第二章 銀河系のトラブルバスター編

第八話 不定形生命体との邂逅、そしてクルーが増えて球状生命体との話し合いを。その後、フロンティアのお助け稼業が日常化する

 稲葉小僧

さあ、ついに待ちに待った不定形生命体との出会いだ! 

と、ワクワクしてた時期が俺にもありましたとさ。ワケは後から分かるよ。


〈太陽フレアの回数が目に見えて減った。太陽の中の機械体を破壊してくれたのか?〉


不定形生命体からの連絡が入った。もう、か細いテレパシーではなく強く、たくましい印象を受ける。

俺も返事を返す。


〈太陽の中で君たちの主星を操作していた機械体は太陽の中から撤去した。そのことで詳しい話をしたい。どうやったら君たちと会えるのか?〉


〈ちょっと待ってくれ。主星に向いていない側から我々の地下都市へ入れるようにする。準備が出来るまで、この星の夜の側に入っていてくれ〉


〈了解、連絡あるまで夜の側で待機する〉


さて、向こうの連絡待ちだ。


「プロフェッサー、この機械体について質問したい。これを作った生命体や文明って、どういうものだと思う?」


「はい、我が主。私の主観でありますが相当な技術力があるのは間違いないでしょう。 超高温の太陽の中へ入れても壊れず故障せず、 それも数万年以上の長きにわたって性能を発揮し続ける機械体というのは少なくとも地球や火星では開発することすら無理だと思われます。 で、そこまで長きに渡り敵とする相手を憎めるものでしょうか? 世代が交代しても憎み続けるような一種、狂った生命体と文明だと推測します」


ふむ、超技術を持った狂った文明か。それが事実だとしたら困ったもんだな。

もう少しフロンティアやプロフェッサー、エッタとも、この話を煮詰めたかったが、その前に連絡が入る。


〈お待たせした。会談の用意が出来たので君たちの搭載艇が入れる入口を開ける。 すまないが、そこまで大きな宇宙船は入口が狭すぎる。では今から20分後に入口を開く〉


おっと! 宇宙船の大きさまで精査されているのか。じゃあ、ここは中型の搭載艇で行こう。


「全員で行くぞ! フロンティアは頭脳体、プロフェッサーもエッタもついて来い」


宇宙船の操縦は? 

そんなもん宇宙船自体がやりますよ。

パイロットがいなきゃダメな旧式じゃありませんよ、フロンティアは。


俺達の乗った搭載艇は、ぽっかり開いた地下都市への入口へと降下していった。

入口を通ると果てのないような穴が下に見える。搭載艇は、そのでかい穴の中を静かに降りていく。

かなり深いところに都市を作ったな、これは。数kmあるかも知れない。


かなりの時間、降下すると、ようやく下方に光が見えてくる。ここまで深くしないと太陽フレアの大きな物には抵抗できないのか? 

俺達は、ついに地下都市の宇宙港へ到着する。俺達の搭載艇の他にも様々な宇宙船が停泊していた。

一様でないデザインだが何か共通項のような物も感じられる。これが宇宙を飛び回って宇宙法を伝えまわっていた頃の不定形生命体の宇宙船だろうな。

俺は、そう思った。


〈到着した。貴方方は何処にいる?〉


〈もう少ししたら君たちの搭載艇のポジションへ到着する。そこで会おう〉


ということで俺達は搭載艇を出る。

人体に有害な細菌やウィルス、呼吸器に障害を及ぼす希ガスが含まれていないことはチェック済みだ。


妙な形の浮遊物が見えてきた。

ブロックを赤ん坊が勝手に積み上げて、それをぶん投げたようなデザインだ。

その空飛ぶガラクタ(?)は俺達の近くに来ると、降下して着陸する。

あると思えなかったキャノピーが開いて、ガラクタが扉となり、開く。

そこから出てきたのは、黒い粘液の塊。

20世紀の米国人や、その世紀末から数10年くらいの日本人なら某ラヴクラフトの液体生命を想像するかも知れないな。


しかし、俺が想像したのは上記の時代の日本漫画家、横山某氏の漫画に登場する「ロ○ム」であった。

いやー、昔のビブリオグラフ愛好者で本当に良かったよ。

3つのしもべの一つに会えるとはね。俺の好意が分かったのだろう、粘液の塊は意外な驚きで、


〈おや? あなたは私の姿をみても嫌悪感を抱かないのですか? 初見で嫌悪の感情にさらされるのは慣れていますが、 こうも好意的な感情を向けられたのは、あなたが初めてですよ〉


ふっふっふふふふ。古代日本人のイマジネーションを舐めちゃいけない。

たとえラヴクラフトの邪神群だろうが日本人の「萌え」には敵わないのだよ。


〈はい、少なくとも私は、あなたに好意を抱いています。大昔、私の星で描かれていたコミックというものの一つに、 あなたのような不定形生命体を使役する正義の主人公が活躍するものがあったのですよ〉


〈そんな昔から、あなたの星では私達の事が知られていたのですか?〉


〈うーむ、どうでしょうか? 作者の想像力にしては、あなたの姿や色は、 あのコミックシリーズに似すぎているような気もしますが……あの頃、我々の星には、 ようやく自分の星の衛星に到着するのが精一杯の宇宙ロケットしか無かったはずなんですがね〉


〈そうですか。我々は、ここに引きこもるまでは長い間、宇宙のそこかしこに宇宙法を伝道してましたからね。 遭難した一体の我々の同族が、その方とお会いした可能性は、けして無いとは言えません〉


おおっと! 驚愕の事実! 

そう言えば横山某先生、漫画に出てくる宇宙船とか、かなりスマートなデザインだったな。不定形生命体にアドバイス貰ってたのか? 


〈その可能性は、ありますね。でも、その話ですと、あなた達は何にでも変われる生命体であるということになっていましたが、もしや?〉


〈おお! よく分かりましたね。その通りです。大昔の先祖たちは不定形の粘液の塊でしたが我々も進歩します。 細胞を組み替えて短時間に様々な生命体へと変われるようになりました。例えば、このように!〉


グニャッと変形したかと思うと、グニャグニャとうねるように、ある形に変化していく……


「ア、あ、あー。いかがでしょうか?」


うわ! 俺になっちゃった。双子じゃない、俺のそっくりさんでもない、正真正銘の俺が目の前にいる。

ドッペルゲンガーだな、こりゃ。


「す、すごい能力! すごいです! 横山某先生も同じ描写をされてましたが……本当に、あなたの同族の方に会っていた可能性が高いですね」


「まあ、長時間、この姿でいることは出来ませんが。まあ、100時間くらいは大丈夫ですよ」


不定形生命体って万能! 


会談(? 日常会話の延長に思えるが)は続く。


「音声コミュニケーションも久しぶりです。この10万年以上、ずっと、この惑星で巨大化した太陽の熱と戦ってましたからね」


うわ、ずいぶんなタイムスケールの話だな。地球人なら、永遠と思える期間だ。


「気の長い話ですね。まあ、不定形生命体の方たちは寿命が長いから普通のことかも知れませんが」


「いえいえ、私達の個としての寿命は、数千年程になりますので、それほど長いわけではありません。しかしですね」


ちょいと集中してるような気がする。と思うと、いつの間にか、小さな分体が生じていた。


「このように、我々は故郷を後にするときには自分の分体を残していきます。 この分体が育てば、私の細胞そのもは個としての私が死んでも永久に故郷で生きていけることになるなるわけです」


はあ、もう驚きすぎて声も出ない。一種の「不死」には違いないな、これも。

しかし、次の言葉には更に驚かされる事になる。


「ですから、ここに分体を残しておけば貴方についていっても私の記憶や細胞は死なずに済むわけですね」


「はあっ?! なんで、そんな話になりますか?」


「だって、あなたに付いて行けば、ずいぶんとおもしろい旅になりそうな気がするんです。 でもって、ここじゃ語りきれない、私達の種族の歴史や、この機械体を設置した生命体のことも知りたいのでしょ? だったら私を仲間にすべきです」


「いや、いやいやいや。出会って、まだほんの少しの時間しか経ってないじゃないですか! いくらなんでも、 この短い時間で全くの異種族を、そこまで信頼しますか?! 」


「え? 信頼できないとでも? すみませんが、私達のテレパシー技術は、あなたのそれよりも洗練されています。 出力としては、あなたに及びませんが、私達はこうやって話し合っている間にも、 あなたの意識下にアクセスできます。あなたが悪人でないこと、今までの仕事や冒険のこと、 今の宇宙船を手に入れたいきさつ、精神生命体との出会いなども全て知っています。その上で、 あなたの仲間になることが我が種族の利益に繋がると判断しました」


うわ、心を覗かれていたのか。

まあでも、正直な種族特性らしいから許してやろうか。精神生命体のことも、太古に出会ってる種族だから問題はないだろうしな。


「はあ、分かりました。同行を許可します。フロンティア、プロフェッサー、エッタ。仲間が増えるぞ」


「マスター、これは貴重なクルーです、私は歓迎します」


「私も歓迎します、我が主。興味ある歴史が聞けるでしょう」


「私は保留します、ご主人様」


おや? エッタが保留? 


「エッタ、どういう事だ?」


「はい、私は不定形生命体に敵対する生命体種族に対する危惧感から、ここでクルーの増員を歓迎することは出来ないと感じます」


「そういう事か。じゃあ、そこを解決しないとな。 あの機械体を設置した生命体、というか文明は、どこの何者だい? かなり高い技術力を持っている文明と俺達は真正面から敵対したくはないんだがね」


「それも、いわく因縁からお話すると長くなりますから、ここでは簡単に説明しましょう。 あなた達が今までに出会ってきた生命体や文明とは、かなり違った生命形態の文明です」


「ふんふん、不定形生命体の君が、そこまで言うんだ。かなり珍しいものなんだろうな」


「はい。彼らの生命形態はエネルギー球です」


「は? 純粋なエネルギー生命体か?」


「いえ、そこまでは進化していません。彼らにも肉体はあります。 彼らは私達と同じくらいの生命体・文明として長い歴史を進化してきた者達です。 最初は彼らも、あなた、キャプテンとお呼びしますが……キャプテンと同じようなタンパク質生命体でした。 肉体もキャプテンと同じく手足や胴体、情報収集と解析に頭と、ほぼ同じくらいの肉体構成でした」


「ふーむ、それが長い時間をかけて、不要となった手足を捨てて球状になったということか?」


「そうです。ちなみに細かい作業や重量物を持ち上げるのは、細かく制御できるサイコキネシスと重力制御ビームの両方でまかなうのです」


「あ、それで頭脳だけで手足は不要ってことか……で、栄養の摂取は?」


「それが……言いにくいことながら彼らは進化の途中で固形物の摂取を拒否したのです」


「はい? それって、どういう事?」


「言いにくいのですが……彼らは他の生命体、特にタンパク質生命体の血が栄養となります。 ですからキャプテンやエッタさんなどは、さしずめ「新鮮な獲物」として見られてしまうかと……」


おいおい! ここにに来てオカルトに近い生命体、吸血生命体かよ?! とんでもないな、宇宙に生きる生命体の種類ってのは……


「で、端的に話してくれ。その吸血生命体種族が、なんで不定形生命体を絶滅一歩手前まで追い詰めるんだ?」


「我々が彼らの星間連合に入らなかったためです。 彼らとしても、我々の体液は栄養として不適格だったらしく、それなら宇宙法を伝道するついでにスターマップの情報を渡せと、 そのために自分たちの星間連合に入れと通告してきたのです」


「自分たちの栄養源となるタンパク質生命体の住む星の情報は何としても欲しいか。で、そんなことには協力できないと断ったら……」


「絶滅まではさせないが他への見せしめという形もあったのでしょう。我々の太陽へ機械体を打ち込んで、このような状況に……」


「なぜ、その時に種族揃って逃げなかった? 惑星さえ放棄すれば一族揃って移住も可能だろ?」


「移住計画も立てられました。しかし、それが実現する前に球状生命体の星間連合により惑星が包囲されてしまい、 宇宙船が飛び立てない状況になったのです。仕方なしに我々は地下都市を建設して惑星の地下に引きこもるしか手がなかったのです。 太陽が膨れ上がって地表が焼け野原になった状況で始めて、彼らの包囲船団は惑星軌道上から撤退していきました」


「ふむ。その頃には、もう危険すぎて夜の側からも宇宙船は発着できなくなったという事か……」


「はい。ちなみに宇宙船の非常招集は我々ではなく彼らの謀略でした。宇宙へ出た者も全て集めて、この星に閉じ込めようと計画していたようです」


ようやく疑問が解消した。


「エッタ、これで次の行動は決まったな」


「はい、ご主人様。新人クルーと一緒に球状生命体、いえ吸血生命体への抗議行動ですね」


「分かってるじゃないか。では、歓迎する……えっと、名前はどうしようか?」


「キャプテンの発音しやすい名前で、どうぞ。私の固有名はテレパシーでしか表現できません」


「じゃあ、横山某先生のキャラクター名じゃ、そのままだしな……うーむ、 何かいい名前は無いだろうか? 不定形生命体、スライム……そうだ、ライムにしようか」


「ライムですね。分かりました、私のことは今からライムと呼んで下さい、皆様」


という事で新しいクルーが増えました。最初に、うんざりしてたように言ってたのは、この後のこと……


「ではキャプテン。エッタともども、よろしくお願いしますね」


「お、おう。こちらこそ……って、エッタともども、って何だ?」


「もちろん分体作りですよ、分体作り。私は見た目だけじゃなく相手種族の子供も作ることが出来ますからね」


がーん! 衝撃の事実。エッタだけでも厄介なのに、また面倒のタネが増えてしまった……


「な、なんで、なんでこんなことになるんだぁ! 」


「マスター、これも運命です」


「我が主、あなたの出会い運は最凶にして最強ですね」


やかましいよ、ロボット共が! ああ、俺の貞操が危機にある。




球状生命体の本拠地である星系は不定形生命体の星系とはずいぶんと離れている。

まあ、お互いに寿命が長い種族のため、通常は交渉や交易を行うのが普通だが、残念なことに球状生命体にとってタンパク質生命体は「エサ」に過ぎない。

でもって不定形生命体は彼らのお好みの体液では無かったようだが、不定形生命体の交渉力と顔の広さが災いしてしまった。

こともあろうに不定形生命体を自分たちの「エサ探索」に使おうと考えてしまったのだ。


宇宙の生命体が平和に相互扶助するように「宇宙法」を布教していた不定形生命体に、こんな役目や命令が「はい」と二つ返事で聞けるわけがない。

そのために球状生命体が中心になって作られていた星間連合(体の良い、家畜の集まりと、それを食べる主人の会だわな)に入れと言われた途端、 返す返事で「嫌だ」と言ってしまった不定形生命体に、なんら非はない。

しかし、それを苦々しく思ってしまった球状生命体の星間連合は、一部の反対はあっただろうが(何のことはない、 球状生命体中心の星間帝国だから)不定形生命体に対して制裁を加えることとなる。

球状生命体に一方的に宣戦布告された不定形生命体は、それでも正式な戦闘行為は行わなかったと、ライムは言っていた。

戦いは不毛なことだと身にしみて知っていたし、宇宙法を布教している種族が率先して戦いをするわけにはいかなかったという事情もあるだろう。

あれよあれよという(数百年程度)間に植民星や交易している友邦惑星から追い払われ、 又は欺瞞情報により、宇宙に広く布教に出ていた各宇宙船も全て故郷の惑星へ帰還させられた不定形生命体は故郷の惑星に閉じ込められることとなった。


それだけではなく二度と宇宙へ出られないように太陽制御装置を主星に打ち込まれ、 短期間で主星が膨れ上がった上で、ようやく惑星包囲網を解く命令を発する球状生命体の星間連合。

それから10万年近く地下深く潜った不定形生命体達は、あまりの太陽熱に地表へ出ることもかなわずに、一惑星に閉じ込められていたわけだ。

まあ、俺が救助に行かなかったら、あと数万年は同じ状態だったと思います、とライムに言われた。

あまりの環境に、さすがの生命力を誇る不定形生命体も将来に希望が持てずに自殺する(エネルギーの摂取を自分で断つらしい。 即身仏のようなものか)個体も出てきて、お先真っ暗の状態だったらしいところへ俺が現れて。 太陽を一気に元に戻すとは行かないけれど、将来、再び宇宙へ出ることが可能になるという希望が出てきたので、それはもう大喜びだそうだ。


補給物資も充分に貰った俺達は新しい仲間、 ライムと共に球状生命体の星間連合(星間帝国だろ?)の主星たる星をめざして恒星間駆動を巡航速度にして跳躍中だ。

速い速い、とても巨大な小惑星サイズの宇宙船とは思えない。

(いつの間にか、直径5kmを超して、もうすぐ6kmに達するとのこと。 しかし、フロンティアに言わせると「まだ、これでも主砲は載せられません。 主砲は船がフルサイズにならないと狙いをつけることが出来ないのです」とのこと。どんな最終兵器だよ、それ)

そんな俺達の思いとは裏腹に、フロンティアは宇宙空間を、まさに「すっ飛んでいく」のであった。



「マスター、そろそろ球状生命体の支配する惑星に接近します。残り1時間ほどですので、計画を説明してもらえますか?」


お、そろそろ到着か。計画って言ってもな。


「球状生命体の本来の種族を思い出して欲しいだけなんだよな、俺は。 あいつらが、あんなふうに進化する前の状態を思い返して欲しいんだよ。同じタンパク質生命体として、な」


「しかし、我が主。今はタンパク質生命体とは全く違う外見と、さらに吸血というおぞましい栄養摂取方法をとる生命体になってるんですよ。 話を聞いてくれますかね?」


「ご主人様。お話を聽く限り、 ご主人様と私、精一杯譲ってライムのような生命体とは全く違った思考形態と種族目的により行動していると推察されますが。話が通じますかね?」


「キャプテン、私も同意見です。星間連合に入ることを断っただけで、 我が種族は絶滅一歩手前まで追い込まれました。とても、話し合いに応じるような雰囲気ではないと思います」


うん、君たちが、そう言ってくるのは予想済みです。


「俺に、ある仮説がある。それについてライムの意見が聞きたい。球状生命体って、その星で発生・進化した生命体か?」


「いいえ、キャプテン。どこかの星から移住してきたらしいですね。 運良く、敵となる生命体もいない草食動物主体の惑星発展段階でしたから彼らは衣食住に苦労せずに、 そのまま故郷の星の技術段階から、あまり低下すること無く発展してきたと、過去に交渉していた不定形生命体の記憶があります」


やっぱりな。

あとは、たった一つの問題だけなんだが……これは球状生命体に聞かないと分からんか……


「まあ、やってみるさ。少なくとも、自分たちの過去の祖先に近い姿をしている俺だ。最初のテレパシー交渉くらいは受けてくれるさ」


この時も、俺には成功するビジョンしか頭になかった……

ある一つの仮説が事実だとしたら、これは一挙に解決する問題だよ。

一応、防御バリアだけ展開しながら、球状生命体の星へ接近していく。

お隣の惑星との中間地点で停止して、俺はお決まりのテレパシー放射を行う。


〈球状生命体の諸君に告ぐ! こちらは地球人の宇宙船、フロンティアだ。 他の生命を攻撃対象にしたことについての抗議と、その攻撃や吸血をしなくて良い方法を討議しに来た! 交渉を求める!〉


さあて、鬼が出るか蛇が出るか……

テレパシー発信から数秒後、返信が来る。

さすが、良きにつけ悪しきにつけ行動的な種族だな。


〈地球人と言う見知らぬ種族よ。抗議は受けるが、我々とて生き延びるための保険という意味でタンパク質生命を探し続けるのは種族のさだめ。 それを根本的に解決できるのなら、どういう方法があるのか?〉


ふむ、言ってることは割合まともだな。もっと独善的な奴らと思ってたが、そうではないらしい。

こりゃ、何とかなるかも。


〈そのための討議も交渉も用意がある。まずは、こちらを受け入れて欲しい〉


〈わかった。こちらの受け入れ準備が整ったら、また知らせる〉


さて一段落だ。こちらも惑星に降下する準備をするか。


「とりあえずの話はついたぞ。みんなで球状生命体の元へ乗り込む。フロンティア、搭載艇に全員、乗船で行くぞ」


「はい、マスター。護衛は最大限で行きますか?」


「いや、俺のサイコキネシスも強力になってきたし、他の各自も相当な戦闘力だしな。 まあ、護衛は不要だ。何とかなるよ、最終的には、お前って本体もいるしな」


「了解しました、マスター。では、個人バリアは最低限、装備してくださいね」


〈こちらの準備は完了した。大気圏降下してきても大丈夫だ〉


3時間後か。案外早かったな。

よし! 搭載艇、発進だ。

ということで俺達は球状生命体の星へ到着した。宇宙空港には俺達の搭載艇の他に宇宙船がいない。

超VIP待遇か、あるいは危険な宇宙船と見られて単独監視されているのか。こりゃ、両方か? 


俺達の案内にと人員が派遣されてきたようだが……これが球状生命体か。

初めて見るが、なるほど、球状のカプセル体のような肉体が中に浮いている。

これは予め聞かされていなかったら元々がタンパク質生命体だとは思えないよな。

あ、コミュニケーション方法を聞いておかねば。


〈お初にお目にかかります。私は地球人。後のクルーは、同じタンパク質生命体が一名、不定形生命体が一名、後は人工頭脳です〉


〈地球人と言われる、知らぬ星の方。クルーの中に汚らわしき汚泥のメンバーがいるようですが?〉


〈不定形生命体ですね? 私は汚らわしいとも汚泥のようだとも思いません。 好ましい姿だと認識しています。 ところで、そちらは通常のコミュニケーション方法としてテレパシーで大丈夫ですか? 我々はテレパシーに慣れていますが、 なんなら音声でも大丈夫ですよ?〉


〈通常は我々も音声で会話する。しかし、互いの言語に精通するまで時間がかかるのでテレパシーで会話をお願いできるかな?〉


ふむ、ホームグラウンドなのか、ちょいと上から目線だな。まあいい、話はこれからだ。


〈では、テレパシー主体で行くとしましょう。討議と交渉ですが、特別な施設で行いますか?〉


〈そうだ、我々の星の最高会議のメンバーが揃っている施設があるので、そこで行う用意をしている。案内するので、ついてきて欲しい〉


ってなわけで俺達は案内人の光球に連れられて、およそ生命体が建てる建造物とは思えないほどの大きな建物の前にやってくる。

ここは宇宙空港からも見えていた建物なんだが大きすぎて距離の感覚が狂うほどの威圧感を感じる。


〈この中で星間連合の代表達が君たちを待っている。討議も交渉も、この中で行って欲しい〉


〈分かった。案内ありがとう。君に幸運があるように〉


案内人とは、ここでさよならする。ここが星間連合の会議場だとすると、わりとまともな星間連合じゃないかな? と思えてきた。

少なくとも、家畜と主人の関係じゃ無さそうだな。

俺達は、建物の中に入る。建築物として、やはりタンパク質生命体の基本は守られているようだ。

球状の身体では不要な階段や窓など地球人の俺からすると普通の作りになっている。


さっそく会議場の中に入る。

拍手も歓迎の言葉もないが、様々な生命体が席に付いているのが見て取れる。その中には球状生命体の代表もいる。

おや? 議長らしき生命体もいるのだが球状生命体ではない。

俺達の予想は良い方へ裏切られたが帝国制度じゃない星間連合なら、なぜ不定形生命体に、あんな酷い仕打ちをしたんだ? 

俺達は会議場に一際明るく輝いていた一つの席、どうやら俺達のために空けてくれていたであろう席へと近づく。

空いているのは一名分、ただし、離れた場所に、観客用にと数名分の席が空いている。

後は、あそこへ座れってことだな。


俺はフロンティアへ目配せする。

フロンティアは早速、俺以外を引き連れて観客席へ行く。俺は議会の席に座った。

議長が何か喋る。同時にテレパシーで内容が伝わる。同時翻訳だな。


〈ここに見知らぬ星、地球から来た客人を迎えることが出来て光栄に思う。 彼は不定形生命体に対する我々の攻撃に不満を抱いて、この星へ抗議にやって来たという。 その抗議は受けようと思う。その関連で球状生命体の養分補給のやり方や、 それに伴うタンパク質生命体の補充も、問題として交渉・討議したいとのこと。地球の方よ、それに間違いありませんな?〉


〈はい、間違いありません。私は、どういう形であれ他の生命体を攻撃するのは間違っていると断定します。 宇宙そのものが過酷な環境なのだから全ての生命体は互いに助け合うことが正しいと思っています〉


〈そうですか……不定形生命体の件は、こちらとしても不幸な出来事だったと感じています。 星間連合が、今のような形式になったのは数百年前のこと。 それまでは球状生命体の星間帝国でした。 その頃の過ちを正そうと我々も動き出していはいますが不定形生命体の星の場合、問題が主星の中でしたから解決できなかったのです〉


〈太陽の中に打ち込まれた制御装置は我々が取り出して無効化しています。これからは太陽も小さくなり、やがては元に戻るでしょう〉


〈おお! それはかたじけない。本来、我々がやらねばならないことを肩代わりさせたようで、お詫びしよう〉


〈まあ、それは解決済みなので、もう良いとして。球状生命体の栄養補給の件ですが現在では、どのようになっていますか?〉


球状生命体の代表と思わしき個体が発言する。


〈お恥ずかしながら昔と変わっていません。吸血行為と衝動は我々が昔の固形物の摂取から脱却した時に選んでしまった悪癖です。 それも、味の違いからか我々の先祖によく似た生命体の血を好み、それから離れれば離れるほど味が落ちて摂取できなくなるという……〉


〈ふむふむ。それでは、テストとして私の血液をサンプルで提供しますので球状生命体の皆さんの好みに合うかどうか、チェックしてみて下さい〉


〈地球などという聞いたこともない星の方ですよね? 遺伝子的にも適合するとは思えないのですが。 ああ、これがサンプルですか……んー、よい香りです。極上の血液だ。 酔ってしまいそうなほどに芳しい……って?! なぜ?! なぜに、あまりに遠すぎて聞いたことも無い星の生命体の血が、 こんなに美味そうに感じるのか?!〉


やっぱりな。最初の疑問は解消。じゃあ、最後の疑問に移ろう。


〈やはり、でしたか。不定形生命体に聞いたのですが球状生命体の方々も、 この星に発生して進化した生命体ではない、とのこと。もしや主星からの移住、そして、それに使われたのは、 もしかして宇宙船ではなくて転送機ではありませんか?〉


〈な! なぜ、我が種族の過去を、そこまで知っているのか?! それも、転送機での移住など我が種族でも知らぬ者が多いというのに?!〉


〈はい、よーく知ってますよ。私も、その元々のタンパク質生命体種族を先祖に持つ者ですからね〉


遠く銀河の反対側から彼はやって来た。彼は自分のことを「地球人」と名乗る。

我々には聞いたこともない銀河系の辺境にある星、主星を「太陽」と呼び、その恒星系に一大文明を築いているらしい。

ただし、その文明程度は、まだまだ低く、その文明の構成員で恒星系を出て銀河を旅しているのは彼だけなのだそうだ。


彼は強い! 

テレパシーは我々が到達できるとも思えぬ力強さであり、その宇宙船は……

宇宙船というより巨大なる小惑星の塊が宇宙空間にいるようなものであり、とても我らが対抗でき得る戦力とは思えない強力なものである。


しかし、彼は優しい。

我らの吸血行為を是正しようと討議と交渉をするためにやってきたと語った彼。

よくよく聞けば不定形生命体との交易も何もない文明だというではないか。

ただ、その優しさと煽るる探究心から、通りすがりの(長期間、探していたようだが)不定形生命体の星を助けたのだという。

それも、見返りを期待すること無く(その種族と文明の歴史を探しまわるのが、彼の使命らしいが……本当に、 そんな事だけで、あえて危険を犯して恒星に打ち込まれた制御装置などを回収するだろうか? 我々の常識とは、 全く違った思想を持っているとしか思えない)

この星へ来たのも、懲罰のためではなく、ただ、抗議と、このような他種族を攻めるような事を止めろと言いに来ただけだという。

それに付随することとして、我ら球状生命体の汚点、吸血行為も改善することが可能だと言い放った時には我らに動揺が走った! 


吸血行為など汚点以外の何物でもないことは我らが一番良く知っている。

しかし、我らの周辺の星域を調査してみても我らの舌と栄養補給を満足するタンパク質生命体は無かったのだ。

だから、悪だと知っていながらも民衆の声には逆らえずに、より我々に近い遺伝子と血を持つタンパク質生命体を探し続けるしか道がなかったのだ。

それが……


彼が、地球人がテストとしてサンプルで彼の血液を我らに提供してくれた時、もう、様々な検査などしなくとも私には本能で分かった。

彼の血液こそ我ら球状生命体が悪の帝国に堕してまで求めた物だということが! 

後で分かったことだが、彼の遺伝子は我らの元の遺伝子……我らが彼と同じような肉体構成をしていた時の遺伝子……に酷似していると報告された。

その理由も彼は告げる。

彼と我ら球状生命体は同じ種族から派生したのだと。

衝撃の事実であった。

我らが遠い過去に銀河中央に建設された時空転送機にて、この星に送り出された時、本来なら時間定数により、 未来あるいは現在のいずれかの時代にしか送り出されることはなかったはずなのだが、ここに1つのエラーが発生したらしい。


これは仮説だが、と、彼が前置きして展開した説明は我らも納得するしか無いものだった。

証拠は彼と我らの遺伝子のそっくりさ。

逆に我らのほうが先祖の遺伝子からの変質度合いが多く、それを元に戻すと仮定すると彼との遺伝子の差は、ほとんど無くなるとの研究者の計算結果だ。


それは途方もないもの……

時間定数が銀河系の超巨大ブラックホールのためにねじ曲げられてしまい、我らは未来の現惑星ではなく過去の現惑星に放り込まれてしまったのだそうだ。

先祖の時間流から遠く離れてしまった太古に転送された我らであるが逆に、それが都合が良かった、と彼は語る。

転送された先祖たちは、おそらくは技術者や科学者のグループであり、ある程度の技術データを持って、この星にやって来たのだろう。

その時には、まだまだ肉食獣や危険な生物は少なく、外から来た彼らには暮らしやすかっただろう。

つまりは、それほど科学や技術の低下が無いうちに先祖は宇宙へ文明を発展させる事に成功したと思われる。


ただし、ここから先祖の不幸が始まっただろう、と彼は告げる。

転送機にこだわった先祖の先祖と違い宇宙空間にでた先祖たちに遺伝子の進化、変化が起こり始める。

初めはゆっくりと、次第に宇宙に適した肉体に進化・変化していった我らは進化・変化の途中で固形物の摂取が困難となる遺伝子となったか、 あるいは自分たちで固形物の摂取とは縁を切る遺伝子操作をしたか、どちらかは今となっては分からないが、 その時から我らは最初はチューブ状の栄養補給で、次第に肉体からの直接の体液補充、つまりは吸血の習慣に変化したらしい。

それを元に戻すということは、さすがに彼にも無理である(遺伝子操作するにしても我らの肉体は、 もう固形物の摂取には向いていないのだから)が吸血という習慣を無くすることは可能だと言ってきた。

それは……


我々も古代から受け継いでいる細胞クローンの技術で簡単に実現可能だ、とのこと。

言われて初めて、我らも納得した。その方法とは……彼の言葉を借りよう。


〈簡単ですよ。まず、私の血液をクローンで増やし、大量の血液細胞とします。そうしたら、 それを流動食パックのような入れ物に入れて、それを吸収するように習慣づければ……ほら、 吸血じゃなくなるでしょ? これで、少なくとも、肉体から直接吸血するよりも衛生的だし、見た目もグロテスクじゃ無くなりますよね〉


テレパシーではあったが、この時の映像は我が種族の悪癖から開放された記念のものであるということで資料として永久に残されることに、 全評議員の承諾で決定されたことは言うまでもない。

それから、この流動食パックは様々な改良を経て、現在では持ち運びに便利なボトルタイプとダイエット用の少食パックになっている。

彼には、いくら感謝しても感謝しきれない。

我ら球状生命体は、もう吸血という汚点を公にすること無く、彼への感謝を込めながら、 彼の元の血液サンプルを増殖したものを公衆の門前で晒すこと無く吸収できる環境になった。

これを、もっと改良していけば、そのうち我らは粉末血漿だけでも生きていけるようになるだろう。


彼は我らの歴史や星間連合の様々な生命体の歴史を聞いて回ると必要な物資だけを積み込んで、また銀河を巡る旅に出ていくとの事で旅立っていった。

今、彼は何処にいるのだろうか? そして、どのような生命体を助け、歴史を聞いて回っているのだろうか? 

彼は銀河を巡る善意の放浪者だ。

我々は彼の事を種族の命が続く限り子孫に伝えよう。彼こそ、この銀河系一のトラブルバスターだ。



あれから数ヶ月……あー、身動きが取れない。

ちょいと短期間に銀河中で大きなトラブルを数件解決しちゃったら、フロンティアって、 どうしても目立つ超巨大船のせいもあり銀河中の種族の間で有名人になっちゃったのよ、これが。

有名になるだけならいいんだけど、ちょっとしたトラブル解決まで依頼してくる星系政府が多すぎて。

太陽の暴走とか、ちょいとした宇宙戦争とか、なんてレベルのトラブルじゃない物が大半なんで、 経緯を詳しく聞いてトラブルの現場へ行ったら瞬時に解決するものばっかしでね。


気分は銀河のボランティアです。トラブル解決が仕事、 じゃないから(生活物資はフロンティアがスペースデブリから何でも造り出すし食料も同様。 でもって収集したデブリの残りやトラブル解決してあげた星系政府からもらった物資を利用してフロンティア自身は今も修復工事の真っ最中。 ようやく修復作業も軌道に乗ったようで今じゃ直径10km超えです。 完璧に巨大小惑星サイズになってるので下手に交通量の多い星系内には入れません)半ば趣味状態になっているのが現在の状況。


俺も今まで銀河狭しと飛び回っていた状況から、 ご近所星系をちょこちょこと改装なった搭載艇でパーセク単位で飛び回るついでにテレパシーやサイコキネシスの強化練習もしてる。

重大トラブルの場合はトラブル解決に脳内エネルギーを回すことを重視するため、 そういったものがない時間に、いわゆる「超能力」を強化しているわけだね。


俺以外のメンバーも、あっちこっち飛び回ってるよ、当然のことながら。

プロフェッサーとエッタのコンビと、フロンティア(頭脳体)とライムのコンビで動いてるようで。

最初、エッタとライムが俺の取り合いを始めたんだが、それを2体のロボットが止めた。

どうせなら小さなトラブル解決のついでに各星系の歴史や文明を見て回るほうがエッタやライムの教育になると思ったらしい。


俺? 俺についちゃ頭の中に別人格もいたりするし、ね。自分の判断に迷いが生じたら見方を変えるために別人格に登場願ったりしてます。

もう、そのくらいは自由自在に出来るようになりました。テレパシーについちゃ俺のテレパシー波はフロンティアより強力になってしまったと言われた。


(え? こんなドデカイ宇宙船のテレパシー波より人間の俺のほうが勝ってるってどういう事だ? と聞いたら 到達距離じゃなくて理解度・了解度が俺のテレパシーのほうが段違いに上らしい。アナログの強み?)


サイコキネシスも、この頃じゃ、ずいぶんと強化されてきた。

まだ、地球にいる軍用エスパーには敵わないが数百kgの物体なら重力1G状態でも自由自在に空中へ持ち上げられるようになった。

変な感覚ではある。とても生身の状態では持ちあげられない物体がサイコキネシスを使うと手も触れずに持ち上がってしまう状況を考えてみて欲しい。

もう手足要らないんじゃないか? と思ってしまった球状生命体の気持ちが今では感情的に理解できる俺だったのだよ。


現在、俺は災害救助の要請で、とある星系へ来ている。

近傍を巨大惑星が通過したので互いの惑星の重力変動で巨大地震が起きてしまい、その惑星住民の救助に駆りだされたのだ。


文明の発展状況は宇宙空港以外は農業設備や畑が広がる、のどかな風景だったのだろうが、現在は酷いものだ。

潰れた家をサイコキネシスで持ち上げてやり、救助者がいるなら助け出す。

埋まった人がいるならテレパシーで呼びかけて返事があれば、そこへサイコキネシスの見えないスコップを放つ。

あっちへこっちへと飛び回り、即死でなければ全て助けだしてやり、


「こんな大災害で、ここまで少ない死者は初めてだ! 」


と地元星系政府から感謝感激雨あられ状態となる、ところを抜け出し、何でも無いことだよ、と手を振って去っていく。

まあ着ている服はドロだらけだったりするけど宇宙救助隊には名誉の勲章だ。

こんなことやってるからかな? 

ここいら辺りの星系政府(小さい星系政府が寄り集まった、 ちょうど村々の合同会議のようなものを作っていると思うと間違ってないよ)代表者が連名で、俺に宇宙救助隊組織を作ってくれないかと依頼してきた。


話を聞いてみると、ここいらの星系には、争いは(まあ、小さな小競り合いは通常のこと)ほとんどないが、今回のような自然災害が多いのだという。

連星星系や複雑な軌道を回る双子星系なんて変わった物もあるから、分からないでもない。

で、今までは各星系の代表者が救助要請を出したとしても他の星系の用意や準備が間に合わずに、救える命を救えないという場面も多かったと言う。

今回は俺という星系政府に縛られない者がいたために救助活動が素早く始められた事が奇跡的な救助活動に繋がったので、 これを恒常化した組織にしたいと言うことだった。

良いじゃないの。

一も二もなく提案に乗った俺は、他のクルーにも知恵を貸してもらい、救助隊の構成、救助器具、資材、人員の案を提示していく。


ここで注意するのは、あくまで俺を中心としないこと。

俺は計画の外にいるべき人間である。

人員も組織も装備も運用も、全て合同星系の担当でなければいけない。

そうでないと俺達が去った後、組織が運用できないなどというバカな話が現実になる。


幸いなことに恒星間駆動の理論は同じもののため、その改良は容易なものだった。

図面を見ると、


「どうして思いつかなかった?」


と各星系の技術者達は悔しがった(さすがに銀河間駆動や、それ以上は提供しない。文明には、 それ相応の技術と思想が必要となるからね。それを自力で開発した時に、その文明がブレイクスルーする時だ)

装備も同様。技術段階が低い、俺が覚えている地球の救助資材や機材を図面で見せてやるだけで、 すぐに改良版を提案できる技術者が揃っているのだが、発想が固定化されているようで、 新しい救助作業専用機械や専用宇宙船は、俺が提案するまで思いつきもしなかったようだ。


まあ、色々や様々あったが、なんとか宇宙救助隊は発足した。これからは訓練と実地に励んでくれたまえ、諸君!