[7−2]

「うまく距離をとれない! 『ジェット』のほうにすごい力でひきよせられている」
「ベルヌーイ効果だ……超高速の流体の周囲は大きな負圧が生じるわけだな。それが船をひっぱっているんだ」
「解説してる場合じゃないでしょ! やはりエンジン二基では力が足らないかな。バーニアの推進剤も底をつきかけているし、このままではおそかれはやかれ巻き込まれるわ」
 ウィリアムは船外カメラをまわして間近の『ジェット』の映像をとらえた。ほとんど眼には見えない超高速の気流――ときおりまきこまれた小さな岩が画面のなかを恐ろしいスピードですっ飛んでいく。それを見つめつつ彼は心をきめた。
「いや、むしろ流れに乗ってしまったほうがいいのかも知れないぞ」
「そんな――無茶だわ」
「確かに危険だが……いまのままでは嵐から抜け出すまで途方もない時間がかかる。さすがにきみの集中力がもたないだろ。何よりバーニアの推進剤が底をつきかけている状態で長時間ふんばるのは無理じゃないか?」
 カシルからの反論はない。状況はなにより本人がいちばんわかっているはずだった。
「クルーザーの船体は頑丈だ。あの程度の気流で壊れるとは思えないよ」
「でも問題は乗組員のほう――」
 彼らの緊迫したやりとりに目をみひらいてこちらを見ている子供たちにいささかひきつった表情で微笑みかえしながらウィリアムはいまだ決断を下しかねている妻に言いきかせた。
「サガの重さは千トン近い。そんなに急激に加速されるはずはない――それにユルグもミヒョンも冒険一家セイジ家のはしくれだよ。幼いとはいえ柔じゃないさ!」
 カシルはため息をひとつついて言った。
「わかった――やるわ! まずすべての窓とカメラにシールドをかけて……」

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