自分の貧弱なテレパシー能力を実感してるからなぁ……

???と疑問符ばかりのつく学校での一日が終了し、僕は真っ先に特殊能力開発研究所(株)のオフィスへ向かう。


「郷さん! ライムさん! 僕の頭の中、どうしちゃったんですか?! 今日は、いきなり自分じゃない日常に放り込まれたんですけど!」


開口一番、僕は一番の疑問を口にする。

原因は昨日の特殊能力開発だろう。

あの特殊装置に一時間くらいしかかかってないはずなのに、もう驚くくらいの成果が出てる。


「おや? 自分でも驚くくらいの結果だったようですね、東堂くん。しかし、そんなもんで驚くようじゃ、まだまだです。君の力は、まだまだ、こんなもんじゃない。そうですね……能力開発が終了すれば君は超天才、Sレベルのテレパス、そして少なくともBの上レベルのサイコキネシスを得ることとなるでしょう……まあ、希望すれば、それ以上にもなれるとは思いますが……こちらはお勧めしません」


郷さん、苦笑という顔をして最後の方は言葉を濁す。


「え? それ以上にもなれるって? それが、どうしてお勧めじゃないんですか?」


「能力開発作業を今のようにやってる限り、つまり命の危険が全く無い状況でやってる限り、今言ったレベルが上限となるんです。で……それ以上を求める方は我々の手を離れることとなりまして……つまり能力開発の最上限まで引き上げようとすると担当者が代わるんです、これが。その方のやり方は特殊でして……はっきり言ってスパルタすぎるので君の安全を考えると、お勧めしたくないんですよ」


途中から郷さんが真剣に語りかけてくる。

こりゃマジだね。


「命が危ないような可能性のある開発作業は僕としては無理です。ところで無料期間って、どこまでなんですか?」


そう、これが今日聞きたいこと。

無料期間が終わったら突然にバカ高い作業料や講師料を取るってのが、こういう会社の通常体制。


「あ、それね。とりあえず、東堂くんの場合は全て無料で大丈夫です。上の方の許可も貰ってます」


え? 

嬉しいけど、こんな特典ばっかりの能力開発が無料だなんて……


「あのー、何か裏があります? この会社、もしかしたら軍や政府が裏に付いてるとか……」


それが心配。

まあSレベルのテレパスなんてのは戦闘部隊へは配属されないから大丈夫らしいけど。


「あ、そりゃ、ないない。こんな会社が軍や政府に頼れるような実績や功績、あると思う?」


郷さんの回答。

そりゃそうだ、言っちゃ悪いけど、この会社名だけとっても軍や政府が後援してるなら、もう少し一般受けする社名にするだろうし。

そんなことを思いながら今日も日課となりつつある、ベッドに寝て一時間の能力開発作業となる。

昨日もそうだったけど開発作業後は頭がスッキリする。

集中力や思考力そのものが基礎的にベースアップされたような感じ。


で、郷さんに詳しく聞いたところ、僕の無料化の原因が判明した。

どうも僕は汎用能力開発対象として、うってつけの素材だったらしい。

あらゆる方面への能力開発ができる人間ってのも、そうは見つからないんだそうで、その意味では僕の能力開発作業はテストケースとなるようだ。

だから無料化してでも手放したくないんだと郷さんが熱心に言うんで僕も了承する。

タダで高度なエスパーにしてくれるって言うんだから、それに乗らない手はないだろう。

まあ、ご多分に漏れず、この言葉を自分で後悔することになったのは、その後のことなんだけど……


特殊能力開発作業を始めてから数週間。

最初は自分が驚くくらいの伸びを見せたけれど数日後からは伸び悩み。


「東堂くん、最初が凄かったから期待してたんでしょうが確実に力は伸びてますよ。自覚できるようになるまでには、もう少しかかるでしょうが」


郷さんが慰めてくれるけれど僕は落ち込んでる。


「でも、郷さん。僕の力が伸びてるって自覚が、あまりに無いんですよ。これって僕の潜在能力が思ってたより低かったってことなんじゃないんですかね?」


そう、初期の頭の冴えもおさまり、読心力も開発前の微能力になっちゃうし……

で、今の僕の力は開発前よりひどくなってるんじゃないかと思ってるところ。

やらなきゃ良かった……

なんて思っても仕方がないことだけど僕は自己嫌悪に陥ってるところ。


「まあまあ、続ける事に意味があるんだ、東堂くん。自覚はないだろうが、もう少しで自覚できるのは確実だから今日も頑張ろうな」


郷さんに説得され僕は今日の日課に移る。

と思ってたんだけど……


「東堂くん、今日から、こちらの機器にかかってくれないか」


郷さんに言われてその方向を見ると、いつものスリーピングベッド状の機器じゃなくて椅子にヘッドセットがかかってるようなものが見える。


「こっちが正式なんだよ。今までの機器は、こいつの簡略版、サブセットというやつだ。君の開発進度からサブセットじゃなくて正式版、まあ正式名称は教育機械と言うんだが、こいつの方が良いだろうということになったんでね。君の場合、サブセット版のような偏った開発じゃなくてあらゆる方向への汎用開発が適してるということで」


半信半疑で僕は正式版という「教育機械?」に座り、ヘッドセットのような物を頭に装着する。

郷さんの話によると教育機械での開発だと寝てようが起きてようが関係ないらしい。


一時間後、終了したけれど、そんなに変わったことはないように思える。


「東堂くん、そんなにガックリすることはない。数値には現れてるんで、そのうち格段に強くなった力が発現するさ。ただし、これは俺の予想だが君自身が君の力にリミッターかけてるんだと思う。自分の制御を離れてしまうほどに強い力を振るうのを恐れてるんだろうな、君自身が」


その言葉を聞きながら、僕は1Fに降りてジャンクフードショップへ。

今日は変に腹が減っているので半額チケットを使って普通の倍近い量の食べ物、飲み物を買って、バクバクゴクゴク。

満腹になって家に帰って、普通に夕食まで食べて寝る。


次の日、早朝に目が覚める。

変に頭が冴えているのが気になるけど、それよりも腹が減ってる。

おかしいな? 

僕、ここまで食欲魔神だっけ? 

朝食で待てなくて自分の部屋に置いてある非常食(乾パン、フリーズドライ食品、軍用タイプの糧食バー)を起き抜けに沸かしたブラックコーヒーで流し込む。

普通に朝食の分を平らげてひと心地つくと、頭の冴えが鋭くなってくるのが分かる。


「やってみるか……」


精神を集中し自分が高性能受信機になったと思うようにする。

すぐ、その成果が発揮される。

ありとあらゆる人の心の声が入ってくる。

数十人どころじゃない数なので、とてもじゃないが聞き取れるわけがない。

より集中して、一人、また一人と心の声を自分の中から消していく。


「で……できた。僕のテレパシー、ずいぶんと強くなったようだ」


思わず呟いたけれど、こんなことは以前には無理だった。

あの教育機械とやらで能力開発した甲斐はあったってことだね。

まあ、送信能力は何処まで強くなってるのかわからないけれど(相手がいないとテストできないし)少なくとも受信能力と、それを取捨選択して少人数へ絞り込むなんて高等技術も、いつの間にかできてたわけだね。


しかし、僕なんて底辺に近いテレパスなのに、ここまでの領域に達することが可能になるって、とんでもない事が起きてることだってのは僕にも分かる。

名前だけ聞くと怪しさ爆発って会社だけど、とてつもない技術と実績があるんだと思う(実績が全く無いってのは、あり得ない。だって、こんな一般人に近いエスパーの能力開発なんてのは多大な実績とデータが無ければ無理だと言うことは、こういう事に素人の僕にだって推測できるから)

ん? 

もしかして、もしかしてだけど……

テレキネシス、またはサイコキネシスの方面も……

僕は、やったこともない念力系の力を使おうとしてみる……

数分間、集中してみたけれどダメだった。

まあ、テレパシーのように昔から微弱でも使いこなしてる力じゃないから無理だろうというのは分かってたけどさ。

でも、それが違うってことは次の日に自覚できることとなった……

とんでもない事態で。


その日は何事もなく授業も終わって、日課となった能力開発も終了。

無性に腹が減るんですが? 

と郷さんに聞くと、


「ああ、それは能力開発が進んだ証拠だよ。脳領域の開発が進むと、どうしても糖分の必要摂取量が多くなってくるからね。そのままで良いと思うけど食費がバカにならないと思ったらジャンクフード屋の半額チケットがあるんで、それを複数枚あげる。とりあえず、それで大丈夫だろう……まあ脳領域開発が全て終了してしまえば、そんなこともなくなるのは証明済みだけど」


え? 

最後の言葉、僕は聞き逃さなかった。


「郷さん、証明済みって言いましたよね。この異様に腹が減る現象も頭の中のモヤモヤが晴れていくような感じも全て過去にデータ取得されてるんじゃないんですか? 僕は、ひょっとして、その追体験と言うか、データを追体験したというか……」


郷さん、少しすまなさそうに、


「そうなんだ、まあ、初めての体験者は俺でもなきゃ君でもない……正確に言うと俺の上司。彼、最初は君より低い能力しか発現していなかったが教育機械などという優しいトレーニング方法じゃない、とてつもない原始的で荒っぽい方法ではあるが君に優るくらいの急激な成長を見せたとデータがある。しかし、これは君にお勧めできる方法じゃない。下手すると実験対象が発狂しかねないという危険な方法だから」


うわぁ……

いくら最初は手探りと言えど、チャレンジャーだな、その人。


「成功したから良かったですが、一歩間違えたら、とんでもない事になってたんですね」


「ああ、発狂してたら俺達がここにいて君と話してる、この状況そのものが無かっただろうけど。縁というのか宿命というのか……宇宙のさだめの奇妙さと言うか……」


そう話す郷さんの表情は何だか遠いところを見てるような視線が入ってた。

まあ、それはともかく僕は郷さんから半額チケットを数十枚もらい、ジャンクフード屋で食欲を満たす。

日を追うごとに食欲は増していくようで能力開発作業前なら絶対に食べきれないくらいのハンバーガーやサイドメニューの山を、見る間に食べ尽くしていく僕がいた。

周りの学生やビジネスマン、僕を見る目が凄い。

でも空腹には勝てないんで視線を無視して眼の前の食べ物の山をザックザクと食べていく。

小山に近い量の食べ物・飲み物を30分もかからずに食べ尽くすと、周りからホーという賛嘆のような信じられない物を見たような悲鳴に近い声が聞こえた。


「また来てねー」


ジャンクフード屋の主人から、もう常連と見なされた僕にいつもの声がかかる。

まあ、毎日のように来て数人前を食べ尽くす常連さんなんてのは客引きとしても優秀なんだろうね。

満腹感に満たされながら交差点を渡ろうとすると……


「キャーッ!」


女性の悲鳴と共に僕に向かってくる一台の車……

信号無視で突っ込んできた、警察車両に追われた犯罪者の運転する車だというのは後で分かったこと。

僕に向かって一直線に向かってくる車に対し僕はその時、不思議と危険だと思わなかった。

どうしたのかって? 

猛スピードで向かってくる鉄の塊に対し僕はすうっと片手を伸ばすようにしたという(周囲にいた証人の話)

自分じゃ気づかなかったけれど無意識に念動力、たぶんサイコキネシスだろうと思うんだけど、それを発動させたらしいというのは自分で分かってた。

グワッシャーン! 

巨大な壁にでも衝突したような衝撃で僕の伸ばした手の50cmほど先で車だったろうスクラップの塊が出来ていた。

見てた人たちの話によると、その後数秒ばかり、僕はその姿勢で立っていたらしい。

そして、その場に倒れたそうだ。


僕が目覚めた時、両親の姿があった。

どうやら病院へ運び込まれて様々な検査をしてくれたようで。


「怪我も何も無いのに意識がないということで心配したんだぞ! お前、何をやったんだ? うちの家系に超のつくほどの能力者はいなかったんだが……命の危険を感じて目覚めたか?」


父親が語りかけてくる。


「僕にも理解不能だよ、父さん。無意識だとしか言いようがないんだ。まあ、能力開発作業やってるんで、こういう事になっても不思議はないと思うんだけど」


言った途端、僕は後悔した。

特殊能力開発研究所(株)のことは家族にも言ってなかったから。

その後、脳にも異常なしという医師のお墨付きで家に戻った僕は両親からの質問の嵐に遭った……


病院は検査が終わったら退院許可が出た。

もともと心身に異常はなかったんだけど意識が戻らないから入院してたらしい。


で、今、僕は両親と共に特殊能力開発研究所(株)のオフィス内にいる。

両親ともに、どうして僕のESP能力が突然に伸びているのかの理由が知りたいと言うので郷さんに連絡取ったら、オフィスに居るってことだったので夜分遅くではあるけれど、こうして親子ともども訪問してるわけ。


「……で、つまりは、この子、卓の元々持ってた才能の一つが開花したと。しかしですなぁ……私も弱いですがテレパスなんですが、表面に現れない力というものが、いかに開発しにくいか、それは身にしみて理解してるつもりですよ。過去、いくつの訓練学校や訓練所に通わされたことやら……十年近く訓練してた私ですら数%の能力向上しか実現できなかったんですよ。とても信じられるものじゃない。しかし……あの事故現場で発現した、この子の力は本物でした。病院に行って息子が昏睡状態だと聞かされて、すぐに現場検証にも立ち会わされて、とてつもない力が開放されたと実感しましたよ」


父さんの話が止まらない。

ようやく一息ついたら、その回答を郷さんが。


「信じがたいというのは理解できます。が、これは現実の話ですよ。卓くんは突発的に超Aクラスとも言える念動力、まあ、サイコキネシスですね、それを発揮できる能力を発現してます……しかしですね、これは開発作業に伴う弊害でもあるんですが……あまりに脳の要求する糖分が多すぎるため突発的な糖分低下の症状を起こすことがあります。今回は命の危険があると脳が判断したので大量の糖分を瞬時に使って強大なサイキックシールドを発生させたようです。これだと意識をなくして倒れても不思議じゃない」


「じゃ、これからも卓の命が危なくなった時には同様に倒れてしまうとか? 頼もしいか危なっかしいのか、どっちか分かりませんわ」


お母さんが、ため息混じりで言う。


「まあ、その点は開発作業が進むに連れて解消されていきますので、ご安心を。あくまで脳領域開発の途中で突発事故が起きたということですので。ちなみに開発が終了すれば今のように猛烈な食欲も糖分が異様に欲しくなるってこともなくなります。これは保証します」


とりあえず、この脳領域開発を中止するほうが僕にとってはマイナス要因が多すぎるってことで、このまま開発作業は続けることとなり、僕は一安心。

無料化は続けますとの郷さんの言葉で費用の面でも大丈夫だったのが両親が認めた最大要因だったのは恥ずかしいから僕の胸の中にしまっておく。

ちなみに両親も弱いけどESP能力はあるので、ここで開発してもらったら? 

と僕が提案すると……


「いや、残念だけど、東堂くん。君のように柔軟な脳領域だったらウチの開発法が適用できるんだけどね。君の両親は言っちゃ悪いが、もうお年がお年だけに脳領域が柔軟じゃない。ウチが開発した方法が適用できるのは未成年だけなんだ」


郷さんの答えを聞いて残念な顔をしたのが父さん、ほっと一安心したような顔をしたのが母さん。

まあ、両親も納得したということで僕らはオフィスを出て、家に帰った。

ちなみに、家に帰って夕食は普通に食べたよ。

あの大事故に遭遇して、あんなことがあった後で、よく食欲があるなと父さんに呆れられたのは当然だけど、そんなことと僕の胃袋は別物だからね。


次の日。

朝から異様に腹が減って、いつもは軽い朝食もガッツリと食べる。

母さんは見てて気持ちが良いくらいに食べてるけれど体重は大丈夫? 

とか言ってたけれど大丈夫どころか、その場で2mくらい垂直跳びできるくらいだよって答えたら笑ってた。


学校の授業は普通……

とは言え普通って何なんでしょ? 

理数系の授業では今まで理解不能だった複素数領域を含む虚数関数が嫌に素直に理解できてる。

おかしいな? 

僕は、どちらかというと文学系が得意だったはずなのに。

異様だったと自分で思ったのは運動の授業。

僕は、どちらかと言うと部活動も文系のほうだったのに現役の運動部の、それも大きな大会に出場して上位入賞なんて日常茶飯事のスター選手に並んで走れる(やろうと思えば追い抜けたかも)とか球技でも今までの運動音痴に近いのが現役野球選手みたいな動きが普通に出来てるという。

放課後には運動部へ誘われるのが確実だったんで、授業が終わると、そそくさと逃げ出していつもの能力開発作業を。


「うん、順調に伸びてるわよ、東堂くん。あの事故に遭ってサイコキネシスの方も急激に伸びたみたいね……これからは能力を伸ばすのも大切だけど、その制御にも時間を振り分けましょうか。あまりに大きな力を持ってしまうと、その使い方に苦労するでしょうから」


ライムさんが言うけれど僕の力って、そこまで大きく強くなるものですかね? 


「東堂くん、自分を過小評価してるみたいだけど計測数値は正直よ。あなたの潜在能力は大きいの、もっと自信を持ちなさい! まあ海を割ったり果ては星を割ったりは無理かも知れないけど(笑)」


あの、ライムさん? 

言いにくいんですが海を割ったり星を割ったりしたら、それはもう人間技とは言えないのでは? 


「だーいじょうぶよ! 私の知ってる人の中でも星を割れるなんてトンデモナイ力の持ち主は一人しかいないわ。そこまでの力を持つのはホントに限られた人間だけなのよ……まあ、普通の人間とは言えなくなってるとは思うんだけど」


一人だけど居るんですか、ホントに?! 

海を割るなんて、この分じゃ、いっぱいいそうだなぁ……

そんな感想を持った僕だった。


次の日……

特殊能力開発作業が一段と進んだせいか猛烈な食欲魔神と化す僕だった。

朝はガッツリ丼飯プラスベーコンエッグ三人前。

昼は昼で定食を四人前ペロッと平らげる(学生食堂だから周囲の視線が痛かった)

放課後は例によって脳領域開発作業の続きを一時間(今は初期の開発作業は終了し、中程度の開発作業らしい)

それにしても能力制御の訓練プログラムまで入れてるってのに初期の頃より所要時間が短くなっているのはなぜだろう? 

少し疑問だったので郷さんに聞いてみる。


「ああ、時間は短くなったんだが結構な量の知識やデータを詰め込んでいるんだ、圧縮した状態で。初期状態の脳領域だと、こんなことは無理なんだが今の君の脳内は開発作業前の倍近い容量を入れ込んでも平気で受け入れるようになっているんだからスゴイもんだよ」


あのー、ですね。

あまりに頭脳ばかり発達しても肉体がついていかないんじゃないでしょうか? 


「ああ、そうだね。でも、それは脳内の特定領域の開発だけやるから起きる弊害だ。君の場合、全般的に脳領域そのものを満遍なく開発しているから、その心配はない。小脳まで開発しているので、やろうと思えばオリンピック選手並みに動ける。まあ実際の肉体トレーニングをやっていないので筋肉痛を回避できないが……緊急避難的に使える火事場の馬鹿力をコントロールできるんだと思えば良いかな」


はぁ……

一瞬だけどスーパーマンになれるってことだけは理解しました……

後の筋肉痛が怖いけど。


「朗報もあるよ。君のサイコキネシスだが事故時に使った程度のパワーなら、もう少しすると日常で使えるようになるだろう。あのレベルのパワーを使っても、もう糖分消耗で倒れることはないって事になる」


今の食欲魔神状態の解消は、いつになるんですか? 


「こいつばかりは、もう少し長くかかるな。脳そのものが効率よく働かないと糖分不足になる程度の差こそあれ基本的にはパワーを出せば糖分が不足する。最終的には脳領域開発が終了した段階で食欲や糖分の異常欲求は解消されることは間違いないんで諦めずに開発を続けることだ……あ、それから明日からで良いのでテレパシーとサイコキネシスの訓練を始めることを勧めるよ。まあ、もう一つ、肉体トレーニングも。精神力も筋力も訓練しないと伸びないものだから」


そう郷さんに言われオフィスを出た僕は、そのまま1Fにあるジャンクフード屋へ。

待ってましたの顔をする店主に半額券を出して、いつものように山盛りとなったトレーを持って店内の飲食席へ。

この店、どうして8Fの特殊能力開発研究所(株)と提携してるのか今更ながら理解した僕だった。

この店の味、全て甘みが強い。

普通だったらダイエットの大敵なんだろうが今の僕のように脳が糖分を要求する状態だと救いの神のような店だ。

10分とかけずにトレーの上の飲食物を平らげると僕は店主に会釈をして、家に帰る。


家に帰ると夕食を、こちらもガッツリと摂取。

呆れるような顔をした両親を横目で見ながら、風呂へ入ってベッドへ。

郷さんに言われたようにテレパシーの訓練を始めようとする……

スゴイ! 

特定の人物の思考も鮮明に聞こえるし、数十人の精神も普通に聞き分けられるようになってる。

この僕に、こんなテレパシー能力があるとは今まで思いもしなかった。

次はサイコキネシス。

力の使い方は、あの緊急事態で自動的に使われているため、意識しなくても分かるようになっているようだ。

少しづつ力を増しながら机の上に置いているボールペンを浮かせようとする。

障壁のような使い方じゃないので、ちょっと下手くそだなと自分でも思うけれど仕方がない。

数十分もやっているとコツを掴んだみたいにボールペンがフワリと浮き上がる。

後は簡単。

上下左右、急上昇や緊急停止、力を抜いて落下するのを途中で止めたりして、できるだけ自分が楽しめるように訓練していく。

一時間もすると、さすがに眠気が襲ってくる。

肉体と精神の限界かな? 

そう思った僕は欲求に逆らうことなく、そのまま眠りに落ちていった……


〈東堂くん、君の力は、まだまだ伸びるだろう。で、君はどうしたいんだ? このまま力を伸ばせば君はA級を超えてS級に迫れるくらいのエスパーに成長できるだろう。しかし、力を持つということは責任と義務を持つことにもなる。やろうと思えば君は、この星の支配者にもなれるだろう……しかし支配者になったらなったで、その地位と権力に責任を持たねばならなくなるぞ。もう一度、問う。君は、どうしたい? 強力な力、テレパシーとサイコキネシスの巨人となる未来で君の目指すものは何だ? そして、その巨大なる力で君は何をしたいのか? 今から考えておかないと大変な事になるぞ〉


この声は初めてだ。

夢の中なのに変に冷静になって、僕はその声を聞いていた。

そうか……

僕はESPの巨人となるのか……

それは指摘されて初めて気づくことだった。

普通の人間と変わらない群衆に紛れそうな一人に過ぎなかった僕が、そんな一種の特殊能力の特異点となる。

それは英雄願望を持った少年が偶然にも英雄になってしまい、狼狽える状況にも似ている。

そうか、それが僕の考えるべきことであり、僕の未来を決めることにもなるんだ。

僕は、そんなことを考えつつ夢の中での眠りに落ちていくのだった。

そんな夢を見てから(夢だったのか? 妙にリアルだったぞ、あの言葉)数週間。

僕は脳領域開発の中盤終わりに差し掛かろうとしていた。

あの夢が語りかけてくれた言葉は今も考え続けている。

毎日の訓練(精神的にも肉体的にも)で僕の能力がすごい勢いで伸びている、強くなっているのは実感している。

この力を、どう使うべきなのか? 

自分の欲望に忠実に生きるために使うのも良いかも知れないが、そんなことは僕自身が拒否する。

では、どう使う? 

それこそ、面映いが正義の味方として悪を退治していくのもありかも知れない(まあ、やろうとは思わないけど)

どっかの星から来た超人さんみたいに普段は底辺社会人としてこき使われているが、一旦事あるなら変身して人知れず解決してまた社会の忙しさに戻るって手もあるだろう。


僕は、どうしたいんだろう? 

うーん……

分からない。

最初は迷いなく社会正義を貫くために使う! 

などと思ってたんだけど今は違うなと考えてる。

すごい力を持ってたって自分の考える正義を押し付けるだけじゃ、それは悪の大組織よりも悪いことをやってるに過ぎない。

じゃあ、その力を隠して生きるのが正解? 

と言うと、それも違うと僕自身の中から声がする。

んー、どうすれば良いのか? 

そんなことを毎日のように考えながら僕の力は強く、伸びていく。

食欲魔神化の方だけどピークを過ぎてからは、そこまで食べなくなってた(とは言うものの程度問題で今の食事量は常人の5倍程度。周りの友人たちからは、よくそれだけ食べて太らないよね、羨ましいわぁ、などと無責任なことを言われてる)

テレパシーとサイコキネシスの方は順調……

とは言えないスピードで伸びていくようで、この頃は自分でも何処まで強くなるのやら時折怖くなってくる。

テレパシーは、とうとう海を越えて他の国の人たちの心が読めるようになっている。

サイコキネシスは肉体限界を超えて100kgのコンクリート塊を持ち上げることも可能となっていた(これでBクラス上は確定。郷さんによれば、この10倍以上は緊急時の力として出せるだろうってことだけど、それって人間を超えてません? あ、ここまで脳領域開発が進んだら、もう最後まで行くしか無い? はあ……もう人間やめるのは確実かぁ)

郷さんによると、ここまで開発されてしまうと、ここで教育機械での脳領域開発作業を止めたとしても、もう脳が自力で開発を始めてしまうんで最終段階まで行ってしまうんだとか(時間的に短いか長いかは、さておいて)

だから、できるだけ脳に負担をかけないよう教育機械で開発をやるほうが時間的にも能力的にも無理なく伸びが早くて高くなるんだとか。


「郷さん、開発が終了するのは、いつ頃になるんですか?」


特に意味はなかったけど興味あるんで聞いてみた。


「ここまで来たら後は早いよ。そうだなぁ……制御力の強化もあるんだけど、それを含めても総合的に、あと一ヶ月もかからないと思う。もっと早くするのは簡単だけど最終段階だから細部まで慎重かつ漏らしの無いように脳領域を開発してやらないと、後々、トンデモナイことになりかねないからね」


え? 

トンデモナイことって何? 


「ああ、滅多に無いことだけどショック療法のような形で特殊能力開発された人間は得てして自分の正義に固執しやすくてね。自分の理想とする世界を実現するために世界そのものに戦いを挑んで挙げ句の果てに世界が滅んだ後に孤独な支配者として星に残されるって悲劇もあったからねぇ……あの星は悲惨の一言に尽きたなぁ……」


うわぁ……

止めといてよかったぁ……

でも、そうか。

僕は一人だけの孤独な王様や皇帝にならないよう、この力の使い方を真面目に考えなきゃならないんだ。

脳領域開発が終盤に突入してから、僕は常に、常人を遥かに超える力を、どう使うのか? 

それを考え続けることにした。

正解はないかも知れない。

でも考え続けることそのものが正解に近づくのかも……


とうとう、その日が来た。


「東堂くん、お疲れ様。今日で特殊能力開発作業は終了、つまり君の脳領域開発の最終作業日となるってことだね。長かったけれど、これで、もう君は明日からでも専門分野でエキスパートレベルで働くことも可能となるよ」


エキスパートレベル? 

ちょ、ちょっと待ってくださいよ、郷さん。

最初は伸びてもテレパシーでAクラスの下で、サイコキネシスはBクラスの中までって話じゃなかったんですか? 

エキスパートレベルって、それ宇宙開拓最前線で働いてもケロッとして宇宙から戻ってくるレベルだって噂で聞いてますが。

だいたい現在この星にエキスパートレベルはいないって話ですよ……

あまりに貴重な人材で発見されると即、企業または軍からリクルート担当者が送られて宇宙へ送られるって聞いてますが? 


「まあ、噂としては概ね正しいかな? この星に現在、エキスパートレベル、つまり、テレパシーでもサイコキネシスやテレキネシスでも、どれか一つでもSクラスの能力に達すると自動的にエキスパートレベルと認定されて普通人とは違う将来を約束される。企業や軍から誘いがかかるってのも事実だね。彼らの鼻は犬より鋭いようで」


だ、大丈夫ですかね? 

僕、まだ学生を辞める気にはならないんですけど……


「多少は諦めてもらうしかないかな? どちらにしろ今日の脳領域開発作業が終了すれば君の大食漢も消滅するが、その代わり普通人としてのレベルだけど安定した生活ってのは無理だよ」


ちなみに今日の終了時点で僕の能力値は? 


「それは確定してるね。最終調整になるんで驚異的に上がるわけじゃないけれど相互補完的に能力が上昇するのは過去データからも分かってる。最終的には東堂くんの力はテレパシーがSクラス、前人未到とまで言わないが過去にいたって言われるSクラスのテレパスと同程度には強い力となる。サイコキネシスはSクラスには少し届かないけど数百kgの物体を楽々と持ち上げて空中遊泳させるくらいは普通にできる。まあ糖分補給が必要になるけれど緊急的に数十tまでなら瞬間的に持ち上げる力は出るだろう」


うわぁ……

歩く破壊兵器ですよね、それって。


「違う違う。東堂くん、君は勘違いしてるようだから最後に忠告しておく。力は、あくまで力でしか無い。それは肉体の力も精神の力も同じことだ。小さな力でも正しく効果的に使うなら、それは巨大な力にも優るものとなる。巨大な力を誤って使ったり制御不能になるなら、それは「歩く破壊兵器」と同じだ。君の中にある力、それは君がどう使うか、どう使っていくのかで力の価値が決まっていくんだ。悩んでも良い、だけど使うと決めたら迷うな。君の意思次第で、その力は神の力にも悪魔の力にもなりうるから」


郷さんの言葉、一生、忘れることはないだろう。

約2時間(最終調整も入るということで、この時間となった)後、僕は、やけにスッキリした表情と、その割に空腹感が無いことに戸惑いを憶えつつ事務所と教育機械置き場を兼ねた部屋を後にした。


1Fに行って、いつもの習慣でジャンクフード屋へ。

店主と常連さんたちが、おお! 

大食いチャンピオンが来た! 

なんて顔をしてるのは感じるけれど、今日は今までの山盛りメニューじゃない。

ハンバーガーとポテト、ドリンクをセットで頼んで、それで終わり。


「東堂ちゃん、どうしちゃった? どっか体調が悪いのかい?」


店主が具合悪いのかと聞いてくる。


「いえ、食欲が元に戻っただけです。昨日まではご迷惑かけました」


「えーっ! 昨日まであれだけ食べてたのが元に戻ったって? いやだけど、そんな急に食べる量が減ったら体に悪いだろ? 普通は徐々に減らしてくもんだろ?」


「いえ、それが……今日から体の自己管理は完璧に出来るようになったんで」


一部女子視線が痛かったが、これは真実だからね。

脳領域開発が終了している今、僕は食欲も含めた三大欲求すら自分の意志でコントロールできるようになってる。

僕の周りで痛いほどの視線を送ってくる、一部「夏は大変だろうな、脂肪は脱げない」体型の男女の一群が心の中で叫んでいるのが聞こえる。


「ばっかやろー! そんなの自由意志でコントロールできるようなら、こんな体になってないやい!」


ご愁傷さまとしか言いようがないけど、これは僕の特殊能力開発の、言わばオマケみたいなものだから。

軽い食事(昨日までとは全く違う)を終えると、僕は家に帰った。

家には、どこから情報が漏れたのやら、宇宙開発で有名な大企業や軍(宇宙軍に限らず地上軍のほうも)のスカウトが数十人もマンション前で待ち構えていた。

話を聞いてほしいとか、これだけでも見てくれとパンフレットの山を渡されたり……

マンション前に、あまりに人だかりが多すぎて通行の邪魔になるってことで、両親含めて、改めてスカウトさんたちと交渉の場を別に設けることとなった(スカウトさんたちと路上で話ししてる最中にも海外企業や別惑星からのスカウトもやってきて、ただでさえ狭いエントランスに数百人が押しかけることとなっちゃった)

とりあえず全員に帰ってもらい、連絡先を書いてもらったメモを見ながら交渉をする日時と場所を連絡するメールをスカウトさん全てに送る。

交渉する日は数日後。

場所は市の公会堂(これには後で言うけど理由がある。警備上の都合ってだけじゃなくてね)

さて、父さんと母さんには心配かけるかも知れないけど、ここからは僕の一身上の都合を押し通させてもらうとするかな。

郷さんの忠告、あの夢で教えてもらったこと、それらを現実にするのは僕自身なんだから。


数日後、メディア記者も多数押しかけてきたので記者会見兼ねた就職交渉会と相成った。

僕自身、思うところがあったので今回の会見及び交渉会での意見は決まっていた。


「それでは数十年ぶりに発見されたマルチ能力者にしてエキスパートレベルの特殊能力者、東堂卓くんの公開記者会見と彼の将来の就職先を決定するであろう各社及び軍関係のスカウトたちとの交渉会を開催させていただきます! まず各メディアからの質問を受付けますのでメディア関係者の方、どうぞ」


という司会の開催宣言によって大げさになってしまった(結局、千人を超える人数が集まることになってしまった)記者会見が始まった。


「えー、垢日新聞社の**と言います。率直に質問しますが、東堂くんは、どこでそんな超常的なレベルの力を身に着けたんでしょうか?」


あれ? 

この記者は、あの駅近くのビルにある特殊能力開発研究所(株)のことを取材してなかったんだろうか? 


「お答えします。僕は生まれつきの能力は微弱なものだったのですが皆様も取材でご存知の特殊能力開発研究所(株)の郷さんという担当者に出会って、ここまで強い力にしてもらいました」


僕が答えると、その記者は怪訝な顔をして、


「えーと……すいません、我々も東堂くんの超常的な力を知ったのが、あの事故の一件からでして……で、その聞くからに怪しそうな会社名、初めて聞くんですけれど……」


あれ? 

あれれ? 

もしかして、この記者さんたち、僕より先に取材すべき会社事務所を取材してないのか? 


「現実に存在する会社ですよ、特殊能力開発研究所(株)は。だって、あの駅近くに存在する〇〇ビル、一階にジャンクフード屋ってハンバーガー中心のファストフードショップがあり、その8階に存在してるはずです。僕、先週まで、そこで脳領域開発をしてたんですから」


だがしかし。

僕の発言を、わけがわからないとでも言うように首を振り、その記者代表は返答する。


「そのビルのジャンクフード屋は取材しました。先週までは、とてつもない食欲の少年ということで店じゃ話題になってましたね。しかし、あのビルの8階? 最上階には下の階にある会社の倉庫代わりと着替え室に使われている部屋ばかり……一つだけ、割合と広い部屋が何も使われずに空き部屋となってましたけれど……」


はぁっ?! 

空き部屋だったって?! 

じゃ、じゃあ、僕が脳領域開発を行っていたのは実際には何処だったんだ? 

ドアを開けた感触は未だ、この手に残ってる。

ドアを開けたら実は異次元空間だったとでも言うのか? 

記者の取材は徹底的に行われたらしく、その部屋は数年前から空き部屋だったということでビルでも使ってくれる会社や個人があるのなら格安で貸したいらしいとまで言っていたそうで。


「じゃあ、ジャンクフード屋に置いてあったパンフレットは? あれで、僕は8Fに行ったんですけど?」


答えは想定済み。

ジャンクフード屋の店主は、そんな物は知らない、憶えがないと証言したそうだ。

半額チケットは? 

と聞いたら、こちらは正規のものらしい。

店で定期的に発行しているもので期限はないが僕が連続して使っていたので発行枚数を増やすことも予定してるんだとか。

じゃあ僕は、誰と会って、何をどうやって、脳領域開発なんて一つ間違えれば発狂どころか死に直結する危険な人体実験のようなものを安全かつごく短期で済ませられたんだろうか? 

それからの問答は、お互いに食い違うものばかり。

基本的に認識が食い違っているのだから仕方がないだろう。

最後はグダグダに近いものとなって、記者会見というイベントのようなものは終了した。


さて、次はスカウトさんたちとの折衝だ。

こちらはビジネスライクに……

とは行きそうにない方々もいるようで。

表層意識をさらっと読んだだけで物騒なことを考えてる人たちがいる。

スカウトとは名ばかり、超常能力者を敵視している団体や組織の送り込んできたスパイや直接的に暗殺なんて物騒なことを企んでる人たちも数人。

宗教的なものなのか体の中に高性能爆発物を飲み込んでる人もいたりするんで、そういう人たちを選別して普通のスカウトさんたちに迷惑をかけないようにしなきゃ。


メディアの記者さんたちは帰ってしまい、半分ほどの人数になったが、まだ多い。

僕は司会や警備担当の方たちに相談して普通のスカウトさんたちと物騒な集団とに待機部屋を分けてもらうことにする(真実は話せない、ここで爆発事件なんて起きた日にゃパニックになる)

さて……まずは物騒な方々を先に片付けるか……

僕は気を引き締めて、物騒な方たちの集まってる部屋へ。

ドアを開けるとイヤーな感情の波が僕に向かって襲いかかってくるように感じる。

まあ、これでも、この人たちにしては感情や思考を抑えてる方なんだろうな(強力なテレパスなら、すぐに殺意を感じ取れるだろうに。これで精神制御をしてるとは思えないよ。肉体的にはプロフェッショナルのテロリストやスパイ、暗殺集団なんだろうが精神的には幼稚もいいとこで。まあ、こんなだから洗脳されちゃうんだろうけどね)


「えー、ここにいる方々は、とある事情で他のスカウトやリクルーターの方々と分離させていただきました。まあ、ご自分の心に聞けば理由はすぐに分かると思うんですが」


僕は、まず隔離(だよね、この状態)しました宣言と、その理由をほのめかす。


「えー……私は、**会の者ですが。様々な国や主義主張の団体と組織の方々が一緒になってる理由が分からないんですが。ちなみに、うちは右翼系ですが、あそこにいる組織の方々は、うちとは水と油の左翼系団体の方々ですし」


一山いくらにもならない右翼系とは名ばかりの暴力集団さん、あなたの脳筋頭脳じゃ理由も推察できないでしょうね。

席が隣同士だったら殺し合いが始まってたかも知れないなぁ(笑)


「はい、一部の方には理解不能かも知れませんね……じゃあ実力行使と行きましょうか……」


僕は集中力を高めてテレパシーを最大強度で、物騒な組織や団体の代表者たちに送り込む。


途端に、そのまま気を失って崩れ落ちる者、抵抗しようとして気力と精神力の無駄遣いをする者(一瞬後、こちらも気絶する)、銃やら短刀を懐から出そうとして、そのまま固まってしまう者たちもいる。

一番危険な爆発物を体内に飲んでいる者。

こいつには慎重にも慎重を重ねるように僕がこの場へ出る数日前に作った簡易パラライザー銃(モデルガンを原型にして、中身を入れ替えた簡単なもの)で身体の自由を奪わせてもらう。

公共施設を借りているので、こんなところで爆弾騒ぎなんか起こせないからね。

僕の目の前で全員が椅子から崩れ落ちたところを確認して僕は警備員さんたちへ入室許可を出す。

施設の外では警察が団体で待ってるから、そちらへ全員、引き渡すように言って、僕は別の部屋へ。


正規のスカウトやリクルーターの方たちには待たせたお詫びをし、もう安全ですと伝える。


「何だったんですか? 最初の人数から3割ばかり減ってますが。そちらが本命だったとか?」


スカウトの代表者みたいな人が聞いてくる。


「いえいえ、そうじゃなくてですね。実はスカウトやリクルーターに混じってスパイ組織やテロリスト集団、暗殺を主とする邪教集団などがいまして。その方たちを今しがた無力化してから警察へ引き渡したって話です。皆様の安全を考慮して、こういう事後報告にならざるを得なかったことを陳謝します」


完全に納得はしていなかった様子だけど体内に爆発物まで飲み込んでる人もいましたのでと言うと冷や汗と共に納得してもらえたようで。


「で、最初にお断りしておきますが僕は特定の会社、企業団体、政府機関、軍には所属しません。その理由も、お話します」


ぐるっと見回しても質問者はいないようで。


「はい、では理由をお話します」


僕は、ようやく席に着くと用意されていた水分を採る。

毒物も何も入ってないのは確認済みの水で喉と口を潤すと、


「まずは僕がマルチ能力者であることが主な理由です。それもテレパスS、サイコキネシスAの上、おまけに超知能まで付け加えて三要素のエキスパート……これは前代未聞の話だと聞いています。誰が上司となろうと僕を使いこなすのは無理でしょうね」


あっけに取られたような顔。

そりゃそうだ、今まではテレパシーとサイコキネシスの二つだけって聞いてたんでしょうから三つも超常能力を持つもの自体、僕が初めての存在じゃないかな。


「そして、これが肝心なんですが僕が一つの組織に所属したとすると、その組織が否応なく目立ちすぎてしまうこと。ですから僕は国や組織、団体、会社などに縛られることのない自分のみで善悪や意思を決定できる機構と言うか組織を作ろうと決めました。なので今後、僕の作り上げる組織や機構に興味ある方以外、お帰りください」


さて、宣言しちゃったからには、やり遂げないと。


数年後……

東堂グループという巨大コングロマリット(複合企業)になってしまった総帥、東堂卓。

今日も今日とて大忙しの毎日。


「司令部! 大陸北部の火事は、なんとか鎮火したぞ。他の地区は、どうなってる?」


「総帥、他の地域も地区も順調です。総帥……いつも言ってますように総帥が現場にいたんじゃ本部と本社が身動き取れませんよ! 至急、お戻りください」


「ははは、まあ、俺がいなくとも優秀な秘書軍団と総務部隊がいるじゃないか。俺は完全鎮火を確認してから戻るよ」


あいも変わらず巨大企業体の総帥が板につかない東堂くんである。

彼の創設した会社は最初、災害救助資材の新規開発から始まった。

資材から資材を運ぶ運送へ(世間が、あっと驚く球形宇宙船が、その運送手段。その速さと積載量、機動性は車の比ではない)

次は人材。

災害救助というものに特化して戦争や地域紛争にも災害救助部分だけで参加するという徹底ぶり。

地域紛争も戦争も人間がやめれば終わりだから勝手にやりたいだけやって頂戴な……

というクールな見方をする企業。


その機材と宇宙船、そしてあまりに鮮やかな災害救出と復旧作業に企業ごと取り込もうという国家や勢力は、いくらでもいた。

しかし東堂総帥をはじめとする企業体質は揺るぎなくヘッドハンティングしようにも条件が合わなすぎて撃沈していく。

そのうち惑星規模の洪水や山火事、大地震など激甚災害が頻発すると国家を超えて東堂グループに声がかかることとなる。


「我々は、この星の裏側だろうと、あの衛星だろうと数分もあればたどり着ける。それを阻んでいるのは国家の壁。いっそ国という枷を外してもらえないだろうか?」


東堂総帥の救えるものも救えない発言に大国エゴもあって反発したが結局は東堂グループを地球の始末者、救済者として認定するということで救助依頼があれば即、出発できるという事が可能となる。


そのうち国家という枷が本当の意味でなくなり惑星統一政府ができるのも時間の問題となるだろう。

ちなみに東堂総帥、テレパシーもサイコキネシスも普段使っているため更にパワーアップしていた(超知能も含めて)

社員の噂では、


「東堂総帥が水ようかんや饅頭を食べてる時は要注意だ。何か事件が起きそうな予感がするんだとさ」


などと言われているとかいないとか。

ちなみに、そのころガルガンチュアは、もう別銀河への旅に出ている。


「郷、今回は少し趣向を変えてみたのかな? 少年に脳領域開発、大丈夫だったのか?」


「ええ、師匠。まあ元々から弱いテレパシー持ってましたんで、ちょうど良いタイミングで改良型の教育機械を試せましたよ。あの東堂くん、最初に精神と脳領域の測定をやったんですが……師匠、彼に仕込んでましたよね」


「う、鋭いな、郷。その通り、睡眠中にデータチップの内容だけ刷り込ませてもらった。基本も理論も何もわからない状況でデータだけを彼の脳に焼き付けたってことなんだが」


「まあ、その甲斐あって改良版教育機械の方も順調に進みましたが。一つ聞きたいんですが脳領域開発が最後、100%まで決して行かないのには理由があるんですか? 90%くらいまで行くと少し容量を残した状態で脳領域開発完了となるんですよ」


楠見は自分で自分の最終脳領域の開発を許可してしまったが、それは禁忌を犯すことにも繋がりかねない危険なもの。


「郷、人間には謎が少しだけ必要なんだ。それを無くしてしまうと独善の罠に陥る恐れがある」


「意味不明の回答をしますね師匠。まあいいや、いつか脳領域の秘密を話してもらうとしましょう。じゃあ、ガレリア。もう不要となった、空き部屋を事務所に仮装した貨物室、元に戻しておいてくれないか。あれは助かったけれど転送装置って、あんなスムースに動作したっけ?」


「郷さん、それは私の発明品です」


にゅ、と顔を出したのはフィーア。


「私が船内転送機を改良して転送時のショックを1%以下まで低減させるアブソーバーを開発しました。ちょうど良かったんでガレリア姉さんに使ってもらったんです」


「そうだ、私はフィーアの実験につきあっただけ。このアブソーバーにより今まで船内転送機は船外の距離では使えなかったが、それが十倍以上の距離で安定して使えることとなった。通常転送機にも装備できるとのことなんで惑星上陸作業に搭載艇を飛ばすことなく秘密裏の行き来に使えるようになるぞ」


いつもの如く、お気楽に銀河を救い、また旅立つ。

ガルガンチュアの行く手には、まだ知られざるトラブルと生命体、文明が待つ。