[7−1]
おなじみの作動音とともに小刻みな振動が船体を揺らしているところをみると、さいわい水蒸気爆発はエンジンを吹き飛ばすまでにはいたらなかったようだ。ウィリアムはほっと胸をなでおろしたが操縦席のカシルはすでにつぎの困難に直面していた。
「イルスター!」
「どうした?」
「気流が……」
そう言ったきり黙り込むと彼女は緊張した表情でひたすら操縦桿の操作に没頭している。身体にかかる加速度のめまぐるしい変化と耐Gベッドの傍らの予備端末の映像でウィリアムはサガが風にもてあそばれる木の葉のように絶え間なく揺れ動いていることを感じとった。頑丈な船体がきしむ音がときおり聞こえる。あえて気流に逆らった飛行を始めたことでいまや風圧が真っ向からかかっているのだ。
「お願い――うまく抜け出せているのか確認してくれる?!」悲鳴に似た声でカシルがさけぶ。どうやらモニター上のナビ場面をじっくり眺めるだけの余裕もないらしい。
「了解――なんとか嵐の中心から脱しつつある。でも期待したほどの速度ではないな。くわえて『ジェット』の方向にかなりひきよせられてもいる……」
予備端末画面で船の位置と速度を確認しつつウィリアムが報告した。
「姿勢の安定を保つのがむずかしいのよ――うっかりするとひっくりかえりそう!」
「いまぼくらがいる場所は渦にひきこまれる流れと噴出する『ジェット』のはざまの空域だ……気流が激しく乱れているのは当然だよ」
唸るようにそう言いつつウィリアムは頭のなかで懸命に打開策をさぐっていた。クルーザーは四基のエンジンがあってはじめて百パーセントの性能を発揮できるように造られている。二基だけで操船するのはちょうど一輪車を乗りこなすようなきわどいバランス感覚が必要だろう。さすがのカシルもこの激しい乱流のなかでは船の姿勢を安定させるだけで精一杯。操船に集中していられる時間にも限界があることはあらためて考えるまでもない。
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