「ちがうだろっ! これはぼくのクッキーだぞ。ちゃんとロッカーにしまっておいたんだから」
「ちょうだい、ちょうだい、ちょうだいっ!」
最後の『ちょうだいっ!』は可聴範囲ぎりぎりの高音域に移行しつつ発せられた。ウィリアムはきんきん鳴る耳を両手でふさぎながら「静かにしなさい、ふたりとも! コントロールルームで騒ぐんじゃないとあれほど言ってあるだろ!」とどなったが、予想どおり大音声の宣告もほとんど効果がなかった。
「――だって、ミヒョンが言うこときかないんだもん!」
カシルの腕が素早く伸びて息子の襟首をつかんだ。
「もの食べながらしゃべるんじゃないの。ユルグ、ほらほら、クッキーまじりのよだれが飛び散ってる。光学メモリーにこびりついたらどうするの。いじわるしないでミーちゃんに半分あげなさい」
「いやだよー! これぼくのだー」
「隠しといてあとで見せびらかすのなんて男らしくないわねえ。誰に似たのかしら。わけてあげなさい。おにいちゃんでしょ? 妹泣かしてどうするの?」
バスケットボールを扱うようにカシルは息子を夫にパスしながら言った。
「お願い、あなた子供たちを外につれだして。わたしは『ハルバン』が救えないかもう一度やってみるから」
「ひどいよ。ほんとにぼくのなのに。おにいちゃんだからっていつも損するんだ!」
――息子よそれが人生というものさ。なかば同情しつつウィリアムはあえてしかつめらしく長男に言いきかせた。「ほらほら、聞こえたろ? ふたりともはやくコントロールルームをでろ。いま『ハルバン』が壊れてママはひどく機嫌がわるいんだ。平穏無事でいたかったらこれ以上ママを怒らせるんじゃない」
つづく